北海道の朱鞠内湖(しゅまりないこ)に釣りに来ていた男性が行方不明になっていた件で15日午後、人の頭部が発見され、恐怖が広がっている。周辺には胴長靴をくわえたヒグマが目撃されており、ヒグマの関与が疑われている。現場の湖は幻の魚イトウがいるという有名釣りスポット。北海道の釣り人にとってヒグマ対策は必要不可欠だという。
北海道警によると男性は道内在住で14日朝から釣りに来ており、渡し船で釣り場に向かったという。同行者はおらず、同日午前10時ごろに運航事業者のスタッフが男性を下ろした場所の近くでヒグマを目撃。男性に電話をかけたがつながらなかった。
周辺では、釣りに使われる胴長靴をくわえたヒグマが目撃されていた。15日午後には人の頭部が見つかり、道警は男性がヒグマに襲われたとみて、他の部位を探すとともに、身元の確認を急いでいる。また、ハンターらはヒグマ1頭を駆除した。
朱鞠内湖は北海道北部・幌加内町にあるダム湖。人造湖ながら、幻の魚と呼ばれるイトウ、サクラマス、アメマス、ワカサギなどが釣れる。岸から竿を出すだけではなく、湖内に大小13の島があり、船で島に渡り、島から狙う方が釣れる確率が高くなる。朱鞠内湖の公式サイトで13日に「メーターイトウ釣れる」と報告があったように、イトウの大きなサイズが釣れる場所だった。
しかし、同サイトでは14日に「5月14日に朱鞠内湖でクマの出没が確認されました。幌加内町役場と朱鞠内湖淡水漁業協同組合の判断により、お客様の安全の確保のため、当面の間朱鞠内湖での渡船中止、並びに釣りを禁止させていただきます。レークハウスしゅまりないより湖側の道路の規制を行っております。湖には行かないようにお願い致します」として、釣りが当面禁止となった。
北海道は札幌市にもヒグマが出没するほど、生息数が多くなっており、エサ不足になっているといわれる。いい魚がいる、つまり自然が豊富な場所ほど、ヒグマがいるということだ。
釣り雑誌ライターは「朱鞠内湖の船でしか渡れない孤島は完全にヒグマのテリトリーです。ヒグマは慎重な動物なので、人がいることが分かれば、顔を合わせないように、向こうから避けるといわれています。本来はラジオをガンガンかけて、クマよけの鈴を鳴らして、釣りをしなきゃいけないんですが、大きな音を出すと魚が逃げるので、つい音を出すのを控えてしまうし、釣りに集中するとベルを鳴らすのを忘れてしまうんですよね」と話した。
一方、人が捨てた釣り餌とか、弁当の残りを食べたヒグマが“人=おいしいモノを持ってくる存在”と認識してしまうと、音を聞いたら逆に寄ってくるという話もある。「とにかく、北海道の渓流釣り、湖水釣りは『ヒグマが来たらどうしよう』という恐怖との闘いです。効果があるとされるクマよけスプレーを携帯してても、ばったり出くわしたら使うヒマがない」と同ライターは指摘した。
かつてヒグマの生息数は2000~6000頭の間で調整されていたが、1990年に春グマ駆除をやめたため、現在は2万頭近くにまで増えたといわれる。春グマ駆除とは春先に、巣穴から出たヒグマの足跡を追って駆除するというもの。まだ草木が伸びていないので見通しもよく、少ないリスクで効率よく駆除することが可能だったが、ヒグマ保護への政策転換で廃止されたのだ。今では猟師が高齢化および減少し、ヒグマ駆除が難しくなっている。
ヒグマは日本最強の陸上哺乳類だ。1対1で出くわさないような行動を取るしかないだろう。