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スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

インターネット時代のIT外相、カール・ビルト

2010-12-30 02:43:08 | スウェーデン・その他の政治
要職にある政治家や政府関係者が、市民が必要とする情報をきちんと公開しなかったために批判を受けることはよくある。そして、知らなかった、とシラを切り批判をかわそうとする。インターネットが政治と市民・世論の間の情報の橋渡しにますます重要な役割を果たすと考えられているものの、ネットをうまく使いこなして情報発信を定期的に行っている政治家は期待されるほど多くはなさそうだ。本人に意欲はあっても時間がないなどの理由で秘書などに管理を任せている人も多いだろうし、軽はずみな発言が失言となるリスクを(本人が、もしくは周囲の人が)恐れるあまり、きちんと手が加えられチェックを受けた「オフィシャル」な発言のみしか流されないケースも多い。閣僚ともなれば、そうならざるを得ないかもしれない。その結果、臨場感のない、面白みに欠ける内容になってしまうこともある。

しかし、例外もいる。スウェーデンが世界に誇る(←かなりの誇張(笑))IT時代を先取りした政治家、そう、カール・ビルトだ。彼はかなり以前から自分の手によってこまめに英文ブログを書いていたし、2006年10月に外務大臣になってからもスウェーデン語によるブログを書き続けている。内容は外相としての活動の一コマや世界情勢に対する自らのコメントなどをコンパクトに伝えるもので、更新はほぼ毎日。一日に複数の書き込みをすることも多い。公務が忙しいにもかかわらず、あまりに書き込みが熱心なので「秘書か誰かに実際の書き込みや管理を頼んでいるのか」とある時ジャーナリストに尋ねられたものの、すべて自分で管理している、と答えていた。

国際会議や和平交渉、首脳会談などに際しては公式発表に先駆けてカール・ビルト外相自身がブログにその内容や結果に関する簡単な書き込みをすることもあるため、ジャーナリストはスウェーデン政府からの記者発表だけでなく、彼のブログを情報源とすることも少なからずある。これに対して、政府内からは不満の声も上がっていることは以前私のブログでも伝えた。

2008-01-07:忙しいカール・ビルト外相の大きな趣味

しかし、私が思うに、彼は既に首相を経験したり、バルカン紛争の調停などを担当した経験もあるため、ネット上での発言に関しては、言葉を選びながら、うかつなことは書かず、常にバランス感覚を保っているように感じる。だから、これまでのところ、あまり問題ではなさそうだ。

ビルト外相は1年ほど前からツイッターも始めた。そして、ブログ以上に頻繁な書き込みを続けている(ツイッターは英語)。しかも、さすが情報化時代の最先端を(おそらく)自負している外相とあって、Ipadは当然のごとく活用し、Ipadからツイッターを発信している。

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ただし、やはり限度を超すことも時にはある。半月ほど前にストックホルム中心街で起きた自爆テロ事件の際のことだ。事件は12月11日(土)の夕方5時に発生し、警察と検察が記者会見を初めて開いたのは12日(日)の午前10時だった。そして、ラインフェルト首相が「ストックホルムがテロの対象となった」という公式声明を発表したのは同じ日の正午すぎのことだった。

しかし、実はカール・ビルト外相はそれよりも半日近く前の12日(日)午前0時5分に、次のようなコメントをツイッターを通じて発信していた。

Most worrying attempt at terrorist attack in crowded part of central Stockholm. Failed - but could have been truly catastrophic..
12:05 AM Dec 12th via Twitter for iPad

この時点では、まだ「テロである」という正式な断定は当局は行っておらず、疑いがある、という噂だけが巷を駆け巡っていた。だからメディアは、政府の中枢にいるビルト外相がほぼ断定に近い形でコメントを発表したことで、ほぼ間違いはない、という確信を得て、翌日の紙面作成を進めていったようだ。

さて、普段はビルト外相のブログやツイッターをそれなりに評価し、大目に見てきたラインフェルト首相も、今度ばかりは我慢できなかったようだ。政権の長である自分を差し置いて、外相が勝手にワンマンプレーを進めたからだ。メディアのインタビューに対して、ビルト外相の名指しは避けながらも「不確かな情報を鵜呑みにしてそのまま流すのではなく、吟味した上で国民に正確な情報を伝えることが重要だ」「スウェーデン政府を代表しているのは私である」と不機嫌そうに答えていた。

野党である社会民主党の議員も「政府の高官として無責任な行動。ビルト外相は自分がスウェーデン政府よりも上の立場にあると勘違いしているのではないか」と批判していた。(いや、正確に言えば、メディアでその批判を述べる前に、彼もツイッターでまず批判を行っていた!)

しかし、ビルト外相は(一応、表向きには)ひるむ様子を全く見せていない。彼はEUの会合のために滞在していたブリュッセルにおいて、ジャーナリストのインタビューに対し

「私がツイッターに書いたということは、つまり、そこで伝えた内容を私が既に知っていたということだ」

と開き直っていた。「しかし、今回のような重大な事件に対しては、政府見解としてまず首相が公式な発表を行うべきでは?」という質問に対しても、

「そうしたら、あなたたち新聞は翌日の記事のネタに困ったんじゃないの?」と、さらに開き直った上で、「私は、国民に対する政治家としてのプレゼンスとオープン性が重要だと思う」と強調していた。


さて、彼のこれらの態度をどう捉えるか? 横柄だ、ワンマンプレーだ、という見方もできるし、まさにその通りだろう。しかし他方では、彼に向けられる様々な批判を、彼独特のハッランド方言でいつも一蹴してしまうその姿は、見ていてむしろ痛快にさえ感じられる。さすが豊富な経験を積んできた彼だからできることだ。経験の浅い政治家には真似すらできないだろう。とはいえ、私は彼の考え方の多くには抵抗を感じるため、外相としての彼を支持するつもりはない。しかし、それでも憎みきれない政治家だ。

最後に、彼のその後のツイッター書き込みを一つ紹介したい。

Twitter is part of the open diplomacy that is a part of the modern world. Not everyone likes it. Some didn't like the Internet either. Or the steam engine...
Mon Dec 13 2010 19:42:14 (Central Europe Standard Time) via Twitter for iPad

さすが、情報化時代の最先端を歩く政治家だ(笑)。閣僚になってからも自分で自由に「おしゃべり」を続ける政治家が他にいるだろうか・・・?

