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JP3576788B2 - 電子部品及びその製造方法 - Google Patents

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JP3576788B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、薄膜電子部品の機能性薄膜に関し、特に誘電体薄膜の構造およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
大規模集積回路(LSI)の絶縁膜、導体膜の形成技術、液晶ディスプレイに用いる薄膜トランジスタ(TFT)、各種センサやアクチュエータに使用する機能性薄膜、記録媒体用あるいは薄膜ヘッド材料の磁性体薄膜、超伝導薄膜など、最近の高集積電子部品には薄膜形成技術が重要な役割を果たしている。この成膜技術の急激な進歩は、これまで実現が困難であった高誘電率薄膜(以下、高誘電体薄膜と称する),強誘電体薄膜,圧電体薄膜,焦電体薄膜などを用いた新しい電子デバイスを実現してきた。
【0003】
例えば、圧電体薄膜を使用した素子はMEMS(Microelectromechanical system)と呼ばれ、マイクロアクチュエータ,マイクロモータ,超小型圧力センサ ,超小型加速度センサなどが研究されている。また、焦電体薄膜は赤外線センサなどが実用化されている。
【0004】
また、誘電体薄膜は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)の高集積化に伴うキャパシタ容量が限界に近づくにつれ、注目されつつある。近年、DRAMはその集積度をさらに高め、1セルの面積も縮小している。セル面積の縮小に伴い、キャパシタに割り当てられる面積も当然縮小することとなるが、既存のSiN,SiO膜の極薄膜化およびトレンチ構造などの面積増加では、必要とされる容量30fFをこれ以上保つことができなくなってきている。このことから、これまでのキャパシタの構造では高集積化を実現できない問題が生じる。
【0005】
このDRAMの持つ根本的な問題を解決すべく、新しい不揮発性メモリとして強誘電体メモリ(FeRAM)が開発されている。このFeRAMの開発に伴い、ペロブスカイト構造を持つBST(Ba0.5 Sr0.5 TiO),SrTiO誘電体薄膜やPZT(Pb(ZrTi1−x )強誘電体薄膜、BIT(BiTi12)強誘電体薄膜、SBT(SrBiTa)強誘電体薄膜が研究開発され、実用化検討されてきた。
【0006】
このような種々の電子デバイスの中で、特に強誘電体薄膜の開発を促進しているFeRAMは、DRAMのキャパシタ部分を強誘電体で置き換えたもので、以下のような利点をもち次世代メモリとして期待されている。
【0007】
第一に、書き込み及び消去が高速であり、セルを小型化することでDRAM並みの100ns以下の書き込み時間が可能である。第二に、不揮発性メモリであるため、SRAMと異なり電源を必要としない。第三に、メモリの書き換え可能回数が大きく、SBTなどの強誘電体材料や、この強誘電体材料の下地電極として用いられるIrO,RuO,SrRuOなどの電極材料を工夫することで1012回以上が可能である。第四に、高密度高集積化ができ、DRAMと同等の集積度が得られる。第五に、内部の書き込み電圧を2V程度とすることができ、電力の消費を低く抑えることができる。第六に、フラッシュメモリと異なりビット書き換え、ランダムアクセスが可能である。
【0008】
これらの利点を利用して、FeRAMはエアコンの温湿度センサ,各種電子機器の製造プロセスのモニター用TAG,TVゲームのリジューム機能,アーケードゲームの記憶装置,TVやビデオの設定記憶,コピー,FAX,プリンタの感光ドラムの使用状況モニタ,衛星放送,ケーブルTVのセットトップボックス,自動車のエンジンコントロール,ラジオの周波数プリセット,RFIDを用いた電子キー,ノイズの多い工業用製品のラインの製造プロセスモニタ,電力積算計,工業用液体,気体流量計センサ,大型タンクの液面計,AVパソコン,PCカード,ファイルメモリ,携帯端末機器など、多分野・多方面にわたっての応用が実用化あるいは検討されている。
【0009】
次に、FeRAMに用いられる強誘電体の原理を図9を用いて説明する。図9は強誘電体のヒステリシス曲線を示す図であり、横軸は印加電圧(V)を、縦軸は分極値(μC/cm)であり、Psは飽和分極値である。図9に示すように、強誘電体は自発分極をもち、その自発分極が電界により向きを反転することが可能である特徴をもつ。自発分極は電界を印加しない状態でも分極値Prをもち(残留分極)、その値(分極の向き)が電界を0とする前の状態に依存する。ここで図9のヒステリシス曲線において分極0となる時の電界値を抗電界と呼び、その電圧を抗電圧Vcと呼ぶ。印加する電界の向きで+あるいは−の電荷を結晶表面に誘起することができ、この状態をメモリ素子の0,1値に対応させる。
【0010】
図10は、強誘電体メモリの1セルである1T/1C(1トランジスタ/1キャパシタ)の構造を示す。BLはビットライン、WLはワードライン、Vpはプレート電圧、Trはパスゲートトランジスタ、FEは強誘電体メモリセルを示す。開発された初期のFeRAMは、比較するキャパシタをそれぞれ一つのキャパシタ毎に作製した2T/2C構造をもつが、高集積化の要求からリファレンスキャパシタを共通とする1T/1C型が開発されている。
【0011】
FeRAMに用いられる強誘電体材料には次にあげるような特性、仕様が要求される。
【0012】
第一に、反転分極量(スイッチング電荷:Pr×2)が大きいことが要求される。これはデバイスの構造,センシングする際の設定電圧値,分極値の安定性などにも左右されるが、一般に10μC/cmが必要とされている。
【0013】
第二に、比誘電率が小さいことが要求される。比誘電率を小さくすることで、スイッチング電流に対して非スイッチング電流値が小さく、S/N比を低く抑えることが出来るからである。
【0014】
