ホンダと日産自動車が、経営統合を含めた検討を進めていることが分かった。自動車業界は、米テスラや中国のBYDといった電気自動車(EV)の新興勢力台頭に、自動運転の進展と「100年に1度」の大変革期にある。EVシフトに出遅れた日本の自動車メーカーは、足元のEV失速と得意のハイブリッド車(HV)の販売好調でひと息ついている状況だが、日産は主力の米国市場で売れるHVがなく、仏ルノーとの資本関係見直しという「悲願」達成後に陥った深刻な苦境から脱却する道筋が見えない状況だった。(時事ドットコム取材班・編集委員 豊田百合枝)
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売れる車がない…、営業益99%減の衝撃
「売れる車がないのだから、どうしようもない」―。2024年7月、本業のもうけを示す営業利益が前年同期比99.2%減の9億9500万円という衝撃的な24年4~6月期決算を発表した後に、日産幹部は半ばあきらめ気味に、こうつぶやいた。
中国市場で急ピッチに進んだEVシフトは、海外メーカーも巻き込んだ値下げ競争に発展し、これまで中国でのガソリン車販売を稼ぎ頭としてきた日系メーカーを直撃。日産も大きな打撃を受けた。
中国EV勢は、これまで日本車の牙城だった東南アジアにも猛スピードで進出。脱炭素化の進展でEV技術を求めていた東南アジア各国政府の心をつかみ、日本のメーカーはここでも劣勢を強いられた。
国内市場も少子高齢化や、若者の自動車離れで拡大が見込めない中、主力市場は残すところ米国市場しかない状況となっている。
HV需要に対応できず
こうした中、欧米先進国で、EVに関心を示す環境意識の高い高所得者層の購買が一巡したこともあり、先進国では燃費も良くEV電池のバッテリー切れを気にせず走れるHVの購入意欲が急速に高まった。トヨタ自動車やホンダは、こうした米国消費者の購買意欲をすくい取り、米国でのHV販売で堅調を維持。当座の利益を確保したことに加え、出遅れたEVを開発する時間も稼ぎつつ、将来本格的に訪れる電動化に向けた研究開発投資を加速する戦略にかじを切った。
一方、日産は、米国でHVを投入することができず痛手を負った。日産のHV技術が、都市部の短距離走行には適しているが、米国のような広大な国土での長距離走行に不向きという事情があった。
また、全世界での新車投入でも出遅れた。金融商品取引法違反の疑いで逮捕されたカルロス・ゴーン前会長時代の長きにわたるコストカットが尾を引いて、目先の採算を重視するマインドが経営層に根強く、いまだに新車開発に暗い影を落としているとみられる。
忍び寄る鴻海の影
日産とホンダは24年8月、電動化の技術開発や車載ソフトウエアの共同研究など、同3月に発表した両社の協業をさらに進める戦略を発表したが、協業の効果が出るのは先の話。日産の経営難への即効薬はなく、9月中間決算でも、営業利益が9割減に落ち込み、全世界で9000人の従業員リストラに踏み切るなど、先の見えない不振が続いていた。
内田誠社長への風当たりも強まり、取締役会の中からは経営刷新や役員報酬返上を求める声も上がっていたという。
関係者によると、今秋には、台湾の電子機器製造大手、鴻海(ホンハイ)精密工業から、日産に資本提携の打診があったとされる。ホンハイのEV部門の最高戦略責任者(CSO)には、日産出身で内田氏とかつて社長の座を争い、同社を退社した関潤氏が就任していた。ホンハイによる経営への関与を避けるためにも、日産側には、ホンダとの提携関係の強化を急ぐ必要があった。
「悲願」達成が目的化
日産の不振の根底には、日産がルノーとの資本関係を見直した後の成長ビジョンを描けなかったことにある。
バブル崩壊後の経営難の際に、日産を救済したのがルノーだった。ゴーン体制の下で進めたリストラ効果で、日産はルノーやルノー株を保有するフランス政府に多額の配当という利益をもたらす打ち出の小づちになった。半面、日産にとって、ルノーからの支配脱却は「悲願」だった。
2023年、ルノーによる日産への出資比率を43%から引き下げ、日産によるルノー株の保有比率と同じ15%にすることで両社が合意し悲願を達成した。
コロナ禍にロシアのウクライナ侵攻、欧州市場での急激なEVシフトと、激変する世界情勢に、ルノー側もまとまった手元資金が欲しいタイミングだった。「ルノーによる日産支配」には、ルノーに出資するフランス政府の意向も強く影響していたが、日産はこの千載一遇のチャンスを逃さずに交渉に全力を傾けた。
両社は、欧州での電動化開発では今後も協業を続け、南米やインドでの協業も進めるとする一方、部品の共同調達は取りやめることを決定。事実上の「協議離婚」との受け止めも広がる中、日産には、次の一手となる成長戦略が求められていた。
しかし、かつての経営再建の過程で生じた複雑な社内政治闘争で、多くの経営幹部が日産を去った。中国での不振に加え、北米でHVの新車が投入できない状況を一朝一夕に打開する策はなく、V字回復に向けた決定打は見いだせていない。
乏しいスピード感
統合協議は、今後、日産が筆頭株主の三菱自動車も交え、持ち株会社の下に3社をぶら下げる形などを模索していくとみられる。3社統合が実現すれば年間販売は800万台を超え、世界首位のトヨタや2位の独フォルクスワーゲン(VW)グループに続く3位連合となる。
経営統合検討が報じられた12月18日の東京株式市場で、日産株がストップ高まで値上がりしたのに対し、ホンダ株は下落。市場は「今回の統合協議を日産の救済策と受け止めた」(市場関係者)ようだ。
電動化に巨額の研究開発投資が必要になる自動車業界では「規模の経済(スケールメリット)」が一定の効果を上げるとみられる。
ただ、自主自立の気風が強いホンダと、長らくルノーや仏政府、経済産業省などの意向が強く働いた日産との企業風土の違いを指摘する声は、業界内に根強い。
事実、これまでの2社の協業の過程でも、日産の意思決定の遅さにホンダの現場担当者がしびれを切らす声が、幾度となく上がっている。ホンダ側は、今後も統合のメリット・デメリットを慎重に検討するとみられ、両社の交渉の過程で、激動の世界市場を生き抜くスピード感を維持できるかも大きな課題となりそうだ。
また、資本関係が薄まったとはいえ、統合に向けては、互いに15%の株式(議決権ベース)を保有するルノーとの関係をどう整理するかも含め、課題は山積している。