スクウェアのトム・ソーヤ
【すくうぇあのとむそーや】
ジャンル
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ロールプレイングゲーム
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対応機種
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ファミリーコンピュータ
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メディア
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2Mbit+64kRAMROMカートリッジ
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発売・開発元
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スクウェア
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発売日
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1989年11月30日
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定価
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6,500円(税別)
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判定
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良作
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バカゲー
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概要
マーク・トウェイン原作の『トム・ソーヤーの冒険』をモチーフにしたRPG。既に先にセタからトム・ソーヤーのゲームが発売されていたのでタイトルに「スクウェアの」がついている。
キャラクターデザインは世界名作劇場のアニメ版のものをモチーフにしており、作中ではアニメのオープニングテーマのアレンジ曲も流れる。
なお、元の小説及びその派生作品では『トム・ソーヤー』と発音・表記するのが一般的だが、今作に限っては最後の長音符が無い『トム・ソーヤ』が正式な表記。
あらすじ
19世紀のアメリカ・ミズーリ州セントピーターズバーグの田舎町に住む腕白少年のトム・ソーヤは夢を見ていた。
夢の中の自分は何故か見知らぬ町で仲間たちと宝探しをしていたが、仲間たちにおいて行かれて…
といったところで目が覚めたが、トムはどうしても夢の話とは思えなかった。
いても立ってもいられなくなったトムは、夢の通りに仲間たちを集め、宝探しの冒険に旅立つ。
システム
当時のRPGではまず見られないような斬新なシステムが数多く搭載されている。
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画面構成
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画面の上半分だけが表示されており、下半分は基本的に真っ黒で、会話内容・コマンド選択・戦闘中のパラメータ表示などに使われる。
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メニュー画面以外はほぼこの画面構成で統一されており、さながら映画館のスクリーンに投影されたような雰囲気を醸し出している。
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マップ
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当時のRPGに多くみられる「ワールドマップ」は存在しない。ほとんどのマップは数々の町とそれらをつなぐ森、各所の建物の屋内、マップを大きく二分するミシシッピー川で構成されている。
画面の縦幅が狭く横に長いため、縦方向への移動範囲は極めて狭く横に長いマップで構成される場合が殆ど。
多くのRPGで採用されやすいマス目移動ではなく、ドット単位でキャラが動く。
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特定のイベントをこなすと、移動速度が上昇する。
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初期速度の最大4倍まで加速する。最初はかなり遅いが、2倍になるだけでもずいぶん快適になり、4倍では驚異的な速度で移動できる。
速くなっても歩き始めの一瞬は遅いままなので、速すぎて細かい調整ができなくなることもない。
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アイテム
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RPGではほぼ標準である通貨や買い物のシステムは存在しない。アイテムはすべてどこかで拾う・人からもらう・所持している仲間を加入させる、などの方法で入手する必要がある。
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装備するアイテムは存在しない。
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セーブには主人公の初期アイテムであるテントを使う。屋内を除けばどこでもセーブ可能。
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仲間と成長システム
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仲間は主人公を含めて最大4人まで同行させられる。メニュー画面の「うちにかえる」コマンドで別れることができ、ごく一部の例外を除いて必ず同じ場所で何度でも仲間に加えることができる。
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当時の標準的なRPGと異なり、レベルの概念がない。戦闘で勝利するたびにHP、AP(攻撃力)、DP(守備力)、QP(素早さ)が少しずつ成長するようになっている。
ただし、HP以外のパラメータも増減の概念があり、上昇した直後はその分だけ最大値から減っている。休憩して回復することで初めてその時点での最大値まで能力値が回復し、成長が反映されるようになる。
成長の限界はキャラ毎に決まっており、基本的には後半に仲間になるほど限界値が高い傾向にある。
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戦闘システム
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画面上半分に背景と敵が配置される。敵は最初は小さいシルエットで大まかにしか判別できず、攻撃を仕掛けに近づいてくることで初めて姿や名前が表示される。
