プロローグ とうとう、この日がやってきた────。 2024年8月13日、お盆真っ只中の火曜日の14時過ぎ。私はボストンバッグを抱えて高速バスから降りた。ムワッとした暑い空気が肌に触れる……けど、意外と東京よりは暑くないかもしれない。 バス停には紙タバコを吸う老人がいた。喫煙者もここにはまだいるんだなぁ……と思いながら顔を上げる。知ってるはずの街並みのはずなのに、ぜんぜん知らないまちのようにも思える。タイムスリップしたみたい。喫煙者、バス、タイムスリップ……って、ドラマ「不適切にもほどがある!」じゃないんだからさ。私はひとりで苦笑する。 ────まぁ、タイムスリップに思えるのも無理ないか。もう10年以上訪れていないんだから。 転勤族育ちだった私にとっては、ここも「地元」と言えなくはないけど、正直あまり積極的に「地元」とは思っていない場所だ。 ────そう、ここは長崎県長崎市。私は11年ぶり