クリスマス休暇に交通はさらに混乱

2010-12-27 00:59:45 | スウェーデン・その他の社会
11月以降、氷点下となる日が多かった今年の冬は、クリスマス休暇に入り、さらに激しさを増した。24日のクリスマス・イヴにあわせて実家や家族・親類のもとに戻る人が多いため、22日と23日はスウェーデンの鉄道や道路が一年で最も混み合う日となる。

そんなときにまた新たな寒波がやって来た! 南部スコーネ地方や東部沿岸部では警報も発令。道路は一部では除雪が間に合わなかったり、凍結がひどかったりしたために閉鎖された。雪がひどいときは、除雪してもすぐに再び雪が路上に積もってしまう。そんなときは、一時通行止めにしておき、車がある程度集まったところで、除雪車を先頭コンヴォイ(convoy)を作って皆で一緒に蟻の行列のごとく移動する。

一方、鉄道はこれまで書いたようにメンテナンス不足や冬の備えが十分ではないなど様々な問題が積み重なっており、さらなる追い討ちとなった。


ヨーテボリの地元紙より
(ただし写真はアーカイブから。改良前のX2000なので5年以上前のもののようだ)


22日には交通庁(鉄道路線網と道路網を管理)の広報担当者が「出かける場合は十分な準備をしておくように。時間も大幅に余裕を持ちましょう。寒さに備えて上着もたくさん用意しておきましょう。暖房が切れれば、寒くなるのは時間の問題です」という異例の警告を一般市民に対して、メディアを通じて発していた。たしかに、車で立ち往生したときは大変だ。いや、鉄道にしても暖房が効いているうちはいいが、架線が切れて停電でもすれば暖房も機能しなくなる。

実際に23日の昼間、起きた。ストックホルムから西に向かったところで架線が切断。列車が立ち往生してしまった。急速に車内の温度が低下するなか、国鉄SJはディーゼル機関車をわざわざ引っ張り出して現場まで急行したという。この22日と23日は通常以上にトラブルが多発。例えば、気温の極端な低下で線路が脆くなっているところを(整備不良の?)列車が走り、線路が割れるということもあったし、南部では天候悪化でマルメとヘルシンボリ間で運転を一時見合わせた。旅客数が一年で一番多い日とあって、影響を受ける人の数もそれだけ多くなる。マルメ-ヘルシンボリ間が再開したときには、駅に溢れかえった乗客を少しでも多く輸送すべく、ありったけの列車を立て続けに投入して数分間隔で運行したのだとか。

下は、23日14時過ぎのストックホルム駅の状況。ストックホルム駅に到着する予定の列車一覧だ。どれもこれも大幅な遅れだ。定刻の到着時刻がまず書いてあり、そのあとに太字遅着予定時刻が書いてある。例えば、最初の列車は遥か北方のキルナからの列車だが、10:02に到着予定にもかかわらず大幅に遅れており、この時点では15:10に到着予定だという。また、遅れている理由も簡単に書かれているが、それぞれ様々で見ていて笑ってしまう。

氷まじりのヨータ川

2010-12-23 19:57:45 | Yoshiの生活 (mitt liv)
忙しくて更新の時間がありません。最近撮ったヨーテボリの写真をいくつか。


まるで蓮のように川に浮かぶ氷


沿岸警備隊(海上保安庁)の巡視船


外海に面した長い海岸線を持つノルウェーで見た巡視船は駆逐艦みたいに大きかったが、スウェーデンはせいぜい海峡部と内海の監視が主なので、ずいぶん小さい。


ヨーテボリ人のテロ(コメディー)

2010-12-17 01:06:13 | コラム
先日、ストックホルムで発生した爆破テロについては、いくつか新たな情報が明らかになっている。例えば、犯人は中東においてテロや武装組織を訓練するトレーニング・キャンプに参加したことがあったという。

また、当初は死亡した犯人一人の犯行だと見られていたが、犯行現場付近で手助けした共犯者がいる疑いが強くなってきた。二つ目の爆発直前に犯人がウォーキー・トーキー(トランシーバー)で会話をしているのを耳にしたという付近住民の証言があるためだ。

いずれにしろ、大きな事件ではあったものの、あまりパニックにならず、冷静に対応すべきだろう。首相も事件の翌日に記者会見を開き、事実が明らかになる以前に勝手な推測をして、早急な結論を導き、人々の不安を煽ることはしてならない、と念を押していた。

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こういう緊迫した雰囲気であるからこそ、ちょっとジョークが必要だ。というわけで、「もし、ヨーテボリ人がストックホルムでテロを起こすとすれば、こうなる」というジョーク。

下の動画は、あるコメディー番組の一場面。首都ストックホルムと第2の町であるヨーテボリは、日本の関東関西と同じようにライバル意識が強く仲がよくない(笑)上、ヨーテボリには独特の方言がある。

そんなヨーテボリストックホルムに対して反旗を翻した! そして、ストックホルム政府は鎮圧部隊を派遣する。しかし、ヨーテボリ人にうまく丸め込まれ、彼らがストックホルムになだれ込んでくることになったのだ。



セルゲル広場に集まっているのは、和解のためにヨーテボリ人を待ち構える政府関係者。しかし、やって来たのは・・・

(ヨーテボリ方言で彼らが歌う歌詞は、ちゃんと韻を踏んでいるところが凄い!)

