ファミコン探偵倶楽部 笑み男
【ふぁみこんたんていくらぶ えみお】
ジャンル
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アドベンチャー
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対応機種
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Nintendo Switch
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発売元
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任天堂
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開発元
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任天堂 MAGES.
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発売日
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2024年8月29日
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レーティング
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CERO:C(15歳以上対象)
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プレイ人数
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1人
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定価
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ソフトのみ:6,500円 コレクターズエディション:9,878円 |
判定
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なし
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ポイント
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インタラクティブヒューマンドラマ 35年ぶりのシリーズ新作 これまでから路線が変わったストーリー
公式賛否両論作
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ファミコン探偵倶楽部シリーズ
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概要
2024年8月29日に任天堂から発売されたNintendo Switchのアドベンチャーゲーム。
『ファミコン探偵倶楽部シリーズ』の35年ぶりの新作。
任天堂自身の公式発表では「35年ぶり」とのことだが厳密には1997年2月にスーパーファミコンのサテラビューで配信された『BS探偵倶楽部 雪に消えた過去』が存在するため、それを含めてカウントすると27年ぶりで4作目となる。
作中の時代背景は現代ではなく発売時から30年以上前の1990年代だが初めて平成期を舞台とし、同時に1作目『消えた後継者』より後の話(『消えた後継者』から2年後)が語られるのも初めてのこと。
システム面の基本的なスタイルは2021年に発売されたリメイク2作品『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』『ファミコン探偵倶楽部 うしろに立つ少女』から引き継がれている。
ストーリー
少年が空木探偵事務所に身を寄せてから早4年が過ぎた。いつものように事務所に出勤したある朝………
空木の旧知の警部、鎌田からの電話が事件を告げた。
香福市の排水ポンプ場で笑顔が描かれた奇妙な紙袋を被せられた地元の南第三中学校の3年生、佐々木英介の死体が発見されたのだ。
その姿はまるで都市伝説「笑み男」の起源となった18年前に起きた「連続少女殺人事件」被害者の少女たちの姿にも似ていた。
「笑み男」とは笑顔の描かれた紙袋をかぶって泣いている少女の前に現れ「君に、永遠の笑顔をあげるから」の言葉と共に命を奪い自身の被っている笑顔の紙袋を被せて去っていく…
だが、その本当の起源はどこにあるのかは未だ謎のまま。
空木探偵事務所はこの謎に総力を挙げて向かうことになる。
内容
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ゲームシステムそのものは、これまで通り「推理するゲーム」というよりは「物語を楽しむ」というスタイルが主軸に置かれている。
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原作者自身も本作を「インタラクティブドラマ」と称しており「物語を楽しむ」が主軸に置かれた過去作もそれに近い立ち位置だったので根本は変わっていない。
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そのためストーリーそのものは今回も完全な一本道方式。
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システムや操作方法は先述のリメイク同様、情報の聞き込みを主体として時としてカーソルで調べたりする。
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リメイク2作品同様に、調べる対象にカーソルがヒットするとその名前が表示され、有効なポイントであることがわかる。
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章の終わりに事務所に戻ってきて推理する流れも同じ。
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2021年のリメイク2作同様、ローディング時にこれまでのあらすじを聞くことができ本作では空木探偵(声:各務立基)の声で朗読される。
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リメイク2作品で互いのプレイデータを読み取って名前入力の手間が省けたように、そのリメイク版のプレイデータがあればそのまま本作に引き継ぐことができる。
新しいシステム
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発売に先んじて8月20日~28日までに体験版が配信され3章までプレイ可能。
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「見る・調べる」コマンドの「あたり」が単純に「あたりを大まかに見る」だけでなく「同じ場所で視点を変える」という形で使われるようになった。
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「呼ぶ」コマンドの「だれ?」が追加。
