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AIとSF 日本SF作家クラブ編 2023年5月早川書房刊

(目次)

  まえがき 大澤博隆

△ 準備がいつまでたっても終わらない件 長谷敏司

ー 没友 高山羽根子

ー Forget me,bot 柞刈湯葉

○ 形態学としての病理診断の終わり 揚羽はな

△ シンジツ 荻野目悠樹

△ Aになったさやか 人間六度

△ ゴッド・ブレス・ユー 品田遊

ー 愛の人 粕谷知世

△ 秘密 高野史緒

ー 予言者の微笑 福田和代

○ シークレット・プロンプト 安野貴博

△ 友愛決定境界 津久井五月

ー オルフェウスの子どもたち 芹田小夜

✖ 智慧錬糸 野﨑まど

✖ 表情は人の為ならず 麦原遼

△ 人類はシンギュラリティをいかに迎えるべきか 松崎有理

△ 覚悟の一句 菅浩江

  ✖ 月下組討仏師 竹田人造

  チェインギャング 十三不塔

  セルたんクライシス 野尻抱介

  什麽生の鑿 飛浩隆

  土人形と動死体 円城塔

  この文章はAIが書いたものではありません 鳥海不二夫

各篇解説 鯨井久志 鈴木力 冬木糸一 宮本裕人

 

 途中でうんざりして、全部は読まなかったので、後々のため、自分なりの好き嫌いを書いておく。

第三のチンパンジー(上) ジャレド・ダイヤモンド著 2022年4月日経BP刊 日経ビジネス文庫

人間はどこまでチンパンジーか(1993年10月新潮社刊)を改題・修正・補遺

(目次)

プロローグ

第1部 単なる大型哺乳類の一種

 第1章 3種のチンパンジーの物語

 第2章 大躍進

第2部 奇妙なライフスタイルを持った動物

 第3章 ヒトの性行動の進化

 第4章 浮気の化学

 第5章 どうやってセックスの相手を見つけるか?

 第6章 性淘汰と人種の起源

 第7章 なぜ年を取って死ぬのか?

第3部 特別の人間らしさ

 第8章 ヒトの言語への橋渡し

 第9章 芸術の起源

 

【プロローグ】

 今日の世界で話されている約5000の言語のうち1000がニューギニアにある(P22)

 

【第1部】

 脳がすっかり大きくなってから、あと何千年もの間、石器は非常に稚拙なまま何の変化もなくとどまっていた。4万年前のネアンデルタール人の脳は現生人類より大きいほどだったのに、彼らの道具にはなんの新たな革新の兆しも芸術性も見られない(P32)

 

【第1章】

 全ゲノムの解析から、ゴリラとチンパンジー・人類の系統が分岐したのは1000万年前で、その400万年後にチンパンジーの系統と人類の系統が分岐したと示唆された(P39)

 2種類の生物からとったDNAを混ぜ合わせ、その混合DNAの融点が、1種類の生物からとったDNAの融点より何度下がったかを測定する(DNAハイブリダイゼーション)2種のDNAの構造が約1%違うと、融点が摂氏1度下がる(ΔT=1℃)

◎DNAは二本鎖が二重らせん構造を取っており、5'→3'鎖(便宜的に鋳型鎖)と3'→5'鎖(便宜的に非鋳型鎖)が相補的な関係にある。鋳型鎖と非鋳型鎖が完全に相補的な関係にある場合は、完全に塩基対が形成されており、変性には極めて高いエネルギーを要する。対して、鋳型鎖と非鋳型鎖がある程度の相補性を持つが完全ではない場合は、相同性の高い部分については結合が見られるが、A-T、G-C結合の形成されない部分に関しては、お互い一本鎖になり、変性したままの状態となる。したがって、一部が水素結合を形成する不完全な二本鎖となる。変性温度は、鋳型鎖および非鋳型鎖の配列がいかに相補的か(相同性が存在するか)によって決定され、相同性の高い二本鎖では変性温度は高く、相同性の低い二本鎖では変性温度は低い。なお、核酸の変性温度のことを融解温度(Tm)と一般的に表記する。

 

 

名医が教える炎症ゼロ習慣 今井一彰著 2022年11月飛鳥新社刊

(目次)

はじめに 診察に訪れる患者さんの98%にあった「炎症」

第1章 「慢性炎症」が老化と病気をつくる

第2章 「食べもの」で炎症ゼロ

第3章 「呼吸」で炎症ゼロ

第4章 「運動」で炎症ゼロ

第5章 「睡眠」で炎症ゼロ

第6章 「メンタル強化」で炎症ゼロ

 

【まえがき】

 リウマチの方には「強い口臭がある」、口の中で炎症を起こしている(歯周病)の方の多くにリウマチ症状が見られた。口の中の炎症が体中あちこちの関節に運ばれ、痛みを引き起こしていた(P16)

歯周病とリウマチの発症に「相関関係」があったとしてもおかしくはない。しかし、歯周病がリウマチの原因という「因果関係」があるかのごとき主張には賛同できない。自己免疫疾患であるリウマチは、制御性T細胞のレベルが低すぎてキラーTリンパ球やBリンパ球の制御が効かなくて、自身の細胞への攻撃を抑えきれなかったことが原因だろう。まぁ、サイトカインが制御性T細胞のレベルを下げるのだということであれば、全く否定もできないのだが。

 

【第1章】

 炎症が起きるとサイトカイン(炎症物質)がつくられる。歯周病菌に感染して慢性炎症が起きて歯周病になると、炎症物質が血液にのって全身に運ばれて、リウマチや糖尿病を引き起こす(P40~41)

 センテナリアンは慢性炎症が少なく、「高感度CRP」の値が圧倒的に低い(0.003㎎/dl)⇔正常(基準範囲内)<0.03㎎/dl:保険適用外では1万円前後(P51~53)

 

【第2章】

 サーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)は、細胞分裂の回数を増やして新陳代謝を活発にし、老化を抑える。分裂回数の限界を超えた細胞は新陳代謝ができなくなり、炎症を促進するサイトカインなどの物質を分泌し、慢性炎症が起こる(P56)

細胞分裂の回数を限界以上に増やすとがん化しやすいんじゃなかったかな?老化した細胞がアポトーシスによりスムーズに排除されることが老化を抑えることになるんじゃなかったかな?

 カタクチイワシなどの小魚は、不飽和脂肪酸が含まれていて、「一物全体食」なので、栄養バランスが◎(P67)

◎室内で空気を循環させて水分蒸発を促す『乾燥法』ならまだしも、天日干しでは魚の脂肪酸が紫外線によって酸化されてしまいます。昔ながらの灰干製法(魚を特殊なフィルムに包み、火山灰の中で魚の水分を取る干物の製法)で干物を作れば脂肪酸の酸化が進みにくいといわれるものの、それでも本来、健康や美容に良い作用があるはずのオメガ3の酸化を完全に防ぐことができず、体に悪影響をおよぼす(管理栄養士で老舗料亭「菊乃井」常務取締役の堀知佐子氏)

 

【第3章】~【第6章】(略)

 

半導体超進化論 黒田忠広著 2023年5月日経BP刊

(目次)

本文を読む前に知っておくと便利な用語集

Ⅰ 一陽来復 Prologue

Ⅱ 捲土重来 Game Change

Ⅲ 構造改革 More Moore

Ⅳ 百花繚乱 More than Moore

Ⅴ 民主主義 More People

Ⅵ 超進化論 Epilogue

あとがき

もっと知りたい人のための深掘り解説

もっと知りたい人のための深掘り解説

 

【~便利な用語集】(P10~13)

アーキテクチャ:コンピュータの基本設計や設計思想

ゲート:トランジスタをオン・オフさせる制御端子

コンパイル

 プログラミング言語で書かれたソースコードをコンピュータが直接実行可能な機械語に変換すること

チップ:シリコン基板にトランジスタと配線が集積された1㎝角程度の半導体集積回路

バイストランジスタや配線などの電子回路の部品

トランジスタ:電気信号を増幅orスイッチングできる半導体素子

ファウンドリ:チップの製造を専門に行う企業。設計メーカーが開発したチップを製造

フォトマスク

 フォトリソグラフィでシリコン基板上に素子or回路のパターンを転写するための原板

フォトリソグラフィフォトマスクのパターンをチップに転写する技術

メモリチップ:データを記憶するチップ

ロジックチップ:データを処理するチップ

ASIC:Application Specific Integrated Circuit エーシック。特定用途向け集積回路

CMOS:Complementary Metal-Oxide-Semiconductor

 P型とN型のトランジスタを相補的(Complementary=補完的)に動作させる回路。

 トランジスタの断面構造がM(金属)O(酸化膜)S(半導体)=MOSトランジスタ

CPU:Central Processing Unitデータ処理を行うチップ

EDA:Electronic Design Automation

 半導体や電子機器の設計作業を自動化で行うことorそのツール、ソフトウェア

EUVリソグラフィ:EUV=Extreme Ultraviolet 波長の短い極端紫外線を使った露光技術

FinFET:Fin Field-Effect Transistor フィンフェット。Fin(魚のえら)に似ている

 立体構造トランジスタ(ゲート支配力大)⇔旧来トランジスタ(チップ表面に作成)

