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スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

総選挙に向けた支持率の動向

2010-05-29 20:45:11 | 2010年9月総選挙
スウェーデンの総選挙9月半ばに行われる。4年前の総選挙では、中道右派政党の4党が事前に連合を結成し、選挙に勝った暁には連立政権を樹立することを約束したうえで選挙に挑み、政権を社会民主党から見事に奪った。

今年9月の総選挙で政権を奪還したい社会民主党は、中道右派陣営の4年前の戦略を見習って、自分たちも左派政党同士でまとまって連合を作ったうえで選挙に挑むことを発表した。左派3党がバラバラに公約を発表して選挙戦を展開し、選挙が終わってから初めて連立交渉を行うよりも、あらかじめ共同公約を明確にした上で選挙戦に挑んだほうが有権者の信頼を勝ち取れると考えたのだ。そうして2008年暮れに発表されたのが、社会民主党環境党左党(左翼党・旧共産党)による赤緑連合だった。

だから、今度の総選挙では中道右派連合が勝つのか左派連合(赤緑連合)が勝つのかが注目される。これまでの世論調査によると、前回2006年9月の総選挙後から2007年、2008年にかけては左派3党の支持率の合計が、中道右派政党4党の支持率の合計を大きく上回り、ある時には58.5%37.9%という大差をつけていたこともあった。


2006年の総選挙で有権者は中道右派連合を勝たせておきながら、その直後から左派政党を支持するようになったというのは面白い現象だが、いくつかの理由が考えられる。

まず、中道右派連合に票を投じた有権者の中にはもともと社会民主党の支持者だった人も少なからずいたと考えられるが、彼らは政策公約が気に入ったという理由で中道右派連合に票を投じたというよりも、その当時の社会民主党党首&首相であったヨーラン・パーションに嫌気がさしたから中道右派連合に票を投じたと考えられる。パーションとは、10年間も党首と首相を務めており、党内での求心力は持っていたが、そのワンマンぶりのために多くの批判を浴びていた人物だった。そして、選挙日の夜、即日開票によって社会民主党敗北が確実になったとき、辞職を表明した。だから、彼さえ退陣してしまえば、そのような有権者が再び社会民主党を支持するようになったと考えられる。もう一つ大きな理由は、中道右派連合が政権就任後に実行した失業保険改革が非常に不人気だったことだ。


連立与党を形成する中道右派4党の党首(左から、キリスト教民主党、穏健党、自由党、中央党)

中道右派政党と左派政党の支持率の差は、その後2008年後半から2009年前半にかけて徐々に縮まって行き、2009年4月には僅かながら逆転するという現象が生じた(ただし、その差はごく僅か(0.1%)であり統計的に有意ではなかった)。

皮肉なことに、左派3党が徐々に支持を失っていったこの期間というのは、実は3党が左派連合(赤緑連合)の結成に向けた交渉を展開し、そしてそれを発表した時期と一致する。つまり、左派連合の形成が逆に裏目に出てしまったのだ。


左派連合(赤緑連合)。左から、左党、社会民主党、環境党(二人党首制)

この理由もいくつか考えられるが、一つは流動的な支持者層の流れだ。つまり、社会民主党に支持を表明している有権者のなかには、社会民主党の政策には信頼を置いているものの、旧共産党である左党には大きな懸念を抱いている人も多い。左党は90年代は現実主義的な路線へと舵取りを行ったものの、現在の党執行部はドグマ的で守旧的な路線に逆戻りしてしまった。それに比べ、社会民主党の支持者が環境党に対して持っているイメージはそれほど悪いものではないが、環境税など一部の分野では反発を持っている人もいる。だから、3党が連合を発表したために、支持を断念した人もいたと考えられる。

その後、過去1年間は接戦しながらも左派連合が中道右派連合を若干上回る状況が続いてきた。この頃は中道右派政権が行った疾病保険改革の問題点がメディアで取り沙汰されて、その改革の是非が中道右派・左派両陣営で激しく議論されていた。そして、中道右派が次第に不人気となっていた。

ただ、左派連合が支持率では勝っていたとはいうものの、社会民主党そのものの支持率は低迷していた。では、左派連合の支持率を支えていたのは何かというと、環境党だったのだ。2006年の総選挙では5%余りの得票率しかなかったこの党が、大きく支持率を伸ばし、10%を上回るまでになっていたのだ。

――――――――――

そして、最近の動きとして挙げるとすれば、支持率の逆転現象が再び見られるようになったことだ。

それはまず5月6日に発表された世論調査で現れた。中道右派連合が再び左派連合を上回ったというのである(49.2%47.4%)。しかし、サンプル数は1000と、同様の支持率調査の中では少ないほうだし、差も統計的有意ではなかった。同じ頃に発表された他の世論調査ではまだ左派連合が上回っていた。

しかし昨日、別の調査機関が発表した最新世論調査でも、中道右派連合左派連合を上回ったという結果が出た(48.3%46.5%)。これはサンプル数が2690でありより信憑性が高い。ただし、これでも差に統計的有意性があるとはされなかった。いずれにしろ、まだ状況がはっきりしないが、かなり僅差であることに間違いはない。


左派連合がリードをやめ、両陣営が再び伯仲している理由は、4月に行われた予算論議であろう。与党である中道右派連合は3月に春予算を発表したが、それに対して左派陣営も対抗予算案を発表した。自分たちならこうする、という案だが、これは同時にもし政権を取ったときにはこうしたい、という具体的な公約という意味もあった。そして、この中で際立ったのは、増税や控除制度廃止など負担が増えるということだった。それでイメージが落ちたと考えられる。