第三に、分極値の書き換えサイクルによる減少、すなわち疲労特性が良好であることが要求される。疲労特性を良好にするには、強誘電体の材料そのものを変え、あるいは電極材料を酸化物系のものとする。これにより、1012回以上のスイッチング特性が得られる。
【0015】
第四に、分極反転速度が速いことが要求される。キャパシタの小型化により、スイッチング特性が正味のドメイン反転速度ではなく、電極配線抵抗、浮遊容量などに主として左右されることが示されている。
【0016】
第五に、リーク電流が10−6A/cm以下であることが要求される。キャパシタに蓄積した電荷の有無を利用するDRAMと比較すると、FeRAMでは残留分極値を利用するため、基準となるリーク電流値はDRAMの場合よりも高くて問題ない。
【0017】
第六に、データ保持特性が10年以上であることが要求される。
【0018】
以上に示した強誘電体材料に要求される特性、仕様を考慮すると、実際に使用されている強誘電体材料としては、主にPZT(PbZx Ti1-x 3 )薄膜、SBT(SrBi2 Ta2 9 )薄膜が挙げられる。
【0019】
PZT薄膜には、以下に示す利点がある。すなわち、結晶化温度が600℃程度であること、分極値が大きく残留分極値で20μC/cm程度であること、抗電界が比較的小さく低電圧で分極反転が可能なこと、Zr/Ti組成比により結晶化温度の他に、グレインの大きさや形状などの構造特性,分極量,抗電界,疲労特性,リーク電流などの強誘電特性が制御可能なことなどである。さらには、ペロブスカイト構造のもつ元素許容性からAサイトと呼ばれるPbをSr,Ba,Ca,Laなどの元素で、Bサイトと呼ばれるZr及びTiをNb,W,Mg,Co,Fe,Ni,Mnなどの元素で置換することが可能であり、例えばこの元素の置換により構造特性、強誘電特性を広範囲に制御できるすることも利点としてあげられる。
【0020】
元来、PZTはアクチュエータ,超音波振動子,超音波モータ,ハイドロフォン,圧電トランスなどのトランスデューサへの応用,積層セラミックコンデンサなど受動部品への応用,赤外線センサなどセンサへの応用など、種々の分野において用いられている。また、構造相転移,ドメイン挙動,圧電,焦電,強誘電体としての基本特性,ミクロな挙動など多くの研究がこれまでになされており、PZTの材料設計、特性改善、構造・電気特性の解明などのデータベースとして豊富であることも一つの利点といえる。
【0021】
さらに、PZTはその圧電、焦電、強誘電特性にすぐれることから早くから薄膜化の検討がなされてきており、スパッタ法やゾルゲル法などの手法で研究例も多い。
【0022】
以上のような背景の下、PZTは最初にFeRAMとして実用化された材料である。欠点である書き込み回数の増加にともなう分極量の減少(疲労特性)は、疲労特性そのものが電界により加速される特徴をもつため、最近の動作電圧の低電圧化、当初使用されていたPt電極からIrOなど酸化物電極の採用による疲労特性の改善もなされている。
【0023】
このPZT膜はMOD(Metalorganic Decomposition)法,レーザアブレーション法,イオンビームスパッタ法,熱CVD法,MOCVD法,レーザCVD法などにより形成することが可能であるが、FeRAM製品としてはゾルゲル法,スパッタ法が中心である。
【0024】
一方、後者のSBTは、PZTのもつ疲労特性の改善、膜の低電圧駆動を達成するために開発された材料である。SBTはBi層状化合物(Aurivillius Phase)の一種で、強誘電性の起源となる酸素八面体からなる擬似ペロブスカイト構 造層をBi層が挟む結晶構造をもつ。この構造により主たる分極軸はc軸と垂直な面内にあり、c軸方向の分極は無か、あっても小さい値となる。擬似ペロブスカイト構造中の酸素八面体の数によってc軸方向の分極が発現する。
【0025】
SBT膜は、強い異方性によりこれまでセラミックとしてはほとんど研究がなされていなかったがMOD法で薄膜形成が可能で、形成された多結晶膜が強誘電性を示すことから開発が開始されている。また、疲労特性が良好であり、低電圧化が可能であることが確認されたことにより開発がさらに加速している。
【0026】
SBTは揮発性元素であるBiが欠損しても電荷を補償する酸素空孔自体はBi酸化物層に形成されるため直接ペロブスカイト構造での影響は少ない。また、価数の変化しやすいTiをもたないことも強誘電性を変化させない要因とされている。
【0027】
SBTはPZTと比較して分極量が小さいが、Taの一部をNbで置換することで分極量を増大させることも可能である。最近はSBTをキャパシタとして集積化したデバイスも試作されている。SBTはMOD法の他、ゾルゲル法、スパッタ法、レーザアブレーション法などでも形成されている。
【0028】
次に、強誘電体を形成するプロセスをPZT強誘電体膜を用いたFeRAMの例により説明する。
【0029】
まず、スパッタ法によりスパッタと同時に直接結晶化したPZT膜を形成する方法が考えられる。この場合、スパッタ時に約500℃以上の高温が必要であるが、低融点元素のPbの蒸気圧が高いこと、スパッタ率が高いことなどの理由から、高温で容易に基板から蒸発、再スパッタする。結晶化温度である500℃以上ではPbはほとんど基板へとどまらず組成制御が困難である。通常はPbあるいはPbOのターゲットを別に用意し、同時にスパッタして過剰量のPbを供給するなどの工夫がなされるが、大きい基板に均一に組成制御して膜形成することは困難である。
【0030】
これに対して、室温ではPbの蒸発、再スパッタの影響が小さいため、比較的容易にターゲットに近い組成のPZT膜が形成可能である。ただし室温においてもプラズマからのイオン、スパッタ粒子などによる運動量によって基板やシールド部が高温となりやすく、蒸発、再スパッタの影響は注意する必要がある。各部の電位によってもArイオンの衝撃が異なるため組成が変化する。
【0031】
従って、室温によりPZT強誘電体膜を形成する場合を図11を用いて以下説明する。
【0032】
