スウェーデンの総選挙が9月半ばに行われる。4年前の総選挙では、中道右派政党の4党が事前に連合を結成し、選挙に勝った暁には連立政権を樹立することを約束したうえで選挙に挑み、政権を社会民主党から見事に奪った。
今年9月の総選挙で政権を奪還したい社会民主党は、中道右派陣営の4年前の戦略を見習って、自分たちも左派政党同士でまとまって連合を作ったうえで選挙に挑むことを発表した。左派3党がバラバラに公約を発表して選挙戦を展開し、選挙が終わってから初めて連立交渉を行うよりも、あらかじめ共同公約を明確にした上で選挙戦に挑んだほうが有権者の信頼を勝ち取れると考えたのだ。そうして2008年暮れに発表されたのが、社会民主党&環境党&左党(左翼党・旧共産党)による赤緑連合だった。
だから、今度の総選挙では中道右派連合が勝つのか左派連合(赤緑連合)が勝つのかが注目される。これまでの世論調査によると、前回2006年9月の総選挙後から2007年、2008年にかけては左派3党の支持率の合計が、中道右派政党4党の支持率の合計を大きく上回り、ある時には58.5%対37.9%という大差をつけていたこともあった。
2006年の総選挙で有権者は中道右派連合を勝たせておきながら、その直後から左派政党を支持するようになったというのは面白い現象だが、いくつかの理由が考えられる。
まず、中道右派連合に票を投じた有権者の中にはもともと社会民主党の支持者だった人も少なからずいたと考えられるが、彼らは政策公約が気に入ったという理由で中道右派連合に票を投じたというよりも、その当時の社会民主党党首&首相であったヨーラン・パーションに嫌気がさしたから中道右派連合に票を投じたと考えられる。パーションとは、10年間も党首と首相を務めており、党内での求心力は持っていたが、そのワンマンぶりのために多くの批判を浴びていた人物だった。そして、選挙日の夜、即日開票によって社会民主党敗北が確実になったとき、辞職を表明した。だから、彼さえ退陣してしまえば、そのような有権者が再び社会民主党を支持するようになったと考えられる。もう一つ大きな理由は、中道右派連合が政権就任後に実行した失業保険改革が非常に不人気だったことだ。
連立与党を形成する中道右派4党の党首(左から、キリスト教民主党、穏健党、自由党、中央党)
中道右派政党と左派政党の支持率の差は、その後2008年後半から2009年前半にかけて徐々に縮まって行き、2009年4月には僅かながら逆転するという現象が生じた(ただし、その差はごく僅か(0.1%)であり統計的に有意ではなかった)。
皮肉なことに、左派3党が徐々に支持を失っていったこの期間というのは、実は3党が左派連合(赤緑連合)の結成に向けた交渉を展開し、そしてそれを発表した時期と一致する。つまり、左派連合の形成が逆に裏目に出てしまったのだ。
左派連合(赤緑連合)。左から、左党、社会民主党、環境党(二人党首制)
この理由もいくつか考えられるが、一つは流動的な支持者層の流れだ。つまり、社会民主党に支持を表明している有権者のなかには、社会民主党の政策には信頼を置いているものの、旧共産党である左党には大きな懸念を抱いている人も多い。左党は90年代は現実主義的な路線へと舵取りを行ったものの、現在の党執行部はドグマ的で守旧的な路線に逆戻りしてしまった。それに比べ、社会民主党の支持者が環境党に対して持っているイメージはそれほど悪いものではないが、環境税など一部の分野では反発を持っている人もいる。だから、3党が連合を発表したために、支持を断念した人もいたと考えられる。
その後、過去1年間は接戦しながらも左派連合が中道右派連合を若干上回る状況が続いてきた。この頃は中道右派政権が行った疾病保険改革の問題点がメディアで取り沙汰されて、その改革の是非が中道右派・左派両陣営で激しく議論されていた。そして、中道右派が次第に不人気となっていた。
ただ、左派連合が支持率では勝っていたとはいうものの、社会民主党そのものの支持率は低迷していた。では、左派連合の支持率を支えていたのは何かというと、環境党だったのだ。2006年の総選挙では5%余りの得票率しかなかったこの党が、大きく支持率を伸ばし、10%を上回るまでになっていたのだ。