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「見る・調べる」の「どこ?」の要領で、画面内にいる多数の人の中から特定の人を指名して選んで呼べるようになった。
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基本的には主人公を操作するのは同じなのだが、ストーリーの随所であゆみに切り替わり、ヒロインのあゆみを操作するパートがある。
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さらに本編の一部や後述のサブストーリーでは空木を操作する。
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主人公、あゆみ、空木は携帯電話を所持し、様々な所で番号をメモしたり重要な人物と連絡先を交換していく。
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それらは内蔵の電話帳に記録され、連絡先が増えていく。
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過去作通り「一日の調査が終わると事務所に戻って推理する」という流れは変わらない。
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それにより、これまでの要点をまとめて整理する流れは変わらないが本作はプレイヤー目線ではそのポイントで正解を選択する確認問題のようなものになっている。
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ただし本作では一度だけ事務所以外の場所で推理する機会がある。
その他
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ネタバレ注意
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エンディング後に「クリアデータ」をセーブデータを保存することで完了したデータになる。
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「クリアデータ」は以後プレイは不可能となるが後々違う用途で使用。
サブストーリー「ミノル」
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本編をクリアーすると、謎を残した部分のサブストーリーが解放される。このストーリーには「ミノル」という独自のサブタイトルが付けられている。
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これのゲーム部分は短いが、それを終えるとフルアニメで見ることができる。
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このアニメ部分が本格的で長さも20分以上と連続アニメ1本分ほどであり、非常に見ごたえがある。また本編での出来事を整理しつつおさらいもしているため、展開を思い出すことにも役立っている。
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サブストーリーには本編とは別口にセーブデータ枠が3つ用意されている。
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「ミノル」クリア後のネタバレ注意
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「おまけ」というメニューが追加される。
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上記のサブストーリーを終えると、メインストーリー側に「福山先生の通信簿」が追加される。
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これは『うしろに立つ少女』にエンディング後の「性格判断と橘あゆみのラブラブチェック」のように、捜査状況のテスト的評価と、その行動から性格を判断するというもの。
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メインストーリー側の「クリアデータ」を選ぶと、それを基準に査定される。
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「音楽鑑賞」が追加されリメイク2作品同様に、作中のBGMを自由に聴くことができる。
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同時に「笑み男」「ミノル」とも、それまでの全場面が好きなところからダイジェストで見られるようになる。
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このモードでは「調査やめる」はセーブではなく終了してタイトルに戻る。
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評価点
システム面は相変わらず良好
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操作性そのものは非常に良好。
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この辺りは元々が完成されていたので、それを無難に引き継げている。
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後述の新しいシステムも、これまでかゆい所に手が届かなかった部分を克服したものであり、同時に煩わしさをあまり感じさせない。
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様々な新機能。
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「呼ぶ」→「だれ?」により複数の人がいる中で指定して声をかけられるようになった。
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過去作例として『消えた後継者』の「明神駅」や『うしろに立つ少女』の「繁華街」「学校前」のように「村人」「生徒」など複数の無名人物がいる場合、その中で呼べる人は自動的に決められていたが自由に選べるようになった。
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「見る・調べる」の「あたり」で自由に視点を切り替えられるようになった。
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過去2作品のリメイクにも似たような要素はあったが、それが任意に可能になった。
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「推理する」コマンドの確認問題方式。
