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人類の起源 篠田謙一著 2022年2月中央公論新社刊 中公新書2683

(目次)

はじめに

第1章 人類の登場~ホモ・サピエンス前史

 1 人類の起源をどう考えるか

 2 人類の進化史

 コラム1 脳容積の変化と社会構造 

第2章 私たちの「隠れた祖先」~ネアンデルタール人とデニソワ人

 1 ゲノムが明らかにした人類の「親戚関係」

 2 ネアンデルタール人のDNA

 3 謎多きデニソワ人の正体

 4 ホモ・サピエンス誕生のシナリオ

 コラム2 DNA・遺伝子・ゲノム

第3章 「人類揺籃の地」アフリカ~初期サピエンス集団の形成と拡散

 1 「最初のホモ・サピエンス」から出アフリカまで

 2 アフリカ内部での人類移動

 3 農耕民と牧畜民の起源

第4章 ヨーロッパへの進出~「ユーラシア基層集団」の東西分枝

 1 出アフリカ後の展開

 2 ユーラシア大陸

 3 ヨーロッパ集団の出現

 4 農耕・牧畜はいかに広がったか

 5 現代に続くヨーロッパ人の遺伝子変異

 コラム3 最古のイギリス人の肖像

第5章 アジア集団の成立~極東への「グレート・ジャーニー」

 1 「アジア集団」とは何か

 2 南・東南アジア集団の多様性

 3 南太平洋・オセアニア

 4 東アジア集団の成立

第6章 日本列島集団の起源~本土・琉球列島・北海道

 1 日本人のルーツ

 2 琉球列島集団

 3 北海道集団

 コラム4 倭国大乱を示す人骨の証拠

第7章 「新大陸」アメリカへ~人類最後の旅

 1 「最初のアメリカ人」論争

 2 アメリカ先住民の祖先集団

 コラム5 ヴァンパイアのDNA

終章 我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか

  ~古代ゲノミ研究の意義

おわりに

 

【はじめに】

 ホモ・サピエンス(現生人類)は、DNA解析によると、最も近縁な人類であるネアンデルタール人の祖先と別れたのは、60万年前だった。分岐の後も、両者は交雑を繰り返していた。他の絶滅人種とも交雑していた(Pⅰ~ⅱ)

 民族集団は、DNAから見ると、全く性質の違う集団の集まりだというケースがある。世界各地に展開している人類集団は、ある地域における、これまでのヒトの移動の総和だ。よって、特定の遺伝子分布の地域差は、集団の成立を解明する有力な手がかりになる(Pⅲ~ⅳ)

 

【第1章】

 属は、ある程度近縁関係にある種をまとめたカテゴリー。ホモ属で現在生存しているのはサピエンス種だけ。人種は、さらに下位の区分(P5)

(人類の起源:年代)(P5~6)

・700万年前:チンパンジーの祖先と人類の祖先が分岐

・250万~200万年前:ホモ属(人類)と認められる種が登場

・30万~20万年前:ホモ・サピエンス(現生人類)が登場

・数万年前までは、同時に、数種類の人類が地球上で暮らしていた

 チンパンジーとの共通祖先から人類の系統が分岐したのは、人類の祖先が樹上生活から地上に降り、直立二足歩行を始めたことを契機にしている。直立二足歩行がヒト化の最大の要因(P12)

(人類の進化)(P11~

①初期猿人⇒ ②猿人⇒ ③原人⇒ ④旧人⇒ ⑤新人

①-1サヘラントロプス・チャデンシス(700万年前:チャド)

①-2オロリン・トゥゲネンシス(600万年前:ケニア

①-3アルディピテクス・カダッパ(580~520万年前:エチオピア

①-4アルディピテクス・ラミダス(440万年前:エチオピア

②-1アウストラロピテクス属(華奢型猿人):肉食傾向

 ・アウストラロピテクス・アナメンシス(420~370万年前:ケニア

 ・アウストラロピテクス・アファレンシス(370~300万年前:エチオピア

 ・アウストラロピテクス・アフリカヌス(南アフリカ

 ・アウストラロピテクス・ガルヒ(250万年前:エチオピア

②-2パラントロプス属(頑丈型猿人):植物食(サバンナ)で他の属と共存

 260万年前出現⇒130万年前絶滅

②-3ホモ・ハビリス(200万年前:東アフリカ:初期ホモ属)

②-4ホモ・ルドルフェンシス(同上)

 ⇔アウストラロピテクス・セディバ(195万年前:南アフリカ)一部ホモ属の特徴

③-1ホモ・エレクトス:200万年前にアフリカで誕生⇒出アフリカ⇒世界に拡散(北京原人ジャワ原人)身長140~180㎝ 体重41~55㎏ 脳容積550~1250ml

③-2ホモ・フロレシエンシス(エレクトスから進化~6万年前絶滅:フローレス島(インドネシア)身長100㎝ 脳容積400ml⇒狭い島の中で長期生存⇒島嶼化:体が小型化

③-3ホモ・ナレディ:30万年前:ヨハネスブルグ近郊ライジングスター洞窟

 身長146㎝ 体重39~55㎏ 脳容積460~610ml ②-1と③-1の特徴を併せ持つ

④-1ホモ・ハイデルベルゲンシス(60~30万年前:ユーラシア・アフリカ)

 身長180㎝ 体重70㎏ 脳容積800~1300ml 旧人への移行段階の種? 

④-2ネアンデルタール人

 ネアンデルタール人の脳の容積の平均は1450mlだが、発達しているのは主として視覚に関わる後頭葉の部分で、日照の少ない高緯度地方の生活に適応した結果かも(P24)

 脳はエネルギーを大量に消費するので、脳容積の増加は生物に大きな負担を強いる。必要なエネルギーを賄うために、行動、食性、社会構造を変えざるを得なかった。複雑な社会をつくることが、効率的にエネルギーを摂取することが可能にした。共同体の規模が、大脳の新皮質に比例すると考えると、猿人の社会は50人(チンパンジーと同程度)原人100人、ホモ・サピエンス150人程度(ダンパー数)150名は、社会を構成する基本となる数字(P24~25)

 ホモ・サピエンスの歴史は、基本的にはダンパー数程度の理解力しかないハードウェアを使って、複雑な社会を形成するために生み出されたのが、言語、文字、物語、宗教、歌、音楽等の文化要素。これらは人々が時間と空間を超えて、概念、考えを共有する手助けをする(P25)

 

【第2章】

 シマ・デ・ロス・ウエソス洞窟(スペイン)出土の人骨は、DNA分析の結果、43万年前とされ、ネアンデルタール人(30万年前出現)の直接の祖先で、デニソワ人のDNAを含んでいた(P28~29)

 ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルタレンシス:14~13万年前)の推定身長150~175㎝、体重64~82㎏、脳容積1200~1750ml、頭骨が前後に長い(P30~31)

 年代の測定は、放射性炭素が5730年で半分になる性質を利用するが、5万年前より古い時代の測定が困難。50万~100万年前の年代測定は、熱ルミネッセンス法、ウラン系列年代測定法を用いるが、精度が落ちる(P31)

 1997年、ネアンデルタール人ミトコンドリアDNAの一部領域の配列決定により、彼らが70万~50万年前に分岐したグループであるとの結論を得た(P32)

 2010年、次世代シークエンサによる核ゲノムの解析により、サハラ以南のアフリカ人を除くアジア人とヨーロッパ人には2.5%程度ネアンデルタール人のDNAが混入していることが判明⇒出アフリカの後、初期拡散の過程(5万年以上前)でネアンデルタール人と交雑した。ネアンデルタール人のDNA:東アジア人>ヨーロッパ人⇒ホモ・サピエンスは、複数の集団に分かれており、その中の1つがネアンデルタール人と交雑して世界に拡散vsコーカサス、レバント(中東)、北イランには交雑しない集団が存在⇒この集団が現ヨーロッパ人の形成に関与⇒相対的にヨーロッパ人の持つネアンデルタール人のDNAが少ない(P33~34)

 次世代シークエンサはDNA配列の読み取り精度が低いので、正確な配列を決定するためには、同一部位を数十回読んで確認し、コンセンサスをとることが必要⇒大量のDNA断片の解読が必要⇒高精度のゲノムデータの取得には、DNA残量の豊富なサンプルが必要⇒十分な重複配列が読めたとき=高深度のゲノムデータが得られたvs数回程度しか読めなかった=低深度データ(P35)

 チャギルスカヤ洞窟は、デニソワ洞窟から100㎞離れており、出土した人骨は3万年程離れているが、ゲノムはチャギルスカヤ洞窟のネアンデルタール人は、ヨーロッパのヴィンデジャ洞窟のネアンデルタール人に近い⇒チャギルスカヤ洞窟のネアンデルタール人は、11万~8万年前のどこかの時点で、西ヨーロッパ人から東へ移動したネアンデルタール人の子孫(P36~37)

 チャギルスカヤ洞窟とその近傍オクラドニコフ洞窟のネアンデルタール人は、先に解析されたチャギルスカヤ洞窟と同様、ヨーロッパの集団と似ており、互いの血縁関係が強く示唆され、同一集団内の婚姻が続いていた。一方、ミトコンドリアDNAの多様性が高いことから、ネアンデルタール人は女性が生まれた集団を離れて、異なる集団の中に入っていく婚姻形態をとっていたことが示唆される(P37~38)

◎つまり、一般にネアンデルタール人女性は、異なる集団の中に入って婚姻をしていたが、チャギルスカヤ洞窟周辺では(周辺に異なる集団がなかったので)同一集団間で婚姻がなされていたということ?

