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大澤聡さんと古川日出男さんが語り尽くす 2024年の文芸回顧

批評家の大澤聡さん(左)と作家の古川日出男さん=東京都千代田区で2024年12月9日、前田梨里子撮影
批評家の大澤聡さん(左)と作家の古川日出男さん=東京都千代田区で2024年12月9日、前田梨里子撮影

毎日・朝日「文芸時評対決」前編

 毎日新聞の文芸時評を担当する批評家の大澤聡さんと、朝日新聞の文芸時評を担当する作家の古川日出男さんが、2024年の文芸の成果について語り合った。両紙に同じ対談の模様が紹介されるコラボレーション企画。昨年12月から今年11月までに刊行された小説、文芸誌の掲載作、海外文学を対象に、2人がそれぞれ5作をリストアップし、対談にのぞんだ。文学の可能性を探る刺激的な対話を3回に分けて掲載する。【構成・棚部秀行、写真・前田梨里子】

中編は19日正午、後編は20日正午に掲載します

大澤聡さん5選

・豊永浩平「月ぬ走いや、馬ぬ走い」(講談社)

・山下紘加「可及的に、すみやかに」(中央公論新社)

・野﨑まど「小説」(講談社)

・坂上秋成「泥の香り」(「文学界」11月号)

・木村紅美「熊はどこにいるの」(「文芸」秋号)

古川日出男さん5選

・ハン・ガン「別れを告げない」(斎藤真理子訳、白水社)

・町屋良平「生きる演技」(河出書房新社)

・川上弘美「くぐる」(「文学界」9月号)

・木村紅美「熊はどこにいるの」(「文芸」秋号)

・豊永浩平「月ぬ走いや、馬ぬ走い」(講談社)

ノーベル文学賞受賞ハン・ガンさんから

大澤 これは朝日新聞と毎日新聞の垣根を越えたコラボレーション企画です。こうした実験が新聞や文芸誌で少しずつ増えてシーンを再生するきっかけになればと思って、提案させてもらいました。

古川 いい「事件」です。それこそ新聞2紙の担当者による「頂上決戦」と言えるかもしれません。

大澤 それぞれ1年間、毎月孤独に新作をひたすら読んできたわけですからね。

古川 では、まず僕のリストにある<ハン・ガンさん「別れを告げない」>から。韓国のハン・ガンさんがノーベル文学賞を受賞して言祝(ことほ)ぐ気持ちです。「アジア人女性初」という枠組みは重要ではなく、時評のためにこの1年に読んだ単行本でずっと体の記憶に残りつづけていたのが「別れを告げない」でした。済州島の四・三事件(米軍政下で起きた住民虐殺)を書くことによって、ハン・ガンさんが歴史的な痛みを引きうけ、読者にもそれが移っていくという力を持っています。

大澤 ハン・ガンさんには1980年の「光州事件」(軍による民主化運動鎮圧)を扱った小説「少年が来る」も過去にあります。それから、物理的な痛みもテーマにしてきました。目を背けたくなるほどリアリティーのある痛みの表現が特徴的な作家です。

古川 3分に一度指に針を刺されるシーンがあります。読む側のほうが、このリアリティーを頭の中で再生、肉体的に再現してしまいます。

大澤 日本の小説家たちも、ここ10年、15年ほど身体の問題を意識的に書いてきたように思いますが、ハン・ガンさんはそれを痛みとしてもっとダイレクトに表現する。そこに「別れを告げない」というタイトルが重なります。「終わらせない」というわけです。

古川 「別れ」という言葉が否定的で、「告げない」も否定形で、否定に否定を重ねることでしか肯定できないという言葉に対するまなざしは、詩人が持っている力です。ノーベル賞授賞理由の「詩的な散文である」というのが大きく、もちろんタイトルは韓国語ですが、訳者の斎藤真理子さんはそこを分かってこの邦題に…

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