わるい王様とりっぱな勇者
ジャンル
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RPG
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対応機種
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Nintendo Switch プレイステーション4
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発売・開発元
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日本一ソフトウェア
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発売日
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2021年6月24日
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定価
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7,678円(税込)
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レーティング
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CERO:A(全年齢対象)
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判定
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なし
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ポイント
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『嘘つき姫』スタッフによる精神的続編 世界観・ビジュアル的な部分は引き続き好評 その分前作とは別ベクトルの大問題
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概要
2018年に日本一ソフトウェアより発売され好評を博した『嘘つき姫と盲目王子』の開発スタッフが送る完全新作。
前作同様ストーリーの合間合間で朗読パートが入る絵本的なつくりが特徴。
ただし、『嘘つき姫』のジャンルが2Dアクションゲームだったのに対し本作はRPGへと変更された。
ちなみに『嘘つき姫』とはストーリー的な繋がりはなく、本作のみで完結する話となっている。(唯一雑魚敵の「たぬき」のデザインのみ流用されている)
ストーリー
これは、ここではないどこか、いまではないいつかの物語。
石造りの城壁に囲まれた街で人々が暮らし、森や山には魔物たちが棲んでいる。
そんな、すこし不思議な世界でのお話です。
魔物たちの国にはひとり、人間の女の子「ゆう」が暮らしていました。
ゆうは魔物たちの王様である「王様ドラゴン」の元で
今は亡きパパのようなりっぱな勇者になるため、毎日修行の日々を送っています。
一日が終わり、王様ドラゴンと一緒に寝床についたゆう。
ゆうは眠る前にいつもパパである勇者のお話をしてくれるよう王様ドラゴンにせがみます。
王様ドラゴンが語ってくれるかつて世界を支配した魔王を勇者が倒したお話はゆうの大のお気に入り。
お話のようなわるい王様を倒すりっぱな勇者を夢見て、今日も眠りにつきます。
でも、ゆうは知りません。
かつて父親が倒し、ゆうも倒さなくてはならない魔王は、王様ドラゴンその人であることを―――。
これは、いつか君に倒される物語。
特徴
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ゲーム内容としてはジャンルが変わったこと以外は前作を踏襲しており基本的にリニアタイプのRPGパート+ストーリーが進行する場面で朗読劇調のアドベンチャーパートとなる構成になっている。
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RPGパートは二人制PTとなっており、主人公である「ゆう」のみ固定で、もう一人の同行者はストーリーの進行に伴い順次入れ替わる。
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また、『嘘つき姫』からの変更点として各地に友好的なNPCが配置されており特定のNPCからはサブクエストである「ゆうのひとだすけ」が受諾できるようになった。
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戦闘システムはオーソドックスなターン制バトル。
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体力と気力の概念があり、当然ながらこちらの体力が0になるとゲームオーバーになる。気力はMPのようなもので、各自のとくぎを使用する際に消費する。
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ボスや一部の特殊な魔物を除く敵には「特定の属性のとくぎを受ける」「カウンター狙いの行動が失敗してしまう」などの個別の「弱み」が存在し、「弱み」に対応する行動をするとへろへろ状態(1ターン行動不能かつ防御半減)にできる。
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この時にゆうのとくぎ「見逃す」を使うと敵が逃走するが、経験値はもらえない。
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ただし「見逃す」を行った際にはアイテムのドロップ率が撃破時よりも大幅に上昇する。
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フィールドはベルトスクロールアクションゲームのような高低差のない横長のエリアが無数に存在し、それぞれエリアの両端ないし途中の接続ポイントでのみ行き来できるような形になっている。
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非戦闘地域を除く各エリアは特定のレベルに到達しないとダッシュができない。
評価点
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前作に引き続き絵本的な世界観・独創性のあるのグラフィック・朗読などは好評。
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まず第一に好感を抱くのが「本」を意識したUI(ユーザーインターフェース)。
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いかにもゲーム的なデジタルで無機質なものや逆にスマートフォン向けアプリで見られるカジュアルすぎるものでもなく、シックなエスニック感が漂う実際に手に取ってみたいと思えるような仕上がりになっている。
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空いたスペースには紋様が描き込まれており全体的に「丁寧な装丁がなされた本」という印象を受ける。こうした作品全体を通した雰囲気作りを、まずはプレーヤーが何度も目にするUIから行っているところに、スタッフのこだわりを感じられる。
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『嘘つき姫』は予算や開発チーム内でのノウハウ不足の影響か動画枚数が少ない部分もあったが、今回は前作と比べると各キャラの動き・表情や背景及び戦闘アニメのエフェクトなどのアニメーションが強化され、より生き生きとした表現になった。