 ネアンデルタール人の共通祖先から、デニソワ洞窟のネアンデルタール人が分離し、次にチャギルスカヤ洞窟の系統が東に移動した。ヨーロッパに残った系統の中からヴァンデジャや他の西ヨーロッパのネアンデルタール人が誕生した:byゲノム解析(P38)

 2017年、洞窟の堆積物からネアンデルタール人ミトコンドリアDNAを抽出することに成功(P39)

 核ゲノムの解析によると、約77万~54万年前にデニソワ人とネアンデルタール人の祖先が、ホモ・サピエンスの系統と分岐し、約43万年前以前にネアンデルタール人とデニソワ人が分岐した(P43)

 シマ・デ・ロス・ウエソス洞窟の人骨のミトコンドリアDNAは、デニソワ人に似ており、核ゲノムはネアンデルタール人類似していた。デニソワ人のミトコンドリアDNAは、未知の原人に由来するものではなく、元々ネアンデルタール人と共通のものだったのだが、ネアンデルタール人ミトコンドリアのほうが、ホモ・サピエンスのものと置き換わった。ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスにDNAを伝えているが、ネアンデルタール人も、いずれかの時点でミトコンドリアDNAとY染色体のDNAをホモ・サピエンスから交雑によって受け継いでいる(P43~44)

 デニソワ人は、破片になっている生物種のコラーゲンのアミノ酸配列を、質量分析計で同定していく研究(ZooMS:ズーマス)手法により、デニソワ洞窟で発見された13万5000個以上の骨片から見つかった(P48)

 古代のDNAでは、長い年月をかけてDNAが分断し、変性していくときに、メチル化を受けている部分と受けていない部分で編成の仕方が変わっていく。この性質を利用して、デニソワ人のDNAメチル化地図が復元された。それをホモ・サピエンスのメチル化地図と比較して、細胞内のDNAの働きの違いが推定できる。2019年に、このメチル化データからデニソワ人の骨格に関する32の特徴を抽出し、彼らの骨格を再現した。デニソワ人は狭い頭、がっしりした顎等でネアンデルタール人に類似していたが、頭の幅はネアンデルタール人ホモ・サピエンスより広かったと推測された(P53~54)

 ホモ・アンテセソール(シマ・デ・ロス・ウエソス洞窟近くのグラン・ドリーナから発掘:85万年以上前の人骨)は、ホモ・エレクトスに属する種だが、その生息した年代、地域から考えると、ホモ・サピエンスネアンデルタール人、デニソワ人の共通祖先の候補となる(P58)

 ホモ・サピエンスの化石証拠は、発祥の地とされるアフリカ大陸では30万~20万年前までしか遡ることができない。ホモ・サピエンスの系統と、ネアンデルタール人とデニソワ人の共通祖先との分岐は64万年前と考えられるので、分岐してからの30万年間の進化の道筋が化石証拠からは分かっていない。この分岐がアフリカで起こったという証拠もなく、ユーラシア大陸で起こった可能性もある(P60)

 ホモ・サピエンス集団の中で、ネアンデルタール人由来のゲノム領域は世代を経るごとに断片化されていく⇒祖先の持つネアンデルタール人ゲノム断片長>子孫の断片長⇒断片の長さからホモ・サピエンスネアンデルタール人の交雑の時期を計算できる⇒解析の結果、ウスチ・イシム人が生きた時代(4万5000年前)より300世代(=1万3000~7000年)前=6万~5万年前に交雑が起こった(P66~67)

 ペシュテラ・ク・ワセ洞窟から発見されたオセア1号(4万2000年~3万7000年前のホモ・サピエンス)は、6~9%のネアンデルタール人由来のDNAを保持⇒交雑は一度だけではない(P67)

 ホモ・サピエンスネアンデルタール人、デニソワ人は、60万年程前に共通祖先から分岐したので、その時点では同じゲノムを持っていたはずだ。その後60万年間で獲得したホモ・サピエンス独自のDNAは、全体の1.5~7%程度だ(P68)

ホモ・サピエンス独自のDNAが1.5~7%で、ネアンデルタール人由来が2.5%、デニソワ人由来?%とすると、大部分はホモ属共通のDNAということになるのだろうか?

 

【第3章】

 ホモ・サピエンスがアフリカで誕生したということは定説になっているが、ユーラシアにいた原人の集団の中からホモ・サピエンスネアンデルタール人、デニソワ人が生まれ、30万年以降にアフリカ大陸に移動したホモ・サピエンスのグループが、後に世界に広がることとなるアフリカのホモ・サピエンスとなり、ユーラシアに残ったグループは、ネアンデルタール人と交雑した後に絶滅したというシナリオも考えられる(P80)

 個々の化石を見ていくと、30万~10万年前のアフリカでは、ホモ・サピエンスの特徴とそれ以前の化石人骨の特徴が、モザイクのように散らばっている⇒時間の経過とともに、徐々に現代型のホモ・サピエンスとして完成していくように見える⇒こうした現象は、1つのホモ・サピエンスの系統が単独で進化したのではなく、広い地域の様々な交流の中から、現代型ホモ・サピエンスが形づくられたと考えるほうが理解しやすくなる(P82~83)

 

 

糖質制限はやらなくていい 萩谷圭祐著 2023年2月ダイヤモンド社刊

(目次)

はじめに 糖質のとり方を含めた食事のあり方を考えてみませんか

第1章 糖質制限が必要な人、必要ない人のちがい

第2章 食事から健康常識を考え直す

第3章 老けない体、健康長寿のカギ、ケトン体とは

第4章 長生きしたければ食事を変えなさい ケトン食の凄い効果

第5章 健康長寿につながる食事と習慣

おわりに

 

【はじめに】

 ケトン食とは、糖質を控えて脂質を増やすことで、肝臓でつくられるケトン体の産生を誘導する食事。世間で言われる糖質制限よりはるかに厳しい糖質の管理を行って、脂肪(脂質)をとる食事(P4)

 ケトン体は、脂肪酸とタンパク質を材料に肝臓内でつくられ、血管を通して筋肉や脳に運ばれ、細胞内のミトコンドリアによってエネルギーに変換され、様々な組織で使われる。ケトン体は、空腹時、夜間に働く(P8,P48~49)

 

【第1章】

 糖尿病の治療において、SLGT2阻害薬は、腎臓で再吸収されるグルコースブドウ糖)を尿中に排出させる。SLGT阻害薬は、心血管疾患による死亡、心血管イベント、全死亡の発症率を低下させ、糖尿病による腎障害も抑制する。SLGT阻害薬が1日に排出する糖質は80g程度。SLGT阻害薬は、血糖値の正常化に合わせて、夜間のケトン体の誘導を正常化していた(P23,P235~236)

 糖新生は、筋肉からタンパク質のアミノ酸を分解し、グルコースをつくり出す働き。グルカゴンは、肝臓に貯蔵されているグリコーゲン(グルコースが多数結合した多糖類)を分解する(P27~28)

 総エネルギー消費量=基礎代謝量60%+消化吸収10%+身体活動量+30%(P35~36)

(空腹時血糖が100g/dl超の理由)(P36~37)

①筋肉量減少⇒筋肉のグリコーゲン蓄積減弱⇒血液中のグルコース取り込み減少

②糖質の過剰摂取

③老化に伴う軽度の炎症⇒インスリン抵抗性

 がんケトン食療法を実践した患者の予後=空腹時血糖値90g/dl未満:良好⇒体に炎症がないことで、インスリンの働きが維持され、栄養状態が良ければ筋肉量が維持される⇒筋肉に糖質がグリコーゲンとして取り込まれる(P38~39)

 握力の高い群は、最も低い群比で死亡率が低下する(久山町研究:2527人の男女を握力の強さで3群に分類)⇒男性40kg未満、女性2540kg未満⇒人間の寿命を決定するのは、筋力と筋肉量⇒健康のためには体を鍛えて筋力、筋肉量を増やすべき(P40~41)

 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)は、老化促進モデルマウスの筋萎縮を劇的に予防し、グリコーゲン蓄積を改善、サイトカイン(TNF-α)低下させる⇒人間のサルコペニア改善効果が期待できる(P42~43)

 空腹感は、グレリン(消化管ペプチドホルモン:胃で分泌)が迷走神経を介して、脳の食欲中枢に働いて生じる(P44)

 GLP-1(グルカゴン様ペプチド1:小腸で分泌)は、膵臓に働きかけてインスリンの分泌を促進(P45)

 

【第2章】

 短鎖脂肪酸は、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の総称。食欲の低下を防ぐ、インスリン分泌を補助、脂肪の蓄積を抑制等の機能がある。短鎖脂肪酸は、食物繊維を原料に、腸内細菌が産生する(P66)

 京丹後市(長寿地域)の高齢者の腸内細菌は、酪酸産生菌が京都都市部の住民より多かった。イモ類、海藻類、根菜類(ごぼう等)、納豆、板わかめのだし汁等を多く摂取したからではないかと推測(内藤裕二教授グループの調査:京都府立医科大)。酪酸産生菌を育てるには、日本人の場合、米飯、醤油、味噌、漬物等の発酵食品の摂取が最適であることがデータで示されつつある(P66~67)

 3歳までに、個人の腸内細菌叢が形成される。基本的には、母親の腸内細菌叢を譲り受けるが、その後、家族、所属集団の腸内細菌叢を共有していく。腸内細菌叢は、民族差、個人差が大きく、親子兄弟でも菌叢が似ていない場合がある。腸内細菌叢は、その後多少の変化はあるとしても、3歳くらいで基本的に決定される(P68~70)

 ケトン体が腸内で酪酸産生菌を増やしていく可能性が報告されている(P71)

