メキシコ近代史上最も血なまぐさい選挙戦を制し、初の女性大統領が誕生する。メキシコ大統領選が2日投開票され、現職ロペスオブラドール大統領の路線継承を掲げる左派与党「国家再生運動(MORENA)」のシェインバウム前メキシコ市長(61)が当選した。その裏で大規模な選挙戦では38人の候補者が死亡したとみられ、血で血を洗う政争が繰り広げられていた。

 シェインバウム氏は3日、首都メキシコ市で「メキシコ初の女性大統領になる」と勝利宣言した。10月1日に就任する。任期は1期6年で再選は禁止されている。

 2018年から政権を率いたロペスオブラドール氏は、雇用と職業訓練、年金の拡充などポピュリスト的政策を進めて貧困層を中心に高い支持率を維持。後継のシェインバウム氏が得票につなげた。

 上下両院選や地方選も合わせ2万以上のポストを巡って投票が行われ、同国史上最大規模の選挙となったが、最も血なまぐさい選挙にもなった。

 メキシコ紙「ユニベルサル」によると、候補者への襲撃が321件も発生し、うち37人が殺害されたという。別のメディアは38人死亡と報じている。また、2日に投票所で2人殺害されたという情報もある。最終的な死者数は増えるかもしれない。

 ある市長候補は、集会で支援者に囲まれ笑顔を見せていた時に銃撃され、死亡した。襲撃犯はその場で警備員に射殺されたという。候補者への脅迫は800件を超える。候補者が脅迫、襲撃、誘拐、殺人の標的となった。

 メキシコ事情通は「ロペスオブラドール大統領は麻薬カルテルとの戦いにはほとんど手を出さず、ポピュリスト政策を推進し人気を保ちました。一方、麻薬カルテル同士が米国への麻薬密輸ルートの領土争いをし、人身売買が増加しました。治安は悪化し、ロペスオブラドール統治下で18万人以上が事件で死んでいます。メキシコ近代史で最多だそうです」と指摘する。

 大統領選ではシェインバウム氏と、中道右派「国民行動党(PAN)」など主要野党3党の公認候補ガルベス上院議員(61)の一騎打ちだった。ガルベス氏は、麻薬カルテルとの対決を避けようとするロペスオブラドール大統領および路線継承するシェインバウム氏の「銃弾ではなく抱擁」政策を批判し、犯罪者を積極的に追及することを誓っていた。

「野党側候補が襲われただけでなく、与野党関係なかったそうです。麻薬カルテルと癒着した地方役所、地方議員がおり、麻薬カルテルにとっては癒着相手が変わってほしくないということです。『立候補をやめなければ殺す』という脅迫から、殺害に至るケースが多かったようです」と同事情通は話している。