まず、トランジスタを形成するプロセスを経たSi基板1にSiO膜2を形成し、下地電極となる150nm厚のPt電極4をDCマグネトロンスパッタにより形成する。Ptは酸化膜と密着性が良好ではないため、接合層3としてTi(20nm)をPt成膜前に連続スパッタにて形成する。
【0033】
次に、Pt電極4上にPZT膜5をRFマグネトロンスパッタにより形成する。このスパッタは、Pbの蒸発、再スパッタの影響を抑えるため、基板温度を上げず室温にて成膜する。
【0034】
スパッタ条件は次の通りである。ターゲット−基板間距離が60mm、均一な膜厚、組成分布を得るためマグネットをスパッタ中に回転させる。12インチのセラミックPZTターゲットに対して1.0〜1.5kWでスパッタを行なう。スパッタガスはArで0.5〜2.0Paの圧力範囲で成膜する。約5分間のスパッタ時間で250〜300nmの膜厚のPZTアモルファス膜が得られる。
【0035】
また、PZT成膜前に約1時間のプレスパッタをPZT成膜時と同様のスパッタ条件にて行なう。上記スパッタにより得られたアモルファス状態のPZT膜5をRTA(Rapid Thermal Anneal)プロセスによりペロブスカイト相に結晶化する。600℃以上の温度で数秒で結晶化が可能である。管状炉などでも結晶化できるが、RTAの方がサーマルバジェットが小さくPt電極4とPZT膜5の拡散、反応を抑えることができ、界面の平滑性に適する。
【0036】
また、PZT膜5の結晶化には異相として非強誘電相のパイロクロア型酸化物があるが、この相は結晶化の昇温速度を小さくした場合や、Zr/Ti比が大きい場合に形成されやすい。パイロクロア相が第二相としてできた場合には、分極量が小さくなるだけでなく、PZT膜の信頼性にも影響を及ぼす可能性があるため、パイロクロア相を形成しないように昇温温度及びZr/Ti比を制御する。
【0037】
図12は、RTAにより結晶化した後の状態をSEMで微細構造を観察した結果を示す顕微鏡写真である。Ar中でスパッタ成膜した試料では厚さ300nmのPZT膜5でクラックは発生しないが、PZT/Pt,Pt/Tiの界面で反応、拡散が起こり、Pt表面の一部(Ptの粒界部など)や膜内部からペロブスカイト相生成が起こるため、表面の凹凸が大きくなる。PZT粒子は横方向で100〜300nm径であり、膜の表面はその粒子形状を反映して±100nm程度の凹凸が見られた。これは、PZT膜5が小さい粒径であることが原因である。
【0038】
このPZT膜5形成時のPZT膜5付近の断面を模式的に図13に示す。図13から分かるように、Pt粒子134からなるPt電極4上にはPZT膜5が形成されており、このPZT膜5を構成する個々のPZT粒子135は柱状に成長している。このPZT粒子135同士の境界面、すなわち粒界部分はリーク電流のパスとなり、この粒界部分が多いほどリーク電流が大きくなる。同様に、PZT膜5とPt電極4との界面にはポア136が生じるが、これもリーク電流の原因となる。
【0039】
さらに、XRD(X線回折)により結晶構造を観察すると、PZTペロブスカイト構造の(100)面が基板と平行に配向していることがわかる。Pt電極4は、(111)面が基板と平行となるように配向するため、Pt電極4とPZT膜5の整合がとれていないこととなる。これは、PZT膜5とPt電極4との界面においてPZT中のTiの周囲の酸素が欠損した状態となるため、酸素八面体構造のペロブスカイト構造に移行しにくく、また界面でなくPZT膜5内部又表面からペロブスカイト構造が成長しやすくなるため、配向面の整合がとれなくなるからである。
【0040】
次に、PZT結晶膜5上にさらに上部電極となるPt膜をDCマグネトロンスパッタにより堆積してPt電極6を形成し、キャパシタ構造が完成する。
【0041】
Pt電極6のパターンはRIE(Reactive Ion Etching)装置を用いて、Arと弗化炭素系のガス中でエッチングを行い微細パターンを形成するが、本実施形態では初期強誘電特性をみるためポジレジストにてPZT膜5上にパターンを形成し、リフトオフ法によりPt上部電極パターンとした。さらに、電極との密着性を向上させるために600℃で酸素中1時間のアニール処理を行う。
【0042】
このようにして完成したキャパシタ構造の電気特性を評価すべく、強誘電性を電荷量Q−印加電圧Vでのヒステリシス特性にて調べた結果を図14に示す。6インチ径のSiウェハの面内でいずれの場所でも分極量2Pr(残留分極Pr×2)が10μC/cm以下と低くヒステリシス形状も悪い。この場合の膜組成はPb1.15−1.20 La0.05(Zr0.4 Ti0.6 )Oであった。
【0043】
この分極特性を改善すべくスパッタ時のスパッタ電力とガス圧を変えることでPb量を10%以内の範囲で変化させることが可能である。従って、膜中のPb量を変えることにより分極量2Prが一部で30μC/cm程度のものも得られるが、ウェハ面内全域で形成することはできない。
【0044】
さらにプラズマ状態、ターゲットの状態、シールド状態によりPb量が微量変化することでヒステリシス特性が大きく変動する。
【0045】
疲労特性評価では50μm角、300nm厚さのPZTキャパシタに5Vの膜構造でスイッチングを繰り返したところ、10サイクル以上で分極量の減少が始まり、10サイクルで分極量は初期の半分以下となった。
【0046】
PZT膜の疲労はPt電極4界面に形成される酸素空孔が主たる原因とされている。この酸素空孔の発生理由の一つがPb元素の揮発性、拡散容易性である。すなわち、Pb欠損により電気的中性を保持するために形成容易な酸素空孔ができる。酸素空孔が形成されると空間電荷を形成してドメインをピニングするとともに、酸素空孔近傍の陽イオンと双極子を形成し、スイッチング電荷の減少を引き起こす。
【0047】
そこで、かかる酸素空孔発生を防止するため、スパッタ成膜をAr/O中で行うことも考えられる。しかし、Oを添加してスパッタ成膜したPZTアモルファス膜では、結晶化プロセスにおいて膜にクラックが生じ、基板一面にPZT膜が白濁する現象が見られる。微細構造を電子顕微鏡により観察した様子を図15に示す。図15より、PZT膜に無数のクラックが大きく生じていることが分かる。この現象は5インチのターゲットを用いて他のスパッタ装置で成膜した場合にも同様に発生した。
