欠けていた「確実なチェック」 知床観光船事故 監査・検査の穴
北海道・知床半島沖で起きた観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」の沈没事故では、運航会社「知床遊覧船」のずさんな安全管理が次々と明らかになる一方で、国や検査機関によるチェック体制の甘さや課題も浮き彫りになった。事故後、国土交通省は有識者による事故対策検討委員会を設置し、検討委で了承された改善策は7月の中間とりまとめを待たず実行に移す方針を示した。多くの人命を奪った事故の検証を、どう再発防止に生かしていけるかが問われている。【国本愛、木下翔太郎】
事前通告「緩い雰囲気だった」
「監査や抜き打ち検査をしてもなお今回の事故を防げなかったことを、重く受け止めている。どこが足りなかったのか真摯(しんし)に検討し、再発防止に全力を挙げなくてはならない」。18日に開かれた衆院国土交通委員会で、斉藤鉄夫国交相はそう反省の意を示した。
国交省は海上運送法の規定により、旅客船や貨物船の運航事業者に対し、3年に1回程度のペースで定期監査を実施するほか、事故が起きた場合は特別監査も行う。監査は同法に基づく「安全管理規定」を順守しているかなどを調べ、違反が認められた場合、改善報告などを求める行政指導や、事業停止や許可の取り消しを含む行政処分の対象となる。
今回の事故後に国交省が開示した資料によると、知床遊覧船は2021年5~6月にも浮遊物に衝突したり座礁したりする事故を起こし、同年6月に特別監査が実施されていた。その際、出航の可否判断の理由を記録していないなど複数の規定違反が見つかり、行政指導を受けていたという。
知床遊覧船は同年7月、出航の可否判断を記録することや、安全統括管理者と運航管理者を兼務する桂田精一社長と常に連絡が取れること、船との定時連絡を確実に行うことなどを約束する改善報告書を提出。3カ月後には国交省が抜き打ち検査をし、改善状況を確認していた。
だが、今回の沈没事故では、規定で船の航行中は事務所にいなければいけなかった桂田社長は不在で、代理を務める運航管理補助者や船から定時連絡を受けるはずの職員も事務所に配置されていなかった。抜き打ち検査で確認されたはずの通信設備も不十分だった。
さらに、知床遊覧船が改善報告書と一緒に提出した計16日分の運航記録簿で、風速や波の高さがいずれも同じ数値になっていた。知床の同業他社の記録簿は連日同じではなく、提出された国交省北海道運輸局で幹部ら11人が文書を確認したはずだが、そのままにされていた。斉藤国交相は委員会で「記録に不自然な点があったことは認識している。事業者への更なる確認や指導が十分ではなかった」と答弁した。
十分な監査はなぜ行われていなかったのか。国交省によ…
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