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今までの作品でも「事務所に戻ったら推理」の流れで要点をまとめるスタイルは変わらないが、その推理をプレイヤーは聞くのみだったのが「選択肢式の確認問題」になったことで、より内容を把握しやすくなった。
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選択を間違うと、いろいろつっこまれるがすぐ正解に訂正されるしゲームオーバーになったりはしないので今まで以上に要点の確認に役立つ。
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なお本作でも選択の仕方次第でゲームオーバー………と見せかけた肩透かしが存在する。
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特に本作では後述の通りムダな寄り道や雑談が多く、肝心な部分の記憶があやふやになりやすいため重宝する。
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セーブデータは21枠に大幅拡大し、たっぷり記録できる。
ビジュアルの進化
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アニメ描写が大幅に増して、より一層その場面場面を具体化している。
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同じ場所でも視点が変わることが多く、様々な描写を見ることができるのでこれまで以上に世界の広がりを感じることができる。車内での会話でも背景が流れているなど細かい所にも力の入れようが感じられる。
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主人公やあゆみなどの服装も固定ではなく日によって変わるようになり、このような細かい部分でもドラマらしい人間味を出している。
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また本作の拠点の1つ「香福駅」にしても、数年前の描写では自動改札機がなく駅員が改札口にいるなど変化を持たせている。
サウンド・BGM
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サウンドは相変わらず良質。
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過去作から伝統のクラシック「インヴェンション」(バッハ)のアレンジが本作でも取り入れられている。それが使われるシチュエーションも過去作にそっくり。
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その他のBGMに関しても旧来の雰囲気を踏襲し、昭和の雰囲気を醸し出しつつも新しいものを生み出しており雰囲気や主人公の感情を感じられる。
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同じ場所でも局面局面によって多彩なBGMが用意されており、全体的なバリエーションは過去作品を圧倒的に凌駕するほど。
ストーリー面
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キャラクターそれぞれの感情を感じられる描写が多い。
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声優陣の熱演は、2021年のリメイク2作品から引き継がれている。
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キャラクターの感情が豊富に表現されており、しっかりドラマらしさが出ている。
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前半部は、これまで通り非常に丁寧な作りで伏線の張り方が上手く、先の展開に期待させてくれる流れ。
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事の発端の事件から始まって、それによる18年前の「連続少女殺人事件」、それからまた枝分かれして新しい謎、そのカギを握る失踪した人物といった徐々に広げていく展開は、この先への波乱の展開を期待させるものであり、またその広げていくペースもプレイヤーが飲み込みやすい。
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特に体験版に至っては、ある程度まで見せつつも完全には出し切らずの絶妙なポイントで終わるため、先の展開を大いに楽しみにできるものであった。
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過去作を想起させるファンサービス要素が取り入れられている。
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『消えた後継者』で記憶を失ったことや、同事件で知った主人公自身の過去の出自にまつわることが語られたりする。
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『うしろに立つ少女』から一部キャラが続投で登場したり、似たような立ち位置にあたるキャラが過去作のネタの再現をする。上述の偽ゲームオーバーもその一つ。
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他、あゆみが中学時代に薙刀部に所属していた事が明かされている。恐らくFC版『うしろに立つ少女』発売直後の頃にファミリーコンピュータマガジンで掲載された薙刀を持ったイラストが元ネタと思われる。
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ネタバレに絡む部分
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本編では謎を残して終わることになるが、それは後でしっかり明かされる。
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それが前述のサブストーリーで、本編では一通りの事件が終わった後で謎を残した中で終わると言う尻切れトンボのような展開だが、最後に「謎が残っている」と空木が触れて、そのままサブストーリーへの道が開かれる。
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『うしろに立つ少女』ではそれが原因(幽霊のような非科学的なものを半ば容認するなど謎を残したまま終わっている)でどうにも解せない所も否定できなかったので、そういった部分がスッキリできるのは良い。
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また、そのサブストーリーのゲームのパートを走り切ると、一転してフルアニメにてそれまで隠れていた部分のストーリーが一気に披露される。ここも、根本がゲームであることを忘れてしまうほど本格的アニメーションで、そのクオリティも見もので、本作の持ち味である声優たちの熱演もたっぷり堪能できる。
