都会の雑踏で、小銭は意外に拾われない JRの改札内にいた。 所用を終え、帰るところだった。 20㍍離れたところから音がした。 小銭が盛大にばらまかれる音だ。 5円、10円の響きじゃない。 比較的空いている昼下がりとはいえ、ターミナル駅はそれなりの賑わい。 音の出どころへ視線を向けると、男女数人がハッとしたようにキョロキョロしていた。 おそらくその中の誰かが落とし主だろうと踏んだが、どういうわけか誰1人立ち止まろうとしない…。 ばらまく男に…拾う暇人… 吸い寄せられるように、私は歩み寄った。 急いで拾い集めると615円あった。 そういえばキョロキョロしていた人たちの真ん中に、重そうなビジネスバッグを肩から提げた恰幅のいい男性がいた(ような気がする)。 あの人がポケットから切符を取り出そうとして、ばらまいのかもしれない。 音楽でも聞いていて、聞こえなかったのだろう。 おじさんと目が合った。 「