研究「博士論文は書くものではない、編集するものだ」という考えが人文科学系の研究者の間にこれまでなかったとはいえないが、それは3年間という限られた期間での研究成果のまとめとしてではなく、研究人生の仕上げ、畢生の大作としての博論という考えが優勢だったようだ。人文科学系の部局で現在教授職にある方々の中には、博士号を取得していないか、教授就任の直前になって40代後半や50代で所属大学から博士号を取得した方が見受けられる(が、それでも限られた年限の中で博士論文を仕上げてから常勤職についた人はもちろんいた)。研究人生の仕上げとしての博士論文という考え方は、現在では文部科学省も公式見解で否定するようになっている。大学の常勤職採用にあたっては博士号の取得が必須ともいわれている。しかし自分の周りを見渡す限りでは、理念上は何とでもいえるが、人文科学系の博論を準備する側の実態はそれほどすぐには変わらない、という