もう一つ、もっと大きな理由もある。これは今に始まったことではないが、社会民主党の党首モナ・サリーンの人気が悪いことだ。これにはいろんな要因があって、例えば、社会民主党では初めての女性党首となった彼女に対する風当たりが強いこともあるのだろう。しかし、それ以上に魔女のような外見や、子供に喋りかけるような非常にゆっくりした話し方が良いイメージを持たれていないのだ。


国政政党7党の党首

このように左派・中道右派の両陣営への支持が伯仲しているので、今のところどちらが勝ってもおかしくない。金融危機以降、現政権は冷静に対処してきたし、現在は財政危機でヨーロッパ経済が荒波にある中、スウェーデンの財政や経済の不安要因は少ないため、現政権はあまり心配することがない。一方、野党である左派陣営は、それを批判した上でそれに変わる政策を打ち出していかなければならず、容易なことではないようだ。

ヨーテボリ・ハーフマラソンの結果

2010-05-27 20:40:04 | Yoshiの生活 (mitt liv)
今年のヨーテボリ・ハーフマラソンは、去年をさらに上回る58000人が応募。既に昨年10月の時点で枠が一杯となり、応募が締め切られていた。

当日は快晴で、あまり風がなく蒸し暑い日となった。スタートグループは24に増え、1グループ1000人~3000人ずつの5分間隔による時間差スタート(先頭のエリートグループは100人ほど)。グループの数が増えたから、最初のスタートも今年は30分早くなって13時30分

私はエリートグループ(100人ほど)、1A(1000人ほど)に続いて、1Bというグループでスタート(2000人ほどが一緒)。13時33分発だ。


今年が4回目の出場だが、これまでと違うのは、ちゃんと腕時計を用意してきたこと。そう、これまでは全く時計なしで「適当に」走ってきたのだけれど、「時計を見ながら一定のペースで走ったほうがいいですよ」とアドバイスをもらったし、2月の「地球ラジオ」に出演した謝礼としてNHKから時計をもらったので、それをつけて走ることにした。

昨年の記録は1:33:24だった。1時間半を切るのが近年の目標だが、まだ達成できていない。1時間半でゴールしようと思えば、1kmあたり4分17秒で走らなければならないが、今年もトレーニングの段階で既にそれが難しいことが明らかになっていた・・・。

スタートしてから最初の5kmは大体1kmを4分25秒のペースで走った。急な坂と大きな橋があるために、最初から無理はしないためだ。去年は最初で頑張りすぎてしまったが、今年はいい調子だった。10km地点も予定より1分遅れで通過。

職場ぐるみでお揃いのシャツを着て走っている人も見かけるし、ランニングクラブのシャツで走る人も多い。「ボルボは社員の健康に力を入れている」という文句が背中に入ったシャツを何度も見かけた。警察や消防・国防軍も県警とか部署ごとにシャツを作っているところもある。来年はヨーテボリ大学経済学部でシャツを作れたらいいな。

走りながら笑ってしまったのは、目の前を走っていた男性のシャツの背中に「Flygbajsägare」と書いてあるのを見たとき。どういう意味かって? 「空飛ぶウ●コの所有者」・・・。でも、私の読み間違いであることに気がついた。本当は「Flygbasjägare」だった。国防軍の空軍基地を警備する特殊部隊のことだ。場所を少し入れ替えるだけで、意味が大違いだ!

その後も、安定したスピードで順調に走っていたつもりだったが、時計によると徐々にペースが落ちていることが分かった。自分では絶好調でいいペースを保ちながら走っていたつもりだったのだけど。おそらくトレーニング不足のために、限界に達していたのだろう。

目抜き通りのアヴェニューは混雑しておらず、走りやすかった。ヴァーサ通りからの最後の4kmは微妙な上り坂になっており「ランナー殺しの坂」だ。いつものことながら、たくさんのランナーがここぞとばかりにラストスパートをかけるが、タイミングが早すぎて続かなくなる人が多い。あと2kmのところで倒れて観客やスタッフに助けられている人を何人も見かけた。救急車もたくさん待機している。

そんな最後の数キロを気力だけでクリアして、ゴール。記録は1:35:58。去年よりも2分半遅くなった。しかし、順位を見ると昨年は1709位だったが、今年は1467位と上昇しているではないか! おそらく暑さのために全体的に記録が下がったのだろう。それにもかかわらず、招待選手であるケニアの選手は1:01:10と大会記録を塗り替えた。今年の完走者は38459人!

今年は、いろんな人から声援をもらった。誰か良く見えなかったが、大学の同僚とか統計学・経済学を受講していた大学生が多かったと思う。







下の動画はアヴェニューにて


自信ありすぎ、ボリ財務大臣

2010-05-25 07:35:45 | スウェーデン・その他の経済
スウェーデンが小国にもかかわらず、大きな存在感を世界に示せるのはなぜだろう?という疑問を何度か考えたことがある。一つの理由は、注目に値するだけのことを成し遂げてきたということだろう。例えば、高い税金にもかかわらず比較的高い経済成長を誇示できていることや、世界的にも早く年金改革を実現したり、環境税を導入しCO2の排出削減を行ってきたことなどが挙げられる。

