このコーナーは、時事通信社の関係団体で、(一社)内外情勢調査会の会員企業がお薦めする各社の商品を掲載します。内外情勢調査会は1954年の設立で、ほぼ毎月、全国100以上の都市で会食付きの会員制講演会事業を展開しています。会員は、企業経営者や中央省庁・自治体の首脳ら6500人。東京の会合には、首相や閣僚、日銀総裁なども登壇することが知られています。
江戸中期の1750(寛延3)年に甲斐駒ケ岳の伏流水に魅せられた初代蔵元・中屋伊兵衛氏が、信州高遠で代々酒造業を営んでいた北原家より分家し、創業した山梨銘醸。甲州街道の宿場として栄えた白州・台ケ原宿の地に今も蔵を構え、甲斐駒ケ岳の花崗岩でろ過された日本でも有数の軟水である白州の天然水で日本酒を醸す唯一の酒蔵である。代表銘柄の「七賢」の名は、5代目蔵元の北原伊兵衛延重氏が母屋新築の際に竣工(しゅんこう)祝いとして、かつて御用を勤めていた高遠城主・内藤駿河守より贈られた「竹林の七賢人」の欄間一対に由来するという。また、母屋の奥座敷は、1880(明治13)年に明治天皇が御巡幸の際の滞在場所である行在所(あんざいしょ)に指定されたことから山梨県指定有形文化財となるなど、長い歴史と伝統、文化を併せ持つ希少な酒蔵としても知られている。
白州の水を体現できる酒造りを
成分のおよそ8割が水という日本酒。山梨銘醸は「地元、白州の水を体現する酒」を哲学とし、白州の水を相性の良い酒造りを追求して吟醸造りの原酒仕立て手法を確立。全国的にも高い評価を得ている。
だが、代表取締役社長であり、13代目蔵元の北原対馬氏は、大学卒業後の3年間、アメリカの酒類輸入会社に就職し過ごしていたが、家業である山梨銘醸に入社するために帰国した2008年ごろは、すでに日本酒市場は右肩下がりの時代だった。地方の酒蔵が生き残るのは厳しいとも言われ、同社の経営も厳しい状況に陥っていたという。
「日本酒の消費量は1973年を100とすると現在は25以下です。ビールやワインをはじめ、蒸留酒、リキュールなど、消費者の選択肢は増えていく中で、プロダクトから変えていかなくてはならないという結論にたどり着きました」と、北原氏は振り返る。
当時の山梨銘醸には、山廃から古酒に至るまで約40種の銘柄があり、商品を絞り込むことで生産工程の見直しを実施。さらに「高付加価値化」と「国際化」をテーマにリブランディングを実施し、製法からラベルデザイン、商品ラインアップの一新など、大胆な改革を次々と打ち出していった。
「こだわったのは、仕込み水に使う地元、白州町の名水。『白州の水を七賢に体現する』ことでした。参考にしたのがワインの世界で使われる『テロワール』(土壌や気候など産地の個性を引き出す考え方)。水と向き合い、そのポテンシャルを引き出す酒造りを志向しました」
成果はすぐに出た。リブランディングから3カ月で販売は増加し、酒質もより上質なものへと進化。その努力が実を結び、2017年に開催された世界最大の市販酒の品評会「Sake Competition 2017 」の「Super Premium 部門」で、「七賢(しちけん)純米大吟醸 大中屋 斗瓶囲い」が見事1位を獲得した。
スパークリング日本酒の開発へ
そんな歴史ある山梨銘醸が「乾杯にふさわしい、世界に誇れる日本の酒を」と、5年もの歳月をかけて開発したのが「七賢スパークリング」である。
「日本で飲まれているアルコールの70%が炭酸を含む酒である一方、日本酒が占める割合はわずか5%。これまで日本酒を飲んで来なかったユーザーにも七賢を届けるためには『泡』が必要でした」と北原氏。
日本酒に発泡性を持たせるには、二次発酵が必要だが、酵母を用いることは難しかった。そこでシャンパンの製法と同様に自然発酵で発泡性を持たせる「瓶内二次発酵タイプ」の製法を採用した。火入れのタイミングや発酵温度、期間などを試行錯誤し、2015年に「山ノ霞(やまのかすみ)」を発売すると、麹の甘味とまろやかな酸味、炭酸とともに香るフルーティーな吟醸香が好評を呼ぶ。その後も、米の旨味と芳醇(ほうじゅん)な香りが特徴の「星ノ輝(ほしのかがやき)」、仕込み水の代わりに七賢を代表する純米酒「風凛美山」でぜいたくに仕込んだ「空ノ彩(そらのいろどり)」、サントリー白州蒸留所のウイスキー樽で貯蔵し、ウイスキーの香りをまとった「杜ノ奏(もりのかなで)」などを次々と発売。瓶内二次発酵という高度な技術に加え、樽熟成や貴醸酒製法による独自の製法は、同社の高度な醸造ノウハウの一つとなっている。
また、21年にはフランス料理の巨匠アラン・デュカス氏と共同開発した食前酒からデザートまで食卓をエレガントに彩る「アラン・デュカス スパークリング サケ」が完成。桜の樽での熟成、貴醸酒製法、軽やかな酸を引き出すための酵母の吟味、瓶内二次発酵など、日本酒製造技術の粋が詰まった、このスパークリング日本酒は、昨年5月のG7広島サミットでも提供された。輸出先も欧州やアジアなど25カ国ほどに広がっている。
「七賢スパークリング」シリーズは、今や売り上げの約2割を占めるまでに成長した。
「生き残っていくための成長戦略の二本柱は、高付加価値化と国際化ですが、創業期から唯一変わらないのが、白州の名水を使った酒造りです。ここが他社との大きな違いでしょうか」
“継承”と“革新”が同居した日本酒造りで、飲む人の感動を醸し続けてきた「七賢」には、異なる個性を持った多彩な酒がラインアップされている。自分の好みに合う味わいを探すのも「七賢」の楽しみ方の一つなのかもしれない。
山梨銘醸株式会社
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