パーティーメンバーが攻撃する際も、画面奥まで走って行ってから敵に殴り掛かり、戻ってくる演出となっている。
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戦闘では「たたかう」「アイテム」「ひっさつ」に加え、各キャラ独自のスペシャルコマンドを駆使して闘う。
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ひっさつはあらかじめメニュー画面で師匠と弟子となるキャラ、必殺技の名前を決めておくことで使えるようになる。
必殺に参加するメンバーの減少しているHPが敵全員の総現在HPよりも大きいと、敵を全滅させることができる。
条件を満たさずに発動すると、参加したメンバー全員がダメージを受けるなどリスクも高い。
また、戦闘開始直後の1ターン目は必ず失敗する仕様になっており、HPを減らしたまま必殺連発、などといった戦法は取れないよう調整されている。
バカゲー要素
このゲームを語るうえで避けられないのが、数々のバカゲー要素である。見ていて楽しいものもあれば、やりすぎなものまで多岐にわたる。
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とにかくコミカルな演出やテキスト。(以下、一例)
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エンカウント時は目の前で爆発が起こり、主人公が目玉を飛び出して驚く。
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戦闘時には仲間たちはダメージを受ければコミカルなリアクションを取り、逃げる際には大きく顔は崩れ、戦闘不能時にはギャグ漫画のようにずっこける有様(ご丁寧にも状態異常表示は「こて..」)。
全滅時にはコミカルなような物悲しいような何とも形容しがたいBGMと共に「きみたちのことは けっして わすれないよ。」などとやたらセンチメンタルなメッセージが表示される。
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セリフにはなぜか長音が使用されず、波形で統一され(トム・ソーヤなら、トム・ソ~ヤと表記される)、何とも気の抜けた雰囲気を漂わせる。
これだけなら、「そういうフォントを使用」で済むのだが、敵キャラの名前のみ通常の長音で統一されている。
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町ごとにそれぞれ日本各地の方言でしゃべるようになっている(2番目の町、リバ~ウェストなら広島弁など)。
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主人公が無駄な行動をした時などには、わざわざ天使や悪魔がささやく
余計なお世話。ご丁寧にも、セーブデータが消えた際にもささやいてくれる。
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戦闘時のダメージ計算や残りHPは小数点第1位まで計算され、1桁の数値と共に初めて表示される。小数点第1位の数値が実際にHP等に使われるのは類を見ない。
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実質的には桁を1つ小さく見せているだけで特に意味があるわけではないのだが、「0.9のダメージ」等と聞くとすごく小さく思えて妙に心躍る。
子供を喜ばせる手法として「不必要に数字の桁を増やしてスケールの大きさを演出する」というものがあるが、それの逆を狙っているものと思われる。
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敵キャラのデザインは全体的にシュールかつコミカルさを前面に押し出している。
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ゴルゴ13そっくりの顔を持つ「カオフラワー」、犬の顔を持つ「いヌわし」、文房具のマジックインキを模した頭部をもつ「マジックマン」など、枚挙に暇がない。
普通の動物の敵も、やたら目つきが可笑しいものばかりである。
行動パターンもそちらの方面に豊富で、何の意味もないセリフで無駄にターンを消費する敵もいれば、ご丁寧にもヒントやお得情報を教えてくれる敵なども存在する。
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外見だけでなく、敵の行動パターンや仕様にもユニークなものが多い。
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リセットボタンを押す攻撃。「○○(敵の名前)は ボタンを おした! それは リセットボタン だった!」のメッセージと共に、本当にタイトル画面に戻されてしまう。
全滅を強制される攻撃などでタイトルに戻されることは他のRPGにも見られるが、攻撃として堂々とリセットをされるのは後にも先にも本作だけであろう。
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なお、このリセットボタン攻撃を行う敵は2体いるが、片方はミニゲームの神経衰弱で極稀に登場するいわゆる罰ゲーム的モンスターで、もう片方は複雑な手順またはバグ技を駆使しなければたどり着けない隠しマップに登場する隠しモンスターとなっており、ゲームバランスに大きな影響は与えていない。
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終盤に出てくるまともに戦うと鍛えたキャラクターでも簡単に全滅させられるほど強い「キング」と「ジョーカー」(見た目は両方とも道化師)。
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基本的には逃げるのが正解だが、実はトランプゲームの「大貧民(大富豪)」になぞらえた弱点を持っており、「キング」には「ジョ~カ~」、「ジョーカー」には「ハ~トの3」というアイテムを使うと一撃で倒せてしまう。
評価点
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グラフィック
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80年代のFCのグラフィックとしては最高レベルの出来。綿密に書き込まれたドット絵は、19世紀のアメリカの片田舎の雰囲気や、木々の生い茂る危険な森などの要素をよく表現している。
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FCのRPGとしてはキャラのサイズが大きく、特に主人公のトムはバラエティに富んだアクションで楽しませてくれる。
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登場するキャラクター描写もパーティキャラ・NPC扱いの一部のキャラもコミカルに描かれている。女性キャラは可愛く描かれているのも特徴。
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戦闘画面も基本後ろ姿だが敵に殴られる・逃げるといった場面の表情もありあきあきしない。終いには戦闘不能となるとギャグ漫画の様に足を逆さにする。といった一面も。
