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スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

過半数未満の少数与党で政権を維持

2010-09-29 08:14:26 | 2010年9月総選挙
即日開票の夜、右派ブロックが過半数を取れないことが判明したとき、ラインフェルト首相は党メンバーや支援者に向かって「幅広い支援を受けた政権を樹立するために、環境党と協議を開始したい」と宣言した。ポピュリスト・極右政党であるスウェーデン民主党の影響力を排除するためだ。しかし、その翌日、環境党は記者会見を開き「右派連合を支援することはありえない」ときっぱり拒絶した。このことは、このブログでも紹介した。

しかし、先週の段階ではまだ票のカウントが完全に終わっておらず、国外投票や期日前投票による票次第では右派連合があと3議席伸ばして、過半数を獲得する可能性があったので、左派・右派のブロックを越えた協議は行われなかった。

さて、先週の終わりに最終的な議席配分が確定し、やはり右派ブロックが過半数を取れないことが判明した。そのため、今週に入ってから、新政権に樹立に向けた動きが注目されたが、まず動いたのは、やはり右派ブロックを代表する保守党(穏健党)と左派ブロックに属する環境党だった。既に触れたように環境党は、投票日の翌日にきっぱりと拒絶するポーズは取ったものの、やはり保守党が声をかけてくることを待っていたようだ。

しかし、保守党のラインフェルト首相は、環境党を連立政権に呼び入れることはしなかった。環境党は、連立政権に招いてもらい彼らの政策そのものに影響を与えられるということであれば、彼らとの安定した提携も考えていたであろう。しかし、政策決定の中枢に入ることなく「外野」で中道保守の連立政権の応援団になることなど考えられないため、保守党との協議の後の記者会見で「公式な協力関係は築かない」と発表した。


テレビのニュース「公式な協力関係は築かない」

しかし同時に、個別の政策については、中道保守政権とも積極的に協力して、法案可決に協力することを明らかにした。例えば、社会統合移民・難民の受け入れといったスウェーデン民主党が口を挟んでくることが明らかな政策領域においては、環境党と中道保守政権が協力し、スウェーデン民主党の影響を無力化していくという。また、アフガニスタン駐留問題に関しても、撤退の期限を明確にしたくない中道保守政権と、2014年を目処に撤退したい環境党とは距離が比較的近いため、事前協議の上で共同案を提出していくという。

その翌日の火曜日には、保守党と社会民主党が協議を行い、社会民主党も個別の政策に限っては中道保守政権と提携していく用意があることが明らかになった。しかし、中道保守政権と社会民主党との距離はかなり大きいため、協力できる政策事項も限られたものとなるだろう。

私としては、環境党中道保守政権がより深い協力関係を築いて、連立入りなども協議してくれることを期待していたが、残念ながらそうはならなかった。しかし、それは仕方がない。右派4党はこれまで連立政権を築き、今回の選挙に向けても共同公約を作成するなど、長い協力関係を築いていたのだから、その第一党である保守党が、他の3党を差し置いて環境党を政権に入れてしまえば、連立政権内での力関係が全く違うものになってしまう(環境党他の3党よりも得票率が高く、政権第2党となる)。だから、彼らの反発は必至だった。

一方で、他の3党は自らの惨敗も認めるべきだろう。というのも、支持がますます後退したからだ。得票率をみると自由党7.1%、中央党6.6%、キリスト教民主党5.6%だが、この中には、議席獲得に必要な4%ハードルをクリアさせるために戦略的に票を投じた人も多い。選挙後の世論調査によると、例えばキリスト教民主党に票を投じた人の実に3分の1本当は他の党の支持者だったという。つまり、戦略的投票者がいなければ、4%ハードルをクリアできず、議席を全く獲得できなかったわけだ。中央党も実際の支持者だけであれば4.6%ほどの得票率しかなかったという。

いずれにしろ、環境党は、個別政策ごとに中道保守政権と協力関係を探っていく方針を明らかにした。連立に入ったり、閣外協力を築いていれば自らの行動を縛ることになっていたが、そうではなく柔軟な立場が取れる道を選んだため、中道保守政権の今後の政権運営においてキャスティング・ボードを握っていくことになりそうだ。

投票率が大きく上昇

2010-09-27 07:05:28 | 2010年9月総選挙
今回の国政選挙の投票率はどうだったかというと、2006年81.99%から2.64ポイントも上昇して、84.63%となった。

歴史的に見ると、1970年代には国政選挙の投票率が90%を超えていたこともあった。しかし、80年代後半から減少傾向になり、そのうち80%を切るかとも思われた。しかし、前回2006年の選挙で2ポイント近く回復し、そして、今回さらに大きく上昇することになったのだ。再び90%というハードルを越える日が来るのだろうか?


前回に引き続き、今回も投票率が上昇することになった要因は、左派・右派ブロックの支持率が伯仲し、接戦になったからということもあるが、それ以上に期日前投票の利便性が高まったことも大きな要因だろう。

下のグラフは期日前投票が開始された9月1日から19日の投票日までに期日前投票をした人の数の推移だ。週の半ばに多く、週末には少ないことから、通勤や通学の途中に利用した人が多いと推測できる。また、投票日直前の週の利用者が非常に多いことも分かる。


ちなみに、投票日である19日にも「期日前投票」をしている人が8万人ほどいるが、これはどういうことかというと、投票日当日に自分の投票区とは違う場所で投票したい人のために、期日前投票所の一部(例えば町の中心のショッピングセンターや駅構内)が投票日当日もオープンし、そのような人の投票を受け付けていたためだ。

このような、投票日当日の「期日前投票」を除けば、投票日の前日までに投票した人の数は228万人にのぼり、この数は有権者総数の32%にもなる。ちなみに、4年前の選挙では120万人ほどだったから、倍近く増えたことになる。

つまり、3人に1人は投票日前に既に票を投じてしまうわけなので、直前に大きなスキャンダルが起きたりして、世論の動向に変化が生じても、選挙の結果に与える影響は限定的なものになるかと思われるかもしれない。ラストスパートにおける政策議論が報われない、と感じられるかもしれない。

しかし、スウェーデンの期日前投票の制度の非常に面白いところは、後悔して投票し直すことも可能だ、という点だ。ただし、投票し直せるのは、投票日の当日に自分の属する投票区においてのみだが。

私も投票日当日は一日中、出口調査をすることになっていたので期日前投票をしたが、その際、私は自分の支持する政党の投票用紙を小さな封筒に入れて(市議会と県議会別々に)封をし係員に提出する。そうすると、係員はその2つの封筒をさらに大きな封筒に、個人背番号など私を特定できる情報が書かれた紙と一緒に入れて封をし、投票箱に入れてくれる。

