ナチスドイツの強制収容所で速記係を務め、1万人超の殺害に関与したとして訴追された女(99)の有罪が8月下旬に確定した。収容所幹部や看守ではない、事務員に対する訴訟としては初のケースで、「最後のナチス裁判」としてドイツで注目を集めた。およそ80年前に起きたホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)という未曾有の犯罪に、なぜいま審判が下されたのか。当時18~19歳だった女の半生と、ドイツによるナチス犯罪追及の歴史は起伏に富んでいる。(時事通信社ベルリン支局 山本拓也) 【写真】イルムガルト・フルヒナー被告 2024年8月20日、ドイツ東部ライプチヒの裁判所。絢爛(けんらん)なシャンデリアが照らす重厚な法廷で、ドイツ戦後史に新たなページが綴じられた。えんじ色の法服を着た連邦司法裁判所(最終審)のガブリエレ・ツィレナー裁判長は傍聴席をじっと見据え、はっきりとした口調で述べた。「1万505人の殺人と5人の殺人