 老化細胞が分泌するSASP(細胞老化随伴分泌形質)因子(炎症性サイトカイン)が炎症を起こし、がんを促進する。炎症が起きると、インスリン抵抗性を生じ、代謝が悪化する。糖尿病患者は、インスリンの効きが悪くなって、インスリンの分泌が増える。インスリンの分泌は、血中C-ペプチドの測定でわかる。血中C-ペプチドが高い人はがん発症リスクが通常人の1.2倍。炎症の度合いを示す血中CRP(C-リアクティブ・プロテイン)濃度が上昇すると、がん罹患リスクは1.28倍。血中CRPの上限値0.2mg/dl。軽い感染症1~2mg/dl。肺炎10mg/dl超。(P84~87,P89)

 老化を示すモデルマウスにGLS-1(グルタミンをグルタミン酸に変換する酵素)阻害剤を投与すると、老化細胞が除去され肥満性糖尿病、動脈硬化、NASH(非アルコール性肝障害)の症状が緩和。老化細胞にPD-L1(細胞表面に存在するたんぱく質)が発現し、老化マウスにPD-L1の働きを止める抗体投与で、老化細胞が1/3に減少、握力が1.5倍になった(東大医科学研究所中西真教授のグループの研究)。PD-L1に対する抗体は、オプジーポとして実用化済み(P87~88)

 

【第3章】

 ケトン食は、2016年4月から特別加算食の対象として難治性てんかん患者の治療食となった。MCT(中鎖脂肪酸)オイルは、ケトン体に変換されやすい。純粋なMCTオイルは、胃酸で加水分解され、胃粘膜が刺激されて腹痛をもたらす。特に空腹時は要注意。ケトンフォーミュラ(がん治療用に開発)は、空腹時摂取でも胃腸への刺激が少ない(P101~103)

 ケトン体とは、βヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトン。アセトンは呼吸で排出されるので、体の中で働くのは前二者。ケトン体は、脂肪酸たんぱく質から肝臓内のミトコンドリアで合成(P107)

(βヒドロキシ酪酸の効果)(P108)

・大腸がん抑制

・糖尿病による腎障害に効果

・転換の発作軽減

・抗炎症効果

・サーカディアン(概日)リズムを改善

 βヒドロキシ酪酸(1~10mM濃度)は、マウスの骨髄由来のマクロファージからのIL-1β(炎症性サイトカイン)の産生を抑制。腫瘍関連マクロファージ(TAM)が、がん細胞周辺に集積し、がん細胞が生存しやすい環境をつくる。TAMは、がんの転移、抗がん剤、免疫療法による治療抵抗性と関連するが、ケトン体との関係は不明(P114~115)

 

【第4章】

 ケトン食は、糖質制限食+高脂肪食。主食のパン、米を完全に抜いても、1日の糖質摂取量は50g以上になる⇔ケトン食療法では、最初の1週間10/日。その後30g/日以下。脂質摂取量120g/日以上。βヒドロキシ酪酸を患者に経口投与しても臨床効果なし(P126~128)

 血液中の総ケトン体の目標値は、2000μmol/L~4000μmol/L。維持療法時でも1000μmol/L以上(P129)

(がんケトン食療法のケトン食のケトン比)(P129)

・最初1週間:ケトン比2:1⇒糖質10g 脂質140g タンパク質60g

・2週間~3カ月:   1.5:1    20g  120~140g      70g

(ケトン食糧法の効果)(P149)

・がんの臨床病期Ⅳ期      50人

・うち3カ月以上の食療法実施 37人:平均年齢54.8±12.6歳 男性15例、女性22例

 肺がん6例、大腸がん8例、乳がん5例、すい臓がん4例、他のがん14例

・3年生存率44.5%

・1年後の臨床評価:完全寛解3例、部分寛解7例、最長期生存80.2か月

(がんケトン食ABCスコア)(P152~153)

 患者の血清データで、ケトン食治療3か月後のアルブミン(栄養状態)、血糖値、血中CRP値(炎症状態)を用いて、長期予後の予測が可能⇒栄養状態が良くて、炎症がなければ、がん患者は長期生存可能

 基本的にケトン食だけでは、がん細胞の増殖を抑える作用は強くない。抗がん剤放射線治療と併用すると、効果を発揮する。(マウスではうまくいくが)ヒトではうまくいかない(P159)

 

【第5章】

 プチケトン食は、糖質50~100/日、脂質をしっかり摂取。夕食に脂肪を大量摂取で、夜間にケトン体が大量につくられる(P177)

 ケトン体を活性化させるには、適度な運動が効果的(P211)

 

糖質制限食のうち、糖質のカロリー制限を脂肪で補う方法は、長期死亡率が悪いとの研究があるはずだ。その点を無視した持論の展開には賛同し難い。

地球に月が2つあったころ エリック・アスフォーグ著 2021年1月柏書房刊

(目次)

主な惑星と衛星のリスト

イントロダクション

第1章 朽ち果てた建物

第2章 流れの中の岩

第3章 システムの中のシステム

第4章 奇妙な場所と小さなもの

第5章 ぺブルと巨大衝突

第6章 勝ち残ったもの

第7章 10億の地球

結びとして

エピローグ

 

【イントロダクション】

 本書のテーマは、惑星の多様性の起源だ。かつて太陽系内に存在した惑星や衛星のほぼすべてが、それより大きな天体に飲み込まれて、それがこの世界のあらゆる違いをもたらした。大半の惑星は、今は巨大ガス惑星(木星土星)か太陽の内部にある(P49~50)

 基本的な知覚のスケールは、両目の平均的な間隔である約6㎝だ。この目は、左右にずらして配置したカメラに等しく、その後方では網膜が左脳と右脳に立体視用の映像を送っている。脳は、その能力の半分を、視覚野内で左右の映像を合体させて、三次元の現実を作り出している(仮説)(P33)

 よって、人間にとって特に優先度が高い宇宙探査データは、約7度のずれのある位置で、同じ光の条件下で取得された2枚の画像だ。立体視メガネをかければ、宇宙の画像データを立体的に見ることができる(P33)

 私たちは、酸素と窒素を中心に、アルゴン、二酸化炭素等の気体を吸ったり吐いたりして、呼吸という最も重要な生物学的機能により、その酸素分子の一部を二酸化炭素分子に交換している。しかし、地球にある酸素のほぼすべては岩石の中にある。植物が光合成によって酸素を放出しなかったら、大気から酸素はなくなる(P34~35)

 地球のケイ酸塩部(金属コアより上の部分)の質量の半分は酸素であり、その酸素は橄欖石((Mg,Fe)₂SiO₄)のような鉱物に含まれている(P35)

 酸素同位体(酸素16:最多、酸素17、酸素18)は。化学的性質がほぼ同じなので、互いに入れ替え可能だ。酸素17,18は重いので化学反応は起こりにくい。質量は異なるので、自然界では質量により振り分けられる。酸素18で作られた水分子は、わずかに蒸発しにくい。氷河期には海から蒸発した水が、雪として広い氷床に堆積することで陸地に移動する。結果、陸には軽い酸素同位体が蓄積され、海には重い酸素同位体が増える。氷河期に、海の底に細かな沈殿物や炭酸塩が降り積もると、生じる岩にも重い酸素同位体が多くなる(P35~36)

 陸、海、大気で起こった変化の記録は、将来の岩石に保存される。これが形成当初の火星の堆積岩のサンプルを採取する理論的根拠だ(P36)

 私たちが火星に行って堆積岩を採取する必要があるのは、そこにある生命(化石を含む)を発見するためだけでなく、生命が惑星系から別の惑星系へ、銀河から銀河へと移動するというパンスペルミア(胚種広布)説という概念を完全に理解するためでもある(P38)

 月と地球の岩石は、酸素その他の元素の同位体存在比では、百万分立のレベルでもそっくりだ。実際、月全体の組成は、地球の無水マントルと宇宙科学的にかなり一致する。この観測結果は、巨大衝突によって月が形成されたとする説をひっくり返した。(この説に従った場合の)標準的モデルでは、月の大部分は、衝突した惑星テイアの破片から形づくられており、火星のように地球とは化学的組成が異なっているはずだからだ。月は、地球の太平洋海盆に相当する部分がちぎれて生まれたという19世紀の仮説が生き返っている(P38~39)

 原始太陽系星雲は、ガスが主成分だった。星雲内は低圧力だったので、水は個体として結晶化できる領域以外では、水蒸気として存在していた。太陽からの距離が2~3天文単位AU)より外側の領域では、水は氷として固定化でき、その氷が種となって氷が集積し、微彗星(彗星の遠い祖先)になった。それより太陽に近い領域では、温度が高く、ケイ素の凝縮物が優勢で、岩の多い微惑星(⇒地球型惑星)が形成された(スノーラインの概念)

 液体の水が大量に存在できるようになったのは、微惑星が十分に成長して重力が強くなり、水が凝結するための大気や地表を保つようになってからだった。水は、岩石に含まれる細かな鉱物の分子も溶かして、堆積岩を分解して輸送する。液体による固体の分解と輸送から始まる化学的・物理的プロセスは、水の働きによって可能になり、反応が促進される(P40)

 太陽系では地球だけが、水の三重点(水蒸気、水、氷が共存する温度、圧力)に近い地表環境を整えている。水の三重点に近いことを生命が存在するための必須条件と考えたとしても、エウロバ(木星の衛星)は除外されない。氷の下に気体が集まった部分があればいい。ただし、惑星上で生物が進化して、高いレベルの意識、知恵(sapience)を持つには、星空、太陽、月、遠くの山脈のような、自らの存在をはるかに超越する者への理解が求められる。よってスモッグで覆われた惑星、氷殻のはるか下に続く暗い海などの惑星は候補から外れる(P41)

 

【第1章】

 ヨハネス・ケプラーは、惑星が太陽の周りを楕円を描いて公転しているなら、そして太陽に近い軌道上では速く動いているなら、惑星の位置に一定の誤差(視差)が解消されることを証明した。ケプラーが考案した惑星運動の方程式(ケプラーの法則)は、アイザック・ニュートンによって重力と運動量の形で物理的な枠組みに組み込まれ、そこから物理学が誕生した(P53~54)

