要職にある政治家や政府関係者が、市民が必要とする情報をきちんと公開しなかったために批判を受けることはよくある。そして、知らなかった、とシラを切り批判をかわそうとする。インターネットが政治と市民・世論の間の情報の橋渡しにますます重要な役割を果たすと考えられているものの、ネットをうまく使いこなして情報発信を定期的に行っている政治家は期待されるほど多くはなさそうだ。本人に意欲はあっても時間がないなどの理由で秘書などに管理を任せている人も多いだろうし、軽はずみな発言が失言となるリスクを(本人が、もしくは周囲の人が)恐れるあまり、きちんと手が加えられチェックを受けた「オフィシャル」な発言のみしか流されないケースも多い。閣僚ともなれば、そうならざるを得ないかもしれない。その結果、臨場感のない、面白みに欠ける内容になってしまうこともある。
しかし、例外もいる。スウェーデンが世界に誇る(←かなりの誇張(笑))IT時代を先取りした政治家、そう、カール・ビルトだ。彼はかなり以前から自分の手によってこまめに英文ブログを書いていたし、2006年10月に外務大臣になってからもスウェーデン語によるブログを書き続けている。内容は外相としての活動の一コマや世界情勢に対する自らのコメントなどをコンパクトに伝えるもので、更新はほぼ毎日。一日に複数の書き込みをすることも多い。公務が忙しいにもかかわらず、あまりに書き込みが熱心なので「秘書か誰かに実際の書き込みや管理を頼んでいるのか」とある時ジャーナリストに尋ねられたものの、すべて自分で管理している、と答えていた。
国際会議や和平交渉、首脳会談などに際しては公式発表に先駆けて、カール・ビルト外相自身がブログにその内容や結果に関する簡単な書き込みをすることもあるため、ジャーナリストはスウェーデン政府からの記者発表だけでなく、彼のブログを情報源とすることも少なからずある。これに対して、政府内からは不満の声も上がっていることは以前私のブログでも伝えた。
2008-01-07:忙しいカール・ビルト外相の大きな趣味
しかし、私が思うに、彼は既に首相を経験したり、バルカン紛争の調停などを担当した経験もあるため、ネット上での発言に関しては、言葉を選びながら、うかつなことは書かず、常にバランス感覚を保っているように感じる。だから、これまでのところ、あまり問題ではなさそうだ。
ビルト外相は1年ほど前からツイッターも始めた。そして、ブログ以上に頻繁な書き込みを続けている(ツイッターは英語)。しかも、さすが情報化時代の最先端を(おそらく)自負している外相とあって、Ipadは当然のごとく活用し、Ipadからツイッターを発信している。
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ただし、やはり限度を超すことも時にはある。半月ほど前にストックホルム中心街で起きた自爆テロ事件の際のことだ。事件は12月11日(土)の夕方5時に発生し、警察と検察が記者会見を初めて開いたのは12日(日)の午前10時だった。そして、ラインフェルト首相が「ストックホルムがテロの対象となった」という公式声明を発表したのは同じ日の正午すぎのことだった。
しかし、実はカール・ビルト外相はそれよりも半日近く前の12日(日)午前0時5分に、次のようなコメントをツイッターを通じて発信していた。
Most worrying attempt at terrorist attack in crowded part of central Stockholm. Failed - but could have been truly catastrophic..