さて、投票日の晩にこの投票箱を開ける時にはどのような作業になるかというと、まず、係員はそれぞれの個人別の大きな封筒を開け、私の個人背番号をデータベースに照会する。もし、私が当日に自分の投票区において再び投票していれば、それが判明するため、係員は大きな封筒の中に入っていた小さな封筒(投票用紙が入っている)を開けることなく廃棄処分する。もし、私が当日に再び投票していなければ、小さな封筒を開票・カウント作業に回す。この時点で、私の投じた票が無名化する。

実際のところ、この後悔制度を利用する有権者は前回の選挙ではごくわずかだったというが、今回の選挙では投票日に向けた最後の週になって、政策議論に変化があった(「クラミジアの手紙」)ので、もしかしたら後悔制度の利用者も増えたかもしれない。直前の世論調査では、左派ブロック(赤緑連合)が少し挽回してはいたものの、右派ブロックが優勢であることには変わりなかった。しかし、社会民主党のモナ・サリーン党首は「既に期日前投票をした人でも、当日に投票し直すことができる」としきりに訴えて、最後まで努力していたのが印象的だった。

政治家に対する信頼が大きく上昇

2010-09-24 07:02:37 | 2010年9月総選挙
投票日当日やその前の期日前投票においてスウェーデン・テレビ(SVT)出口調査を行った。全部で200人ほどの集計員の一人として私も参加したが、全国で11889人から回答を得ることができた。

この目的は、どの政党に票を投じたかを聞き出して、その日の晩の開票番組における得票率予測のベースにするためだけではない。性別年齢、社会的バックグランド、前回の選挙での支持政党なども合わせて尋ねることで、世論の動きを把握することも大きな目的であった。

質問事項の一つにこんな質問があった。
「一般的に言って、あなたがスウェーデンの政治家に寄せる信頼はどれだけ大きいか?」
選択肢は4つ。(1) 非常に大きい、(2) やや大きい、(3) やや小さい、(4)非常に小さい

結果はどうだったかというと、全体で70%の人が(1)非常に大きい、もしくは(2)やや大きい、と答えていたことが分かった。これは4年前、そして8年前の国政選挙の時の54%と比べると、大きく上昇している。


「スウェーデンの政治家」という問い方は、非常に曖昧であるため、政権を握っている政党の政治家も指すし、野党の支持者であれば自分が支持している政党の政治家を指すこともあるだろう。ここでは、両方の可能性があることを考慮に入れつつも、主に前者のケースを念頭に置きながら考えてみたい。

リーマンショック以降の金融危機や経済・財政危機の中で、先進国の多くでは政治家に対する信頼が低下し、デモが相次いだり、政権への支持率が急落していることを考えれば、スウェーデンでのこの傾向は驚くべきものであろう。そもそも、政権与党が危機を経た後で再び選挙に勝ったということ自体も、注目すべきことかもしれない。

しかし、このブログでも何度か紹介したように、スウェーデン経済は危機をうまく乗り越えることができ、今は上昇気流に乗りつつあるし、危機を経た後も財政赤字や累積赤字は低い水準に抑えられてきたため、マクロ経済に対する懸念は小さい。失業保険や疾病保険の削減で一部では問題も生じているが、社会全体としてみれば、将来に対する期待や希望は大きいといえる。そのような事実に加え、中道保守の連立政権は「自分たちが実行してきた政策のおかげで危機の影響が軽微で済んだ」と盛んに繰り返してきたが、そんなPRがちゃんと有権者のもとに届いたことの現れとも言える。それに、危機の最中にも低中所得者への減税を行うことで、彼らの支持もちゃんと維持できたことも背景にあるだろう。

当然ながら、連立政権の支持者ほど、政治家に対して大きな信頼を寄せていると答えている。全体の平均は既に触れたように70%だったが、保守党・中央党に投票した人の83%自由党に投票した人の79%キリスト教民主党に投票した人の81%大きな信頼を寄せている((1)もしくは(2))、と答えていた。

これに対し、野党の支持者が政治家に寄せる信頼はそこまで高いものではないが、それでも社会民主党に票を投じた人の65%環境党67%左党58%が、大きな信頼を寄せいていると答えていた。野党の支持者でも「政治家は頼りにならない」という諦めを感じている人は、そこまで多くはないのだ。

一方、既成の政党に不満を感じている人の多くが投票したと考えられるスウェーデン民主党海賊党(パイレーツ党)の支持者を見ると、「政治家を信頼している」と答えた割合はわずか27%25%に過ぎない。私は、今回初めて議席を獲得したスウェーデン民主党に票を投じた人の多くは、ネオナチなどの極右イデオロギーを信奉するという理由からではなく、日々の生活や社会に不満を感じ、既成政党に対して抗議する目的や、スウェーデン民主党が掲げる分かりやすい政策主張に惹かれたために票を投じた一般のおじさん・おばさんだと考えているが、このアンケート結果も一つの裏づけとなるのではないかと思う(他にもそれを示す指標があるが、また別の機会に)。

ちなみに、日本でも政治に対する漠然とした抗議のために、空白の票を投じる人がたまにいるが、今回の調査でも、空白票を投じた人のうち、政治家を信頼していると答えた割合は19%にとどまった。私はこの数字はむしろ大きすぎると思ってしまう。この19%の人は、では何のために空白票を投じたのだろう?

右派ブロックの過半数は・・・?

2010-09-23 06:46:38 | 2010年9月総選挙

即日開票に間に合わなかった、国外で投じられた票投票日当日に自分の投票区とは別の投票所で投じられた票の合わせて10万票あまりは、今日水曜日に数えられて集計に加えられた。即日開票では一部の選挙区で接戦となっていたため、この10万票が即日開票での議席配分を覆す可能性は十分にある

注目されるのは、右派ブロック(現・中道保守政権)があと3議席取り、過半数となる175議席に達するかどうかだ。朝刊によると、その可能性は十分にありうるという。


注目の選挙区は3つ。まず、ダーラナ県選挙区。ここでは、左党社会民主党よりもあと42票多く取れば、社会民主党が1議席失い、その議席が中央党にわたるという。

(ん? 何かおかしくないか、って? いや、そんなことはない。スウェーデンの代表比例制は、いくつかの選挙区からなる中選挙区制と、それに基づく議席配分と全国での得票率との間に生じる差異を調整するための大選挙区制からなっているためだ。上の例で言えば、ダーラナ選挙区での1議席が社会民主党から左党にわたることで、本来は左党がもらうはずだった大選挙区調整議席からの1議席が中央党に流れるということだ)