 マリ・キュリーは、放射性元素が崩壊系列をたどって崩壊を続け、最終的に安定な娘元素になることを示した。ウランの同位体のうち、存在比の大きいウラン235ウラン238は、数十億年というタイムスケールで崩壊して鉛同位体(206pb,207pb)になる。ウランは岩石中に比較的多く存在するので、ウランの崩壊によって鉱物結晶内の鉛同位体比に偏りが生じ、時間とともに変化する。⇒岩石の年代を精密に測定(P55~56)

 1920年代に、エドウィン・ハッブル(米天文学者)は、私たちの銀河系が、宇宙全体に存在する数多くの銀河の1つであるという見方にたどり着いた。さらに銀河があらゆる方向に遠ざかりつつあること、遠くの銀河ほど高速で遠ざかっていることを明らかにした。宇宙は、等方的に膨張しており、銀河は、膨らませている最中の風船の表面に描かれた点のようなものだ。どの点をとっても、風船はその点を中心にして膨張しているように見えるが、実際には中心となる特別な点は存在しない(P56~57)

 ハッブルは、時間と空間が始まった理論上の臨界点(風船が膨らんでいない時点)をスタート地点として、すべての銀河が現在の距離に到達するのにかかった時間を計算することで、宇宙の年齢を数十億年というタイムスケールになると推定した(P57~58)

 17世紀半ば生まれのニュートンは、ケプラーの方程式を一般化して、質量、時間、空間の関係式表した。2個の物体は、それぞれの質量に比例し、距離の2乗に反比例する形で互いに引き合う(重力の逆二乗則)を考え出した。(完全に正しくはない)(P58)

 1916年にアルベルト・アインシュタインが発表した一般相対性理論は、ニュートンの法則に時空の湾曲(幾何学的基礎)という概念を与える。重力は力ではなく、ポテンシャル場の勾配だ(P59)

 ニュートンは、惑星や衛星の質量とサイズから密度を求め、それをもとに惑星や衛星を組成する物質の特徴を明らかにした。ガリレオ衛星の公転は、タイタン(土星の衛星)の公転より高速なため、木星土星の1.5倍の密度があり、重い物質でできているか又は圧縮されていると推定できた。地球の密度は木星の3.5倍で、岩石と金属でできている可能性が最も高い⇒惑星の組成が多様であることが明らかになった(P61~62)

 1920年代、ウランの放射性崩壊で生成される鉛の分析結果から、堆積岩の年齢が数十億年と見積もられた。1950年代には、クレア・パターソン(カリフォルニア工科大地球科学者)の実験は、地球の岩石内で鉛に変化する崩壊系列が、始原的隕石のものと重なることを示した⇒地球の年齢は隕石の年齢とほぼ同じ(45億5千万年)⇔最古の地球起源の岩石:44億年前vs最古の隕石:45億6720万年前(P64~65)

(宇宙の生成過程)(P72)

宇宙がそれ自身を飲み込み始めたとき、その最初の数分間にクォークと電子が融合して最初の原子になり、物質が優勢になって認識可能な形をとる時代が始まった

⇒数百万年間で宇宙の夜明けが進み、ランダムに生じる不確実性によって、周囲より密度の高い領域が生まれた

⇒その領域の重力がローカルスケールでは、膨脹エネルギーとは反対向きに作用して、荒れ狂い泡立つ海のような初期銀河を何兆個も作り出した

⇒膨張の経過の中、銀河が発展し、宇宙は穏やかになった

⇒現在、約1000億個の銀河が存在

 重力は不安定だ。いつ、どの程度不安定かが、銀河、恒星、惑星、彗星、小惑星の構造や分布、質量を決める。重力が重すぎたら(=質量が大きすぎたら)、宇宙は収縮を初めて、特異点に戻っていただろうvs重力が不十分なら、ビッグバンによる膨張はどこまでも続き、物質の凝集は起こらなかった。実際の宇宙(私たちの宇宙)が生まれたときの重力は、局所的に密度が高い領域が収縮していき、その領域の大きさは宇宙の張力でさまざまに決まるような均衡状態にあった(P72)

(惑星の生成)(P72~73)

無限に大きい仮説上の分子雲があり、水素分子、ヘリウム分子を成分とする

⇒分子雲は、重力によって収縮しようとする⇔温度、圧力が阻止する

⇒小さな摂動領域(他よりわずかに密度が高い領域)は質量大⇒重力大

⇒分子雲の温度低下⇒あるサイズの塊に分かれ、さらに収縮して恒星になる

 初代星は生まれながらに巨大で、そのコアは核融合プロセスを通して、重い元素を身ごもっていた。恒星での核融合は、途方もない圧力と熱を常に加えられることによって起こり、温度は数千万度に達する(P73)

 太陽内部の核融合では、毎秒6億トンの水素がヘリウムに変換され、400万トンの水素が消えている=エネルギーに変換されている(アインシュタイン等価原理(E=mc²:m:質量、c:光速)。太陽に似た恒星では核融合反応が約1千億年継続するので、私たちにはあと50億年ほど時間がある(P73~74)

 太陽より巨大な第一世代の恒星は、何百倍も高温で、速く燃焼し、燃料が尽きるとコアが収縮し、恒星全体が爆発し、放射線を激しく放出(超新星爆発)⇒その過程で、C,N,O,Si,Mg,P,Feを合成し、そこから岩、氷、惑星、海、人間がつくられた(P74)

 恒星になる前の塊は、収縮するときにランダムな固有の運動をする⇒塊は自転を開始⇒収縮するにつれ、角運動量(全質量✖回転速度)が大きくなる=中心に近い物質ほど速く回転⇒塊は平らになって、原始惑星系円盤(水、ダスト豊富)⇒円盤中心部のガスが凝縮して、自転運動をする原始惑星生成⇒核融合を起こして燃焼開始(P74)

 惑星への物質の集積は、角運動量によって物体が遠くに飛ばされる一方で、重力が物体をその場にとどめるような平衡点から始まる。惑星形成は、角運動量が、ガスが、衛星が解き放たれるプロセスだ(P75)

 原始太陽系星雲の存在下で、初期の微惑星が凝集し、ガスが消散する⇒微惑星が合体して、惑星胚、原始惑星になる⇒巨大衝突期末期に原始惑星の衝突開始⇒惑星(P77)

 1908年、ヘンリエッタ・リービット(米天文学者)が、数か月間周期で明るさが変わるセファイド変光星が、1週間周期で変動するものより明るいことを発見し、グラフに表した⇒セファイド変光星の変光周期を測定すれば、その星の固有の明るさが分かる⇒地球からの距離を正確に測定可能=標準光源の発見(P77~78)

 エドウィン・ハッブル、リービットの研究&巨大望遠鏡を利用して、星雲内の個々の星を解像して、距離が大きくなるほど、その中の恒星が赤くなることを発見した⇒ハッブルは、宇宙が膨張し、すべてのものが互いに遠ざかっていて、遠くの天体ほど速く遠ざかり、より大きく赤方偏移するという考えを提案した⇒宇宙全体が膨張しているので、光の波が引き延ばされて、より長く、赤色寄りの波長に変化する(P78~79)

ハッブル定数=距離に伴う膨張速度の増加率=約70㎞/s/Mpc(メガパーセク

1パーセク=3.26光年 1光年=9億5千万㎞ 宇宙が一様に膨張しているとすれば、ハッブル定数の逆数が宇宙の年齢になる⇒140億年(P79)

 近傍の恒星にも原始惑星系円盤があるが、存在する期間は短く、氷、ダスト、低温のガスでできているため、恒星の光を反射しないと目に見えないし、真横から見るとわかりにくい。惑星形成は太陽に似た恒星の周囲で、数百万年~数十億年以内に終了し、その形成プロセス自体は珍しくないが、急激に起こるので発見するのは難しい。原始惑星系円盤は、その惑星系の中心で燃える恒星によって加熱されており、高温になる可能性がある。そのドーナツの内側の境界は恒星に面しているので、赤外光(放射熱)を放射する⇒赤外線スペクトロメーターで数十光年先から届く光が見える(P79~80)

 赤外線観測は、地球では容易ではない⇔地球の大気、水、CO²による赤外線の吸収

⇒宇宙空間での赤外線観測:ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡:2021年打上(P81)

 1995年、ペガサス座51番星(60光年の恒星)の周囲を4日周期で公転する惑星を発見現在、系外惑星数は4000個:うちハピタブルゾーン(大気組成次第では、液体の水が地表に存在可能、他条件も整えば生命も繫栄できる可能性ある領域)にある惑星数十個(P84~85)

 惑星をつくるには、適切な分子を作るには元素の正しい比率が重要⇔適切な元素の存在だけでは不十分:H73.9%、He24.7%、他1.4%(P88)

 岩石惑星の原材料は、Si,Mg,Fe,O。これにC,H,O,Nに他の元素を少しずつ加えると、生命が居住可能な惑星になる。OとCは、恒星内部での熱核融合反応の基本的生成物で、CNOサイクル反応で生じる。この存在比の下で、巨大ガス雲が冷却したときに、H₂,CO,ができ、さらにCO₂,CH₄,NH₃,HCN(シアン化窒素)など様々なCHON化合物が生まれ、最終的に凝縮して氷になった⇒反応完了でCが使い尽くされ、遊離酸素が大量に余った⇒酸化物は、地球型惑星の原材料:H₂O&地球型惑星の地殻、マントルの構成物(SiO₂(石英),(Mg,Fe)₂SiO₂(橄欖石))(P89)

(太陽の今後)(P94)