【0048】
PZT膜5、Pt電極6のRIEではイオンにより物理的エッチング効果が大きいため膜表面の凹凸がエッチング後の形状に大きく影響する。本膜では±100nmの表面粗さがそのままエッチング後に下地基板の凹凸となってしまう問題があった。
【0049】
次に、ゾルゲル法やMOD法などの溶液法(CSD法)にて形成するPZT成膜プロセスを説明する。
【0050】
まず、原料の性状、取り扱い容易性、安定性や他の物質との混合した時の反応性から、Pb,Ti,ZrなどのPZT膜構成元素の原料を選択する。Pbでは酢酸鉛3水和物、Zrにはジルコニウムテトラプロポキシド、Tiにはチタンテトライソプロポキシドを利用する場合が多く、溶剤に2メトキシエタノールを使用して約0.2Mの溶液をまず調製する。この溶液は水分を十分に取り除くことで長期保存が可能である。
【0051】
一般には酢酸鉛の水和物の水成分を除去する。成膜する時はこの溶液に水を加えて縮重合反応を起こさせるが、脱水反応および脱アルコール反応によってM−O−Mの架橋構造が形成される。この際に加えた水の量,反応時間(保持時間),pH,温度,濃度などによりこの架橋状態が変化する。
【0052】
スパッタの場合と同様に異なったアモルファス状態を形成することになるため、PZTペロブスカイト構造に結晶化した後に配向性,結晶粒の性状,強誘電特性,リーク電流,疲労特性などが変化する。MOD法でも同様である。Pb,Zr,Tiの2エチルヘキサノエートなどを使用し、有機溶剤のキシレンを用いてPZTのMOD用溶液を調製する。MOD法の場合は加水分解反応は起こさず、その状態(混合状態)にて基板上に塗布する。基板上に成膜した後に250℃程度の低温で乾燥、脱溶剤を実施し、アモルファス状態のPZT膜となる。MOD法では原料がC,H,Oを多く含む構造であるため結晶化時の膜の収縮が大きく、数100nmの厚い膜を形成するには塗布と結晶化工程を繰り返すなどの方法で行なう。
【0053】
結晶化はスパッタによる場合と同様にRTAを使用する場合が多い。750℃で5分程度の熱処理によりペロブスカイト単一相が得られる。しかしながら、このような溶液法を用いたPZT膜は結晶粒は100〜数100nmと小さく、スパッタで形成された膜のような柱状組織を示さない粒状組織がみられる場合が多い。
【0054】
また、PZTペロブスカイト相の配向性でみると、Pt(111)面上でも配向度の小さい多結晶膜や、(100)面からの反射が強い配向膜となったりすることが多く、下地電極との整合性を得ることが困難である。また、このような膜では小さいPZT粒子から構成されることで粒界部が多くなる。従って、リーク電流の増大,疲労特性,残留分極量の減少,リテンション特性(電荷の保持特性)の劣化,欠陥や空間電荷による内部電界の発生などによって悪影響が発生する。
【0055】
【発明が解決しようとする課題】
以上説明したように、従来の強誘電体薄膜は、成膜時において下地電極との界面付近に形成される酸素空孔や欠陥により強誘電性、疲労特性が劣化する。また、形成した粒径が小さく、下地電極とを構成する結晶の配向面と同一な面が配向していない柱状組織の誘電体膜の電気特性は、リーク電流が大きい、分極量の小さいものが多い、抗電界が大きいなどの問題も発生し、形成された誘電体膜表面の凹凸が大きい。
【0056】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、疲労特性及び電気特性が良好で、表面の凹凸が少ない誘電体膜を有する電子部品を提供することにある。
【0057】
また、本発明の別の目的は、上記電子部品の製造方法を提供することにある。
【0058】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る電子部品は、導電性薄膜と、この導電性薄膜上に該導電性薄膜の平均粒子径よりも大きい平均粒子径で接して形成され、前記導電性薄膜と格子定数が整合する材料からなり、前記導電性薄膜を構成する結晶の配向面と同一な面が最も高く配向した誘電体膜とを具備してなることを特徴とする。
【0059】
本発明の望ましい形態を以下に示す。
【0060】
(1)誘電体薄膜の粒子径Aが、下地電極の粒子径Bと、B<A<100Bの関係をもつ。
【0061】
(2)導電性薄膜は、半導体層及び該半導体層の上に形成された絶縁膜の上に形成されており、誘電体膜上には導電性材料からなる上部電極が形成されており、導電性薄膜,誘電体膜及び上部電極により半導体メモリのキャパシタを構成する。
【0062】
(3)誘電体薄膜がABOを化学式としたペロブスカイト構造をもつ。
【0063】
(4)(3)のペロブスカイト構造を構成する元素AはPb,Ba,Sr,Ca,Laの少なくとも一種を含み、元素BはTi,Zr,Nb,Ta,Fe,W,Co,Niの少なくとも一種を含む。
【0064】
(5)下地電極材料がPt,Ru,Ir,IrO,RuOなどの貴金属及び貴金属の酸化物あるいはSrRuO,(La0.5 Sr0.5 )CoOなどのペロブスカイト型導電性酸化物、超伝導性薄膜などを主成分とする。
【0065】
(6)誘電体膜はPZT膜である。
【0066】
また、本発明に係る薄膜電子部品の製造方法は、導電性薄膜を形成する工程と、この導電性薄膜の上に該導電性薄膜と格子定数がほぼ同じ材料からなる誘電体膜を成膜装置により成膜する工程とを具備し、前記導電性薄膜及び前記誘電体膜の界面付近の前記誘電体膜成膜時の前記成膜装置内への導入酸素量を前記界面付近よりも上面の成膜時よりも多くして前記導電性薄膜を構成する結晶の配向面と同一な面を最も高く配向させることを特徴とする。
【0067】
本発明の望ましい形態を以下に示す。
【0068】
(1)誘電体膜の形成はCVD法,スパッタ法,蒸着法,レーザアブレーション法により行う。
【0069】
(2)成膜装置はスパッタ装置であり、成膜工程はスパッタ装置内に導入する不活性ガスとともに酸素を導入してスパッタを行い、このスパッタ後に加熱処理により誘電体膜を結晶化させる工程である。
【0070】