もう一つ考えられる理由は、PRがそれだけ上手い、もしくはPRに政府が積極的に力を入れているということだろう。

例えば、こんな話がある。

ブリュッセルでEU加盟国の財務大臣が集まり蔵相会議を開催するとき、車で次々と到着する各国の財務大臣をメディアが待ち構えている。ジャーナリスト達は、フランスやドイツをはじめとするヨーロッパの重鎮の財務大臣から何かコメントをもらいたい。整然と並んで脇で構えている様子が、俗に「猿山」と呼ばれるのだとか。

素通りで通過してしまう財務大臣も多い中、スウェーデンの財務大臣アンデシュ・ボリは、常に自分からメディアの群れに向かっていき、自信ありげにスピーチを行う。

「私の見るところ、2013年までに財政赤字を3%に留めるなどという目標は、意欲的なものとは言えない。」

「銀行連中はまるで1999年の時のようにパーティーに興じている。今は2009年なのに。」

「市場参加者はまるで群れで行動するオオカミのようだ。そのうち、弱小国を食い物にしてしまうだろう。」


これらの発言はその場のアドリブではなく、彼自身や秘書たちが事前に熟慮を重ねて、英語で響きがよいフレーズを選んでいるのらしい。

その努力が功を奏しているようで、外国のジャーナリストの彼に対する評価は高い。彼の明確な発言は、記憶に残りやすく引用にも使いやすい。また、各国の財務大臣の中には、難しい専門用語を使ってジャーナリストを煙に巻いてしまうような表現を使うため、発言の解釈に困る場合もあるが、それに対し、ボリ財相は経済の知識があり、発言も分かりやすい。だから、世界的なメディアに流れることもある。そして、スウェーデンの存在感をアピールすることにつながる。




上の動画は、まさにこのことを扱ったニュース番組からの抜粋だが、小国の分際であり、しかもユーロにも加盟していないためにヨーロッパの財政政策に与える影響は本来は小さいはずなのに、ずいぶん偉そうで生意気でキザな態度だ(笑)。独特のポニーテールとピアス姿が、彼のそんな印象をさらに強くしている!

英語で流暢に喋る姿は自信満々だが、その自信の裏には、金融危機にもかかわらずヨーロッパの中でも最も健全な財政状況を維持しているという自負があるのだろう。

久しぶりの国内線

2010-05-21 22:18:40 | スウェーデン・その他の社会
今日はストックホルムのアーランダ空港から。

これまでストックホルム-ヨーテボリ間を何度も行き来してきたけれど、飛行機を使うのは初めて。アーランダ空港そのものに足を踏み入れたのも、5、6年ぶりだ。

環境や温暖化対策が大事だとか言いながら、所要時間が短いのをいいことに飛行機を選んだかって? いや、ストックホルム-ヨーテボリ間であれば、飛行機を使ったからと言って時間的にそれほど得をするわけではない。

鉄道だと片道3時間強。飛行機だと所要時間は1時間だが、まず市内からストックホルムの空港までバスで45分。少なくとも出発時刻の30分前に空港について、チェックインをし、手荷物検査を受けなければならない。それから、ヨーテボリ空港に着いてからもバスに乗って市内まで移動するのに30分。飛行機が着いてからすぐにバスがあるとは限らないので、待ち時間を10分とする。

そうすると、結局は合計3時間弱となってしまう。しかも、列車なら一度乗ってしまえばヨーテボリに着くまで座席で寝たり、本を読んだり、パソコンを開いて仕事をしたり、自由に使える。これに対し、飛行機だと、バスでの移動やターミナルでの歩いての移動、飛行機の乗り降り・・・etc。つまり、じっとしていられないから集中して何もできない。しかも嫌なのは、手荷物検査。ベルトを外したり、カバンからパソコンを取り出したり・・・。Nej! 絶対に電車のほうが便利だ。


では、なぜ飛行機を使ったかというと、鉄道がすべて満席だったためだ。昨日・木曜日は午後16時以降の便がすべて埋まっていた。一等席すら残っていなかった。だから、仕方なく飛行機にしたというわけだ。

鉄道の輸送能力はキャパシティー一杯に達してしまったようだ。これは近年特に顕著になっている。鉄道の利用者は近年大きく増加してきたため、国鉄SJも運行本数を多くしたり編成を長くしたりして対応してきたが、それにも限界がある。鉄道網は旅客輸送だけでなく貨物輸送にも使われており、実は貨物輸送も需要が伸びているのだ。

その結果、本数をいくら多くしても、日曜日午後など特定の時間帯の列車はすべて満席状態だし、鉄道網をキャパシティー一杯に使っているため、システムのどこかで支障が発生するとたちまちダイヤが大きく乱れてしまう。

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スウェーデンに高速鉄道(新幹線)計画があることはこのブログでも何度か紹介した。ストックホルムとヨーテボリ、そしてヘルシンボリを結ぶ高規格の特別路線を新たに敷設して、250-350km/hで走る特急車両を投入するというものだ。

私もその事前プロジェクトとして、今から6年前に予想旅客数の推計を担当したことがあるが、その頃から「そんな高額プロジェクトにお金と時間をつぎ込むよりは既存の在来線の整備と拡張に投資をしたほうがよいのでは?」と感じてきた。

しかし、2ヶ月ほど前にあるセミナーに参加した。鉄道庁の職員とプロジェクトを担当している王立工科大学(KTH)の研究者が、プロジェクトの概要と意義を説明してくれた。彼らの説明としては、現在の在来線のキャパシティーはもう一杯で、整備・拡充をしようにももう手が尽きたとのこと。現在の幹線の複々線化なども考えられるが、それなら在来線とは別に、高速運行のできる新しい路線を建設したほうが長い目で見たらよいとのことだった。そうすれば、旅客輸送のかなりの部分を在来線から高速新線に移動することができ、在来線のキャパシティーに空きができる分だけ、そこで貨物輸送をさらに増やすことができる。

