(目次)
はじめに 糖質のとり方を含めた食事のあり方を考えてみませんか
第1章 糖質制限が必要な人、必要ない人のちがい
第2章 食事から健康常識を考え直す
第3章 老けない体、健康長寿のカギ、ケトン体とは
第4章 長生きしたければ食事を変えなさい ケトン食の凄い効果
第5章 健康長寿につながる食事と習慣
おわりに
【はじめに】
ケトン食とは、糖質を控えて脂質を増やすことで、肝臓でつくられるケトン体の産生を誘導する食事。世間で言われる糖質制限よりはるかに厳しい糖質の管理を行って、脂肪(脂質)をとる食事(P4)
ケトン体は、脂肪酸とタンパク質を材料に肝臓内でつくられ、血管を通して筋肉や脳に運ばれ、細胞内のミトコンドリアによってエネルギーに変換され、様々な組織で使われる。ケトン体は、空腹時、夜間に働く(P8,P48~49)
【第1章】
糖尿病の治療において、SLGT2阻害薬は、腎臓で再吸収されるグルコース(ブドウ糖)を尿中に排出させる。SLGT阻害薬は、心血管疾患による死亡、心血管イベント、全死亡の発症率を低下させ、糖尿病による腎障害も抑制する。SLGT阻害薬が1日に排出する糖質は80g程度。SLGT阻害薬は、血糖値の正常化に合わせて、夜間のケトン体の誘導を正常化していた(P23,P235~236)
糖新生は、筋肉からタンパク質のアミノ酸を分解し、グルコースをつくり出す働き。グルカゴンは、肝臓に貯蔵されているグリコーゲン(グルコースが多数結合した多糖類)を分解する(P27~28)
総エネルギー消費量=基礎代謝量60%+消化吸収10%+身体活動量+30%(P35~36)
(空腹時血糖が100g/dl超の理由)(P36~37)
①筋肉量減少⇒筋肉のグリコーゲン蓄積減弱⇒血液中のグルコース取り込み減少
②糖質の過剰摂取
③老化に伴う軽度の炎症⇒インスリン抵抗性
がんケトン食療法を実践した患者の予後=空腹時血糖値90g/dl未満:良好⇒体に炎症がないことで、インスリンの働きが維持され、栄養状態が良ければ筋肉量が維持される⇒筋肉に糖質がグリコーゲンとして取り込まれる(P38~39)
握力の高い群は、最も低い群比で死亡率が低下する(久山町研究:2527人の男女を握力の強さで3群に分類)⇒男性40kg未満、女性2540kg未満⇒人間の寿命を決定するのは、筋力と筋肉量⇒健康のためには体を鍛えて筋力、筋肉量を増やすべき(P40~41)
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)は、老化促進モデルマウスの筋萎縮を劇的に予防し、グリコーゲン蓄積を改善、サイトカイン(TNF-α)低下させる⇒人間のサルコペニア改善効果が期待できる(P42~43)
空腹感は、グレリン(消化管ペプチドホルモン:胃で分泌)が迷走神経を介して、脳の食欲中枢に働いて生じる(P44)
GLP-1(グルカゴン様ペプチド1:小腸で分泌)は、膵臓に働きかけてインスリンの分泌を促進(P45)
【第2章】
短鎖脂肪酸は、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の総称。食欲の低下を防ぐ、インスリン分泌を補助、脂肪の蓄積を抑制等の機能がある。短鎖脂肪酸は、食物繊維を原料に、腸内細菌が産生する(P66)
京丹後市(長寿地域)の高齢者の腸内細菌は、酪酸産生菌が京都都市部の住民より多かった。イモ類、海藻類、根菜類(ごぼう等)、納豆、板わかめのだし汁等を多く摂取したからではないかと推測(内藤裕二教授グループの調査:京都府立医科大)。酪酸産生菌を育てるには、日本人の場合、米飯、醤油、味噌、漬物等の発酵食品の摂取が最適であることがデータで示されつつある(P66~67)
3歳までに、個人の腸内細菌叢が形成される。基本的には、母親の腸内細菌叢を譲り受けるが、その後、家族、所属集団の腸内細菌叢を共有していく。腸内細菌叢は、民族差、個人差が大きく、親子兄弟でも菌叢が似ていない場合がある。腸内細菌叢は、その後多少の変化はあるとしても、3歳くらいで基本的に決定される(P68~70)
ケトン体が腸内で酪酸産生菌を増やしていく可能性が報告されている(P71)