次に、ヴァルムランド県選挙区。ここでは、自由党社会民主党よりもあと92票多く取れば、社会民主党が1議席失い、その議席がキリスト教民主党にわたる。
(ここでも、正確な話をすれば、ヴァルムランド選挙区での1議席が社会民主党から自由党にわたることで、自由党が本来はもらうはずだった大選挙区調整議席からの1議席がキリスト教民主党に流れるということなのだ)

3つ目はヨーテボリ市選挙区。ヨーテボリは人口が多いので、市そのものが一つの選挙区になっている。ここでは、自由党社会民主党よりもあと164票多く取れば、社会民主党の議席が自由党に流れるという。

今日は一日中ニュースをチェックしていたが、午後3時半ごろ、ダーラナ県選挙区で開票作業がすべて終わった結果、社会民主党が議席を失い、中央党にわたることが明らかになった、というニュースが流れてきた(ここで鍵を握ったのは、左党の票ではなく環境党の票だったという)。

その晩にはヨーテボリ県選挙区でも集計作業がほぼ終わったというニュースが入ってきた。ここでは、自由党があと9票のところで社会民主党の1議席を取り損ねたということだ。

そして、夜11時前にはヴァルムランド県選挙区でも作業が終わった。ここでは、自由党があと7票のところで社会民主党の一議席を取り損ねたという。

つまり、右派ブロック(現・中道保守政権)は1議席を獲得しただけで、過半数まではあと2議席足りないということなのだ。ただし手書き票の中には判断の難しいものもあるというので、それらの再チェックが行われ、場合によっては裁判に持ち込まれる可能性もあるらしい。夜のニュースのコメンテーター曰く「まるで、アメリカ大統領選挙のフロリダ州のようだ」

しかし、2、3票差ならまだしも、7票差や9票差ということだから、これ以上覆ることはないのではないかと思う。となると、いよいよ政権樹立に向けた交渉が始まっていくことになる。右派ブロックが過半数未満で連立政権を打ち立てるのか、それとも環境党を加えた過半数政権を選ぶのかが注目される。

最終結果は水曜日に発表

2010-09-22 04:59:55 | 2010年9月総選挙
投票が行われた日曜日の夜は、即日開票で票が数えられたものの、その日のうちに伝えられた選挙結果は、あくまで仮のものに過ぎなかった。期日前投票のうち、前日の土曜日に投票されたものや、国外で投票されたものが加わっていないからだ。

即日開票で数えられた票も含めて、現在、集計作業が続いている。このブログを書いている火曜日夜の時点で、カウントがすべて終了したのは6063投票区のうち、3601だ。水曜日も作業が続けられ、その日のうちに最終的な投票率と議席配分が発表される。

前回の記事で、環境党がキャスティング・ボードを握る、と書いたが、もしかしたらそうならない可能性もある。即日開票では、右派ブロック(現・中道保守政権)が172議席を獲得し、過半数に必要な175議席まであと3議席足りない、という結果になったが、期日前投票の一部や国外での投票分しだいでは、175議席に達する可能性も出てきたからだ。しかも、1000票ほどの違いで明暗が分かれるというではないか。


(比例代表制の選挙制度なのに、なぜわずか1000票の違いで3議席も増えることになるか疑問に思われるかもしれないが、選挙区ごとの議席配分に加えて、ズレを調節する全国区の議席配分という少しトリッキーな制度があるために、そういうこともありうる。それについては、またの機会に)

だから、今日火曜日は政治的な動きは全くなく、皆がただひたすら最終結果を待ちわびていた。

さて、私は何を期待すればよいのだろう? 応援していた「赤緑連合」が敗れて、右派ブロックが今後も政権を握ることがほぼ確定した。
(ケース1)もし、最終的に右派ブロックが175議席を獲得することになれば、過半数政権という安定政権を樹立することができ、極右政党の影響力を除外することができる。これはこれで喜ぶべきことだ。しかし、右派ブロックの政策内容は、私にとって必ずしも喜ぶべきものとは言えない。
(ケース2)もし、最終的に右派ブロックが175議席未満しか獲得できなかった場合、環境党と右派ブロックが閣外協力もしくは連立形成に向けた交渉を始めることになる。ここで、交渉がうまく行き、連立が成立し、環境党が副大臣をはじめとする大臣ポストを獲得することになれば、右派ブロックの政策内容に影響を与えることができ、社会保障の削減や減税といった政策にブレーキをかけることができるかもしれない。しかし、連立ではなく、閣外協力に終わり、わずかな影響力しか持てない可能性もある。もしくは、交渉そのものが破談となり、極右政党が政権運営においてキャスティング・ボードを握る可能性もある。

ケース1の場合、右派ブロックのマニフェスト通りの政策が実行されることになるため、面白みは何にもない。ケース2の場合、うまく行けば右派ブロックのマニフェストとは異なった政策が実行されることになり、面白い展開となるが、うまく行かなければ、ケース1よりも最悪な状況となる。

さあ、どちらを期待すれば良いのか?

キャスティング・ボートを握る環境党

2010-09-21 07:56:46 | 2010年9月総選挙
保守党(穏健党)を中心とする右派ブロック(現・中道保守政権)の勝利がほぼ確実となった昨日の深夜、ラインフェルト首相は開票番組をともに見守ってきた党のメンバーに向かってこう言った。「過半数の政権を樹立させるために、環境党と協力関係を築きたい。」

しかし、今日月曜日は具体的な交渉はまだ始まらなかった。実は、開票作業がまだ続いており、最終的な議席配分については水曜日にならないと明らかにならないからだ。ラインフェルト首相は記者会見で「最終結果が分かるまでは議論は始めない」と述べた。

さて、環境党の今後の出方が気になるところだが、ラインフェルト首相の記者会見の直後に、党首のマリア・ヴェッテシュトランドペーテル・エリクソンは記者会見を開いた。この中で、右派ブロックとの協力については否定的な見解を示した。「環境党に票を投じてくれた人から託されたのは、目標達成に200年もかかるような気候変動対策を進めている現政権を支援することではない。現政権は、生活が最も脅かされている人や、次世代の人々、そして、地球の反対側の人々を苦しめ、短期的視野に立った政策を行っているが、そのような政権に環境党が加わることはできない。」


これだけ聞けば、環境党が右派ブロックと手を結ぶことはなさそうだと思われるかもしれないが、その判断は時期尚早だろう。むしろ、閣外協力もしくは連立樹立のための交渉に向けた所信表明と見るべきだろう。つまり、まず自分たちと相手との立場の相違点を明確にした上で、自分たちがどうしても譲れないものを(少し多めに)示しておく。そして、実際に交渉を始める段階になったときに、相手がある程度の譲歩を準備しておいてくれることを期待しているのだろう。