(3)誘電体膜の成膜工程は第1、第2の膜堆積工程及び結晶化工程からなり、第1の膜堆積工程は導入酸素量を多くして第1の非晶質膜を10nm以下の膜厚に形成する工程であり、第2の膜堆積工程は第1の工程に比較して導入酸素量を少なくして第1の非晶質膜上に第2の非晶質膜を形成する工程であり、結晶化工程は第1及び第2の非晶質膜を加熱処理により結晶化させる工程であることを特徴とする。
【0071】
(4)(3)の第1及び第2の膜堆積工程は室温で行う。
【0072】
(5)(2)のスパッタ法による形成では、形成すべき誘電体膜の組成に比較してターゲット組成のPbを増加させる。
【0073】
(6)(2)のスパッタ法による形成では、ターゲットにLaを添加する。
【0074】
(7)導電性薄膜をパターニングし、このパターニングされた基板上にPZT膜をスパッタにより成膜し、その後の加熱処理により導電性薄膜上のPZT膜のみを結晶化させる。
【0075】
(作用)
本発明に係る電子部品では、誘電体膜の粒子径は導電性薄膜の粒子径よりも大きく、また誘電体膜と導電性薄膜と格子定数が整合し、かつ導電性薄膜を構成する結晶の配向面と同一な面が最も高く配向して誘電体膜が導電性薄膜に接して形成される。
【0076】
これによって、誘電体膜の粒界部分が少なくかつ誘電体膜内部と導電性薄膜界面付近との組成ずれが起こりにくい。従って、分極量が大きく、複数回のスイッチングを行っても分極量が小さくなりにくく、抗電圧が低く、リーク電流が小さく、さらに誘電体膜表面の凹凸を小さく抑えることができる。
【0077】
また、本発明に係る電子部品の製造方法では、誘電体膜の形成初期の導電性薄膜界面付近の膜堆積において酸素添加量を多くする。これによって、導電性薄膜と誘電体膜との配向面が同一な面で配向して誘電体膜が堆積する。従って、粒径の大きな誘電体膜を形成することができるため、分極量が大きく、複数回のスイッチングを行っても分極量が小さくなりにくく、抗電圧が低く、リーク電流が小さく、さらに誘電体膜表面の凹凸を小さく抑えることができる。
【0078】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0079】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る電子部品を含む半導体装置の全体構成を示す図であり、Pb系ペロブスカイト型酸化物であるPZT薄膜を誘電体薄膜として用いた強誘電体メモリ(FeRAM)のキャパシタを示す。
【0080】
図1に示すように、まずSi基板1に通常プロセスによりトランジスタを作り込みCMOS構造を形成する。次いで、CVD法等によりSi基板1上にSiOからなる絶縁膜2を堆積する。次いで、絶縁膜2上にTi等の金属からなる20nm厚の接合層3及びPt電極4をDCマグネトロンスパッタにより連続スパッタにて形成する。Ti接合層3は、絶縁膜2とPt電極4との密着性を向上させるために形成する。また、Pt電極4の膜厚は200nmで室温にて成膜する。この成膜条件において、下地電極のPtは、面心立方格子の最稠密である(111)面が基板と平行となるように配向して形成される。Tiは酸化しないようにTi及びPtの連続スパッタを用いる。なお、このPt電極4の材料はRu,Ir,IrO,RuOからなる金属若しくは金属の酸化物又はSrRuO,(La0.5 Sr0.5 )CoOからなるペロブスカイト型導電性酸化物若しくは超伝導薄膜で置換可能である。
【0081】
次に、Pt電極4上にRFマグネトロンスパッタ法により誘電体膜であるPZT膜5を形成する。PZT膜5の形成に用いるターゲットの組成はPb1.10La0.05Zr0.4 Ti0.6 とする。この組成から分かるように、Pb量を化学量論的なPZT組成よりも10%程度多くしたPZTセラミックターゲットを使用する。また、疲労特性を上げるため、Laを微量混入している。例えばこのターゲットにより形成されるPZT膜5に相当する誘電体膜の粒子径Aは、Pt電極4に相当する下地電極の粒子径Bと、B<A<100Bの関係をもつようにそれぞれの材料を選択するのが望ましい。
【0082】
結晶構造に関してはPtは面心立方構造をとり格子定数は3.95×10−1nm程度である。ペロブスカイト構造PZTはPbとOからなる面心立方格子の酸素八面体空隙にTi,Zrイオンが入る構造であり、Zr/Ti比によって若干格子定数が変化するが、およそ4.0×10−1nmであり、Ptの格子定数とのマッチングがよい。このため(111)面に配向したPt薄膜上にはPZT(111)面が最も整合した面となる。
【0083】
PZTセラミックターゲットは密度の高いものがスパッタ速度が大きく水分などに対する耐環境性も良好であるため、理論密度98%のセラミック焼結体を使用する。スパッタ時にはプラズマにより基板温度の上昇や飛来粒子による衝撃作用(ボンバードメント)があるために、Si基板からのPbの蒸発や再スパッタが起こり膜中のPb量の欠損が生じやすい。ターゲット中の過剰Pbはそれを補償するために加える。Zr,Ti,Laなどの元素はターゲット組成とほぼ同じ量で膜に取り込まれるため、上記に示した組成に限定されず、望む組成の量比のものを用いればよい。
【0084】
本実施形態では結晶化するPZT膜5の構造及び電気特性を改良するために、酸素を導入したスパッタ法を利用し、PZT膜5を2段階により成膜する。すなわち、最初に酸素を導入した雰囲気でスパッタ成膜してシード層5aを形成し、後に通常のAr中スパッタによりPZT膜本体5bを成膜する。
【0085】
スパッタ条件は、ターゲット−接合層3間距離が60mmであり、回転式のマグネットを用いて12インチのセラミックPZTターゲットに対し1.0〜1.5kWでスパッタを行なう。
【0086】
シード層5aの成膜段階では、ガス圧0.5〜2.0PaでArに酸素を20%導入した条件で15〜30秒成膜し、2〜5nm厚さのPZTアモルファス膜を形成する。このシード層5aの成膜後、PZT膜本体5bをこのシード層5aの上に再度Arガスのみを使用してガス圧0.5〜2.0Pa、1.0〜1.5kWの電力にて約5分間RFマグネトロンスパッタを行なう。膜厚は250〜300nmである。
【0087】