現在の中道保守政権のもと、既に部分着工は決まっている。しかし、野党である左派連合は、現政権よりも多くのお金をこのプロジェクトに投じることで、建設スケジュールを早めるという公約を掲げている。

「いろいろあったけど、それでも応援しているよ!」

2010-05-18 08:27:36 | スウェーデン・その他の政治
スウェーデンでは今年9月に総選挙(国政・地方)が行われる。しかし、選挙運動は既に昨年後半から始まっており、各陣営の具体的な選挙公約が形になって現れ始めている。選挙の話題については、これまでこのブログ上では少し怠けていましたが、これから徐々に書いていくつもりです。

その前に、今は亡き人のこんな話題。「いろいろあったけど、それでも応援しているよ!」というエールが、何だかほのぼのとさせてくれる。

――――――――――



童話作家アストリード・リンドグレーンが、1976年、自分の所得に102%の税金がかけられていることに気づいて、時の政権党であった社会民主党に抗議した話はよく知られている。ただし、102%というのは限界税率の話。実効税率ではない。しかも、所得税だけでなく、社会保険料を含めた限界負担率の話のようだ。

いずれにしろ、追加的に稼いだ分に対して、それよりもさらに多い税金・社会保険料を納めなければならないというのは異常であり、収入が多いと逆に損をするということになる。そこで、リンドグレーンはタブロイド新聞であるExpressenのオピニオン欄に意見記事を掲載することにした。しかし、さすが童話作家とあって、自分の主張を一つの童話に織り交ぜたのだった。

* * *

童話の舞台は、モニスマニエンという架空の国。この国にはポンペリポッサという女性が暮らしており、その国を40年以上にわたって統治してきた賢人たちに信頼を寄せ、選挙になればいつもその人たちに票を投じてきた。その賢人たちのおかげで、モニスマニエンの社会は豊かになり、生活に事を欠く者はいなくなり、誰もが社会保障の恩恵に預かることができるようになった。ポンペリポッサも自分の収入の一部を社会保障のために貢献できることに喜びを感じていた。

ポンペリーポッサの職業は実は童話作家だった。この世での生活に喜びを感じるために始めた趣味だったが、そのうち、モニスマニエン以外の国でも評判になり、童話が売れるようになった。そして、世界のあちこちから印税が舞い込んでくることになった。可哀想なポンペリポッサ! でもなぜ「可哀想」かって?

彼女の友人がある日、こう言ったのだ。
「あなたの限界税率が今年は102%になるって知ってた?」
「まさか! 率を表すのに100%以上の数字があるわけないでしょ!」と答えるポンペリポッサ。しかし、次第に明らかになったのはこのモニスマニエンという国には、100%以上の数字がいくらでもあることだった。そして、税金が次のように計算されることも明らかになった。

200万クローナの所得があった場合、最初の15万クローナに対しては10万8000クローナの税金を払う。そして、残りの所得である185万クローナには102%の税率が適用されるため、税額は188万7000クローナとなる。合わせて199万5000クローナ! すると、手元に残るのはたったの5000クローナ。もし、最初から所得が15万クローナしかないのであれば、手元に残ったのは4万2000クローナとなるため、所得が低いほうが得をしたことになる。だから、国外で人気が出てしまったために逆に損をすることになった「可哀想な」ポンペリポッサというわけだ。

* * *

この童話はさらに続き、個人年金への保険料の所得控除制度が遡及的に廃止されたことなどが紹介され、「賢人たちは自分たちよりも高い所得を得ている人がうらやましくてしょうがないからペナルティーを与えているのだ」と続く。ここに登場するポンペリポッサとはもちろん、リンドグレーンのalter egoだ。また、モニスマニエンという国の名は、その数年前に公開されたスウェーデン製のフィクション映画の中に登場する独裁国の名前から取ったというから、巧みだ。

この記事がタブロイド紙に掲載された日、実はスウェーデン議会では予算委員会(?)が開かれ、社会民主党の税制を巡って与野党間で議論が繰り広げられることになっていた。だから、掲載のタイミングは絶妙だったと言える。議会の議論では、リンドグレーンのこの記事が引き合いに出されることが目に見えていた。

だから、社会民主党の財務大臣グンナル・ストレングは秘書から受け取った記事を、議場の自席で目を通すことになった。その姿は、議場上方の報道席にいたカメラマンがちゃんと捉えていた。読み進めるストレング財務大臣の表情が次第に険しくなっていった。


予算委員会の席上では、野党である穏健党の党首がリンドグレーンの「童話」の全文を読み上げ、社会民主党の税制を批判した。それに答えるストレング財務大臣は、リンドグレーンが誤解していると指摘した上で「リンドグレーン夫人は童話を語ることはできても、計算はできないようだ」と発言した。

しかし、翌日のラジオ番組でインタビューを受けたリンドグレーンは、財務大臣の言葉をそのまま使って切り返した。「ストレング財務大臣は童話(=根拠のない批判)を語ることはできても、計算はできないようだ」

社会民主党とアストリード・リンドグレーンのこの喧嘩は有名になり、このときに指摘された税制の問題点が理由の一つとなって、その年の総選挙では社会民主党が敗退し、44年ぶりに非社会民主党政権が誕生することとなった。