老化細胞が分泌するSASP(細胞老化随伴分泌形質)因子(炎症性サイトカイン)が炎症を起こし、がんを促進する。炎症が起きると、インスリン抵抗性を生じ、代謝が悪化する。糖尿病患者は、インスリンの効きが悪くなって、インスリンの分泌が増える。インスリンの分泌は、血中C-ペプチドの測定でわかる。血中C-ペプチドが高い人はがん発症リスクが通常人の1.2倍。炎症の度合いを示す血中CRP(C-リアクティブ・プロテイン)濃度が上昇すると、がん罹患リスクは1.28倍。血中CRPの上限値0.2mg/dl。軽い感染症1~2mg/dl。肺炎10mg/dl超。(P84~87,P89)
老化を示すモデルマウスにGLS-1(グルタミンをグルタミン酸に変換する酵素)阻害剤を投与すると、老化細胞が除去され肥満性糖尿病、動脈硬化、NASH(非アルコール性肝障害)の症状が緩和。老化細胞にPD-L1(細胞表面に存在するたんぱく質)が発現し、老化マウスにPD-L1の働きを止める抗体投与で、老化細胞が1/3に減少、握力が1.5倍になった(東大医科学研究所中西真教授のグループの研究)。PD-L1に対する抗体は、オプジーポとして実用化済み(P87~88)
【第3章】
ケトン食は、2016年4月から特別加算食の対象として難治性てんかん患者の治療食となった。MCT(中鎖脂肪酸)オイルは、ケトン体に変換されやすい。純粋なMCTオイルは、胃酸で加水分解され、胃粘膜が刺激されて腹痛をもたらす。特に空腹時は要注意。ケトンフォーミュラ(がん治療用に開発)は、空腹時摂取でも胃腸への刺激が少ない(P101~103)
ケトン体とは、βヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトン。アセトンは呼吸で排出されるので、体の中で働くのは前二者。ケトン体は、脂肪酸とたんぱく質から肝臓内のミトコンドリアで合成(P107)
(βヒドロキシ酪酸の効果)(P108)
・大腸がん抑制
・糖尿病による腎障害に効果
・転換の発作軽減
・抗炎症効果
・サーカディアン(概日)リズムを改善
βヒドロキシ酪酸(1~10mM濃度)は、マウスの骨髄由来のマクロファージからのIL-1β(炎症性サイトカイン)の産生を抑制。腫瘍関連マクロファージ(TAM)が、がん細胞周辺に集積し、がん細胞が生存しやすい環境をつくる。TAMは、がんの転移、抗がん剤、免疫療法による治療抵抗性と関連するが、ケトン体との関係は不明(P114~115)
【第4章】
ケトン食は、糖質制限食+高脂肪食。主食のパン、米を完全に抜いても、1日の糖質摂取量は50g以上になる⇔ケトン食療法では、最初の1週間10/日。その後30g/日以下。脂質摂取量120g/日以上。βヒドロキシ酪酸を患者に経口投与しても臨床効果なし(P126~128)
血液中の総ケトン体の目標値は、2000μmol/L~4000μmol/L。維持療法時でも1000μmol/L以上(P129)
(がんケトン食療法のケトン食のケトン比)(P129)
・最初1週間:ケトン比2:1⇒糖質10g 脂質140g タンパク質60g
・2週間~3カ月: 1.5:1 20g 120~140g 70g
(ケトン食糧法の効果)(P149)
・がんの臨床病期Ⅳ期 50人
・うち3カ月以上の食療法実施 37人:平均年齢54.8±12.6歳 男性15例、女性22例
肺がん6例、大腸がん8例、乳がん5例、すい臓がん4例、他のがん14例
・3年生存率44.5%
・1年後の臨床評価:完全寛解3例、部分寛解7例、最長期生存80.2か月
(がんケトン食ABCスコア)(P152~153)
患者の血清データで、ケトン食治療3か月後のアルブミン(栄養状態)、血糖値、血中CRP値(炎症状態)を用いて、長期予後の予測が可能⇒栄養状態が良くて、炎症がなければ、がん患者は長期生存可能
基本的にケトン食だけでは、がん細胞の増殖を抑える作用は強くない。抗がん剤や放射線治療と併用すると、効果を発揮する。(マウスではうまくいくが)ヒトではうまくいかない(P159)
【第5章】
プチケトン食は、糖質50~100/日、脂質をしっかり摂取。夕食に脂肪を大量摂取で、夜間にケトン体が大量につくられる(P177)
ケトン体を活性化させるには、適度な運動が効果的(P211)
◎糖質制限食のうち、糖質のカロリー制限を脂肪で補う方法は、長期死亡率が悪いとの研究があるはずだ。その点を無視した持論の展開には賛同し難い。