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[月別過去ログ] 2004年06月

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2004年06月30日

速報

6/31 図1
mmrlさんから6/29のコメントにあるbayesian harvestingに関する詳しい解説と図が届きました。どうもありがとうございます。今日の欄はもういっぱいなので、明日のところに貼らせていただきます。追記:図は7/1の図1です。はてなは一日一枚しか貼れないんですよ。

Science Newsome論文つづき

"Matching Behavior and the Representation of Value in the Parietal Cortex." Leo P. Sugrue, Greg S. Corrado, William T. Newsome
また、行動をいかにmatching lawに対応するように統制するかという点では"change over delay" (COD)を導入している点が重要であるようです。これはどういうことかというと、選択を続けていく過程でそれまで赤を選びつづけていたときから緑を選ぶようにスイッチしたとき(逆に緑から赤へのスイッチでも)にちょうど報酬を与えるタイミングであったときには報酬を与えるのを一試行分遅らせて、もう一回スイッチした色を選択してから報酬を与える、とするものです。つまり、あんまり頻繁に赤と緑どっちを選択するかを変えることにはコストがかかります。CODを導入することによって左右を交互に選ぶ"alternating strategy"(ずっと交互に赤と緑を選ぶ)や"win-stay-lose-switch strategy"(報酬が得られたら同じ色を選ぶけれど報酬が得られなかったら違う色の方にスイッチする)を断念させようとするわけです。このCOD戦略はオリジナル論文であるHerrnstein '61でも採用されているようです。
というわけで結局のところ、並列VIとCODを使うことでmatching lawに対応するように行動を統制しているということのようです。
このあいだ私はmatching lawが必ずしも最適解ではない例を挙げましたが、あれはVR-VR並列強化スケジュールでの例でした。VI-VI並列強化スケジュールではmatching lawはほぼ最適解と一致します。直感的にわかるように書きますと、強化率の比率が右:左で1:10だったとします。この場合左だけ100%選ぶのは最適解ではありません。VRではないので試行数が多ければよいわけではないのですから。右もたまーに選んでやればいいのです。CODがあるなら二回連続で。なぜならずっと右を放置しておいてから右を選べば一発で(CODがあるのなら二発で)ほぼ確実に報酬が得られるのですから。これだけで左を100%選びつづけるよりもより多く報酬が得られます。
これとは別に、「メイザーの学習と行動」にはmatching lawと最適化理論との間の関係および論争についての記載があります。つまり、その都度最適解を選ぼうとすることによって結果的にmatching lawを満たすような関係が生まれるのではないかといったような。そこでメイザー本人がScience '82論文でmatching lawと最適化理論との間でのpredictionが乖離するような実験パラダイムを組んで検証したところ、matchingのほうのpredictionの方が当たっていた、ということが記されています(実験パラダイムは複雑そうなのでスキップしときました)。しかし上記のようにVR-VR並列強化スケジュールの例とVI-VI並列強化スケジュールの例とを見てみると最適化理論の方がそれらしいようにも思えてきます。以前挙げたSeoungの"matching and optimization are two ends of ..."によるとこの二つはどのくらいの時間的スパンのヒストリーを選択のときに考慮するかの違いということで統合できるらしいのです。つまり長いスパンでは最適化、短いスパンではmatchingというように。読んでないけど。
と、それからまだNewsome論文の実験条件ををちゃんと書いていなかったのでここで書いておきましょう。Subjectはfixation pointを固視します。赤と緑のtargetが同時に左右のそれぞれどちらかに現れます。どちらかにサッケードするのですが、与えられる報酬は並列VI強化スケジュールになっています。"overall maximum reward rate is set at 0.15 reward per second"と書いているのがなにげによくわからん。MaxでVI6.6secなわけだけど、ではincome ratio 1:1のときが赤緑ともにVI6.6secで、1:8なら片方がVI6.6secでもう片方がVI52.8secで、ということだろうか。ちょっと今のところ自信ありません。ところでfixation breakしたらどうなるんだろ。Incomeのhistoryなんてかんたんにぶっ壊れそうな気がするのだけれど。

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# mmmm

なるほど、随分スケジュールの全貌が明らかになってきました。”change over delay”というんですか。うちの学生さんから聞いたことのある手法ですが、正式な用語があるとは知りませんでした。「メイザーの学習と行動」未読で、図書館にも所蔵がなかった(涙)ので発注しました。”overall maximum reward rate”ですが、赤も緑もコミコミでってことじゃないでしょうか。