――――――――――

2002年、リンドグレーンは94歳でこの世を去った。社会民主党とはあの喧嘩以来、袂を分かったものだと思われていた。しかし、最近になって、実は1995年に当時の社会民主党党首であったイングヴァル・カールソンに手紙を送っていたことが明らかになった。「親愛なるカールソン。新聞の写真を見ると、最近は元気がなさそうだから、応援のメールを書くことにしたよ」と始まるその手紙では、社会民主党とその党首を今でも応援していることが書かれていた。だから、生前に仲直りしていたのだった。

彼女が社会民主党と争った1976年というと、オイルショックのあとの経済危機の時代であり、税収を確保しつつ選挙で票を得るために、社会民主党は低所得者の減税を実行する一方で、高所得者にはとんでもない限界税率を適用していたようだ。なぜそれが100%を超えてしまったのかはよく分からない。

彼女の死の翌日、社会民主党党首であったヨーラン・パーション「彼女はおそらく正しかった。当時の税率には異常な側面もあった」と答えている。

イギリスの小選挙区制

2010-05-15 09:21:55 | スウェーデン・その他の政治
「政治改革」という言葉は日本では過去数十年を通して何度も叫ばれてきたが、90年初めには選挙制度を小選挙区制に変えて、二大政党制を実現することが政治改革なんだという単純で分かりやすい論理にメディアや世論が沸き立って、衆議院選挙での小選挙区選挙制が実現することになった。その結果どうなったかというと、議席を獲得するためには、2番ではなくて1番にならなければならず、資金や地盤、知名度、顔の広さがモノをいう傾向がますます強くなったのではないかと思う。近年でこそ、全国的には政策議論も盛んになりつつはあるけれど、一つ一つの選挙区の選挙運動となると、政策がどうこうというよりも、やはり個々の議員の名前とイメージをいかに売り込むかということに最も大きな力が注がれていると思う。この点は、完全な比例代表制を導入しているスウェーデンの選挙運動と比べると全く違う。

小選挙区制というと、古くからこの制度を導入し、世界的な典型例と言われているのがイギリスだが、本家本元のイギリスではこの制度の見直しを求める声が強まっている。

イギリスでは小選挙区制の下、保守党労働党の二大政党による政治が長いあいだ行われてきたが、これらの政党もしくはその政策に嫌気がさして新しい選択肢を求める人の支持を受けて、第3の政党が興隆してきた。それがLiberal Democrats(自由民主党)という党だ(日本語に訳すと、革新性だとか斬新さが全く感じられなくなってしまうのはなぜ?(笑))。

イデオロギー的には中道左派であるこの党は、5年前の下院選挙でも善戦し、得票率で見ると22.1%の支持を得た。しかし、彼らの支持者は全国に広く散らばっているため、小選挙区制の下では非常に不利となってしまった結果、総議席数のわずか9.6%(62議席)しか獲得できなかったのだ(これが、もし同じ得票率でも支持者が一部の選挙区に集中していれば、それらの選挙区では1位になれる可能性が高くなるため、議席数はもっと獲得できていた)。

今回の選挙でも、Liberal Democrats(自由民主党)の躍進が注目された。特に、ここ2年ほどの間に保守党や労働党の議員を巡る政治スキャンダルが相次いだ。だから、政治に不信を抱く有権者の支持が自由民主党に集まると見られていたためだ。しかし、せっかく支持率は向上しても、選挙制度のために前回のように獲得議席数は思ったほど増えない可能性は高い。支持者からすれば「不公平だ」と感じられるのも当然だ。自由民主党自身も、党の公約として以前から「選挙制度改革」を掲げてきた。

しかし、選挙の結果はどうだったかというと、事前の世論調査にもとづく期待に反して、自由民主党の得票率は23%とわずか0.9%ポイント増えたに過ぎなかった。それでも、支持が増えたこと自体は嬉しいことだが、何と議席数で見ると57議席(割合は8.8%)と5議席も減ってしまったのだ。


では、他の2党はどうだったかというと、予想通りに労働党は惨敗、そして保守党は大きく躍進した。しかし、そんな保守党も過半数を獲得することができなかった。保守党か労働党のどちらかが単独過半数を獲ることが一般的なこの国において、そうならなかったのは1974年以来初めてのことらしい。

このため、イギリスの政治史上では稀な連立政権が打ち立てられることになった。保守党労働党が手を組むことは考えられないので、保守党+自由民主党労働党+自由民主党という組み合わせになる。ただし、後者の連立の場合は過半数を超えることができない。この3党のほかにも極小政党など30議席があるためだ(ちなみに、今回初めてイギリスの緑の党が1議席獲得したとか)。だから、労働党+自由民主党の場合は、極小政党の閣外協力が必要となる。

面白いことに、自由民主党を連立政権に取り込みたい労働党保守党も「選挙制度改革」を約束することで自由民主党を取り込もうと躍起になっていた。結局は保守党と自由民主党の連立政権となることがつい先日決まったが、2党間の合意にも「議会に調査委員会を設けて選挙制度の再検討を行う」ことが盛り込まれていた。

本来、小選挙区制の下でその改革が行われる可能性は小さい。小選挙区制の下では比較的大きな政党が恩恵を受けており、政治の実権を握っているのはそのような党だからだ。保守党も労働党も本音は小選挙区の維持に賛成だ(保守党も労働党も得票率はそれぞれ36.1%と29.0%だが、獲得した議席の割合は47.0%および39.6%と得をしている)。しかし、今回のような非常に稀な状況が、選挙制度改革の道を開いたことになる。

