[go: up one dir, main page]
More Web Proxy on the site http://driver.im/

JP3595098B2 - 薄膜キャパシタ - Google Patents

薄膜キャパシタ Download PDF

Info

Publication number
JP3595098B2
JP3595098B2 JP3939497A JP3939497A JP3595098B2 JP 3595098 B2 JP3595098 B2 JP 3595098B2 JP 3939497 A JP3939497 A JP 3939497A JP 3939497 A JP3939497 A JP 3939497A JP 3595098 B2 JP3595098 B2 JP 3595098B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
film
dielectric
thin film
lattice constant
electrode
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Expired - Fee Related
Application number
JP3939497A
Other languages
English (en)
Other versions
JPH1093050A (ja
Inventor
和秀 阿部
周一 小松
光明 出羽
伸 福島
賢也 佐野
隆 川久保
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Toshiba Corp
Original Assignee
Toshiba Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Toshiba Corp filed Critical Toshiba Corp
Priority to JP3939497A priority Critical patent/JP3595098B2/ja
Publication of JPH1093050A publication Critical patent/JPH1093050A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP3595098B2 publication Critical patent/JP3595098B2/ja
Anticipated expiration legal-status Critical
Expired - Fee Related legal-status Critical Current

Links

Images

Classifications

    • HELECTRICITY
    • H01ELECTRIC ELEMENTS
    • H01GCAPACITORS; CAPACITORS, RECTIFIERS, DETECTORS, SWITCHING DEVICES, LIGHT-SENSITIVE OR TEMPERATURE-SENSITIVE DEVICES OF THE ELECTROLYTIC TYPE
    • H01G4/00Fixed capacitors; Processes of their manufacture
    • H01G4/002Details
    • H01G4/018Dielectrics
    • H01G4/06Solid dielectrics
    • H01G4/08Inorganic dielectrics
    • H01G4/12Ceramic dielectrics
    • H01G4/1209Ceramic dielectrics characterised by the ceramic dielectric material
    • H01G4/1254Ceramic dielectrics characterised by the ceramic dielectric material based on niobium or tungsteen, tantalum oxides or niobates, tantalates

Landscapes

  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Ceramic Engineering (AREA)
  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Power Engineering (AREA)
  • Inorganic Chemistry (AREA)
  • Manufacturing & Machinery (AREA)
  • Microelectronics & Electronic Packaging (AREA)
  • Semiconductor Integrated Circuits (AREA)
  • Semiconductor Memories (AREA)

Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、半導体集積回路およびその周辺回路などに用いられる薄膜容量素子に用いられる薄膜キャパシタに関する。
【0002】
【従来の技術】
LSIメモリ、特にダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)は、過去において3年で4倍というスピードで高集積化されており、今後も同じようなスピードで高集積化が進むと予想されている。DRAMでは、センス回路の感度確保および放射線によるソフトエラー防止の観点から、一定のキャパシタ容量を必要とするため、高集積化に比例してメモリセル内のキャパシタの実効面積を減少させるわけにはいかない。その結果、誘電体材料としてシリコン酸化膜などを使用する限り、高集積化が進行するのに伴って、メモリセル内でキャパシタの占める割合は次第に大きくなっている。
【0003】
高誘電率薄膜をDRAMのメモリセルのキャパシタの誘電体膜として利用することが盛んに検討されている。これは高誘電率薄膜をキャパシタの誘電体膜として用いることにより、キャパシタの面積を小さくして高集積化メモリセルを小型化しようとするものである。また、高誘電率薄膜をDRAMのメモリセルのキャパシタの誘電体膜として使用する場合には、単位面積当たりに蓄積できる電荷量が大きいこと、リーク電流が小さいことが必要である。さらに、メモリを高速動作させるためには、充電と放電が十分に高速であることが求められる。
【0004】
DRAMのメモリセルへの応用としては、従来より使用されているシリコン酸化膜(SiO:比誘電率約4)やシリコン窒化膜(Si:比誘電率約7)に代えて、Ta(比誘電率約28)を用いることが検討されている。しかし、Taでもキャパシタ面積を小さくして、高集積化するには誘電率の大きさが不十分である。
【0005】
そこで、更に高い誘電率を有する材料として、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)やチタン酸バリウムストロンチウム(BaSr1−x TiO)などが盛んに検討されている。(Ba,Sr)TiOは、BaTiOとSrTiOの固溶系であり、ペロブスカイト型の結晶構造を持つ。SrTiOは常誘電体であり、BaTiOはキュリー温度が約120℃の強誘電体であることが知られている。
【0006】
PbやBiと比べるとSrやBaは蒸発しにくいので、(Ba,Sr)TiOの薄膜作製においては、組成の制御が比較的容易である。また、SrTiOやBaTiOが結晶化した場合には、ペロブスカイト型以外の(例えばパイロクロア型などの)結晶構造をとることは殆どない。
【0007】
しかしながら、BaSr1−x TiOには、膜厚を100nm以下に薄膜化すると誘電率が低下し、十分な電荷を蓄積できないという問題があった。
【0008】
一方、記憶媒体としてのキャパシタに強誘電体薄膜を用いた記憶装置(強誘電体メモリ)の開発が行われており、一部では既に実用化されている。強誘電体メモリは不揮発性であり、電源を落とした後も記憶内容が失われない、しかも膜厚が十分薄い場合には自発分極の反転が速く、DRAM並みに高速の書き込み、読み出しが可能であるなどの特徴を持つ。また、1ビットのメモリセルを1つのトランジスタと1つの強誘電体キャパシタで作製することができるため、大容量化にも適している。
【0009】
また、強誘電体メモリをDRAM動作させることも検討されている。これは、通常の動作中は強誘電体の自発分極を反転させず、DRAM(揮発性メモリ)のメモリセルキャパシタとして使用する。但し、機器の電源を落とす前にだけ強誘電体薄膜の残留分極を利用して、不揮発性メモリとして使用するというものである。この方法は、強誘電体メモリの最大の問題と考えられている、分極反転を繰り返すに伴って強誘電性が劣化する現象(疲労)の影響を小さくするのに有効である。
【0010】
強誘電体メモリに適した強誘電体薄膜には、残留分極が大きいこと、残留分極の温度依存性が小さいこと、分極反転の繰り返しに対する残留分極の劣化(疲労)が小さいこと、残留分極の長時間保持が可能であること(リテンション)などが必要である。加えて、メモリを高速で動作させるためには、自発分極の反転が十分に高速であることが求められる。
【0011】
現在、強誘電体材料としては、主としてジルコン酸チタン酸鉛(PZT)が用いられている。PZTは、ジルコン酸鉛(PbZrO)とチタン酸鉛(PbTiO)の固溶体であり、これらをほぼ1対1のモル比で固溶したものが、自発分極が大きく、低い電界でも反転することができるので、記憶媒体として優れていると考えられている。PZTは、強誘電相と常誘電相の転移温度(キュリー点)がほぼ300℃以上と比較的高いため、通常の電子回路が使用される温度範囲(120℃以下)では、記憶された内容が熱によって失われる心配は少ない。
【0012】
しかしながら、PZTの良質な薄膜は作製が難しいことが知られている。第一に、PZTの主成分である鉛(Pb)は500℃以上で蒸発しやすく、そのため組成の正確な制御が難しい。第二に、PZTがペロブスカイト型結晶構造を形成した時に初めて強誘電性が現れるが、このペロブスカイト型結晶構造を持つPZTが得にくい。代わりにパイロクロアと呼ばれる結晶構造が容易に得られるが、この結晶構造を取った場合には強誘電性を示さない。PZT膜をペロブスカイト型構造にするためにはある程度以上(約500℃)の温度が必要であるが、温度を上げると先に述べたようにPbが蒸発あるいは拡散し、所望の組成からずれてしまう。
【0013】
また最近では、Bi層状ペロブスカイト化合物の一種であるSrBiTaなどに関する研究が、強誘電体メモリなどへの応用を目指して盛んに行われている。しかしながら、BiはPbと同様に低融点の元素であるにも拘らず、ヒステリシスを得るためには十分な結晶化が必要であり、そのため高温(700℃以上)で熱処理を施すことによりBiが蒸発する、或いはBiが電極その他の中に拡散するなどの問題は避けられない。また、結晶的に異方性の強い材料であるにも拘らず、無配向の多結晶膜で利用しなければならない場合には、微細化したときの強誘電特性のばらつきが懸念されている。
【0014】
このようにPZT薄膜やBi層状化合物薄膜の良質な膜を再現性良く作製することは難しいにも拘らず、現在メモリの記憶媒体(キャパシタ)として広く検討されている理由は、PZTやBi系化合物以外にメモリキャパシタに適当な強誘電体材料が見出されていないためである。
【0015】
PZT以外では、チタン酸バリウム(BaTiO)が室温で強誘電性を示す材料として知られている。BaTiOは、PZTと同じペロブスカイト型構造を持ち、キュリー温度は約120℃であることが知られている。Pbと比べるとBaは蒸発しにくいので、BaTiOの薄膜作製においては組成の制御が比較的容易である。また、BaTiOが結晶化した場合には、ペロブスカイト型以外の(例えばパイロクロア型などの)結晶構造をとることは殆どない。
【0016】
これらの長所にも拘らず、BaTiOの薄膜キャパシタが強誘電体メモリの記憶媒体としてそれほど検討されていない理由としては、PZTと比べて残留分極が小さく、しかも残留分極の温度依存性が大きいことがあげられる。この原因は、BaTiO固有のキュリー温度Tcが比較的低く(約120℃)、また抗電界が低いことにある。キュリー温度Tcとは、強誘電相から常誘電相へ相転移する強誘電体材料に固有な温度であり、たとえ室温で強誘電性を示す材料でもキュリー温度より高温では強誘電性を示さない。このため、BaTiOを用いた薄膜キャパシタを利用して強誘電体メモリを作製した場合、何らかの理由で高温(120℃程度)に晒された場合に、記憶内容が失われる恐れがあるばかりでなく、通常電子回路が使用される温度範囲(85℃以下)でも残留分極の温度依存性が大きく、動作が不安定である。
【0017】
従って従来、BaTiOからなる強誘電体薄膜を使用した薄膜キャパシタは、強誘電体メモリの記憶媒体としての用途には適さないと考えられていた。
【0018】
これに対して最近、Pt/MgO単結晶基板の上にエピタキシャル成長した膜厚60nmのBaTiO膜において、キュリー温度が200℃以上に上昇するという現象が報告されている(飯島賢二他、応用物理、第62巻第12号(1993年)、pp.1250〜1251)。この文献によれば、このような現象が生じるのは、Ptの格子定数に合わせるようにしてエピタキシャル成長したBaTiOペロブスカイト格子においてはa軸が縮み、c軸長が伸びるためであろうと考えられている。しかしながらこの文献では、このような現象を観測しているのは膜厚60nm以下のBaTiOにおいてであり、これより厚い膜では (臨界膜厚より大きくなるため)ミスフィット転移により、本来の格子定数に戻ってしまうとしている。
【0019】
一方、強誘電体薄膜は、膜厚が1μm以下の領域では一般に薄くなればなるほど残留分極が小さくなる傾向があるといわれている。実際、前記文献で作製したBaTiOエピタキシャル膜では、100nm以下の膜では残留分極が2〜3μC/cm以下であることが報告されている。従って、膜厚が60nm以下の領域では、仮にキュリー温度を上昇させることができたとしても、強誘電体薄膜としては、実用的な残留分極が得られない状況である。
【0020】
以上述べた理由から、従来BaTiOの薄膜キャパシタが、仮にキュリー温度をエピタキシャル効果により高くすることができたとしても、強誘電体メモリの記憶媒体として使用されることは難しいと考えられてきた。
【0021】
上述したような従来の強誘電体薄膜における問題点に対して、本発明者らは、下部電極(例えばPt)の格子定数に比較的近い格子定数を持つ誘電体材料(例えば、BaSr1−x TiO)を選択し、かつまたRFマグネトロンスパッタリング法という成膜過程でミスフィット転位が比較的入りにくい成膜方法を採用することにより、膜厚200nm程度と比較的厚い膜厚であるにも拘らず、エピタキシャル効果によって得られる本来の格子定数よりも膜厚方向に格子定数(c軸)が伸び、面内方向の格子定数(a軸)が縮んだ状態を保つことができることを見出した。その結果として、強誘電キュリー温度Tcを高温側にシフトさせ、室温領域で大きな残留分極を示し、しかも85℃程度まで温度を上げても十分大きな残留分極を保持できる強誘電体薄膜を実現可能であることを確認した。
【0022】
例えば、下部電極として酸化されにくいPt(格子定数a=0.39231nm)を使用し、誘電体としてチタン酸バリウムストロンチウム(BaSr1−x TiO:BST)の組成領域x=0.44〜0.90を用いることにより、本来室温では強誘電性を示さないはずの組成領域(x≦0.7)でも強誘電性が発現し、またもともと室温で強誘電性を示す組成領域(x>0.7)においては、本来室温以上にあるキュリー温度がさらに上昇するという、実用上好ましい強誘電特性を実現できることを実験的に確認している。
【0023】
また、このような下部電極と誘電体の格子定数の不整合を利用して、誘電体に歪みを導入する方法が、常誘電体薄膜の誘電率を向上させることにも、大きな効果があることを、本発明者らは見出している。即ち、BaSr1−x TiOのBa量xが0.24程度の組成の薄膜をPt上にエピタキシャル成長させた場合、強誘電性は発現しないものの、誘電率が大幅に増加するという現象を見出している。このような効果を利用すれば、DRAMのメモリセルに用いる誘電体膜の蓄積電荷量を大幅に増やすことができる。
【0024】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、本発明者らのその後の実験から、これらの系即ち、下部電極の上に誘電体としてBaSr1−x TiOなどのエピタキシャル膜を作製し、格子不整合の効果を利用して得られるエピタキシャル効果、即ち常誘電性の材料に強誘電性を付与、若しくはもともと強誘電性の材料の場合には強誘電性を強化、或いは常誘電性の材料の誘電率を向上させた場合、高速での駆動に問題が生じる場合があることが明らかになった。
【0025】
即ち、得られた膜が強誘電体の場合には、D−Eヒステリシスを高い周波数で描かせた場合に、低い周波数で描かせた場合と比較して残留分極が低下する場合があることが分った。また、得られた膜が常誘電体の場合には、誘電率の周波数依存性が大きくなり、周波数が高くなるにつれて誘電率が低下する現象が見られることがあった。
【0026】
本発明の目的は、小さな面積で多くの電荷を蓄積できる薄膜キャパシタを提供することにある。
【0027】
本発明の他の目的は、半導体メモリの大容量化及び高集積化に適した薄膜キャパシタを提供することにある。
【0028】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明(請求項1)は、表面に立方晶系の(100)面又は正方晶系の(001)面が現れている第1の電極と、この第1の電極上にエピタキシャル成長された、本来立方晶のペロブスカイト型構造を有する誘電体薄膜と、この誘電体薄膜上に形成された第2の電極とを具備し、前記誘電体薄膜は、立方晶系に属する本来のペロブスカイト型結晶構造(格子定数a)の単位格子体積をv=a 、エピタキシャル成長後正方晶に歪んだ単位格子体積
(格子定数a=b≠c)をV=acと表わしたとき、
V/V≧1.01
なる関係を満たすとともに、膜厚方向の格子定数cと膜面に平行な方向の格子定数aとの比c/aが
c/a≧1.01
なる関係を満たすことを特徴とする薄膜キャパシタを提供する。
【0029】
本発明(請求項2)は、表面に立方晶系の(100)面又は正方晶系の(001)面が現れている第1の電極と、この第1の電極上にエピタキシャル成長された、本来立方晶のペロブスカイト型構造を有する誘電体薄膜と、この誘電体薄膜上に形成された第2の電極とを具備し、前記誘電体薄膜は、前記第1の電極表面の面方向の格子定数をa、立方晶系に属するペロブスカイト型結晶構造のa軸長で表わされる前記誘電体材料本来の格子定数をaとするとき、
/a≦1.002
なる関係を満たすととともに、膜厚方向の格子定数cと膜面に平行な方向の格子定数aとの比c/aが
c/a≧1.01
なる関係を満たすことを特徴とする薄膜キャパシタを提供する。
【0030】
本発明(請求項3)は、表面に立方晶系の(100)面又は正方晶系の(001)面が現れている第1の電極と、この第1の電極上にエピタキシャル成長された、本来立方晶のペロブスカイト型構造を有する、キュリー温度が200℃以下の誘電体からなる誘電体薄膜と、この誘電体薄膜上に形成された第2の電極とを具備し、前記誘電体薄膜は、前記第1の電極表面の面方向の格子定数をa、立方晶系又は正方晶系に属するペロブスカイト型結晶構造のa軸長で表わされる前記誘電体材料本来の格子定数をaとするとき、
1.002≦a/a≦1.015
なる関係を満たすとともに、前記誘電体がエピタキシャル成長した後の面方向の格子定数をaとするとき、
a/a<1.002
なる関係を満たすことを特徴とする薄膜キャパシタを提供する。
【0031】
本発明(請求項4)は、上述の薄膜キャパシタ(請求項1〜3)において、前記誘電体薄膜が、下記式により表される化合物からなることを特徴とする。
【0032】
ABO
(式中、AはBa、Sr、およびCaからなる群から選ばれた少なくとも1種、Bは、Ti、Zr、Hf、Sn、Mg1/3 Nb2/3 、Mg1/3 Ta2/3 、Zn1/3 Nb2/3 、Zn1/3 Ta2/3 、Ni1/3 Nb2/3 、Ni1/3 Ta2/3 、Co1/3 Nb2/3 、Co1/3 Ta2/3 、Sc1/3 Nb2/3 、およびSc1/3 Ta2/3 からなる群から選ばれた少なくとも1種である。)
