話題LOGISTICS TODAYは6日、「物流大再編時代・第四弾」と称するオンラインイベントを開催した。今回スポットが当てられたのは物流業界の「多重下請け構造」。元請けから下層にいくほど運賃が下がる仕組みは、業界が抱える構造的欠陥とされてきた。しかし、その一方で、下請け構造がこれまでの物流を支えてきた実情もある。今回は多重下請け構造の是非を問いつつ、課題解決のためのキーワードに迫る。
多重下請け構造是正に向けた、行政の動き
イベントではまず、流通経済大学流通情報学部長・教授の矢野裕児氏が登壇。11月27日にとりまとめられた、国土交通、経済産業、農林水産の3省合同会議での改正物効法の詳細を解説するとともに、下請法見直しの現状を紹介した。
下請法見直しの議論は、公正取引委員会が荷主への下請法適用を検討したことを受けたもので、いまだ取りまとめを待つ状況。矢野氏によると、発荷主を下請法の適用対象とすることではおおむね合意と見ているものの、運送事業者と直接契約を結んでいない着荷主の扱いについては慎重に議論が進められているという。罰則が絡む問題だけに、意見をまとめるのに時間がかかっているようだ。
下請法の適用が決まった場合、荷主は実運送の荷待ち・荷役時間やドライバーの時間外労働について、より直接的な責任を負うことになる。矢野氏は「下請法と独占禁止法は扱う取引の種類が違うため、単純な比較はできないが、下請法の方が執行件数が多く、実効性が高い」とコメント。また、今まで連携が希薄だった国交省と公取委が情報をシェアすることで、実行力はさらに高まるとしている。国交省にはトラック・物流Gメンという独自の情報収集手段がある。公取委からすると、調査の手間が省け、即時行動に移りやすいというわけだ。
運送事業者をつなぐ取次業者が、下請け構造の一因になっているという意見もある。これに対し矢野氏は「取次事業者の介在で運送の質が下がっていることが問題。介在することで運送の質が上がったり、役割を分担できる可能性もある」とし、取次事業者を活用せざるを得ない運送事業者の実情を指摘する。
多重下請け構造に関わる現場の声を代弁してくれたのは、フジホールディングス(東京都港区)の松岡弘晃社長だ。同社は幹線輸送事業を担うフジトランスポート(奈良市)を軸にしつつ、積極的なM&Aを行い、事業を急拡大させている。
松岡氏は低い階層での下請けから、原価計算やコスト管理を徹底することで、元請け、1次請けへと階層を上げていった自身の経験から、下請け構造を是正するには経営者の自助努力が必要不可欠であるとする。根拠となるデータをきちんと示すことができれば、荷主や上層の運送事業者を交渉の場に立たせることができる。そのためにもまずは経営者自身が運送の実態を把握しなくてはならない。
また松岡氏は、下請けを2次までに制限するといった施策は現実的ではないと語る。荷量が絶えず変化する物流業界では、多いときに合わせてトラックの数をそろえるのは合理的とはいえないからだ。同氏は現場の人間として、単に階層を減らすだけでは改革は進まないとした。
矢野・松岡の両氏はそれぞれ下請け構造自体を否定することはせず、下請け構造によって運送の質が低下したり、適正な運賃を収受できないことに問題があるとしている。これを受けてイベントでは、運送に関わるソリューションを提供する各社が、各社なりの回答を提示していった。
「契約」「実績」「請求」の情報連携進める、ウイングアーク1st
DX(デジタルトランスフォーメーション)による帳簿管理や経営支援を行うウイングアーク1st(ウイングアークファースト)物流プラットフォーム事業開発部部長の加藤由貢氏は、企業間の「契約」「実績」「請求」の3つの情報連携の必要性を説く。
今回の法改正の目的は荷待ち・荷役時間の削減、ひいてはドライバーの負担軽減だ。しかし、加藤氏は契約から請求までのフローを効率化できなければ、現場の負担はかえって増すという。運送計画の書面化や、実運送管理簿の作成などは構造把握のために必要ではあるものの、それらを現場任せにすればドライバーの仕事が増えるだけだ。
加藤氏は運送契約の書面化などの「契約」の内容、荷待ち・荷役時間の「実績」計測、荷役を含めた適正な運賃の「請求」までの流れを、デジタル技術で標準化する必要があると訴える。同社の物流DXプラットフォーム「IKZO」(イクゾー)も、運送契約から請求・支払いまでをオンラインで完結できたり、荷待ち・荷役時間の計測ができたりする、現場負担を軽減するためのツールだ。
ドライバーに依存しない荷待ち・荷役時間の解消目指す、古野電気