# pooneil

ありがとうございます。maximum reward rate = 0.15 reward/secと捉えれば(VIなので実際には必ずしも報酬が用意された直後にタスクをしているわけではない、という意味でのmaximumというのが正しそう)、overallはmmmmさんのご指摘の通り、redとgreenあわせたものと考えるほうが妥当なようです。Red:greenのincome比が1:2なら、redで0.05reward/sec、greenで0.10reward/sec、というように。


2004年06月29日

Science Newsome論文つづき

"Matching Behavior and the Representation of Value in the Parietal Cortex." Leo P. Sugrue, Greg S. Corrado, William T. Newsome
強化スケジュールについてまとめましょう。これは強化(=報酬)がタスクの回数または経過時間とによってどう決まっているかを示すものです。タスクの回数の場合がR(ratio)、経過時間の場合がI(interval)で確率的揺らぎを加えてあるのがV(variable)、与えられていないのがF(fixed)で、FR,VR,FI,VIとなります。
まず、FR(fixed ratio)は一回のオペラント反応(私の分野ではほとんどタスクの一試行)に対して与えられる強化(私の分野ではほとんど報酬)が固定されているものです。我々のタスクではたいがい一試行で一回報酬が与えられていますからこれはFR1と表示されます。彦坂先生の1DR taskは四方向の試行ひとかたまりで一回だけ報酬が与えられることからFR4と書けます(報酬が与えられる試行は四試行ごとにあるわけではないので正確にはFR4ではないのでしょうが)。(追記:これは間違い。強化されるターゲットはある一方向で、その方向は毎回報酬が与えられるため、その方向だけFR1であって、他の方向は強化されない、と考える方が正しいようです。また、四方向の刺激はブロックになっており、報酬の出る方向だけに反応すればよいわけではないので、四方向のターゲットは独立ではありません。よって独立した並行強化スケジュールというわけではありません。)
つぎにVR(variable ratio)は試行と報酬との関連が確率的になっているものです。たとえば平均二試行に一回報酬が与えられるけれど三試行で一回の場合もあれば一試行で一回の場合もあるものをVR2と書きます。つまり松元健二さんと田中啓治先生のScience '03では1/2の確率でしか報酬が与えられないことからVR2と言えるでしょう。(追記:同じくこちらも間違い。またこちらも報酬ありの刺激にだけ反応すればよいわけではないので、reward+刺激とreward-刺激の強化スケジュールは独立ではありませんので、普通の並行強化スケジュールとは違っています。)
FI(fixed interval)は試行の回数によらずに経過時間によって報酬が与えられるものです。たとえばFI10secでは10秒のintervalで報酬が与えられますが、実際にもらえるのは10秒経った後に試行をした直後です。そして報酬が与えられるとまたその10秒後以降に試行をすれば報酬が与えられます。つまり、一番楽をする方法は10秒ごとに一回だけ試行をして毎回報酬を得るというものですが、実際にはそんなに正確に時間を計測することもできないので、そろそろ十秒かなというあたりで何回か試行をして報酬を得ることになります。このため、時間あたりの試行の回数はVRなどと比べてずっと低くなります。さっさと試行数を稼ぎたいならFRかVRです。
VI(variable interval)は上のFIでintervalに確率的ばらつきを与えたものです。たとえばVI10secなら平均10secでまた報酬がもらえるようになりますが、あるときはそれが2秒で、あるときはそれが20秒かもしれません。このため、VIはFIと違って報酬を得た直後に試行の速度がダレません(なぜならばまたすぐに報酬がもらえるかもしれないから)。このため、安定した試行のペースを保てるとともに(FIと比べてのadvantage)、報酬が与えられなくなったときの消去もすばやく行われます(FRやVRと比べてのadvantage)。
このVIを二つ使って平行して二つの刺激を強化する(緑のtargetと赤のtargetそれぞれを独立に強化する)、という並列強化スケジュールVI-VIで選択をさせる、というのがmatching lawが一番うまく当てはまる条件であるらしくて、matching lawの実験では一番よくこれが使われています。というわけでmmmmさんの指摘の通り、今回のNewsome論文では並列のVI強化スケジュールが使われています。
以上を踏まえてmatching lawについてもっと正確に定義してやると、強化率の比率が選択の比率に一致する、ということなのです。つまり、Herrnstein '61のハトをsubjectとしたオリジナル論文にあるように、片方のキーがVI3minでもう片方のキーがVI1minのときに(強化の比率が1:3)キーへの反応の比率が1:3になる、というのがオリジナルのmatching lawです。Newsome論文でのincomeという使い方にどのくらいの普遍性があるかはよくわかりません。
また続きます。

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# mmmm

Matsumoto et al. 2003で用いられたスケジュールは、VR2ではなくて、FR1-FR0 concurrent scheduleではないかと考えます。それはともかく、VI-VI concurrent scheduleでmatching lawが一番よくあてはまり、それ以外の強化スケジュールではそれほどではないのだとしたら、それが一体何故なのか、やっぱり気になります。そろそろ別のターゲットで報酬が貰えるというタイミングの予測に基づいた行動に特徴的だったりしないでしょうか?愚問かもしれませんが、FR-FRの場合だったらどうなんでしょう?ああ、PsychINFOが使えたら・・・。

# mmmm

FR0 => FR∞???