しかし、比例代表制をイギリス人が受け入れるかどうかという疑問もある。イギリスでは通常、保守党か労働党のどちらかが単独で政権を獲得し、投票日のうちに新政権が何党かがはっきりする。だから、今回のように選挙後に舞台裏で連立交渉が行われ、数日かけてやっと新政権が発表されるという、比例代表制の下では一般的なやり方は異常に感じられたかもしれない。ただし、EUの欧州議会選挙は、イギリス全体を単一の選挙区とした比例代表制の下で行われるから、何も珍しいものというわけではないようだ。

しかし、そもそもの疑問として、この連立政権がいつまで続くのか?という疑問もある。1974年の選挙では、どの党も過半数が獲れず、労働党が不安定な少数政権を樹立したが、この時にはわずか9ヶ月しか持たず、解散総選挙が行われることになったという。だから、今回も連立内で意見が一致せず、それが崩壊して再び選挙ということになれば、やっぱり安定した政権を生み出せる二大政党制・小選挙区制がいい、と有権者が思うようになり、選挙制度改革は頓挫する可能性もある。

今度の新政権の課題は多い。まずは、GDP比12%にのぼる赤字を抱えた国の財政をどう立て直すかだが、選挙期間中はどの党も増税という言葉を避け、具体的な対策に触れようとしなかった。これからどうなるか?

地名として残るアンナ・リンド

2010-05-10 09:32:40 | スウェーデン・その他の政治
1年半ほど前、初めて耳にする曲がラジオから流れてきた。曲の始まりはこんな歌詞だった。


電話を切ると鍵もかけずに外に飛び出し
ヨート通りにやってきた
ここスカッテスクラーパンの建物の横はいつも風が吹いて
まるで空が丸ごと落ちてきそうな気がする

北に向かって夜の街を急ぎ
メードボリヤル広場を通り過ぎる
ここはアンナ・リンドが最後の演説を行った場所
あれは2003年9月のことだった



この部分を聞いた瞬間「ああ、アンナ・リンドもついに歌の歌詞になったんだ」と感慨深く思ったものだった。




アンナ・リンドとは1957年生まれの社会民主党の女性国会議員で、若いときから政治に興味を持ち、社会民主党青年部会の代表を務めたあと、1994年からは環境大臣、1998年からは外務大臣に就任し、政治キャリアの道を着実に歩んできた人物だった。熱意に溢れる政治家で支援者や仲間も多く、いずれは党首にそして首相になるのではないか、と見込まれていた。

しかし、統一通貨ユーロを巡る国民投票を数日後に控えた2003年9月10日、護衛なしで友人と買い物をしていたところを、刃物で襲撃され、翌日未明に病院で息を引き取ったのだった。まだ46歳と若かった優秀な政治家の死は、スウェーデンの社会にとって大きな損失だった。

<過去の記事> 2007-09-14: スウェーデンの9・11

その彼女が、襲撃される前日の9月9日に市民に向けて演説を行ったのが、そのメードボリヤル広場だった。公の場で彼女が行った最後の演説となってしまった。(メードボリヤル広場とは、市民広場の意)

――――――――――

彼女の死を悼んで、彼女の名を地名として残そうという運動はその後、盛り上がっていった。当初はメードボリヤル広場を「アンナ・リンド広場」に改めようという声もあったが、メードボリヤル広場は歴史のある広場であり難しかった。そこで、その広場から400メートルほど離れた小さなスペースを見つけて、そこを「アンナ・リンド広場(Anna Lindhs plats)」とすることにした。そして、そのセレモニーが先週行われた。



――――――――――

ちなみに、上に紹介した曲はスウェーデンの歌手ペーテル・ヨーベック(Peter Jobeck)が歌う「Stockholm i natt」という曲だ。曲全体を通してストックホルムの地名が散りばめられており、ストックホルム・メドレーのような感じだ。

さびの部分の「この美しいストックホルムに涙さえ流したいくらいだ」という歌詞がとてもよい。

ミュージック・ビデオは、明け方の酔っ払いをテーマにしているのだろう。バックが薄暗いが、6月・7月のストックホルムの夜は薄明かりが残っており、2時、3時になるとこの映像と同じような感じだ。夏が待ち遠しい。あともう少しだ。

再びギリシャ。

2010-05-07 06:14:41 | スウェーデン・その他の経済
ギリシャが大混乱だ。数日前からゼネストが決行されている。ストに参加する人は、これまでの政府の政策のツケを払わされることに不満を述べているが、極左の活動家もかなりいるようで、現在の危機を打開するために「銀行資本をはじめとする民間企業の国有化」を訴えていたりもする。勝手にやってくれという感じだ。平和的なデモにまぎれて若者が暴徒と化し、銀行に火炎瓶が投げ入れられ炎上。逃げ道を失った銀行員3人が死亡する悲劇もあった。消防隊の到着を暴徒が妨げたという報道もある。

経済学者のポール・クルーグマンは自身のブログに「Greek End Game」というコラムを書いているが、その中で、これまでは最悪のシナリオとしてギリシャがデフォルト(債務不履行)に陥ると見られてきたが、それはおそらく楽観的過ぎる見方だろう、それくらいならまだ良いほうで、むしろ単一通貨ユーロから離脱する羽目になると見たほうが現実的だと述べていた。(通勤の途中にいつも聞いているスウェーデン・ラジオの朝の経済ニュースも、ブログ上での彼の発言を取り上げていた)