ストックホルムの爆破テロ事件

2010-12-13 23:03:41 | スウェーデン・その他の社会
Wikileaks(ウィキリークス)のアサンジ逮捕に続き、世界のメディアの目がスウェーデンが再び向けられている。

週末の土曜日夕方、クリスマス商戦の真っ只中にあったストックホルムの中心街の2カ所で爆弾テロが発生した。この事件による犠牲者は1人。爆弾を仕掛けた犯人だった。

まず16:52に、駐車している車に仕掛けれられた爆弾(ガスボンベ)が爆発した。そして、その10分後、200m離れた路上で次の爆発が起こった。犯人の遺体が見つかったのはその現場だった。


当初は自爆テロと見られたものの、実際には犯人のミスで爆弾が予定よりも早く起爆し、2つ目の爆発が起こったようだ。これまでの捜査で明らかになったところによると、犯人はまず自分の車に爆弾(ガスボンベ)を仕掛け起爆させ、その後、さらに複数の爆弾を別の場所に仕掛けようと移動している途中に誤って起爆させてしまったという。死亡した犯人はいくつかのパイプ状の爆弾をリュックに入れていたようだ。圧力鍋に似た装置も遺体付近から見つかった。しかし、犯人の体には爆弾が巻きつけられていたことから、本人も最終的には自爆するつもりだったと見られる。

また、最初の爆発の10分ほど前には、新聞社TTと公安警察に充てて犯人の携帯電話からEメールが送られている。ここでは、動機がイスラム教に基づくものであることを示唆し、そして、預言者ムハンバドを犬に喩える風刺画を描いた芸術家(?)のラーシュ・ヴィークスと、アフガニスタンに派兵を行っているスウェーデン政府を批判していた。

この事件以降、犯人像が次第に明らかになっているが、それは、イスラム圏で生まれながらも人生の大部分を物質的に豊かなヨーロッパ社会で送り、しかし、どこかで道を間違え、次第にイスラム過激主義に傾倒していったというものだ。このような犯人像を聞きながら、私がまず頭に描いたのは、ロンドンで2005年に4つの爆弾を地下鉄やバス内で爆発させ(自爆)、50人以上の命を奪った4人の若者だ。彼らも人生の大部分をイギリスで過ごしながら、次第にイスラムの過激主義に傾倒していったのだった。人生の挫折やアイデンティティーの喪失などから、精神的な助けとして過激主義を信奉するようになったと言われる。

興味深いことに、今回のストックホルムの事件の犯人と、ロンドン同時爆破テロの犯人強力な共通点・接点を持っていることが明らかになってきた。

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犯人の身元はほぼ確定している。警察は本名と彼の写真を既に公表している。

犯人は1981年にイラク・バグダッド生まれの28歳の男性だ(犯行の翌日が29歳の誕生日だった)。1991年にスウェーデンに家族とともに移住し、1992年にスウェーデン国籍を取得する。少年時代はスウェーデンの農村地帯で過ごす。学校時代の彼は社交的で明るく、中学校時代は喧嘩をするなどの問題もあったようだが、高校に入ってからは落ち着くようになり、バスケットボールや音楽に打ち込んだという。当時は宗教や政治について議論することは全くなかった。すべての高校科目をクリアして問題なく卒業している。フランス語と生物が得意科目だったようだ。

高校卒業後の2001年にイギリスに渡りルートン(Luton)という町にあるBedfordshire大学で理学療法士になるための勉強をする。2004年に学位を取得し卒業。しかし、その後もルートンに滞在を続け、結婚。子供が3人いた。このイギリス滞在中に何かが起きたようだ。実はこのルートンという町は、アルカイダに影響を受けたイスラム過激派が集まる場所として知られていたようだが、彼はここでそのような過激思想に傾倒していったようだ。この町にあるイスラム・センター(過激派ではなく一般のイスラム教徒が集まる場)の代表によると、彼が次第に極端な考えを持つようになったため、礼拝の後にみんなの前で彼の考えの間違いを指摘したところ、彼はその場を後にし、再び姿を見せることはなかったという。

このリンクでは、イスラム・センターの代表に対するインタビューが見られる(英語)

そして、実はこのルートンという町は、2005年のロンドン同時爆破テロの犯人4人が犯行前に集まっていた場所でもあった。

こんな話もある。彼はルートンで結婚し、家族を持っていたにもかかわらず、イスラム教徒専門のデート・サイトで2人目の妻を探していたという。「大きな家族を築いて、いずれは中東に戻りたい。今の妻も2人目の妻を持つことを認めている」と書いていたようだ。

一方で、こうしてイギリスに滞在を続けながらも、彼は両親の住むスウェーデンの住所に住民票を置いてもいた。11月頃にスウェーデンに戻ってきて、11月下旬に中古車をネット上で買っているが、それが今回の事件で最初に爆発した車だった。

スウェーデンの当局によると、テロ犯罪に関連する前科の疑いを掛けられたことはなかったため、公安警察は彼を全くマークしていなかったという。今回の犯行自体は自分一人で行ったようだ。しかし、犯行に至る準備の段階では協力者、もしくは、彼を犯行へと駆り立てたブレインがいると見られているが、それはイギリス警察との協力のもとで現在捜査中のようだ。

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以下では、防犯カメラが捉えた動画や通行人が撮影した動画が見られる。
今回の事件では、死亡した犯人のほかに、最初の爆発の付近にいた通行人2人が軽傷を負っているが、それは非常に運が良かったといえるだろう。犯人がミスを犯さず、目的地に到達してから起爆していれば、もっと大きな被害が出ていただろう。


最初の爆発の直後(まだ爆発が続いている)

最初の爆発の現場(消火活動の終わり頃)

二つ目の爆発の瞬間(防犯カメラ)