Flash:フラッシュ。データを長期格納するメモリチップ。Nand型orNOR型

FPGAField-Programmable Gate Array 製造後に回路をプログラムできる集積回路

GAA:Gate All Around

 ゲートがチャネルを取り囲む構造のトランジスタ。FinFETよりゲート支配力大

GPU:Graphics Processing Unit 並列処理に長けてグラフィックスorAI処理に向くチップ

imec:Interuniversity Microelectronics Centre アイメック

 微細加工技術で世界をリードしているベルギーの研究機関

SoC:System on a Chip

 1枚のチップに、プロセッサーマイクロコンピュータ、専用機能などを集積して、システムとして機能するよう設計されたチップ

VLSI:Very Large Scale Integration 10万以上のトランジスタを集積した大規模チップ

 

【Ⅰ】

 エネルギー効率の高い専用チップを効率よく開発し、3D集積する技術が必要。エネルギー危機の原因は、AI。この10年間にAIの計算量は4桁増加したvsその計算を担う汎用プロセッサの電力効率は1桁しか改善していない(P22)

 日本には、3D集積で必要となる素材、製造装置の優れた技術が集積している。3D集積のチョークポイントを押さえるべき。3D集積によってデータの移動距離を桁違いに短縮できれば、データ移動に費やされるエネルギー消費を大幅に削減できる(P23)

◎「choke point」は、文字通り「絞めることで、相手を苦しめられるポイント」を語源とし、軍事的な意味合いにおいても海峡や運河などの海上に限らず、陸上における峡谷や橋なども含めた要衝、隘路を表す。

 設計技術に関しては、無駄な回路を削ぎ落した専用チップが汎用チップに比べて桁違いにエネルギーを節約できる⇒GAFA、TSLAが開発中。専用チップの開発は困難で、近年、設計者100人、1年、100億円の投資が必要(P23)

 プログラムをコンパイルしてチップを自動設計できるシリコン・コンパイラーができれば、素早く(アジャイルに)ハードウェアを開発できる。自動設計された回路の性能は80点の出来だが、「80対20の法則」を生かして開発効率を5倍高めることに付加価値を見出す(P24)

 設計資産を再利用することで、設計規模の爆発的な増大を抑えることも必要。チップレットが今後重要。チップレットを組み合わせて、パッケージの中でシステムを完成させるので、この点でも3D集積はチョークポイントになる(P24)

◎チップレットとは、これまで1チップに集積した大規模な回路をあえて複数の小さなチップに個片化し、「インターポーザ」と呼ぶチップレット間をつなぐ基板上に乗せて大規模化して1パッケージに収める技術である。

 エネルギー効率の改善のためにラピダスは微細化を追究し、東大は3D集積を追究する。開発効率の改善のためラピダスは製造期間を短縮し、東大は設計期間を短縮する。目標はラピダスと同じ。手段は補完的(P26)

 より多くの人のアイデアが交錯するところでイノベーションが生まれる(集団脳)ホモ・サピエンスネアンデルタール人より脳の容積が小さかったのに、様々な道具を発明し、利用してきた理由も、ホモ・サピエンスのほうがより大きな集団を形成できたから(P27)

 知価社会では、コストパフォーマンスよりタイムパフォーマンスが重要(P29)

 花の誕生が地球を一変させた。植物が、昆虫を利用する大転換⇒花と昆虫の共進化

⇒花の世代交代のスピードアップ=受粉~受精に要する期間の短縮化(1年⇒数時間)

y=a(1+r)ⁿ nを1/tで置き換え⇒デジタル経済の基本式 t:開発のタイムサイクル

⇒チップの性能向上、会社の成長に当てはまる

⇒高速サイクルで改良を繰り返すことが、デジタル経済の成長戦略

 ⇒改善率:r < 改善回数:n ⇒ 開発のサイクルタイム:t の短縮化(P31~32)

 

【Ⅱ】

半導体戦略の方向性:変化)(P37~45,48)

①産業の主役交代:汎用チップ⇒専用チップ

 専用チップの開発費大⇒コンピュータを用いた自動設計技術

 ・レイアウトや論理を自動生成する技術開発(1980年代)

 ⇔集積度3桁増⇒設計が追い付けない⇒専用チップの時代終焉(ここまでの経過)

 エネルギー危機⇒AI分析には膨大なエネルギー⇒専用チップの必要性増大

 ・チップの電力密度が増大⇒クラウドサーバーの冷却に莫大な電力消費

 ・冷却限界超⇒同時に使えないトランジスタ増加⇒専用チップはエネルギー効率10倍

 ⇒AI処理を専用チップで加速、多様な機能は汎用チップ(ソフトウエア)で処理

②第4の波:デジタルツイン

 センサーとAIモニターを用いてサイバー空間とフィジカル空間を高度に融合 

 ⇒ロボティクス(クルマ、ドローン等の移動ロボットを含む)

③技術のパラダイムシフト

 ・ニューラルネットワーク(並列処理)

  ⇔フォン・ノイマンアーキテクチャ(逐次処理)

 ・3D集積⇔微細化:微細化が限界

 

【Ⅲ】

(電力低減の方策)(P78~80)

①低電圧化(V):限界⇒漏電(リーク)

 ⇒(ゲート絶縁膜を薄くせずに?)トランジスタを微細化

 ⇒トランジスタのオン・オフを制御するゲートの作用が劣化

 ⇒トランジスタが十分にオフしなくなる

 ⇒電源電圧を下げても電力が増加

②低容量化(C)

 ⇒ASIC(特定用途向け集積回路)SoC:無駄な回路削ぎ落し⇒低容量化

 ・SoC(統合されたシステムが組み込まれたチップ)

③スイッチング低減(fa) 

 デバイスの寸法と電圧をどちらも1/αに小さくスケーリングすると、トランジスタ内部の電界を一定に保てる。集積度が上がると放熱が難しくなるように感じるが、電力密度は一定であり、発熱量もほぼ比例するので、放熱の問題は起きない。しかし、現実には、マイクロプロセッサの動作周波数は10年間で50倍高速になった。うちスケーリング効果13倍、アーキテクチャ効果4倍。1995年までは電源電圧を低くせずに、デバイスをスケーリングしていた=電圧一定⇔電界一定

⇒電流α倍、容量1/α⇒回路の遅延時間1/α²⇒回路が高速で動作⇒電力密度α³で急増

⇒発熱量増加(P82~84)

 28㎚世代以降は、集積はできても同時には使えないトランジスタダークシリコン:電源を投入できず暗いままのトランジスタ)が急増した。電力効率を改善できた人だけが性能を改善できるフェーズに入った(P85)

トランジスタの電位)(P88~90)

MOSトランジスタ:ゲート断面が、金属~酸化物~半導体の構造

・PMOS:正電荷であるホールが多いP型半導体でソースとドレインを形成

・NMOS:負電荷である電子が多いN型半導体  〃

 NMOSのソースには電子が溜まっている(PMOSは反対の流れ)

 ⇒ゲートがソースと同じ電位のとき

  ⇒ソース、ドレイン間のP型半導体基板が電子の障壁⇒電子がドレインに流れない

 ⇒ゲートの電位がソースより十分に高い電位

  ⇒ゲート直下のP型半導体基板の表面がN型に反転⇒チャネル(電子の通り道)形成

   ⇒ソースからドレインに電子が流れ出す

 PMOSとNMOSのソースを電源とグラウンドにつないで出力⇒CMOSインバータ構成

 ・入力に低い電位(L)が入る⇒NMOS=OFF、PMOS=ON⇒出力に高い電位(H)

 ・       (H)   ⇒             ⇒        (L)

 PMOSとNMOSは同時にONしない⇒電源からグラウンドに電流が流れ放しにならない

 ⇒出力をH、Lに変化させるだけのため電流を使う⇒低電力

トランジスタ微小化⇒ドレインとソースの間にリークが起きる仕組み)(P90~91)

・金属板Aのゲートにソースより十分高い電位を付与⇒ゲートに正電荷

 ⇒ゲートに対向したP型半導体基板の表面に負電荷が蓄積⇒N型に反転⇒チャネル形成

 ⇒チャネルはゲートからの電界効果で制御

・ドレインと半導体基板の界面で、ドレインの電子がP型半導体基板に拡散

 ⇒P型半導体基板のホールがドレインに拡散

 ⇒ドレインと半導体基板界面に自由に移動できる電子が欠乏した空乏層形成=障壁

 ⇒トランジスタ微小化⇒ソース・ドレイン間の距離短縮

 ⇒ドレインの空乏層がソースに接近

 ⇒ドレインに正の電位付与⇒ソースの電子を閉じ込めていた障壁が下がる⇒リーク

(ゲートの支配力改善方法)(P92~93)

①材料変更:ゲート酸化膜を誘電率の高い材料へ⇒高誘電率ゲート絶縁膜実用化済み

②構造変更

ⅰFinFET:フィンフェット。電界効果トランジスタ

     ゲートを2つにしてチャネルを両側から挟む。16㎚世代から採用

ⅱGAA:ゲートがチャネルを取り囲む構造。2㎚世代

    ゲートで周囲を囲まれた薄いチャネルに十分大きな電流⇒材料物性研究中

③配線の構造改革

 トランジスタ微細化⇒電源配線を太く、厚くする必要

 ⇒電源配線を半導体基板の中に埋めて、電源をチップの裏側から供給する構造改革

 

