『沈黙の海』が扱っている一つのテーマは、スウェーデンやヨーロッパ近海における乱獲と水産資源の枯渇だ。
しかし、次第に明らかになるのは、EUや加盟国が乱獲を防ぐ目的で導入している制度が、逆に乱獲を助長しているという皮肉な現実だ。
その理由はこうだ。EUは水産資源を保護するために、海域と魚の種類ごとに漁獲枠を定めている。「北海のこの海域では、今年はタラを××××トン獲ってもよい」という風にである(ちなみにかなり大きな漁獲枠が毎年設定されており、このこと自体も大きな問題だ)。その海域が複数の国にまたがる場合は、それぞれの国に配分し、そして、それぞれの国は自国で登録された漁船ごとに漁獲枠を配分していく。だから最終的に「あなたの漁船は今年はタラを△△トン、ヒラメを○○トン獲ってもよい」という具合に決まる。スウェーデンでは、さらにそれが週ごとに分割されて「この週は××トン獲ってもよい」と細かく決められることもある。
さて、漁獲枠という制度が抱える根本的な問題はここから始まる。
自分の漁船はタラを10トン獲ってもよいという漁獲枠しか持っていないのに、15トン獲れてしまったらどうすればいいだろうか? もしくは、網を引き上げてみたらタラと一緒にカレイが1トンも入っていたらどうすればいいだろう?
EUの漁獲枠による規制では、与えられた漁獲枠を超える水揚げは許されていない。漁獲枠を持っていない魚の水揚げも許されていない。だから、漁師はどうするのかというと、船の上で捨てるしかない。これが悪名高き「海上投棄」と呼ばれる行為だ。
あるいは、こういうケースも考えられる。自分の船は今週はカレイ5トンの漁獲枠を与えられている。網を引き上げてみたら、カレイがちょうど5トン獲れたけれど、小型のカレイが多かった。これではあまり儲けにならない。網をもう一度、いや二度海に入れて漁をしてみたら、全部で15トン獲れた。この中から、高い値段がつく大型のカレイだけを5トン選んで水揚げし、あとは海に捨ててしまおう・・・。これは「ハイ・グレーディング」と呼ばれる行為だ。
百聞は一見にしかずというから、次の映像を見ていただきたい。ノルウェーの沿岸警備隊(海上保安庁)が2008年8月に撮影した、イギリス・シェトランド籍の漁船だ。
ノルウェーの沿岸警備隊は、ノルウェーの管理水域にて漁業権を持たずに操業していたこの違法漁船を発見し追跡した。そして、この漁船はイギリスの管理水域に達すると、海上投棄を行い始めた。その理由が、漁獲枠を満たしてしまったからなのか、ハイ・グレーディングのためなのかは分からないが、ノルウェー沿岸警備隊によるとおよそ5トンのタラがこの時、海上に投棄されたという。この漁船が捕獲した魚の8割(!)に相当すると見られている。海上投棄の現場がこのように鮮明に撮影されたのは稀なことだという。
2007年EUは独自の推計を行い、北海においてトロール漁船(多くの場合、底曳き漁船)に捕獲された魚の4割から6割の魚が海上投棄されている、と発表した。
一方、ノルウェーはEU加盟国ではないため、出漁日数や操業時間によって漁業の規制を行っている。そして、漁で獲れた魚はすべて水揚げしなければならない、と定めている。そうすると、毎年、どれだけの魚が漁業によって死んでいるのかを正確に知ることができ、水産資源量の管理がより正確に行われるようになる。
これに対し、EUでは合法的に水揚げされる魚以外にも、こうして海上で捨てられている魚がたくさんあるために、漁業が海洋環境に与えている負荷の全体像を把握しにくい。もちろん、それ以前の問題として、本来なら海で泳ぎ続けて、子孫を増やしていたであろう数々の魚が、何の目的もなく殺されて投棄されているという現状は、野蛮だという以外の何ものでもない。
詳しい情報は『沈黙の海』に書かれています。