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なお、サブストーリー解禁時に空木から「凄惨な内容」と忠告が入る。その言葉通り、任天堂のゲームとしては珍しい残酷描写が盛り込まれた内容となっており、少々人を選ぶかもしれない。
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その他
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本作では主な舞台が市街地となり、中学校や駅周辺、住宅街など多くの施設に立ち寄る場面があり過去作以上に世界観の広がりを感じさせてくれる。
賛否両論点
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場所移動の自由が少なすぎる。
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シリーズの特徴として、聞くコマンドや場所移動の選択肢を狭めることで物語を読んで楽しむことを促してきたのだが、本作では自分で自由に移動できることが少ない。
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親切な反面、少々がんじがらめのように感じてしまう一面がある。
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一応上記の通り「見る・調べる」のコマンドの「あたり」の新しい役割もあって、場所毎の内容は増してはいるが。
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リメイク2作に比べて「見る・調べる」の当りポイントが極端に少なくなった。
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そのため、事件に関係ないお遊びポイントがほとんどなくなったことで、何が必要なものなのかがわかりやすくなった。
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反面それがちょっとした気分転換になっていた一面もあるので「発見する楽しみ」は薄れている。
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ネタバレに絡む部分
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前半部分とは対照的に、後半部分はかなり駆け足気味にストーリーが進んでしまう。
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最終盤でこそやっと調査が進んで盛り上がりを見せ始めるのだが、これもかなり唐突な急展開の上にその矢先にいきなりサブタイトルで「終章」と終わりを告げるような突拍子もない展開。
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終章そのものはスリリングな展開であり、真犯人もそのビジュアルから強烈なインパクトを残す人物ではあるものの結果的にはあっさりと殺されてしまい、どうしても尻すぼみ感が否めないものとなってしまっている。
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そして犯人の動機やその他様々な事に関しては謎のままエンディングを迎えてしまうため、初見ではどうしてもモヤモヤが残るものとなっている。
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クリア後に解禁されるもう一つの物語にて空木の取材と真犯人の手記から「空木の推察」として、犯人の動機など全ての謎を知ることができる。
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ただしそのやり方は『ゲームではなくアニメで流して終わらせる』という方法を取っており『ゲームをプレイして自分の力で真相を知りたかった』という声もあり賛否両論となっている。
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一応本編中で謎のまま残っていた部分は全て回収しており、思わぬ伏線回収も存在するため話の内容自体に対する評価は高い。
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真犯人の生い立ちも過去作以上にかなり悲惨なものとなっており、締めの言葉の 「君はどう思う?」 という問いかけの通り非常に考えさせられるものとなっている。
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問題点
ストーリー面
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捜査が遅々として進まない。
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警察はもちろん、事務所の面々も手分けして情報収集に努めるがなかなか進展が見られない。
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情報は小出しにされ、有力とは言い難い物も多く出てくる。有力であっても核心には届かない…といった具合なので、多くのプレイヤーが雲を掴むような気分になったのではないだろうか。
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時代背景(1990年代)、それも単純に1990年と考えると取り込みに粗が多い。
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時事ネタに関しては豊富でありこれらは上手く時代を反映させられているが、肝心な調査本編に該当するものとなると当時使われていなかった要素が多々ある。
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携帯電話に関しては、当時存在こそしていたものの電話帳機能や着信通知機能となると実に1990年代でも後半期であり、当時は「電話がどこでもかけられる」という程度でしかなかった。
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契約料は今とは比べ物にならないほど高く、通話料金も高額でさらに本体にかかる月々のレンタル料も高額。それを3人分契約するともなるととんでもなく高額になる。これに関しては「大事件に臨むため念を入れた」という解釈ができなくもないが、1990年はおろか1995年頃でも実はそこまで携帯電話は普及しておらず緊急の連絡用として持っておく用途してにもポケベルで妥協していることは大人でも少なくはなかった。
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また後述するあゆみの先輩である福山も自身のものと思われる携帯電話を所有しているが、前述の通り所持だけでも高額であり、新米のヒラ教員の収入程度で簡単に持てるようなものではないし学校からの支給(学校単位での契約)だとしても当時そのような待遇が受けられたのは学年主任など一部責任者に限られていた。