 太陽は、50億年~70億年頃、最終破壊が起こり、惑星が碇を解かれる

赤色巨星となった太陽は、数百万年かけて膨張し、主系列を離れ、水星、金星(、地球)を飲み込む

⇒やがて収縮し、質量の半分が宇宙空間に失われる

⇒ガスの球殻構造が広がる(新星として見える)

⇒太陽の質量の残り半分は、収縮して白色矮星になる

 

【第2章】

(地球は丸い)(P104~105)

紀元前6世紀初:アナクシマンドロス:地球は宇宙に浮かんでいる

紀元前6世紀末:ピタゴラス:地球は球体であって、表面上のあらゆる点は下を指している

紀元前350年:アリストテレス:地球が丸いという説の根拠を書き示した

 エラトステネスは、シェネ(エジプト南部の都市)とアレクサンドリアの間に人を走らせて時間を測定することで、2都市間の距離が5000スタディオン(900km)で、丸い地球の円弧に沿って7度離れていると推計した。

 360°/7°✖900km=地球の円周=46,285=円周率π✖直径=3.14✖直径

 地球の直径=46,285/3.14=14,740km≒12,700km(実際)

 しかし、当時の文化では、数百キロ北にあるオリンポス山には神々が暮らし、太陽はヘリオスの二輪戦車で空を進んでいるという考えが主流であり、地球や太陽をめぐる発見は脇へ追いやられた(P108~109)

 アルキメデスは、世界にある砂粒の数が無限ではないことの証明をした。地球がどれだけ大きくても、宇宙の内側に収まらなければならない。宇宙の大きさは、恒星までの距離を約100億スタディオンと推計した。これで砂の数の上限を決めることができたが、これほど大きな数を数える表記法がなかった。(当時の最大の数は1万だった)そこで、彼は指数表記を発明した(10¹~10²~10³~)。指数表記がなければ、近代的な量子科学は実現できなかった(P109~110)

 顕微鏡は望遠鏡をさかさまにしたものだ。アルキメデスは大きな数の数え方を逆転させて、極めて小さな数について考え、ゼノンのパラドックスを解決した。1つの正方形をより小さな正方形に分割することで、1/2+1/4+1/8+…1/2n+…=1であることを証明した(幾何学を使用)。こうした近似値は、工学、測量、科学の世界で役に立っており、啓蒙時代になって、微積分学が生まれた。微積分学は近代物理学にとって、古代ギリシャにおける幾何学に相当する(P111)(~P132)

 

AIvs.教科書が読めない子どもたち 新井紀子著 2018年2月東洋経済新報社刊

(目次)

はじめに

第1章 MARCHに合格~AIはライバル

第2章 桜散る~シンギュラリティはSF

第3章 教科書が読めない~全国読解力調査

第4章 最悪のシナリオ

おわりに

 

【第1章】

 ディープラーニングなどの統計的手法の延長では、人工知能は実現できない。統計という数学の方法論に限界があるため(P14)

 AI技術とは、AIを実現するために開発されている様々な技術(音声認識技術、自然言語処理技術、画像処理技術)VS AI=真の意味でのAI(P14~16)

 シンギュラリティは、真の意味でのAIが、自律的に(=人間の力を全く借りずに)自分自身より能力の高い真の意味でのAIをつくり出せるようになった地点(P17)

◎著者は、真の意味でのAIの定義を明示しないまま叙述しているが、上記からすると、人間の力を全く借りずに動くAIをイメージしているように見える。最初に定義を明示しないまま議論を進めようとする著者の在り方には不信感を感じる。

 デジタルの世界では、画像も、どの位置に、どの色が、どの輝度で写っているかを0,1で表現する

⇒膨大な0,1の列ができる(ピクセル値行列)

⇒その上下左右関係から、どんな要素が写っているかを把握する

⇒イチゴの画像では、種、実の色、輝度のコントラスト、種からできる影など、できる限りの特徴を検出し、それがイチゴであると判断する上でどれほど重要な要素かを、イチゴが写っているデータとそうでないデータから数値化する

機械学習では、CPが繰り返し学習することで、データ中のパターン、経験則、重要度を自律的に認識する

⇒画像は、部品である特徴量の足し算で表現できる

⇒特徴量の総和が大きいほど、イチゴらしさ度が高まり、ある基準超でイチゴと判断

⇒特徴量の設計が重要(P31~32)

 ディープラーニングでは、どの特徴に目を付けるべきかを機械(AI)に検討させる

⇒特徴量を組み合わせて、丸い、放射状等の概念を表し、それがどのように画像に含まれているかを何段階かで判断⇔単純な創和ではない

⇒特徴量の設計が自動で最適化できる(P33~34)

 ディープラーニングは、一定の枠組み(フレーム)の中で、十分な量の教師データを準備すると、AIがデータに基づき調整する⇔機械学習より低コストで正解率に達しやすい⇔大量のデータを与えればAIが自律的に学習して答えを出す仕組みではない(P34)

 目的、目標、制約条件が記述できる課題では、強化学習による最適化がうまくいくことがある(P35)

 AIやロボットは、人間社会で役立つように作られる必要がある

⇒役に立つとは何かを知っているのは人間だけ

⇒人間が何らかの方法で正解をAIに教えなければならない(P36)

 

【第2章】

 AIは意味を理解しているわけではなく、入力に応じて計算し、答えを出力しているに過ぎない。計算機なので、できることは四則演算だけ。AIは、足し算、掛け算の式に翻訳できないことは処理できない(P107~108)

 数学は、長い歴史を通して、論理、確率、統計という言葉を獲得した。これが科学が使える言葉のすべてであり、CPが使える言葉のすべてだ。AIは計算機なので、数字の言葉(数式)に置き換えることのできないことは計算できない。人の知能の営みの中には論理、確率、統計で置き換えることのできないものがある。数学には、意味を記述する方法がない(P115~118)

 音楽再生や画像生成では、ロマン主義風のピアノ曲とかゴッホ風の絵のような生成するものの特徴の分布と実際のロマン主義ピアノ曲ゴッホの絵の分布の差が最小になることを目標にする(⇒微分)ただし、これで生成された曲は、長く聞くには耐えられない。曲がどこに向かっていくのかが分からないから(P135~136)

 脳が、どのような方法で私たちが認識していることを、0,1の世界に還元しているのか、それを解明して数式に翻訳しない限り、真の意味でのAIが登場したり、シンギュラリティは到来することはない(P165)

◎因果は逆かもしれない。ニューロンの0,1の点滅から、どのような方法で、脳が認識に構成しているのかを解明することが課題だろう。

 

【第3章】

 日本の中高生の読解力は危機的な状況にある。その多くは中学校の教科書の記述を正確に読み取ることができない。今の中高生が前の世代の人々と比べ突出して能力が劣るとは考えられず、多くの日本人の読解力も危機的な状況にある。(P172~173)

 基礎的読解力を調査するためのリーディングスキルテスト(RST)を開発した。RSTは、係り受け、照応、同義文判定、推論、イメージ同定、具体例同定(辞書、数学)の6分野で構成した(P185~187)

(例題)(P190~194)

係り受け

天の川の中心には、太陽の400万倍程度の質量をもつブラックホールがあると推定されている

⇒天の川の中心にあると推定されているのは(1天の川、2銀河、③ブラックホール、4太陽)である

(照応)

火星には、生命が存在する可能性がある。かつて大量の水があった証拠が見つかっており、現在も地下には水がある可能性がある

⇒かつて大量の水があった証拠が見つかっているのは(①火星、2可能性、3地下、4生命)である

(同義文判定)

義経平氏を追いつめ、ついに壇ノ浦でほろぼした

平氏義経に追いつめられ、ついに壇ノ浦でほろぼされた(①同じ、2異なる)

(推論)

エベレストは世界で最も高い山である

エルブルス山はエベレストより低い(①正、2誤、3判断できない)

(イメージ同定)

四角形の中に黒で塗りつぶされた円がある⇒4つの図を提示

(具体例同定)

2で割り切れる数を偶数という。そうでない数を奇数という。偶数をすべて選べ
⇒1:65、②8、③0、④110

 

全固体電池の基本と仕組み〔第2版〕 齋藤勝裕著 2024年8月秀和システム刊

(目次)

はじめに

第1章 より安全で高効率の電池を目指して

第2章 化学電池の原理と仕組み

第3章 二次電池の原理と仕組み

第4章 固体電解質

第5章 全固体電池

第6章 半固体電池

第7章 全固体電池車の最新動向

第8章 水素燃料電池

第9章 その他の次世代電池

 

【第1章】(略)

【第2章】

 金属を作る化学結合金属結合であり、金属結合では金属原子の束縛から離れた電子(自由電子)が存在し、これが移動することで電流となる(P19)

 金属の中で自由電子は巨大な金属イオンの間を擦り抜けるように移動する。金属イオンが動くと電子は通りにくくなる。金属イオンの運動(熱振動)は、絶対温度に比例する。臨界温度Tc以下の極低温(絶対温度K:ケルビン)では0になる(超電導状態)超電導状態では、コイルに大電流を流しても発熱しない⇒超電導磁石。超電導現象を起こすためには液体ヘリウムを用いた極低温が必要⇒液体ヘリウムを用いない超電導を模索中(P20)

 酸化・還元反応の本質は、電子との反応。反応の主体となる物質が、電子を放出する(酸化)、電子を受け取る(還元)こと(P22)

 一般に金属は酸性の水溶液に溶ける⇒電子を溶液中に放出し、金属イオンは陽イオンとなる(酸化)⇒放出された電子を電線を通じて外界に流れださせる装置(=電池)

⇒硫酸の水溶液(希硫酸)に金属亜鉛の板を入れる⇒亜鉛が電子e-を放出⇒希硫酸溶液中にH⁺が存在⇒e-+H⁺⇒水素原子H(還元)✖2⇒水素分子H₂(P24)

