ギリシャの財政危機のニュースを聞くたびに、頭が痛くなる。それと同時に、統一通貨ユーロという大きなプロジェクトが潜在的に抱えてきた構造的問題が、幕開けから10年経って顕在化しただけのようにも思う。
ギリシャの問題の根本にあるのは、競争力を失い、長期にわたって停滞してきた経済と、その間に膨らんだ財政赤字だ。財政赤字の累積は既にGDP比で150%と高い水準にあるから、新たな借金をしたり、既にある借金を借り替えたりするために国債を発行しても、相当低い価格を付けないと引き受け手がない。これは利子率が高くなることを意味するから、利子返済ですら苦しくなってしまい、借金が雪ダルマのように膨張していく(今でも国債の利払いだけでGDPの7%に相当しており、総税収がGDPのせいぜい22%ほどしかないこの国の財政にとって、その3分の1を利払いに充てることを意味している)。そして、破産(債務不履行)の可能性が高まれば高まるほど、国債の買い手はそのリスクを加味してさらに高い利率を要求するから、債務残高の膨張速度が余計に早まる。
この悪循環を断ち切るための鍵は、債務不履行に陥るリスクを減らして信用を高めることであるから、ECB(欧州中央銀行)やIMFは特別融資をギリシャに供与して、半ば保証人の役割を担ったり、資金を直接流し込んでいるわけだが、その条件としてギリシャに課されているのが財政の安定化だ。しかし、リーマンショック以前のずっと以前から毎年のように財政赤字を続けてきたこの国にとって、簡単なことではない。
公務員の大量解雇、賃金の大幅カット(一部の公務員は解雇予備軍として4割カットをまず行い、1年後に何もすることがなければ解雇)、年金削減(高所得者は2割カット、55歳以下の受給者は4割カット)、社会保障の削減、増税(燃料税、固定資産税etc)、基礎控除額の引き下げなどが既に発表されている。これら一連の改革を実行しているのは、保守系の政党から2年前に政権を奪った社会党だが、いざ政権に就任してみたら国庫がスッカラカンだったというから哀れだ。タイミングが悪かったとしか言いようがない。
しかし、低迷が長年続いてきた国内経済に、利子率の高騰が重くのしかかり、それをさらに増税と大量解雇が襲っている。もともと税の補足率の低い国だから、増税をしても脱税に拍車がかかるだけで、税収はそれほど増えないという見方も強い。社会保障の削減に関しては、例えばこれまでの年金制度があまりに寛大で、50代からの年金受給が認められるケースなどもあったというから、スリム化の促進と勤労と受給額とのリンクの強化をすることは良いと思うが、一方で医療関連の予算が削減された結果、国外の大手製薬メーカーなどが薬剤費の未払いを懸念してガン治療薬などの高価な薬の納入を中止するケースも出始め、ガンの治療が続けられなくなるという事態も発生しているようだ。
それでも政権のスポークスマンは「2014年には財政を健全化させる。トロイカ(IMF、ECB、EU)からの融資を受け、ユーロ圏に留まるためにはこの手しかない」と述べて、野党や国民に理解を求めているが、野党は反発しているし、ご存知の通り、労働組合による連日のストライキは激化するばかり(ここでいう野党には、これまで赤字を野放しにしてきた保守政党も含まれるから滑稽だ)。
はっきり言って、ギリシャはもう持たないだろう。歳出削減・増税の両面で頑張ったところで、2014年までに財政健全化などという目標は達成できるとは到底思えない。税収を支える経済力の回復も見込めないどころか悪化の一途をたどっている。また、今続けられているIMFやECB、EUによる特別融資も時間稼ぎにすぎない。EU諸国が資金を出し渋る中、ユーロ圏諸国が共同で債券を発行するという構想も生まれたが、ドイツやフランスなどの反対で無理に近い。スウェーデンの隣国フィンランドは、北欧の中でユーロに参加している唯一の国だが、このフィンランドでも国民はギリシャをはじめとする問題国への資金拠出に対しては非常に否定的だ。「ギリシャの破産が怖いのなら、地中海リゾートをフィンランドが担保として取ればいいのに」というジョークをスウェーデンのテレビで聞いたが、地中海の温暖なリゾート地を寒い北欧の国がいわば植民地のように確保するのも、まんざら悪い話ではないと思う(笑)(エーゲ海に浮かぶ島々に「ムーミン・ランド」とか作るとか・・・?)。