# pooneil

ありがとうございます。そうか、go刺激とnogo刺激は別物だから片方を毎回強化して(FR1)、もう片方はまったく強化されない(FR∞)、と考えるのが妥当ですね。こうやって書いてみると明白だ。ためしに書いてみて理解が深まりました。くわしくは明日書きますが、もうひとつ”change over delay”(別のターゲットを交互に選ぶようなストラテジーをdiscurrageするような方策)も重要なようで、オリジナルのHerrnsteinの’61論文でも使われているそうです。ここらを見ておくと本当にsubjectはmatchingしているのか、という疑問も出ます。また、Matchingが最適化理論などによる帰結なのか、それとも実際の行動の法則なのかという議論も「メイザーの学習と行動」にありました。VR-VRではおそらく過剰な適応(overmatching: 強化率の高い方ばかり選ぶ)が起こるはずです。そのようなばらつきに対処するためgeneralized matching law(過剰な適応、過小な適応、片方の反応へのバイアスを取り込んでmodifyしたmatching law)というのができた、ということと理解しております。うちもPsychINFOないんですよ。こういうとき総合大学はいいなと思います。以前は文学部に行ってBBSコピったり経済学部にってbootstrap法の本コピったりとかメリットを生かせていたのですが…

# pooneil

そうやって考えてみると彦坂先生の1DR taskも四方向の一方向だけが毎回強化されて(FR1)、他の方向はまったく強化されない、というふうに考えるべきですね。本文に追記しておきます。

# mmrl

あれ、また書き損じ、すみませんpooneilさん、すばらしい解説大変参考になります。mmmmさんご指摘の件について、たしかにVI-VIのときには、一回出た報酬は取るまでそのままですから、そろそろ逆側に報酬がありそうということを考慮している可能性はあるとおもいます。彼ら(Newsomeのグループ)もこのあたりは気づいていて、昨年のneuroscience meeting で、Sugrue氏の横でポスターを出していたCorrado氏このあたりを議論していました。もし取らなければ逆側に報酬が存在する確率が上がるような記憶を持たせ、報酬の存在確率が大きいほうを選択するような最適bayesian harvesting をさせた場合とmatching law との関係を議論していました。結果はreward fraction が0.5付近ではほぼ一定となる階段関数になるのですが, 0.6以上0.4以下ではその階段関数は細かくなり、1や0に漸近してmatching に近くなります(この掲示版絵が載せれるともう少しわかりやすくなるのですが...).答えになっているかどうかわからないですけどどうでしょう。 じゃあ、他の場合はどうなるんだろう?FR1-FR0とかの例はmatsumoto etal 2003や、1DRの場合と比較すればよいのでしょうけど、FR-FRだけでなくVR-VRをやった場合の研究ってないのでしょうか?ってmmmmさんと同じ締めになってしまいました。他人任せにせず自分でもう少し調べてみます。

# pooneil

どうもありがとうございます。VR-VRはたぶん昔の論文を見ればあるんだと思います。教科書を読むと、並列VI-VI以外のいろんな条件でmatching lawが満たされることがわかっている、みたいな事が書いてありますから。ただ、それがclassical matching lawなのかgeneralized matching lawなのかで話はずいぶん違ってきますが。あと図に関してですが、もしよければメールで私のところまで画像ファイルを送ってくだされば本文の方に載せますのでお気軽にどうぞ。長辺が300pixelまでの制限があってそれ以上の大きさのものは自動的に縮小されるようになってます。

# mmmm

mmrlさん、貴重な情報ありがとうございます。まだ理解不十分ですので、図を期待しています。論文に書かれていることを超えた情報がこれだけ集まってくると、このサイトの意義が見えてきますね。更なる発展を期待しております。