12:05 AM Dec 12th via Twitter for iPad
この時点では、まだ「テロである」という正式な断定は当局は行っておらず、疑いがある、という噂だけが巷を駆け巡っていた。だからメディアは、政府の中枢にいるビルト外相がほぼ断定に近い形でコメントを発表したことで、ほぼ間違いはない、という確信を得て、翌日の紙面作成を進めていったようだ。
さて、普段はビルト外相のブログやツイッターをそれなりに評価し、大目に見てきたラインフェルト首相も、今度ばかりは我慢できなかったようだ。政権の長である自分を差し置いて、外相が勝手にワンマンプレーを進めたからだ。メディアのインタビューに対して、ビルト外相の名指しは避けながらも「不確かな情報を鵜呑みにしてそのまま流すのではなく、吟味した上で国民に正確な情報を伝えることが重要だ」「スウェーデン政府を代表しているのは私である」と不機嫌そうに答えていた。
野党である社会民主党の議員も「政府の高官として無責任な行動。ビルト外相は自分がスウェーデン政府よりも上の立場にあると勘違いしているのではないか」と批判していた。(いや、正確に言えば、メディアでその批判を述べる前に、彼もツイッターでまず批判を行っていた!)
しかし、ビルト外相は(一応、表向きには)ひるむ様子を全く見せていない。彼はEUの会合のために滞在していたブリュッセルにおいて、ジャーナリストのインタビューに対し
「私がツイッターに書いたということは、つまり、そこで伝えた内容を私が既に知っていたということだ」
と開き直っていた。「しかし、今回のような重大な事件に対しては、政府見解としてまず首相が公式な発表を行うべきでは?」という質問に対しても、
「そうしたら、あなたたち新聞は翌日の記事のネタに困ったんじゃないの?」と、さらに開き直った上で、「私は、国民に対する政治家としてのプレゼンスとオープン性が重要だと思う」と強調していた。
さて、彼のこれらの態度をどう捉えるか? 横柄だ、ワンマンプレーだ、という見方もできるし、まさにその通りだろう。しかし他方では、彼に向けられる様々な批判を、彼独特のハッランド方言でいつも一蹴してしまうその姿は、見ていてむしろ痛快にさえ感じられる。さすが豊富な経験を積んできた彼だからできることだ。経験の浅い政治家には真似すらできないだろう。とはいえ、私は彼の考え方の多くには抵抗を感じるため、外相としての彼を支持するつもりはない。しかし、それでも憎みきれない政治家だ。
最後に、彼のその後のツイッター書き込みを一つ紹介したい。
Twitter is part of the open diplomacy that is a part of the modern world. Not everyone likes it. Some didn't like the Internet either. Or the steam engine...
Mon Dec 13 2010 19:42:14 (Central Europe Standard Time) via Twitter for iPad
さすが、情報化時代の最先端を歩く政治家だ(笑)。閣僚になってからも自分で自由に「おしゃべり」を続ける政治家が他にいるだろうか・・・?
しかし、例外もいる。スウェーデンが世界に誇る(←かなりの誇張(笑))IT時代を先取りした政治家、そう、カール・ビルトだ。彼はかなり以前から自分の手によってこまめに英文ブログを書いていたし、2006年10月に外務大臣になってからもスウェーデン語によるブログを書き続けている。内容は外相としての活動の一コマや世界情勢に対する自らのコメントなどをコンパクトに伝えるもので、更新はほぼ毎日。一日に複数の書き込みをすることも多い。公務が忙しいにもかかわらず、あまりに書き込みが熱心なので「秘書か誰かに実際の書き込みや管理を頼んでいるのか」とある時ジャーナリストに尋ねられたものの、すべて自分で管理している、と答えていた。
国際会議や和平交渉、首脳会談などに際しては公式発表に先駆けて、カール・ビルト外相自身がブログにその内容や結果に関する簡単な書き込みをすることもあるため、ジャーナリストはスウェーデン政府からの記者発表だけでなく、彼のブログを情報源とすることも少なからずある。これに対して、政府内からは不満の声も上がっていることは以前私のブログでも伝えた。
2008-01-07:忙しいカール・ビルト外相の大きな趣味
しかし、私が思うに、彼は既に首相を経験したり、バルカン紛争の調停などを担当した経験もあるため、ネット上での発言に関しては、言葉を選びながら、うかつなことは書かず、常にバランス感覚を保っているように感じる。だから、これまでのところ、あまり問題ではなさそうだ。
ビルト外相は1年ほど前からツイッターも始めた。そして、ブログ以上に頻繁な書き込みを続けている(ツイッターは英語)。しかも、さすが情報化時代の最先端を(おそらく)自負している外相とあって、Ipadは当然のごとく活用し、Ipadからツイッターを発信している。
ただし、やはり限度を超すことも時にはある。半月ほど前にストックホルム中心街で起きた自爆テロ事件の際のことだ。事件は12月11日(土)の夕方5時に発生し、警察と検察が記者会見を初めて開いたのは12日(日)の午前10時だった。そして、ラインフェルト首相が「ストックホルムがテロの対象となった」という公式声明を発表したのは同じ日の正午すぎのことだった。
しかし、実はカール・ビルト外相はそれよりも半日近く前の12日(日)午前0時5分に、次のようなコメントをツイッターを通じて発信していた。
Most worrying attempt at terrorist attack in crowded part of central Stockholm. Failed - but could have been truly catastrophic..