なお、この誘電体膜5の成膜前には、ターゲット表面の状態,温度,チャンバ内環境を一定とするため約1時間のプレスパッタを同じスパッタ条件にて行なう。Pb量および結晶化後の構造・電気特性はこのプレスパッタにより大きく変化してしまうのでスパッタ成膜と同様に厳しい成膜条件の下で行うことが望ましい。
【0088】
シード層5a及びPZT膜本体5bを成膜後、RTAを用いて酸素気流中750℃、5秒の加熱によりペロブスカイト相に結晶化させる。なお、RTA以外に管状炉などでも結晶化が可能であるが、RTAの方がサーマルバジェットが小さくPt電極4とPZT膜5の拡散、反応を抑えることができ、界面の平滑性には適するのでRTAによるのが望ましい。
【0089】
また、このRTA後の結晶構造をXRDにて調べた結果、ペロブスカイト相で(111)面からの非常に強い反射が得られた。従って、Pt電極4を構成する結晶の配向面と同一な面が最も高く配向してPZT膜5が形成されていることが分かる。これは、シード層5aの成膜の際に過剰の酸素を導入しているため、Tiの周囲の酸素欠損が起こりにくく、このためPt電極4とPZT膜5の界面付近からペロブスカイト構造に移行しやすいため、界面付近から上層に向けてペロブスカイト構造がPt電極4に、その配向面と同一な面が最も高く配向して成長するからである。
【0090】
また、この結晶化後のPZT膜5の微細構造の顕微鏡写真を図2〜図4に示す。また、図2〜図4ではシード層5a成膜時間を変えて行っており、図2は15s、図3は30s、図4は60sのシード層5a成膜時間をとっており、図2(a),図3(a),図4(a)は上面からみた顕微鏡写真を、図2(b),図3(b),図4(b)は横断面を示す顕微鏡写真である。これら図2〜図4に示すように粒径はシード層5a成膜時間が長いほど大きくなるが、PZT膜5自体の表面の凹凸はシード層5a成膜時間30sの場合が最も少なく、0.5〜1.5μm径のPZT粒子がPt上に形成されており、膜表面の平滑性も改善されることが分かる。この成膜時間30sにより形成されるシード層5aの膜厚は10nm以下である。
【0091】
また、図3における断面図を模式的に表したのが図5である。図5に示すように、Pt粒子54からなるPt電極4上に形成されるPZT膜5は、従来の成膜方法で得られた図13に示すものに比較してかなり大きなPZT粒子55から構成される。
【0092】
一方シード層5aの膜厚を厚くする場合には10nmで疲労特性の劣化が起こる。電圧(±)印加サイクルによる分極値の低下が始まるサイクル数を図6に示す。横軸はシード層5aの膜厚を、縦軸は分極値劣化開始サイクル数を示す。図6に示すように、5nm程度のシード層厚で10サイクルまで劣化が起こらなかったものが10nmでは10サイクルで劣化が開始する。但し、疲労特性は他にもPZT/Pt界面のPb量、Zr/Ti比の影響も大きいため、それぞれのスパッタ環境によりシード層厚の最適値にずれが生じる。さらに、図15に示すように、Ar/Oスパッタ時は200nm以上の厚さでは写真に示すように結晶化後にクラックを生じる欠点を持つ。このように、Ar/O初期スパッタシード層5aについては膜厚の制約がある。数十nm以下の場合には、PZT粒子の結晶化時の成長も小さく、配向性も悪い。また分極値もシード層を薄くすることで10μC/cm以下に減少する。従って、シード層5aの膜厚は10nm以下にすることが望ましい。
【0093】
次にPZT結晶膜5上に上部電極となるPt電極6をDCマグネトロンスパッタにより形成してキャパシタ構造が完成する。Pt電極6のパターンはRIE装置を用いて、Arと弗化炭素系のガス中でエッチングを行い微細パターンを形成するが、本実施形態では初期強誘電特性を測定するためポジレジストにてPZT膜5上にパターンを形成し、リフトオフ法によりPt上部電極パターンとする。また、誘電体膜5とPt電極6との密着性を向上させるために600℃で酸素中1時間のアニール処理を施す。
【0094】
以上示した工程により形成されたキャパシタの強誘電性を電荷量Q−印加電圧Vのヒステリシス特性にて調べた結果を図7に示す。横軸は印加電圧(V)を、縦軸は分極量(μC/cm)である。図7に示すように、分極量2Pr(残留分極×2)で約40μC/cmを示し、6インチSiウェハの全面に同程度の分極量と抗電界をもつPZT膜であることが分かる。抗電圧も1V程度と低い値が得られる。
【0095】
次に、この試料の疲労特性を評価した。疲労特性評価は50μm角、300nm厚さのPZTキャパシタに5Vの膜構造でスイッチングを繰り返した10サイクルまで分極量の変化がなく、劣化が始まってから50%に分極量が減少するまで10サイクル以上と長寿命であった。また、この10サイクルスイッチングを繰り返した後のリーク電流も5V印加時で10−8A/cmオーダーと低い値であった。また、表面の凹凸が減少したためにRIE加工時の悪影響が小さく、Pt電極4/PZT膜5/Pt電極6のエッチング後の下地も平滑なものが得られた。
【0096】
このように、PZT膜5の形成において、Pt電極4との界面付近における形成時にArガスにOガスを添加することにより、Pt電極4を構成する結晶の配向面と同一な面が最も高く配向してPZT膜5が形成することができる。従って、粒径の大きなPZT膜が形成されるため、リーク電流が少なくなり、誘電体膜の分極値が大きくなり、抗電圧も低く、疲労特性が改善され、膜表面の凹凸を少なくすることができる。また、このOガスを添加することによるシード層5a形成後はArガスのみでPZT膜5を形成するため、結晶化後のPZT膜5内にクラックが生じない。この方式はPZT膜5を大型6インチウェハ基板面内での構造・電気特性の均一化も達成できる。
【0097】
なお、本実施形態ではSiOからなる絶縁膜2上にTi接合層3を形成する場合を示したが、絶縁膜2上にさらにTiO層を形成するものでもよい。
【0098】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態に係る電子部品を含む半導体装置の全体構成を示す図であり、第1実施形態と同様にPb系ペロブスカイト型酸化物であるPZT薄膜を誘電体薄膜として用いた強誘電体メモリ(FeRAM)のキャパシタを示す。なお、第1実施形態と共通する部分には同一符号を付する。