逼迫した財政を立て直すための唯一の鍵は経済を拡大させることだが、そのためには輸出を増やしていかなければならない。しかし、それには高コスト構造を打ち砕く必要がある。そのための一つの方法は、労働組合が団結して国内全体で価格・賃金カットに同意することによって「internal devaluation」をすることだと彼は述べている。つまり、通貨切り下げ(devaluation)と同じ効果を、国内における価格・賃下げによって実現し、国際競争力の向上を図るということだ(彼は書いていないが、賃金カットに加えて、年金などの社会保障のスリム化によって歳出を大幅に削減することも必要だろう)。

しかし、現在のゼネストを見ていると、労働組合側が現況に理解を示して、一致団結した賃金カットに同意するなんて到底考えられない。とすると、残された手段として、ユーロ離脱・自国通貨再導入によって本当の「devaluation」を行わざるを得ない、ということになる。

ただし、ギリシャが前もってユーロ離脱を発表したり、欧州中央銀行(ECB)の誰かがギリシャが離脱できる可能性があることを示唆してしまえば、たちまち市場は投機に走るだろうから危機がさらに深刻化してしまう。だから、表向きそのような可能性が絶対にあり得ない!ことを表明しておきながら、その裏で着々と準備を進め、ある日、突然「今日からユーロを放棄して、自国通貨ドラクマに切り替えます!」と宣言する、というシナリオを暗黙で想定しているところが面白い。

クルーグマンのブログ
既に導入した統一通貨を放棄して、再び自国通貨を導入するという例は、2001年にアルゼンチンであったらしい。アルゼンチンは米ドルが広く出回り、公式通貨として使われていたらしいが、それをやめ再びペソを導入したようだ。最初は固定レートでの切り替えだったが、そのうち変動為替制に移行(固定相場制は投機に弱いので)した結果、通貨が大きく減価したようだ。

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これまで、ユーロの問題点をこのブログ上でも指摘してきたが、ギリシャがユーロに入りさえしなければ危機は防げたと考えるのは少し早急かもしれない。前回書いたように、ギリシャ経済は構造的な問題を抱えており、その抜本的な改革に取り組まなければ、遅かれ早かれ危機はやってきただろうからだ。だから、ギリシャがユーロ加盟したことによる問題点だけをことさら強調してユーロ批判を行ってしまうと、逆にユーロ賛成派から叩かれやすい。

しかし、クルーグマンも書いているように、逼迫した財政を立て直すための鍵は輸出を増やすことであると考えれば、もし自国通貨ドラクマを維持していれば、経済力の衰えに応じて通貨が自然に下落していただろうから、国際競争力がある程度は回復して、経済改革や輸出振興の一助にはなっただろう。しかし現実には、ユーロ加盟にともなって、ギリシャでは他のヨーロッパ諸国と同じ生活水準を享受できる!というユーフォリア(高揚感)が蔓延し、便乗インフレ・賃金上昇が起きてしまい、高コスト経済になってしまった。

また、現在続いている大規模なストライキを見ていると、危機意識というか問題の深刻さに対する認識自国の人々にはあまりないのではないか?とも思ってしまう。もし、ユーロに加入していなければ、自国通貨がもっと早い段階で暴落していただろうから、一般の人々にも経済や財政の構造的問題の深刻さがもっと認識されていたかもしれない。通貨が暴落していれば、輸入品が高くなるし、国外旅行をしようと思っても手が届かない。つまり、為替レートが一つの指標となって、一般の人々にも何か深刻な問題をギリシャが抱えているというのが分かりやすかったかもしれない。だから、ユーロに入ったおかげで、そのようなメカニズムが働かず、問題が顕在化せず、よって改革の必要性が認識されず、先送りされてしまったと見ることもできるのではないかと私は思う。

すべて「もし××だったら・・・」という仮定の話。でも、マクロ経済は面白い。

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最後に、ギリシャ人が享受し、高コスト構造を作り上げてきた恩恵のいくつかを紹介。
・企業では、外国語を話せたり、時間通りに出社したり、パソコンが使えるというだけでボーナスが支払われる。
・さらに、従業員全員に14か月分の給与が年間支払われる(イースター休暇と夏休みにそれぞれ半月分、そして、クリスマス休暇に1か月分のボーナス)。
・公務員は35年働けば、退職して年金を満額もらうことができる。
・退職した公務員に、独身または離婚して一人身となった娘がいる場合には、その公務員が死亡したあと、娘に年金受給権が引き継がれる。

そのほかにも、国税庁が補足できない闇経済が多く税金逃れが横行していたり、軍事費がGDPの6%に達するなどの問題点もある。

今年のメーデー

2010-05-04 21:04:54 | スウェーデン・その他の政治
新しい年が始まったばかりだと思ったら、もう既に5月。

今年のメーデーの社会民主党・LO(ブルーカラー系労組)のパレードの様子。


赤い旗の後ろに、赤い服を着た女性二人が小さく写っているが、左側がLO代表、右側がヨーテボリ市の市長。


今年は総選挙が9月に控えているので、選挙に向けたスローガンも掲げられている。「Jobb」つまり、雇用だ。


中年・高齢者だけでなくて、若者もいる。SSU(社会民主党青年部会)の人たち。バラを配っている。


スローガン「Jobb och nya mojligheter - Byt regering 2010」つまり「雇用と新たな可能性 - 2010年、政権を変えよう」というわけだ。


毎年、社会民主党の党首や幹部、LO代表がどこの町で講演するかが注目されるが、今年は社会民主党党首のモナ・サリーン(Mona Sahlin)はストックホルムで、LO代表のヴァンヤ・ルンドビュー=ヴェディーン(Wanja Lundby-Wedin)はヨーテボリで講演を行った。