環境党と現政権との意見の相違といえば、例えば、現政権が行ってきた疾病保険の給付条件の厳格化に対して、環境党は社会民主党などとともに強く反発してきたし、老朽化した原子炉の更新ストックホルム・バイパス建設オオカミ猟にも反対してきた。一方、環境党は二酸化炭素税の引き上げや運輸トラックに課すキロメートル税の導入、高速鉄道建設を主張しているものの、現政権は反対している。しかし同時に、現政権が行った高額資産税の廃止や、企業の育成をはじめとする産業政策などにおいては、現政権と環境党との距離がかなり小さい。

また、環境党は記者会見の中でこうも付け加えた。「保守党は、環境党だけでなく、私たちのパートナーである社会民主党や左党も、協力に向けた議論に招くべきだ。」

しかし、現政権が社会民主党ならまだしも左党まで招いて、協力関係を築くための議論を行うとは考えられない。だから、これは明らかに無理を承知で言っていると考えられる。では、なぜこういうことを言うかというと、これまで「赤緑連合」をともに築き、政権獲得に向けて共同マニフェストまで作って、選挙キャンペーンを行ってきた仲だから、選挙が終わった途端に相手ブロックに鞍替えした、と受け取られたくはないからだろう。それに、自分たちの党員に対する建前もある。

環境党も「赤緑連合」という枠組みが4年後の選挙まで維持できるとは考えていないはずだ。むしろ、いつ崩壊してもおかしくない。社会民主党も、選挙の敗因の一つは、この赤緑連合を築いたことだと考えている。環境党も、本音としては現政権との協力を前向きに考えているが、今すぐには難しいが、そのうち「やむを得ず現政権と手を組んだ」というポーズを取りたいのだろう。

――――――――――

状況は、2002年9月の国政選挙の直後の状況によく似ている。社会民主党+左党中道右派4党の得票率が伯仲し、その間に環境党がいた。そして、この環境党は社会民主党が自分たちの要求を呑まなければ、中道右派4党と手を組むと脅しをかけたのだった。当時、スウェーデンに住み始めて2年が経っていた私は、同じ寮に住むスウェーデン人の友達を興味深く、議論の行方を見守っていた。選挙の後、2週間ほどが経って、やっとのことで、環境党社会民主党・左党と合意に至り、環境党と左党の閣外協力による社会民主党のパーション内閣が存続することが決まったのだった。

開票速報

2010-09-20 08:18:47 | 2010年9月総選挙
投票日の今日は、ヨーテボリ郊外の一つの投票所に一日中張り付いて、スウェーデン・テレビ(SVT)の出口調査をやった。面白い経験がいくつかあったが、それはまたの機会に。

どっと疲れて帰宅し、夕飯を食べ(昼食を食べる時間が全くなかった・・・)、ソファーに横になり(soffliggare!)、19時から開票番組を見ていた。投票所が閉まり、開票が始まるのは20時からだ。


今回の選挙の注目点は2つ。
1つは、支持が伯仲している右派ブロック(現・中道保守政権)と左派ブロック(赤緑連合)のどちらが勝つか、ということ。
もう1つは、極右政党であるスウェーデン民主党が議席を獲得するかどうか?ということ。いや、これまでの世論調査から、議席獲得に必要な4%ハードルを超え議席を獲得する可能性はほぼ明らかになっていた。だから、むしろ注目されたのはどれだけ支持を伸ばすか、ということだった。

下の表では、2006年国政選挙の結果、今日19:50に発表されたTV4の予想、20:00に発表されたSVTの予想、そして、最終的な結果を示す。この詳細についても、いろいろ書きたいことがあるものの、時間がないので別の機会に。



そして、最終的な議席配分は、以下の通り。


まず、第1点目については、右派ブロック(現・中道保守政権)の勝利だ。左派ブロック(赤緑連合)は最後に少し挽回したものの、遠く及ばなかった。

第2点目については、スウェーデン民主党が4%ハードルを越えただけでなく、5.7%も獲得した。これは、上の表から分かるように出口調査による予想をはるかに上回っていた。「スウェーデンも、ついに他のヨーロッパと同じく極右・ポピュリストの政党が議席を獲得するようになってしまった」というのが、内外の反応だ。

ただ、それは今回が初めてではない。90年代の初めには、新民主党というポピュリストの政党が3年間だけ議席を獲得したことがあったが、長続きしなかった。今回もそうなる可能性もある。

また、そのような極右・ポピュリスト政党が既に二桁台の得票率を持つノルウェーや、政治全般に大きな影響力を持っているデンマーク、そしていくつかのヨーロッパ諸国に比べたら、スウェーデンはまだまだ5%台だからましなほうだ。

スウェーデン民主党に票を投じた人々の多くは、これまで社会民主党や保守党などに票を投じてきたものの、自分たちの声がなかなか取り上げてもらえないと、不満を感じた一般の人々だと見られている。特に、もともとあった産業が廃れたものの新たな産業への転換に失敗したために、失業率が高くなった、小さな町に住む、低所得層が支持に回る傾向にあることが、過去の調査などでも明らかになっている。昨年の欧州議会選挙では、著作権を無視した自由なダウンロードを主張する海賊党(パイレーツ党)が二桁台の得票率を取って躍進したが、今回はスウェーデン民主党がおなじように「不満層の党」として躍進したと見られる。

一方で懸念されるのは、このスウェーデン民主党という党が、ただ単にポピュリストの党であるだけでなく、ネオナチ・白人至上主義・反イスラム・移民排斥を主張する運動を源流としている点だ。そのようなイメージでは世論に広く支持を訴えるのが難しいため、近年はイメージアップに相当の力を入れ、過去の暗い歴史を消すことに躍起になってきた。そんな党が、既成政党に不満な一般の人々の支持をバックにしながら、今後さらに躍進してくることも考えられる。

さらに大きな問題は、右派ブロック(現・中道保守政権)が過半数の175議席を獲れず、173議席に留まった点だ。だから、今の状況で連立政権を維持しようとすれば、スウェーデン民主党にキャスティング・ボートを握られる可能性がある。


開票番組のスタジオに招かれた現政権の4党首

ただ、この点については、大きな心配はいらないのではないかと私は思う。左派ブロック(赤緑連合)の一つの党が、ブロックの垣根を越えて右派ブロックと連携することで、過半数政権を形成することができれば、スウェーデン民主党の影響力を排除できるからだ。しかし、そんな党があるのか?