# pooneil

mmmmさん、その通りですね>>このサイトの意義。こういう論文を交えた話は事実関係のところであれこれやったほうが面白いわけで、いかに深く、核心までたどり着くか、という方向へ行きたいと思っております。また同時に、このことは各方面の研究の将来性と限界とを検討することになるわけで、今後の脳研究がどういう方向へ行ったらいいかを議論するための重要な材料にもなるであろうことを期待しております。ほんと、ここまで行けたらよいと思ってます。


2004年06月28日

Newsome Science論文つづき

"Matching Behavior and the Representation of Value in the Parietal Cortex." Leo P. Sugrue, Greg S. Corrado, William T. Newsome
「メイザーの学習と行動」および「学習の心理」サイエンス社を借りてきました。Matchingなのかoptimizationなのかという問題はすでにメイザーのScience論文でmatchingの方が優位ということで決着がついているらしい*1、VIではmaching法則による解はoptimizationによる解とほぼ同じ、時間的にlocalなところをみるというアイデアはすでにある、などのことをすでに見つけております。


*1:ところでMazurがメイザーだとは私気付いてませんでした。ずっと。

Neuron 6/24号 プチPPC祭り。 PPCとprefrontalの機能とは?

んでもって、結局のところPPC (posterior parietal cortex: LIP, VIP, MIPなど)はいったいなにをやっているところなのか、という問題になるわけです。じつはprefrontalで見つかったneural correlateと同様なものがかなりPPCでも見つかってくる(decision, intention, short-term memory, value, motivation/reward)、という事が起こっています。今回のSnyder論文も同様なものとして捉えることが出来るでしょう。Cognitive setの切り替えなんてのはprefrontalで行われているものと考えられていて、single-unitやhuman fMRIなどいろいろすでに出ているのですから。 そうすると今度はprefrontalの機能とは何か、という問題になるのです。今までprefrontalで見つかってきたようなneural correlateはほとんどPPCやinferotemporal cortexなどですでに処理されているのであって、prefrontalはあくまでそういうものを統合して時々刻々と変わってゆく環境の中でフレキシブルに行動をしてゆくために必要なのであって、そのような統合の機能をprefrontalに見つけなければいけないのではないでしょうか。そのような統合を見つけるのに、Evartsから脈々と続いている、trialを加算してtask-relatedなactivityを見つけるというようなパラダイム以外のものが必要ではないか、と考えるわけです。ニューロンの個性を無くして加算してpopulation activityでものを言うという方向になっている現状を変えたいということは関係者はみんな考えていると思うし、それでは何ならいいのか、という問題でしかないのだけれど。
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# Correggio

decision, intention, short-term memory, value, motivation/rewardというのが、本当にPPCのproperの機能であるとして解決済みなんですね?では、prefrontalからPPCに戻ってくるシグナルは何をしてるんでしょうね?

# pooneil

おひさしぶりです。いやいや、decision, intention, short-term memory, value, motivation/rewardのneural correlateがPPCでもprefrontalでも見つかってしまうので、そのときいったいPPCの機能とはいったいなんなのか、というのが問題なわけです。おそらくCorreggioさんもお考えかと思いますが、prefrontalからPPCに戻ってくるシグナルというやつがこれらの機能のすべてに大きく関わっているだろうと私は思うのです。だから、prefrontalでもPPCでもなになにのneural correlateが見つかった、ではもはやお話にはならなくて、prefrontalからPPCへ戻ってゆく段階でなにが付け加わったか、逆にPPCからprefrontalに行く段階でなにが付け加わったか、というアプローチが必要だと思うのです。これ自体はべつに画期的なことではありません。私自身area TEとperirhinal cortexとのinteractionという視点を持ってやってきたがゆえのことであります。また解剖学的見地から言えば、隣接している領野がかなり多くの機能的特性を共有していることにどうしてもなってしまうわけで(そんなに強烈なgatingというかfilteringは脳にはないのではないでしょうか)、prefrontalとPPCのtightなconnectivityの証拠でもあるわけですが。しかし機能をある領野に固定せずに分散したものとして捉える視点というのが必要なのは確かなのだけれど、じっさいどうしたもんでしょうね。

# Correggio

多分そうお考えだと思っていましたが、prefrontal-parietalの行き帰りの信号は何かというのは大変重要なんということをはっきりと言われる方は少ないので、あえて申し上げました。もはや、command functionからは、いい加減に抜け出してほしい。そういうことです。

# pooneil

なるほど、わかりました。ところで”command function”という言い方がよくわからなかったのですが、これはモジュール的に認知機能を分解してゆくことですか?


