日本の原子力発電施設の安全を監督したり活動を規制する原子力安全・保安院(Nuclear and Industrial Safety Agency, NISA)という組織が、経済産業省の所轄下にあることは、大きく批判されている。国策として原発推進を掲げる経済産業省のもとで果たして公正で客観的な安全監督が行えるのか?という疑問はもっともだ。実際、原発推進に都合の悪い事実は隠したり、表現を丸く改める(原子炉の「設計ミス」を「溶接ミス」としたり)ような体質があるという。また、電力会社の高級ポストが経済産業省の天下り先となり、持ちつ持たれつの関係が出来上がっているようだ。例えばこのサイト
原子力安全・保安院が、仮に第三者の観点からきちんとした安全監督や活動規制が行えたとしても、経済産業省とのそのような組織関係を持っていたのでは外部からは常に疑いの目で見られざるを得ない。
だから、電力業界との利益関係から独立した原子力安全監督機関が作られるべきだし、今までそれが放置されてきたことはとても不思議だ。一応、内閣府の中に原子力安全委員会という別組織があり、原子力施設の安全管理については原子力安全・保安院とともにダブルチェックを行うことになっているようだ。しかし、審議会程度の組織であり、経済産業省や原子力安全・保安院に対してどれだけ発言力を持っていたのだろうか? (東海村の臨界事故や東京電力のデータ改ざんなどの不祥事を受けて、組織の強化がなされたというが。)そもそも、今回の事件においてほとんど存在感がない気がする(HPを見ると皆勤賞であることは分かるのだが・・・)。
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では、スウェーデンではどのようになっているかと思い、少し調べてみた。日本の原子力安全・保安院に相当するスウェーデンの行政機関は放射線安全庁(Strålsäkerhetsmyndigheten)である。このブログでも過去2週間ほどに何度か登場した。日本で起きている福島原発の動向をスウェーデンにおいて刻々と追っているのがこの機関であり、メディアでも何度も状況の解説をしたりコメントを述べたりしてきた。
さて、この放射線安全庁はスウェーデンのどの省の管轄下にあるかというと、環境省である。人間を含む動植物や生態系を放射線から守ることは環境政策の一つという位置づけからであろう。よって、原子力産業とも産業省とも一線を画しているため、客観的な立場からの監督は行いやすい。そして、実際にも、その客観性・中立性はちゃんと機能しているようだ。
福島原発が危機的な状況になっていく中、テレビやラジオ、新聞などのスウェーデンのメディアでは大学や研究機関の研究者がコメンテーターとして招かれ、危機的な状況の解説や原発の安全性、放射能汚染の拡大などについて様々な解説を行っていたが、よく調べてみるとそれらの研究者の大部分が電力・原子力業界から研究資金を拠出してもらっており、「中立的な専門家コメント」と呼べるかどうか疑わしいケースも多かった。彼らをコメンテーターとして招いたメディア側も、放送の中や紙面上においてその人物が業界側から研究資金を得ていることにきちんと言及していれば、視聴者や読者は自分の頭で彼らのコメントの信憑性を判断することができただろうが、それをきちんと伝えないケースもあったことが問題視されている。
そんな議論がいまスウェーデンであることを念頭に置きながら、話を進めたい。メディアにコメンテーターとして招かれた人の中には、大学・研究機関の研究者だけでなく、行政機関である放射線安全庁の専門家もいた。今週末、スウェーデン・ラジオ(公共放送)のある真面目な番組は、メディア上で取り上げられた大学・研究機関の研究者のコメントと放射線安全庁の専門家のコメントを比較調査し、それを発表していた。それによると、研究者のコメントは福島原発の現状や原発そのものの安全性を楽観視する傾向にあったのに対し、放射線安全庁の専門家のコメントは慎重であり、根拠とできる情報が手元になければ「分からない」ときちんと述べたり、原発の安全性に対しても厳しい発言をしたりと、違いがあったという。
これはあくまで一例に過ぎないが、原子力の安全性を監督するこの放射線安全庁が環境省に属していることを評価できる、一つの材料になりそうだ。