実は、環境党はブロック形成に関しては以前から柔軟な態度を示しており、2002年国政選挙の直後にも社会民主党とではなく、自由党・中央党・キリスト教民主党などの中道右派政党と手を組むことも考えていた(『沈黙の海』で登場する、バルト海におけるタラの禁漁の一件だ)。また、2006年以降の中道保守政権下でも、政策によっては彼らと手を組んで法案を可決させたこともあった(例えば、労働移民の緩和など)。さらに、環境党の地方支部によっては、社会民主党や左党との赤緑連合に反対で、むしろ中道寄りを志向する党員が多いところもあるという。

実際、今日の開票番組の中でも、夜11時半頃だったであろうか、保守党のラインフェルト首相が党員や支持者に向けたスピーチの中で「これから環境党と提携を視野に入れた交渉を始めていく」と明言したのだ。

これは非常に面白い動きになってきた。というのも、もし環境党が右派ブロックに加わるならば、保守党に次ぐ第2党になるからだ。これまで右派ブロックを形成してきた自由党や中央党、キリスト教民主党よりも多くの票を獲得しているからだ。だから、ブロック内の力関係を大きく変えることになる。交渉次第では、閣僚ポストを手に入れることも夢ではない。そうなると、一つは環境大臣のポストだろう。現在の中央党出身のカールグレン環境相を追いやることができる(笑)。私の友人の中には、第2党なら副首相も夢ではない、と見る人もいる。

つまり、キャスティング・ボードを握ることになったのは、スウェーデン民主党ではなく、むしろ環境党だ、と捉える見方も可能だということだ。これは非常に面白い。現政権は、環境政策の面では後ろ向きだと批判され続けてきたが、環境党が影響力を行使することで、それが変わる可能性があるからだ。

では、現政権と環境党との政策的距離はどれだけ近いのか? 税制に関しては、合意しやすいといえるだろう。一方、例えば原発政策や風力発電の普及などは、現政権の一翼をなす自由党と真っ向から対立する。また、ストックホルムのバイパス建設やスウェーデン高速鉄道計画でも、現政権と見解を異にする(環境党は前者に反対、後者に賛成)。

だから、両者がどこまで妥協できるかが問題だ。もし、環境党の側があまりに妥協しすぎると、党内で不満が高まり、党が分裂したり、支持を失う可能性もある。他方で、あまりに厳しい要求を突きつけて、提携の話を反故にしてしまい、結局、スウェーデン民主党に影響力を持たせることも避けたいはずだ。

だから、明日から始まる交渉が非常に注目される。マリア・ヴェッテルシュトランド環境大臣・副首相の誕生か?

選挙の前日

2010-09-19 06:55:40 | 2010年9月総選挙
各党の党首は最後の最後まで大忙しだ。左派ブロック(赤緑連合)3党の党首は、土曜日の午前中、ストックホルムの2ヶ所での野外集会に参加した後、午後はヨーテボリで開かれた大きな野外集会に参加した。

同じ日に500km以上離れた2つの町で集会に参加するのは大変だ。てっきり彼らは飛行機で移動したのかと思ったが、なんと国鉄SJの特急X2000に乗ってやって来たから驚いた。最近、特に事故や遅着の多い国鉄なので、幹線で問題が生じればヨーテボリの集会に参加できなくなってしまう。最後の挽回を図りたい左派ブロックにとっては、それだけは避けたいところだ。鉄道が機能しなくなった場合に備えて、途中からタクシーかバスをチャーターするなどの代替案を用意していたのだろうか?

「環境党が加わっているから、何が何でも鉄道を使ったのかな?」と私がつぶやくと、たまたま隣にいた左党の候補者(市議会議員)である知人が「左党の環境政策も悪くないぞ」と、環境政策における左党の存在感も知ってくれと言わんばかりに、横から口を挟んできた。

3党の党首を乗せた特急は定刻通りに到着し、彼らは中央駅からヨータ広場までを行進。ステージに登場した。




3党首を紹介する、ヤン・エリアソン。彼はベテラン外交官であり、
社会民主党政権で外務大臣を務めたことがある。国連での要職も歴任。
保守党のカール・ビルトではなく、彼に外務大臣を任せたい。


「新しい政権」
社会民主党は毎回、最後の選挙キャンペーンをヨーテボリで締めくくることにしている。ニュースによると5000人が集まったという。


一方、対抗する右派ブロック(現・中道保守政権)は、朝はマルメ、昼はヨーテボリ、夕方はストックホルムと、スウェーデンの3大都市をはしごしたのだ。驚くべきことだ。

ヨーテボリでは、Nordstanというショッピングセンター内で大きな集会を開いたようだが、私はいろいろと思うところがあり、もう彼らの声を聞く気が起きなくなってしまい、行くことはなかった。

最終ラウンド

2010-09-18 08:05:10 | 2010年9月総選挙
最終ラウンドがやって来た。

19日の総選挙に向けて昨年後半から徐々に始まってきた政策論議は、今年春から本格的になり、8月からは日ごとに勢いが増してきた。しかし、その選挙活動もメディア上ではこの金曜日で最終ラウンドとなった。公共テレビのSVTによる党首討論が、長く続いた選挙活動の締めくくりとなったのだ。週末土曜日も各地で最後の選挙活動が展開され、例えばヨーテボリでは、赤緑連合(左派ブロック)3党の党首が終結し、支持を訴えるものの、メディア上ではこれ以上、目立った動きはない。

金曜日のSVTでの党首討論も白熱したものとなった。そして、その最後に、各党の党首が1分ずつ最後の主張を行った。スウェーデンでは日本の「政見放送」などという番組はないが、敢えて言えば、この1分間の凝縮した主張政見放送に相当するものだといえるのではないだろうか。

ここでは、最終演説をいくつか紹介したい。

まずは、環境党。党首の一人であるマリア・ヴェッテシュトランドだ。



「数週間前の日曜日、私は元・大主教であるK.G.Hammarに会った。彼は非常に賢いことを口にした。政治的な決定を行うすべての場には、声のない者のために3つの席を用意すべきだ、と。最初の席に座るのは、私たちの曾孫だ。次の席に座るのは、現存するすべての生物種だ。そして、3つ目の席に座るのは世界中の貧しい人々だ。昨年コペンハーゲンで開催されたCOP15の会議において、この3つの席が用意されていたならば、どういう決断がなされたであろうか考えてみるが良い。我々のライフスタイルは、地球の反対側の人々を苦しめ、自然から搾取し、我々の後にこの地球上で暮らす次世代の人々の生活条件を破壊することで成り立っている。健全な環境と気候なしには、我々は豊かさを築く基盤がないに等しい。我々は、あたかも地球上で暮らす最後の世代であるかのようなライフスタイルを維持してきたが、それに終止符を打つ時がやって来た。今とは違う未来があるはずだ。私はすでに環境党に票を投じた。あなたにもそうしてほしいと思う。」

