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【中国ウオッチ】陸海軍首脳も失脚か─粛清、全軍に拡大

2024年12月27日12時00分

 厳しい「反腐敗闘争」が続く中国軍で、新たに陸海軍や治安部隊の首脳が失脚した可能性が出てきた。同軍では既に、人事を握る政治工作部主任や国防相、ロケット軍司令官、前空軍司令官が処分されており、粛清が全軍に拡大し、泥沼化しているようだ。(時事通信解説委員 西村哲也)

【中国ウオッチ・過去記事】

上将4人が式典欠席

 中央軍事委員会は12月23日、陳輝中将を上将(大将に相当)に昇進させる式典を行い、習近平国家主席(共産党総書記)が中央軍事委主席として出席した。公式メディアは「陸軍政治委員・陳輝」が上将になったと伝え、陳氏が陸軍で司令官と並ぶ首脳ポストである政治委員に就任したことが判明した。空軍出身者が陸軍の政治工作責任者になる異例の人事だ。陸軍の秦樹桐前政治委員は9月から失脚説が流れていた。転出先は明らかにされていない。

 上将昇進式典は、習主席をはじめ軍の主要指導者が出席する重要行事だが、24日の香港紙・星島日報が中国国営テレビの映像を基に報じたところによると、23日の式典は、陸軍の秦前政治委員、李橋銘陸軍司令官、袁華智海軍政治委員、人民武装警察(武警)の王春寧司令官の上将4人が欠席した。武警は治安維持を担う軍隊である。

 同紙は、中国軍では2023年から数十人の将軍が失脚し、最近も中央軍事委政治工作部の苗華主任が停職になっており、上将4人の欠席は外部の関心を集めていると伝え、失脚の可能性を示唆した。

 苗主任は習主席の代理人として軍内の人事を牛耳り、反腐敗では粛清する側の中心人物とみられていたが、11月28日に「重大な規律違反の疑い」で停職が発表された。

 苗主任は、習主席がかつて長く勤務した福建省の旧第31集団軍(複数の師団から成る大部隊)出身。旧第12集団軍(江蘇省)や海軍などの政治委員を歴任した。

 前述の上将4人のうち、陸軍の秦前政治委員は第31集団軍、武警の王司令官は第12集団軍の出身。海軍の袁政治委員は、苗主任が海軍政治委員だった時期に海軍陸戦隊の初代政治委員に抜てきされた。経歴から見て、これら3人は苗主任の人脈に属する可能性がある。つまり、軍内の習近平派ということだ。

 そのほか、福建省を含む東部戦区の林向陽司令官や、かつて中央軍事委弁公庁主任として習主席の軍事補佐官のような役割を果たした海軍の秦生祥元政治委員も粛清説が流れている。林司令官も第31集団軍出身。秦生祥氏は海軍政治委員として苗主任の後任で、苗主任と同様に海軍以外からの起用だった。いずれも苗主任と縁がある。

異例の「集団指導」強調

 一方、中国軍の機関紙が組織運営における集団指導の重要性を強調したことから、個人独裁志向が強い習主席に反対する動きではないかとの見方が出ている。

 軍機関紙の解放軍報は12月4日から「民主集中制」堅持のキャンペーンを開始し、次々と論文を発表した。社会主義体制の中国では、軍隊も政府機関などと同様、共産党組織によって運営されているので、党組織運営の基本方針は重大事。連載第2回(9日)のテーマは「集団指導」で、その意義を以下のように詳述した。習主席個人への礼賛が多い近年の公式メディアでは珍しい文章だ。

 一、集団指導は民主集中制の原則の核心・本質であり、党の最高原則の一つであり、科学的方針決定と民主的方針決定の重要な保証である。

 一、鄧小平同志は第8回党大会(1956年)での報告で「われわれの党内では長年、個人ではなく集団で重大な問題を決定するのが伝統となってきた」と述べた。党の指導は党委員会という集団の指導であり、1人、2人の指導ではない。各レベルの党組織指導部内では、誰であっても集団指導を堅持しなければならず、重大な問題に関する決定は必ず集団の討論によって下して、個人は組織に服従し、少数は多数に服従しなければならず、個人は絶対に指導集団を凌駕(りょうが)することができない。

 一、毛沢東同志は「(党組織のトップである)書記と委員の関係は、少数が多数に服従するというものだ。これは班長と戦士の関係とは異なる」と言った。つまり、「書記と委員は上下関係ではなく、書記は党委員会の平等な一員である」。ところが、一部の党委内部では、重要な問題の解決が党委会議ではなく、個人によって決定され、党委の委員が形だけの存在になっている。主要指導者が(指導の)集中を口実に「ワンマン」「家父長制」をやり、会議前も討論でも決議の時も個人が主導して、集団指導と称しながら、実際には個人もしくは少数の人が決めているケースがある。

 一、習主席も中央軍事委の党建設会議で、党委の統一的な集団指導の下での首長分業責任制を実行し、あらゆる仕事は党委の統一的指導の下で行い、あらゆる重要な問題は党委が検討・決定しなければならないと述べた。

 「党内民主」をテーマとする連載第3回の論文(11日)も「民主集中制とは、まず民主があり、その後に集中がある」「1人の能力・資質がどんなに高くても、経験がどんなに豊富でも、視線や精力が及ばないところはある」として、個人の独断を戒めた。

 一連の論文は、習氏が軍を率いることを明確にする「中央軍事委主席責任制」という大原則には触れなかった。

「反習近平」論文?

 独断専行型の毛沢東が文化大革命(1966~76年)で政治の混乱と経済の低迷を招いた反省から、鄧小平は集団指導で改革・開放を進める体制を構築。江沢民、胡錦濤政権は基本的にそれを継承した。

 しかし、習主席は自分個人への権力集中を強行し、憲法改正で事実上の終身制を導入。改革・開放時代では異例の3期目に入り、政権中枢から非主流派を排除した。

 こういた経緯があることから、解放軍報の民主集中制堅持キャンペーンについて、在外中国人のウオッチャーや台湾メディアの間で「習主席の権威に挑戦するものではないか」「中央軍事委主席責任制を否定した」といった説が広がった。

 だが、同じ解放軍報は12月13日、軍内の政治工作に関する大論文を掲げ、習主席に対する個人崇拝スローガンである「二つの確立」「二つの擁護」や中央軍事委主席責任制の意義を強調。「習近平の新時代における中国の特色ある社会主義思想」「習近平強軍思想」を深く学び、「絶対的忠誠」を堅持するよう呼び掛けた。

 文中には久しぶりに「習主席の指揮を聞き入れ、習主席に責任を負い、習主席を安心させよう」というフレーズも登場した。

 同紙の最近の論評を総合すると、習主席が軍の絶対的リーダーであることに変わりはないが、その指導下の軍人たちはそれぞれの組織で集団指導を行い、一部の独断を許してはならないということだろうか。実際の矛先は、極端な派閥人事で軍内の和を乱した苗主任に向けられているのかもしれない。そうだとしても、一連の民主集中制論文が「反習近平」という印象を与えたことは否定し難い。

 習派とみられていた軍高官が次々と失脚する中で、軍機関紙は習主席批判と受け取られかねない宣伝キャンペーンを大々的に展開。政局に大きな影響力を持つ軍の混乱は、習近平ワンマン体制の不安材料になっている。

(2024年12月27日)

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