ヤクルトの高橋奎二投手(27)は2024年シーズン、21試合に登板し、115回3分の2を投げて8勝を挙げた。いずれも自己最高。12月12日の契約更改交渉では1000万円増の5800万円でサインした。数字だけを見ればキャリアハイに近い結果を残し、年俸も上がった。ただ、5回を持たずに降板した試合が5度もあり、5失点以上の試合も5度。契約更改後の記者会見では「(球団からは)まだまだこれくらいの成績では、ということは言われた。良い悪いがはっきりしていて評価しづらいということも言われた。先発であれば、ゲームをつくるところをもっと大事にしていかないといけない」。苦しんだシーズンではあったが、21試合の中で飛躍へのヒントをつかんだようにも見えた。(時事通信運動部 安岡朋彦)
転機の7安打7四死球
潜在能力は折り紙付きだ。京都・龍谷大平安高からドラフト3位で2016年に入団した左腕。23年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表に選出された経験も持つ。足を高く上げ、目いっぱい腕を振って投げ込む直球は速くても150キロほどながら、浮き上がるような軌道を描く。調子が良ければ、その直球で球界を代表する強打者をもねじ伏せる。
一方で、ひとたびリズムが狂うと、そのまま崩れてしまうもろさも持ち合わせる。力んでフォームが乱れ、制球は荒れ、大量失点を喫する。
例えば6月13日に行われたセ・パ交流戦のソフトバンク戦。一回に内野安打と2四球で無死満塁のピンチを招き、4番の山川を迎えた場面では直球で三振を奪った。力勝負を挑んだというよりも、ただただ力んでいた。後に高橋は、しゃにむに腕を振る自身の映像を見返して「何でこんなことしてるんだ?」と思ったという。直後の5番近藤には押し出しの四球を与え、あっさりと先制点を献上した。
「自分の気持ちのコントロールもできなくなって、そのまま『エイヤ』で投げていた感じもあった。(山川からは)三振を取ったが、そのあとはそのままの勢いで行って、打たれたりフォアボールを出したりして、結局大量点を取られた」
二回にも押し出しの四球で追加点を許した。四回には3安打を浴びた上に、2四死球を与えて降板。この試合は3回3分の1を投げ、7安打7四死球、5失点で敗戦投手となった。すぐに効果は出なかったものの、この一戦が自身の投球を見直すきっかけになった。
高橋の直球は、スピードを抑えたとしてもファウルや空振りを取ることができる。ただ、力んで体が開いてしまえば、スピードは出たとしても、制球が定まらなかったり、打者にとって対応しやすい球になってしまったりする。
調子が上向いた9月には、こう語っていた。「力まずに投げるのを意識している。しっかり自分のフォームで、正しいフォームで投げるっていうのを意識しながら投げている。(取り組み始めたのは)ソフトバンク戦で投げた以降ぐらいからじゃないですかね」
次の1点をどう防ぐか
6月のソフトバンク戦をきっかけに、力任せの投球からの脱却を図ったが、苦戦は夏場に入っても続いた。
8月。3日の巨人戦で4回3分の0を投げ、10安打(被本塁打3)7失点、10日のDeNA戦も二回途中で6安打4四死球、7失点と試合を壊す。それでも、17日には広島を相手に7回2失点(自責1)、24日にもDeNAを相手に7回無失点の好投した。
17日の広島戦は無四球。直球の球速は、速くても147キロ程度ながら、空振りやファウルでカウントを稼げていた。二回には先頭の坂倉に単打を許したものの、力む様子はなく、後続を3人で抑えた。1-0の四回には末包にソロ本塁打を浴びて同点に追い付かれたが、崩れない。ファウルで粘られた場面があっても、四球を出すことはなかった。
翌18日。高橋は伊藤智仁投手コーチとのやりとりや自身の考えを明かした。
「きょうも伊藤コーチと話していて『0点か100点のピッチングが、ここ最近続いている。平均点の60点、70点の投球を常にするのが長生きするピッチャーだ』と言われた。そういったピッチングができると、おのずと結果も出てくると思う。最低限でもクオリティースタート(6回で自責点3以内)を目指す中で、いい時は7回、8回と投げられると思う。もちろん(100点満点は)今でもずっと目指している。でも、コーチには『そうなってくると、やっぱり1点取られたら苦しいでしょ? お前は全部0点で抑えてやろうっていう気持ちが強過ぎて、それで点を取られた時にそのままガタガタいってしまう。そうじゃなくて、1点取られても次の1点をどう防ぐかっていうのも大事にしながらピッチングをしなさい』ということも言われた」
考え方が変わったからこそ
8月24日のDeNA戦は、持ち味の直球が引っ掛け気味で、キレはいまひとつ。納得できたボールは1球だけだったそうで、空振りはほとんど取ることができなかった。それでも、7回を投げて4安打無失点、3四球。早打ちのDeNA打線の作戦を逆手に取り、変化球をうまく使って凡打を誘った。
二回には味方の失策もあり、1死一、二塁のピンチ。だが、8番西浦を外角低めのチェンジアップで遊ゴロ、続く投手の石田裕も変化球で空振り三振に仕留めた。三回も、失策で1死一塁と走者を出してから踏ん張る。3番佐野は変化球で三ゴロ。4番オースティンには単打を許したものの、続く牧を変化球で遊ゴロに打ち取り、無失点。ランナーを背負った場面で、力んで崩れる高橋の姿はなかった。
「もう、別に点を取られてもいいやって。点取られていいや、って言ったらあれですけど。(四球で)無駄なランナーを出して嫌だなってのはあったし、エラーもあった。でも、そこで吹っ切れて投げられた感じはあった。頭の中の考え方が変わったからこそ、いい方向に結果が出たのかなと思う。今までだったら、そういう(『0点に抑えないと』という)気持ちになっていたかもしれない」
来季10年目、「2桁」目標に
球速よりも「力まずに、正しいフォーム」を意識すること、そして「完璧を求めなくていい」という考えを持つこと-。シーズン終盤の高橋は、この二つを両立しているように見えた。9月14日の巨人戦、同25日と10月2日の広島戦はいずれも6回無失点の好投を見せ、3連勝でシーズンを締めくくった。
プロでの9シーズンで、自己最高の勝ち星は今季と22年の8勝にとどまっている。契約更改後の記者会見では、来季の目標として色紙に「二桁勝利」と記した。
「来年は10年目で節目の年になる。来年こそは2桁勝ちたい。(投手陣を)引っ張っていく覚悟を持ちながらやっていこうと思っている。自分自身にプレッシャーを与えながら、やらないといけない」
2桁勝利を挙げたり、ヤクルトのエースになったりするだけの能力は優に備わっているはず。苦しんだ24年をきっかけに、来季こそ、その才能を開花させるか。期待が膨らむ。