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[月別過去ログ] 2000年01月

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2000年01月11日

なぜ私はたばこを止め、そして問題無く過ごせているのか。

タバコは21才から吸い始めて、三日で一箱ぐらいのペースで問題無くやっていたのだが、実験によるストレスが増すようになって、吸い始めてから5年ぐらいで、煙を本当に肺に全部入れられるようになってからは(つまりそれまでは単にふかしているようなものだったってこと)ニコチン中毒になりだして、ニコチンが切れるのがわかるようになってきた(最大で一日二箱ぐらいだったろうか)。実験の都合上、何時間も煙草を吸うわけにはいかない。実験の休憩時間にタバコを水にベランダへダッシュするようになって(研究所はベランダ以外禁煙)、これはまずいから止めなければ、と思うようになった。もちろん、前から彼女(現在の妻)や家族には止めるべきと言われていたのだが。
97年の暮れに風邪を引いて、ゲホゲホ言いながら寒いベランダでタバコを吸っているときにふと、何でこんな思いをしてまで吸っているんだろう、実際タバコは全くおいしく感じれないし、と思って風邪が直るまではタバコを止めておくことにした。
妻と一緒に買って置きっぱなしにしていた禁煙の本「禁煙セラピー」(アレン・カー著KKロングセラーズ) 「禁煙セラピー」(アレン・カー著KKロングセラーズ)を読んだ。別にこの本でなくてもよかったかもしれない。この本は別に科学的な知識を教えてくれたわけでもなかったし。しかしこの本が私にはとてもよかった。
この本が伝えようとしているのは、喫煙の習慣とは、ニコチン中毒と洗脳によるのであり、ニコチンの排除のための約3週間の禁煙と脱洗脳によってタバコを止めることができる、というものだ。このため、この本は煙草を吸う人間が持っている幻想を一つ一つ取り除いてゆく。つまり、「タバコは退屈やストレスをまぎらわしてはくれないし、集中力やリラックス感を高めてもくれない」「タバコは単にニコチンの禁断症状を除くだけである」など。タバコが健康に悪いことなど誰もがわかっているが、それが理由では私もタバコを止めなかった。この本は逆に、タバコの利点なんて本当は全くないことを我々に説得させることで、脱洗脳を図った。そのため、「減煙は禁煙よりも難しい」「タバコを精神力で止めようとしてはならない、それでは洗脳が解けていないため、逆戻りしてしまう」と禁煙中のアドバイスをする。そしてこの本のメッセージが納得いったとき、最後の儀式として、最後の一本のタバコに火をつけ、それを吸いながら、いかにこれがまずいものであり、体に悪いものであるかを感じながら吸い、悲壮感ではなく、このようなものをもう吸わなくてよくなる、という喜びを持って吸って、これでもう二度と煙草は吸わないことを決意すべしという。
私がこの本を読んだのは風邪の間に煙草を止めて1週間経ったぐらいだったが、ゲホゲホ言いながら寒いベランダで吸ったタバコがまずかったこと、そして、煙草の味自体は別にうまいものでも何でもないことをよくおぼえていたから、そのままもう二度と煙草は吸わなかった。ニコチン中毒でのイライラがなくなることを喜べたし、タバコの禁断症状は思ったよりもつらくなかった。ふとした時に口の中がなんか変な感じになることに気づくことがあったが、深呼吸をしたときの空気の方がよほどおいしいと思えた。この感覚は本で言うところの3週間よりはかかったが、1ヶ月でほとんど気にならなくなった。
ちょうどこの頃妻が妊娠していることがわかった。意図せず赤ん坊が生まれる前にタバコを止めるということになり、妻は感激したし、家族も喜んでくれた。最後まで禁煙の障害となったのは、ニコチン中毒ではなくて、かつて煙草を吸っていたようなシチュエーションになったときやそういうのを思い出した時のことだった。酒を飲むとき、公園のベンチに座るときとか。結局、こういうのは、失恋した女の子をつい思い出してしまうのと同じで、結構尾を引くものだと思った。こういうときが半年はかかった。禁を破って煙草を吸ってしまう夢を見たこともあった。けれども現在、子供が生まれて1歳半近くになるまで煙草は一本も吸っていないし、吸う意味がない。一本試しに吸ってみようとも思わない、なぜなら、タバコにいいことなど一つもないことが今の私にはわかっているから。
ニコチンの作用については私は薬理学から生理学に移った人間なので、論文などは読んでいる。報酬系のdopamineなどとも関わっていることがわかっている。だから、洗脳をとくのには時間がかかるし、喫煙によって起こった報酬系の可塑性はニューロンの構造レベルにまできっといっていたのだろう。失恋した女の子を忘れるのと同じ時間がかかる、というのは比喩ではなくて、本当に同じような脳の部分が関わっている証拠だ。この辺もう少し論文の紹介でもしてみたいが、今回はここまでにて終了。参考資料としては、Neuron 1996 May;16(5):905-8 "Molecular and cellular aspects of nicotine abuse"あたりからいってみたい。


