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ゼルダの伝説 知恵のかりもの

【ぜるだのでんせつ ちえのかりもの】

ジャンル アクションアドベンチャー
対応機種 Nintendo Switch
発売 任天堂
開発 グレッゾ
発売日 2024年9月26日
定価(税10%込) 7,678円(パッケージ版)/7,600円(ダウンロード版)
レーティング CERO:A(全年齢対象)
判定 良作
ポイント ゼルダが主人公の『ゼルダの伝説』
新旧ゼルダのいいとこどり
カリモノを使ったアクションパズルが面白い
ゼルダの伝説シリーズリンク


概要

Nintendo Switchで発売された、ゼルダの伝説シリーズの完全新作。

直近のゼルダシリーズは、3Dアクションゲームである『ブレス オブ ザ ワイルド』(以下『ブレワイ』)『ティアーズ オブ ザ キングダム』(以下『ティアキン』)が極めて高い評価を得ている。
そんな中発売された本作は、『初代』や『神トラ』等で採用されてクラシックな見下ろし視点が採用されている、いわゆる2D『ゼルダ』の系譜に当たる。

最大の特徴として、日本国内でも発売されるシリーズ作品としては初めてリンクではなくゼルダが主人公を務めることで話題となった*1

開発は有限会社グレッゾが担当している。
これまで過去作のリメイク版や新作の製作補助を行ってきた同社としては初めて、自社でメイン開発を担当する完全新作『ゼルダ』となる。

メインマップ自体は『神トラ』を彷彿とさせるものだが、シナリオ上の明確な繋がりは存在しない、独立したストーリーになっている。


ストーリー

(公式サイトSTORYより引用)

ガノンに捕まったゼルダ姫の元に現れたのは剣士リンク。
激しい戦いの末、見事ガノンを倒したものの、
リンクは謎の裂け目に飲み込まれて消えてしまいました。

神隠し……
広大なハイラルの各地に謎の裂け目が生まれるそれは、
リンクだけでなく、ハイラル中の人やモノ、
そして、ハイラル王やその側近たちまでも飲み込んでしまいました。
残されたゼルダ姫は、父であるハイラル王を、民を
そして、リンクを救うためハイラル中を巡る冒険へと旅立ちます。


ゲーム内容

  • 基本的にはグレッゾが制作したリメイク版『夢をみる島』の流れを受け継いでおり、見下ろし視点のフィールドやダンジョン+特定の場面にて横スクロールアクションのようなマップも存在する。
    • 「パワーブレスレット」「ロック鳥の羽」「ゾーラの水かき」と言った2Dゼルダではお馴染みの習得するとアクションが増えるアイテムは存在せず*2、ゲーム開始直後から物の持ち上げ、ジャンプ、泳ぐことは可能になっている。
    • 2Dゼルダとしては初めてロックオン(いわゆるZ注目)が導入されており、ZLを押すと特定の敵を正面を見据え続ける体勢となり召喚したカリモノ(後述)の攻撃先を指定できる。
  • ナビィやミドナ、ファイといった相棒キャラがいなかった『ブレワイ/ティアキン』とは異なり、久々の相棒枠となる「トリィ」がゼルダの冒険をサポートする。
    • 本作のゼルダは『スマブラ』出演時のような戦闘術は持ち合わせておらず、代わりにトリィから貰ったトリィロッドを介することで物体を複製するカリモノ、物体の動作を同期させるシンクの能力を使うことができる。
  • 本作のハイラルには各地に不気味な裂け目が発生しており、時々黒い魔物が飛び出してくる。トリィの力を借りて一部の場所から裂け目の中に入り、本作のダンジョン的存在である「無の世界」を攻略することになる。
    • 裂け目に取り込まれた地形や人物が上下左右にとらわれず浮遊しているなど、異質な雰囲気を漂わせている。
    • サブダンジョン的なエリアは一度クリアすると二度と入れなくなるが、取り返しのつかない要素は存在しない。
  • 各地には「しるべ」と呼ばれる小さな塔のようなオブジェが配置されており、起動しておくとファストトラベルが可能になる。
  • ストーリーはメインとなる「メインチャレンジ」と、サブシナリオに当たる「ミニチャレンジ」に分かれる。後者は無視しても問題ないが、クリアすることで様々な恩恵を得られる。
  • 『ブレワイ/ティアキン』とは異なりハートのかけらが復活しており、過去作同様4つ集めると最大体力が一つ増えるようになっている。
    • 一方で近年の作品では2Dでも導入されていた「がんばりゲージ」は今回は採用されていない。
    • また水中にもぐることが可能で、『夢島』とは異なり酸素ゲージが存在する。