本発明(請求項5)は、上述の薄膜キャパシタ(請求項1〜3)において、前記第1の電極が、一般式ABO(式中、Aは、Ba,Sr,Ca,およびLaからなる群から選ばれた少なくとも1種、Bは、Ru,Ir,Mo,W,Co,Ni,およびCrからなる群から選ばれた少なくとも1種)により表されるペロブスカイト結晶構造の導電性化合物からなることを特徴とする。
【0033】
本発明(請求項6)は、上述の薄膜キャパシタ(請求項1または2)において、前記誘電体薄膜が、(BaSr1−x )TiO(0<x<0.9)により表される化合物からなり、前記第1の電極が、SrRuO(0.9<Sr/Ru<1.1)により表されるペロブスカイト結晶構造の導電性化合物からなることを特徴とする。
【0034】
本発明(請求項7)は、上述の薄膜キャパシタ(請求項1)において、前記誘電体薄膜が、常誘電体のとき1.03≧c/a≧1.01、強誘電体のとき1.08≧c/a≧1.01を満たすことを特徴とする。
【0035】
本発明(請求項8)は、上述の薄膜キャパシタ(請求項2)において、前記誘電体薄膜が、1.1≧c/a≧1.01を満たすことを特徴とする。
【0036】
本発明(請求項9)は、上述の薄膜キャパシタ(請求項3)において、前記誘電体薄膜が、1.004≦a/a≦1.011を満たすことを特徴とする。
【0037】
本発明(請求項10)は、酸素含有率が70%以上である雰囲気中において、表面に立方晶系の(100)面又は正方晶系の(001)面が現れている導電性基板上に、ペロブスカイト誘電体材料をエピタキシャル成長させ、膜厚方向の格子定数cと膜面に平行な格子定数aとの比c/aが1.01以上であるペロブスカイト型構造を有する誘電体薄膜を形成する工程を具備するペロブスカイト型誘電体薄膜の製造方法を提供する。
【0038】
本発明の薄膜キャパシタは、次のような原理に基づくものである。
【0039】
即ち、誘電体膜を下部電極の上にエピタキシャル成長させることにより、常誘電体のまま誘電率を大きくしたり、常誘電体に強誘電特性を付与したり、もともと強誘電体材料の場合は強誘電性を強化したりすることができる。このような効果(エピタキシャル効果)が発現する理由は、誘電体が下部電極の格子定数に合わせるようにしてエピタキシャル成長した結果、誘電体の面方向の格子定数は縮み、逆に膜厚方向の格子定数は伸びるためである。
【0040】
一般に、ペロブスカイト型の誘電体或いは強誘電体材料は、化学式ABOで表わされるが、大きな分極の起源は陽イオンと陰イオンの相対的な変位によるものであると考えられる。特に、Bサイトイオンの変位が分極特性を支配していると考えられる。このようなペロブスカイト型構造を持つ誘電体に2次元的な圧縮応力を加えると、応力と垂直な方向には格子が伸び、イオンの変位、特にBサイトイオンの変位が容易になり、分極しやすくなる。これにより、常誘電体の場合は誘電率が大きくなり、場合によっては、膜厚方向の双極子相互作用が強くなることにより強誘電性が誘起される。また、もともと強誘電体であった場合には、自発分極の大きさが大きくなるという特徴がある。
【0041】
このような効果は、下部電極よりも格子定数の大きな誘電体材料をエピタキシャル成長させた時に現れやすいが、誘電体の格子定数が下部電極と等しいか、小さいときにも現れる。特に、スパッタリング法により、誘電体膜の単位格子体積Vを本来の単位格子体積Vよりも1%以上大きくしたときに、顕著に現れる。しかし、もともと格子定数が下部電極よりも大きな誘電体材料をエピタキシャル成長した場合、下部電極の結晶方位と同じ方位を持つ誘電体膜が得られたとしても、必ずしも面方向の格子定数が、下部電極と完全に一致したまま成長するとは限らない。即ち、電極界面或いは電極界面付近で、格子不整合の緩和が生じて、誘電体本来の格子定数に戻ろうとする。このような格子定数の緩和は、主として誘電体膜中に不整合転移が生じるためと考えられる。このような緩和がどの程度生じるかは、誘電体の成膜方法,成膜条件、下部電極の結晶性,表面粗さ,表面状態によって大きくことなることは言うまでもない。
【0042】
ところが、このような格子の緩和の度合いは、得られた強誘電体膜或いは誘電体膜の特性に大きく影響を与える。即ち、以下に示す実施例において詳細に記述するように、誘電体薄膜の格子定数の緩和が顕著なものは、高い周波数になると強誘電特性或いは誘電特性が追従しない。一方、歪みの緩和の少ないものは、高い周波数まで誘電特性が追従する。
【0043】
歪みの緩和が少なく、十分高い周波数(1MHz)まで誘電特性が追従できるのは、X線回折により求めた下部電極の面方向の格子定数aに対する、エピタキシャル成長した後の誘電体の面方向の格子定数aの比a/aが、a/a<1.002のときである。比a/aが1.002以上のときには、誘電特性,強誘電特性の周波数分散が大きく、高い周波数では十分に良好な誘電特性が得られない。
【0044】
上述の原理に基づき、本発明の第1の態様では、本来の立方晶系(格子定数a)に属するペロブスカイト型結晶構造の単位格子体積をv=a 、エピタキシャル成長後に正方晶に変形した誘電体膜の単位格子(格子定数a=b≠c)の体積をV=acと表わしたとき、
V/V≧1.01
なる関係を満たし、かつ、膜厚方向の格子定数cと膜面に平行な方向の格子定数aとの比c/aが1.01以上であることを特徴とするペロブスカイト型誘電体薄膜を具備する薄膜キャパシタが提供される。
【0045】
好ましいV/Vの下限は、1.01である。なお、V/Vの上限は、結晶が破壊されない限り特に限定されないが、通常は1.05である。
【0046】
c/aの上限は、誘電体薄膜が、常誘電体のときは1.03、強誘電体のときは1.08が好ましい。
【0047】
本発明の第2の態様では、電極上に立方晶系に属するペロブスカイト型誘電体材料をエピタキシャル成長させる際に、バルクの本来の誘電体材料の格子定数をa、電極材料表面の格子定数aとしたときに、aがaとほぼ等しいか、小さいこと、すなわち、
/a≦1.002
なる関係が成り立つようにするとともに、膜厚方向の格子定数cと膜面に平行な方向の格子定数aとの比c/aが1.01以上であることを特徴とするペロブスカイト型誘電体薄膜を具備する薄膜キャパシタが提供される。
【0048】
このような関係を満たす電極材料とペロブスカイト型誘電体材料として、例えばPtとSrTiOの組み合わせがあげられる。なお、バルクの立方晶Ptの格子定数aは0.3923nm、バルクの立方晶のSrTiOの格子定数は0.3905nmである。
【0049】
このように、立方晶電極上にペロブスカイト型誘電体をエピタキシャル成長させると、その薄膜は単結晶に近くなる。一般に、ペロブスカイト型誘電体材料は、粒界を含まない単結晶に近い構造ほど大きな誘電率を持つことが知られている。また、単結晶に近い薄膜ほど結晶粒界が非常に少なくなるため、多結晶膜と比較してリーク電流も小さくなる。
【0050】
本発明に係るペロブスカイト型誘電体薄膜について、膜厚方向すなわち[00l]方向の格子定数cと膜面に平行な方向すなわち[100]方向の格子定数aとの比c/aが1.01以上であるということは、膜厚方向の格子定数が伸び、膜面に平行な格子定数が縮んで、立方晶の結晶構造が崩れ、正方晶の結晶構造をもつ薄膜であることを意味している。
【0051】
本発明者らは、上述のように、結晶格子が歪んで正方晶に近い結晶構造をもつペロブスカイト型誘電体薄膜では、大きな誘電率が得られることを見出した。このように、結晶格子が歪むと大きな誘電率が得られる理由に関しては、例えばSrTiOでは、結晶格子内でTi原子が変位しやすくなって、分極が容易になるためであると考えられる。
【0052】
なお、本発明のペロブスカイト型薄膜の膜厚方向の格子定数cと膜面に平行な格子定数aとの比c/aの値は、1.1以下であることが好ましい。これは、c/aの値が1.1を超えると、所望の結晶構造を維持することができないためである。
【0053】
また一方、格子の不整合を利用して強誘電性を誘起する場合には、本発明の第3の態様におけるように、a/aの比率を1.002以上にすることが望ましい。これより小さい比率では、エピタキシャル効果によってキュリー温度の上昇が見られないか、見られても小さいため、大きな自発分極を持つ強誘電体は得られにくい。一方、a/aの比率を1.015以下に限定する理由は、これより大きい比率では、誘電体の膜を基板にエピタキシャル成長させる際に、途中でミスフィット転移が入るため、60nmを超える厚い誘電体膜について、やはり十分なキュリー温度の上昇が得られないためである。
【0054】
/aの比率が1.004以上であることが、より顕著な強誘電性を得るためには望ましく、また1.011以下の範囲にあれば、格子定数のミスフィットが小さいために、成膜温度によらず比較的格子定数の揃った結晶性の良いエピタキシャル成長の誘電体膜が得られやすい。
【0055】
なお、本発明において、上述したようにa/aの比率を1.002以上にする場合に、成膜した後の面内方向の格子定数aについては、a/aの比率は1.002以下である。この理由は、基板と成膜後の誘電体の面方向の格子定数が一致した場合には、エピタキシャル効果により導入された誘電体膜内部の歪みが一定になるために、結果として膜厚方向の強誘電特性或いは誘電特性の分布が少なくなり、強誘電特性、誘電特性の良好な周波数特性が得られ、高速での駆動が可能になるためである。
【0056】
このように、下部電極の格子定数(a軸)と大きさの一致した格子定数(a軸)を有する誘電体膜を作製するためには、誘電体膜を形成する前の下部電極表面の処理、或いは誘電体膜作製の初期の形成条件を適正化することが必要である。例えば、誘電体の作製の前に下部電極の表面にプラズマにより活性化した酸素を吹き付けることにより、誘電体と下部電極の格子定数の不一致が少ない誘電体膜を形成することができる。また、誘電体の成膜の初期段階で、最初の数原子層については、1nm/min以下のゆっくりした成膜速度で誘電体膜を形成することが、下部電極とより一致した格子定数を持つ誘電体膜を形成する上で有利である。
【0057】
なお、本発明で強誘電性を歪みにより誘起して適用する場合には、誘電体材料固有のキュリー温度が200℃以下であることが望ましい。その理由は、キュリー温度が200℃を越える材料は通常、鉛或いはビスマスを主成分として含有するため、薄膜作製時に鉛やビスマスの蒸発に起因する組成の変動を抑えることが難しく、ひいては良質な誘電体膜を得るのが困難だからである。また、鉛やビスマスは、集積化した場合に誘電体膜中から他の電極、絶縁膜などに拡散しやすいために、組成の制御が難しい。さらに、キュリー温度が200℃を越える誘電体材料に関しては、もともとキュリー温度が十分高いので、そのままで使用してもさほど支障はなく、本発明を適用することで得られる効果も小さい。
【0058】
以上説明した本発明の薄膜キャパシタにおいて使用可能なペロブスカイト型誘電体材料と電極材料として、以下のものを挙げることができる。
【0059】
即ち、ペロブスカイト型結晶構造の誘電体材料の例としては、式ABOにより表される化合物が挙げられる。
【0060】
式中、AはBa、Sr、およびCaからなる群から選ばれた少なくとも1種、Bは、Ti、Zr、Hf、Sn、Mg1/3 Nb2/3 、Mg1/3 Ta2/3 、Zn1/3 Nb2/3 、Zn1/3 Ta2/3 、Ni1/3 Nb2/3 、Ni1/3 Ta2/3 、Co1/3 Nb2/3 、Co1/3 Ta2/3 、Sc1/3 Nb2/3 、およびSc1/3 Ta2/3 からなる群から選ばれた少なくとも1種である。
【0061】
これらの中では、特に、(BaSr1−x )TiO(0<x<0.9、好ましくは0<x<0.7、より好ましくは0.05<x<0.24)により表される化合物、(BaSr1−x−y Ca)TiO(0<x<0.9、好ましくは0<x<0.7、より好ましくは0.05<x<0.24、0.01<y<0.12)により表される化合物が好ましい。
【0062】
具体的には、チタン酸バリウム(BaTiO),チタン酸ストロンチウム (SrTiO),チタン酸カルシウム(CaTiO),スズ酸バリウム(BaSnO),ジルコニウム酸バリウム(BaZrO)などに代表される単純ペロブスカイト型酸化物、マグネシウム酸タンタル酸バリウム(Ba(Mg1/3 Ta2/3 )O),マグネシウムニオブ酸バリウム(Ba(Mg1/3 Nb2/3 )O)などの複合ペロブスカイト型酸化物、さらにこれらの中から複数の酸化物を同時に固溶させたものなどがあげられる。
【0063】
また上述のように、組成式がABOで表されるペロブスカイト型結晶構造を有する誘電体において、Aとしては主としてBaからなるものであるが、Baの一部をSr,Caのうち少なくとも一種類の元素で置換しても構わない。Bとしては主としてTiであるが、同様にTiの一部をZr,Hf,Sn,(Mg1/3 Nb2/3 ),(Mg1/3 Ta2/3 ),(Zn1/3 Nb2/3 ),(Zn1/3 Ta2/3 )のうち少なくとも一種類からなる元素で置換しても構わない。これらの組成が望ましい理由は、これらの構成元素の酸化物(BaO,SrO,CaOなど)の融点がいずれも1000℃以上と十分高温にあるために、例えば600℃程度で成膜してもこれらの構成元素が蒸発しにくく、組成ずれが生じにくいためである。
【0064】
従って、本来Aサイトを低融点元素のPbなどで置換することは望ましくないが、仮に置換しなければならない場合でも20%以下であることが好ましい。また、これらの元素を組み合わせて構成されるペロブスカイト型酸化物のキュリー温度は、Pbで全く置換しない場合、最もキュリー温度が高いBaTiOにおいても120℃であり、材料本来のキュリー温度のままでは、上述したように強誘電体薄膜として実用的ではない。
【0065】
本発明における第1の電極(下部電極)は、立方晶あるいは正方晶の電極材料からなるものであるが、一般式ABO(式中、Aは、Ba,Sr,Ca,およびLaからなる群から選ばれた少なくとも1種、Bは、Ru,Ir,Mo,W,Co,Ni,およびCrからなる群から選ばれた少なくとも1種)により表されるペロブスカイト結晶構造の導電性化合物を好ましく用いることができる。
【0066】
これらの材料の中では、SrRuOが好ましい。この場合、SrとRuの比(Sr/Ru)は、0.9≦Sr/Ru≦1.1を満たすことが好ましい。また、SrRuOの結晶性については、ロッキングカーブ半値全幅が0.2°以下であることが好ましい。
【0067】
以上の導電性化合物以外の電極材料としては、Pt、Ir,Rh,Auが使用可能であり、特にPtは、SrRuOと同様の効果が期待される。
【0068】
なお、下部電極の格子定数aの値は、その上に形成する誘電体を選択する際に、より格子定数の大きなものを選択することが可能となるように、aが0.3935nm以上の材料であることが好ましい。
【0069】
本発明において、これらのペロブスカイト型誘電体を、基板の上にエピタキシャル成長させる時の成長方位としては、ペロブスカイト型誘電体の(100)面を導電性基板の(100)面と平行に成長させることが望ましい。また、導電体の基板がさらにその下の基板の上にエピタキシャル成長しており基板との格子定数の不整合により歪みが導入されている場合については、上述した範囲を規定するaとして、導電体材料の本来の格子定数を用いるのではなく、エピタキシャル成長による歪み導入後の面方向の格子定数を適用することが自然である。
【0070】