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登場人物が少人数でコンパクトな世界観だった前作から舞台が変化したことでサブ・敵・モブキャラが大幅に増えたが、いずれもかわいらしくも他のゲームで見ないような独自性のあるデザインで、前作に続き企画の中心人物である小田氏のセンスが発揮されている。
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特に雑魚敵である魔物がキュート。色変え雑魚もなるべくパーツを足して別物になるよう努力はしている。
また、あるタイミングで作品の雰囲気がガラッと変わるイベントが存在するのだがその際には出現敵もおどろおどしい物が出現するようになっており、引き出しの広さを感じる。
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前作に続き近藤玲奈氏の朗読も作品に彩りを加えてくれている。
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コミカルな場面や穏やかなシーンが増えたのもあって演技全体も「子供への読み聞かせ」のような柔らかい印象を受けるものになっており、優しい世界観にとても合っている。
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心を打つストーリーと好感の持てるキャラクターたち。
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普通のRPGならば最初は弱かった主人公が強くなって強敵を倒し観客はカルタシスを味わえる…となるわけだが、本作の場合ゆうが成長すればするほど王様ドラゴンとの「その時」が来てしまうことが冒頭よりプレイヤーに突きつけられているため、「この先どうなってしまうんだろう?」と不安になりつつも先を読み進めたいという気持ちにさせてくれる。
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ゆうのキャラクター性も昨今では珍しい位の純真そのもので、誰かが困ればすぐさま無償で助けようとする「りっぱな勇者」そのものな姿は見ていてこちらの心が洗われる。
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そしてそんなゆうが過酷な試練を目の前にして果たしてどうなってしまうか?というのが詳しくはネタバレになるので語れないが、見所がある展開となっている。
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仲間となるコンコ、サカサ、フローラもそれぞれごく一般の魔物・王の家来・人間のお姫様と三者三様の立ち位置になっており、(若干コンコの出番は後の二名に劣るものの)「善意の広がり」という作品のテーマ性を語る上で欠かせない存在である。
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この三名や敵となるキャラ含め多くの人物が、各々の悲劇や失敗・心の弱さを受け入れ前に進むというストーリーなのも本作の印象的なポイント。
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これらの構図は隠し事をしており最終目的の解決に動いているのが主人公側という前作の構図から正反対の構図となっている。
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前作は姫と王子の二人の絆という一輪の花が咲いたようなミクロな幸せが感じられる話だったが、これに対し本作はゆうたちの行動のおかげで世界そのものが良い方向に進んでいくという大樹の蕾が膨らんでいくような大きな広がりとなっており、前作が好評だったとは言え単なる焼き直しに留まらないストーリー性をきっちり作り込んでいると言える。
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温かく優しい雰囲気のサブクエスト
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サブクエは所謂おつかいものだが、本作に限っていうとむしろゆうの性格や世界観にマッチしており、一概に悪とも言えない。
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日本一ソフトウェア作品のメイン・サイドストーリーはダークな物やひねくれた結末に至ってしまうことも少なくないが、本作のサブクエはゆうの介入により状況が好転する物や希望が残るような小話となっており(もっとも日本一らしく「過程の重さ」はあるにはある)、人助けして素直によかったという感情を抱きやすい。
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依頼人たちも全員が全員第一印象がいいとは限らないが、ゆうの持ち前の明るさやその行動に感化され良い方向に進んで行ったり、クエストが進行するにつれ意外な一面も見せたりと最終的には誰もが好きになれるような造形となっている。
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そして最初はそれぞれ別々のクエストだが、最終的には一本の大きな流れに集束していく。本筋とは別のもう一つの裏ストーリーとも言える奇麗な構成になっており、実にお見事。
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サブクエストを全て攻略した状態でラスボスを撃破するとエンディング前に特殊操作パートが入り真エンドと言った雰囲気になる。後述の通りクエストアイテム回収のための移動が骨が折れる仕様となっているのだが、本作を買ったならばぜひこちらも頑張って全攻略して欲しいところ。
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音楽も前作に引き続き好評
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こちらも前作同様株式会社ジーアングルとシンガーソングライターの志方あきこ氏が楽曲提供を行っている。
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特に志方氏のボーカル入り楽曲は今回は3曲に増えた。
タイトル画面からプレイヤーを一気に世界観に引き込む「星のヨスガ」、多重録音+造語を用いた民族音楽調の挿入歌「Txilrcka」、最後を飾るエンディング曲「まなざしは光」と3曲いずれも志方氏の作風と本作のストーリーが見事にマッチした楽曲となっている。
賛否両論点
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RPGパートに関して
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RPGの戦闘システムが良く言うと王道的、悪く言うと個性に欠ける。
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一昔どころか二昔前のターン制バトルで独自性が薄い。近年の旧作移植版やスマホゲーで見られるバトルスピードの高速化もないためテンポもいまいち。
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ただしバランス調整自体は悪くなく、雑魚戦は簡単だがボス戦はそれなりに苦戦する程度とほどよくまとまっている。