また、上の映像はイギリス紙・ガーディアンの記事からです。
しかし、次第に明らかになるのは、EUや加盟国が乱獲を防ぐ目的で導入している制度が、逆に乱獲を助長しているという皮肉な現実だ。
その理由はこうだ。EUは水産資源を保護するために、海域と魚の種類ごとに漁獲枠を定めている。「北海のこの海域では、今年はタラを××××トン獲ってもよい」という風にである(ちなみにかなり大きな漁獲枠が毎年設定されており、このこと自体も大きな問題だ)。その海域が複数の国にまたがる場合は、それぞれの国に配分し、そして、それぞれの国は自国で登録された漁船ごとに漁獲枠を配分していく。だから最終的に「あなたの漁船は今年はタラを△△トン、ヒラメを○○トン獲ってもよい」という具合に決まる。スウェーデンでは、さらにそれが週ごとに分割されて「この週は××トン獲ってもよい」と細かく決められることもある。
さて、漁獲枠という制度が抱える根本的な問題はここから始まる。
自分の漁船はタラを10トン獲ってもよいという漁獲枠しか持っていないのに、15トン獲れてしまったらどうすればいいだろうか? もしくは、網を引き上げてみたらタラと一緒にカレイが1トンも入っていたらどうすればいいだろう?
EUの漁獲枠による規制では、与えられた漁獲枠を超える水揚げは許されていない。漁獲枠を持っていない魚の水揚げも許されていない。だから、漁師はどうするのかというと、船の上で捨てるしかない。これが悪名高き「海上投棄」と呼ばれる行為だ。
あるいは、こういうケースも考えられる。自分の船は今週はカレイ5トンの漁獲枠を与えられている。網を引き上げてみたら、カレイがちょうど5トン獲れたけれど、小型のカレイが多かった。これではあまり儲けにならない。網をもう一度、いや二度海に入れて漁をしてみたら、全部で15トン獲れた。この中から、高い値段がつく大型のカレイだけを5トン選んで水揚げし、あとは海に捨ててしまおう・・・。これは「ハイ・グレーディング」と呼ばれる行為だ。
百聞は一見にしかずというから、次の映像を見ていただきたい。ノルウェーの沿岸警備隊(海上保安庁)が2008年8月に撮影した、イギリス・シェトランド籍の漁船だ。
ノルウェーの沿岸警備隊は、ノルウェーの管理水域にて漁業権を持たずに操業していたこの違法漁船を発見し追跡した。そして、この漁船はイギリスの管理水域に達すると、海上投棄を行い始めた。その理由が、漁獲枠を満たしてしまったからなのか、ハイ・グレーディングのためなのかは分からないが、ノルウェー沿岸警備隊によるとおよそ5トンのタラがこの時、海上に投棄されたという。この漁船が捕獲した魚の8割(!)に相当すると見られている。海上投棄の現場がこのように鮮明に撮影されたのは稀なことだという。
2007年EUは独自の推計を行い、北海においてトロール漁船(多くの場合、底曳き漁船)に捕獲された魚の4割から6割の魚が海上投棄されている、と発表した。
一方、ノルウェーはEU加盟国ではないため、出漁日数や操業時間によって漁業の規制を行っている。そして、漁で獲れた魚はすべて水揚げしなければならない、と定めている。そうすると、毎年、どれだけの魚が漁業によって死んでいるのかを正確に知ることができ、水産資源量の管理がより正確に行われるようになる。
これに対し、EUでは合法的に水揚げされる魚以外にも、こうして海上で捨てられている魚がたくさんあるために、漁業が海洋環境に与えている負荷の全体像を把握しにくい。もちろん、それ以前の問題として、本来なら海で泳ぎ続けて、子孫を増やしていたであろう数々の魚が、何の目的もなく殺されて投棄されているという現状は、野蛮だという以外の何ものでもない。
詳しい情報は『沈黙の海』に書かれています。
また、上の映像はイギリス紙・ガーディアンの記事からです。