次に紹介するのは、社会民主党のモナ・サリーン党首の最終演説だ。


「私も減税には賛成したい。しかし、何が何でも、というわけではない。もちろん、我々の多くは自分たちの生活を豊かにしたいと願うが、そのために他人を犠牲にしてもいいとは思わないはずだ。私は、保育所の保育士一人あたりの子どもの数を減らし、学校の教師の数を増やし、気候対策に力を注ぐことを優先したい。そうすることで、雇用を増やし、未来に対する責任を負いたい。私は、社会的連帯と公正・平等を優先したい。そう思うのは、スウェーデンという社会の責任を負いたいからだ。今必要なのは、これ以上の減税ではない。私たちはもう既に減税の恩恵を受けてきたからだ。今必要なのは、スウェーデンをより強固な社会にする投資である。投票日である日曜日には、そんな政権を我々は選ぶことができる。社会民主党に票を投じよう。そして、赤緑の連立政権を誕生させよう。そうすることで、我々はこの国における公正・平等に責任を負うことができる。」

公平さを期すために、右派ブロックの第一党である保守党の最終演説も紹介しておこう。


「自由党の党首が言っているように、右派連合や保守党も人々がそれぞれの能力を生かして成長すべきだと考えている。そして、それはスウェーデン中のすべての人に当てはまる。厳しい危機に際しても、我々の政権はスウェーデン社会に対してちゃんと責任を負えることを示してきた。前回の選挙で約束した政策を実行してきた。我々はスウェーデンに対する責任をさらに4年間、負う準備ができている。雇用を増やし、財政を安定させるためだ。雇用のための政策を実行する者は、社会保障の財政を確保する責任も負っている。それができてこそ、全体を統括した政策と呼べる。月曜日に我々が目を覚ましたとき過半数を獲得した政権が誕生しているという状況を生み出すために、あなたは日曜日に正しい選択をすることができる。そんな状況が、今や実現可能な範囲内にある。右派ブロック4党のどこかに票を投じよう。保守党への一票は、雇用への一票を意味している。」

2度も起爆に失敗した爆弾発言

2010-09-17 06:46:27 | 2010年9月総選挙
昨日のブログで、左党の選挙ポスターを紹介したが、この党の党首ラーシュ・オーリュー(Lars Ohly)が面白いハプニングを生中継で起こした。いや、正確に言えば、起こそうとしたけどベストなタイミングを逸した、というべきだろう。

事の発端は、公共放送であるスウェーデン・テレビ(SVT)が2週間ほど前に生中継で放送した党首尋問の最後の場面だった。時間が来て番組が終わりかけていたとき、彼はこう言った。
「一言、言いたいことがある。」



しかし、「ダメダメ」と司会者に遮られてしまう。「ここではダメ。このすぐ後で視聴者とSVTのホームページ上でチャットができるから、その時に」と言われてしまう。彼は笑ってごまかした。この時に、彼が何を言おうとしたのか、おそらく気にかけた人はいなかっただろう。

しかし、今週水曜日に民放テレビのTV4左派ブロック(赤緑連合)3党の党首を招いて、党首尋問をしたとき、彼は再び最後になって「一言、言わせてほしい」と言ってきたのだ。何が言いたいのだろう?



司会者「あなた方は明日もこのスタジオに来てもらうことになります。与党4党の党首との討論対決があるからです。」
ラーシュ・オーリュー「番組を締めくくる前に、一つ言わせてほしい。」
司会者「ダメダメ、あなたは明日もここに来るんだから。」
ラーシュ・オーリュー「言わせてくれ。この間、SVTで尋問を受けたときに、最後のせりふを言うことができなかった。いま、ここでそれを言わせてもらえれば、非常に面白いことになる。何が言いたいかというと・・・」

ここで、司会者が無理やり番組を終了させてしまい、彼の声の一部は番組の後ろで聞こえるだけ。「私は今のガールフレンドと8年間同棲してきた・・・」 (8ヶ月と聞こえるが、後で8年と答えている)

実は、プロポーズをしようとしたのだった。本当は番組中にドラマチックにやりたかったのだろう。しかし、2回目も失敗してしまった。しかし、もう口にしてしまったものは、しょうがない。結局、中途半端なプロポーズとなってしまった。今日は、この話題が巷を駆け巡っていた。

左党の選挙ポスター

2010-09-16 03:59:06 | 2010年9月総選挙
今回は、旧共産党である左党の選挙キャンペーンポスター。スローガンは「寄り添って団結しよう(Håll ihop)」

「民間主体が利益を上げることなく」という言葉がたびたび登場するのは、現在の中道保守政権が、保育・教育・医療・高齢者福祉といった社会サービスの効率化や質の向上を、民間主体も交えた競争原理の導入によって達成しようとしている考え方に反発してのものだ。

これまで公的に運営されてきた保育・教育・医療・福祉施設の払い下げによる民営化や、民間による施設の新設を認めたうえで、サービスの供給を民間主体にも委託する政策が進んできた。民間主体がサービス供給の委託を受ける場合でも、運営費の大部分は公費から賄われているが、民間主体が効率化を通じて手にした利益は株式の配当にまわすことができるようになっている。左党は、その動きにストップをかけたいのだ。しかし、同じ左派ブロック(赤緑連合)である社会民主党環境党は、左党の考えには全面的に賛同していない。


「医療 - スウェーデンが必要としているのは、所得に関係なく
すべての人が利用できる医療制度。だから、私たちは世界で一番の
医療を築きたい。民間主体が利益を上げることなく。」



「教育 - スウェーデンが必要としているのは、家庭のバック
グランドに関係なくすべての生徒に同じ可能性を提供する教育制度。
だから、私たちは世界で一番の教育を築きたい。民間主体が利益を
上げることなく。」



「社会福祉 - スウェーデンでは保育・高齢者福祉・障害者福祉
といった社会サービスが、家計の経済状態に関係なく誰にでも必要に
応じて利用できるべきだ。だから、私たちは世界で一番の社会福祉を
築きたい。民間主体が利益を上げることなく。」



「社会保障 = 医療・教育・社会福祉 - 社会保障とは、
お互いを助け合うということ。だから、私たちは世界で一番の
社会保障を築きたい。民間主体が利益を上げることなく。」



「寄り添って団結しよう - スウェーデンが必要としているのは、
お互いが助け合う政治。だから、左党は世界で一番の社会保障を
築きたい。民間主体が利益を上げることなく。」