また上述の下部電極と誘電体の格子定数の関係に関する条件に加えて、上部電極として導電性のペロブスカイト型酸化物を用いることにより、さらに、大きな誘電率、あるいは強誘電性の場合には大きな残留分極を得ることが可能である。
【0071】
また、誘電体膜の成膜方法としては、反応性蒸着,RFスパッタリング,MOCVD,レーザーアブレーション,ゾルゲル法などの方法があげられるが、特に大きな歪みを導入しやすいスパッタリング法が好ましい。
【0072】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の種々の実施例について説明する。
【0073】
実施例1
図1は、本発明の第1の実施例に係る薄膜キャパシタの概略構成を示す断面図である。本実施例においては、下部電極材料としてSrRuO、誘電体としてBa0.12Sr0.88TiO膜を使用した。なお、SrRuOのバルクの本来の格子定数は約0.393nmであり、Ba0.12Sr0.88TiOは、室温で本来立方晶に属するペロブスカイト型構造を有し、そのバルクの本来の格子定数はa=0.3915nmであることが知られている。
【0074】
SrTiO(100)単結晶基板(10mm×10mm)1上に、RFマグネトロンスパッタリング法により、下部電極であるSrRuO膜2および誘電体膜であるBa0.12Sr0.88TiO膜3のヘテロエピタキシャル成長を行った。上部電極であるPt膜4を含むそれぞれの成膜条件を下記表1に示す。
【0075】
Ba0.12Sr0.88TiO膜3の成膜は、BaTiOおよびSrTiOの焼結体ターゲットを使用した2元スパッタリングによりおこなった。スパッタリング時間30分と60分の2つの膜を成膜し、段差計により測定したそれぞれの誘電体の膜厚は、39nmおよび77nmであった。
【0076】
【表1】
Figure 0003595098
【0077】
以上のようにして成膜した膜厚77nmのBa0.12Sr0.88TiO膜の組成分析の結果を、下記表2に示す。組成分析は、ICP発光分光法により行った。下部電極としてSrRuOを用いている関係で、膜の溶解には、アンモニア水、過酸化水素およびEDTAの混合物からなるエッチング液を使用した。組成は、Ba/(Ba+Sr)比が約0.12であり、(Ba+Sr)/Ti比が約1.06であった。
【0078】
【表2】
Figure 0003595098
【0079】
図2に、膜厚39nmのBa0.12Sr0.88TiO膜に関するX線回折(θ−2θ法)の結果を示す。基板として使用したSrTiOからの回折ピーク以外に、下部電極として使用したSrRuOおよび誘電体膜であるBa0.12Sr0.88TiOからの回折ピークが、分離せずに観察されているものと考えられる。この回折ピークは、いずれも(00l)面からのものに限られており、良好な結晶配向性を示している。
【0080】
X線回折から求めた格子定数は、SrRuO膜、Ba0.12Sr0.88TiO膜ともに等しく、膜面方向の方向の格子定数aが0.3905nm、膜厚方向の格子定数cが0.3988nmであった。即ち、Ba0.12Sr0.88TiO膜が成長する導電性基板表面すなわちSrRuO膜表面の格子定数は、a=0.3905nmである。
【0081】
従って、誘電体本来の格子定数a=0.3915nmと、基板表面の格子定数aとは、a/a=1.0025なる関係にあり、格子不整合が存在する。一方、成膜後の誘電体膜の膜面方向の格子定数a=0.3905nmと、基板表面の格子定数aとは、a/a=1.00の関係にあり、膜面方向の格子定数は緩和せずに誘電体膜が成長していることがわかる。
【0082】
誘電体膜の単位格子体積の変化を比較すると、Ba0.12Sr0.88TiOの本来の対称性(立方晶)格子定数(a=0.3915nm)から算出した単位格子体積Vが0.06001nmであるのに対して、エピタキシャル成長後のBa0.12Sr0.88TiO膜の単位格子体積Vは0.06081nmであり、単位格子体積の変化V/Vは、1.013であった。
【0083】
図3に、SrRuO(002)およびBa0.12Sr0.88TiO(002)の両者が含まれると考えられる回折ピークに関するロッキングカーブを示す。半値全幅(FWHM)の値は、約0.125°であり、SrRuO膜およびBa0.12Sr0.88TiO膜ともに、比較的結晶性が良好であることを示している。
【0084】
図4に、膜厚77nmのBa0.12Sr0.88TiO膜における比誘電率のバイアス電界依存性、図5に誘電損失のバイアス電界依存性を示す。測定にはLCRメータを用い、10kHz,0.1Vにて行った。図4および図5から、誘電率および誘電損失は、バイアス電界ゼロ付近で最大値を取り、バイアス電界が強くなるにつれて減少することがわかる。比誘電率の低下は、分極飽和に伴うものと考えられる。比誘電率の最大値は約740であり、SiOの比誘電率を4と仮定して算出したSiO換算膜厚は、約0.42nmに相当する。
【0085】
図6および図7に、膜厚39nmのBa0.12Sr0.88TiO膜における、比誘電率、誘電損失係数のバイアス電界依存性を示す。測定は40kHz,0.1Vにて行った。比誘電率の最大値は約590であり、膜厚を薄くすることにより比誘電率が低下していることがわかる。しかしながら、SiO換算膜厚は約0.26nmに相当し、膜厚を薄くすることによる蓄積電荷量の増大は表れている。
【0086】
図8に、膜厚39nmおよび77nmのBa0.12Sr0.88TiO膜における、比誘電率および誘電損失係数の温度依存性を示す。測定は室温から200℃までの温度範囲について、周波数1kHzにて行った。図8から、膜厚77nm,39nmともに温度上昇とともに比誘電率が低下していることがわかる。従って、強誘電相転移温度(キュリー温度)が、室温より低温側に存在するものと考えられる。比誘電率の温度変化は、厚い77nmについては急激であるのに対して、薄い39nmについては比較的緩やかである。室温においては膜厚による比誘電率の差が大きいが、温度上昇とともに減少する傾向にある。
【0087】
このような比誘電率および誘電損失係数の温度依存性の振る舞いは、電界をかけたときに見られる誘電率の温度依存性に似ている。すなわち、キュリー温度付近では電界の有無による誘電率の差は大きいが、キュリー温度から遠ざかるにつれて誘電率の大きさ自体が減少し、電界の有無による差も小さくなる。したがって、膜厚が薄くなることによる比誘電率の低下は、薄い膜では膜の内部に内部電界が存在する(あるいは電極近傍に電界が存在する)と仮定することにより説明することができるように思われる。
【0088】
誘電損失は、100℃以下の温度範囲では約2%であり、温度によらずほぼ一定の値を示すが、150℃以上では温度とともに徐々に増大する傾向が見られる。薄い膜の方が高温での損失の増大が大きい。温度上昇に伴い、何らかの伝導キャリアが励起され、誘電損失を増大させている可能性があり、薄い膜の方がキャリア密度が高いと予想される。
【0089】
図9に、膜厚39nmおよび77nmのBa0.12Sr0.88TiO膜における、比誘電率および誘電損失係数の周波数依存性を示す。図9から、100kHz以下の周波数領域では、膜厚77nm,39nmともに周波数が高くなるにつれて比誘電率が徐々に低下しており、誘電分散現象が観察されている。この範囲では誘電損失はほぼ2%で一定である。
【0090】
周波数100kHz以上では、誘電損失が急激に増大するとともに、比誘電率も減少している。この原因としては、キャパシターに直列に入っているSrRuO膜の抵抗成分が、高周波ではキャパシターの充放電を律速するためと考えられる。これを裏付けるように、周波数をリニアスケールによってプロットすると、この領域では、誘電損失が周波数にほぼ比例している。
【0091】
図10に、膜厚39nmおよび77nmのBa0.12Sr0.88TiO膜を誘電体膜とするキャパシタに、交流電圧(500Hz,三角波)を印加したときの、キャパシターに蓄積される電荷密度の変化(D−V曲線)を示す。測定には演算増幅器を使用して自作した改良型のソーヤタワー回路を使用した。
【0092】
電圧0V付近では曲線傾きが大きく比誘電率が大きいことに対応している。膜厚によらず、電圧が高くなるにつれて電荷密度は飽和する傾向がある。電圧の上昇時と下降時でわずかにヒステリシスが観測されているが、これが強誘電性によるものか、リーク電流などによるものかは、この測定からだけでははっきりしない。
【0093】
図11に、膜厚39nmおよび77nmのBa0.12Sr0.88TiO膜を誘電体膜とするキャパシタにおける、交流電圧の振幅(peak to peak)の値と、蓄積電荷密度の振幅(peak to peak)の関係を示した。Ba0.12Sr0.88TiO膜の膜厚が39nmと77nmの間で比較すると、薄い方が低電圧領域において電荷量の立ち上がりが急峻であり、薄膜化による効果が現れている。膜厚39nmのBa0.12Sr0.88TiO膜についてみると、電圧振幅1.5Vp−p のときに電荷密度の振幅が約0.2C/mである。これよりSiOの比誘電率を4として換算膜厚を計算すると、約0.265nmが得られる。この値は、比誘電率のバイアス電界依存性における比誘電率の最大値から見積もった換算膜厚にほぼ等しい。
【0094】
高誘電率膜では一般に、比誘電率のバイアス電界依存性が大きい。したがってこの誘電体膜のDRAMへの応用を考える場合には、蓄積電荷量の測定値からSiO換算膜厚を算出した値を用いる方が妥当であると考えられる。
【0095】
この誘電体膜のDRAMへの応用を考えた場合、パルスに対する蓄積電荷量の変化を調べる必要がある。図12に交流パルス波形(a)と、キャパシターへの充放電電流の波形(b)を示す。パルス電圧は−1Vから+1Vまでの振幅とし、周期は10μsとした。電流波形は、キャパシターに直列に100Ωの抵抗を接続し、この両端の電圧をモニターした。電圧、電流波形はデジタルオシロスコープによりモニターした。
【0096】
充放電電流波形は1000ns程度で十分減衰しているので、電荷量を求めるための積分時間は約2000nsとした。なお試料の容量は約1nFである。
【0097】
図13に、このようにして測定した蓄積電荷量のパルス印加回数による変化を示す。蓄積電荷量は約0.24C/mであり、これは図11に示した電圧振幅2Vp−p のときの電荷密度にほぼ一致している(若干小さい値であるのは、測定周波数の影響であると考えられる)。パルス印加回数10回まで電荷量の変化を調べたが、この範囲では顕著な電荷量の劣化は認められなかった。
【0098】
図14および図15に、それぞれ膜厚77nm,39nmのBa0.12Sr0.88TiO膜に関する電流密度−電圧特性(J−V特性)を示す。図14および図15から、低電圧領域では電圧とともにむしろ電流が低下する現象が観測されることがわかる。これは吸収電流によるものであると考えられる。低電圧領域で吸収電流が大きいのは、誘電率が大きいために膜中の誘電率分布が大きいためと考えられる。DRAM適用の目安とされている、電流密度1×10−8A/cm以下の電圧範囲は、膜厚77nmの場合、−4Vから+7.5Vまでの計約11.5Vであり、膜厚39nmの場合、−2.3Vから+3.2Vまでの計約5.5Vであった。
【0099】
誘電体膜に直流電圧を長時間印加すると、次第に絶縁抵抗が劣化する現象が知られている。図16に、厚さ39nmのBa0.12Sr0.88TiO膜に、直流の正電圧(a)および負電圧(b)を長時間印加し続けたときのリーク電流の時間的な変化を示す。+5Vおよび−5Vはそれぞれ電界強度約1.3MV/cmに相当するが、図16から、30分間かけ続けてもリーク電流の増加はほとんど見られないことがわかる。
【0100】
図17に、厚さ39nmのBa0.12Sr0.88TiO膜において、温度を室温から150℃まで変えて測定した場合の、リーク電流密度と電圧の関係を示す。図17から、高電圧領域では、温度が高いほどリーク電流は増える傾向があり、リーク電流の伝導が熱的に励起されたキャリアの数に支配されていることがわかる。しかしながら、絶対温度の逆数(1/T)と電流密度の関係は、必ずしも直線的にはならなかった。これは、伝導キャリアの数が、熱的に励起される確率だけで増減しているわけではないことを示している。
【0101】
電圧上昇時と下降時でリーク電流密度の値に差が見られる。低温では、電圧下降時のリーク電流の値は上昇時と比較して小さい。電圧上昇時にはいわゆる吸収電流がリーク電流に重畳されているために大き目の測定値が得られ、下降時に吸収されて電荷が放出されるために、リーク電流とは逆方向の電流として重畳されるためと考えられる。
【0102】
一方高温側では、電圧上昇時よりも電圧下降時の方がリーク電流密度が増加している。この原因は必ずしも明らかではないが、高温では測定中の電圧により抵抗劣化が促進されている可能性がある。
【0103】
また、図18は、横軸に電圧の平方根を取り、これと電流密度との関係を示したものである。図18から、高い高圧領域では、電流密度と電圧の平方根が直線的な関係にあり、伝導キャリアがクーロン・ポテンシャルに打ち勝って励起されるような、ショットキー放出モデルあるいはプールフレンケル型の伝導で説明できることがわかる。
【0104】
この直線の傾きは温度によらずほぼ保存されている。温度によって励起されるキャリアの数の変化は単純な熱的励起で説明することはできないものの、キャリアが拘束されているポテンシャル形状は常に等しい、すなわちキャリアの種類は同じであることを示している。
【0105】
ここで、実施例1において、上部電極14としてSrRuO膜を使用した場合について述べる。図19は、上述と同様な方法で作製したBa0.12Sr0.88TiO膜(膜厚23nm)上に、上部電極としてSrRuO膜を形成した場合の、Ba0.12Sr0.88TiO膜の誘電率および誘電損失の電界依存性を示すものである。このBa0.12Sr0.88TiO膜は、膜厚が23nmと薄いにも関わらず、最大の比誘電率として、700以上が得られている。このように、本発明において下部電極と誘電体の格子定数の関係を制御することによって誘電率が向上するが、更にこれに加えて、上部電極として導電性ペロブスカイト型酸化物を用いることにより、さらなる誘電率の向上に効果があることがわかる。
【0106】
比較例1
比較例として、MgO(100)基板上に下部電極としてPt膜をエピタキシャル成長させ、その上にBa0.24Sr0.76TiO膜をエピタキシャル成長させた場合について述べる。Ptの本来の格子定数は0.3923nmであり、Ba0.24Sr0.76TiOは本来立方晶に属し、その格子定数はa=0.393nmである。
【0107】
エピタキシャル成長後の膜の格子定数は、Pt膜の場合、膜面内の方向の格子定数aは0.3915nmであり、膜厚方向の格子定数cは0.3935nmであった。これに対して、Ba0.24Sr0.76TiO膜の格子定数は膜の面内方向の格子定数aが0.3925nm、膜厚方向の格子定数cが0.4001nmであった。このBa0.24Sr0.76TiO膜の場合、本来の格子定数a=0.393nmは基板の格子定数a=0.3915nmに対する比a/aが1.004である。
【0108】
また、単位格子体積の変化を見積もると、本来の立方晶格子(a=0.393nm)の単位体積Vは0.06069nmであるのに対して、エピタキシャル成長後の単位格子体積V=acの値は0.06163となり、体積変化の比率V/Vは1.015である。このような下部電極との格子不整合および単位格子体積の膨張により、本来立方晶に属する結晶構造が正方晶に歪み、膜厚方向の格子定数が伸ばされていると考えられる。