【Ⅳ】

TCI:ThruChip Interface磁界結合通信

 チップの配線でコイルを巻き、デジタル信号に応じてコイルを流れる電流の向きを変えて磁界の向きを変化させ、他のチップでコイルに生じる信号の極性を検知して、デジタル信号に戻す方式。コイル間の磁界結合でチップ間通信を行う(P115)

 AMDが2枚のSRAMをプロセッサの上に積層実装したところ、微細化を1世代進めた効果に匹敵する性能改善ができた(SRAMキューブ)(P123)

 SRAMキューブ同様、DRAMキューブ、NANDキューブもつくれる。チップを接着剤で

貼り合わせるので、どんなチップもキューブになる。さらにSRAMDRAM、NANDを好きな比率で組み合わせたメモリキューブもつくれる。ロジックチップもキューブに交ぜるとシステムキューブになる(P124)

 膨張顕微鏡法では、紙おむつの吸収体に利用される材料を使って脳組織を膨張させることにより、一般的な光学顕微鏡を使って、60nmの特徴まで解読できる(P128~129)

⇒脳組織の特定のタンパク質に蛍光分子タグをつける

アクリル酸塩モノマーを脳組織に浸透させて、蛍光分子タグと結合させる

⇒このモノマー重合反応を開始させる

⇒脳組織内でアクリル酸塩ポリマー(重合体)の網目状構造ができる

⇒脳組織のたんぱく質を分解して、残ったアクリル酸塩ポリマーに加水⇒吸水膨脹

⇒網目状構造に結合している蛍光タグの間隔が広がる

⇒光学顕微鏡で識別できなかいほど近接していた蛍光タグがはっきり分かれて見える

(チップの同期設計)(P132~134)

 制御は状態によって動作を変える必要があるので、順序論理回路(入力が同じでも状態によって出力が変わる)を用いる。状態が遷移する際に、意図しない状態を一瞬経由する。この一瞬のためらい(ダイナミックハザード)は、制御では誤作動の原因になる。そこで早く到着したデータも遅く到着したデータもいったん待たせて、クロックが変化した瞬間にデータを一斉に出力することで、クロックの周期ごとにタイミングを揃えることができる

⇒クロックが高速になるとタイミング設計のコストも増大する

⇔(非同期設計)(P136~138)

非同期回路は二線式論理を用いる

・2つの出力が等しい間:計算中

・出力の一方が変化:計算完了の信号+計算結果を次の回路に伝える

⇒非同期設計は多くのトランジスタと配線を使うが、同期設計の無駄との比較になる

 

【Ⅴ】

アジャイル開発(P158~159)

⇒小さな単位で実装とテストを繰り返して開発を進めるボトムアップの手法

 開発期間短縮、開発途中の仕様変更、追加可能

 だいたいの使用と計画を決めたら、システムを小さな単位に分けて計画、設計、実装、テストを行いながら、1~4週間程度の期間内で機能のリリースを繰り返す

ウォーターフォールモデル(P159~160)

⇒最初に仕様と計画を決定し、計画に従ってトップダウンに開発・実装

 文章と図で示された仕様書をVerilogべリログ等のハードウェア記述言語で書き、さらに処理手順をクロックサイクルごとに分解したRTL(レジスタ転送レベル)記述に書き下す

⇒論理設計⇒回路設計⇒レイアウト設計⇒フォトマスク幾何学模様を描く

(RTLの再利用)(P161)

 システム設計の効率を上げる手法。プロセッサやメモリコントローラ等の汎用の機能は、設計資産(IP)として流通。専用回路のRTLも過去に設計したRTLを再利用

(チップのアジャイル開発)(P161~164)

 システムを小さな単位に分けてC/C++Pythonで記述(⇒行数1/100に)した後に、高位合成ツールでRTLを自動生成しながら、ボトムアップにシステムを組み上げる。セットメーカーの開発期間、費用を大幅に短縮、開発リスクを軽減できる

⇒検証モデルを一緒に用意⇒変更範囲の確認容易+検証環境の効率的に組み上げ

(シリコン・コンパイラー2.0)(P166~171)

 コンパイラー:ソースコード(人間の言葉に近い。高級言語で記述)をオブジェクトコード(機械語:実行バイナリー)に変換するソフトウェア

 シリコン・コンパイラー:ハードウェアの仕様をシリコンチップに変換するソフトウェア。Verilog(ハードウェアの記述言語)をGDS-Ⅱ(シリコンチップ上の回路形状データ)に変換⇒実用化されていない⇔ハードウェアの完成度が高いものが要求される

 シリコン・コンパイラー2.0:ASICをコンパイラーで低コスト、短時間に開発できれば利益を出せる

⇒高位合成と組み合わせれば、Cでチップを記述できる

d.labは、高位合成でCからVerilogを合成し、3D-FPGAでシステム設計・検証を行った後に、VerilogからGDS‐ⅡをコンパイルしてASICを開発する設計プラントフォームを研究開発する(P171)

 デイビッド・ショー(P178~179)

・2001年、D・E・ショー研究社を設立

・2009年、512シードで構成される分子動力学専用のスーパーコンピュータを開発

・2014年、専用チップを開発。演算性能を毎秒12.7テラ(10の12乗)演算に向上

 ⇒タンパク質の大規模な揺らぎを再現

 現在用いられている神経回路網は、70年前の古いモデルであり、これを現在のモデルに置き換えるとAI処理の消費電力を、現在の1/1億に低減できる。ポイントは、10種類ほどの非線形関数をシナプスに用いること。非線形関数はメモリに格納された表を参照する方式(ルックアップテーブル)で回路に実現できる。この最新のモデルを実装するには、最先端プロセスで製造しても10枚ほどのチップが必要(P180)

 

【Ⅵ】

 花は、花粉を使って自ら昆虫を呼び寄せることができるようになった。花粉を与える代わりに、花粉を運んでもらった⇒共生関係ができた⇒共進化を生じた(P199~200)

 植物はN,P等の栄養を根から得ている。しかし、大部分の栄養は、菌が土から吸収し、植物へと送り込んでいる。代わりに、直物は光合成で得た養分を菌へとおすそ分けをしている。菌は、数十メートル成長し、菌と菌がつながり合うことで、森中の木々をつないでいる。夏に光合成を活発に行う落葉樹は、近くの常緑樹へ養分を分け与える。秋になると常緑樹が葉を失った落葉樹へ養分を送る。彼らは、ネットワークを介して強い協力関係を築くことで、安定した生態系をつくっている(P202~203)

 

【深掘り解説】

 CMOS回路は、電源側のスイッチをオンにして容量を充電し、1を出力。グラウンド側のスイッチをオンにして、容量を放電し0を出力する(P232)

 容量値がCのキャパシタにVの電圧をかけると、Q=CVの電荷が蓄えられる。その電荷が電源からグラウンドに移動すると、E=QVのエネルギーを失う。CMOS回路のエネルギー消費はE=CV²となる(P232)

 スマホのバッテリー容量は、約3000mAhで、リチウム電池の出力電圧は約3.7ボルトだから、3A✖3.7V✖3600秒=4万ジュールのエネルギーを貯蔵(P230~231)

 写真を撮るとき、チップが10Wの電力を1秒間消費する(仮定)⇒1枚の写真撮影に10ジュールのエネルギーを消費(P231)

 

 

家康の誤算「神君の仕組み」の創造と崩壊 磯田道史著 2023年10月PHP研究所刊 PHP新書1372 

(目次)

まえがき

第1章 家康はなぜ、幕藩体制を創ることができたのか

第2章 江戸時代、誰が「神君の仕組み」を崩したのか

第3章 幕末、「神君の仕組み」はかくして崩壊した

第4章 「神君の仕組み」を破壊した人々が創った近代日本とは

第5章 家康から考える「日本人というもの」

 

【第1章】

 桶狭間の戦いで、今川義元が2万、織田信長は2千に足りない兵数で中島砦に移ったとあることから、「尾張は小国」というイメージがあるが、誤りだ。今川が支配していた駿河遠江三河で合計60万石に対し、尾張は50万石超の大国だ(P17)

 今川家の戦略は、「三河のプリンス」家康を膝元において育て、強い結束力を誇る松平家軍団を、対織田の最前線で駆使・酷使するものだった(P24~25)

 家康は、信長に隠れて、以前から武田軍の猛者をかくまい、優遇してきた。最強の武田軍の残党はそれを知っていたので、徳川家に仕官してきた。武田家の旧臣は、若い井伊直政に預けて「井伊の赤備え」を編成し、家康は、日本最強の野戦軍団を有することになった。これも家康が天下を獲れた要因の1つだ。家康は、野戦戦闘力で、秀吉を長久手合戦で破った(P32~33)

 家康は、征夷大将軍を望んだが、それは関白の秀吉との対立を意味しない。関白の命を受けて、切り込み隊長役を務めるのが征夷大将軍であり、家康が秀吉の下で征夷大将軍に就任してもおかしくない(P37)