2004年06月25日

バイオフィードバックとneural prosthesis

"念じるだけでゲーム操作 米で実験成功" CNN


チームでは、てんかん患者の発作の原因を調べるため頭部を切開し、脳の表面に多数の電極を取り付ける手術に注目。患者の中から被験者4人を募り、電極を付けた状態でゲーム操作を試みる実験を行った。
報告によると、被験者は脳からの信号によってゲーム機を直接操作するために、数分間の簡単な訓練を受けた。その後30分以内に、全員が標的を狙う方法を習得。

なんかneural prosthesisみたいに書いているけど、ほとんどバイオフィードバックだと思うんだけれどいいんだろうか? とはいえ、この両者は無関係ではないし、single unit - multi unit - local field potential - EEGというふうないろんな空間解像度を持った情報をneural prosthesisに利用する可能性はあります。と思ったら、脳表に電極を当てているようですんで、頭蓋骨の上からの脳波を取っているわけではなくて、そんな簡単に応用できるような話でもないようです。
なお、この論文は"Journal of Neural Engineering"から現在はフリーでダウンロードできます。"A brain-computer interface using electrocorticographic signals in humans."(pdfファイル。リンク直しました) EEGではなくてECoG (electrocorticogram)ですね。しかもFig.1aを見るとsubdural (硬膜下)に電極のシートを置いている。血管とか大丈夫なんだろうか。
お、Ojemann JGがauthorに入っている、と思ったらOjemann GAとは別人物らしい。しかもBrain '92 "Neuronal activity related to faces and matching in human right nondominant temporal cortex."を見ると連名になっているので、親子か兄弟かなんからしい。まぎらわしい。

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# ガヤ

JNEの論文はリンク切れのようです。あ、でも、まずはお体をお大事にしてくださいね。

# pooneil

あれ、ほんとだ。なんでだろ。


2004年06月24日

Science 6/18 つづき。

"Matching Behavior and the Representation of Value in the Parietal Cortex." Leo P. Sugrue, Greg S. Corrado, William T. Newsome
今のところこの論文に関してはまだ私は周りから攻めているところですが、論文の内容自体に関しては6/22のところにmmmmさんのすばらしいコメントがあります(こういうのを期待してこの日記やってるんです、私)。ということでそちらの方もご覧ください。mmmmさん、私からのコメントはもう少々お待ちください。
で、周りから攻めてる:Matching lawに関する行動分析学関連でのいくつかの記述をメモ。「選択行動」というのがキーワードのようです。もう少し続きます。

Dayanのコメンタリのwebでのenhancedより:
それから強化学習(reinforcement learning)について。


2004年06月23日

はてなのコメント欄、長文書き込み歓迎。

0000年00月01日の注意書きをアップデートしました。[コメントを書く]をクリックしてもらえばわかるように、はてなのコメント入力欄はたった一行しかありません。プレビューもありません。むちゃくちゃ不便です。おそらく機能としては一行書き込みのような簡単なものしか想定していないのでしょう。これで書き込むと自分の文章の全体像が見えないばかりか、漢字変換のつもりでリターンキーを押してサブミットしてしまうことがしばしばあります(私もやりました)。というわけで、書き込んでいただくときにはエディタで編集してから貼ってみてください。長文書き込みのときにはパラグラフごとに別々にサブミットしてもらえればなおわかりやすくなります。
と書いてから、入力フォームから起動して編集したテキストをフォームに流し込めるAreaEditorというのを発見しました(ソース)。これはいい。さっそく秀丸を関連付けて使い始めました。ただ、はてなは入力フォームがinputタグなので、エディタで改行を入れても無視されます。Movable TypeのようなblogとかtDiaryなどのように入力フォームにtextareaを使っている場合にはそういうことはないようです(コメントに改行を入れてパラグラフを分けて入力することが出来ます)。というわけで結局のところ、はてなのコメント入力欄の書き込みにくさはinputタグを使っていることによるようです。参考サイト:"diary.yuco.net" 6/21
ま、なんにしろ、はてなに月たった180円しか払ってないで文句を言ってもしょうがない。はてなであるがゆえのメリットを今も享受していると思うし。なんかもっと貢献できたらいいのですがね。

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# kanose

brタグをいれると改行できますよ。

# pooneil

そうなんですか。どうもありがとうございます。さっそく試してみました。ほんとだ。ちなみに私もハテナ系入ってます。
ちなみに段落タグは効かないようです。<P>なんでか。