【0109】
しかしながら、下部電極との膜面内の格子定数を比較すると、下部電極Ptの面内の格子定数aが0.3915nmであるのに対して、誘電体膜Ba0.24Sr0.76TiO膜のエピタキシャル成長後の面内の格子定数aは0.3925nmとなり、緩和の度合いを表わす比率a/aは1.0025となる。このように、歪みに緩和が生じている点が、比較例1が実施例1と異なる点である。
【0110】
図20に、比較例1により作製したBa0.24Sr0.76TiO膜に関する比誘電率と誘電損失の周波数依存性を示す。比較例1に係るBa0.24Sr0.76TiO膜においては、誘電率の周波数依存性が非常に大きく、また誘電損失が広い周波数範囲に渡って、6−8%と大きい値を示している。このような誘電特性の周波数分散の原因は、歪みの緩和による、すなわち誘電体膜の内部に比誘電率あるいは伝導率、あるいは両者の分布が存在することが原因である。このような格子定数の歪みの緩和は、もともと格子定数の不整合により歪みが導入された誘電体膜において顕著に観測されるものである。
【0111】
図21においては、比較例1により作製したBa0.24Sr0.76TiO膜に関するリーク電流特性と、実施例1によるBa0.12Sr0.88TiO膜に関するリーク電流特性の比較をおこなった。格子歪みの緩和の度合いが大きい比較例1の誘電体膜においては、緩和の度合いの少ない実施例1の誘電体膜よりも、大きなリーク電流が流れている。このように、歪みの緩和が大きい膜でリーク電流が大きい理由は、歪みの緩和に伴い、結晶転位が導入されるため、この結晶転位が伝導キャリアの供給源になるためと考えられる。
【0112】
実施例2
本発明の第2の実施例は、本発明を下部電極表面の格子定数よりも本来同じ程度か小さな格子定数を持つ誘電体の薄膜に適用した場合について述べたものである。
【0113】
図1に示すように、MgO(100)単結晶からなる基板1上に、立方晶Pt膜からなる下部電極2、SrTiO膜からなるペロブスカイト誘電体膜3および所定形状にパターニングされたPt膜からなる上部電極4を順次形成し、薄膜キャパシタを以下のようにして作製した。
【0114】
RFスパッタ法により4インチ径のPtターゲットをスパッタし、MgO(100)単結晶基板1上に、膜厚50nmのPtからなる下部電極2を形成した。このとき、Ar流量50sccmの雰囲気中で、基板温度を600℃に設定し、ターゲットへの投入RF電力を300Wとした。
【0115】
形成されたPt膜2をX線回折および反射電子線回折を用いて評価した。MgO基板1とPt膜2との結晶方位関係は、(100)MgOに対し(100)Pt、[00l]MgOに対し[00l]Ptであり、Pt膜2がエピタキシャル成長していることがわかった。
【0116】
次に、RFスパッタ法により、4インチ径のSrTiO焼結体ターゲットをスパッタし、下部電極2上に膜厚80nmのSrTiO(STO)からなる誘電体薄膜3を堆積した。このとき、まずAr/O=40sccm/10sccmの雰囲気で基板温度600℃に設定し、ターゲットへの投入RF電力を400Wとして厚さ10nm以下の薄膜を堆積したのち、O=100sccmの雰囲気に切り替えて基板温度および投入電力は上記と同一条件で残りの厚さ70nmの薄膜を堆積した。
【0117】
このような2段階の堆積を行った理由は、最初からO=100sccmの雰囲気で堆積すると、Pt表面のわずかな酸化のために、STOのエピタキシャル膜を得ることができないためである。
【0118】
形成されたSTO膜3をX線回折および反射電子線回折を用いて評価した。Pt膜とSTO膜との結晶方位関係は、(100)Ptに対し(100)STO、[00l]Ptに対し[00l]STOであった。X線回折に基づいてSrTiO膜3の格子定数を測定したところ、膜厚方向([00l]方向)の格子定数cは0.3981nm、膜面に平行な方向([100]方向)の格子定数aは0.3888nmであった。c/a比は1.02であり、正方晶構造であった。
【0119】
単位格子体積の変化を調べると、SrTiOの本来の対称性(立方晶)格子定数(a=0.3905nm)から算出した単位格子体積Vが0.05955nmであるのに対して、エピタキシャル成長後のSrTiO膜3の単位格子体積Vは0.06018nmであり、単位格子体積の変化V/Vは、1.011であった。
【0120】
その後、所定パターンのレジスト膜を形成した後、RFスパッタ法により室温にて膜厚100nmのPt膜を堆積し、リフトオフ法によりパターニングして上部電極4を形成した。上部電極4のサイズは100μm×100μmとした。
【0121】
比較例2
実施例2と同様の方法を用いたが、下部電極2上に膜厚80nmのSrTiO(STO)誘電体薄膜3を堆積する際に、雰囲気の切り替えを行わずに、Ar/O=40sccm/10sccmの雰囲気だけで厚さ80nmの薄膜を堆積した。形成されたSTO膜3をX線回折および反射X線回折を用いて評価した。Pt膜2とSTO膜3の結晶方位関係は、(100)Ptに対し(100)STO、[00l]Ptに対し[00l]STOであった。
【0122】
X線回折に基づいてSrTiO膜3の格子定数を測定したところ、膜厚方向の格子定数cは0.3910nm、膜面に平行な方向の格子定数aは0.3915nmであった。c/a比は約1.00であり、ほぼ立方晶のままであった。このように、比較例2では実施例2と異なり、STO膜3の結晶格子の歪みは認められなかった。
【0123】
一方、成膜後の単位格子体積Vは、0.05993nmであり、単位格子体積の変化V/Vは、1.006であった。以下、実施例2と同様にして、図1に示す構造を有する薄膜キャパシタを作製した。
【0124】
次に、上記のようにして作製した実施例2および比較例2の薄膜キャパシタの電気的特性を調べた。
【0125】
薄膜キャパシタの300Kでの比誘電率−バイアス電界特性を図22に示す。比誘電率は、比較例2に係る薄膜キャパシタでは300であるのに対して、実施例2に係る薄膜キャパシタでは450と、バルク結晶(比誘電率約350)よりも大きな値を示した。実施例2のSrTiO膜が大きな比誘電率を示す理由は、酸素含有率の高い雰囲気で堆積したため、酸素のピーニング効果により、単位格子体積が膨張し、また膜面の格子定数が下部電極の基板に拘束されるために、結晶格子が膜厚方向に伸びて、結晶構造が正方晶に変化したことによると考えられる。
【0126】
比誘電率の温度依存性を測定した結果を図23に示す。比誘電率の最大値は、実施例2のSrTiO膜では−50℃近傍、比較例2のSrTiO膜では−150℃近傍である。この図からわかるように、実施例2のSrTiO膜では室温付近の広い温度範囲で大きな比誘電率を示す。
【0127】
なお、SrTiO誘電体薄膜の組成(SrとTiのモル比)を分析したところ、Sr/Ti比の値は、実施例2のSrTiO膜では1.01/0.99、比較例2のSrTiO膜では1.04/0.96であり、実施例2のSrTiO膜の方が化学量論組成に近いことがわかった。
【0128】
実施例3
本発明の第3の実施例は、本発明を歪みによって強誘電性が誘起された強誘電体薄膜に適用した場合である。この場合には、強誘電体薄膜において、残留分極の周波数特性が改善される。
【0129】
まず、図1に示すように、表面が平滑なSrTiO(100)単結晶基板1の上に、下部電極2として(00l)配向のBa0.1 Sr0.9 RuO薄膜を基板温度600℃で、Ar:O=40:10(sccm)雰囲気中(全体の圧力約0.6Pa)にて、RFマグネトロンスパッタリング法により形成し、これを本実施例における導電性の基板とした。このとき、Ba0.1 Sr0.9 RuO膜3の膜厚は約50nmとした。
【0130】
X線回折により、Ba0.1 Sr0.9 RuO膜2がペロブスカイト型の結晶構造を持つ(00l)配向膜であることを確認すると共に、このような方法でスパッタ法により形成した場合には、膜厚方向の格子定数が約0.399nm、面方向の格子定数が約0.3935nmであることを確認した。従って、このようにして作成したBa0.1 Sr0.9 RuO膜は、正方晶の結晶対称性を持ち、本発明が規定するところの下部電極に該当する。
【0131】
また、本発明において規定する下部電極の面内の格子定数aは、面内の格子定数0.3935nmが該当する。
【0132】
このBa0.1 Sr0.9 RuO膜の上に、強誘電体膜3として膜厚約200nmのBaTiO膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により形成した。スパッタターゲットとしては、BaTiO焼結体(4インチ径,5mm厚)を用いた。成膜中の基板温度を600℃とし、スパッタの雰囲気はアルゴン(Ar)と酸素(O)の混合ガス(Ar:O=40:10sccm)とし、基板・ターゲット間距離を140mmとした。また、ターゲットに投入するRF電力を600Wとした。作製した膜の組成をICP法で分析し、いずれもほぼ化学量論組成であることを確認した。
【0133】
この場合、Ba0.1 Sr0.9 RuO膜の面内の格子定数aは0.3935nm、BaTiO(正方晶系)のa軸の材料本来の格子定数aは約0.3992nmであることが知られており(BaTiOの本来のc軸は、0.4036nm)、本実施例についてはa/a=1.014であることになる。従って、本発明においてa/aが満たすべき、1.002以上1.015以下という条件の範囲内である。
【0134】
次に、比較例3として本実施例と同様な方法で、表面が平滑なSrTiO (100)単結晶基板1の上に、下部電極として同様の(00l)配向のBa0.1 Sr0.9 RuO薄膜2を、基板温度600℃で上述した同じ成膜条件にてRFマグネトロンスパッタリング法により形成し、比較例における導電性の基板とした。このとき、Ba0.1 Sr0.9 RuO膜2の膜厚を約50nmとした。X線回折により、Ba0.1 Sr0.9 RuO膜が(00l)配向膜であることを確認すると共に、この膜の面内の格子定数が実施例3と同じ約0.3935nmであることを確認した。
【0135】
このBa0.1 Sr0.9 RuO膜2の上に、強誘電体膜3として膜厚約200nmのBaTiO膜を実施例3とは異なる条件にて、RFマグネトロンスパッタリング法により形成した。スパッタターゲットとしてはBaTiO焼結体 (4インチ径,5mm厚)を用いた。成膜中の基板温度を600℃とし、スパッタの雰囲気はアルゴン(Ar)と酸素(O)の混合ガス(Ar:O=40:10sccm)とし、基板・ターゲット間距離を170mmとした。また、ターゲットに投入するRF電力を400Wとした。
【0136】
即ち、比較例3のスパッタ条件としては、基板・ターゲット間距離と投入電力が実施例3とは異なり、これ以外は実施例3と同じ条件にてBaTiO膜を作製した。
【0137】
このようにしてスパッタリング条件を変えて作製した2種類のBaTiO膜(実施例3と比較例3)について、X線回折法及びRHEED法によって、詳細に結晶方位の調査及び格子定数の測定を行ったところ、次のような結果が得られた。即ち両者とも、同じようにBa0.1 Sr0.9 RuO(00l)膜の上に、(00l)配向したBaTiO膜が得られており、しかも面内の回転方向についても、下部電極2であるBa0.1 Sr0.9 RuO膜と同じ方位関係、即ちBBSR((Ba,Sr)RuO)(100)に対しBT(BaTiO)(100)、かつBSR(00l)に対しBT(00l)なる関係が成立していることが確認された。
【0138】
しかしながら、BaTiO膜の格子定数については、実施例3と比較例3では下記表3に示すような差異が見られた。
【0139】
【表3】
Figure 0003595098
【0140】
上記表3から、実施例3であるところの基板・ターゲット間距離140mmかつ投入RF電力600Wにて作製したBaTiO膜については、膜厚方向の格子定数が0.432nm、面内の格子定数aが0.394nmであることがわかる。即ち、膜形成後のBaTiO膜の面方向の格子定数aと基板であるBa0.1 Sr0.9 RuO膜の面方向の格子定数aの比率、a/aが1.002未満という本発明が規定するところの範囲に含まれている。
【0141】
一方、比較例3である、基板・ターゲット間距離170mmかつ投入RF電力400Wにて作製したBaTiO膜については、膜厚方向の格子定数が0.423nm、面方向の格子定数aが0.399nmであった。即ち、膜形成後のBaTiO膜の面方向の格子定数aと基板であるBa0.1 Sr0.9 RuO膜の面方向の格子定数aの比率、a/aの比率が1.01以上となり、1.002未満という本発明が規定するところの範囲から逸脱している。
【0142】
これらのBaTiO膜の上に、上部電極4としてPt膜をRFスパッタリングにより作製した。Pt膜はリフトオフ法によって、100μm×100μmの形状に加工した。
【0143】
このようにスパッタリング条件とその結果得られた格子定数の異なる2種類のBaTiO膜(実施例3と比較例3)について、様々な周波数にてD−Eヒステリシス測定を実施した。測定にはソーヤタワー回路を用い、電圧の最大振幅は10Vとし、室温(22℃)にて行った。
【0144】
図24に、実施例3と比較例3のBaTiO膜の残留分極の2倍、2Pr (C/m)の周波数依存性を示す。図24から、60Hz以下の低い周波数においては、実施例3のBaTiO膜と比較例3のBaTiO膜はほぼ同等の残留分極が得られているが、周波数が高くなるにつれて、比較例3のBaTiO膜の残留分極が低下し、100kHzでは実施例3のBaTiO膜の約半分の残留分極しか得られないことがわかる。
【0145】
これに対し、実施例3のBaTiO膜においては、5Hzから100kHzまでの範囲で残留分極の低下が僅かに5%程度である。このように、本発明により規定した範囲のエピタキシャル強誘電体薄膜は、高い周波数まで良好な強誘電特性を維持し得ることが分る。
【0146】
実施例4
図1に示すように、まず、表面が平滑なSrTiO(100)単結晶基板1の上に、下部電極2として(00l)配向のSrRuO薄膜を、基板温度600℃で、Ar:O=40:10(sccm)雰囲気中(全体の圧力約0.6Pa)にてRFマグネトロンスパッタリング法により形成し、これを本実施例における導電性の基板とした。このとき、SrRuO膜2の膜厚は約50nmとした。
【0147】
X線回折により、SrRuO膜がペロブスカイト型の結晶構造を持つ(00l)配向膜であることを確認すると共に、このような方法でスパッタ法により形成した場合には、膜厚方向の格子定数が約0.398nm、面方向の格子定数が約0.3925nmであることを確認した。従って、このようにして作成したSrRuO膜は、正方晶の結晶対称性を持ち、本発明に規定する下部電極に該当する。また、本発明に規定する下部電極の面方向の格子定数aは、面方向の格子定数0.3925nmが該当する。
【0148】
このSrRuO膜の上に、強誘電体膜3として膜厚約130nmのBa0.5 Sr0.5 TiO膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により形成した。スパッタターゲットとしては、Ba0.5 Sr0.5 TiO焼結体(4インチ径,5mm厚)を用いた。成膜中の基板温度を600℃とし、スパッタの雰囲気はアルゴン(Ar)と酸素(O)の混合ガス(Ar:O=40:10sccm)とし、基板・ターゲット間距離を140mmとした。また、ターゲットに投入するRF電力を600Wとした。作製した膜の組成をICP法で分析し、いずれもほぼ化学量論組成であることを確認した。