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イベントシーンでもこと細かく描かれておりアニメや原作同様、ラストバトル直前は本当に肝を冷やすような場面がある。演出にも一役買っている。
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サウンド
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植松伸夫によるサウンドは良曲揃い。世界観との一体感も高く、グラフィックと合わせてゲームの雰囲気づくりに一役買っている。
コミカルな曲調からプログレッシブ・ロックを髣髴とさせるような複雑な構成の曲なども。
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『世界名作劇場』のオープニングテーマ「誰よりも遠くへ」から引用されたアレンジもいくつか存在している。
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サウンドテストモードになる裏技も存在するので、FFシリーズとは一味違った音楽を堪能するのも有り。サウンドテストモードは一枚絵で机の上に置かれたラジオの風景画で、傍らにトムとハックの写真が飾られていたり机の悪戯書きと表現が凝っているのも特徴。
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豊富なイベントやテキストの数々
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イベントやミニゲーム、隠し要素はFC時代のRPGとしてはかなり多い。
人々の会話テキストもかなり豊富で、2度目の会話では違うことをしゃべることも多い。
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高い自由度
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数々の作りこまれたイベントが用意されているのに対し、そのほとんどをスルーしてもクリアできてしまうほど自由度が高い。
道をふさぐような障害もほとんどなく、カヌーを入手してミシシッピ川を渡れるようになればほとんどの場所へ行けてしまう。
各種イベントをスルーするようなプレイは難易度が跳ね上がるものの、きちんと情報を得ながらプレイすれば制作側の想定したルートを外れることはまずない。
賛否両論点
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オリジナル色強めの展開
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「カードを聖書に交換」など原作にあった小ネタがちりばめられているが、物語の大半を占める黒魔術師との戦いは完全オリジナル。
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ただ、元の小説はトムたちが殺人を目撃する等、若干怖い展開も含まれている。このゲームではそういう要素を排除した上で、より子供向けで親しみやすい冒険譚に変換しているので、ゲーム単体のクオリティは悪くない。
その辺も含めての『スクウェアのトム・ソーヤ』なのかもしれない。
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物語の再現度が低いと言っても、夢の中を飛び回るセタ版『トム・ソーヤーの冒険』よりは遥かに高く、トム・ソーヤーらしい内容である。
問題点
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高いエンカウント
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古いRPGの例に漏れず、エンカウント率が高い。数ドット歩いただけでエンカウントというのもざら。
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なまじ移動速度が最大4倍になるだけに、連続エンカウントするとストレスが溜まる。
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マップ構造は複雑ではないが代わり映えのしない景色が多く、しかもマップから戦闘までの演出が一瞬すぎるので心の準備ができず、戦闘が連続するとどこを歩いていたのか忘れやすい。
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川を移動する際には操作していないと少しずつ下流へ流されるという芸の細かい演出があるのだが、その状態でも(=何も操作していなくても)敵と遭遇しうる。
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シンプルすぎる戦闘システム
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戦闘中にできることがとにかく少ない。必殺技は使用条件が厳しく、スペシャルコマンドも下記の問題点から使いづらい。
特に序盤~中盤までは敵も味方もノーガードの殴り合いかせいぜいアイテムの使用(それも所持数の都合で回数制限のないもの)に終始するだけになってしまいがち。
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また上記の特徴の通り、ステータスを強化する様な装備品の類は一切無く、メンバーの強化はひたすら戦闘を重ねるしかない。1回の戦闘でも微強化されるのは利点といえば利点なのだが、パンや弁当で休憩しないとステ上昇が反映されず、レベル数の様なわかりやすい目標値もないので、どれだけ戦えば目標の強さになるか測りづらい。
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まあ中世ファンタジーではなく「トムソーヤ」の世界なので剣や魔法やレベルといった概念が世界観を壊すのを恐れたと思われる。しかし何か代用は出来なかったのだろうか、余りにもシンプルかつ単調である。
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スペシャルコマンドの微妙さ
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名前が違うだけで同じ効果のものが半分以上を占め、しかもそれが効果自体も「数ターン行動不能になり、その間にランダムで即死攻撃を繰り出す」と博打要素が強く扱いづらい効果というもの。
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違う効果の連中も悪い意味でとんでもない効果でビリーの「まかせろ」やディックの「かいさん」は「特定のキャラ(ビリーorトム)以外全員が戦闘から離脱し、残った1人だけで戦う(別にパワーアップなどはない)。」という逆に不利になる(残った1人が死ぬと即全滅)というひどい代物、特にビリーの方は後述の理由で逃げることもできなくなるので非常に危険。