【0099】
まずSi基板1中に通常プロセスによりトランジスタを作り込みCMOS構造をもつ集積回路を形成する。次いで、Si基板1上にCVD法にてSiN膜2a及びTiO膜2bからなる絶縁膜2を形成する。SiN膜2a上にTiO膜2bを形成するのは、SiN膜2a上よりもTiO2 膜2b上のほうが安定してPZT膜5を形成できるからである。
【0100】
次いで、この絶縁膜2上にTiからなるTi接合層3を介して下地電極となるPt電極4をDCマグネトロンスパッタにより形成する。Pt電極4の膜厚は200nmで室温にて成膜すると面心立方格子の最稠密である(111)面が基板と平行となるように配向した膜が形成される。Tiは酸化しないようにTi及びPtの連続スパッタを用いる。
【0101】
次に形成したPt電極4をRIEにより加工する。Ptの加工にはArとCFガスを混合したものを用いる。まずPt電極4上にポジレジストによりパターンを形成しRIEを行なう。Ti接合層3のTiも同時にエッチングした後にレジストをアッシングにて除去し、パターニングした電極とする。これにより、Pt電極4パターンはキャパシタ部の下地電極となるエリア81とプレート配線部82に分けられる。
【0102】
加工したPt電極4及び絶縁膜2上にRFマグネトロンスパッタ法によりPZT膜5を形成する。ターゲットは組成がPb1.10La0.05Zr0.4 Ti0.6 の高密度セラミック焼結体を使用する。スパッタ時のSi基板1からのPbの蒸発や再スパッタが起こり膜中Pb量の欠損が生じやすいために過剰Pbをいれてある。
【0103】
また、結晶化するPZT膜5の構造・電気特性を改良するために、酸素を導入したスパッタ法を用いる。Ar/O中でスパッタ成膜したPZTアモルファス膜が結晶化プロセスで膜にクラックが生じ、Ar中でのスパッタ膜では問題ないことから、最初に酸素を導入した雰囲気でスパッタ成膜して2〜5nm厚のシード層5aを形成し、次にAr中スパッタによりPZT膜本体5bを成膜する2段階スパッタ方法を採用する。
【0104】
スパッタ条件は、ターゲット−基板間距離が60mm、回転式のマグネットを用いて、12インチのセラミックPZTターゲットに対し1.0〜1.5kWでスパッタを行なう。第一段階ではガス圧0.5〜2.0PaでArに酸素を20%導入した条件で15〜30秒成膜する。このPZTアモルファスシード層5a上に再度Arガスのみを使用してガス圧0.5〜2.0Pa、1.0〜1.5kWの電力にて約5分間RFマグネトロンスパッタを行なう。膜厚は250〜300nmである。それぞれPZT成膜前にターゲット表面状態、温度、チャンバ内環境を一定とするための約1時間のプレスパッタを同スパッタ条件にて実施する。
【0105】
PZT膜5形成後、RTAにより酸素気流中750℃、5秒の加熱でペロブスカイト相に結晶化させる。
【0106】
RTA後のPZT膜5をXRDにて結晶構造を観察したところ、下地がPtであるエリア81及びプレート配線部82の部分はペロブスカイト相(111)面からの強い反射が得られたが、それ以外の部分ではPZT膜5は結晶化せず、非晶質PZT膜83のままであった。従って、下地がPtである部分では、シード層5aの成膜の際に酸素を過剰に導入したことによりPt電極4とPZT膜5の界面付近でのペロブスカイト構造への以降を容易にするため、Pt電極4を構成する結晶の配向面と同一な面が最も高く配向してPZT膜5が形成されていることが分かる。
【0107】
微細構造の観察結果では、ミクロンサイズのキャパシタ部分のPZT膜5は1.0μm以上の粒径のPZT粒子84が形成された。エリア81は幅2〜5μmであるため、一つのキャパシタには結晶粒界85が含まれないか含まれても少量であった。また、膜表面の平滑性も改善された。
【0108】
次にPZT膜5上のエリア81に上部電極となるPt電極6をDCマグネトロンスパッタにより形成してキャパシタ構造が完成する。Pt電極6パターンもRIE装置を用いて、Arと弗化炭素系のガス中でエッチングを行い微細パターンを形成する。ドライエッチングのプラズマによるダメージを除去することと電極との密着性を向上させるために600℃で酸素中1時間のアニール処理をほどこし電気特性を評価した。
【0109】
強誘電性を電荷量Q−印加電圧Vのヒステリシス特性にて調べた結果、分極量2Pr(残留分極×2)で約40μC/cmを示し、6インチSiウェハの全面に同程度の分極量と抗電界をもつ膜であることが分かる。抗電圧も1V程度と低い値が得られる。
【0110】
この試料の疲労特性を評価したところ、5V印加電圧で10サイクルまで分極量の変化がなく、劣化が始まってから50%に分極量が減少するまで10サイクル以上と長寿命であった。また、この10サイクルスイッチングを繰り返した後のリーク電流も5V印加時で10−8A/cmオーダーと低い値であった。また、表面の凹凸が減少したためにRIE加工時の悪影響が小さく、Pt/PZT/Pt膜のエッチング後の下地も平滑なものが得られた。
【0111】
このように、本実施形態によれば、PZT膜5の形成において、Pt電極4との界面付近における形成時にArガスにOガスを添加することにより、キャパシタを構成するエリア81部分ではPt電極4を構成する結晶の配向面と同一な面が最も高く配向してPZT膜5が形成される。従って、リーク電流が少なくなり、PZT膜5の分極値が大きくなり、抗電圧も低く、疲労特性が改善され、膜表面の凹凸を少なくすることができる。また、このOガスを添加することによるシード層形成後はArガスのみでPZT膜5を形成するため、結晶化後のPZT膜5内にクラックが生じない。
【0112】
なお、上記実施形態では誘電体膜本体を形成する際にArガスのみを導入する場合を示したが、クラックを生じさせない程度のOガスを微量混入する場合でも本発明を適用できる。
【0113】
また、PZT膜5を強誘電体膜として用いる場合を示したが、化学式ABOの誘電体薄膜において、該誘電体薄膜を構成するA元素がPb,Ba,Sr,Ca,Laから少なくとも一種、該誘電体薄膜を構成するB元素がTi,Zr,Nb,Ta,Fe,W,Co,Niから少なくとも一種からなるものと置換可能である。
