街で見かける機会が増えた電気自動車(EV)。その動力源であり、最も重要な部品が電池だ。現状は性能に課題が多いが、ある画期的な技術が実用化できれば、EVがクルマの主役を奪うのではないかと期待されている。さまざまな国や企業が研究開発に取り組んでいるものの、まだまだ先になりそうだ。EV以外でも鍵を握る「夢の電池」。何がハードルなのか。
産業用機械向けは量産開始
指先に乗るほどの約1センチ四方、厚さ数ミリの金属製の部品。2023年6月に出荷が始まった小さなパーツは、世の中を一変させるかもしれない可能性を持っている。
これが電池大手マクセルが開発した産業用機械向けの「全固体電池」だ。充電と放電を繰り返せる蓄電池の一種で、電極と化学反応を起こして電気を生み出す電解質が全て固体になっている。
現在のEVやスマートフォンで主流のリチウムイオン電池は、電解質に燃えやすい液体を使っている。衝撃で発火する恐れがあり、温度変化に弱い。
全固体電池はこうした弱点を克服しており、真冬の猛吹雪でも、気温40度を超える酷暑でも性能が落ちにくい。電池が発する熱を逃がす装置を省略でき、小さくても多くの電気をためられる。繰り返し使っても容量が劣化しにくい。
約1センチ四方の全固体電池にはスマホさえ動かす力はない。だが、105度の高温でも氷点下50度でも使えるうえ、高温下でもためられる容量を10年以上も維持できる。
そのため、従来型の電池を使えない高温下で稼働する機器や、人手不足で電池交換の負担を減らしたい現場に向いている。産業用ロボットの状態を記録する装置やエレベーターの非常灯、工場設備の監視機器用などの需要を見込む。
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