システム

カリモノ

  • 本作の肝となる要素。ゼルダは倒した魔物やハイラル各地のオブジェクトを「カリモノ」として習得することで、任意のタイミングで生成できる。生成したカリモノを使って仕掛けを解いたり敵を倒すのが主な攻略方法になる。
    • カリモノごとにコストが定められており、強力な魔物やサイズの大きいオブジェクトほどコストがかかる。
      • 初期のトリィは同時に最大コスト3分までのカリモノしか召喚できない*3
      • シナリオ進行やサブダンジョン攻略でトリィのレベルが上昇するとより多くのカリモノが出せるようになるほか、一部のカリモノの消費コストが常時軽減されるようになる。
      • コストを超えてカリモノを出した場合、一番古いものが自動で消滅する。任意で一つずつカリモノを消したり、まとめて全部消すことも可能。
    • カリモノの上にさらにカリモノを配置することも可能。たとえば序盤で手に入るベッドは、1マスずらして複数配置することで階段状の足場にできる。

シンク

  • もう一つの重要な要素で、魔物や自分で出したカリモノなどに対してXボタンを押してトリィを飛ばすと、ゼルダと対象の移動が連動するようになる。
    • 基本的にはゼルダの動きに同期させることで、障害物をどかしたり、敵を穴や水場に落としたり、特定の敵や地面に埋もれている宝箱などを引っ張り出すことができる。
    • また、シンク中にRボタンを押すと逆にゼルダの動作を相手の動きに合わせることができる。
      • これにより移動する床にぶら下がって進む、召喚した魔物に運んでもらうなどでゼルダ単体では突破できない地形を越えることができる。
    • シンク中にゼルダがダメージを受けると強制的に解除される。シンク先の攻撃までは抑制できないので、シンク先との距離や周りの状況には気を配る必要がある。

剣士モード

  • ある程度ストーリーが進むと解禁される要素で、一時的にゼルダがリンクのような姿に変身できる。
    • 変身中は剣を振って攻撃したり盾での防御が可能で、ジャンプの高さも上昇する。また、更にストーリーが進行すると弓と爆弾も使用可能になる。
    • 任意のタイミングで解除できるほか、変身中は専用のエネルゲージを消費し、ゲージが0になると強制解除される。
      • エネルゲージは黒い魔物撃破時のドロップや無の世界に浮いているエネルを入手するか、特定のスムージーを飲むと回復する。収集アイテムである「力のかけら」を消費することでゲージの上限を増加できる。

カラクリ

  • 特定のミニチャレンジの攻略後、カラクリ技師のダンペイからの依頼を受けることで、カラクリの製作・使用が可能になる。
    • カラクリはカリモノとは別枠で管理されており、任意のタイミングで取り出してゼンマイを巻くことで使用できる。
    • ダメージを受けるなどして壊れてしまうと、ダンペイの家に赴いて有償で修理を依頼するまで使用できなくなる。