ちなみに、放射線安全庁は、スウェーデン語ではStrålsäkerhetsmyndigheten、英語名はSwedish Radiation Safety Authorityである。StrålとはStrålning(光線・電波・電磁波)の略であり、säkerhetが安全性を意味していることからも分かるように、この行政機関が監督しているのは、原発から出る放射線に対する安全性だけではない。医療機関で用いられる放射線の安全性や、自然界に存在するラドンなどの放射性物質のほか、太陽の紫外線が人体に与える影響や、携帯の電磁波、レーザー光、マグネットカメラなどの医療機器などに対する安全性についても監督対象としている。
放射線安全庁のホームページ
原子力安全・保安院が、仮に第三者の観点からきちんとした安全監督や活動規制が行えたとしても、経済産業省とのそのような組織関係を持っていたのでは外部からは常に疑いの目で見られざるを得ない。
だから、電力業界との利益関係から独立した原子力安全監督機関が作られるべきだし、今までそれが放置されてきたことはとても不思議だ。一応、内閣府の中に原子力安全委員会という別組織があり、原子力施設の安全管理については原子力安全・保安院とともにダブルチェックを行うことになっているようだ。しかし、審議会程度の組織であり、経済産業省や原子力安全・保安院に対してどれだけ発言力を持っていたのだろうか? (東海村の臨界事故や東京電力のデータ改ざんなどの不祥事を受けて、組織の強化がなされたというが。)そもそも、今回の事件においてほとんど存在感がない気がする(HPを見ると皆勤賞であることは分かるのだが・・・)。
では、スウェーデンではどのようになっているかと思い、少し調べてみた。日本の原子力安全・保安院に相当するスウェーデンの行政機関は放射線安全庁(Strålsäkerhetsmyndigheten)である。このブログでも過去2週間ほどに何度か登場した。日本で起きている福島原発の動向をスウェーデンにおいて刻々と追っているのがこの機関であり、メディアでも何度も状況の解説をしたりコメントを述べたりしてきた。
さて、この放射線安全庁はスウェーデンのどの省の管轄下にあるかというと、環境省である。人間を含む動植物や生態系を放射線から守ることは環境政策の一つという位置づけからであろう。よって、原子力産業とも産業省とも一線を画しているため、客観的な立場からの監督は行いやすい。そして、実際にも、その客観性・中立性はちゃんと機能しているようだ。
福島原発が危機的な状況になっていく中、テレビやラジオ、新聞などのスウェーデンのメディアでは大学や研究機関の研究者がコメンテーターとして招かれ、危機的な状況の解説や原発の安全性、放射能汚染の拡大などについて様々な解説を行っていたが、よく調べてみるとそれらの研究者の大部分が電力・原子力業界から研究資金を拠出してもらっており、「中立的な専門家コメント」と呼べるかどうか疑わしいケースも多かった。彼らをコメンテーターとして招いたメディア側も、放送の中や紙面上においてその人物が業界側から研究資金を得ていることにきちんと言及していれば、視聴者や読者は自分の頭で彼らのコメントの信憑性を判断することができただろうが、それをきちんと伝えないケースもあったことが問題視されている。
そんな議論がいまスウェーデンであることを念頭に置きながら、話を進めたい。メディアにコメンテーターとして招かれた人の中には、大学・研究機関の研究者だけでなく、行政機関である放射線安全庁の専門家もいた。今週末、スウェーデン・ラジオ(公共放送)のある真面目な番組は、メディア上で取り上げられた大学・研究機関の研究者のコメントと放射線安全庁の専門家のコメントを比較調査し、それを発表していた。それによると、研究者のコメントは福島原発の現状や原発そのものの安全性を楽観視する傾向にあったのに対し、放射線安全庁の専門家のコメントは慎重であり、根拠とできる情報が手元になければ「分からない」ときちんと述べたり、原発の安全性に対しても厳しい発言をしたりと、違いがあったという。
これはあくまで一例に過ぎないが、原子力の安全性を監督するこの放射線安全庁が環境省に属していることを評価できる、一つの材料になりそうだ。
ちなみに、放射線安全庁は、スウェーデン語ではStrålsäkerhetsmyndigheten、英語名はSwedish Radiation Safety Authorityである。StrålとはStrålning(光線・電波・電磁波)の略であり、säkerhetが安全性を意味していることからも分かるように、この行政機関が監督しているのは、原発から出る放射線に対する安全性だけではない。医療機関で用いられる放射線の安全性や、自然界に存在するラドンなどの放射性物質のほか、太陽の紫外線が人体に与える影響や、携帯の電磁波、レーザー光、マグネットカメラなどの医療機器などに対する安全性についても監督対象としている。
放射線安全庁のホームページ