 上記反応「Zn+2H⁺→Zn²⁺+H₂+ΔE」は発熱反応であり、生成系が出力系より低エネルギーであることによる(P24~25)

(ボルタ電池の構造)(P28~30)

 硫酸H₂SO₄水溶液に亜鉛Zn+銅Cuの板を入れ、両者を導線で結ぶ。反応が始まるとZnが溶けだし、同時にCuから水素の泡が発生する。銅線の途中にモーターを接続するとモーターが回り出す。

①Znがe-を放出してZn²⁺として溶けだす

②Znに残ったe-はを導線を通ってCuに移動する

③Cuに達したe-は溶液中の水素イオンH⁺に移動する

④e-を受け取ったH⁺は水素原子Hとなり、2個結合して水素分子H₂となる 

 ボルタ電池は、H⁺を含む酸性水溶液に2種類の金属(イオン化傾向が異なる)を挿入したもの。イオン化傾向の大きいほうがイオン化し、その結果生じた電子がイオン化傾向の小さい金属に移動して電流となる。

 Cu極に達した電子は、溶液中に流れだそうとするが、溶液中の陽イオンは2種類

イオン化傾向はZn²⁺>H⁺⇒Zn²⁺は不変、H⁺が電子を受け取る

⇒Cu極に水素ガスH₂が発生し、このH₂が電極上でイオン化しH⁺になる

⇒その結果、電子e-が発生し、Cu極上に残る

⇒Zn極から来た電子e⁻を受けるべきCu極上に水素由来の電子e⁻が存在する

⇒電子の流れを損なう(=分極)

(ダニエル電池)(P31~32)

 反応槽を分離し、それを塩橋で結ぶ⇒Cu極にはCu²⁺のみ⇒Cu²⁺+電子e-→Cu

⇒Zn極でSO₄²⁺が不足⇔Cu極でCu²⁺不足

⇒SO₄²⁻イオンが塩橋を通ってZn極からCu極に移動

・反応槽1:硫酸亜鉛ZnSO₄水溶液+Zn極

・反応槽2:硫酸銅CuSO₄+Cu極

・塩橋:塩化カリウムKCl水溶液で固めた寒天⇒溶液は通さない+溶液中イオンを通す

(乾電池)(P34~40)

電解質が固体⇔液体:ダニエル電池・ボルタ電池

             負極    正極  電解質

マンガン乾電池:     Zn    MnO₂ MnO₂粉末・NH₄Cl水溶液のペースト

・アルカリ・マンガン乾電池:Zn混合物 MnO₂ NaOH水溶液

ボタン電池:(略)

 

【第3章】(略)

 

【第4章】

 全固体電池とは、電解質溶液を固体電解質に置き換えたリチウムイオン二次電池

①電気化学的な安定性:水系電解液は電解液中の水が電気分解⇒起電力に限界

②高導電率:一般に固体電解質はイオンの移動速度小

③密着性:電極活物質粒子との個体界面接合が必要⇒固体電解質機械的性質が重要

(P70~74)

発達障害の人が見ている世界 岩瀬俊郎著 2022年9月アスコム刊

(目次)

序章 発達障害ってなんだろう?

 ADHD,ASD特性チェック

第1章 コミュニケーションの困りごと

 1 悪気はないのになぜか人を怒らせてしまいます

 2 人との会話がなぜかいつも成立しません

 3 簡単そうに思える意思の疎通ができません

 4 人と比べると感情がいつも不安定です

コラム1 発達障害で起こりがちな二次障害 

第2章 行動の困りごと

 1 落ち着きがなく失敗の連続。周りに心配ばかりかけてしまいます

 2 周りの人といつもやることがズレています

 3 色々な「当たり前」がわからず、うまく振る舞えません

コラム2 その他の発達障害と合併症

第3章 発達障害の取り柄と強み

コラム3 発達障害の治療はどのような方法があるのか?

おわりに

 

【序章】

 発達障害は、病気ではなく、脳機能の4つの働きに偏りがある

眼窩前頭皮質:人に気持ちを想像する

大脳辺縁系:感情表現=喜怒哀楽、快・不快などの感情を司る

 ⇒大脳辺縁系が強いor大脳新皮質の機能が弱い⇒衝動的な喜怒哀楽

前頭葉(特に前頭前野):脳幹からの指令(常に動けという指令)を抑える

 ⇒前頭葉の働きが弱い⇒多動傾向(ADHG)

④島皮質:情動や共感・自己意識に関する

 ⇒島皮質の機能が弱い⇒感情のモニタリングができない

 ⇒自分の感情を顔に出したり、言葉にして表現できない    (P14~15)

ADHDの特性(P16~17)

①多動性・衝動性

②不注意

③傷つきやすさ:ミス、非評価で自己肯定感が低い

 ⇒失敗への不安感、拒絶されることへの敏感性⇒繊細さん:HSP

ASD;Autism Spectruum Disorder自閉スペクトラム症の特性(P18~19)

①コミュニケーション障害:相手の言葉、表情の裏側を想像する力が弱い

 ⇒空気が読めない人

②同一性の保持:変化に弱く、同じ行動を好む、考え方が固定化

 ⇒子どもの場合、電車、車に強い興味

③感覚過敏:感覚(五感)が生活に支障をきたすほどに敏感or鈍感

 

【第1章】

 ASDの人は、「これはこうだ」と頑なに思い込んでいる自分なりの世界観を持っていて、考えが非常に硬い。自分の世界観を変えてまで、その場の状況や相手に合わせて話すことが苦手(P32)

 意味通りの言葉でストレートに伝える⇔皮肉、嫌み、社交辞令は伝わらない(P39)

 聴覚情報は苦手&視覚情報優位

 ⇒集中してほしいときは、紙に書いた絵or文字を見せながら話しかける(P43)

 約束を守れない:物事の優先順位をつけるのが苦手or自分のことを優先vs約束

 人間関係に無頓着:自分が見ている事実そのものを重視⇒空気が読めない

 ⇒「真実を言わないことで、相手が不快になることを防ぐ」ことの重要性を伝える

 相手の表情、仕草、声の調子に隠されているメッセージを読み取る能力が弱い

 自分の興味・関心事以外の話に気持ちを向けるのが苦手

 ⇒伝えるべきことは、はっきり言葉にして伝える:①結論&②理由&③要望(P57)

 少しでも苦痛な話をされると、心地よくいられる「自分の世界」へと逃避する

 ⇒好きな物事に結び付けて話す(P58~61)

 曖昧な表現が苦手⇒具体的な表現で、時間を区切って、伝える(P62~65)

 気分が態度に直結しやすい子は、静かに理由を尋ねる。その理由に理解を示したうえで、「そういうときはこうしよう」と解決策を一緒に考える⇔頭越しにしかることを避ける(P68~71)

 集団行動ができない:みんなと一緒に行動する理由をわかっていない⇒自分の興味が上回るので、それを追求する⇒好きなことに没頭しているほうが心地よい⇒自分の世界を持っていることは強みでもある⇒自分の好きを追求できる環境を整える(P76~79)

 空気が読めず、忖度もせず、自分の理屈にこだわる⇒理解を示しながら、論理的に話す(P80~83)

 自己否定感の強い人には、共感し、傾聴し、落ち着いた頃に、よい部分を教えてあげる(P86~89)

 変化に弱く、不安を感じやすい子には、予告と新しいことについての説明をしておく(P90~93)

 無表情で嬉しいのか、悲しいのか、わからない⇒気持ちを表現するのが苦手なだけかも⇒本人の気持ちを代弁してあげる(P94~97)

 

【第2章】

 多動性、衝動性が強い子には、積極的に体を動かす時間をつくってあげる⇒「食事中は、半分食べ終わったら、一度歩いていいよ」といったルールを定め、その範囲内で動くことを許す(P102~105) 

 極端な偏食の原因として、感覚過敏(ASDの特性)の可能性がある。定型発達の人が感じているより何倍もの大きな刺激を受け止めている

⇒「これなら安心して食べられる」と感じられた少数の食物しか受け付けられなくなる

⇒本人からどこが嫌だったかを聞き取る⇒少しでも辛いものorカリカリした歯ざわりetc

⇒視覚の感覚過敏の可能性もあり得る(P150~153)

 遅刻⇒脳の時間的な見積もり能力の低さが原因かも?(P158)

 お風呂に入りたがらない子⇒触覚感覚が過敏な可能性(P162)

 聴覚過敏では、周りの音がすべて同じ大きさで聞こえる(P170)

 

【第3章】

 同一世の保持⇒ある種の職人、研究支援職(P176)

 多動性・衝動性⇒実業家・起業家(P177)

 

 

バブルの世界史 ウイリアム・クイン ジョン・D・ターナー著 2023年3月日経BP刊

(目次)

第1章 バブル・トライアングル

第2章 1720年とバブルの発明

第3章 市場性の復活~第一次新興市場バブル

第4章 投機の民主化~大いなる鉄道狂

第5章 他人のカネ~オーストラリアの土地ブーム

第6章 ウィーラー・ディーラー(大金を賭ける人たち)~イギリスの自転車熱

第7章 競争の1920年代とウォールストリートの暴落

第8章 政治の意図的バブル興し~1980年代の日本

第9章 IT(ドットコム)バブル

第10章 「ブームとバストはもうたくさん」~サブプライム・バブル

第11章 中国的なカジノ資本主義

第12章 バブルを予測する

 

【第1章】

 バブルとは、後に崩落する、大幅な価格上昇の動き(キンドルバーガー)(P11)

 バブルを構成する要件として、ある資産の価格が、その基本的価値から乖離していることを挙げる論者もいるが、この定義では、バブルの認定が困難となる(P11)