その他の要素

  • 各地にあるアキンドナッツ店では「スムージー」を作れる。
    • 『ブレワイ/ティアキン』の料理要素を簡素化したようなもので、素材を二つ渡すと素材に応じた回復・バフ効果のついたスムージーを作ってくれる。
    • 失敗作を除いて一度レシピに登録されたスムージーは、ルピーだけで購入することも可能。
  • ストーリーの進行に伴い、様々な服とアクセサリーが入手できる。
    • 服は基本的には見た目が変わるだけだが、一部のものは特定のストーリーイベントの攻略に必要。
      • ごく一部特殊な効果がある服も存在するが、特定の攻撃に対して耐性を得られるような耐久面での性能変化はない。
    • アクセサリーは装備することで特定のパッシブ効果を得ることができる。
      • 初期段階では1つしか装備できないが、特定の場所でルピーを払うことで最大5個まで同時装備できるようになる。
  • ハイラル牧場でのミニチャレンジをこなすと馬のレンタルが可能になり、さらにある程度メインチャレンジを進めた後に解禁される別のミニチャレンジをこなすとゼルダ専用の馬を入手できる。
    • 馬に乗っているときにダッシュすると進路上の敵を蹴散らしてくれる。柵程度の高さなら飛び越えることも可能。
    • 専用馬はカリモノのニンジンを出して少し待つとゼルダのもとに駆け付けてくる。レンタル馬・専用馬の現在位置はマップ上で確認可能。
    • ハイラル牧場では馬に乗って旗を取りつつコースを回る「フラッグレース」で遊ぶことができる。
      • ゴール時間が記録されるが、コースごとに2段階の目標タイムが設定されており、早いほどより良い景品が貰える。
  • ハイラル中のあちこちに置かれているスタンプ台を調べると、「スタンプラリー」に参加することができる。スタンプを5個押すたびに景品が貰える。
    • スタンプマンという謎の人物がスタンプ台およびスタンプを作っているのだが、このスタンプのイラストが「マッチョな8頭身のスタンプマンがポーズをとっている」というシュールなものになっている。
  • カカリコ村では、「ねむり道場」という施設で腕試しができる。
    • 「事前に習得したカリモノは使用不可(修行内でカリモノを習得することは可能)」「回復アイテムやスムージーの使用不可」など、修行ごとに様々な制限が課せられている。
    • こちらもフラッグレースと同様にクリアタイムが記録され、目標タイムが2段階設定されている。
    • 修行は夢の中で行われるという設定で、修行中に受けたダメージ、使用した回復アイテムやスムージー、剣士モードで消費したエネルなどは終了後に修行前の状態に戻る。
  • ゼルダシリーズのamiiboを読み込ませると、すでに入手した服の色違いや、スムージーの素材が入手できる。
  • クリア後は収集要素の総数を確認できたり、とある人物から未収得のカリモノの場所と個数を教えてもらえるようになる。