12:05 AM Dec 12th via Twitter for iPad
この時点では、まだ「テロである」という正式な断定は当局は行っておらず、疑いがある、という噂だけが巷を駆け巡っていた。だからメディアは、政府の中枢にいるビルト外相がほぼ断定に近い形でコメントを発表したことで、ほぼ間違いはない、という確信を得て、翌日の紙面作成を進めていったようだ。
さて、普段はビルト外相のブログやツイッターをそれなりに評価し、大目に見てきたラインフェルト首相も、今度ばかりは我慢できなかったようだ。政権の長である自分を差し置いて、外相が勝手にワンマンプレーを進めたからだ。メディアのインタビューに対して、ビルト外相の名指しは避けながらも「不確かな情報を鵜呑みにしてそのまま流すのではなく、吟味した上で国民に正確な情報を伝えることが重要だ」「スウェーデン政府を代表しているのは私である」と不機嫌そうに答えていた。
野党である社会民主党の議員も「政府の高官として無責任な行動。ビルト外相は自分がスウェーデン政府よりも上の立場にあると勘違いしているのではないか」と批判していた。(いや、正確に言えば、メディアでその批判を述べる前に、彼もツイッターでまず批判を行っていた!)
しかし、ビルト外相は(一応、表向きには)ひるむ様子を全く見せていない。彼はEUの会合のために滞在していたブリュッセルにおいて、ジャーナリストのインタビューに対し
「私がツイッターに書いたということは、つまり、そこで伝えた内容を私が既に知っていたということだ」
と開き直っていた。「しかし、今回のような重大な事件に対しては、政府見解としてまず首相が公式な発表を行うべきでは?」という質問に対しても、
「そうしたら、あなたたち新聞は翌日の記事のネタに困ったんじゃないの?」と、さらに開き直った上で、「私は、国民に対する政治家としてのプレゼンスとオープン性が重要だと思う」と強調していた。
さて、彼のこれらの態度をどう捉えるか? 横柄だ、ワンマンプレーだ、という見方もできるし、まさにその通りだろう。しかし他方では、彼に向けられる様々な批判を、彼独特のハッランド方言でいつも一蹴してしまうその姿は、見ていてむしろ痛快にさえ感じられる。さすが豊富な経験を積んできた彼だからできることだ。経験の浅い政治家には真似すらできないだろう。とはいえ、私は彼の考え方の多くには抵抗を感じるため、外相としての彼を支持するつもりはない。しかし、それでも憎みきれない政治家だ。
最後に、彼のその後のツイッター書き込みを一つ紹介したい。
Twitter is part of the open diplomacy that is a part of the modern world. Not everyone likes it. Some didn't like the Internet either. Or the steam engine...
Mon Dec 13 2010 19:42:14 (Central Europe Standard Time) via Twitter for iPad
さすが、情報化時代の最先端を歩く政治家だ(笑)。閣僚になってからも自分で自由に「おしゃべり」を続ける政治家が他にいるだろうか・・・?