 キンドルバーガーの定義によるときは、バブルと認定できるのはバブルがはじけたときだけとなるが、バブルは予測できないわけではないし、規則性のない現象というわけでもない(P11)

 本書では、バブルの原因について論じ、結果を決定する要因を解き明かし、将来のバブルの予測に役立つ新たなメタファーと分析を提案する(P11)

◎現状がバブルだとして、それがいつはじけるのかは知りたいが、将来のバブルの予測にはあまり興味がないな。

(バブルの3要素)=バブル・トライアングル(P12~16)

①市場性

 ・ある資産が自由に売買できること

 ・分割可能性:資産の一部を購入できるなら、その資産の市場性は高まる

        上場企業の株式、住宅vs住宅ローン担保証券MBS

 ・買手や売り手の見つけやすさ

 ・資産の(物理的)移転のしやすさ

②通貨と信用:低金利と緩和的な信用状況

③投機:大勢の初心者が投機に走ること

(バブルの着火物=火花)(P16~18)

①技術革新

 ・革新的技術を持つ企業が並外れた利益を計上して巨額のキャピタルゲインが発生

  ⇒モメンタム・トレーダーが注目⇒株価上昇⇒新興企業が株式公開

②政府の政策:意図的な資産価格の上昇ex持ち家比率引き上げを企図⇒住宅バブル

(バブルの終息)(P18)

①燃料切れ

 ・バブル資産に投じられる通貨・信用の量には限界

  ⇒市場金利上昇、中央銀行の引締め⇒信用の量が減少

②投資家の数に限界

 バブル・トライアングルは、バブルの必要条件(市場性、通貨と信用、投機)を指す。技術や政治は、バブルの十分条件だ(P19)

(歴史上のバブル選択の基準)(P21~22)

①資産価格が3年以内に100%以上上昇し、3年以内に50%以上下落したこと

 ・株式市場のバブルでは、特定のセクターや業界での上昇・下落(市場全体でない)

②資産価格の反転が、新規企業の上場、新たな金融商品の市場投入があること

 

【第2章】

 13年間続いたスペイン継承戦争は、1715年にユトレヒト条約とラシュタット条約によって和解が成立した。仏、英、蘭各国政府は、債券を発行して一般国民から資金を借り入れて戦費を調達していた。結果、各国の公的債務は未曽有の水準に到達し、対GDP比率(推計)は、仏83~167%、英44~52%。1715年、ジョン・ローは、ジェネラル・バンク設立を提唱した。1717年、ローにミシシッピ会社設立の勅許状が付与された(P28)

ミシシッピバブル)

 ミシシッピ会社(M社)の最大の事業は、公的債務の削減スキーム(P32)

①M社の最後の増資(9、10月)で、払込みは公債(平均利回り4.5%)の形でのみ受領

②M社は政府に資金貸付(利率3%)

③政府は借入資金で交際を買い取り⇒政府の債務負担大幅減少

④M社株式の上昇の見通し付与⇒キャピタルゲインの魅力⇒バブルの発明

(M社の増資)(P31)

・1718年12月:?

・1719年6月:2750万リーブル

・1719年7月:5000万リーブル

・1719年9月~10月:15億リーブル

・1718年8月(設立)から1719年6月時点までに株価上昇

・1719年6月以降、株価急上昇⇒1719年12月頃、ダブルトップ

1920年5月まで、高値圏で上下動⇒急落

◎株価の推移からすると、バブルは計画的につくられたように見える。1719年6月までに一定程度株価を上昇させておいて、比較的少額の増資後、株価が急上昇している。これにより株価上昇への信頼感を醸成しておいて、19年10月に大量の新株の嵌め込みを成功させた。これは詐欺だろう。

(南海バブル)(P36~42)

・1720年1月、南海㈱スキーム提示

 ・南海㈱が公債と引き換えに株式を発行

 ・南海㈱は、(公債の?)減額された利子を受領⇒政府の資金調達コスト削減

 ・南海㈱は、独占権対価(400万ポンド)と手数料(360万ポンド)を政府に支払

 ・株式購入期限:1720年4月下旬、7月半ば、8月上旬

・1720年初、株価126ポンド

・7月半ば、1100ポンド(ピーク)

・10月、下げ加速

・1720年末、126ポンド

 ⇒この時点で満期償還公債(ノンコーラブル債)の80%が南海㈱の株式に転換済み

(以下、原因分析に関する記述は省略:どのタイミングでバブルから逃げ出すことが可能かというmy問題意識からするとこのあたりの記述には興味がもてない)

 

【第3章】(略)

【第4章】(略)

◎英鉄道株指数は、1000(1843年)⇒2000(1845ピーク)まで2倍にしかなっていない。バブルとして研究するほどの価値はない。

 

【第5章】

 1885年、結婚ブームが起き、人口の増加と都市化を背景に、メルボルンシドニーで郊外の戸建て需要が増加した。需要の増加は地価の暴騰を招き、1884年~1887年で20倍になった。このブームを煽ったのは外国資本(英国)だ。当初、資金の大半は証券に投資されたが、その後土地投機へと広がり、1887年1月以降加速した。土地ブームが盛んになるにつれ、不動産融資と投機は、住宅金融組合(ビルディング・ソサエティ)と土地ブーム会社(不動産投機&不動産投資&住宅金融を合体)に支配されていった(P106~110)

 ニューサウスウェールズ州政府は、手堅く危機に対処した(P126~127)

①州政府は、必要とあれば、最後の貸し手の役割を果たす意思があると表明

②銀行券発行法に基づき、弁済順位第1位の資産に裏付けられた銀行券を発行そ、知事の権限でこの銀行券が法定通貨だと宣言し、政府に銀行を検査する権限を付与

1893年成立法で、営業を停止した銀行の当座預金の50%を法定通貨のステータスを持っていた大蔵省証券の形で政府が交換できることとした

◎土地ブームは、郊外の一戸建てに住みたいとの実需に基づくものだったのに、バブル化し、ブーム期にには過剰な住宅が建設され、暴落後は空き家が12000件に急増したとされる。なぜ?投資額が半分なら、投資のスピードが緩やかだったら、バブル化せず、健全な成長をたどれたのか?この「実需」は、アメリカのサブプライムローンのように、身分不相応なものだったのか?違うだろう。当初、郊外の土地は安かったから、買えるものだったはずだ。なのに、「他人のカネ」=過剰な資本が流入した結果、価格が急騰して、身分不相応な「実需」になったということか?

 

【第6章】(略)

【第7章】

 アメリカの金融市場の民主化も戦費調達の一環として実現した。アメリカの一般国民に多額の債券を販売すべく、設立間もないFedが、リバティ・ボンド(自由国債)を担保として受け入れたことで、金融機関がリバティ・ボンドを保有する強力なインセンティブになった。リバティ・ボンドの発行により、アメリカ国民に投資の魅力が広まり、販売網の構築により、簡単に債券を購入できるようになった(P154~155)

 当初、これらの資本の大半が向かったのは社債だった。だが、債券発行を上回るペースで資本が市場に流入し、社債価格が投資妙味がなくなる水準まで上昇すると、代替投資先の1つに住宅が選ばれた。戦時中は民生部門が軍需に転用されたため、住宅建設が行われず、一時的に新規住宅が不足した。多くの住宅ローンは、パッケージにして証券化され、市場性が高まったが、1925年、建設ブームは終了した(P155~157)

 もう1つの代替投資先は外国債だった。1924年8月、ドイツ経済の回復が地政学必用だとアメリカ政府は確信した。そこでドイツの経済復興と戦時賠償に当てるべく、高い利率のドイツ債をアメリカの投資家に売りさばくため、Fedは割引率を4.5%から3%に引き下げた(P158~159)

 1928年初め、住宅価格と住宅建設がピークをつけ、アメリカの資本が株式市場に流入した。ドイツの中央銀行が利上げすると、同国は不況に突入し、1927年には、海外でのドイツ債の発行が減少し始めた。一方、株式市場は1921年以降1928年1月までに218%も上昇しており、株式が有望な投資先であることを示唆していた。この間の配当支払い指数は、ダウ平均の動きに近似していた(P159~160)

 1928年2月、大幅な株価上昇を懸念したFedが、株式市場の鎮静化に乗り出し、NY連銀が割引率を0.5%引き上げ、同年夏追加利上げを実施し、割引率は5%に達した。しかし、割引率の引き上げは、逆にアメリカへの資本還流をもたらし、その資本の大半は、直接or銀行システムを通じて米株式市場に流入した。1928年中、ダウ平均は50.9%上昇した。株価高騰により株主資本が安価な資金調達源と化し、企業は株式を追加発行した。ダウ平均は、1929年5月~9月末に27.8%上昇した(P161~162)

 ピークは381.2ドル(9/3)で、乱高下を繰り返し、326.5ドル(10/3)で14.3%の下落となった。10/23(水)自動車株の急落が主導して、NY市場は全面安となり、、6.3%安で引けた。マージン・コールが起き、10/24(木)午前の取引は大荒れとなった。午後1時半、大物銀行家との面談を終えた取引所副所長が大量の優良株を時価を上回る価格で買い入れ初め、市場は回復し、一時10.8%下落していたダウ平均は、終値で2.1%の下落にとどまった(暗黒の木曜日)(P163~165)

 翌週月曜日、ダウ平均終値は12.8%下げた。翌火曜日、NY連銀が政府債を1億ドル買い入れ、市場に流動性を供給したが、ダウ平均は11.7%下げた。ダウ平均は11/3に198ドル(下落率48%)でいったん底を打った。292ドル(1930年2月)まで回復したが、1930年いっぱい下落を続け、経済は大不況に突入した。大底は、41ドル(1932年7月 下落率89.2%)(P165~166)

 1926年から1931年のブローカーズ・ローン貸出額は、ほぼ正確にダウ工業平均株価をたどっている。1929年秋に積み上がっていた多額のブローカーズ・ローン残高は、株価が十分下がれば多数のマージン・コールが起こることを意味していた(P170~173)

◎「米株式市場の1921年~1928年1月の上昇率218%が、配当支払い指数の動きに近似していた」のであれば、(PERの数値が適正である限り)この間の上昇はバブルとは言い難い。

◎「1926年~1931年のブローカーズ・ローン貸出額とダウ工業平均株価が連動している」ことは、ローン貸出額の増加率が大きければともかく、そうでなければバブルの証拠とは言い難い。

◎問題は、時価総額に対するローン貸出額の比率ではないだろうか?この比率が高ければ、時価総額のかなりの部分が債務によってつくられていることになるし、わずかなショックが崩壊の引き金になり得る。近年では、コール・オプションによる時価総額の比率だろうか?

