最近の世界経済の大混乱で、市場の万能性を説いてきた経済学の旗色がよくない。デリヴァティヴ(金融派生商品)の価格の理論で昨年のノーベル経済学賞を受賞したショールズらが自らヘッジ・ファンドの経営にかかわって巨額の損失を出したことは、その象徴だろう。そもそも、かれらの理論は、今年の京都賞を受賞した伊藤清の確率解析の簡単な応用に過ぎず、ノーベル賞に値する独創性をもっていたわけではないのだ。いずれにせよ、昨年への反省からか、今年のノーベル経済学賞は、母国インドの現実をも踏まえつつ「所得分配の不平等にかかわる理論や貧困と飢餓に関する研究」に多大の貢献を行ってきたセンに与えられた。もっとも、センをたんに地に足のついた「社会派」と誤解してはいけない。彼は、社会的選択理論などの高度に論理的な研究を展開する一方で、社会の現実を見つめているのだ。 実際、市場を絶対視するだけが経済学なのではない。政府の役割を強調