二つ目の爆発の直後の現場を真上から
(彼を助けようとする通行人もいるが、未発の爆弾もあると見られ、警察が遠ざかるように指示を出している)



事件以降、反暴力を掲げるデモが散発的に行われている。今日も、中央党の国会議員であり、自らもイラクから難民としてスウェーデンに移住した女性議員の掛け声で人々が集まった。プラカードには「民主主義・自由・開かれた社会」「暴力にNO!」と書かれていた。中には「テロに反対するスウェーデン在住のイスラム教徒の会」「私たちの新しい母国を攻撃しないで!」という、同じ移民や難民の人々やイスラム教徒の人々からのメッセージも多かった。

スウェーデン国内のイスラム教徒の多くが加盟しているイスラム教団体も、今回の過激主義の犯行を非難する声明を出している。

<以前の記事>
2005-08-10:テロの背景・疎外感と自己喪失感

ウィキリークス創設者アサンジュの容疑はでっちあげか?(追加)

2010-12-09 23:47:09 | コラム
ワシントン・ポスト紙の8日の記事も、前回このブログでまとめたことと一致している。
Washinton Post: Assange rape case spotlights Sweden's liberal laws

やはり不可解なのは、アサンジュをヒーロー視したり、ミーハーのように追っかけ回した二人が、急に態度を変えたという点だろう。アサンジュの行動によってそれだけ大きい精神的な傷を負ったという可能性も否定できないが、女性の一人は被害を受けたとされる日以降も数日間はツイッターやFacebookにメッセージを書き続け、そこではそのようなことが全く感じられない。そして、警察への被害届けの提出とともにすべてのツイッター/Facebookのメッセージを削除している(ただし、消し忘れたメッセージがあり、記録として残ってしまったことは既に書いたとおりだ)。

もう一人の女性のほうは、アサンジュを家に招いた日の翌日からしばらく、アサンジュが電話に出ないことに腹を立てるようになったようだが、本当にそのような嫉妬や落胆だけが、彼女らを被害届けへと駆り立てたのだろうか? それとも他に何か要因があるのだろうか? 気になるところだ。

上のリンクの記事の中では、スウェーデンの刑法における性的暴行の定義が広く曖昧であること、ヨーロッパ諸国の中でも性的暴行の被害届の数(人口比)が一番多いこと(定義が広いことと関連?)、そして、担当する検察官によって扱いが大きく違うこと、などについても触れられている。

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これは若干話題が異なるが、世界的な注目がスウェーデンに向けられていることもあり、日刊紙のDNが珍しく英語で記事を掲載している。
Dagens Nyheter: ”A new WikiLeaks” revolts against Assange

ウィキリークス創設者アサンジュの容疑はでっちあげか?(続き)

2010-12-08 22:47:50 | コラム
昨日まとめた情報は8月下旬以降、スウェーデンの新聞やタブロイド紙、英字新聞やネット上のサイトなどで読んだ情報の中から、ある程度、信憑性の高そうなものを選んで書いたつもりだが、ご存知のようにネットは情報戦の武器でもあるので、いかがわしい情報も紛れ込んでいるかもしれない。

英語で書かれた情報としてある程度まとまっているのは、

Guardian: How the rape claims against Julian Assange sparked an information war
Assange: Aftonbladet's 'Inside Story'
Assange Case: Ny Knows the Girls Made it Up but Doesn't Care ←Ny とは現在、この事件を担当しているスウェーデンの検察官



逮捕以降、クレジットカード会社やアサンジュの口座を閉鎖した金融機関がサイバー攻撃の対象となっているが、スウェーデンも検察庁のサイトが集中攻撃を受けている。

ウィキリークス創設者アサンジュの容疑はでっちあげか?

2010-12-07 02:07:00 | コラム
Wikileaks(ウィキリークス)の創設者ジュリアン・アサンジュがイギリスで自ら出頭し逮捕された。

彼がスウェーデンを8月半ばに訪れた際、彼から強姦や性的暴行などを受けたという2人のスウェーデン人女性が警察に被害届を出していた。その後、スウェーデン当局は証拠に乏しいということで一度は捜査を取りやめたものの、この2人の女性の弁護士が不服申し立てを行い、再び捜査が開始された。そして、先週にスウェーデンの裁判所が逮捕状を出したのを受けて、ICPOが国際指名手配を行っていたのだった。本人は、このまま隠れていることはできないと判断し、滞在先のイギリスにおいて自ら身柄をイギリス警察に引き渡したようだ。


この事件は、2人の女性が被害届を出した直後から、スウェーデンでも大きく報道されていたが、非常に不可解な点が多い。特にアメリカから恨まれている人物だけに、彼を逮捕して今後の活動を阻止したり、犯罪者というレッテルを貼ることで彼の評判を失墜させるための陰謀だという見方は当然ながらできる。

実際、被害届の背景にある出来事を追っていくと、すべてが「でっちあげ」である可能性が非常に高いように思われる。


ジュリアン・アサンジュがスウェーデンを訪ねた理由の一つは、社会民主党に属するあるグループが主催するセミナーに参加することだった。「紛争におけるメディアの役割」がセミナーのテーマだった。

そのセミナーの主催者の一人は30歳のスウェーデン人女性だったが、アサンジュがスウェーデンに滞在中、8月11日から19日ごろまで寝泊りしていたのは彼女のアパートだった。彼女は14日まで自宅を留守にするので、その間、アサンジュにアパートを使わせたのだった。しかし、彼女は予定を変更し1日早く自宅に戻ってきた。その後も、アサンジュは彼女のアパートにしばらく滞在を続けることになる・・・。

実は、被害届を出した2人の女性のうちの一人はこの女性なのだ。被害届によると、事件が起きたのは8月13日の夜から14日の朝にかけてだったという。

しかし、8月14日にはこの女性が属する社会民主党のグループが主催したセミナーが開かれているが、彼女は特に変わった様子はなくセミナーに参加。そして、その夜、彼女とジュリアン・アサンジュは「ザリガニ・パーティー」にも参加している。この日の14時頃、彼女はFacebookツイッターにこう書きこんでいた。