2004年06月22日

Science 6/18 つづき。

"Matching Behavior and the Representation of Value in the Parietal Cortex." Leo P. Sugrue, Greg S. Corrado, William T. Newsome
でもって、まず"the matching law"というものについて説明しましょう(言わずもがなですが、以下の説明は素人である私がまとめたものです。正確なことを知りたい方は「選択行動」でググったり、「メイザーの学習と行動」あたりを読んでみてください)。人間を含む生物がなにかを選択するとき、その選択肢の「価値」に基づいて選択をします。この選択がどういうルールで決まるか明らかにしたのがHernsteinの"the matching law"です。これは、ある二択があったときに(三択でもかまわないけど)、その片方Aを選ぶ比率はそれまでのAを選択したことによるincomeの比率と等しくなる、というものです。
例を挙げてみましょう。

状況:舌切り雀
二択:大きいつづらと小さいつづら
income: 大きいつづらに今まで入っていた米10合 小さいつづらに2合
選択:大きいつづらの方を10/12の比率で選ぶ
なお、この選択の比率はあくまで何度も選択を繰り返したときのものであって、今度来るかけがえのないたった一回の選択のどっちが当たりであるかを決めてくれません。お婆さんがそうであったように。確率が人生の選択に及ぼす全てのことと同じで。
状況:バスケットボール
二択:3点シュートと2点シュート
income: 今までの3点シュート*10=30点 今までの2点シュート*50=100点
選択:3点シュートの方を30/130の比率で選ぶ
どのくらいまでの過去のincomeを考慮するか、ということも重要な変数です。今までの全ての試合の結果を蓄積して考えているか、それともここ最近の試合の結果だけで決めているか(急に3点シュートがスランプになったとしたら、ここ最近のスランプ時の3点シュートのincomeだけで行動を選択する方が賢明でしょう)、というわけです。
なお、本当にバスケットボールで3点シュートと2点シュートとのどっちを選ぶかを研究した論文があります。"an application of the matching law to evaluate the allocation of two- and three-point shots by college basketball players."
"The matching law"についてはこんな感じで。
んで、Newsomeはこれを左右のどちらかのターゲットにサッケードする、というタスクにしました。右にサッケードしたときにジュースが出る確率が60%、左にサッケードしたときにジュースが出る確率が20%だとしたら(incomeの比率が3:1ということ)、実際に右にサッケードする比率は右対左で3:1になることでしょう。実際にそうなりました。しかもincomeの比率を変えてやると選択もそれによって変化しました(たとえば、incomeの比率を1:6に変えてやると選択の比率も1:6に変わったのです)。
そしてsingle-unit recordingからLIPのニューロンはどちらを選択したかという情報をコードしているだけではなくて、どっちの方がincomeが大きいかという情報(つまりこれが「価値」ということですな)をもコードしているということがわかったというのです。
さて、ではこれがどのくらい新しいか。とくにPlatt and Glimcherと比べて。これを明らかにするためにはPeter Dayanが書いたように、このmaching lawとreinforcement learningとゲーム理論とでどれがLIPニューロンの動態を一番うまく説明できているか、という検証が必要になるでしょう。このへんについてはまた明日以降書きましょう。
なお、DayanもDawもreinforcement learningを研究している人ですので、そこに重点が行くのはよくわかります。(Neuron '04 "Temporal Difference Models and Reward-Related Learning in the Human Brain."およびScience '04 "Dissociable Roles of Ventral and Dorsal Striatum in Instrumental Conditioning."、そしてNathaniel Dawのthesis "Reinforcement learning models of the dopamine system andtheir behavioral implications.")
また、maching lawは必ずしも最適解ではありません。たとえば、incomeの比率が1:8(右:左)だったら、選択の比率を1:8にする(1/9*1/9+8/9*8/9=65/81)よりは、100%左だけ選びつづけた方(8/9*1=8/9)が得なわけです。ですので最適解を求めるようなアルゴリズムとの関係も問題になることでしょう(参考文献:"Matching and maximizing are two ends of a spectrum of policy search algorithms.")。これはたぶんreinforcement learningとmaching lawとの関係自体の問題となることでしょう。このへんについてもまた明日以降書きましょう。

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# mmmm

まだ途中までしか読んでいませんが、matching lowを分かりやすく解説してくれてありがとうございます。確かこの仕事ではVI (variable interbal) scheduleを採用していたと思うんですが(要確認)、この効果が最適解を採らない戦略を可能にしていると思われます。つまり、そろそろ別のターゲットを選んだ方が報酬を貰える確率が高いはずだということをサルが予想している可能性があります。サルの行動制御をうまく工夫したところだと思いますが、この可能性をどう著者らが考慮しているかは検討に値するように思います。
いや、もしかしたらmatching lawが最適解と一致するデザインになっているかもしれない。