評価点

  • Switch版『夢をみる島』で好評だったジオラマ風の絵作りは本作でも継続されており、かわいらしいと同時に絵作り上で強烈な個性の確立に一役買っている。
    • 路線が同じとは言えど単なる流用ではなく、木の葉などが風になびく動きが追加されるなどジオラマ調ながらも自然環境を感じられるようになっていたり、南国風だった『夢島』に対して様々な気候・文明の地域が存在したり、多数の新敵が追加されているので、継続して遊んでもしっかり新鮮味を感じられる。
    • デフォルメがかけられたグラフィックと、出したカリモノの「マス」を意識する必要があるパズルゲーム的側面のあるゲームシステムとの相性も抜群といえる。
  • コアとなるカリモノシステムが面白い。
    • 「プレイヤーの行動に応じて随時報酬を与えることでユーザーの楽しさを維持させる」のがゲーム作りの基本だが、本作の場合「敵を倒せばその敵が即戦力になる」という明確かつ大きなリターンがあるため、プレイ中のモチベーションを維持しやすい。
    • 使える魔物・オブジェクトは(一部同性能の物品もあるが)合計100種類以上存在するため、人によって異なる攻略法・戦法を使う余地がある。
      • デフォルメ調ながらも『ブレワイ/ティアキン』のように可燃物を焼却する、浮力がある物体で水を渡る、岩石で即席の壁を作る、風で吹き飛ばす…等のオブジェクトごとの化学・物理的な作用に基づく遊びができるようになっており、最初から決まり切った答えではない自分自身のひらめきで謎を解けたという達成感が味わいやすい。
    • カリモノの組み合わせによっては、普段のジャンプでは登れない足場に登ったり、落とし穴を越えることなども可能。過去作で序盤エリアにあった特定のアイテムを入手しないと取れないハートの器なども、本作では工夫次第で早々に入手できるなど、自由度は高い。
      • 序盤でもカリモノを駆使すれば、その時点では用がない地域へ行くことも可能。いずれ事件は起きるのだが、その前の住人達の様子を視察できる。
    • 寄り道をしてシナリオ進行度と不釣り合いな強敵に挑むことも可能で、こちらもカリモノを駆使すれば撃破→カリモノ化が十分に可能。
  • 歴代『ゼルダ』のいいとこどりをしたようなゲーム体験。
    • ギミックの解き方は『ブレワイ/ティアキン』の無法ぶりを受け継いでいるように見えて、ダンジョンの謎解きをしていく昔のゼルダを踏襲している。
      • 『ブレワイ/ティアキン』の力技でギミックを突破できる仕様と2Dゼルダの型にはめられたダンジョンの仕様がハイブリッドされ、その上でこれまでなかった独自のアクションパズルとして成立している。
    • 特に2Dの新作として見た場合、『神トラ2』で解消しきれていなかったアタリマエの見直しが『ブレワイ/ティアキン』を経由したことで今回ようやく一つの完成形になれたと言える。
      • 『神トラ2』もアタリマエの見直しにより形式上は攻略順は順不同となったもの、特定ダンジョンを攻略するには特定のアイテムが必須かつ仕掛けの解き方は決まっている…というお約束はそのままだった。
        また、初心者でも遊びやすくしようとした結果、手厚い保護をし過ぎてゲーム内容が丸くなりすぎたり、コア層にとっては必要性を感じられないヒント機能などに製作リソースが割かれてしまっているという課題があった。
      • これに対し、本作では一つ一つの謎をどう解くのかという部分をユーザー側の自由な発想に委ねている。
        そしてその謎解き部分はゲームの習熟度や戦略性よりもアナログパズル的な思考と発想さえあれば解ける、という形となっている。まさに長らく取り組んできたアタリマエの見直しがようやく結実できた言えるだろう。
  • ゼルダを主人公としながら、しっかりとリンクも立てるシナリオ。
    • シリーズの途中で主人公交代をしようとする場合、手っ取り早い手段はこれまでの主人公をまるっきり登場させなかったり、無力化させてしまうことである。だが、本作ではきちんと勇者リンクがゼルダと手をとって戦うというお約束をしっかりと守っているため、シリーズ作としての異端さを感じさせない作りになっている。
    • ゲーム開始時の導入の流れが良くできている。プレイヤーが最初に操作をするのは過去作同様リンクだが、リンクは一そろいのハートや装備を揃えた最強状態となっている。
      これによりチュートリアルの「やらされている感」を感じさせないと同時に、初心者でも敵にやられて先に進めなくなるのを防止している。
      • そして最初のボスを倒すとあらすじの通りにリンクが使用不可能となり、能力を持たないゼルダの操作パートになる…という「主役弱体化」の展開が分かりやすく、あからさますぎるゲームの都合を感じにくい。