【0149】
この場合、SrRuO膜の面方向の格子定数aは0.3925nm、Ba0.5 Sr0.5 TiO(正方晶系)のa軸の材料本来の格子定数aは約0.395nmであることが知られており、本実施例については、a/a=1.006であることになる。従って、本発明においてa/aが満たすべき、1.002以上1.015以下という条件の範囲内である。
【0150】
次に、比較例4として本実施例と同様な方法で、表面が平滑なSrTiO (100)単結晶基板1の上に、下部電極2として同様の(00l)配向のSrRuO薄膜を、基板温度600℃で上述した同じ成膜条件にてRFマグネトロンスパッタリング法により形成し、比較例4における導電性の基板とした。このとき、SrRuO膜2の膜厚を約50nmとした。X線回折により、SrRuO膜2が(00l)配向膜であることを確認すると共に、この膜の面方向の格子定数が実施例4と同じ約0.3925nmであることを確認した。
【0151】
このSrRuO膜の上に、強誘電体膜3として膜厚約130nmのBa0.5 Sr0.5 TiO膜を実施例4とは異なる条件にて、RFマグネトロンスパッタリング法により形成した。スパッタターゲットとしてはBa0.5 Sr0.5 TiO焼結体(4インチ径,5mm厚)を用いた。成膜中の基板温度を600℃とし、スパッタの雰囲気はアルゴン(Ar)と酸素(O)の混合ガス(Ar:O=40:10sccm)とし、基板・ターゲット間距離を170mmとした。また、ターゲットに投入するRF電力を400Wとした。即ち、比較例4のスパッタ条件としては、基板・ターゲット間距離と、投入電力が実施例4とは異なり、これ以外は実施例4と同じ条件にてBa0.5 Sr0.5 TiO膜を作製した。
【0152】
このようにしてスパッタリング条件を変えて作製した2種類の(Ba,Sr)TiO膜(実施例4と比較例4)について、X線回折法及びRHEED法によって、詳細に結晶方位の調査及び格子定数の測定を行ったところ、次のような結果が得られた。即ち、両者とも、同じようにSrRuO(00l)膜の上に、(00l)配向したBa0.5 Sr0.5 TiO膜が得られており、しかも面方向の回転方向についても、下部電極であるSrRuO膜と同じ方位関係、即ちSR(100)に対しBST(100)、かつSR(00l)に対しBST(00l)なる関係が成立していることが確認された。
【0153】
しかしながら、Ba0.5 Sr0.5 TiO膜の格子定数については、実施例4と比較例4では下記表4に示すような差異が見られた。
【0154】
【表4】
Figure 0003595098
【0155】
即ち、実施例4であるところの基板・ターゲット間距離140mm、かつ投入電力600Wにて作製したBa0.5 Sr0.5 TiO膜については、膜厚方向の格子定数が0.413nm、面方向の格子定数aが0.393nmであった。即ち、膜形成後のBa0.5 Sr0.5 TiO膜の面方向格子定数aと基板であるSrRuO膜の面方向の格子定数aの比率、a/aが1.002未満という本発明が規定する範囲に含まれている。
【0156】
一方、比較例4における基板・ターゲット間距離170mmかつ投入電力400Wにて作製したBa0.5 Sr0.5 TiO膜については、膜厚方向の格子定数が0.411nm、面方向の格子定数aが0.394nmであった。即ち、膜形成後のBa0.5 Sr0.5 TiO膜の面方向の格子定数aと基板であるSrRuO膜の面方向の格子定数aの比率、a/aの比率が1.003以上となり、1.002未満という本発明が規定するところの範囲から逸脱している。
【0157】
これらのBaSrTiO膜の上に、上部電極4としてPtの膜をRFスパッタリングにより作製した。Pt膜はリフトオフ法によって、100μm×100μmの形状に加工した。
【0158】
このようにして作製した実施例4及び比較例4の2種類のBa0.5 Sr0.5 TiO膜について分極の保持特性を比較した。保持特性の測定は、上部電極4に+5Vの矩形のパルス(パルス幅200ns)をかけた場合と、−5Vの矩形パルス(パルス幅200ns)をかけた場合について、1秒後及び10分後に再び+5Vの読み出しパルス(200ns)をかけた時に、電極に流れ込む電荷量を比較した。このとき、最初に+5Vのパルスをかけた場合に読み出し時に流れ込む電荷量をQnsとし、−5Vをかけたときに読み出し時に流れ込む電荷の量をQswとし、その差dQ=Qsw−Qnsを比較した。
【0159】
その結果、実施例4においては、1秒後及び10分後の電荷量差dQは共にdQ=0.12C/mであった。これに対して比較例4においては、1秒後の電荷量差がdQ=0.10C/mであったにも拘らず、10分後にはdQ=0.01C/m以下の値にまで低下してしまった。即ち、実施例4においては、強誘電性に起因する十分な保持特性が得られているのに対して、比較例4においては十分な保持特性が得られておらず、比較例4は不揮発性メモリへの応用には適さないのが分る。
【0160】
実施例5
図1に示すように、まず、表面が平滑なSrTiO(100)単結晶基板1の上に、下部電極2として(001)配向のSrRuO薄膜を、基板温度600℃で、Ar:O=40:10(sccm)雰囲気中(全体の圧力約0.6Pa)にてRFマグネトロンスパッタリング法により形成し、これを本実施例における導電性の基板とした。このとき、SrRuO膜2の膜厚は約50nmとした。
【0161】
X線回折により、SrRuO膜がペロブスカイト型の結晶構造を持つ(001)配向膜であることを確認すると共に、このような方法でスパッタ法により形成した場合には、膜厚方向の格子定数が約0.379nm〜0.3991nmの間にあり、面方向の格子定数が約0.3906nm〜0.3913nmの間にあることを確認した(表6)。従って、このようにして作成したSrRuO膜は、正方晶の結晶対称性を持ち、本発明に規定する下部電極に該当する。また、本発明に規定する下部電極の面方向の格子定数aは、面方向の格子定数0.391nmが該当する。
【0162】
このSrRuO膜の上に、強誘電体膜3として膜厚約50nmの(BaSr1−x−y Ca)TiO膜を、3つのターゲットを使用した3元のRFマグネトロンスパッタリング法により形成した。スパッタターゲットとしては、BaTiO焼結体、SrTiO焼結体、およびCaTiO焼結体(それぞれ4インチ径,5mm厚)を用いた。成膜中の基板温度を600℃とし、スパッタの雰囲気はアルゴン(Ar)と酸素(O)の混合ガス(Ar:O=40:10sccm)とし、基板・ターゲット間距離を140mmとした。また、ターゲットに投入するRF電力を、それぞれBaTiO焼結体には600W、SrTiO焼結体には450Wの一定の電力を供給する一方で、CaTiO焼結体には0Wから500Wまで可変とした。
【0163】
作製した膜の組成をICP発光分析法で分析した結果を下記表5に示す。また、CaTiO焼結体ターゲットに投入したRF電力と誘電体膜中のCa量の関係を求めたところ、図25に示す結果を得た。図25から、誘電体膜中のCa量は、CaTiO焼結体ターゲットに投入したRF電力にほぼ比例することがわかる。また、段差計を使用して測定したBaSr1−x−y CaTiO膜の厚さは、下記表5に示すように、46〜52nmの間に分布することがわかった。
【0164】
【表5】
Figure 0003595098
【0165】
このようにして形成した、Ca含有量が異なる5種類の(BaSr1−x−y Ca)TiO膜の結晶構造をX線回折により解析したところ、いずれの膜も (001)配向しており、いわゆるcube on cubeの関係をもってSrRuO膜上にヘテロエピタキシャル成長していることが確認された。その格子定数を測定したところ、下記表6に示すように、Caの量によって若干の相違が見られたものの、いずれの場合も膜厚方向の格子定数cは0.422nmから0.428の間で本来の格子定数と比較して5%以上伸びているのに対して、面方向の格子定数aは、下部電極として用いたSrRuO膜のa軸と完全に一致しており、緩和していないことが確認された。
【0166】
【表6】
Figure 0003595098
【0167】
このように形成した、Ca含有量が異なる5種類の(BaSr1−x−y Ca)TiO膜上に、上部電極4としてPt膜をスパッタリング法により形成し、リフトオフ法により、100μm×100μmの形状に加工した。
【0168】
このようにして作製した(BaSr1−x−y Ca)TiO膜の電流−電圧特性を測定したところ、図26に示すように、Caを含まない膜(y=0)と比較して、Caを含む膜は一様に高電圧領域におけるリーク電流の低減が認められた。
【0169】
このようなリーク電流の低下の度合いは、Caの量yに依存せず、yの値が2%以上では、y=0の膜と比較して、yの大きさに依らず、ほぼ同じ程度の効果が認められた。
【0170】
一方、これらの膜の分極Pと電圧Vの関係をソーヤタワー回路によって500Hzで測定したところ、図27に示すように、Ca含有量が異なる5種類のいずれの(BaSr1−x−y Ca)TiO膜においても、強誘電性を示すヒステリシス曲線が観測された。これらの誘電体膜は、いずれもバルクならば、本来は室温で常誘電性を示すはずの組成を有するので、これらの膜においても、強誘電性は格子不整合により導入されたものである。しかしながら、そのヒステリシス曲線の形状には、Ca量による相違が観測された。
【0171】
図28は、ヒステリシス曲線を測定するのに用いる交流電圧の振幅と、その電圧振幅で得られる残留分極の関係を示したものものである。この図から、Ca量yが増加すると、Ca量に応じて、強誘電的なヒステリシスを示し始める電圧が低下することがわかる。しかも、分極が飽和したときの残留分極の絶対値は、Caを置換しない場合と比べても、それほど遜色ないことがわかる。
【0172】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。前記誘電体膜としては、BaTiOや(Ba,Sr)TiOに限られるものではなく、エピタキシャル成長したペロブスカイト型結晶構造の誘電体材料を用いることができる。例えば、先に(課題を解決するための手段)の項で述べたような、チタン酸ストロンチウム(SrTiO),チタン酸カルシウム(CaTiO),スズ酸バリウム(BaSnO),ジルコニウム酸バリウム(BaZrO)などに代表される単純ペロブスカイト型酸化物、マグネシウム酸タンタル酸バリウム(Ba(Mg1/3 Ta2/3 )O),マグネシウムニオブ酸バリウム(Ba(Mg1/3 Nb2/3 )O)などの複合ペロブスカイト型酸化物、さらにこれらの中から複数の酸化物を同時に固溶させたものなどを用いることができる。
【0173】
また本発明で、組成式がABOで表されるペロブスカイト型結晶構造を有する誘電体の組成式において、Aとしては主としてBaからなるものであるが、Baの一部Sr,Caのうち少なくとも一種類の元素で置換しても構わない。Bとしては主としてTiであるが、同様にTiの一部をZr,Hf,Sn,(Mg1/3 Nb2/3 ),(Mg1/3 Ta2/3 ),(Zn1/3 Nb2/3 ),(Zn1/3 Ta2/3 )のうち少なくとも一種類からなる元素で置換しても構わない。さらに、誘電体膜の成膜方法としては、RFスパッタリング以外に、反応性蒸着,MOCVD,レーザーアブレーション,ゾルゲル法などの方法を用いることもできる。
【0174】
また、実施形態では正方晶系の導電性基板を用いたが、立方晶系の導電性基板を用いることも可能である。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施することができる。
【0175】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、成膜条件による単位格子体積の膨張や下部電極との格子定数の不整合を利用して誘電率を大きくしたり、あるいは強誘電性を誘起した場合に問題となっていた、誘電率の周波数依存性や高い誘電損失、残留分極の周波数依存性を抑制することができる。
【0176】
従って、鉛やビスマスなど低融点金属を成分として含まず、誘電率が大きく、あるいは残留分極が大きな、信頼性の高い高誘電率膜あるいは強誘電体薄膜を作製することができ、半導体メモリの大容量化及び高集積化に適した薄膜キャパシタを実現することが可能となり、DRAM技術あるいは不揮発性メモリ技術に貢献するところ大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る薄膜キャパシタを示す断面図。
【図2】Ba0.12Sr0.88TiO膜(膜厚39nm)のX線回折パターンを示す図。
【図3】Ba0.12Sr0.88TiO膜(膜厚39nm)の(002)に関するロッキングカーブを示す図。
【図4】Ba0.12Sr0.88TiO膜(膜厚77nm)の比誘電率のバイアス電界依存性を示す図。
【図5】Ba0.12Sr0.88TiO膜(膜厚77nm)の誘電損失のバイアス電界依存性を示す図。
【図6】Ba0.12Sr0.88TiO膜(膜厚39nm)の比誘電率のバイアス電界依存性を示す図。
【図7】Ba0.12Sr0.88TiO膜(膜厚39nm)の誘電損失のバイアス電界依存性を示す図。
【図8】Ba0.12Sr0.88TiO膜(膜厚39nm,77nm)の比誘電率および誘電損失係数の温度依存性を示す図。
【図9】Ba0.12Sr0.88TiO膜(膜厚39nm,77nm)の比誘電率の周波数依存性を示す図。
【図10】Ba0.12Sr0.88TiO膜(膜厚39nm,77nm)の蓄積電荷密度と電圧との関係を示す図。
【図11】Ba0.12Sr0.88TiO膜(膜厚39nm,77nm)の測定電圧振幅と電荷振幅との関係を示す図。
【図12】交流電圧負荷試験に用いた電圧波形と電流波形とを示す図。
【図13】交流電圧印加回数による蓄積電荷量の変化を示す図。
【図14】Ba0.12Sr0.88TiO膜(膜厚77nm)の電流・電圧特性を示す図。
【図15】Ba0.12Sr0.88TiO膜(膜厚39nm)の電流・電圧特性を示す図。
【図16】Ba0.12Sr0.88TiO膜(膜厚39nm)に直流の正電圧(a)および負電圧(b)を印加したときのリーク電流の時間的な変化を示す図。
【図17】Ba0.12Sr0.88TiO膜(膜厚39nm)の電流・電圧特性の温度依存性を示す図。
【図18】電圧の平方根と電流密度との関係を示す図。
【図19】Ba0.12Sr0.88TiO膜(膜厚23nm)上に上部電極としてSrRuO膜を形成した場合のBa0.12Sr0.88TiO膜の誘電率および誘電損失の電界依存性を示す図。
【図20】比較例1におけるBa0.24Sr0.76TiO膜の比誘電率と誘電損失の周波数依存性を示す図。
【図21】Ba0.12Sr0.88TiO膜のリーク電流特性を比較例1と実施例1とで比較して示す図。
【図22】実施例2および比較例2の薄膜キャパシタにおける、比誘電率−電界特性を示す図。
【図23】実施例2および比較例2の薄膜キャパシタにおける、比誘電率の温度依存性を示す図。
【図24】実施例3および比較例3のBaTiO膜の残留分極の周波数依存性を示す図。
【図25】CaTiO焼結体ターゲットに投入したRF電力と誘電体膜中のCa量の関係を示す図。
【図26】Caの比率によるリーク電流の変化を示す図。
【図27】Caの比率によるヒステリシス曲線の変化を示す図。
【図28】Caの比率とヒステリシス曲線の立上がりとの関係を示す図。
【符号の説明】
1…単結晶基板
2…下部電極
3…誘電体膜
4…上部電極