「ジュリアンがザリガニ・パーティーに参加したいって。今夜か明日、私たちが飛び入りで参加できそうなパーティーを開く人はいない?」

ザリガニ・パーティーと言えば、スウェーデンにおける8月の風物詩であり、週末に友達同士で集まってホームパーティーを開くのが恒例だ。だから、自分たちも今から加えてもらえないか、不特定の友達にあててメッセージを送ったのだ。

その後、どこのパーティーに参加するのことになったのか、それとも自分たちで友達を招いて急遽パーティーを開いたのかは分からないが、日付が変わった15日未明、彼女は再びツイッターに書き込みをしている。

「朝2時になるけど、まだ屋外に座っている。ぜんぜん寒くない。世界で最もクールな天才たちと一緒。こんなに素晴らしいことはない!」

と、酔った勢いもあって有頂天になっていることが分かる。「クールな天才たち」の中には、アサンジュも含まれているだろうから、その24時間ほど前に「被害を受けた」という彼女が彼に嫌悪感を抱いていることはまったく窺えない。彼女は警察に被害届を出した後にタブロイド紙の取材を受け、その中で「アサンジュは女性を侮蔑している」と答えているが、この記述からは、彼女が彼をそのように見ていたとは全く感じられない。

そして、その後もアサンジュの名前は出てこないものの彼女はFacebookツイッター短い書き込みを続けている。特に変わった様子はなく、日常的な書き込みだ。最後の書き込みは8月19日。そして、突然途絶えてしまう。

何が起きたのだろうか? 実は20日彼女は警察に被害届を出したのだ。そして、それと同時にFacebookやツイッターのすべてのメッセージをネット上から消去している。しかし、彼女はFacebookツイッターを、Bloggyというツイッターに似たサイトとも連動させて全く同じメッセージを流していたものの、彼女はこのサイト上のメッセージを消去することを忘れていた。

このことに気づいたある人が、このサイトの証拠写真を取った上で、彼女が属する社会民主党のグループが運営するブログ(彼女がウェブ責任者)のコメント欄に、そのことを知らせるメッセージを残した。相手がどう反応するかを確認するためだ。ただ、その人は最初のコメントではBloggyについては全く触れず、彼女のツイッターのすべてのメッセージが消去されたのはなぜかを尋ねてみたのだった。すると、そのコメントはウェブ責任者に消去されてしまった。その後、その人は改めてコメントを書きBloggy上に全く同じメッセージが残されていることを指摘したのだった。すると、そのコメントが消去されただけでなく、Bloggy上に残されていたメッセージも消去されてしまったのだ。

この一連の動きは「訴えに不利となる証拠隠し」と受け取れなくもない。そもそも、被害から数日経ってから被害届が出されたことも不自然だ。


では、彼女が仮に「でっち上げ」の被害届を提出して、アサンジュを貶めようとしているとしたら、その動機は何だろうか? まず一つは嫉妬だ。実はアサンジュが彼女のアパートに滞在中、二人は関係を持っていたようだ。彼女は「超有名人」であるアサンジュに惚れ込んでいた(いわゆるgroupie、ミーハー?)。しかし、8月18日か19日ごろ彼女はある情報を耳にする。彼女が属する社会民主党のグループの別の女性メンバーも、アサンジュと関係を持ったというのだ。

そのもう一人の女性も社会民主党の同じグループに属し、14日のセミナーに参加していた。アサンジュに近づいていき、一緒に昼食を食べたり、映画を見たりした。そして16日の夜、アサンジュは彼女の住むアパート(ストックホルムから少し離れた町 エンショーピン)を訪ね、翌日の正午ごろストックホルムに戻っている。

二人の女性は8月18日か19日ごろ、電話で話をすることがあった。彼女らはここで、アサンジュが二人の両方と関係を持ったことを知ったようだ。一人目の女性のほうは激怒し、アサンジュをアパートから追い出してしまう。その後、彼はホテルに滞在するようになる。二人の女性は、20日の午後2時、一緒に警察署を訪れ、被害届を提出した

ただ、強姦や性的暴行という容疑の名から想像されるのとは異なり、彼女らが警察に訴えた被害の内容は、最初の女性の場合「アサンジュが意図的にコンドームに穴を開けていたために、コンドームが割れた」というものだ。また、もう一人の女性の場合は「自分の意思に反してアサンジュがコンドームを使わなかった」というものだ。彼が暴力を使った、などということは彼女ら自身も述べていない。彼女らの被害届および警察での聞き取り調査の内容の一部は、既にリークされている(スウェーデン警察内部の犯行?)。

また、彼女らが被害届を出すために警察署を訪れたとき、彼女らはどのような被害内容で届けを出すのか、明確な考えを持っておらず、警察にアドバイスを求めたという話もある。そして、警察官からどのような被害内容であれば性的暴行という容疑で訴えることができるかのアドバイスを受けた上で、上記の被害を届け出たというのだ。これは、イギリスのガーディアン紙が記事にて言及しているところから判断して信憑性はありそうだ。

だから、動機としてまず考えられるのは、嫉妬ということになるが、それだけだろうか? 20日に二人揃って警察署を訪れるまでに、どのような打ち合わせがあったのだろうか? 誰かに相談して計画を練った、ということもありえる。また、激怒・嫉妬した彼女らを使って、より大きな目的を達成しようとする人々がいたかもしれない。