 江戸幕府成立以前の日本人の感覚では、征夷大将軍武家には名誉の地位だが、その上に、摂政・関白・三公(太政大臣左大臣・右大臣)の下になる(P37)

 信長と秀吉は、自己の個体消滅を前提に、一代限りの大事業として、でかいことをやりたがる死生観を持っていた。家康は、「家は長久」という思想で、徳川家も天下万民も「家を続かせること」を重視した(P38)

 朝廷・公家とのつきあい方では、秀吉は高圧的で、三位以上のポストに自分の親戚や家来を座らせるなど公家の権益を侵害した。家康は、武家の官位は公家の官位の外でつくった(武家諸法度禁中並公家諸法度)(P39)

 「分」という持ち場の「限り」を守っていれば、家の存続が保障される仕組みを、日本全土につくり、長期政権への道を切り開いた(P40)

 

【第2章】

 「神君」家康がつくった仕組みを変え始めたのは、2代秀忠、大きな変更があったのは、3代家光、8代吉宗、14代家茂の時代だ(P50)

①改易制度の緩和⇒有力外様大名(幕末の雄藩)残存(P50~56)

 全国約3千万石。幕府直轄800万石、親藩、譜代400万石、外様1800万石だが、家康(幕府)は、安易には取り上げない政策を採用。跡継ぎがない場合は、無嗣改易制で、外様、譜代、親藩を問わず適用したが、4代家綱(上州舘林藩主)から8代吉宗(紀州藩主)に適用緩和。の頃から無嗣改易急減。末期養子の禁を緩和

由井正雪の乱(1651慶安4)、赤穂浪士の討入事件(1702元禄15)で藩を潰す⇒浪人増⇒治安悪化を懸念

ⅱ元は大名だった将軍が、大名が困らないように制度改変

②人質制度の廃止(P56~59)

ⅰ大名証人制度(藩主の正室、嫡子、大大名では家老を江戸城内の証人屋敷に置く)

 ・藩主の家族のみに緩和(1665寛文5)

 ・全面廃止(文久の改革1862文久2・14代家茂)

ⅱ参勤交代制度緩和(文久の改革)

③城と大船の建造解禁⇒軍事バランス崩壊(P59~63)

一国一城令(1615慶弔20):島津家、伊達家は例外的

 ⇔西洋の接近で崩壊

ⅱ大船建造の禁(1609慶長14):大名の海軍力を抑制

 ⇔ペリー来航(1853嘉永6)安政の改革(1854安政1)で廃止

  ⇒長崎海軍伝習所設立(1855安政2)、神戸海軍操練所設立(1864元治1)

  ⇒日本国全体としては正しい判断。幕府の終焉を早めた

④新たな通貨の鋳造⇒討幕の資金源に(P64~66)

 江戸時代初期、銀(西日本:当時の東アジアの国際決済通貨)、金(東日本)を使用

 ⇔寛永通宝発行(銅銭:1636寛永13:3代家光)

  ⇒幕府の許可を得れば大名も鋳造可能⇔幕府の通貨発行(権)益を毀損

   天保通宝(1853天保6:寛永通宝の100枚分)発行⇒通貨発行益大

   ⇒西国の雄藩(久留米、薩摩、土佐、長州)の軍事費資金源(許可なく発行?)

⑤外交の不安定な動き⇒貿易の利潤&最新鋭兵器(P66~69)

◎3代将軍家光のときに、キリスト教禁制政策の一環としていわゆる「鎖国令」発布

◎幕府の外交・貿易は、長崎を基軸にしながら、松前対馬・薩摩のそれぞれの藩に対外関係の口を担わせ(いわゆる「四つの口」)て、外交・貿易統制。東アジアにおけるキリスト教禁制や欧米の勢力争い、中国の明から清への交替などの状況を踏まえた対外政策としての貿易統制を行った。

⑥意思決定機関の劣化⇒誰もが政治に参加(P69~76)

 絶対的強者がいない仕組みを構築

 ⇒力ある者(御三家、外様)に権限なく、権限ある者(譜代、旗本)に力がない 

  ⇒世襲の弊害:公職に就くとき「家格」が問われた:家柄・先例>能力

   ・老中:2万5千石~10万石(事務的行政職:地位は高くない)

   ・軍事職:軍団を統率(地位が高い):10万石~(土井、酒井、井伊、堀田)

   ・大老:軍事職の譜代大名がやむなく老中に就任するとき「大老」(P84~85)

  ⇒足高の制:家禄が低い能力ある者が役職に就く:役職の基準石高不足分を補填

 ⇒ペリー黒船来航⇒言路洞開(誰でも意見具申してよい)

  ⇒大名、旗本、朝廷に意見を聞いた⇒政治参加

  ⇒公議輿論、公議政体⇒諸侯会議⇒倒幕

 

【第3章】

天皇の変容 

ⅰ基本方針:江戸初期、幕府は、天皇と大名の繋がりを遮断(P80~81)

 ・参勤交代途上での入京不可

 ・幕府の武士(禁裏付)が御所の出入り口を監視、

 ・天皇を御所の中に閉じ込める仕組み(P91~92)

ⅱ将軍との関係(征夷大将軍拝命)(P78~80)

 ・3代家光までは、征夷大将軍を拝命(将軍上洛制)京都二条城に滞在。

 ・4代家綱~13代家定は、江戸で拝命(将軍定府制)

 ・14代家茂は、(将軍上洛制)大阪城に滞在し、長州戦争を指揮

 ・15代慶喜は、在京中に拝命(将軍在京制)

天皇の権威の変化・幕末の動き(P82~112)

 ・将軍、大名の正室が公家出身⇒公家文化の浸透

 ・頼山陽日本外史、通義を執筆⇒本来、天皇に政権があることを暗示⇒尊王思想

 ・黒船来航(1853嘉永6)⇒開国の決断

  ⇒人材登用、言路洞開⇒朝廷の意見を聞いた⇒重要決定は朝廷の承認必要と暗示

  ⇒諸藩が自分の意見を通すには、天皇を持ち出すのが効果的

  ⇒京都手入れ:賢臣を京都に派遣、天皇側近に入説

   ⇔大老井伊直弼安政の大獄(1858安政5)⇔桜田門外の変(1860安政7)

 ・孝明天皇賀茂社石清水八幡宮行幸

   ⇒天皇と将軍の関係が「見える化

    ⇒天皇の鳳輦(神輿類似の乗物)の後ろに、将軍がお供

 ・「八月十八日の政変」(1863文久3)

  ⇒大和行幸を企図

   ・孝明天皇を奉じて吉野山に立て籠もり、後醍醐天皇のように天皇親政を宣言

  ⇔孝明天皇が危機感:外国人討ち払いは武家(幕府等)の役目

   ⇒大和行幸取止め、浪士を大弾圧(八月十八日の政変

    ⇒既存の団体(藩)軍事力利用が必要との認識

    ⇒長州藩に大打撃:浪士の黒幕として京都から追放

  ⇔長州藩上洛(1864元治1 4月)⇔幕府(一橋、会津、桑名)薩摩藩と戦闘

   =禁門の変蛤御門の変

    ⇒第一次長州征伐(孝明天皇決定)⇒一会桑(京都)が政治の実権

  ⇔長州藩高杉晋作がクーデター、実権掌握、幕府に反抗

   ⇒第二次長州征伐⇒14代家茂逝去(1866慶應2 7月)⇒慶喜:将軍職固辞

    ⇒慶喜15代将軍就任(1866慶応2 11月)

     ⇒孝明天皇がいる限り将軍は存在し続けることが明確化

      ⇒孝明天皇崩御(1867年1月30日(慶応2年12月25日))

 ・薩長同盟

 ・薩摩が武力討伐方針を決定⇔慶喜がフランス型で軍隊の近代化を企図

  ⇒土佐藩大政奉還工作

  ⇒大政奉還宣言(慶応3 10月)、将軍職返上

  ⇒坂本龍馬暗殺

 ・王政復古のクーデター(1867慶応3.12.9)

  ⇒御所の門の守護を交代(幕府側⇒薩摩藩尾張藩

  ⇒天皇睦仁(明治天皇)のもと、幕府、摂政、関白を廃止、新政府樹立

  ⇒鳥羽伏見の戦い(1868慶応4.1)

   ⇒旧幕府側敗戦⇒慶喜大阪城抜け出し事件⇒慶喜恭順、謹慎

   ・大名は天皇の廷臣(官位授受)⇒錦の御旗に逆らうと朝敵⇒慶喜側にたてない

 幕府が先に近代化しそうだったので、薩長が急戦に持ち込んで幕府を潰した(P117)

 明治維新政府は、徳川幕府の外側を壊し、内側の優秀な人材を利用して、近代化を成し遂げた(P118~123)

 ・近代化を担う人材は幕府が最も豊富だった⇔諸藩は外交・貿易が許されてなかった

 ・身分・格式を重んじる幕府は、身分の低い人間を指揮官に据えられない

  ⇒「並」というポジション(抜け道):陸軍奉行並、海軍奉行並

   本来は指揮官ではないが指揮官ということにする

 

【第4章】

’(薩長土肥成立の経緯)(P128~134)