とにかく、あと数週間、もしくは数か月以内にギリシャは破産するだろう。国内で大きな犠牲を強いて現状のままでは達成が難しい財政健全化を目指すよりも、むしろその方がこの国のためにもなるだろう。ただ、破産と言っても、企業倒産のようにギリシャという国がなくなってしまうわけではない。まず、一般企業の会社更生と同じように債権者が集められて、ギリシャの債務の一部もしくは大部分が帳消しにされることになる。そして、身軽にした状態で再スタートを切ることになる。この場合の敗者は、ギリシャの国債を大量に保有しているヨーロッパの民間銀行やこれまで多額の特別融資をしてきたEU諸国となる。おそらく、フランスなどの民間銀行の一部は経営破たんに陥って、金融危機にもなり、その国の政府による公的資金の注入や国有化・整理統合になるだろう。ヨーロッパ経済はさらに冷え込むことになる。
ただ、それで終わりとは思えない。破産申請し、債務を処理して身軽になったギリシャが再スタートを順調に行っていくだろうか? ユーロ圏のままで? ここは大きく意見が分かれるところだが、私が思うに、ギリシャの経済力や技術力を見る限り、この国がユーロを使い続けている限りは、経済は一向に浮上せず、今のような事態が再び繰り返されるだろう。そして、結局はユーロ圏から離脱し、自国通貨のドラクマを再導入することになるだろう。
これは、何もギリシャに限ったことではなく、ポルトガルやスペイン、それにもしかしたらイタリアもユーロからの離脱を選ぶことになる可能性も高い。そして、5年後くらいまでには、ユーロは独仏以北の大陸ヨーロッパとフィンランド、それから、順調な成長を続けるポーランドやバルト三国、チェコ、スロヴァキア、スロヴェニアなどの東欧だけをカバーする通貨となっているのかもしれない。
ギリシャの問題の根本にあるのは、競争力を失い、長期にわたって停滞してきた経済と、その間に膨らんだ財政赤字だ。財政赤字の累積は既にGDP比で150%と高い水準にあるから、新たな借金をしたり、既にある借金を借り替えたりするために国債を発行しても、相当低い価格を付けないと引き受け手がない。これは利子率が高くなることを意味するから、利子返済ですら苦しくなってしまい、借金が雪ダルマのように膨張していく(今でも国債の利払いだけでGDPの7%に相当しており、総税収がGDPのせいぜい22%ほどしかないこの国の財政にとって、その3分の1を利払いに充てることを意味している)。そして、破産(債務不履行)の可能性が高まれば高まるほど、国債の買い手はそのリスクを加味してさらに高い利率を要求するから、債務残高の膨張速度が余計に早まる。
この悪循環を断ち切るための鍵は、債務不履行に陥るリスクを減らして信用を高めることであるから、ECB(欧州中央銀行)やIMFは特別融資をギリシャに供与して、半ば保証人の役割を担ったり、資金を直接流し込んでいるわけだが、その条件としてギリシャに課されているのが財政の安定化だ。しかし、リーマンショック以前のずっと以前から毎年のように財政赤字を続けてきたこの国にとって、簡単なことではない。
公務員の大量解雇、賃金の大幅カット(一部の公務員は解雇予備軍として4割カットをまず行い、1年後に何もすることがなければ解雇)、年金削減(高所得者は2割カット、55歳以下の受給者は4割カット)、社会保障の削減、増税(燃料税、固定資産税etc)、基礎控除額の引き下げなどが既に発表されている。これら一連の改革を実行しているのは、保守系の政党から2年前に政権を奪った社会党だが、いざ政権に就任してみたら国庫がスッカラカンだったというから哀れだ。タイミングが悪かったとしか言いようがない。