    • 市井の人間であるリンクに対してゼルダは王族なので主人公として動かすには立場上のしがらみがあるが、これの解決への経緯もしっかりしている。
      • リンクに助けて貰った後城に戻ったゼルダだが、今度は王と重鎮が裂け目に飲まれてしまいその直後に彼らの偽物が出てきてゼルダを拘束する流れとなる。兵士も偽物とは気づかず従わざるを得ないため、ゼルダが城を脱出し孤軍奮闘する…と言った形でゲームでよくある「王族(ゼルダ)が単騎で戦う」ことへの理由付けがしっかりとなされている。
      • その後もハイラルを解放していってもゼルダでなければ無の世界では行動できないため、「そんな要人ならもっと手厚く護衛を率いた方がいい」というツッコミが生じないようになっている。
    • そして、冒険を進めるとリンクが不屈の精神で戦う勇者ということが各地の伝記で伝わるようになっており、これまでとは別角度から見たリンクの強さが実感できるため、こういった形でリンクのキャラクターとしての格を落とさないシナリオ構造になっているのは過去作ファンからも好評である。
      • 「リンクがしゃべらない」といういつものお約束も、本作の世界観設定からの理由付けがちゃんと行われている。
    • また終盤においては…
      + 終盤のネタバレ
    • ラスボスを倒すために最終ダンジョンに向かう際、無事に救出されたリンクと共闘することになる。
      • ずっと捕らえられていたにもかかわらず、先陣を切ってバッサバッサと敵をなぎ倒していくリンクの姿は実に頼りになる。
      • またリンクが足止めを喰らっている状況で、ゼルダがカリモノを使ってサポートしなければならない場面もあるため、「本当に共闘している」という感覚を味わえる。
      • ちなみに、最終ダンジョン攻略中に限りゼルダの剣士モードが使用不可になる(リンクに装備一式を返却するため)。最終ダンジョンは入ると戻れなくなるがセーブ不可(やり残しなどがあっても突入直前から剣士モードを使える状態でやり直せる)、またエンディング後は再び剣士モードを使えるようになるので問題はない。
  • 相棒キャラであるトリィもかわいらしくキャラが立っている。
    • 最初は種族の違いから人間の感情をイマイチ理解できていないが、冒険を経て徐々に人々との触れ合いで心に目覚めていくという、この手のキャラの王道とも言える筋書きになっている。人間を理解できないが故の無神経さを感じさせる発言も皆無。
    • 今回は普段しゃべって話を回すポジションのゼルダがプレイアブルキャラなので実質的に代弁者兼シナリオの現状をまとめてくれる役となっており、出番も多いため愛着も湧きやすい。
    • 一方で過去の相棒枠であった「敵や特定の仕掛けをロックオンすると攻略ヒントを与えてくれる」「一旦話しかける必要がある相棒側の特殊能力」はなく、システム面でゲームプレイが止まらずプレイテンポを保てるように調整されている。
  • 気づくと楽しいファンサービス要素もあちこちに仕込まれている。
    • フィールドマップは『神トラ』をベースにしただけでなく、同作でアイテムやイベントが配置されていた場所は本作でも何かしら配置されているなど、プレイ済みであれば思わずニヤリとできる小ネタがある。
      • 「『神トラ』にいなかったゲルド族や海ゾーラが何故本作では出るのか」という疑問が生まれそうな点に関しても、そうした種族の居住地域は本作で新たに拡張された『神トラ』のフィールドの外側のエリアにあったという形を取っており、うまく後付け要素と整合性を取ることにも成功している。
    • さらにグレッゾがリメイクを担当した『時のオカリナ』『ムジュラの仮面』を彷彿とさせるネタや、ピックアップされるのが非常に珍しい『木の実』の要素もあり、総じてシリーズファンであればあるほどネタに気づいて楽しめる作りになっている。
  • 楽曲面もSwitch版『夢島』の流れを受け継ぎ、木管楽器を使ったアンサンブル調の優しい楽曲が多い。
    • 2Dゼルダは『時オカ』後も携帯機でのリリースされていたことも意識してか、チップチューンを導入したりと本作も「携帯機のゼルダ」という系譜を感じさせる。
    • ゼルダが主役ということもあって、定番の「ゼルダ姫のテーマ」及び「ゼルダの子守唄」のフレーズは特に効果的に使われている。
    • 一方で街の曲などは「楽器や構成は他作品と近しい物を使いつつもあまりフレーズを丸々使うような直接的なアレンジにはしない」という傾向になっており、どこか既視感もありつつも新鮮味も味わえるように工夫されている。