 

【第8章】

 1985年、プラザ合意で日本は3つの経済改革の実施が定められた。(P182~189)

①積極的な規制緩和政策で民間セクターの成長を促進

②金融政策を緩和し、金融市場を自由化⇔GDP成長率毎年3%より上(1981年~)

 ⇒公定歩合:5%⇒3%(1986/4)⇒2.5%(1986/4)

 ⇒銀行の貸出額大幅自由化

 ⇒プラザ合意による円高を見越して資金流入

 ⇒通貨供給量大幅拡大:M3:141%増加(1980~1990)vs40%(1990~2010)

 ⇒資金が土地、株式に流入(vs国債低利回り2.4%)⇒地価、株価高騰

 ⇒株式持ち合い、特金(特定金銭信託)、BISが株式含み益45%を自己資本要件容認

財政赤字を削減し、政府の経済規模を縮小

 ⇒代わりに、個人消費、住宅ローン信用市場を拡大⇒銀行に多額の貸出を奨励

 1989年、日銀が株式市場の過熱を懸念⇒公定歩合引き上げ

・昭和62(1987)年 2月23日   2.50

・平成 1(1989)年 5月31日    3.25    
・平成 1(1989)年10月11日   3.75   
・平成 1(1989)年12月25日   4.25   
・平成 2(1990)年 3月20日    5.25   
・平成 2(1990)年 8月30日    6.00

 

【第9章】

 ティム・バーナーズ=リーは、1989年、プロジェクト管理を容易にする方法として、誰でもデータをアップロードできるドキュメントの分散システムで、アップされたドキュメントは、ハイパーリンクで互いに関連づけられるシステム=ワールド・ワイド・ウェブを提案した。これがフィードバック・ループを生み出し、技術変化のペースが指数関数的に高まった(P202~203)

 wwwは1991年に公開されたが、コンピュータになじみのない人にはアクセスしづらく、当初の伸びは鈍かった。1993年1月に、マーク・アンドリーセンが、ウェブの閲覧ソフト:モザイクを投入してブラウザ技術は大きく前進し、インターネット利用が格段に便利になった(P203)

 アンドリーセンは、ネットスケープ(改名後)を設立し、1995年6月、事業が黒字化する前の1995年8月19日、株式を公開した。公開価格28ドル⇒初日高値75ドル⇒終値58ドル⇒12月170ドル。ネットスケープIPOは、ドットコム時代のIPOの雛型となった。投資家を惹きつける目玉となったのは、予想される市場評価より大幅に公開価格を抑えたことだった(アンダープライシング)(P204~205)

 S&P500指数は、1990年1月~1996年12月に115%上昇した。ロバート・シラーが考案した景気循環調整後の株価収益率(CAPE)は28で、長期平均の15を大きく上回り、シラーはFRBに調整必至と進言した。しかし、S&P500は、1997年30%、1998年26%、1999年20%上昇し、2000年3月のピーク時の1990年以降の合計上昇率は353%に達した(P207~208)

 

【第10章】

 2000年代の不動産ブームはグローバルで、アイルランド、スペイン、英、米で同時に不動産バブルが発生し、国境を超えて資金が提供され、バブル崩壊時には、欧州の主要国の銀行システムに大問題を引き起こした(P229)

 米国のほとんどの地域で住宅市場全体のバブルがピークを迎えたのは2006年夏で、他の3か国は、米に1年遅れでピークをつけた。住宅バブルを主導したのは2要素

①信用の劇的拡大:米国ではサブプライム層に対する貸出基準の緩和だ。

②住宅ローンの証券化(P234~235)

(経過)(P237~)

2006年:米国で住宅ローンの延滞が増加

2007年:米国で住宅ローンの延滞加速

2007年3月以降、住宅ローン貸し手で、サブプライムローンでの損失発生、延滞率上昇

2007年夏、世界中で住宅ローンの証券化市場が機能不全

2007年8月、ロンドン銀行間市場金利LIBOR)が上昇、銀行相互間の貸出事実上停止。2007年9月13日、ノーザン・ロック(英大手住宅ローン銀行)取付騒ぎ

2008年2月17日、ノーザン・ロック国有化

2008年3月、ベア・スターンズFRB救済、JPモルガンが買収

2008年9月7日、ファニーメイフレディマックに資本注入

2008年9月15日、リーマン・ブラザーズ破綻

2008年9月16日、AIGFRBが救済融資

2008年10月3日、不良資産救済計画(TARP)法案成立

2008年10月15日、米財務省がTARP資本購入プログラムを発表

        ⇒最大2500億ドル拠出、経営難の銀行に資本注入

 資産格差の拡大⇒民主主義の安定性に脅威

⇒対策①公営住宅提供、寛大な社会保障プログラム(他の諸国)

 対策②住宅政策活用:最下層に住宅購入促進&金融セクターに融資促進(⇒証券化

  (アイルランド、スペイン、英、米)

 

【第11章】

 2005年の時点で、上海、深圳証券取引所に上場している企業の最大株主は政府(中央政府、地方政府、政府の法人)で、63.7%保有している。2005年まで売買可能だったのは個人が保有する「A」株だけだった。2001年12月、中国は世界貿易機関WTO)に加盟したが、その条件として上場企業への政府補助金の支給が禁じられた。こうした企業の非効率性を改善するため、政府は新たな民営化を打ち出し、非流通株式(政府・法人保有株)を売買可能な流通株に転換した。結果、流通株式数の増加により持ち株の下落を恐れた投資家が狼狽売りに走ったことで、この改革は中止された(P262~263)

 2001年以降(2001/7~2005/7)の深圳株価指数は52.7%下落した。2005年、非流通株を売買可能とする改革を再度打ち出した。その際狼狽売りを禁止した。2006年初頭時点で銀行預金金利&短期政府債割引率は1991年以降最低水準にあり、投資先は株式市場しかない。2007年初め時点で対前年比上海市場は130%、深圳市場は98%上昇していた。5月末、中国人民銀行周総裁は、株式市場が過大評価されていると警告し、政策金利を引き上げた。株価は何度か急落したが、政府管理下のメディアが「政府による株価下支え」をほのめかして、株価が再上昇。2007年末の上海株価指数は2005年末比412%、深圳株価指数425%上昇した(P263~266)

 これ以降株価は下落。2008年10月末時点でピーク時からの下落率は、上海市場71%、深圳市場68%。2008年の世界金融危機を受けて、中国当局は、大規模な景気刺激策を打ち出した結果、中国の非政府部門の債務は対GDP比227%(2014年⇔2007年116%)に上昇し、経済成長率が低下(2014年7.4%、2015年6.9%)し、政治の正統性と安定性が脅かされることが懸念された(P266~267)

 問題に対処するため、当局は刺激策を打ち出した。2013年11月、周総裁が,銀行システムと株式市場の自由化を進める計画を発表。地方政府の経営への関与縮小、株式取引コスト引き下げ、上海・香港ストックコネクト(上海・香港取引所間で取引・決済可能)を2014年11月運用開始した。2014年11月、政策金利引下げ、2015年2月銀行必用準備率引き下げた(P267~268)

 上海・深圳株式市場は2014年7月に上昇を開始し、11月利下げで上昇加速、2015年6月12日ピークに達した。2014年6月末比の上昇率、上海152%、深圳185%。バブル崩壊の兆候は、2015年5月28日、上海6.5%、深圳5.5%下落(P269~270)

(暴落の引き金)(P270)

①規制当局が証券担保ローンの抑制に着手

②6月初、金融政策引締め、上海銀行間取引金利上昇

MSCIが中国株式の組み入れを抑制   

(2015年のバブル崩壊経過)(P270~272)

・6月27日(土)、中央銀行は、基準金利0.25%、預金準備率0.5%引き下げの介入

・6月29日(月)上海3.3%、深圳7.9%下落。

・CSRC(中国証券監督管理委員会)が株式購入促進策打ち出し⇒さらに下落

・7月3日(金)~6日(月)取引開始前間にCSRCが追加対策 ⇒続落

 ⇒金融システム全体を危うくする可能性

・7月8日、一連の対策発表

 ①中央銀行流動性(株式購入目的)をCSF(国営中国証券金融公社)に供給を表明

 ②CSFが優良株に加え小型株も買い入れ開始

 ③バブル崩壊前6か月に売却した株式の10~20%の買戻し命令(大株主&経営幹部)

 ④銀行規制当局が、銀行による株式担保融資実行を許可

 ⑤保険監督当局が、保険会社の総資産のうち株式投資の割合引き上げ

 ⑥財務省が、市場の安定性確保を約束

 ⑦公安部が、邪悪な空売り摘発を発表

 ⑧国有企業に株式売却しないよう命令、292社が自社株買い入れを約束

 ⑨政府がプロパガンダ機関を使って株価押上げを画策

 

【第12章】(略)