・薩摩:討幕派の中心。近衛家五摂家筆頭)を抱き込み。世論の支持に不安

・長州:外国船に発砲、攘夷断行⇒世論の喝采

岩倉具視薩長連携工作、朝廷中心の政権づくりを目論む⇒坂本龍馬中岡慎太郎

・土佐:鳥羽伏見の戦いで討幕派から誘い⇒板垣退助が倒幕参加(山内容堂は消極的)

・肥後:最強の火力⇒アームストロング砲、武雄兵(スペンサー銃フル装備)

 ⇔薩長土因(鳥取因幡)藩)⇒薩長土肥

岩倉使節団明治4年~2年間近く)派遣(P139~142)

 ⇔2年近くリーダーが国を空ける事態は異常

  新政府のリーダーが西洋事情を知らないなら、知っている者を登用し、任せるべき

  ⇔岩倉、大久保が自ら日本の近代化、富国強兵をやりたかった⇐権力に粘着的

・留守政府による改革(P145~152)

 ①学制(1872明治5):全国に学区設定、学区ごとに学校を設置、教員を配置

  ⇔昌平坂学問所は武士の学校=徳川政権の限界

 ②太陽暦採用:1873明治6年1月1日⇔旧暦明治5年12月3日:閏月の存在が難点

 ③徴兵令布告(明治6年

 ④地租改正:土地の所有者を確定、地券発行、税金徴収=排他的所有権の導入

  ⇔幕藩体制下では、重層的所有関係:将軍・大名・藩士・農民=所有者が不明確

   ⇒土地への課税ができない⇒排他的所有権の導入が必要、私的所有権を保障

    ・経済発展には、私的所有権を保障し取引コストが低い社会にすることが必要

     ⇔本源的蓄積論:近代資本主義は、資本蓄積がつくる

  ⇒武士の特権=領主権の剥奪⇒列島西の周縁部で士族の反乱

岩倉使節団の帰国~西南戦争

 明治6年の政変:征韓論⇒西郷らが下野

 台湾出兵(明治7年):士族の不満対策:大久保⇔木戸孝允下野(明治10病死)

 士族の不満⇒西南戦争(1877明治10)

 大久保暗殺(1878明治11)⇒黒田清隆松方正義(薩摩閥)

 ⇔伊藤博文井上馨(長州)大隈重信(佐賀)が主導権奪回の動き⇒議会開設企図

  ⇒伊藤が方向性を変更:ドイツ式議会を志向=大隈・福沢を警戒

   ⇔大隈・福沢:イギリスモデルの憲法・議会を志向

明治14年の政変:大隈を政府から追い出す

明治18年(1885)の政治制度は、薩長土肥藩閥が「天皇の任命」という形をとって首相の座を回すものだった。予算を決める権限は議会にあったが、予算の決定権は政府にあった(P158)

◎「我が国では、大日本帝国憲法明治憲法)以来一貫して、予算は、法律とは別個の形式とする理論を採用し、今日に至っている。このため、我が国では、予算と法律という別系統に属する二大規範が存在するという状況にある。予算も法律も、その成立のためには、議会の議決が必要であることは共通している。しかし、議会が議決する際に、その内容を修正することができるかどうかについては、法律案については、原則として制約がないとされるのに対して、予算については、明治憲法は明文の規定を置いて制約を認め、日本国憲法下においても周知のように議論がある」(夜久仁)という趣旨か?

 

【第5章】 

 家系の位置づけを表す氏、天皇から与えられた「源、平、藤原、橘」などの姓、これらを合わせたものが氏素姓で、群雄割拠の時代、氏素姓を拠りどころにした。氏素姓や官位など、天皇との繋がりで支配の正当性を主張する意識が、「暴力の中世」になってかえって根強くなった。「太兵衛」は官職名で、「兵衛府」の一員を思わせる(P164)

 日本人は、中世の混乱期以降、庶民までが朝廷官職名を勝手に名乗るようになった。百姓は、百の姓で、たった一人の帝(天皇)に対する「万民」の意味で、天皇の下にいる幾万の一族集団を意味する(P164~165)

 天皇に身柄を所有されたはずの国民が、自分たちは天皇の所有物ではなく、天皇の末裔であるという思想を抱き始める⇒王孫思想(P166)

 家系に箔をつける装置として、天照大神天皇に繋がる貴種が求められたが、加えて「長く豊かに生きたい」と願う。これが、室町時代以降、自分の家(イエ)を自覚し始めた日本列島の民の軸となる思想だった。この「家を永続させたい」という願いに乗って人々に浸透したのが先祖を祭祀するための仏教(元来なかった先祖の位牌を取入れ) 家康は「家意識が拡がる時代」の中で、政権の仕組みをつくった⇒自らの神格化(P168~170)

 天下を獲った家康たちの課題は、下剋上ゲームの終了を宣言して、徳川の勝ち逃げを確実にすること⇒上昇志向をやめさせる(安定や永続の思考)

朱子学:人には生まれついた身分(分際)があり、守るべき倫(みち)がある

 ・忠義 :身分的に上の方向に尽くす

 ・親孝行:世代的に上の方向 〃  (P174~175,P190~191)

 久能山と家康の遺体が安置された日光奥の院を結ぶ線は、富士山の山頂部を通る。久能山に沈んだ太陽は、不死の山(富士山)を挟んで北東に位置する日光から、再び東を照らしながら昇ってくるという構図が考えられた(P178)

 第62代村上天皇以後900年間「天皇」号は使われず、天皇号が復活するのは幕末近くの第119代光格天皇のとき。在位中は「主上、今上、禁裏様、天子様」、譲位後、崩御後は、「○○院」と呼ばれた(P186~187)

 徳川時代には、子孫を増やし、遺伝子を後世に残したタイプは農村にいて(都会に出ず)、親の言うことを聞いて、よく学びよく働いて、村内で上手に田畑を増やしたタイプ(P198~199)

 「礼記」の「大学」の「格物致知、修身斉家、治国平天下」の意味は、「自分の身を修め、家庭をととのえ、国を治め、天かを平和にすること」だが、「格物致知」を

朱子学:物にいたる⇒物事の本質や理屈を理解して極める

陽明学:物をただす⇒学問は物事をあるべき本来の姿にして正していく

 ⇒学問の目的は、自分が考えた世界観で世の中を主体的に変えていくこと⇒革命思想

  ⇒陽明学は徳川政権にとって危険な思想

   ・熊沢蕃山(岡山藩重臣):農兵論・武士在郷論⇒吉田松陰高杉晋作

   ・安藤昌益(秋田藩町医者):万人直耕:年貢を取り立てるのはおかしい

   ・大塩平八郎                       (P204~209)

 幕末、徳川体制が弱ってくると、「ええじゃないか踊り」が始まり、誰かが仕掛けて伊勢神宮の御札をばらまいて、「天から御札が降った」と狂乱する現象が起こった。天皇天照大神への信仰が、徳川への反抗に利用され始めた。人々は伊勢神宮に参って、五穀を実らせる太陽神の天照大神のありがたみに感謝する。伊勢参りを繰り返す中で、日本人の心に「徳川から天皇へ」という変化が起きた⇒尊王攘夷(P211~214)

 学歴を重視し、試験でエリートを選抜し、国家が人材をすくい上げて、「富国強兵」に投げ込む。富国強兵は明治ではなく、幕末の藩の中で生まれた用語

⇒個人は、受験競争に参戦し、勝てると、身分家柄を飛び越えて出世できるシステム

熊本藩主細川重賢・米沢藩主上杉鷹山⇒会津藩津山藩佐賀藩(P221~222)

 

エブリシング・バブルの崩壊 エミン・ユルマズ著2022年3月集英社刊

(目次)

はじめに

第1章 エブリシング・バブルはFRB緩和バブル

第2章 キャリーバブルとキャリークラッシュ

第3章 難儀きわまるインフレがやって来た!