党首であるラーシュ・オーリュー。


「寄り添って団結しよう - 私たちの中には、保育サービスを
必要とする人もいるし、高齢者・障害者向けタクシーサービスを
必要とする人もいるし、歯科医療や母国語による授業を必要とする人もいる。
一方では、そのようなサービスを全く必要しない人もいる。ただし、
今のうちはね。でも、病気になったり失業したり、もしくはあなたの
家族があなたにできる以上の支援を必要とするようになった場合には、
社会的な支援が必要となる。だから、私たちは世界で一番の社会保障を
築きたい。民間主体が利益を上げることなく。」

キリスト教民主党の選挙ポスター

2010-09-16 02:00:21 | 2010年9月総選挙
キリスト教民主党の選挙ポスター。私自身は、保守的価値観の色濃いこの党にはほとんど興味がありません。スローガンは「より人間味のあるスウェーデン(Mänskligare Sverige)」

動物と「にらめっこ」して勝ちたい、ということのようです。










党首であるヨーラン・ヘッグルンド。社会大臣でもある。


金融市場・地方自治体担当大臣であるマッツ・オデル。


高齢者・住民健康担当大臣であるマリア・ラーション。


「家族により大きな決定権を持たせよう」
政策が介入するな、ということです。でも、そうしたら、
どうやって男女平等を達成できるのだろう?


「高齢者により大切にしよう」
ごもっとも。


「自らの貯金も社会保障の一部」
つまり、資産のある人のほうがより大きな社会保障を受ける権利があるということ?


「待ち時間のない安心できる医療」
ごもっとも。問題は、公的な資源配分をいかに賢く行うか、ということだと思うが

総選挙の争点<4> 教育政策は(その2)

2010-09-15 07:27:02 | 2010年9月総選挙
2年ほど前から統計学の学部生教育にかかわるようになった関係で、19日の投票日にはヨーテボリいくつかの投票所でスウェーデン・テレビ(SVT)の出口調査の調査員をすることになった。それから、その数日前には期日前投票所にも立って、同様の調査をする。

投票を済ませた有権者にアンケートへの記入を求め、それが、その日の夜の開票速報のベースとなる。また、性別・年齢はもちろんのこと、過去の総選挙における支持政党や、今回の選挙でもっとも重要だと考えた政策領域は何か政党を選ぶ情報源は何だったか投票先をいつ決めたか? etc についても尋ねるため、有権者の意識や動向についても把握できる。

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さて、教育政策の続きだ。

教育の分野において、現・中道保守政権(右派ブロック)が大々的に打ち出している政策の一つは「高校職業科における見習い制度(läringsutbildning)」だ。これは職業科のカリキュラムのうち、職業教育の大部分を企業の実際の現場において行うというもので、高校教育とその後の職業とのリンクを密接にし若者の就職を円滑にすることが目的だ。建設業や製造業の一部では即戦力となる高卒者の人手不足が心配されているため、労働組合もこの提案に賛意を示しているし、社会民主党などの赤緑連合も反対はしていない。

以上は高校教育の中での見習い制度についてだが、中道保守政権はこれと同時に、高校を卒業した後の若者(23歳以下)を対象にした「見習い雇用(läringsanställning)」も提案している。これは、失業中の若者を通常よりも低い賃金で雇って、現場で仕事をしながら職能を身につけさせるもののようだ。しかも、雇用保護法(LAS)の適用から除外することで、簡単に解雇ができる。そのため、賃金や雇用条件の悪化に繋がったり、若者が通常よりも低い賃金で働かされることは公正ではないと見る社会民主党や労働組合は反発している。


現・中道保守政権の中で教育分野を担当しているのは自由党だが、この党は他にも様々な政策提案を行って、中道保守政権のマニフェストに盛り込んできた。その中で特徴的なのは、義務教育や高校教育における「規律」と「秩序」を強調している点だ。例えば、学級崩壊などの状況に対応するために、携帯電話の取り上げなど教師・学校の権限を強化する提案を行っている。これは理解できるにしても、他方では、秩序を乱したりといった問題のある児童・生徒を居残り処分停学処分にしたり、別のクラスや学校に移すことができるようにもする提案を行っている。

これに対し、現場の教師などからは、そのような子供たちの問題は、停学やクラス・学校を変えたりすることで解決するわけではなく、むしろ、彼らには教師によるより重点的なケアが必要だ、という声も強い。また、社会民主党も、高校教育ならまだしも、義務教育の段階で「停学」を行うという点を激しく批判している。

また、以前の社会民主党の政権下では、各学校の生徒会の活性化と権限の強化が図られ、学校の意思決定にも児童や生徒の声を反映させ、学校運営に対して彼らの積極的なイニシアティブを取り入れようとしてきたが、自由党はそのような政策を「生ぬるいお遊びだ」と批判してきた。自由党は、生徒会を中心とした生徒民主主義や生徒の影響力をむしろ削減し、教師の権威を取り戻そうと躍起になっている。

自由党の学校教育政策の全般に感じられるのは、秩序を乱す問題児に対して、教師が重点的にケアや支援を与えることよりも、むしろ罰則の強化によって、問題の解決を図ろうとしていることだ。先ほど触れた居残り停学といった処分のほかにも、授業のズル休み成績評定に言葉として加えると脅すことで、児童・生徒に対する抑止効果を働かせようとしている。

しかし、教師を対象にした世論調査によると、現場の教師が最も重要だと考えているのは、問題児への重点的な支援、生徒のケアの向上、学校環境において教師と生徒が互いに守るべき価値観の議論することだ、と答えていることが、テレビのディベート番組でも紹介された。また、現場の教師が最も重要ではない政策と指摘しているのは、子どもに居残りをさせたり、ズル休みを成績評定に加えるといったことだという。

社会民主党をはじめとする左派ブロック(赤緑連合)は以前から、教師の声に沿った政策提案をしてきており、自由党のように、罰則を強化することで教師と生徒・児童の対立をあおるのではなく、教師と生徒・児童が互いに個人として認め合い、尊重しあうことで秩序を維持すべきだ、と主張している。

これに対して、自由党の党首は「甘すぎる」と批判。振る舞いに問題があり秩序を乱す子どもに対しては、親を学校に呼び出し、教室の後ろに座らせるといった措置まで提案しているものの、共働きの社会においてそんなことは現実的な提案とは言えないという声が強い。


ちなみに、自由党の党首Jan Björklund(ヤン・ビョルクルンド)は、義務教育や高校では生徒会で活発に活動しており、自由党にもその頃から党青年部会に加わるようになった。一方、高校卒業後に徴兵を行った後は、そのまま軍隊に残り、将校養成学校で学んで将校・軍事教官を本職とするようになった。最終の階級は少佐であり、その後、政治にフルタイムでかかわるために、予備役将校に転じている(国会議員になる前はストックホルム市議会で議員をしていた)。だから、本来は「リベラル」を志向する自由党が、「規律」や「罰則」の強化ばかりを主張するようになった背景には、彼のこのような経歴があるものと考えられている。選挙を前にした、様々なディベート番組でも現場の教師との意見の相違が目立つように感じる。(続く、かもしれない)

奇跡の逆転はあるか?