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比較的個性付けに役立ち、ゲーム的にもどうにか使えるのがトムの「にげる」、ハックの「パス」、ジョーの「いじける」ぐらいか。
なお「にげる」はトムの技という扱いのため、トムが戦闘不能or「まかせろ」で離脱してしまうと逃走不可となる問題点も抱えている。
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仲間の成長限界
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前述の通り後半に登場する仲間になるほど成長限界が高い傾向にある。逆に言えば、序盤に登場する仲間を最後まで使い続けるようなプレイは厳しい、ということでもある。
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ただしエミーは成長限界こそ低いが、特定の場所で「パン」を発見できるという能力がある。特徴の通り、このゲームは街の休憩所や道中でパンや弁当といった特定のアイテムを使って休憩する事で初めて戦闘のステ上昇を反映させられるため、パンは単なる回復アイテム以上の重要さを持つ。そのため、エミーはステ限界値の高さ以外で連れて行く意味のある貴重なキャラ。とはいえ終盤まで使うのはやはり難しい。
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終盤になるとキャラクター育成不可能
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フランクリンを倒すとモンスターが出現しなくなり、ラスボスまでキャラクターの育成ができなくなる。
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前述の通り、神経衰弱ゲームを行って失敗するとペナルティとして発生する戦闘は可能なのだが、手間がかかる上にあまり強い相手ではないので育成には不向き。また、「リセットボタンを押してくる敵」が混じるので、うっかりすると努力が水泡に帰す危険がある。
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シナリオ上のあるフラグ
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ある場所で「ハックを2番目か3番目に入れておくこと」が条件となるフラグがある。これに気付かないと詰みと誤解してしまう可能性が高い。
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ハックは原作からしてトムの親友と定義されており、成長限界もトムに次いで高いために自然とスタメンとして置かれることが多い。
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ただし初期値が低いため育成にもトムと同程度の時間が必要で、始めから強い仲間をとっかえひっかえしていくうちにハックが抜けてしまっていたり、ハックが最後尾という状況は起こり得る。
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なるべくそうならないよう、ハックを連れてくるイベントがあったり、敵キャラ、ザリガニンの「ハックをつれてないとあとでこまるぞ」といったヒントもある(分かりにくいが)。
総評
高いエンカウント率、見た目に反して高い難易度、やや遅いレスポンス、シンプルすぎる戦闘システムなど粗が目立つ。
しかしこの時代としては高レベルなグラフィック、丁寧で小憎い演出、古き良きアメリカを表現した世界観、シンプルながらも爽快感溢れるストーリー、植松伸夫による印象深い音楽に魅せられた者は少なくない。
『ファイナルファンタジー』の発売を機にRPGの雄と評されるようになったスクウェアらしさある作品といえよう。
余談
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開発は「スクウェアBチーム」とスタッフロールにデカデカと書かれているが、開発期間はかなり長期にわたっていたようで、その過程で当初のBチームからはメンバーが相当入れ替わっている。
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「Aチーム」が『ファイナルファンタジー』を開発し、その次に世に出るのがBチームの本作…の予定だったが、実際に出たのは『ファイナルファンタジーII』の1年後である。
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パッケージに「since1855」と書かれているが、この年代は原作の発表時期(1876年)とも、物語のモデルとなった原作者マーク・トウェインの幼少期(1835年生まれ)とも合っていない。
また細かいところだが、サウンドテスト画面に描かれているようなデザインの真空管ラジオはマークの死後(1910年没)に作られたものである。
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アメリカで娯楽としてのラジオ放送が始まったのが1920年なので、マークの生没年を10年ほど勘違いしていたとすると辻褄が合う。
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リセットボタンを押す敵と合わせセーブデータを消す攻撃をする「きろくむし」というデマ
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2chや投稿型レビューサイト等でよく記述を見かけるが、実際には全くのデマであり、個人のゲームレビューサイト(現在は閉鎖)でいかにも体験したように書かれていたことが発端である。
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このレビューではリセットボタンを押す敵も「じごくむし」と間違えて記述しており(正しくは「ふこうむし」)、きろくむしと合わせて有名になっている。
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解析データでもこれらの敵は確認されていない(2017年現在)。
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パーティキャラ「ジム」の外見
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真っ黒な肌に巨大なタラコ唇という、今なら大問題になりかねない不気味な容貌に描かれている。おおらかな昔の時代だからこそできた表現だろう。
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同じ黒人キャラのボブは普通の外見をしているので、何故彼だけがこのような外見をしているのかは謎である。
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なお、プレイヤーにはこの外見が大いにウケており、雑誌「マル勝ファミコン」の読者コーナーでは「ジム君を探せ」というネタが毎月のように投稿されていた。
最終更新:2024年12月23日 06:19