第4章 日本経済の今後を考える

第5章 中国で全開する習近平ワールド

第6章 ウクライナアフガニスタンなどの地政学リスクの変化

第7章 世界標準に比して無防備に近い日本のサイバーセキュリティ

第8章 暗号通貨の正体

 

【まえがき】

 1987年のブラックマンデー以降に始まったFRBによる相場への介入が、リーマン・ショック後に加速し、パンデミックで別の次元に移行した。結果は歴史的な資産バブル。しかも今回は、あらゆる資産において起きている。金融緩和をやりすぎたことによるバブルだ(P13)

 

【第1章】

 2008年のリーマンショック以降13年間に渡る米国株の強気相場が、(2022年4月)まもなく終わる(P20)

 米国経済はリセッションに向かって動いている。ミシガン大学の消費者信頼感指数の2022年2月確報値が61.7と、2021年12月確報値の70.6から大幅に低下。米国の消費は明らかに息切れしている(P24)

◎同指数確報値は62.8(22/2)であり、61.7は速報値だ。同確報値は、50.0(22/6)出ボトムを付け、その後回復に転じ、79.4(24/3)でピークを付けた。22/2時点では、著者の見方が誤っていたとは言えない。

 米国の不動産は明確にバブルにある。2021年の米国の不動産指数が20%上昇していることがそれを示している(P25)

 コールオプションが買われると、マーケットメーカーは、自分のポジションをヘッジするために実際の株を買わざるを得ない。マーケットメーカーがヘッジで現物株を買うほど、価格がさらに上がり、オプションの価格も上がる。この仕組みが逆回転し始めると、大変なことになる(P41~42)

 2021年3月に起きたアルケゴス・キャピタル・マネジメントは小規模なファンドで、金融機関に割高な手数料を払うのと引き換えに、その資金でレバレッジ投資を繰り返してきた。株式の保有名義は当該金融機関にあるが、投資による損益はアルケゴス側にあるトータルリターンスワップを駆使した。投資に失敗したアルケゴスは破綻。運用規模1000億ドル。各国金融機関は巨額損失を計上した(P43~44)

 バブル崩壊は、2022年5月頃にはわかる人にはわかる。S&P500のPSR3倍は、適正水準の1倍に比し、割高。PSR20倍超の企業が90社、時価総額合計2兆ドル超。ITバブル時はPSR10倍超が10社だった。バフェット指数が200%vs適正水準80%(P47)

 

【第2章】

 キャリートレードとは、金利が低い通貨でお金を借りて、金利が高い通貨に投資すること。利点は、①金利の差額で儲けること、②短期的には、政策金利の高い国に外国から一気にお金が入ってくることで、その国の通貨が能力以上に上昇すること(P68~69)

(トルコにおけるキャリートレード)(P70~71)

①2000年代に外国からホットマネーが流入

②トルコの銀行が円建て、ドル建てのシンジケートローン(1つの顧客に複数の金融機関が連携して融資)で資金調達ができる

③トルコの銀行が②で調達した資金を国内で貸し付け

モーゲージローン(不動産抵当権担保ローン)、クレジットカードの使用が普及

⑤トルコ国内で消費ブーム⇒小バブル⇒不動産バブル

⑥通貨リラが上昇

⑦継続的に海外からの資金流入が必要⇔流入が途絶えると巻き戻し

⑧2018年、トルコリラ大暴落

(アルケゴス・キャピタル)(P76~77)

 アルケゴスは、約200億円の資金をもとにレバレッジをかけて、12兆円のポジションを持っていた。中国のオンライン教育関連株、メディア株に投資。2021年初、中国株3割下落で破綻⇒野村証券、UBS等が巨額損失

 FRBは、必要な国にドルを供給している(スワップライン)。新興国で危機的な事象が起きる前に、FRBが資金供給する。ドルのクレジットライン(与信)を設けて、その国の通貨を安定させる(P79~80)

 

【第3章】~【第4章】(略)

【第5章】

 中国は、2000年から2010年までの10年間で使った鉄、セメント、コンクリートの量の合計が、米国が20世紀全体で使った量を上回った(P149)

◎中国の不動産バブルが崩壊中である今、鉄の需要は大きく減少するはずだ。

 貧しくなればなるほど、中国政府は下層の人たちを抑えられなくなる。彼らの支持を取り付けるために、極端なポピュリズム政策を敷く。世界的にインフレが発生しているのは、中国とのデカップリングが反映している(P151~153)

 中国共産党習近平が考えるテックとはインターネットではなく、半導体再生可能エネルギー、EV、ロボティクスなど製造業だ(P155)

 

【第6章】~【第8章】(略)

 

 

 

 

 

免疫の守護者 制御性T細胞とはなにか 坂口志文・塚﨑朝子著 2020年10月講談社刊 ブルーバックスB-2109

(目次)

まえがき

第1章 ヒトはなぜ病気になるのか

第2章 「胸腺」に潜む未知なるT細胞

第3章 制御性T細胞の目印を追い求めて

第4章 サプレッサーT細胞の呪縛

第5章 Foxp3遺伝子の発見

第6章 制御性T細胞でがんに挑む

第7章 制御性T細胞が拓く新たな免疫医療

第8章 制御性T細胞とな何者か

あとがき

COLUMN 自己を攻撃する免疫系

     「クローン選択説」

 

【まえがき】

 自分と他人との間には、截然たる仕切りがある。でも、免疫系においては、「自己」と「非自己」の境界は、とても曖昧だ。なので、誰もが自己免疫疾患を発症する可能性がある。しかし、実際には、一部(先進国では人口の5%)の人だけしか発症しない。そこには、免疫系の暴走を抑えるメカニズムがあるに違いない(P3~4)

 特定の抗原に対して、免疫系が反応を起こさない仕組みを「免疫寛容」と呼び、特に「自己」に対する免疫不応答を「免疫自己寛容」という(P4)

  がん細胞は、自己の細胞が遺伝子変異を起こした、「自己もどき」細胞だ。それに対して、免疫系を抑制している制御性T細胞の働きを制御して、「自己」「非自己」の境界を操作すると、免疫系ががん細胞を攻撃し始めると考えられる。同様に、制御性T細胞ののバランスを変えることで、自己免疫疾患、臓器移植における拒絶反応、感染症の治療、予防ができる時代が近づいている(P6~7)

 

【第1章】

 免疫系は、体内に異物(病原体等)が侵入しても、それらを排除する(免疫系の「正の応答」)体内には、腸内細菌や飲食物などの異物が存在する。妊娠中の胎児も厳密には異物だ。こうした異物に過剰に反応すると不都合だ。過剰な反応を起こさないようにする働きを、免疫系の「負の応答」と呼ぶ(P14~15)

 スギなどの花粉が鼻の粘膜内に入ると、抗原提示細胞の1つである樹状細胞がこれを異物(抗原)として認識する。その抗原の情報は、リンパ球(白血球の一種)のT細胞に送られる。T細胞からB細胞に情報が送られると、花粉にピタリと合う抗体(スギ花粉特異的IgE抗体)がつくられる(感作が成立)。このIgE抗体が、抗原である花粉を再度捉えると、鼻の粘膜下組織にある肥満細胞から、炎症を起こす物質(ヒスタミン、ロイコトリエン)が放出される(P16)

 ヒトの腸管内には、1000種類以上の腸内細菌が100兆個、1㎏が棲みつき、共生している。このため、腸内の免疫細胞は「負の応答」によって制御されている。しかし、免疫系のバランスが崩れると、自己の腸内細菌に対しても過剰な反応を起こすようになり、炎症性腸疾患を発症すると考えられている(P17~18)

 自己免疫疾患は、免疫細胞が「自己」の組織や細胞を異物(抗原)とみなして攻撃して、発症する(関節リウマチ、1型糖尿病多発性硬化症)(P18~19)

 1980年代初頭に、胸腺(thymus)でつくられるリンパ球(T細胞)の中から、免疫系の暴走を抑える細胞(制御性T細胞regulatory T cell:Treg:Tレグ)を探り当てた。制御性T細胞は、健常人の血液中のCD4陽性T細胞の約10%(リンパ球全体の5%)を占める(P25~26)

 免疫細胞の中には、自己に過剰に反応して攻撃するT細胞もある。免疫系は、攻撃的なT細胞と制御性T細胞のバランスをとることで恒常性を維持している。ただし、T細胞による免疫抑制レベルは固定されたものではなく、制御性T細胞数が減りすぎたり、機能低下を起こすと、自己免疫疾患を抑え込むことができなくなる(P26)

 T細胞には、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)などがあるが、顕微鏡では区別がつかない。T細胞の表面にある分子(分子マーカー)に着目すると、生化学的に分類できる。細胞表面には、たんぱく質から成る何百種類もの分子があり、T細胞の種類により発現の状況が異なっているため、その機能の違いを生じる。1955年、制御性T細胞の分子マーカーを特定することができた(P29~30)

 2003年、私たちは、制御性T細胞の発生、機能発現、分化状態の維持、それらすべてを制御しているマスター遺伝子が、Foxp3(forkhead box P3)であることを発見した。その正体は転写因子タンパク質で、DNAの特定の塩基配列に結合して遺伝子の発現を制御していた。私たちは、マウスの細胞を用いた実験で、制御性T細胞をコントロールするFoxp3遺伝子に変異が存在すると、制御性T細胞の数や機能に異常が生じて、全身の臓器に重篤な自己免疫疾患を引き起こすことを突き止めた(P31)

 制御性T細胞をうまく操ることができれば、自己免疫疾患、炎症性疾患、アレルギー疾患、がんなどの治療が可能になると考えられている(P34)

 がん組織には、制御性T細胞が過剰に浸潤していることがわかっており、それを踏まえた免疫治療が鍵になる。がんの免疫療法では、自己もどきのがん細胞に対する免疫反応を上げなくてはならず、そのためには制御性T細胞を減らす必要がある。制御性T細胞を減らすのは技術的に簡単で、薬で減らせる可能性が示唆されている(P36~37)

 

【第2章】

(クローン選択説)(P50~52)

 骨髄細胞(造血幹細胞)から前駆細胞を経て、免疫細胞(B細胞)が作られる過程で、外界の作用とは無関係に、無数の抗原に特異的に反応する細胞(抗体産生細胞)がランダムに作られる。抗原が入ってくると、細胞表面の受容体を介して、その抗原に適合したクローンが選ばれ、急激に増殖して、形質細胞(抗体産生細胞)へと成熟する

