常用漢字(じょうようかんじ)とは、日本において日常で文字を書き表すために選ばれた漢字のことである。
常用漢字に選ばれた文字の内容は大正・昭和時代に始まり内容が大きく変わっているがこの記事では1981年に内閣告示され、2010年に改定された『常用漢字表』の漢字について解説する。
常用漢字は「法令,公用文書,新聞,雑誌,放送など,一般の社会生活において,現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安」として「常用漢字表」で示された漢字のことである。
1981年10月1日に告示された「常用漢字表」(昭和56年内閣告示第1号)には1945字が示されていたが、2010年11月30日に改定された「常用漢字表」(平成22年内閣告示第2号)では5字が削除、196字が追加され、2136字になった。
「常用漢字」の前身は「当用漢字」であり、現在のいわゆる「新字体」などはこれで示された。
「当用漢字」の認知度があまり高くないように思うため、この記事では「当用漢字」に関係があるものについても記述する。
当用漢字は1946年に「当用漢字表」で示された漢字の事である。当用漢字は表外漢字の使用を制限しており、更にここから漢字を減らすことで、行く行くは漢字を廃止しようとしていたとされている。
表外漢字の混ざった熟語を使う際、政府としては下で書かれている「交ぜ書き」で対応して欲しかったらしいが、世間は「書き換え」や新たな熟語を作るなどの方法で対応し、混ぜ書きを極力避けた。この努力により漢字の有用さが改めて認識され、表外漢字の使用制限が緩和された「常用漢字」に移行することとなった。しかし書き換えられた漢字や熟語は元に戻されなかった。
1949年4月28日に告示された「当用漢字字体表」で「印刷字体と筆写字体とをできるだけ一致させることをたてまえ」として字体が定められた。その字体は一般的に広く使われていた俗字や略字を採用したもので、国が創作したものはない。
そのため、以下の元6種の例のように字体の部位の不統一が発生している。
費・佛・拂・沸 → 費・仏・払・沸 | 觸・濁・屬・獨 → 触・濁・属・独 |
專・團・轉・傳 → 専・団・転・伝 | 藝・勢・熱 → 芸・勢・熱 |
尙・掌・常・當・黨・堂 → 尚・掌・常・当・党・堂 | 畫・盡・書・晝 → 画・尽・書・昼 |
逆に、以下の2種(元6種)のように無関係の部位を統一した事例もある。
雲/會/藝/傳 → 雲・会・芸・伝 | 覺・學/營・螢 → 覚・学・営・蛍 |
また、字体を変えたのは常用漢字(当用漢字)だけであったため、常用漢字に含まれない漢字(以下「表外字」)の字体(活字のデザイン)はそのままとなり、「飢饉」「邁進」など同一の部分であっても形が異なるという大変ややこしい状態になっている。(但し、手書きの際は食偏もしんにょうも新字体の形で書く。)
敍・敘・叙 → 叙 | 畧・略 → 略 | 嶋・島 → 島 | 册・冊 → 冊 |
舍 → 舎 | 贊 → 賛 | 來 → 来 | 麥 → 麦 | 爲 → 為 | 曾 → 曽 | 專 → 専 | 乘 → 乗 |
眞 → 真 | 將 → 将 | 飮 → 飲 | 德 → 徳 | 步 → 歩 | 神 → 神 | 黑 → 黒 | 默 → 黙 |
歷 → 歴 | 靑 → 青 | 羽 → 羽 | 黃 → 黄 | 諸 → 諸 | 逸 → 逸 | 內 → 内 | 戶 → 戸 |
單 → 単 | 榮 → 栄 | 學 → 学 | 擧 → 挙 | 櫻 → 桜 | 數 → 数 | 稻 → 稲 | 兒 → 児 |
兩 → 両 | 歸 → 帰 | 戀 → 恋 | 齊 → 斉 | 會 → 会 | 盡 → 尽 | 壽 → 寿 | 當 → 当 |
傳 → 伝 | 廣 → 広 | 佛 → 仏 | 聲 → 声 | 點 → 点 | 號 → 号 | 壓 → 圧 | 藝 → 芸 |
釋 → 釈 | 廳 → 庁 | 體 → 体 | 與 → 与 | 萬 → 万 | 攝 → 摂 | 舊 → 旧 | 圓 → 円 |
2010年11月30日に「常用漢字表」は改定され196字が追加となった。しかし、前述したように表外字の字体はそのままであったため、元々は表外字であった196字のうちの一部と、常用漢字の字体が乖離してしまっている。
下の表はその一例。
以前からの常用漢字 | 追加された常用漢字 |
浅(淺)・桟(棧)・残(殘) | 箋 |
真(眞)・鎮(鎭)・慎(愼) | 塡 |
挟(挾)・狭(狹)・峡(峽) | 頰 |
愉・輸・諭・癒 | 喩 |