この情報にどこまで信憑性があるのか私は分からないが、アサンジュのWikileaks暴露を予定していた極秘文書の中に、スウェーデンの社会民主党にとって非常に不利になる情報が含まれていることを、アサンジュが一人目の女性に話した、という情報もある。これが本当であれば、それが暴露されるのを何として避けたいという動機が働いたことも考えられる。この場合、社会民主党そのものが絡んでいる可能性がある。実は、その後この2人の女性の弁護を担当することになった弁護士は、社会民主党のメンバーであると同時に国内ではわりと名の知れた弁護士である男性だ(彼は社会民主党政権による任命を受けて2000年から2007年まで男女平等オンブズマンを務めてもいた)。

実際のところ、Wikileaksが先日、その一部を公開したアメリカの外交公電の中には、スウェーデンの社会民主党政権やその幹部がアメリカと密談を行ったり、オフレコで情報交換をしていたことを示す記述が見つかっている。

一度は不起訴となったものの、不服申し立てを受けて検察が再び調査を始めた背景にも、社会民主党との怪しい関係が見え隠れしていると思われる要素もある。というのも、再調査の際にこの件を担当することになった検察官は、この二人の弁護をしている社会民主党の弁護士と非常に仲がよい女性検察官だからだ(彼女は現在も担当)。ただ、この点については、たまたまそうであったという偶然性もあるだろうから、なんともいえない。一方、アメリカ政府によるスウェーデン政府や関係当局への圧力の可能性も否定できないし、スウェーデンの社会民主党だけでなく現・中道保守政権にとっても、アサンジュを逮捕・起訴することを望んで、再び調査を開始させたかもしれない。

アメリカ政府といえば、彼らが2人の女性に直接働きかけて、アサンジュを訴えさせたという可能性もある。イラクの射殺ビデオの暴露以降、アメリカ政府がスウェーデン政府に対して多大な圧力をかけてきたことは間違いない。Wikileaksのサーバースウェーデン国内にもあるし、創設者であるアサンジュはスウェーデンの「言論の自由」法令の庇護を受けようとスウェーデン当局と手続きに入っていたうえ、その本人がスウェーデンを訪れてセミナーに参加しようと言うのであれば、何らかの罠を仕掛けようとした可能性は高い。しかし、アメリカがこの「被害届」にどこまで関与しているのかは分からない。この一人目の女性はウプサラ大学で(政治学を?)勉強した後、アメリカのスウェーデン大使館でインターンシップをした経験もあるから、アメリカとのリンクがない訳ではない。アメリカの例えばCIAの意向を受けて、アサンジュを貶めるために罠をかけたという見方もあるものの、これだけでは何とも言えない。


彼が逮捕された今、これからスウェーデンに移送されることになるのか、そこでどのような展開になるのか、そして、もしかしたら、アメリカがスパイ容疑で彼を訴えて、スウェーデン政府に彼の身柄の引渡しを求めるのではないか・・・?という見方もある。

いろんな情報が錯綜するが、今回はここまで。

<注>
以上の情報は8月下旬以降、スウェーデンの新聞やタブロイド紙、英字新聞やネット上のサイトなどで読んだ情報の中から、ある程度、信憑性の高そうなものを選んで書いたつもりだが、ご存知のようにネットは情報戦の武器でもあるので、いかがわしい情報も紛れ込んでいるかもしれない。
英語で書かれた情報としてある程度まとまっているのは、
Assange: Aftonbladet's 'Inside Story'
Assange Case: Ny Knows the Girls Made it Up but Doesn't Care
Guardian: How the rape claims against Julian Assange sparked an information war

鉄道ダイヤはなぜ乱れる?(その2)

2010-12-05 01:07:24 | スウェーデン・その他の社会
今年の2月ごろ、大雪のために鉄道の遅れが一番ひどく、人々の不満が高まっていたとき、Facebookを通じてこんなジョークが流れていた。
「株式会社の国鉄SJ ABを後ろから読んでみるとどうなる?」

SJとはStatens Järnväg(国鉄)という意味(スウェーデンの”S”ではない)。そして、ABとは株式会社という意味だが、さて、それを逆さ読みしてみると・・・? <答え>

――――――――――


前回は、スウェーデンの鉄道の問題の一つとして、路線網などのインフラを管轄している交通庁(元・鉄道庁)に焦点を当てたが、今回はその路線網を使って列車を走らせている国鉄SJのほうに目を向けてみたいと思う。

もともと公社であったSJは、2001年に分割され、株式会社化された。今でもSJの全株を政府が保有しているため、国が所有している会社であることには変わりはないものの、他の株式会社と同じように利潤を追求しながら経営を行っていくこととなった。

しかし、ここ数年、経営陣はこの利潤追求という目標を何にもまして強調しているのだ。自己資本に対する利潤の割合は景気の良かった2007年や2008年に14%前後という水準であり、不況下にあった2009年でも11%という水準を維持している。そして、この高い利益率を生み出している背景には、極端なコスト削減があるようなのだ。


SJの社長

コスト削減はまず、メンテナンスの費用の削減という形で行われてきた。列車の車両整備を行っているのは、ベンチャーキャピタルが所有する別会社だが、近年、SJから大幅な経費削減を要求されてきた。また、SJは以前は車両が故障したときなどにすぐに代わりの列車を投入できるように、予備の車両を用意するなどの対策をしていたものの、費用がかかるということでそれを怠るようになってきた。また、使っている車両がどんどん古くなっているにもかかわらず、必要とされる投資や新規購入などに十分な予算を充ててこなかった。

その結果、例えば都市間を結ぶ特急列車X2000などは、製造元であるスウェーデンのASEA(現ABB)が推奨している年間30000kmという走行距離を大きく超えて、年間45000kmも走らされている。これだけ列車を酷使すれば、通常以上に整備などのメンテナンスが必要となるが、既に触れたように車両整備のコストはむしろ切り詰められているし、列車をより長い時間使い回すためにそもそも整備の時間すら十分に与えられていない。そのため、走り終わった列車はストックホルムの北にあるソルナの整備工場に回されるものの、すべての不良の処置を終えることなく、再び路線に投入されているのだという。列車の操縦をする運転士には出発前に時刻表などの資料のほかに、A4の紙が渡されるのだが、そこにはその列車の整備不良箇所がびっしりと箇条書きにされていることが頻繁にあるのだとか。