賛否両論点

  • あくまで『神トラ2』の中盤以降や『ブレワイ/ティアキン』と比較した場合の話ではあるのだが、順序の流れがあるシナリオ構造に戻ったこともあり、攻略順の自由度に関しては制約ができた。
    • 序盤エリアを抜ければ後は完全自由だったこれらの作品とは違い、本作は必ず順序通りにフラグを立てて進行する必要がある。
      • 一応メインストーリーイベントでは同時に複数の目的地が提示され「どちらから攻略するか」という場面はあるので、完全な一本道ではなくプレイヤーごとにカリモノの習得順による攻略法の違いが生じる余地はある。
    • 上記の通りカリモノの組み合わせの自由度は高いのだが、ダンジョン内では高さの制限があってギミックをすっ飛ばせない場面がある。
      • 『ブレワイ/ティアキン』だと特定の動作が制限される祠の中で必ずしも想定された仕様とは言いにくいテクニックを使い強引に突破する余地があったが、こうした裏技染みた攻略法には一定の制限がかけられている。
  • カリモノの一部には、組み合わせ次第でギミックを非常に簡単に突破できるものがある。
    • メガドンや床ビュンなどが該当。また「地形の踏破性の高いウォールチュラにシンクすると容易く高台を登れる」というテクニックは、どのように登るか考える場面にてこれ一択と言っていいほどの汎用性がある。
    • 組み合わせの中でも特に「ベッド+トッピューで大ジャンプする」は極めて強力で道中の謎解きや敵との戦闘をかなりショートカットできてしまう。
      • とりわけ複数の浮島を渡り歩いて進む無の世界にてせっかくのマップギミックが完全無視できてしまうので、縛らない場合は当該場面でのゲーム体験があっさりとしたものになる。
      • ちなみにスタッフインタビューにてディレクターの寺田氏は「チェックチームは気づいたかもしれないが空を飛べることを許容するよう伝えたために、報告が上がらなかったのではないか」という旨のコメントしている。
        寺田氏個人としてはこの組み合わせについて把握していなかったとのことだが、開発スタッフ内では「大幅にギミックをパスするような事態が起こってもいい」との認識があった模様。
  • 評価点の裏返しではあるのだが、自由度の高さ故に明確な一つの正解が用意できないためか、システムレベルでのヒント機能は用意されていない。「詰まったら手当たり次第にカリモノを乱発する」という流れになりがち。
    • カリモノできる敵の中でもメガドンは攻撃が通る箇所が狭いため、習得できないと思いがち。ただし習得しなくてもクリアは可能である。
    • 特にラネールの神殿は終盤に訪れるダンジョンだけあってギミック・ボスを攻略するには頭をひねる必要がある。
    • ラネールの神殿のギミック「4つの燭台に火をつける」は横視点のエリアなのだが、その燭台のうちの1つはあまり行わない操作を求められる。
      + 燭台の攻略方法
    • 鍵となるのはすぐ近くにある冷気の噴射口なのだが、それで水のかたまりを凍らせるという考えには至ってもただ水のかたまりを積み上げたりシンクを使ったとしても絶対に届かない。
      • 正解は「ゼルダが上を向いた状態で水のかたまりを噴射口まで飛ばす」という方法。しかし、カリモノを遠くに飛ばす方法は覚えていたとしても、ここまでのプレイで横視点の状態でゼルダを上に向かせることを求められる状況は一切ない。
      • 厳密にはこの後キャンゾルを燭台まで運ぶ必要があるが、上にカリモノを飛ばせる発想を思いつければ難しくはないだろう。
    • ラネールの神殿の中ボスは、倒し方にプレイヤーの発想の転換が求められる。
      + 中ボスの攻略方法
    • この中ボスはただ攻撃するだけでは全くダメージを与えられない。鍵となるのは意味深な赤い部位と天井からの落石……ではなく、カリモノの冷気で凍らせてから攻撃するのが正解。
      • ここまでのボス戦では部屋にある何かしらのギミックやカリモノが攻略の鍵となるが、この場面ではそれまでのプレイから得た経験に固執しないことが求められる。
      • このダンジョンは言わば氷の神殿で、「氷のダンジョンの敵に氷属性の攻撃は効かないだろう」という先入観が植え付けられがち。
        • ただし、旧シリーズでは「そのダンジョンで入手した新アイテム/能力がボスに有効」というのはある種のお約束だったので、シリーズを通して遊んでいるプレイヤーならば氷系の魔物が有効なのではないか、という発想に比較的至りやすい。そうでなくても時間制限などはなくカリモノを片っ端から試す余裕はあるため、いずれ気づく余地はある。

問題点

  • カリモノ選択欄のUIが使いづらい。『ティアキン』の素材選択のような、あらゆるカリモノが横一列に並ぶUIになっている(一応メニュー画面でカリモノが縦横に並んだリストから選択することも可能)。
    • 効果が類似したオブジェクトや特定のダンジョン専用の物品まで表示されるので、カリモノが増えてくると目当ての物を探すのに手間取りやすい。
    • 一応入手順・使用回数順・コスト順などのソート機能はあるのだが、それとは別にいわゆるお気に入り機能(任意のカリモノを別枠で表示したり、即座に使用したりできる機能)が欲しかったところ。
    • スタッフによるとこのUIの仕様は意図的なもので、「あまり使っていないカリモノを改めて目に入れてもらうことで使ってもらうことを目的としている」とのこと。しかしプレイの快適性を損なわせてまで導入すべきだったかは疑問が残る。
  • 練り込み不足感のあるカラクリ。
    • カリモノの魔物が常時即座に無尽蔵で召喚できるのに対し、「耐久値があり壊れたら修理必須」「戦闘中に無防備な状態でねじを巻く必要がある」という欠点がある。
      • 攻撃範囲や動作で魔物との差別化はできてはいるのだが、上記の理由から使いづらさが気になる。
        修理キットなどで出先でもゼルダ自身で直せたり、そもそも壊れないようにする、あるいはカラクリもカリモノにできるようにして欲しかったところ。
    • ダンペイに関わるミニチャレンジのスタート地点が草原のド真ん中という、攻略状況によっては見逃しかねない位置にあるため、シナリオだけ追っている場合そもそも気づかないままエンディングに到達することもある。
      • 攻略に必須ではないため、「カラクリ絡みの要素を強制させられない」という点である意味自由度はある。
  • 乗り物の馬が使いづらい。
    • 騎乗時の挙動が小回りが効かず、ダッシュしてもそこまで速くならない。呼び出した際にも瞬時に来てくれるわけではない。
    • カリモノのタイマーカッターや床ビュンなどが即座に出せて馬より高速で移動できる上に、『ブレワイ/ティアキン』同様立体的な動きについて来れないため使える場面はかなり限定的。
      • そもそも攻略が必須でないミニチャレンジでの入手ということもあり、カラクリと同様にクリアまで馬の存在に気づかないプレイヤーもいた。
  • 一部のミニゲームは途中でやり直すことができず、「目標を達成できない」と判断しても最後まで進める必要がある。
    • 特にフラッグレースは上記の通り馬の挙動に癖があって難易度が高く、ねむり道場は修行終了→再度修行開始までに時間がかかるため、リトライの度にストレスが溜まりやすい。

