「職場の引っ越しで処分するから……」と渡された物体、何じゃこりゃ――。いや思い出しました。小学生の頃、同級生が似たような物を持っていました。確かに、何かは写っていましたが、多重露光やフィルム送りで失敗ばかりだったような。金の無駄? いや、突然、“背中のヤリガイ”が成長してきました。私はこの物体に、「リクルート」されたわけですね。(意味不明だと思う方は、「ヤリガイ」&「リクルート」で検索してね!)【中村琢磨】
あれこれ触ってあぜんとしました。ピントが“無限に固定”なのはともかく、シャッターが日中用と、長時間露光用でシャッターが開きっ放しになるB(バルブ)の2種類だけ。日中用は勝手に50分の1秒ぐらいだと仮定したけど、実際はもう少し遅いかも。
今度は、絞りを見てぼうぜん。「晴天用」「曇天用」「モノクロ専用黄色フィルター」の3種類。たぶん「晴天用」はf16-22、「曇天用」はf11、「モノクロ専用黄色フィルター」の絞りは曇天用と同じでしょうかね。
「露出」の組み合わせはわずか6種類。あとは現像時間で感度を調整するか、レンズにフィルターをあてて合わせるのか……。何とも頭を使わせてくれる玩具、否、写真機です。
あっそうか! バルブがあれば、大体8分の1秒でも、大体2分の1秒でも、約30秒でも撮れるじゃないか! 夜景なら簡単に撮れそうだ。絞りは「晴天用」にした方が、被写界深度が深くなってきれいだろう。レンズの焦点距離は、100ミリぐらいかな? 条件さえ整えれば、フィルムサイズが大きい分、画像は意外に滑らかそう。頭をフル回転させながら明治神宮外苑周辺に繰り出しました。
終わってからインターネットで調べてみたら、「絞りはf22とf12、シャッタースピード40分の1秒、焦点距離90ミリ」と解説したサイトを見つけました。どうやら、この値がほぼ正解みたいです。
でも、まあ、問題ないでしょう。ちゃんと写っているじゃあ~りませんか! このアバウトさこそが、クラシックカメラの魅力です。
撮影機材
Agfa SYNCHRO BOX(アグファ シンクロ ボックス)
1950年代、ドイツで作られたブローニーフィルム使用の6×9判(8枚撮り)。フィルム送りは裏窓から見える数字に合わせて手巻きです。縦、横撮影用に二つのファインダーがあります。目玉がいっぱい並ぶ姿が少し滑稽(こっけい)ですね。