# pooneil

コメントどうもありがとうございます。”Variable interval schedule”がキーワードですか。そのへん調べてみます。どうもありがとうございます。mmmmさんのおっしゃるように、一日のセッションの中で左右のincomeが逆転するところがあることが必須なのでしょう。もし一日中ずっと一定のincomeの比率をキープしたとしたら選択は最適解を選ぶか、という問題でしょうね。これはかなり基本的な事項のようなので、探せば関連する記述を見つけられそうです。
また、Fig.1Cの星印にあるように、実際にはかなりlocalな変動によって選択のbiasが引きずられる(Fig.2Cにあるように最近10trial分ぐらいしかincomeとして考慮していない)、ということからしても、あんまりblock単位でのincomeのbiasを確信もって把握している感じではなさそうです。だからincomeの比率が左右で1:6のblock中にたまたま左でジュースがもらえることが連荘で続いたら、左への選択biasが一時的に上がる、ということが起こっているのでしょう。mmmmさんが言ってることと本質的には同じことですが。

# U.T.

お久しぶりです。ゲーム理論と聞いて、ムムッと感じたのですが、話は至ってオーソドックスそう(って当たり前か)。本文読んでいないのですが、前後関係の要素はどう処理、解析してるのでしょうかね。

# pooneil

どうもご無沙汰しております。ゲーム理論、と書いたのは私の早とちりでして、matching lawはどちらかというと行動分析学の分野のものであるようです。ゲーム理論的なアプローチは昨日挙げたNature Nueorscience ’04のほうでした。Nash equilibriumなんて言葉が出たりしてます。あと、今回の論文はオーソドックスすぎて、Platt and Glimcherがやったこととほとんど等価なようにも思えます。つまり、Platt and Glimcherが見つけたreward probilityやらtarget probabilityをコードするLIPニューロンがNewsomeのやったようなincome (= reward probility * target probability)をコードしているのはほとんどあたりまえのようにも思えるわけです。あとはどっちがニューロンの活動のbetter predictorであるかという問題だ、というDayanの言い方に私は賛成です。それから、「前後関係の要素」っていうのはよくわからなかったんですが、incomeの比率を変えたブロック間の順序効果のことでしょうか?

# mmmm

今朝、駆け足で通読しましたが、強化スケジュールについての正確な記述(VI, FI, VR, or FR?)は見つけられませんでした。昨年だったか、理研でやったNewsomeのトークでは確かVIだと言ってたんですが。)
この論文の肝は、コントロールタスクではLocal incomeの影響がまったく現れないけれども、matching taskでははっきり現れる、ということのように思います。matching lawとの対応付けに焦点を持ってきたために、この重要な点が薄れてしまった印象を受けます。Matching lawと行動とLIP activityとの対応をきちんとつけるためには、タウの値を変えてneuronal activityを見ると、local fraction incomeとの相関が落ちる、つまり行動でも神経細胞活動でも、最適なタウは一致する、ということを言う必要があるように思います。ただ、ブロックによって、日によって、タウが変わる可能性が高いだろうから、これもできれば押さえたいところ。まあ、これに関連したことがdiscussionで簡単に触れられてはいますが。

# pooneil

なるほど、すばらしいコメント、ありがとうございます。こういう書き込みがあるので日記やっててよかったと思います。大感謝。んでもって、レイノルズのオペラント心理学入門をざっと見てみましたが、今回の論文のはたしかにVIに対応するもののように思えました。いまだポイントがよくわかってはいないのですが、もう少し勉強してみます。
それから、コントロールタスクとマッチングタスクとでのincomeのLIP activityへの影響の違い(Fig.3C vs. Fig,4B)、なるほど納得しました。Platt and Glimcherとの違いもこのへんから議論できそうですね。というわけでもう少しそのへん読んでからコメントします。もうしばらくお待ちください。
あ、もちろん、「私が返事するまで書きこむな」という意味ではありません。何かありましたらまたどうぞ。

# mmrl

横から失礼,まちがえてかきこんでしまいました、scheduleに関してはVIでよさそうです。昨年のneuroscience meetingでのポスターでも本人がそういっていたのを記憶しています。また、すでに気づいているかもしれませんが、:”Matching and maximizing are two ends of a spectrum of policy search algorithms.”が自分のlectureをrmで公開していて、その中でも「最近査読したのだが」とことわってこの論文について説明しています。一見してみてはいかがでしょう?