――――――――――
そして、最近の動きとして挙げるとすれば、支持率の逆転現象が再び見られるようになったことだ。
それはまず5月6日に発表された世論調査で現れた。中道右派連合が再び左派連合を上回ったというのである(49.2%対47.4%)。しかし、サンプル数は1000と、同様の支持率調査の中では少ないほうだし、差も統計的有意ではなかった。同じ頃に発表された他の世論調査ではまだ左派連合が上回っていた。
しかし昨日、別の調査機関が発表した最新世論調査でも、中道右派連合が左派連合を上回ったという結果が出た(48.3%対46.5%)。これはサンプル数が2690でありより信憑性が高い。ただし、これでも差に統計的有意性があるとはされなかった。いずれにしろ、まだ状況がはっきりしないが、かなり僅差であることに間違いはない。
左派連合がリードをやめ、両陣営が再び伯仲している理由は、4月に行われた予算論議であろう。与党である中道右派連合は3月に春予算を発表したが、それに対して左派陣営も対抗予算案を発表した。自分たちならこうする、という案だが、これは同時にもし政権を取ったときにはこうしたい、という具体的な公約という意味もあった。そして、この中で際立ったのは、増税や控除制度廃止など負担が増えるということだった。それでイメージが落ちたと考えられる。
もう一つ、もっと大きな理由もある。これは今に始まったことではないが、社会民主党の党首モナ・サリーンの人気が悪いことだ。これにはいろんな要因があって、例えば、社会民主党では初めての女性党首となった彼女に対する風当たりが強いこともあるのだろう。しかし、それ以上に魔女のような外見や、子供に喋りかけるような非常にゆっくりした話し方が良いイメージを持たれていないのだ。
国政政党7党の党首
このように左派・中道右派の両陣営への支持が伯仲しているので、今のところどちらが勝ってもおかしくない。金融危機以降、現政権は冷静に対処してきたし、現在は財政危機でヨーロッパ経済が荒波にある中、スウェーデンの財政や経済の不安要因は少ないため、現政権はあまり心配することがない。一方、野党である左派陣営は、それを批判した上でそれに変わる政策を打ち出していかなければならず、容易なことではないようだ。
今年9月の総選挙で政権を奪還したい社会民主党は、中道右派陣営の4年前の戦略を見習って、自分たちも左派政党同士でまとまって連合を作ったうえで選挙に挑むことを発表した。左派3党がバラバラに公約を発表して選挙戦を展開し、選挙が終わってから初めて連立交渉を行うよりも、あらかじめ共同公約を明確にした上で選挙戦に挑んだほうが有権者の信頼を勝ち取れると考えたのだ。そうして2008年暮れに発表されたのが、社会民主党&環境党&左党(左翼党・旧共産党)による赤緑連合だった。
だから、今度の総選挙では中道右派連合が勝つのか左派連合(赤緑連合)が勝つのかが注目される。これまでの世論調査によると、前回2006年9月の総選挙後から2007年、2008年にかけては左派3党の支持率の合計が、中道右派政党4党の支持率の合計を大きく上回り、ある時には58.5%対37.9%という大差をつけていたこともあった。
2006年の総選挙で有権者は中道右派連合を勝たせておきながら、その直後から左派政党を支持するようになったというのは面白い現象だが、いくつかの理由が考えられる。
まず、中道右派連合に票を投じた有権者の中にはもともと社会民主党の支持者だった人も少なからずいたと考えられるが、彼らは政策公約が気に入ったという理由で中道右派連合に票を投じたというよりも、その当時の社会民主党党首&首相であったヨーラン・パーションに嫌気がさしたから中道右派連合に票を投じたと考えられる。パーションとは、10年間も党首と首相を務めており、党内での求心力は持っていたが、そのワンマンぶりのために多くの批判を浴びていた人物だった。そして、選挙日の夜、即日開票によって社会民主党敗北が確実になったとき、辞職を表明した。だから、彼さえ退陣してしまえば、そのような有権者が再び社会民主党を支持するようになったと考えられる。もう一つ大きな理由は、中道右派連合が政権就任後に実行した失業保険改革が非常に不人気だったことだ。