⇔1つの抗体産生細胞が多種類の抗体を産生できる能力を持ち、抗原が入ってくるとそれが鋳型となって、抗体が決定され、複製される(鋳型説)

(免疫の機能・分類)(P55)

・自然免疫:マクロファージによる貪食等

・獲得免疫

 ・細胞性免疫:キラー細胞が病原体(異物)に感染した異常細胞を攻撃

 ・液性免疫

  ⇒2型ヘルパーT細胞がサイトカインを産生すると、B細胞が抗体産生細胞に分化。     

   B細胞から産生された大量の抗体が体液を介して全身に広がる

 T細胞は、「獲得免疫」の司令塔を担っている。T細胞とB細胞は、形態上はほぼ同じで、通常の染色法では区別できない(P55~56)

 

【第3章】

 抗原となっているタンパク質は多数の抗原決定基(エピトープ:抗原の一部分)を持っているが、1つのB細胞は単一の抗体しか産生せず、1種類の抗体は1種類のエピトープにだけ反応する。特定の1種類の抗原に対してB細胞が作った単一の抗体のコピー(クローン)をモノクローナル抗体と呼ぶ。B細胞の寿命は1週間程度(P74~75)

 ヘルパーT細胞:CD4陽性T細胞(CD4+T細胞)は、病原体を攻撃するB細胞を選択的に活性化し、抗体を作らせる(P75~76)

 自己免疫疾患は、放射線、化学物質、ウィルス感染、遺伝子変異等をきっかけとして、自己反応性T細胞に対する抑性能を持つT細胞が破壊されたことを原因として発症する(P83)

 CD25陽性CD4陽性T細胞(後に制御性T細胞(Regulatory T cell:Treg:略称Tレグ)と命名)は、正常マウスの末梢組織にあるヘルパーT細胞(CD4陽性T細胞)の5~10%を占める。CD25という細胞表面分子は、インターロイキン2(IL-2)タンパク質と結合する受容体のα鎖だ。IL-2受容体は、α鎖、β鎖、γ鎖の3つの分子で構成されている。ILは、リンパ球や食細胞が分泌するサイトカイン(細胞の増殖、分化、活性化などの機能発現を誘導する可溶性分子)であり、T細胞の免疫応答に深く関与している。免疫抑制に関わっていたとしても不思議ではない(P91~93)

 

【第4章】

 免疫自己寛容とは、免疫が自己を攻撃する可能性があることを踏まえ、生体内の状況を察知して、自分の組織や器官を攻撃しない状態をつくり出す仕組み(P110)

(免疫自己寛容の類型)

①胸腺における自己反応性T細胞の排除(P112~114)

 胸腺の上皮細胞表面にMHC分子が発現し、自己の成分に由来する抗原(自己抗原)との結合体を作っている。胸腺上皮細胞は、未熟なT細胞に、その表面にあるT細胞受容体(TCR)を介して、この「MHC-自己抗原の複合体」を認識させる。この際、自己抗原に強く反応する幼弱なT細胞は、その刺激によりアポトーシスが起きる。逆に、鈍感なT細胞は、無用とみなされ、成熟するステップに進むためのシグナルを得られず、「無視による死」に至る

⇒T細胞受容体と「MHC-自己抗原の複合体」の結合の強さ(親和性)は連続的変化なので、相対的に自己反応性が強いT細胞がある程度生き残る=完全には排除できない

②自己反応性T細胞の不活化:免疫不応答、アナジー(P114~115)

 ヘルパーT細胞を不活化してアナジー(免疫不応答)状態にする。ヘルパーT細胞が活性化されるには、TCRによる抗原提示細胞からの抗原認識(シグナル1)だけでは不十分で、T細胞表面にある副刺激分子(補助刺激分子)CD28が、抗原提示細胞に発現するCD86と結合することで得られる刺激伝達(シグナル2)が必要。2つのシグナルが揃うことで、ヘルパーT細胞が活性化する

③Tレグによる抑制(P116)

 Tレグは、表面に免疫を抑制する分子を発現させて、抗原提示細胞に取り付き、その活動を抑制、または増殖にブレーキをかける

(ヒト免疫疾患の原因・発症機構・治療法に関する仮説)(P118~120)

①Tレグは、機能的に安定な細胞集団を形成し、発生学的にもプログラムされている。自己免疫疾患は、免疫不全症(生体の免疫防御機構が破綻した病態)と同様、特定のリンパ球集団の先天的・後天的、量的・機能的不全症

②自己免疫疾患の直接的原因は、Tレグの異常⇔罹患した臓器の抗原提示細胞ではない。臓器特異性(どの自己抗原が標的となりやすいか)は、どのような自己反応性T細胞が活性化されやすいかによる。これは宿主のT細胞のレパトア(異なる抗原特異性を持つTCRにより特徴づけられたリンパ球のレパートリー)と抗原提示能によって決まる。それを規定するのは、主に宿主のMHC遺伝子及び非MHC遺伝子の多型性だ

③自己免疫疾患の治療にTレグを使える可能性がある

 

【第5章】

 SKGマウス(単一遺伝子の異常により慢性自己免疫性関節炎を自然発生するモデルマウスの系:著者が開発)の関節炎の原因遺伝子が、T細胞刺激伝達系の主要分子であるZAP-70遺伝子の変異がもたらすシグナル異常は、胸腺における自己反応性T細胞を選択する際の閾値を変化させる。アポトーシスさせる選別基準が緩くなったことにより、本来は負の洗濯を受けて排除されるべき自己反応性T細胞が、それを免れて末梢組織に出現し、自己免疫性関節炎が引き起こされる(P131~133)

 IPEX症候群は、免疫調節不全により生じる致死的な遺伝難病で、性染色体のX染色体上にある単一遺伝子の突然変異が原因。伴性劣性遺伝なので、一見健康な保因者たる母親から生まれた男子のみは発病。IPEXの原因遺伝子Foxp3は、Fox(Forkhead box)遺伝子ファミリーの1つ。発生、組織分化、細胞の運命決定、代謝調節に深くかかわる。Foxp3がコードするたんぱく質は、DNAと結合して特定の遺伝子の発現を抑制する転写因子だった(P135~136)

 正常マウスの末梢組織で採取したCD4陽性T細胞をTレグのもう1つの分子マーカーCD25で、CD25陽性と陰性の細胞亜集団に分画し、Foxp3遺伝子を転写するmRNAの発現状況を定量PCRにより解析⇒Foxp3遺伝子のmRNAは、正常マウスの末梢組織のCD25陽性細胞のみに検出された⇒制御性T細胞(Tレグ)の遺伝子だ(P138~139)

 レトロウィルスをベクター(運び屋)として用いて、Foxp3遺伝子を非TレグであるCD25陰性CD4陽性T細胞に導入して、これを発現させるようにした。その後、TCR(T細胞の細胞膜上に発現している抗原受容体分子)刺激に対する増殖応答、サイトカイン産生、細胞表面マーカーの解析を実施

⇒Foxp3を導入した細胞は、Tレグ(CD25陽性CD4陽性T細胞)同様、通常のT細胞の増殖を顕著に抑制。サイトカイン(IL-2、IL-4、IL-10、IFN-γ)産生を抑制。細胞表面分子(CD-25、CTLA-4、GITR、CD103)発現はFoxp3の発現レベルに比例して増強(P140)

 Foxp3を強制発現させた細胞(CD25陰性CD4陽性T細胞)は、試験管内で、新たに調製したT細胞(CD25陰性CD4陽性T細胞)の増殖応答を抑制、サイトカイン産生も抑制(P140~141)

 重症免疫不全のSCIDマウスに、Tレグを除いた後のナイーブT細胞を移入すると、炎症性腸疾患及び自己免疫胃炎を誘導できる。ここにFoxp3を強制発現させたナイーブT細胞を移入すると、腸炎、胃炎を完全に抑制

⇒Foxp3を導入したT細胞が生体内で抑制活性を発現することを示す(P141)

 以上の実験結果より、Foxp3遺伝子は、免疫応答を抑制するTレグに特異的に発現する遺伝子であり、、その発生及び機能を制御するマスター遺伝子であると結論付けられた(P141)

(Foxp3がTレグに特異的に発現している遺伝子であることの意義)(P143~144)

①IPEX症候群が、Tレグの異常によって起きることが証明できた

②遺伝子レベルでTレグを扱えることが明確になった

③IPEX症候群で見られる多くのアレルギー疾患、その他の自己免疫疾患が1つのメカニズムで起こることが明らかになった

 Foxp3は、Tレグの発生・機能のマスター制御遺伝子であり、上流でCD25の発現をコントロールしている遺伝子。Foxp3遺伝子は、CD152(CTLA-4)もコントロール。CD357(グルチココルチコイド誘導腫瘍壊死因子受容体関連タンパク質:GITR)もTレグ表面に多く発現(P144~145)

⇒①Foxp3遺伝子に異常⇒免疫系に不調⇒自己免疫疾患発症

⇒②下流のCD25に関係する分子に異常⇒自己免疫疾患発症

(Tレグが免疫を抑制するメカニズム)(P145~154)