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ダメージ量の数字が小さく極端なパワーインフレはしない。このため先の展開を読んだ行動がしやすく、レベルアップによる強化やバブ・デバフがしっかり発動しているのが実感を得やすい。
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レベル上昇に必要な経験値が特定の倍率で急に跳ね上がる変わった仕様がある。
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次の章へ進めば取得経験値も倍になるためストーリー優先でプレイするぶんには大した影響が出ないが寄り道などをしているとレベルが上がらなくなり退屈になることも。逆にいえばサブクエストで寄り道し続けてもバランス崩壊しにくい仕様になってる。
問題点
牛歩ゲー
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評価すべき点は多い一方、本作にはそれらを打ち消すほど重大な問題点がある。それが「移動」である。
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マップの広さに反してとにかくゆうの移動速度が遅く、「デフォルトでダッシュの早さでいいのではないか」と思う程。
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そのダッシュが解禁されるレベルが高すぎる。概ね「次の次の章」の適正レベル程度に上がっていないと走ることができない。
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また、Switch版に限り「斜め方向にダッシュできない」「次のマップへの切り替え可能範囲が狭く、数歩程度ではあるが余計に歩かされる」という謎の差異が存在する。
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全体的なマップの構造も、まっすぐ進めば済むところを大回りするようなルートになっていることが多い。
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メインシナリオ内においても(理由付け自体はあるが)一回来た道を戻ってから再度進ませたり、短いルートの方が通れず迂回させられたりと、「意図的にプレイ時間を稼ぐためなのか」と邪推されかねない展開が見受けられる。
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移動周りが以上のような問題を抱えているため、余計なエンカウントはなるべく避けたくなるのだが、エンカウント抑制アイテムである「魔物よけの香」に関しても問題がある。
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この「魔物よけの香」、強い敵が出続けるのはともかくとして、ポケモンの「むしよけスプレー」のように弱い相手が全く出なくなるというわけではない。
アイテムを使っても、一撃で倒せるような極端に弱い敵が1~2体だけというどう考えても強さがかけ離れている構成も出続けるため、結果的に無駄なプレイ時間を増やす一因になっている。
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使い勝手の悪いファストトラベル
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序盤以降「泉」を介すことで各地に自由に移動できるようになるのだが、どの泉も人里の隣のマップや僻地に行くまでの「道中」に設置してあるため、目的地までは結局歩いていく羽目になる。
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特にどこからでも拠点である魔物の村に帰還できる「ふしぎなパンくず」で帰ってくるポイントと、泉があるエリアが同一マップではないのが厄介。
出先でサブクエの目標を達成して魔物の村以外に報告しに行く場合、目的を達成する→メニュー画面でアイテム欄を開き、パンくずを選んで魔物の村に帰る→15秒ほど歩き、画面切り替えを挟んで泉のあるエリアに行く→泉から更に別の泉にワープしてそこから歩いていく...というまどろっこしい流れを何度も何度も行う羽目になる。
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泉は基本的に村の近くに設置してあるのだが、中盤に訪れる「蜜クマ族の村」に限り何故か存在しない。なのだがサブクエストでは蜜クマ族の村及びその周辺を訪ねないといけないものが複数存在するため、クリアしようと思ったら徒歩での長距離移動を強いられる。
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素直に「パンくずを使うと(蜜クマ族の村含め)任意の目標地点まで即ワープ」ではいけないのだろうか?
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ゲーム終盤は、これまでゆうに同行してきた3名の仲間を入れ替えられるようになるのだが、わざわざゲームのスタート地点まで戻らないと入れ替え出来ないようになっている。
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このためちょっと仲間を入れ替えたいと思ったら、泉のある場所に行って上述の流れをやらなくてはいけない。こちらも一般的なRPGのようにメニュー画面で入れ替えではいけなかったのだろうか。
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機種ごとにそれぞれ異なる動作の不安定箇所が存在する。
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Switch版は処理落ちが頻発する。
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特にエリア移動時に「内部的には切り替わっているが描写が追いついていない」ということが起こりやすく、画面の暗転中にAボタンに触れてしまうと知らぬ間に元のエリアに戻っているということが起こりがち。
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逆にPS4版のみの現象としてマップ切り替え時にフリーズ・エラー落ちが発生する可能性があることが挙げられる。
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Switch版も稀に処理が極端に重くなること自体はあるが、その場合も時間はかかるが最終的には復帰する。このため全体的な快適度自体はPS4版が上だが致命的なエラーが起こりやすいのもPS4版という、どちらのハードでも問題点があるという事態に陥っている。
総評
公式の宣伝文句である絵本を旅するRPGという言葉には嘘偽りなく、絵画的な世界観にキャラクターと楽曲が調和しており、小田氏の創る魅力的な作風は引き続き健在と言える。
ストーリーに関しても前作とは違う切り口から物語を語ることに成功しており、前作とはまた異なる味わいの良さがしっかりと感じられる話となっている。
が、とにかく移動が辛い。単なる調整不足などでこうなったというわけではなく「意図した時間稼ぎだろう」と思わせてしまうような出来にまで陥っており、擁護のしようがない。
総合的に言うと「ゲームとして面白いか?」と聞かれると答えに窮するが、「最後まで遊んで良かったか?」と聞かれれば間違いなく良かったと言える作品。
購入を検討しているのであれば、いくつか優れている点さえあれば他の明らかな欠点があっても目を瞑れるという人にだけ勧めたい。
最終更新:2022年06月12日 17:03