【0114】
また、このPZT膜の置換に対応して、Pt電極4をRu,Ir,IrO,RuOなどの貴金属及び貴金属の酸化物あるいはSrRuO,(La0.5 Sr0.5 )CoOなどのペロブスカイト型導電性酸化物、超伝導性薄膜などを主成分とする材料に置換可能である。
【0115】
また、Pt(111)面にPZT(111)面が配向する場合に限らず、例えば下地電極となるPt(100)面に誘電体膜となるMgO(100)面が配向する場合等でもよい。
【0116】
また、強誘電体薄膜を強誘電体メモリのキャパシタに用いる場合に限らず、例えばアクチュエータ,超音波振動子,超音波モータ,ハイドロフォン,圧電トランスなどのトランデューサへ,積層セラミックコンデンサなど受動部品,赤外線センサなどのセンサとして用いることもできる。
【0117】
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0118】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、誘電体膜は導電性薄膜を構成する材料の粒子径よりも大きい粒子径からなるため、従来の粒径の小さい誘電体膜で生じるリーク電流特性,スイッチング特性及びエージング特性の劣化を抑えることができ、誘電体膜表面が平滑となる。また、導電性薄膜と誘電体膜の格子定数が整合し、導電性薄膜を構成する結晶の配向面と同一な面が最も高く配向して誘電体膜が形成されるため、下地電極上全域で分極量を大きくすることができ、抗電圧も低く、疲労特性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電子部品を含む強誘電体メモリのキャパシタ構造を示す横断面図。
【図2】同実施形態における電子部品を含む強誘電体メモリのキャパシタ構造を示す顕微鏡写真。
【図3】同実施形態における電子部品を含む強誘電体メモリのキャパシタ構造を示す顕微鏡写真。
【図4】同実施形態における電子部品を含む強誘電体メモリのキャパシタ構造を示す顕微鏡写真。
【図5】同実施形態におけるキャパシタ構造のPZT膜付近の模式断面図。
【図6】シード層膜厚と分極値劣化開始サイクル数の関係を示す図。
【図7】同実施形態における強誘電体膜のヒステリシス特性を示す図。
【図8】本発明の第2実施形態に係る電子部品を含む強誘電体メモリのキャパシタ構造を示す横断面図。
【図9】本発明の対象とする強誘電体のヒステリシス特性を示す図。
【図10】本発明の対象とする強誘電体メモリの1単位の回路構成を示す図。
【図11】従来の強誘電体メモリのキャパシタ構造を示す横断面図。
【図12】従来の電子部品の製造方法により製造された強誘電体膜を示す顕微鏡写真。
【図13】従来のキャパシタ構造のPZT膜付近の模式断面図。
【図14】従来の電子部品の製造方法により製造された強誘電体膜のヒステリシス特性を示す図。
【図15】酸素雰囲気中でスパッタした強誘電体膜を示す顕微鏡写真。
【符号の説明】
Vc,−Vc…抗電圧
Ps,−Ps…飽和分極値
Pr,−Pr…残留分極値
BL…ビットライン
WL…ワードライン
Vp…プレート電圧
Tr…パスゲートトランジスタ
FE…強誘電体メモリセル
1…Si基板
2…絶縁膜
3…Ti接合層
4…Pt電極
5…PZT膜
5a…シード層
5b…PZT膜本体
6…Pt電極
54,134…Pt粒子
55,135…PZT粒子
81…エリア
82…プレート配線部
83…非晶質PZT膜
84…PZT粒子
85…結晶粒界

Claims (7)

  1. 導電性薄膜と、この導電性薄膜上に該導電性薄膜の横方向の平均粒子径よりも大きい横方向の平均粒子で接して形成され、前記導電性薄膜と格子定数が整合する材料からなり、前記導電性薄膜を構成する結晶の配向面と同一な面が最も高く配向した誘電体膜とを具備してなることを特徴とする電子部品。
  2. 導電性薄膜を形成する工程と、この導電性薄膜の上に該導電性薄膜と格子定数がほぼ同じ材料からなる誘電体膜を成膜装置により成膜する工程とを具備し、
    前記誘電体膜成膜時の前記成膜装置内への導入酸素量を、成膜初期時の方をそれ以降の時よりも多くして、前記誘電体膜の前記導電性薄膜を構成する結晶の配向面と同一な面を最も高く配向させ、且つ前記誘電体膜の横方向の平均粒子径を前記導電性薄膜の横方向の平均粒子径よりも大きくしたことを特徴とする電子部品の製造方法。
  3. 前記成膜装置はスパッタ装置であり、前記成膜工程は前記スパッタ装置内に導入する不活性ガスとともに酸素を導入してスパッタを行い、このスパッタ後に加熱処理により前記誘電体膜を結晶化させる工程であることを特徴とする請求項2に記載の電子部品の製造方法。
  4. 前記誘電体膜の成膜工程は第1、第2の膜堆積工程及び結晶化工程からなり、前記第1の膜堆積工程は前記導入酸素量を多くして第1の非晶質膜を10nm以下の膜厚に形成する工程であり、前記第2の膜堆積工程は前記第1の工程に比較して前記導入酸素量を少なくして前記第1の非晶質膜上に第2の非晶質膜を形成する工程であり、前記結晶化工程は前記第1及び第2の非晶質膜を加熱処理により結晶化させる工程であることを特徴とする請求項2に記載の電子部品の製造方法。
  5. 前記誘電体膜は、Pb,Ba,Sr,Ca,Laから選ばれた少なくとも一種の元素をAとし、Ti,Zr,Nb,Ta,Fe,W,Co,Niから選ばれた少なくとも一種の元素をBとしたとき、化学式ABO 3 で定義されるものであることを特徴とする請求項1記載の電子部品。
  6. 前記誘電体膜は、PbZr x Ti 1-x 3 であることを特徴とする請求項5記載の電子部品。
  7. 前記誘電体膜として、Pb,Ba,Sr,Ca,Laから選ばれた少なくとも一種の元素をAとし、Ti,Zr,Nb,Ta,Fe,W,Co,Niから選ばれた少なくとも一種の元素をBとしたとき、化学式ABO 3 で定義されるものを用いたことを特徴とする請求項2〜4の何れかに記載の電子部品の製造方法。
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