それでも、2008年は新しい車両の購入のために10億クローナ規模の投資が行われたものの、それ以降、不景気のために売り上げが伸び悩むなか、投資は再び低い水準に落ちてしまった。


不況下であった2009年秋、SJの経営陣は利益率を維持するために新たなコスト削減プランとリストラ策を発表した。乗客の数そのものは伸び続けていたにもかかわらずである。そして、その数ヵ月後に厳しい寒波がやって来て、ダイヤが大幅に乱れたことは既に書いたとおりだ。しかし、このようにSJが無理なコスト削減を行ってきたことを考えれば、その理由は「予想以上に寒い冬」だけではないと想像できる。問題は冬だけではない。今年の夏も、走行中の列車が立ち往生したり、脱線したりといったアクシデントが相次いだ。また、私も何度も経験したが、電気系統の不良のため途中の停車駅で電源を入れなおすといったことや、X2000の振り子が機能せず、カーブでスピードが出せない、といったことも頻繁に起きている。(体験してみると非常に面白いが、振り子装置がうまく機能しないと、カーブ時にひどい揺れになる!)


遅れが出た特急X2000の割合は上昇傾向にある



報告されたアクシデントの数も増える傾向にある

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では、そもそも国鉄SJはなぜここまでして利益を上げようとしているのか? それは「そうしろ」という指令を受けているからだ。では、誰に?

それは、他でもないスウェーデン政府だ。100%の株式を所有する政府は、国鉄SJに対して、達成すべき目標と経営方針を与えている。そして、この中に「自己資本に対する利益率を10%以上にすること」と書かれているのだ。

SJは2007年、2008年、2009年と5億クローナ近い利益をあげ、その3分の1から半分が株主配当に充てられた。そう、国庫に入っているのだ。残りはよく分からないが、経営陣の報酬ということになるのだろうか。国が100%株主だということを考えれば、利潤追求だけでなく公益性の追求などをSJに要求してもよさそうなものだ。そうすれば、利益の大部分をメンテナンス再投資に回し、サービスや利便性の向上を図ることができたのではないだろうか? しかし、現実はメンテナンスや設備投資を、最低限の安全性が維持できるギリギリの水準に抑えた上で、何が何でも利潤追求となってしまっている。昨年のSJの年次活動報告書でも「収益性を今後も高めていく考えだ」というスローガンが、微笑む会長(元・保守党党首)の顔写真とともに強調されている。

「利益率10%以上」という目標は、国鉄SJが分社化・株式会社化された2001年当初から政府が与えてきたものだ。この分社化・株式会社化は社会民主党政権のもとで推し進められてきたが、当時の産業大臣は(悪名高い)ビョーン・ローセングレーンだった。彼はもともと「利益率12%以上」を目標とする考えだった。しかし、ヨーロッパの他の国を見渡しても、そんなに高い利益率を達成している鉄道会社はなく非現実的だという批判を、会計検査院から突きつけられた。それを受けて、産業大臣は10%に引き下げたのだった。しかし、この10%という水準すらまだまだ高すぎるという声が強い。

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実は、この高すぎる利益目標については、9月の国政選挙に向けた議論のなかでも何度か話題に上った。もともと分社化・株式会社化に反対であった左党だけでなく、環境党「利益の目標そのものが不必要だ。政府は他の社会的な目標を達成させることをSJに要求すべきだ」と、利益目標そのものの撤廃を訴えていた。しかし、社会民主党は、この高い利益目標を導入した張本人ということもあり、自らのミスを認めたくないのか、その要求を受け入れなかったのだ。だから、社会民主党・左党・環境党からなる左派ブロック(赤緑連合)の共同マニフェストで大きく取り上げられることはなかった。そのため、大きな争点とならなかったことが残念だ(一方で、赤緑連合は新幹線建設や鉄道インフラの拡充といった政策を大きく掲げていた)。


SJが無理な利潤追求を行っていることをスクープする新聞の見出し

鉄道ダイヤはなぜ乱れる?(その1)

2010-12-03 00:20:58 | スウェーデン・その他の社会
(社会民主党の続きは次回)

スウェーデン語の慣用句として、物事が計画通りに順調に進んでいたり、絶好調であったりするのを表すときに「まるで線路の上を走る(列車の)ように: Det går som på räls」という表現がある。しかし皮肉なことに、こうして慣用句に使われている実際のスウェーデンの鉄道は、計画通り、とか、順調に、とは程遠いのが実状だ。

前回の冬は記録的に寒い冬となったが、この時はたくさんの列車が運休となったり、途中で立ち往生したり、脱線したりしてダイヤが大混乱となった。例年になく寒い冬だったため、十分な対策ができていなかったことが原因だと言われた。特に、線路の切り替えポイントの除雪作業が間に合わず、線路上に列車がいくつも数珠繋ぎになる事態が発生したり、長旅を終えた列車にこびりついた雪や氷を取り除く人員や時間が足りず、その列車をそのまま折り返しで使ったりしたために、新たな旅の途中で列車が故障し立ち往生といった出来事もあった。

<過去の記事>
2010-02-22:スウェーデン中南部で寒波のため非常事態警報

国の機関である交通庁(今年4月から鉄道庁と道路庁が合併)は、この時の列車の遅れをまとめた報告書を今年の夏に発表したが、遅れた時間を合計すると8万3000時間、実に9.5年分に相当するとのことだった。また、列車が遅れると「多くの乗客が立ち往生」といったニュースが全国を駆け巡るが、実際はダイヤの乱れのために遅れた列車の3分の2は貨物列車であり、鉄道輸送に依存している製造業や林業・鉱業などの産業にも大きな影響があったという。

この冬も昨年以上に厳しい冬となっている。例年はクリスマスや新年を迎えた後に本格的な寒波がやって来るものの、今年は既に11月初めから雪が降り始め、気温も氷点下を下回る日がここのところ毎日続いている。例年の2月の気候をこの冬は早くも11月から味わっているのだ。新聞やラジオのニュースの科学欄が伝えることによると、今年初めに寒い冬をもたらした「北極振動(Arctic Oscillation)」という現象が、この冬も続いているからだという(だから一方では、昨年暖冬だった地域は今年も同じように暖かい冬となるようだ)。

<過去の記事>
2010-01-15:今年のスウェーデンはなぜ寒い?

