飛浩隆は、現代日本SFを牽引する作家のひとりであり、作品集『象られた力』、おなじく『自生の夢』によって、日本SF大賞を二度受賞している。本書は、八年ぶりに刊行される作品集で、六篇を収録。 「流下の日」は、中年男性である私が故郷の村へ帰る場面からはじまる。四十年前にローカル線が廃止された過疎の地だが、いまその路線が復活し、地域に活気が戻っているように感じられる。日本全体はネットワークインフラの整備、新しい情報デバイスの浸透によって、人びとが相当な利便性を享受できているが、この村ではところどころに旧式の機器(駅の切符販売機、列車の扇風機、発車を告げる金属ベル)が使われている。そうしたアナクロニズムが、独特な雰囲気を醸しだす。実は、これは演出的な設定というだけにとどまらず、物語の根幹にかかわっているのだが、読者はとりあえず、帰郷する語り手の懐旧に寄りそえばいい。懐かしいのは事物だけではない。昔馴