但し、「情報機器に搭載されている印刷文字字体の関係で,本表の通用字体とは異なる字体(通用字体の「頰・賭〈右が「者」〉・剝」に対する「頬・賭〈右が「者」〉・剥」など)を使用することは差し支えない。」と、フォントで表示できない場合などは、示された字体と異なるものを用いてもよいとしているが、出版社などに向けて言っていそうなので一般人にはあんまり関係ないんじゃないかな。
また、手書きでは古くから、以前からの常用漢字に倣った字体で書かれてきたものが多く、「筆写の楷書ではどちらの字形で書いても差し支えない。」と、以前からの常用漢字に倣った字体などで書いてもよいとしている。そのため印刷で「塡」などとなっていても、手書きでは以前からの常用漢字に倣った字体の「填」と書くのが好ましい。(「以前からの常用漢字に倣った字体」ってもっと短く言えませんかね……。分かりづらくてごめんなさい。)
また、傾向として日本の都道府県全部を書けるようにと、構成熟語などをまるで度外視し、岐阜県の阜や埼玉県の埼などを追加したりしており、また嘘、噂、嬉しい、呟く、絆などといった日常会話でもよく用いられる漢字より禁錮、遡及、勾留といった法令表記の混ぜ書きを減らす目的を優先したりしている。また、浄瑠璃のために瑠と璃という字を常用漢字に入れたり、脆弱、捏造、挽回などもっと優先すべき、頻用されている熟語はあるだろうに、憧憬の憬、恣意的の恣などを常用漢字に含めたり(つまり、日常的な頻度より交ぜ書きによる読みの不自然さが少なくなるように選択している)、色々選定に疑問が残る追加となっているのも事実である。
世間では「俺」を入れる入れないでもめていたが、そのスケープゴートの裏側でこういう作業が行われていたことを把握せねばならない。
尤も、それまでも常用漢字の使用頻度には顕著なばらつきがあった。そこで「昔」「皿」「豆」など一部の漢字は教育漢字となっている(逆に「釈」「歓」「俗」「壱」など教育漢字から常用漢字となった例もある)。それ以外も「遅」「怒」など非常に使用頻度が高い常用漢字もある一方、「逓」「璽」「吏」「畝」「虞」「朕」などまず日常では用いない漢字や、「脹」「頒」のように代替表現によってまるで使われなくなったものもあったりする。そのうち「勺」「匁」「銑」「錘」などが常用漢字表から除外され人名用漢字(人名に使うかはともかく)となっている。なお、この使用頻度に際して、漢検では使用頻度を分析し、2級~4級で対象漢字を振り分けたりしている。
表外字含む言葉を使う際に、同じ音をもつ常用漢字で表外字を書き換えることがある。
1956年7月5日、国語審議会は「当用漢字の適用をを円滑にするため,当用漢字表にない漢字を含んで構成されている漢語を処理する方法の一つとして,表中同音の別の漢字に書きかえる」ための指針として「同音の漢字による書きかえ」を報告した。これにより漢字が書き換えられるようになった。(ただし、「同音の漢字による書きかえ」以前から、書き換え後の表記がなされていた語は数多くある。)
例えば以下のようなものである。
奇蹟 → 奇跡 | 月蝕 → 月食 | 下剋上 → 下克上 | 障碍 → 障害 | 沈澱 → 沈殿 | 篇 → 編 |
これが「終熄→終息」「媾和→講和」「抜萃→抜粋」など定着したものもあれば、「惣菜→総菜」「燻製→薫製」など定着しなかったものもある。中には当用漢字から常用漢字になった影響で、常用漢字内での書き換えも起きたりした。「濫用→乱用」「露顕→露見」などがその一例である。
書き換えは「濫用→乱用」「萎縮→委縮」「明媚→明美」「当籤→当選」など「同音の漢字による書きかえ」にないものも多く使われる。
一方、ある熟語は書き換えできるが、ある熟語は書き換えできないという訳の分からない事態も起きている。例としては「綜合→総合」は可だが、「錯綜」は書き換え不可、「動顛→動転」は可だが、「顛末」は書き換えないのが一般的など。
また、熟語に表外字を含む場合、その字だけを仮名書きし、交ぜ書きにすることがある。常用漢字が増え、交ぜ書きになる言葉は減ったのだが依然として多い。
例えば……。
かい離(乖離) | 急きょ(急遽) | あっ旋(斡旋) | あ然(唖然) | ねつ造(捏造) | 口てい疫(口蹄疫) |
この前ニュースで「退職金奪うこん睡強盗」と書かれていたのだが、大変読みにくいのでやめて欲しい。
ほかに、書き換えできるが書き換えずにあえて交ぜ書きしているものもある。
「障がい」は「害」という字を避けて、「障碍」と書きたいのだが、「碍」が表外字なので交ぜ書きにしている。(「障碍→障害」は「同音の漢字による書きかえ」で示されている。)
ヨーグルトの容器なんかを見ると「はっ酵乳」と書いてある。これは「醱酵乳」と書きたいのだと思う。(「醱酵→発酵」も示されている。)
宝くじは「当せん」と書いているがこれは「当籤」と書きたいのである。