ヨーテボリでは、前座としてSSU(社会民主党青年部会)のヨーテボリ支部長の20代半ばの男の子も行った。彼とは以前ゴットランド島のセミナーで会ったことがある。国際政治の難しさを学ぶという目的で「外交ゲーム」というロールプレイをしたことがあるが、そのときに私が交渉を何度もする羽目になったのが対立国の大臣役の彼だった。



ヨーロッパ経済の火薬庫

2010-05-01 21:09:22 | スウェーデン・その他の経済
アイスランドからの火山灰は幸い収まったが、別の苦悩が再びヨーロッパを襲っている。ギリシャやスペイン・ポルトガルなどの財政危機だ。

2009年のギリシャの財政赤字は当初は10%程度だと言われ、それが実は12%になると見られ、そして最新の推計によると14%になる見込みだと言われている。債務残高はGDPの120%に相当する額。過去20年近くにわたって平均7.5%の財政赤字を毎年生み出してきたから、そのツケが着実に貯まってきたわけだ。

ギリシャの経済力から考えれば、近い将来、国が破産してもおかしくない。つまり債務を不履行にすることだ。一個人や一企業であれば、既に破産しているところだ。一個人の喩えをさらに続けるならば、ギリシャはサラ金に手を出して多重債務に陥ってしまったと見ることもできる。抱えている借金を返済するために、新たな借金をしなければならず、借り直すたびに負債額が増え、利率も上昇していく・・・。

今、目先に迫っているのは、次の返済日である5月19日。この日には85億ユーロの国債が満期を迎えるため、その資金を用意する必要があるが、新たな借金をしようにも市場での信用がないため、国債の販売価格をかなり安くしないと(つまり利率を高くするということ)買い手がつかない状態だ。これでは元本どころか利払いすら追いつかなくなってしまう。

だからこそ、EUとIMFは今後3年間に総額1000~1200億ユーロの特別融資を行う議論をしている。このうち直近の支援としては、IMFが250億ユーロ、EUが300億ユーロを拠出するというが、EUの負担分についてはドイツ国内で大きな反発が起きており、ドイツ政府がゴーサインを出さない限り実行には移されない。

また、EUとIMFは支援の見返りとして、今年と来年の財政支出を10%カットすることを要求しているが、ギリシャ政府にそれを行う能力があるのかも疑問だ。現時点でギリシャ政府が約束している歳出削減はわずか4%に過ぎない。それですらギリシャ国内ではゼネストが相次いでいる。だから10%削減なんて行ったら、どうなることやら・・・(いや、どうせ反発を受けるなら4%削減なんて小出しをせず、最初から10%減を発表したほうが良いという声もある)。

しかし、根本的な疑問は、EUやIMFがたとえ今ギリシャを支援したとしても、その場しのぎに過ぎないのではないか?ということだ。既に書いたように、ギリシャは過去20年にわたって毎年平均7.5%の財政赤字を記録してきたという。つまり、構造的な問題として(1)経済力・税収力が歳出に比べて小さすぎる、もしくは(2)歳出が経済力・税収力に比べて大きすぎる、ということだ。いや、本当の答えは(1)(2)の両方だろう。

他の西欧諸国(EU15)に比べたら経済力は相当劣るにもかかわらず、例えば、賃金水準は他の国と同じくらいだし、ギリシャの年金制度はヨーロッパの中でも一番寛大だと言われ、公務員をはじめとする一部の労働者は既に50歳代で退職でき、年金の受給を開始できるという。ギリシャ政府は歳出削減を行うために、年金受給開始年齢の引き上げを打ち出しているが、影響を受ける労働組合が途端に反発し、大きなストへと発展している。歳出がカットされる分野には医療など社会保障分野もあるだろうから、ストする側の気持ちも分からないでもないが、それでも、年金などでは既得権益を守りがたいためにストが起き、経済がストップし、危機がさらに深刻になるという悪循環に陥っている。そんな状況を見せられたら、ドイツの人々も自分達の税金をそんな国の救済に充てたいとは思わないだろう。

年金制度の持続可能性は、どの先進国も頭を悩ませている問題であり、だからこそスウェーデン政府も90年代に大きな年金改革をやってきた。現在の平均的な受給開始年齢は65歳だが、それを67歳に引き上げるべきという声すらある。ギリシャでどのような議論がこれまであったのかは不明だが、抜本的な改革に乗り出さず、小細工を使って財政赤字を野放しにしてきた責任は大きい

一番いいのは、自己破産を申請して、積もりに積もった債務を全部帳消しにして、一からやり直すことだろう。全部帳消しは難しいとしても、エコノミストの中には、ギリシャの債務残高1500億ユーロのうち3割から7割を帳消しにすべきという声もある。ただ、ギリシャの債務を帳消しにした場合、同様に危ないスペインやポルトガルに対する信用不安も拡大するだろうから、果たして良い手ではないかもしれない。ドミノ倒しみたいになってしまう。

ギリシャがどのような形でこの危機を乗り切るにしろ、身の丈にあった経済を作っていく必要がある。賃金水準や年金水準は相当下げざるを得ない。自分たちではおそらく難しいだろうから、EUがギリシャ一国を丸ごと直轄し、課税権をEUが奪い、歳出にも厳しい上限を設けるのはどうだろう? いや、いっそのこと属領・植民地にするとか? 2000年前には、ローマ帝国の属領にされた経験があるのなら、それも耐えられるかもしれない!?