しかし、低迷が長年続いてきた国内経済に、利子率の高騰が重くのしかかり、それをさらに増税と大量解雇が襲っている。もともと税の補足率の低い国だから、増税をしても脱税に拍車がかかるだけで、税収はそれほど増えないという見方も強い。社会保障の削減に関しては、例えばこれまでの年金制度があまりに寛大で、50代からの年金受給が認められるケースなどもあったというから、スリム化の促進と勤労と受給額とのリンクの強化をすることは良いと思うが、一方で医療関連の予算が削減された結果、国外の大手製薬メーカーなどが薬剤費の未払いを懸念してガン治療薬などの高価な薬の納入を中止するケースも出始め、ガンの治療が続けられなくなるという事態も発生しているようだ。
それでも政権のスポークスマンは「2014年には財政を健全化させる。トロイカ(IMF、ECB、EU)からの融資を受け、ユーロ圏に留まるためにはこの手しかない」と述べて、野党や国民に理解を求めているが、野党は反発しているし、ご存知の通り、労働組合による連日のストライキは激化するばかり(ここでいう野党には、これまで赤字を野放しにしてきた保守政党も含まれるから滑稽だ)。
はっきり言って、ギリシャはもう持たないだろう。歳出削減・増税の両面で頑張ったところで、2014年までに財政健全化などという目標は達成できるとは到底思えない。税収を支える経済力の回復も見込めないどころか悪化の一途をたどっている。また、今続けられているIMFやECB、EUによる特別融資も時間稼ぎにすぎない。EU諸国が資金を出し渋る中、ユーロ圏諸国が共同で債券を発行するという構想も生まれたが、ドイツやフランスなどの反対で無理に近い。スウェーデンの隣国フィンランドは、北欧の中でユーロに参加している唯一の国だが、このフィンランドでも国民はギリシャをはじめとする問題国への資金拠出に対しては非常に否定的だ。「ギリシャの破産が怖いのなら、地中海リゾートをフィンランドが担保として取ればいいのに」というジョークをスウェーデンのテレビで聞いたが、地中海の温暖なリゾート地を寒い北欧の国がいわば植民地のように確保するのも、まんざら悪い話ではないと思う(笑)(エーゲ海に浮かぶ島々に「ムーミン・ランド」とか作るとか・・・?)。
とにかく、あと数週間、もしくは数か月以内にギリシャは破産するだろう。国内で大きな犠牲を強いて現状のままでは達成が難しい財政健全化を目指すよりも、むしろその方がこの国のためにもなるだろう。ただ、破産と言っても、企業倒産のようにギリシャという国がなくなってしまうわけではない。まず、一般企業の会社更生と同じように債権者が集められて、ギリシャの債務の一部もしくは大部分が帳消しにされることになる。そして、身軽にした状態で再スタートを切ることになる。この場合の敗者は、ギリシャの国債を大量に保有しているヨーロッパの民間銀行やこれまで多額の特別融資をしてきたEU諸国となる。おそらく、フランスなどの民間銀行の一部は経営破たんに陥って、金融危機にもなり、その国の政府による公的資金の注入や国有化・整理統合になるだろう。ヨーロッパ経済はさらに冷え込むことになる。
ただ、それで終わりとは思えない。破産申請し、債務を処理して身軽になったギリシャが再スタートを順調に行っていくだろうか? ユーロ圏のままで? ここは大きく意見が分かれるところだが、私が思うに、ギリシャの経済力や技術力を見る限り、この国がユーロを使い続けている限りは、経済は一向に浮上せず、今のような事態が再び繰り返されるだろう。そして、結局はユーロ圏から離脱し、自国通貨のドラクマを再導入することになるだろう。
これは、何もギリシャに限ったことではなく、ポルトガルやスペイン、それにもしかしたらイタリアもユーロからの離脱を選ぶことになる可能性も高い。そして、5年後くらいまでには、ユーロは独仏以北の大陸ヨーロッパとフィンランド、それから、順調な成長を続けるポーランドやバルト三国、チェコ、スロヴァキア、スロヴェニアなどの東欧だけをカバーする通貨となっているのかもしれない。