中には尾骶骨→尾てい骨など対象が環境依存文字となってしまっているものもあり、流石にこれは仕方ない。
社によっては人物名も書き換え対象となる(静岡新聞での黒澤ルビィ→黒沢ルビィなど)
1 この表は,法令,公用文書,新聞,雑誌,放送など,一般の社会生活において,現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示すものである。
平成22年(2010年)11月30日に告示された常用漢字表の前書きにはこうある。
ニコニコ大百科はおおよそ第1項が適用されるような対象ではないため常用漢字に縛られる必要はない。というかニコニコ大百科で実際に縛られている記事なんて見たことない。常用漢字なんかぶち壊す勢いで自由に、感性の赴くままに漢字を使ってもらいたい。
然し漢字を使い過ぎた文章も読み難いので、平仮名と漢字のバランスも考えると読みやすくなるんじゃないかな。
次の熟語で、常用漢字を使っているものを答えて下さい(わかれば相当の漢字マニアです)。
1.平坦 2.脆弱 3.喧騒 4.挽回 5.芳醇 6.瀕死 7.頒布 8.可憐 9.化膿 10.円錐 11.安堵 12.徘徊 13.顛末 14.狼狽 15.貫禄 16.蹄鉄 17.飢饉 18.片鱗 19.水糊 20.茶碗 21.操舵 22.剃刀 23.恣意的 24.斡旋 25.蘇生 26.莫大 27.罹災 28.常套 29.麻痺 30.迂回 31.逓減 32.庇護 33.終焉 34.捺印 35.不憫 36.驚愕 37.招聘 38.錆止め 39.肋骨 40.廃墟 41.隕石 42.婉曲 43.浄瑠璃 44.灼熱 45.瞑想 46.聡明 47.逼迫 48.無垢 49.星屑 50.冤罪 51.濾過 52.邁進 53.任侠 54.媚薬 55.扮装 56.謳歌 57.諜報 58.錯綜 59.悲愴 60.膨脹 61.五寸釘 62.姑息 63.埠頭 64.咳止め 65.饒舌 66.卑猥 67.祭祀 68.黙祷 69.綿飴 70.転轍機 71.煤煙 72.猫騙し 73.幌馬車 74.錦鯉 75.強靭 76.位牌 77.蔓延 78.敬虔 79.賽銭 80.毀損 81.厨房 81.逢瀬 82.嬉々 83.急遽 84.俄然 85.渾身 86.水濡れ 87.排泄 88.什器 89.華僑 90.敏捷 92.執拗 93.勢揃い 94.横槍 95.折檻 96.月桂冠 97.刺繍 98.蒼白 99.鍾乳洞 100.愛嬌 101.昏睡 102.烙印 103.豊穣 104.粉塵 105.凋落 106.界隈 107.豹変 108.範疇 109.真摯 110.怒涛 111.拮抗 112.対峙 113.闊歩 114.自家撞着 115.奇譚 116.梱包 117.縞模様 118.紫綬褒章 119.肛門 120.防空壕 121.埴輪 122.分娩 123.喘息 124.唖然 125.哨戒 126.稀少 127.頭脳明晰 128.餞別 129.燻製 130.煽動 131.教鞭 132.刮目 133.辺鄙 134.金箔 135.圃場 136.御璽 137.趨勢 138.石鹸 139.諫言 140.爬虫類 141.投函 142.語彙 143.標榜 144.隠蔽 145.倦怠期 146.酒樽 147.下拵え 148.嗜好品 149.熱燗 150.急峻
この中で常用漢字はほんの少ししかありません。でも、ほとんど読めたと思うし、日常で非常によく使われる言葉なので意味もわかってると思いますし、どれが常用漢字なんだろうって悩む人はいないはずです(暇な人は調べてみてください)。つまり、こんな一部組織の都合に振り回されたくだらない使い分けに縛られるぐらいなら普通に漢字を覚えた方が賢明なわけです。実際、現代文国語や企業の一般常識問題で普通に学習、出題されますので。
掲示板
76 ななしのよっしん
2023/10/01(日) 17:51:16 ID: +QN7AJHnq1
「弗」はたいして難しい漢字じゃないと思うんだが、「弗→厶」と簡略化しちゃったのね、「弗」の方が好きだわ
77 ななしのよっしん
2024/04/20(土) 05:15:59 ID: C6vjO/vbwz
同音異義語の区別と学習コストを抑えることを両立した素晴らしい仕組み。
78 ななしのよっしん
2024/09/14(土) 14:45:36 ID: B4Ty5l2Nmc
「来る」の未然形、「来ない」が表外読みであるという衝撃の事実。
表外読みで圧倒的に一番使われてない??
急上昇ワード改
最終更新:2024/12/24(火) 02:00
最終更新:2024/12/24(火) 02:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。