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携帯電話の先述のような普及率実情は原作者も承知の上で、現在はポケベルが廃れ切って久しいため伝わりにくいだろう世相を踏まえて当時の事情を知りながらも入れたとのことだが、電話帳機能や着信通知機能などは説明がつかないし、まったく意味のない改変でしかない。
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ストーリー後半で「似顔絵捜査」が出てくるのだが、これが日本の警察で初めて導入されたのは1998年の大阪で、全国区で本格的にとなると2000年以降となる。
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本作で出てくる老人ホームが異常なほどセキュリティが厳重。
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今でこそ作中のように、いろいろ身内への確認なども厳しいが当時は元より2000年頃でも住所と名前を書くぐらいで大体面会ぐらいなら許された(施設によって差はあるのかもしれないが)。
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過去作品との設定の齟齬。
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序盤で空木から携帯電話を渡された折にあゆみは携帯電話は初めてと言うのだが実は『雪に消えた過去』であゆみは既に携帯電話を扱っている。
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いくら供給がマイナーなハードで実際のプレイした者はシリーズ屈指で少ない上、原作者である坂本氏が直接シナリオを書いた作品ではないとはいえ自社作品であり、インターネットも普及した現在では一般ユーザーでも大まかなストーリーなどは充分調べられているほどなので、それをないがしろにするのは問題視される。
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本作もプロローグは主人公は「あなた」という名前でスタートしプロローグで名前を聞かれてはじめて名乗るタイミングに合わせて名前入力をする。
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これは『消えた後継者』から続くスタイルなのだが『消えた後継者』では主人公が記憶喪失のため「名前を思い出す」というシチュエーションに合わせて名前を確定させるからこそ「プレイヤーとの一体感」という価値を生み出せていた。
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つまり、その肝心な記憶喪失要素がないのでは「プレイヤーとの一体感」にはならず、ただ前例に倣っただけでしかない。
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道中で主人公自身の判断を選択する場面が出てくるのだが、後半では正解と不正解が完全に分かれているだけ。
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『うしろに立つ少女』(リメイクのみ)では、それに応じて小分岐が用意されていたが本作はその場で「いや、それはいけない」といった具合に主人公が強制的に拒絶してもう片方の選択肢の行動を取ってしまう。
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本作は「インタラクティブドラマ」という触れ込みであり、過去作にそんな要素の前例がありながらも使っていないのはどうかと思われる。
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致命的な不備ではないが、描写が不足している点がある。
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ネタバレ含む
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被害者の電話。
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被害者は姿を消す前に電話を使っていた姿が目撃されているが、この場面が何だったのか特に説明されない。
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結果的に言えば、特別関係はなかったということになるが、見ている側としては微妙にすっきりしない。結末などからある程度の推測は出来るが…。
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刑事の沙汰。
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ある刑事が犯人を誘き出すために捜査撹乱を行っていたことが判明する。
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言うまでもなく、重大な罪であるがこの点はあまり深く触れられない。
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クライマックスからエピローグにかけてのシーンでのことなので、テンポ等を考慮するとある程度は仕方ないかもしれないが。
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一応、辞職した旨は語られるので、処分そのものは行われていることがわかる。
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ネタバレ含む
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折角のあゆみパートがほとんど蛇足でしかない。
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最初こそ学校の前で生徒に聞き込みなどをするのだが、そこで福山というかつての先輩(現在はその学校の新任教師)と出逢うや、以後はその先輩と喫茶店でほとんど事件に関係ない話ばかりに終始している。
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しかもあゆみ自身も「大した話は聞けそうにない」と知っていながら毎日毎日付き合っているので、あゆみそのものも調査をサボっているようにしか見えない。
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事の発端となった事件の後は、時折不穏な空気や緊迫感を匂わせながらもエンディングまで事件らしい事件が起きない。
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道中も割と蛇足に近いような行動ばかりをさせられることが多いため、とにかくだれた展開になる。
