前回は、予算案の採決の行方について書いたが、中道保守ブロックの4党は自身の予算案の提出にあわせて、ちょっとホッとするニュースも発表した。
中道保守ブロックの4党は、「予算採決における慣習を今後も守る」と発表したのである。この「慣習」とは何かというと、一つの予算案「全体」を採決の対象とする、というものである。つまり、それぞれの予算案を一つのパッケージとして捉えて採決を取るということであり、一たび採決された予算案に対しては、そのパッケージの中身を取り出して、個別の項目(たとえば、ある特定の税率の変更)を可決したり否決したりすることはしない、ということである。この慣習のお陰で、ある党が一つの予算案に対して「総論としては賛成だが、各論では反対」と言って、予算案の全体を可決させた後に、個別の項目を否決していく、という手を使うことが封じられているのである。
この慣習は、現在の予算編成プロセスが形作られた1990年代に確立したものであるが、実は昨年12月に社会民主党などの左派政党は、この慣習を破ったのである。昨年12月に行われた2014年予算の採決では、当時の与党である中道保守ブロック4党の予算案が議会で可決されたものの、その後、社会民主党らはその予算案に含まれていた「国税所得税の課税最低限の引き上げ」という部分だけを取り出し、議会で審議に掛けたのである。課税最低限の引き上げは所得の高い人に有利となるため、左派政党は反対していたわけであるが、極右のスウェーデン民主党もこの部分に反対の意を示していたため、議決を取れば多数決で否決できることが事前に分かっていたからである。
【過去の記事】
2013-09-26:国税所得税の課税最低限の引き上げをめぐる駆け引き
結局、「国税所得税の課税最低限の引き上げ」は社会民主党・環境党・左党とスウェーデン民主党による過半数で否決された。左派政党は当時の与党である中道保守ブロックに目に物を見せてやることができた(※注)わけだが、しかし、それは同時に自分たちの首を絞めることにもなった。というのも、彼らが今や与党となった今、野党に下った中道保守ブロックに同じ手で痛い目に遭わされる恐れがあるからだ。つまり、仮に与党の予算案が12月3日に可決したとしても、その後、野党がその予算案に含まれる個別の項目を取り出して否決することができるのである。自分たちも使った手なのだから、「そんなのルール違反だ」とは批判できない。そして、そのような慣習破りが許されてしまえば、せっかく可決した予算案が、後になって骨抜きにされ、予算決定プロセスそのものがカオスと化す恐れがあった。
だから、今の野党4党がそのような手を使わず、これまでの慣習を維持する、と発表したのは、現在の与党にとっても、そして、予算決定プロセスそのものにとっても非常に良いニュースであった。
ちなみに、「個別の項目を取り出して否決」といっても、どの項目でもいいかというとそうではない。歳出と歳入の大枠と、財政黒字もしくは赤字の大きさについては、予算案の可決の際に既に決められている。その後の調整によって、財政黒字を増やすことは許されるが、財政赤字を増やすことは許されない。だから、予算案から個別の項目を取り出して審議に掛けるときも、「国税所得税の課税最低限の引き上げ」を否決するというような歳入増につながる決定は認められるが、「☓☓手当の給付水準の引き下げ」を否決する、というような歳出増につながる決定はできない。
※ 注
予算案というパッケージの一部を多数決にかけて、その部分だけ否決するという「慣習破り」が本当に許されるのかどうか、については最高行政裁判所が現在、判断している最中だ。
最高行政裁判所のHP
だから、社会民主党などが多数で否決した「国税所得税の課税最低限の引き上げ」はまだ宙ぶらりんの状態であり、この結果が出るまでは2014年の所得税の国税部分の課税最低限がどうなるかは分からない。年明けまでには結果を出してくれないと、来年の確定申告に影響が出てしまう。
中道保守ブロックの4党は、「予算採決における慣習を今後も守る」と発表したのである。この「慣習」とは何かというと、一つの予算案「全体」を採決の対象とする、というものである。つまり、それぞれの予算案を一つのパッケージとして捉えて採決を取るということであり、一たび採決された予算案に対しては、そのパッケージの中身を取り出して、個別の項目(たとえば、ある特定の税率の変更)を可決したり否決したりすることはしない、ということである。この慣習のお陰で、ある党が一つの予算案に対して「総論としては賛成だが、各論では反対」と言って、予算案の全体を可決させた後に、個別の項目を否決していく、という手を使うことが封じられているのである。
この慣習は、現在の予算編成プロセスが形作られた1990年代に確立したものであるが、実は昨年12月に社会民主党などの左派政党は、この慣習を破ったのである。昨年12月に行われた2014年予算の採決では、当時の与党である中道保守ブロック4党の予算案が議会で可決されたものの、その後、社会民主党らはその予算案に含まれていた「国税所得税の課税最低限の引き上げ」という部分だけを取り出し、議会で審議に掛けたのである。課税最低限の引き上げは所得の高い人に有利となるため、左派政党は反対していたわけであるが、極右のスウェーデン民主党もこの部分に反対の意を示していたため、議決を取れば多数決で否決できることが事前に分かっていたからである。
【過去の記事】
2013-09-26:国税所得税の課税最低限の引き上げをめぐる駆け引き
結局、「国税所得税の課税最低限の引き上げ」は社会民主党・環境党・左党とスウェーデン民主党による過半数で否決された。左派政党は当時の与党である中道保守ブロックに目に物を見せてやることができた(※注)わけだが、しかし、それは同時に自分たちの首を絞めることにもなった。というのも、彼らが今や与党となった今、野党に下った中道保守ブロックに同じ手で痛い目に遭わされる恐れがあるからだ。つまり、仮に与党の予算案が12月3日に可決したとしても、その後、野党がその予算案に含まれる個別の項目を取り出して否決することができるのである。自分たちも使った手なのだから、「そんなのルール違反だ」とは批判できない。そして、そのような慣習破りが許されてしまえば、せっかく可決した予算案が、後になって骨抜きにされ、予算決定プロセスそのものがカオスと化す恐れがあった。
だから、今の野党4党がそのような手を使わず、これまでの慣習を維持する、と発表したのは、現在の与党にとっても、そして、予算決定プロセスそのものにとっても非常に良いニュースであった。
ちなみに、「個別の項目を取り出して否決」といっても、どの項目でもいいかというとそうではない。歳出と歳入の大枠と、財政黒字もしくは赤字の大きさについては、予算案の可決の際に既に決められている。その後の調整によって、財政黒字を増やすことは許されるが、財政赤字を増やすことは許されない。だから、予算案から個別の項目を取り出して審議に掛けるときも、「国税所得税の課税最低限の引き上げ」を否決するというような歳入増につながる決定は認められるが、「☓☓手当の給付水準の引き下げ」を否決する、というような歳出増につながる決定はできない。
※ 注
予算案というパッケージの一部を多数決にかけて、その部分だけ否決するという「慣習破り」が本当に許されるのかどうか、については最高行政裁判所が現在、判断している最中だ。
最高行政裁判所のHP
だから、社会民主党などが多数で否決した「国税所得税の課税最低限の引き上げ」はまだ宙ぶらりんの状態であり、この結果が出るまでは2014年の所得税の国税部分の課税最低限がどうなるかは分からない。年明けまでには結果を出してくれないと、来年の確定申告に影響が出てしまう。