連立与党を形成する中道右派4党の党首(左から、キリスト教民主党、穏健党、自由党、中央党)
中道右派政党と左派政党の支持率の差は、その後2008年後半から2009年前半にかけて徐々に縮まって行き、2009年4月には僅かながら逆転するという現象が生じた(ただし、その差はごく僅か(0.1%)であり統計的に有意ではなかった)。
皮肉なことに、左派3党が徐々に支持を失っていったこの期間というのは、実は3党が左派連合(赤緑連合)の結成に向けた交渉を展開し、そしてそれを発表した時期と一致する。つまり、左派連合の形成が逆に裏目に出てしまったのだ。
左派連合(赤緑連合)。左から、左党、社会民主党、環境党(二人党首制)
この理由もいくつか考えられるが、一つは流動的な支持者層の流れだ。つまり、社会民主党に支持を表明している有権者のなかには、社会民主党の政策には信頼を置いているものの、旧共産党である左党には大きな懸念を抱いている人も多い。左党は90年代は現実主義的な路線へと舵取りを行ったものの、現在の党執行部はドグマ的で守旧的な路線に逆戻りしてしまった。それに比べ、社会民主党の支持者が環境党に対して持っているイメージはそれほど悪いものではないが、環境税など一部の分野では反発を持っている人もいる。だから、3党が連合を発表したために、支持を断念した人もいたと考えられる。
その後、過去1年間は接戦しながらも左派連合が中道右派連合を若干上回る状況が続いてきた。この頃は中道右派政権が行った疾病保険改革の問題点がメディアで取り沙汰されて、その改革の是非が中道右派・左派両陣営で激しく議論されていた。そして、中道右派が次第に不人気となっていた。
ただ、左派連合が支持率では勝っていたとはいうものの、社会民主党そのものの支持率は低迷していた。では、左派連合の支持率を支えていたのは何かというと、環境党だったのだ。2006年の総選挙では5%余りの得票率しかなかったこの党が、大きく支持率を伸ばし、10%を上回るまでになっていたのだ。
そして、最近の動きとして挙げるとすれば、支持率の逆転現象が再び見られるようになったことだ。
それはまず5月6日に発表された世論調査で現れた。中道右派連合が再び左派連合を上回ったというのである(49.2%対47.4%)。しかし、サンプル数は1000と、同様の支持率調査の中では少ないほうだし、差も統計的有意ではなかった。同じ頃に発表された他の世論調査ではまだ左派連合が上回っていた。
しかし昨日、別の調査機関が発表した最新世論調査でも、中道右派連合が左派連合を上回ったという結果が出た(48.3%対46.5%)。これはサンプル数が2690でありより信憑性が高い。ただし、これでも差に統計的有意性があるとはされなかった。いずれにしろ、まだ状況がはっきりしないが、かなり僅差であることに間違いはない。
左派連合がリードをやめ、両陣営が再び伯仲している理由は、4月に行われた予算論議であろう。与党である中道右派連合は3月に春予算を発表したが、それに対して左派陣営も対抗予算案を発表した。自分たちならこうする、という案だが、これは同時にもし政権を取ったときにはこうしたい、という具体的な公約という意味もあった。そして、この中で際立ったのは、増税や控除制度廃止など負担が増えるということだった。それでイメージが落ちたと考えられる。
もう一つ、もっと大きな理由もある。これは今に始まったことではないが、社会民主党の党首モナ・サリーンの人気が悪いことだ。これにはいろんな要因があって、例えば、社会民主党では初めての女性党首となった彼女に対する風当たりが強いこともあるのだろう。しかし、それ以上に魔女のような外見や、子供に喋りかけるような非常にゆっくりした話し方が良いイメージを持たれていないのだ。
国政政党7党の党首
このように左派・中道右派の両陣営への支持が伯仲しているので、今のところどちらが勝ってもおかしくない。金融危機以降、現政権は冷静に対処してきたし、現在は財政危機でヨーロッパ経済が荒波にある中、スウェーデンの財政や経済の不安要因は少ないため、現政権はあまり心配することがない。一方、野党である左派陣営は、それを批判した上でそれに変わる政策を打ち出していかなければならず、容易なことではないようだ。