総評

2024年になって現れた伝統的な2D『ゼルダ』の最新版。
グレッゾによるシリーズへの理解度と同社開発陣が産み出した本作ならではと言える独自の持ち味により、「脈々と受け継がれてきたシリーズの魅力」「アタリマエの見直し後の自由な発想の実現」「シリーズの前例にないゲーム体験」という三つの要素が見事に一つのゲーム体験として調和している。

ゼルダが主人公というともすれば異端ともとられかねないファクターと、カリモノを用いた新しい遊びという二つの新境地に挑みながらどちらも破綻無くまとめ、シナリオとシステムがそれぞれの必要性から融合しきった本作は、シリーズファン・新規層双方にとってまさしくゲームでしか味わえない感動を享受できる作品となっている。


余談

  • 本作はシリーズで初めて、初代『ゼルダ』の製作者である宮本氏の名前がスタッフロールから外れている。
    • 『ブレワイ/ティアキン』ではまだ宮本氏がプロデュース業やごくわずかながら監修を行っていたが、本作ではついに完全に宮本氏の手を離れたらしく、明確な世代交代がなされた作品となった。
  • 公式サイト掲載のスタッフインタビューによると、本作は「ゼルダ姫が主人公」ありきで作られたものではなく、当初はいつも通りリンクを主人公として開発が進められていたという。
    • 本作のコアとしてカリモノのアイデアが採用された後、「剣と盾がある限り結局それに頼ったいつもの『ゼルダ』のアクションになってしまい、せっかくのカリモノが有効活用されない」という課題に直面。遊び方をカリモノに振り切るために思い切って剣と盾をほぼ全面的に廃止*4することになり、このスタイルによりふさわしい「剣も盾も使わない」主人公としてゼルダが抜擢された。
    • 細かいキャラクター設定よりも常にゲーム性を優先するゼルダシリーズらしい経緯ではある。
  • 序盤に偽の国王によってゼルダはお尋ね者となるのだが、その際にさっぱり似てないシュールな似顔絵が描かれたゼルダの手配書が張り出される事になる。
    • それだけならゲーム内の事として片付くのだが、なんとこの似顔絵をプリントしたトートバッグやTシャツが、公式からリリースされている。
  • 2024年11月26日に、公式サイトのHISTORYが更新された。本作の時系列は『時のオカリナ』で勇者が敗れたルート(『神トラ』『夢島』などのルート)のうち、ハイラルが衰退する直前に位置する。
最終更新:2025年01月12日 00:03

*1 厳密には海外にて1993年に発売されたCD-i向けソフト『Zelda: the Wand of Gamelon』が初であるが、任天堂自体は開発に関与していない(キャラクターの使用許可を与えたのみ)ためノーカウント扱い。

*2 厳密には本作でもアクセサリーとしてゾーラの水かきは登場するが、別効果になっている

*3 コスト1の魔物・オブジェクトを3個、コスト1とコスト2を1個ずつという出し方も可能

*4 「とはいえやっぱりいつもの『ゼルダ』らしいアクションもやりたい人はいる」ということで追加されたのが剣士モードである。