2010-09-14 06:17:11 | 2010年9月総選挙
投票日まであと1週間を切ったが、右派ブロック(現・中道保守政権)左派ブロック(赤緑連合)との支持率の差は拡大する一方だ。スウェーデン・ラジオが5つの世論調査機関による調査結果を総括したところ、先週土曜日の時点で右派ブロックが50.0%左派ブロックが43.6%となった。


上のグラフは、前回2006年9月の総選挙以降の各ブロックの
支持率の推移を示している。左派ブロック(赤線)が大きく
引き離し、勝ちが見えていたようなものだったが、今年5月に支持率
が逆転し、その後、急降下してしまった。

また、最近の動きとして顕著なのは、保守党(穏健党)と社会民主党といった大政党や、環境党が支持を落とし、一方で支持率が5~6%程度の小政党が支持を伸ばしていることだ。

ただ、実際に投票する党をまだ明確に決めていない有権者が相当数いると見られている。専門家によっては有権者全体の3分の1もいるという人もいる。今日のスウェーデン・テレビの21時ニュースでも、120万人が流動的と考えられ、右派ブロックに支持を表明している人の24%が、そして、左派ブロックに支持を表明している人の22%がもう一方のブロックに票を投じることも考慮に入れているらしい。だから、今週のキャンペーンが大きな鍵を握るだろう。



ただし、右派ブロック(現・中道保守政権)がついに50%という過半数ハードルに達するようになったため、有権者の中にはこのような考え方をする者がいるかもしれない。「本当は左派ブロック(赤緑連合)に票を投じたいのだけれど、極右政党であるスウェーデン民主党に影響力を持たせないためには、右派ブロックを支持して彼らに過半数を獲らせた方がいいかもしれない。」 もし、このような戦略的思考をする有権者が続出すれば、今後も右派ブロックが支持を伸ばしていき、左派ブロックには勝ち目が無くなるかもしれない。

最終週に一発逆転を図りたい左派ブロック(赤緑連合)。環境党で政策秘書をしている友人から、こんなリンクが送られてきた。




「右派ブロック(Alliansen)は既に勝った気でいるようだ。9月19日には奴らをびっくりさせてやろう!」

ゴール間近に差し掛かり、右派ブロック(Alliansen)は余裕の様子。後ろには、左派ブロック(Rodgron)が遅れてやってくる。しかし、ここで思わぬハプニング!

実際にこうなるかどうか。投票日が楽しみだ。

保守党(穏健党)の選挙ポスター

2010-09-13 22:00:56 | 2010年9月総選挙
右派ブロックの第一党である保守党(穏健党)の選挙ポスター。前回の総選挙に続いて、キャッチフレーズは「新しい保守党 (Nya moderaterna)」

中道を意識し、社会民主党のかつてのスローガンを流用しているところが特徴的だ。

また、スウェーデンの社会保障制度の根幹をなしている「社会保障と雇用のリンク」という原則の綻びを補うべく、なるべく多くの人々が働く社会の重要性を訴えている。


「みんなで一緒に前に進もう」
人々の連帯を意味する「一緒に(tillsammans)」という言葉は、
社会民主党が大好きで過去のキャンペーンにも盛んに使っていた。
一般的には「左派」というイメージが強い。だから、その言葉を
保守党が使い始めたのは面白い。


「みんなで一緒に、スウェーデンを一歩先を行く国にして行こう」
ここでも「一緒に(tillsammans)」が登場。


「雇用問題を解決できるのは『働く人のための党』だけ」
自分たちを『働く人のための党/労働党(arbetarparti)』
と称しているところが面白い。


「安心して暮らせるためにはより多くの警察官が必要」


「スウェーデンのすべての学校が『優』という評価を
もらえるように(学校教育の質を高めていこう)」



「税務登録をした仕事には賛成、税を納めない闇の仕事には反対
- 新たな雇用に『ノー』と言っている余裕が私たちにはあるのか?」

清掃や庭の手入れといった家事労働サービスの税額控除制度
(RUT-avdrag)
のことを指している。


「誰も働かなくなったら、どうなる?」


「休暇 - より多くの人々が働くことがなぜ重要か、に対する一つの理由」
多くの人々が働くことで高い付加価値が生み出されるからこそ、
私たちは休暇を楽しむ余裕が持てるのだ、という理屈。特に
高齢化社会を意識している点に注意。現役世代のより多くの
労働力が就業しなければ、私たちが享受している夏の長い休暇を
今後も維持しながら高齢化社会を支えていくのは難しくなる、
という考えだ。


「お昼3時のコーヒー休憩(フィーカ) -
より多くの人々が働くことがなぜ重要か、に対する一つの理由」

これも同じ理屈。


「毎月25日 - より多くの人々が働くことがなぜ重要か、
に対する一つの理由」

毎月25日はスウェーデンでは給料日だ。給料を得て豊かな
生活を送ることができるためにも、より多くの人々が働か
なければならない、という理屈。

以上、3つのポスターの一番下には「スウェーデンで唯一の『働く人のための党(労働党)』」と書かれている点に注意。つまり、社会民主党はもはや労働者のための党ではない、と言いたいのだ。


左はすでに紹介した社会民主党の選挙ポスターだが、そのミスを指摘し
訂正すべく、自分たちのポスターを横に張っている。
失業者の数は46万6000人ではなく、
41万5000人であると訂正した上で、

「現政権の政策のおかげで、6月以降さらに5万1000人の人が
仕事に『駆けつける』ようになった。」


下のほうには、

「働くことが得になるべきだ。
職業斡旋活動の強化、若者向けの現場見習い教育の導入、
さらに多くの企業。現政権の政策を続けていくことを躊躇することなどできない。」


社会民主党が使っている「Vi kan inte vanta. (We cannot wait)」
というフレーズを、そのまま使って切り返している点が面白い。
しかも、社会民主党の「可能性の国(Mojligheternasland)」
に対抗して、「一歩先を行く国(Foregangsland)」
という言葉を使っている。