Claims (9)

  1. 表面に立方晶系の(100)面又は正方晶系の(001)面が現れている第1の電極と、この第1の電極上にエピタキシャル成長された、本来立方晶のペロブスカイト型構造を有する誘電体薄膜と、この誘電体薄膜上に形成された第2の電極とを具備し、前記誘電体薄膜は、立方晶系に属する本来のペロブスカイト型結晶構造(格子定数a0 )の単位格子体積をv0 =a0 3 、エピタキシャル成長後正方晶に歪んだ単位格子体積(格子定数a=b≠c)をV=a2 cと表わしたとき、
    V/V0 ≧1.01
    なる関係を満たすとともに、膜厚方向の格子定数cと膜面に平行な方向の格子定数aとの比c/aが
    c/a≧1.01
    なる関係を満たすことを特徴とする薄膜キャパシタ。
  2. 表面に立方晶系の(100)面又は正方晶系の(001)面が現れている第1の電極と、この第1の電極上にエピタキシャル成長された、本来立方晶のペロブスカイト型構造を有する誘電体薄膜と、この誘電体薄膜上に形成された第2の電極とを具備し、前記誘電体薄膜は、前記第1の電極表面の面方向の格子定数をas 、立方晶系に属するペロブスカイト型結晶構造のa軸長で表わされる前記誘電体材料本来の格子定数をa0 とするとき、
    0 /as ≦1.002
    なる関係を満たすととともに、膜厚方向の格子定数cと膜面に平行な方向の格子定数aとの比c/aが
    c/a≧1.01
    なる関係を満たすことを特徴とする薄膜キャパシタ。
  3. 表面に立方晶系の(100)面又は正方晶系の(001)面が現れている第1の電極と、この第1の電極上にエピタキシャル成長された、本来立方晶のペロブスカイト型構造を有する、キュリー温度が200℃以下の誘電体からなる誘電体薄膜と、この誘電体薄膜上に形成された第2の電極とを具備し、前記誘電体薄膜は、前記第1の電極表面の面方向の格子定数をas 、立方晶系又は正方晶系に属するペロブスカイト型結晶構造のa軸長で表わされる前記誘電体材料本来の格子定数をa0 とするとき、
    1.002≦a0 /as ≦1.015
    なる関係を満たすとともに、前記誘電体がエピタキシャル成長した後の面方向の格子定数をaとするとき、
    a/as <1.002
    なる関係を満たすことを特徴とする薄膜キャパシタ。
  4. 前記誘電体薄膜が、下記式により表される化合物からなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の薄膜キャパシタ。
    ABO3
    (式中、AはBa、Sr、およびCaからなる群から選ばれた少なくとも1種、Bは、Ti、Zr、Hf、Sn、Mg1/3 Nb2/3 、Mg1/3 Ta2/3 、Zn1/3 Nb2/3 、Zn1/3 Ta2/3 、Ni1/3 Nb2/3 、Ni1/3 Ta2/3 、Co1/3 Nb2/3 、Co1/3 Ta2/3 、Sc1/3 Nb2/3 、およびSc1/3 Ta2/3 からなる群から選ばれた少なくとも1種である。)
  5. 前記第1の電極が、一般式ABO3 (式中、Aは、Ba,Sr,Ca,およびLaからなる群から選ばれた少なくとも1種、Bは、Ru,Ir,Mo,W,Co,Ni,およびCrからなる群から選ばれた少なくとも1種)により表されるペロブスカイト結晶構造の導電性化合物からなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の薄膜キャパシタ。
  6. 前記誘電体薄膜が、(Bax Sr1-x )TiO3 (0<x<0.9)により表される化合物からなり、前記第1の電極が、SrRuO3 (0.9<Sr/Ru<1.1)により表されるペロブスカイト結晶構造の導電性化合物からなることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜キャパシタ。
  7. 前記誘電体薄膜が、常誘電体のとき1.03≧c/a≧1.01、強誘電体のとき1.08≧c/a≧1.01を満たすことを特徴とする請求項1に記載の薄膜キャパシタ。
  8. 前記誘電体薄膜が、1.1≧c/a≧1.01を満たすことを特徴とする請求項2に記載の薄膜キャパシタ。
  9. 前記誘電体薄膜が、1.004≦a0 /as ≦1.011を満たすことを特徴とする請求項3に記載の薄膜キャパシタ。
JP3939497A 1996-02-22 1997-02-24 薄膜キャパシタ Expired - Fee Related JP3595098B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP3939497A JP3595098B2 (ja) 1996-02-22 1997-02-24 薄膜キャパシタ