2000年01月10日

書評:金沢創著『他者の心は存在するか』(金子書房:1999)

まずは非常に面白かったです。最終章での著者の世界観を一通り作り上げるところまであっという間に持っていかれて、話の展開には必然性を感じました。
構成についてひとつ言うと、2章は知っていたことも多いし、1章での問題提起、そして本の題名といったところで問題追求型の話の進め方をしているはずなのにまだるっこしいと思いました。強く言ってしまえば、この章はなくても話は通じるし、その方が訴える力は強かったと思います (この章でいいたかったことが後の章にかかっていることは承知しておりますが)。逆にいえば、この本はいろいろ詰め込んであるような印象があるが、ここを除くと結構一本道で進みやすいか、と。
大切な5章の結論についてですが、主観的世界が始まりであり、進化的には、そこから外部世界が出来上がり、他者が出来上がり、自己が出来上がる、というのは私にもスムーズに受け入れられます。スタート地点は主観的感覚世界なのは確かで、そういう内部の視点を大切にする、という考えが私がオートポイエーシス論に共感する理由でもあります。しかし、こういう立場はここから先を進むのに苦労するんじゃないかと思います。それは現象学しかり、オートポイエーシスしかりで。なぜ、他者が同じような認知構造を持っていて、実際コミュニケーションができてしまうのか、というあたりに心身問題は視点の逆転によって隠された形で入っていると思うのですが、ここについて著者が[この一歩を踏み出してはいけない」(p.219)というとき、単に出発地点に問題を押し込んだように見えてしまいます。こういうのは「哲学」がまた始まる場所だと思うんです。
違ったレベルの話ですが、結局著者は「進化による説明」(2章より) に終始して、他者のメッセージがどうやって自分に信憑を与えるのか、などについての機構、機能のレベルでの説明が足りない(誰もできているわけではないと思いますが)のではないかと思います。このあたりが私は「心身問題は偽問題」という主張が証拠不充分だと思う理由のもうひとつです。これらの説明のためには、ニューロン、脳レベルでの説明が必要になるのではないかと思います。試しにひとつ考えてみたのですが、カエルの目を手術で180度回転させておくと、カエルは餌の位置に対して180度回ったところに舌を伸ばすだけで、外部世界と脳内表現の対応を修正できないらしいです(スペリーの実験など)。これに対して、ヒトやサルでは逆さメガネの実験(下條信輔氏の本など)で順応できてしまうことからわかるように、外部世界と脳内表現の関係を修正することができる。だから、カエルはレベル0の外部世界を持っていない状態、ヒト、サルはそれを持っていて、少なくともレベル1以上であるようです。そしてこのことはおそらく感覚―運動連関のfeedbackの有無などの形で機構として明らかにしていくことができるのではないだろうか、と思います。このような機構による説明を隅々まで行き渡らせることができたら、問題はまた違った形を見せる感じがします。
著書の締めが複数の宇宙、となっていて、どうも閉じた感じが気になって指摘したかったのですが、p.217での、「感覚情報を元に別のリアリティーを構成しうるような体系を作り出すことができれば、その枠の外に出られるのかもしれない」という点がqualia-ML #1689 で強調されていたのを見て、結構納得いってしまった感じです。
結論としましては、主観的感覚世界からスタートすることには共感を憶えました。そしてその結論が必然性を持っていると思いました。その先がデッドエンドな感じが正直言ってするのですが、ぜひここから先を進んでいくところを見せていただきたい、と期待を込めて思いました。


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