古野電気(兵庫県西宮市)は、ドライバーに依存しない荷待ち・荷役時間の管理に取り組む。同社システム企画マーケティング課主査の西村正也氏は、トラック予約受付システムの必要性を認めながらも、「バース予約をドライバーに一任した場合、ヒューマンエラーが多発することも考えられる」とし、ドライバー依存の運用には限界があるとした。
同氏は他システムとの連携が、トラック予約受付システムの機能を十二分に発揮することにつながるという。例えば、同社が展開する車両入退場管理サービス「FLOWVIS」(フロービス)と組み合わせれば、車番認識と予約情報を突合して混雑緩和を図ったり、待ち時間を管理・記録したりできる。フロービスはすでに9割以上の商用車両に搭載されているETCを利用したものなので、導入負担は小さい。さらに、この仕組みを応用すれば、施設周辺の渋滞対策、セキュリティーの向上、入退場ゲートへの人員配置の見直しなども可能になる。古野電気はバースの前後工程に及ぶ、より広い領域での物流最適化に取り組む。
「現場の見える化」で法改正に即応するX Mile
続いて登壇したのは、物流事業者向けの業務改善ツールを提供するX Mile(クロスマイル、東京都新宿区)の安藤雄真氏(物流プラットフォーム事業本部ゼネラルマネージャー)。同氏は下請け構造の是正にはDXによる「現場の見える化」が必要だとする。
X Mileのクラウドサービス「ロジポケ」は、運行管理から経営、労務、安全教育、ドライバーの採用に至るまで、運送に関わるありとあらゆる領域をカバーしている。そのためロジポケで業務を一元化できれば、業務内容をデータにまとめ、可視化することができる。これはまさに、現場把握に乗り出した行政の求めに応えることと同義だ。
さらにロジポケには実運送体制管理簿の自動作成機能なども実装される見通し。法改正のたびに変わる仕組みに即応できることも、DXツール導入のメリットの一つだ。
多重下請け構造是正を追い風に、ハコベル
今回の法改正は求荷求車サービスにとっては逆風とも捉えられる。ところが求荷求車サービスのハコベル(東京都中央区)の渡辺健太氏(ハコベル物流DXシステム事業部カスタマーサクセス部部長)は、多重下請け構造是正はむしろ「追い風」とする。
ハコベルはこれまでのピラミッド型ではなく、ネットワーク型の発注構造の構築を目指している。単に荷物を右から左へ流すのではなく、同社が責任を負うことで運送品質の向上につなげたい考えだ。
同社は実運送体制管理簿や標準運送契約への対応を急ぎ、運賃と付帯業務を切り分けて依頼内容を明確にする準備を進める。ハコベルは求荷求車サービスを公共のものに近い存在にまで昇華させることで、平等な運送を実現しようとしている。渡辺氏は「交渉力に乏しい中小運送事業者でも、ハコベルのプラットフォームを利用することで適正料金を受け取れるようになるのではないか」と話す。
下請け構造是正には、より実効性の高い取り組みが必要に
イベントの最後にはローランド・ベルガーのパートナー小野塚征志氏、運送事業支援ツールを提供するAzoop(アズープ、東京都港区)代表取締役CEOの朴貴頌氏などが「2025年大予想」をテーマに議論した。
▲(左)ローランド・ベルガーの小野塚征志氏、(右)Azoopの朴貴頌氏
小野塚氏は、多重下請け構造の是正がドライバーの賃金向上と人材確保につながるとした。また、荷主が下請法の適用対象になれば、契約内容の透明化が進み、事前契約にない荷役などのメニュープライシングが進むのではないかと予想した。
多重下請け構造の是正についてはさまざまな意見があり、現時点では行政も明確なビジョンを示せていない。しかし、業界が抱える長年の課題であるだけに、より実効性の高い取り組みが必要なことは確かだ。
話題は25年の業界の動向予測にも及んだ。小野塚氏はデジタルトランスフォーメーションという従来の意味のDXのほか、これまでと違う「DX」もキーワードになると語る。このDXはデッド・オア・アライブの「D」、クロスロードの「X」のDXであり、25年は運送事業者の明暗を分ける重要な1年になるとした。朴氏も小野塚氏の意見に同調し、行動力の有無が生き残れる事業者とそれ以外を分けると話した。
中小運送事業者にとってDX導入はハードルが高いとされている。しかし、小野塚氏は事業規模を言い訳にしてDX化を進めないのは「甘え」と言い切る。25年は運送事業者の自助努力が問われる年になることは間違いない。しかし、イベントに登壇したような数多のプレイヤーが、課題解決のために手を差し伸べていることも忘れてはならない。