だから、スウェーデンの鉄道の冬備えが今年も同じであれば、昨年以上の大混乱になる可能性がある。そして、その兆候が既に現れ始めている。今週もストックホルム-マルメ間の南部幹線を走行中の列車が架線を切断してしまい、立ち往生するという事件があった。切れた架線がレールに触れ、レールに電気が流れている恐れがあったために、乗客は外に出ることができず(外は氷点下なので誰も出たくはなかっただろうが)、数時間後に救助にやって来たローカル列車に乗り換えて避難した。


では、そもそも「予期しないくらい寒い冬だったから」という言い訳はどの程度正しいのだろうか? むしろ、メンテナンスを怠っていたり、利益追求のために本来は必要なコストを削りすぎたことが原因なのではないだろうか?

しかし、その前に頭に入れて置かなければならないのは、スウェーデンの鉄道は、この国の電力業界と同じように路線網を管理する主体と、その路線網を使って列車を運行する主体とが分離されているということだ。

路線網を管理しているのは、国の機関である交通庁(今年4月から鉄道庁と道路庁が合併)。これに対し、列車を運行しているのは、株式会社化された国鉄SJの他、特定区間によっては民間会社も参入して鉄道を運行している。そして、これらの鉄道会社は路線の使用料金を鉄道庁に納めている鉄道庁はこの使用料金に加え、国の産業省から予算をもらい、路線網のメンテナンスに充てている

だから、問題を探す場合には、それぞれの役割を考えなければならない。鉄道システムがたびたび麻痺するのは、路線網を管轄する交通庁が路線のメンテナンスを怠っているためなのか?それとも、その路線網を利用して鉄道を運行している国鉄SJやその他の列車運行会社のほうに問題があるのか? これによって、解決策もおのずから異なってくる。例えば、大雪のために列車が立ち往生してダイヤが大幅に乱れた場合も、それは除雪作業の責任を負う鉄道庁が作業を怠ったためなのか、それとも、運行している列車の整備をSJが怠ったためか?という可能性があるわけだ。

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スウェーデンの日刊紙が今年8月に大きな特集記事を掲載したが、それによると、答えはどうやらその両方のようだ。

まず、交通庁から。スウェーデンでは、環境意識の高まりもあって、鉄道の利用が貨物と旅客の両方で過去数年間、大幅に伸び続けてきた。しかし、線路を急激に増やせるわけではないため、むしろ、運行間隔を密にして、キャパシティー一杯使っているのが現状だ。今では、日中はもうこれ以上、運行間隔を狭められないらしく、例えば特急列車のX2000も本数を増やすのではなく、通常は1編成7両の列車を2編成直結させて運行させることもある。

このように、既にあるインフラをキャパシティー一杯活用すれば、当然ながらメンテナンスの頻度も増やさなければならないし、運行間隔を密にしても安全であるように信号システムの近代化などに投資する必要も出てくる。もちろん、新しい路線の敷設など、キャパシティーそのものの拡大も必要だ。

だから、スウェーデン政府(産業省)も交通庁の鉄道予算を増やしてきた。2006年には38億クローナだったものが徐々に増額され、今年の時点で57億クローナとなった。交通庁はこの予算と、鉄道運行会社からの路線使用料8億クローナを使って、路線網のメンテナンスや近代化に充てている。

しかし、メンテナンス費用にはそれでも追いつかない。しかも、今年初めは厳冬のために費用がかさみ、赤字となった。また、国鉄SJは除雪作業の遅れや路線のメンテナンス不備のために、その際に1億クローナの被害を被ったとして、交通庁に損害賠償を求めている。だから、交通庁は来年は来年の予算今年よりも少なくとも1億クローナは多くするように要求した。

しかし、スウェーデン政府(産業省)は今年よりも6億クローナ減してしまったのだ。交通庁の長官は悲鳴を上げた。「トラブルを未然に防ぐためのメンテナンスに投資をしたいのに、これではそれが十分に行えないため、トラブルが起きるたびに対処しなければならなくなり、余計に高くつくことになる!」 さらに交通庁は、11月に入ってから産業省に嘆願書を送ったようだ。「この冬も昨年と同様の厳しい冬となれば、列車の遅れは去年の倍以上となるだろう」


先日も、テレビのニュース番組に産業省のインフラ担当大臣交通庁の長官が招かれ、討論が行われたが喧嘩となった。しかし、政府および産業省は態度を変えていない。


もちろん、与えられた予算を交通庁がどれだけ効率的に使っているか、ということも重要だが、王立工科大学(KTH)の専門家によると、このままだとこの冬は昨年以上に鉄道が乱れるということだ。(続く・・・)

日経ビジネス オンライン版

2010-12-01 11:33:19 | スウェーデン・その他の経済
日経ビジネス オンライン版
12月1日 『“理想郷”スウェーデンモデルの内実』

“日本ではスウェーデンを「理想郷」だとか「夢の国」といった言葉で絶賛する声もありますが、スウェーデンも日本と同様に様々な問題を抱えています。理想郷などありません。しかし、スウェーデンは現状維持に与せず、絶えず試行錯誤して制度の改善を続けてきた国であることを見逃してはなりません。”