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折角取り入れた携帯電話ではあるものの、必要な時に「圏外」だったりバッテリーが切れていたり出なかったりと役に立たないことが多い。また機能の問題(上述)を抜きにして実史に半ば逆らってまで導入した割に存在意義自体が感じられない。
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実際作中で「絶対必要だった」と思えるような場面は少なく、主だった用途は無関係な飲食店にかけたりイタズラ電話したりとほとんど脱線のお遊び用途ばかり。
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もっとも当時は現在を思えば対応しているエリアが狭く限られバッテリーの持ちは短かく、気が付いたら圏外だったりバッテリーが切れていたりはあるあるだったので当時らしいと言えば当時らしいのだが。
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ストーリーそのものもこれがなくては成り立たないようのものではなく、これまで通り限られた場所でしか電話できない仕様でも大差ないストーリーは構築できそうなだけに無意味な違和感を与えた印象が強い。
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最初に発見される被害者の少年は実は自殺で第三者が自分の狙いのために殺人事件に見せかけたというもの。
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しかも話が進むほど、周囲の関係者も自殺だと思っていたということがわかるばかりで殺される理由がないことからプレイヤーとしても実は自殺だったことはなんとなく察しが付く。その結果が順当に出てくるだけでしかない。
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「殺人と思っていたが実は自殺だった」はミステリー界隈では何ら珍しくないが、それまでのシリーズ作品ではいずれも土壇場で急な大どんでん返しがあり、そのインパクトも好評だったのでそれがないのは物足りないところがある。
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キャラクター面
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メインゲストキャラによるテンポの悪さ。
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本作で登場するキャラで主にメインで話し相手となるのは若手刑事の神原(主人公パート)と南三中新任教師の福山(あゆみパート)は、どちらも非常に話にムダが多い。もっと言うとキャラが被ってしまっている。
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後者は、あゆみの中学時代の先輩とのことだが、「わかるか………橘」「そうだろ………橘」といちいち間を置いて「橘」と呼びたがるので一言一言毎度言われるとなると非常に聞き苦しいし、その待ち時間が何度も何度も発生するためイライラさせられがち。
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「聞き苦しいなら飛ばせばいい」といえばそれまでだが…。
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前者はそのような間延びこそないとはいえ、ふざけていることが多く、いちいちクイズにしてきたりと大事なことを話すにも回りくどくムダ言が大量に混じってくる。
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いうまでもなく、このようなちょっとした悪ふざけや場を和ませる脱線行為は緊迫した状況が続く中でコメディリリーフの立場だからこそ生きてくるのであって、メインの話相手がこのような調子が多いようでは事件らしい緊迫感が削がれていくばかりで冗長感が目立ってしまう。
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フォローを入れておくと、両者ともに自分の仕事を真面目にこなし、他人を気遣う場面も見られるなど、決してふざけているだけの人物ではない。
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主人公のキャラクター性。
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本作で主人公は19歳なのだが作中では17歳だった『消えた後継者』当時に比べて幼く見られることが多い。作中の登場人物から、あゆみよりも年下に見られたり頼りなく見られていたりバカにされるような描写も多々ある。
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主人公自身の行動も上述のあゆみの先輩の大人げない挑発に乗って対抗意識を燃やして挑発し返すなど大人げない(もっとも挑発するその先輩も大概なものだが)。
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『うしろに立つ少女』でネタにされた「チャック開いてる」なども取り入れられている。当然これも作中でバカにされている。
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チャックに関してはシリーズ作品自身の発売順によるところもあると思われ本作では「過去作を想起させるファンサービスネタ」の1つとして入れたのだろうが、『消えた後継者』では17歳とは思えないほどしっかりしていてそんな描写などなかっただけに、ちぐはぐな印象を受けてしまう。
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あるいはこのような子供っぽい、頼りない、バカにされるキャラクターに拘りたいならば主人公の年齢は15~16歳で『うしろに立つ少女』の直後ぐらいがちょうどよかっただろう。実際主人公が19歳であること、時代背景が1990年であること、また『消えた後継者』より後でなければならないような要素もない。
その他
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携帯電話に関しては、それぞれが持っており上述の通りあゆみを操作するパートもあるのだが、当該パートでは主人公の連絡先の名前が「タンテイクン」になっている。
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元々「探偵くん」とは『うしろに立つ少女』でまだ未熟な新米探偵だったことで半ば揶揄のような呼び名であり、あゆみは当然このような呼び方をしたことはないばかりか主人公を信頼しているため、このような名前で登録されること自体不自然でしかない。
