このコーナーは、時事通信社の関係団体で、(一社)内外情勢調査会の会員企業がお薦めする各社の商品を掲載します。内外情勢調査会は1954年の設立で、ほぼ毎月、全国100以上の都市で会食付きの会員制講演会事業を展開しています。会員は、企業経営者や中央省庁・自治体の首脳ら6500人。東京の会合には、首相や閣僚、日銀総裁なども登壇することが知られています。
江戸時代、水運によって発展した東京都江東区・亀戸。下町風情が色濃く残る一方、駅周辺では再開発が進み、新旧の魅力が共存する。
佐野味噌醤油株式会社は1934(昭和9)年、この地で創業した。物資が乏しかった戦後にはイモを混ぜた粗悪な味噌も出回ったが、初代は決して質を下げることはせず、みそ蔵から味噌を集めた。そこには、「正直であれ」という信条があった。さらに極度のモノ不足によって、売り手が強い世相の中でも「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」という言葉に心を込めた。きちんとしたものを丁寧に売る。3代目社長が歴史を受け継ぐ現在も、その信念は変わらない。
ずらりとみそ樽(たる)が並んだ店内に足を踏み入れると、馥郁(ふくいく)たる香りが鼻腔(びこう)をくすぐった。それは、日本人のDNAに刻み込まれた匂いといってもいいだろう。取り扱うのは、北海道から沖縄まで全国の蔵元が製造する個性際立つ70種類の味噌。いずれもじっくりと時間をかけて、発酵・熟成させたものを厳選している。
「各蔵元さんには、さまざまなこだわりがあります。例えば、土用と寒を2回繰り返し、3年近くかけて熟成させる蔵元や、昔ながらのまきを使ってお米や大豆を焚(た)く蔵元もいます。そうしたそれぞれの強い思いをお客さまに伝えたいという思いがあります」
社長の佐野正明氏と二人三脚で同店を切り盛りする夫人の記子さんは、そう話す。心地よい接客にも、創業者の思いが宿る。
「きょうは来てよかった、面白かったと感じていただけるようお客さまにお声掛けし、来店したときよりも少しでも元気になって帰っていただくことを全員で心掛けています」
味噌づくりは絆づくり
諸説あるが、味噌の起源は古代中国の「醤」といわれている。「醤」は鳥獣の肉や魚を雑穀、麹、塩と漬け込んだもの。日本人は肉や魚の代わりに「豆」を選び、日本独自の「未醤(みしょう)」が誕生した。日本古来の発酵文化と、古代中国の「醤」を融合させたことで生まれた。未醤が味醤→味曽→味噌へと変化していったとされる。
約1300年続く歴史を持ち、日本の食文化を支え続けてきた味噌。しかし、不遇な時期もあった。
1970年ごろには「味噌は血圧を上げる」といった誤った情報が通説となり、日本人の味噌の消費量は一気に減少することになる。実は、みそ汁1杯の塩分はわずか約1グラム。現在では、麹菌・酵母菌・乳酸菌という三つの菌の発酵が生み出す多くの栄養成分と健康効果が注目されていることは周知の通りだ。それでも、需要はじわりと減り続けてきた。味噌消費の約9割を占めるのがみそ汁だ。
「かつてお客さまに、みそ汁についてのアンケートを取ったことがあります。すると皆さん、みそ汁には家族の思い出が寄り添っているんですよね。おみそ汁は家族の絆を深めるものだということに気付きました」
そこで掲げた理念が「味噌づくり、絆づくり」だ。家庭の食卓の原風景としてみそ汁がある。そんな日本の食卓を取り戻したい─。
「でも義務になってしまうと、つらくなってしまいますよね。まずは興味を持ってもらって、みそ汁を楽しんでいただけたらと考えました」
10年ほど前には、味噌の魅力を広げる取り組みの一つとして自社の「噌(そ)ムリエ」制度を立ち上げた。内容は味噌の特徴やだし、具材、歴史まで多岐にわたり、社長自らが制作した180ページにも及ぶ教科書で学ぶ。
「社員だけでなく、パートさんやアルバイトさんもチャレンジしています。ペーパー試験で受かったら、社長がお客さま役となっての面接を行います。一度で受かる人はいないほどの難関です(笑)」
海外のインフルエンサーも絶賛
実際に舌で味わうカフェ「味苑」も併設した。みそ汁を引き立てるためのだし、ご飯、おかず味噌など厳選したものを提供するこのカフェで、みそ汁の魅力に開眼する人も少なくない。
店内の一角に設けた「くらべてみ噌」コーナーでは、月替わりで選んだ複数の味噌を小さなカップに入れてお湯を注ぎ、味わうこともできる。「モノ」だけでなく「体験」を提供する仕掛けは、亀戸本店の優位性だろう。かつて倉庫だった2階部分はリノベーションされ、キッチンを備えたしゃれたスタジオに生まれ変わった。
「小学生の夏休みの自由研究や、海外の方からのオファーでワークショップを開催しています」
昨年はニューヨークでもワークショップを行い、大好評を博した。ベジタリアンも少なくない地で称賛をもって迎えられ、集まったインフルエンサーたちがSNSでその素晴らしさを世界に発信した。
こうした取り組みによって味噌の楽しさは徐々に浸透してきたと佐野記子さんは手応えを感じていると言う。現在、本店をはじめとする直営店には日本全国、そして海外からも多くの客が訪れる。
みそ汁一つとってみても、具材が野菜のときは甘味を優しくまとめてくれる白い味噌、個性の強い魚介類やちょっとクセのある具材には赤い味噌を。ほかにも和洋中さまざまな料理の味を引き立ててくれる味噌は、楽しみ方が多彩で奥深い。
「できれば3種類ぐらいの味噌をご用意いただくのがいいと思います。例えば北海道と愛知と沖縄など地方が違うもの、あるいは米味噌、麦味噌、豆味噌と原料が異なるもの、または甘口、中辛、辛口など個性が違うものがいいですね。同じ具材のおみそ汁でも、味噌によって全然違った味わいになります。また、具材によってブレンドすれば無限大に楽しめます。お子さんと一緒につくれば、食育にもなります」
商品はオンラインでも販売され、ホームページではレシピも公開している。
日々の生活や心までも豊かにしてくれる味噌。そのポテンシャルは計り知れない。
佐野味噌醤油株式会社(屋号:佐野みそ亀戸本店)
〒136-0071
東京都江東区亀戸1丁目35番8号
TEL 03-3685-6111