①Tレグの大元は、他のT細胞同様、骨髄で作られる

②骨髄で生成されたT細胞前駆細胞は胸腺に移動⇒厳しい選別

③自己の細胞との親和性が中間的で、自己の細胞にほどほど反応するT細胞⇒Tレグ

④Tレグは、未成熟なナイーブT細胞を抑制⇒自己免疫寛容を実現

 ⅰサイトカイン等の化学物質を用いた免疫抑制(細胞間接触なし)

  IL-2受容体(サイトカイン受容体)のα鎖は、抗原等の刺激で活性化

  ⇒CD25を恒常的に高発現するTレグはIL-2受容体の高親和性によりIL-2に結合

  IL-2は、Tレグの維持と増殖に必要だが、Tレグ自身はIL-2を産生せず消費するのみ

  TレグがIL-2を消費⇒他のT細胞が必要とするIL-2を奪い、アポトーシスもたらす

 ⅱ細胞表面に発現する補助刺激分子を使った免疫抑制(細胞間接触を伴う)

  Tレグを含むT細胞は、抗原を認識して活性化されるために2つのシグナルが必要

  ・シグナル1:樹状細胞が提示する抗原がTCRと結合することによる刺激

  ・シグナル2:CD28への副刺激も必要。

 CD28は、抗原提示細胞(樹状細胞)に発現するCD80、CD86と結合すると、これが免疫応答のための共刺激となる。

 Tレグは、CD152(CTLA-4:細胞傷害性Tリンパ球抗原4:cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4)を常に高発現している。CTLA-4のCD80、CD86との結合親和性はCD28より20倍高い⇒CTLA-4は、CD28に代わってCD80、CD86と結合することで、CD80/CD86の発現を抑制⇒CD28への副刺激を遮断

 腸管粘膜(外来抗原に常時さらされている)では、Tレグは、IL-10(免疫性サイトカイン)を産生・放出し、抗原提示細胞の成熟を抑えることで、免疫抑制を実現。TGF-β(抑制性サイトカイン)、細胞障害性物質(グランザイムB、パーフォリン)を産生する場合もある(P154~155)

 

【第6章】

 がん患者の血液中、腫瘍内部では、活性化したTレグが、異常に増加。がん組織に浸潤しているT細胞の30%~40%、ときには80%がTレグで占められている(P169)

 近年、ニボルマブオプジーボ:抗PD-1抗体)の投与により、急速に腫瘍が増大し、病勢進行を示す患者が増加(HPD:hyperprogressive disease)

ニボルマブ投与患者の10~30%でHPD発症

⇒(マウスで検証)

 Tレグに発現しているPD-1をニボルマブで阻害

 ⇒Tレグが増加⇒免疫抑制力が上昇⇒抗腫瘍効果が低下(P174~176)

 がん組織へのTレグの浸潤は、Foxp3をマーカーにして、腫瘍組織を染色することで検査できる。Tレグを減らした上で、ワクチンを投与する方法(P181~184)

⇒抗CD25抗体を投与⇒細胞表面にCD25を発現しているTレグを除去(マウスでの実験)

⇒オンタック(Ontak:デニロイキン・ディフティトックス:CD25陽性皮膚T細胞リンパ腫治療薬)を投与⇒TレグのIL-2受容体と結合⇒Tレグ消失

⇒少量のシクロホスファミド(エンドキサン)は、Tレグを選択的に除去⇒ペプチドワクチン療法実施⇒抗腫瘍免疫反応増強⇒顕著な延命効果

(抗体医薬によるTレグ除去:がん免疫療法)(P184~188)

 ナイーブT細胞をCD45RA(分子マーカー)とFoxp3遺伝子の発現の組み合わせで解析すると、Foxp3陽性T細胞は、次の3つの分画に分けられる。悪性黒色腫の局所に存在するTレグでは、②が有意に浸潤、末梢血では①が多かった。

⇒腫瘍局所に存在するがん抗原or自己抗原により、Tレグが活性化されている

⇒免疫応答の増強には、②を選択的に排除すればいい

⇒②に特異的な分子を標的とした免疫療法が有望。CCR4は、標的となりうる

⇒CCR4は、Tレグ、2型ヘルパーT細胞に選択的に発現している細胞表面分子

成人T細胞白血病(ATL)細胞では、90%以上がCCR4を発現

⇒既にATL治療薬として抗CCR4抗体が開発済み=モガムリズマム(ポテリジオ:協和キリンが上田龍三:現愛知医科大学

⇒固形がん患者でも副作用は許容範囲、投与全例で血液中エフェクター型Tレグを選択的に除去した。一部患者でがんが縮小したが臨床効果は限定的だった

①ナイーブ(非活性)型Tレグ

エフェクター(活性化)型Tレグ

③Foxp3陽性T細胞だが免疫抑制を持たない非Tレグ

 がん抗原タンパク質は巨大な分子で、1種類のタンパク質だけを安定的に大量生産しようとすると、高度な精製技術が必要で高価になる(P192)

 上流のタンパク質に作用する抗体医薬ではなく、より下流にある分子を攻撃したほうが特異性が高く、効率的で、簡便で、安い薬が生まれてくる可能性がある(P197)

(近赤外線免疫療法:小林久隆(米NIH)/名古屋大:2016マウス実験成功)(P198)

 Tレグはがんの周囲に集まり、腫瘍免疫にブレーキをかける。Tレグと結合する抗体に、特定の波長の近赤外線を当てると化学反応を起こす化学物質を付けて、がんを発症したマウスに注射する

⇒10分後、Tレグが大幅減少、免疫細胞ががんへの攻撃開始

⇒1日ですべてのがん細胞が消失(P198)

 

【第7章】

(拒絶反応)(P200~201)

急性期:~移植後3カ月)⇒細胞傷害性T細胞

慢性期:臓器生着、病状比較的安定⇒B細胞

⇒移植臓器に対する安定的な免疫寛容を誘導すること

 欧米では、Tレグを使って、白血病などの治療のために行う骨髄(造血幹細胞)移植後の拒絶反応として起こる移植片対宿主病をコントロールしようという試みが臨床応用に近づいている(P203)

方法①:移植を受ける患者のTレグを増やす

    ⇒レシピエントから採取したTレグを、ドナーの細胞と一緒に培養

    ⇒拒絶反応を抑える能力の高いTレグを増殖(マウスの実験で効果確認済)

方法②:ドナー自身のTレグをを入れる(成熟T細胞を除く)

    ドナーの骨髄中に成熟T細胞は移植片対宿主病発症リスク有り

 生体内でTレグを特異的に増殖させる薬剤を開発する試みがあり、IL-2製剤が候補

⇒移植後に低用量のIL-2製剤を投与する臨床試験中で、良好な成績(P206)

 1型糖尿病に対して、低用量のIL-2を治療薬として使う臨床試験中(P209)

 生体内でTレグを特異的に増殖させる薬剤の探索

⇒ラパマイシン(免疫抑制薬):生体外ではTレグを特異的に増殖させる効果有り

⇒顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)製剤⇒Tレグが自己免疫疾患の標的臓器に集積

 ⇒好中球など、白血球中の顆粒球の産生促進、機能を高める

(Tレグを用いた自己免疫疾患治療の課題)(P210) 

①Tレグは、末梢組織にあるCD4陽性T細胞の5~10%⇒1人のドナーからの採取困難

②自己免疫疾患の治療に際しては、いったん活性化したエフェクターT細胞を抑制することが必要⇒予防の場合より多くのTレグを移入することが必要

③ヒトでは、CD25陽性CD4陽性T細胞中にTレグでないT細胞が多く含まれる

 腸管では、胸腺由来のTレグ(tTレグ)だけでなく、普通のリンパ球(T細胞)がFoxp3を発現してTレグになって免疫を抑制する(末梢由来Tレグ:pTレグ)(P218)

 先進国では、喘息のようなアレルギー疾患が増えている。IPEX症候群で起こる病気と同じ。誰もがTレグを体内に持っており、それが異常を起こせば発症する。免疫系が刺激を受けないと、病原体を攻撃する能力も免疫の過剰反応を抑える力も鍛えられない。免疫系の全般的な機能低下により、免疫系のバランスが不安定な人が多くなったことで、アレルギーの発症が増えた(P223~225)

 私たちは、製薬企業との共同研究で、体内のT細胞からTレグを誘導することができる新規化合物(CDK8/CDK19阻害薬)を発見。試験管内実験で、マウスの組織の細胞に、CDK8/CDK19阻害薬を加えると、エフェクターT細胞、メモリーT細胞に、Foxp3を発現させてTレグに作り替えることができる(P227)

 接触過敏症(アレルギー疾患)のモデルマウスにCDK8/CDK19阻害薬を経口投与すると、Tレグを介して、アレルギー症状が低減された(P228)

 このような化合物を最適化して、安全性、有効性を高めることができれば、経口投与により、自己免疫疾患、アレルギー疾患等の治療薬にできる(P228)

 

【第8章】

 Tレグは、どんな人でもCD4陽性T細胞の10%内外に保たれている。高齢になるとTレグはやや増える(12~13%程度)(P244)

 自己免疫疾患になりやすくなる一塩基多型(SNP)が多く見つかっている。CTLA-4の塩基多型は、1型糖尿病、甲状腺疾患の発症に関係(P247)