Applications Claiming Priority (5)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP3486896 1996-02-22
JP8-196198 1996-07-25
JP8-34868 1996-07-25
JP19619896 1996-07-25
JP3939497A JP3595098B2 (ja) 1996-02-22 1997-02-24 薄膜キャパシタ

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JPH1093050A JPH1093050A (ja) 1998-04-10
JP3595098B2 true JP3595098B2 (ja) 2004-12-02

Family

ID=27288562

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP3939497A Expired - Fee Related JP3595098B2 (ja) 1996-02-22 1997-02-24 薄膜キャパシタ

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP3595098B2 (ja)

Families Citing this family (8)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2000077616A (ja) * 1998-09-03 2000-03-14 Hitachi Ltd 誘電体素子およびその製造方法並びに半導体装置
CN1292931A (zh) * 1998-09-22 2001-04-25 株式会社日立制作所 铁电电容器与半导体器件
US6278158B1 (en) * 1999-12-29 2001-08-21 Motorola, Inc. Voltage variable capacitor with improved C-V linearity
JP2006054308A (ja) 2004-08-11 2006-02-23 Fujitsu Ltd 電子装置、及びキャパシタへの電圧印加方法
JP5131674B2 (ja) * 2005-08-23 2013-01-30 キヤノン株式会社 圧電体とその製造方法、圧電素子とそれを用いた液体吐出ヘッド及び液体吐出装置
US8675337B2 (en) 2008-05-02 2014-03-18 Fujitsu Limited Variable capacitor and filter circuit with bias voltage
JP5909933B2 (ja) * 2011-09-02 2016-04-27 株式会社リコー 酸化物導電性薄膜の処理方法、電子デバイスの製造方法及び液滴吐出ヘッドの製造方法
JP6067524B2 (ja) 2013-09-25 2017-01-25 株式会社東芝 半導体装置および誘電体膜

Also Published As

Publication number Publication date
JPH1093050A (ja) 1998-04-10

Similar Documents

Publication Publication Date Title
KR100228038B1 (ko) 박막캐패시터
Desu et al. Novel fatigue-free layered structure ferroelectric thin films
US5821005A (en) Ferroelectrics thin-film coated substrate and manufacture method thereof and nonvolatile memory comprising a ferroelectrics thinfilm coated substrate
US6197600B1 (en) Ferroelectric thin film, manufacturing method thereof and device incorporating the same
JPH10270654A (ja) 半導体記憶装置
EP0849780A2 (en) Method for manufacturing ferroelectric thin film, substrate covered with ferroelectric thin film, and capacitor
US7095067B2 (en) Oxidation-resistant conducting perovskites
JP3576788B2 (ja) 電子部品及びその製造方法
KR100378276B1 (ko) 절연 재료, 절연막 피복 기판, 그 제조 방법 및 박막 소자
JP3595098B2 (ja) 薄膜キャパシタ
JPH09252094A (ja) 薄膜キャパシタ及び半導体装置
JP2878986B2 (ja) 薄膜キャパシタ及び半導体記憶装置
Kawakubo et al. Novel ferroelectric epitaxial (Ba, Sr) TiO/sub 3/capacitor for deep sub-micron memory applications
JPH11261028A (ja) 薄膜キャパシタ
Kim et al. Substrate temperature dependence of phase and orientation of pulsed laser deposited Bi–La–Ti–O thin films
KR100348387B1 (ko) 강유전체 박막 소자 및 그 제조방법
JP3480767B2 (ja) 薄膜キャパシタ
JPH1187634A (ja) 薄膜キャパシタ
JPH11274419A (ja) 薄膜キャパシタ
JP3347010B2 (ja) 薄膜誘電体素子
JPH1093029A (ja) 薄膜誘電体素子
JP2001250923A (ja) 誘電体薄膜コンデンサ
JPH10269842A (ja) 導電性酸化物薄膜、薄膜キャパシタおよび磁気抵抗効果素子
JP3286218B2 (ja) 薄膜誘電体素子
JPH11340429A (ja) 強誘電体メモリおよびその製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20040601

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20040608

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20040806

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20040831

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20040902

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20070910

Year of fee payment: 3

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20080910

Year of fee payment: 4

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20080910

Year of fee payment: 4

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20090910

Year of fee payment: 5

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20090910

Year of fee payment: 5

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20100910

Year of fee payment: 6

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20110910

Year of fee payment: 7

LAPS Cancellation because of no payment of annual fees