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そもそも前述の通り当時の携帯電話は電話帳機能自体が存在しないので設定上は紙にメモしている体で、普通に漢字等の表記でも問題なかったと思われる。
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ネタバレに絡む部分
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おまけとしての繰り返しプレイを促すはずの「福山先生の通信簿」が、あまりそそらない要素。
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『うしろに立つ少女』での「あゆみとのラブラブチェック」同様、それまでの調査の仕方や行動の判断、推理(確認問題)を元に採点をされ、性格判断するというオマケだが「ラブラブチェック」を思うと地味臭く劣化版にしか見えない。
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それというのも「ラブラブチェック」は様々なキャラが登場してメッセージが聞けたのに対し「福山先生の通信簿」でのメッセージはその名の通り福山のみ。
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一応会話パターンは多く、周回する楽しみがない訳では無いのだが…。
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総評
原作者自身が「インタラクティブドラマ」と題したように2021年のリメイクから引き続き声優陣の熱演が光り、アニメ描写が大幅に増した点はまさしくドラマ感覚であり、その名に名前負けはしない。
ただ総合的には任天堂作品らしく及第点なクオリティはありクソゲーでこそないものの『ファミコン探偵倶楽部』として過去作と同列に並べると構成などが明らかに変わっており、それまでのようなドラマ展開を期待したシリーズの一部ファンからは別物感や物足りなさを指摘する声も多く見られている。
また、これまでの作品との整合性が取れない部分や時代背景などでは矛盾が多いのは残念なところ。
『ファミコン探偵倶楽部』は既存作の評価こそ高いながら長年新作展開のなかったシリーズで、そんな長年の沈黙を破っての新作登場として話題性は大きかったものの、その期待に十二分に応えられたとはいえない微妙な作品となった。
主なキャスティング
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詳細
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主人公(緒方恵美)
橘 あゆみ(皆口裕子)
空木 俊介(各務立基)
鎌田 公晴(大塚芳忠)
久瀬 純子(白石涼子)
神原 大輔(KENN)
佐々木 英介(斉藤壮馬)
福山 翼(小野友樹)
森本 めぐみ(大橋彩香)
滝口 康平(重松千晴)
久瀬 よし江(定岡小百合)
轟社長(田淵将平)
轟夫人(須部和佳奈)
「笑子ママ」コト宮下美千代(上田瞳)
おじいさん(鈴木コウタ)
南三中の生徒A(堀江瞬)
南三中の生徒B(古賀英里奈)
南三中の生徒C(小原好美)
森本 ひろみ(沢城みゆき)
婦警(沢樹ゆうは)
都筑 実(高橋広樹)
久瀬 誠(阿座上洋平)
橋爪 綾香(悠木碧)
都筑 笑実子(桜井しおん)
近隣住民A(田代哲也)
近隣住民B(中臣真奈)
タクシードライバー(花江夏樹)
「リラクス紫子村」の介護士(夏代めぐみ)
大澤 トヲル(米山伸伍)
似顔絵捜査官(水花天乃)
情報通のおばちゃん(くじら)
亀松町の子供A(石川明日菜)
亀松町の子供B(中臣真菜)
亀松町の子供C(間中三雲)
亀松町のお茶屋(片貝薫)
工事現場の人A(銀河万丈)
送迎ドライバー(山口正秀)
橋爪学(上田燿司)
元入雲少年院教官(蓮岳大)
都筑兄妹の父(唐仁原正幸)
河合 ひとみ(小山力也)
サンボラのマスター加藤(志賀麻登佳)
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余談
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2024年7月10日に任天堂公式チャンネルにて「笑み男」というナゾめいたタイトルのみで本作のティザーが公開された。
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この時点では『ファミコン探偵倶楽部』の名前はなくすべてにわたってナゾで様々な考察の声が上がったが7月24日に、その正体が『ファミコン探偵倶楽部』であるとわかると、それまで長年にわたって新作に関する動きなどなかっただけに一転驚きの声が相次いだ。
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本作ではこれまで通りの原作者兼プロデューサー坂本賀勇氏だけでなく、アシスタントプロデューサーとして新しく宮地香緒里氏が起用されている。
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宮地氏は2021年のリメイク2作品でもコーディネーターとして参加し、そこで坂本氏の目に留まり本作でアシスタントプロデューサーとしてストーリーの作成に携わることになった。
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なお坂本氏によれば「無事に後継者が見つかった」とのことなので、長年止まっていたが以後また新シリーズが活発に展開される可能性はあるだろう。
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物語序盤から登場する空木旧知のベテラン刑事、鎌田公晴はこれまででも恒例だった「ぢゃ」口調の老人系キャラ。
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もちろん「○まだ」という慣例は受け継がれており鎌田は「かまた」ではなく「かまだ」と読む。
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ただこれまでは『消えた後継者』の熊田『雪に消えた過去』の今田は医師、『うしろに立つ少女』の駒田は美術教師といずれも「先生」と呼ばれていた人だったが初めて「先生」ではなくなった。
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本作でも恒例の電話ネタで『消えた後継者』や『うしろに立つ少女』にまつわるものがある。
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『消えた後継者』の「神田弁護士事務所」の番号「*16」にかけると「神田便利屋本舗」という代行サービスのような会社につながる。言うまでもなく神田弁護士や『うしろに立つ少女』での「神田弁当」の経営者とは別人。
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『うしろに立つ少女』のショットバー「サンボラ」にも電話が可能で、劇中に登場した河合ひとみや、マスターの加藤と話すことができる(2人はこのケースでの声のみの出演)。
最終更新:2024年12月16日 17:26