# pooneil

mmrlさん、ありがとうございます。すごい助かりました。H. S. Seungですね。rmってのがわからなかったのですが、http://hebb.mit.edu/courses/9.29/2004/lectures/index.html ここから探したどこか、ということでしょうか? 是非知りたいので教えてください。しかしここにはHerrnsteinの論文とかが載ってて劇的に助かります。

# mmrl

ええ、それですね、その中のlecture 6の中でLeoの論文について触れています。学部生向けの講義かもしれませんが、かなりやさしいところからふれてくれていて、問題のHerrensteinの論文も解説してくれてます。lecture 7と8の前半あたりでは、参考文献にあげられていたSeung自身の学習モデルの話を解説しています。そのあとは、どうやらゲーム理論の話をはじめていましたが、その後まで到達していません。Leeさんの話も出てくるのかな?それから、rmというのは realvideoというリンクをクリックするとreal playerで視聴できるということです。しかしこの人査読したからって、未発表論文の解説をwebで公開するってのはよいんだろうか...

# pooneil

mmrlさん、ありがとうございます。realvideoのことですね。失念しておりました(昔インストールしたreal playerは消してしまった)。聴いてみます。Newsome論文のacknowledgementにH. S. Seungって入っているんですよね。ということはあらかじめSeungに読ませておいてからrefereeとして廻ったということだろうか。それならうまくやった、という感じかもしれない。もう一人のrefereeは神経生理学者として、三人目に本当のmatching lawの専門家(HerrnsteinとかMazurとか)がrefereeに入ってたかどうか重要そうです。
この論文に関するコメントを再開しました(6/29)。あと2、3日続く予定です。

コメントのスタイルシート。長文書き込み歓迎。

コメントのスタイルシートをいじってみました。参考サイト:deadman ― 今日死んだ人 6/18。ソースはARTIFACT
コメント欄をもっと目立たせようというわけです。名前の前に本文のキャプションと同じ四角を入れたいのだけれどうまくいかないなあ。


2004年06月21日

Science 6/18

"Matching Behavior and the Representation of Value in the Parietal Cortex." William T. Newsome @ Stanford University School of Medicine。 ("Matchmaking."にPeter Dayanによる解説あり。)
6/17に「Newsome苦戦しているな」と書いた矢先でいきなり登場です。
Decision makingをmaching theoryを使って説明して、さらにそれのneural correlateを見つけた、という論文です。関連すると思われる論文に

があります。このあいだ行った玉川大のシンポジウムにDaeyeol Leeが来てましたが、かなりデキる感を漂わせてました。むちゃくちゃ早口だったけど。でもって、Nature Nueorscience '04は左右どちらが当たりかのあてっこゲームで動物の選択戦術に合わせてコンピューターが戦術を変えたときのprefrontal cortexのニューロンの活動を記録した、というものでした。そうするとニューロンは前のtrialで左右のどっちを選んだかとか、前回報酬が与えられたか、といったと情報をもっているいうことがわかったというものです。これがまたreinforcement learningの式を持ってきてそのvalue functionがtrialごとに変化していくのと対応付ける、ということになってなんか数式がガンガン出てきてなかなか読むのがたいへんでした。
今回のNewsome論文もなかなか手ごわそうですが、journal clubで採り上げようかと思うので、これ読んでみることにします。
まず、Peter Dayanによる解説を読むと、なにげにボロボロです。
今日はここまで。

「NatureとScienceに載った論文リスト」マイナーアップデート

せっかくPlatt and Glimcher論文のリンクを作ったので、6/17のテーブルにもタイトルとリンクをつけてみました。これからこの表にある論文をリンクすることがあったらそのついででアップデートしていくことにします。一挙にやるのは厳しいし。あ、テーブルから論文の説明へも飛べるようにしておくといいかも。


2004年06月19日

Svoboda研 安田さん

"アメリカでラボを持ちたい ! テニュアトラックへの道" Svoboda研 安田さんのホームページ。
"Making the Right Moves" Howard Hughes Medical Institute。
ソースはshima’sLog 6/18のコメント欄


2004年06月18日

NatureとScience

pooneil2004-06-18
つづき。掲載論文数の推移のグラフを載せときます。Natureが2003年からガタっと落ちていて、Scienceは逆にそのへんでいちどピークを迎えたことがわかります。

PLoS biology 6月号

にはシステム系の論文がありました。なんかほっとしてたり。
"Electroencephalographic Brain Dynamics Following Manually Responded Visual Targets." Sejnowskiのところからです。
そろそろ有名ラボ以外からの論文も出てくるとよいと思うのだが、今のところ有名人偏重もしくは依頼原稿と思われても仕方がなさそうな感じですな。
で、今回の論文はおそらくは前報のScience '02 "Dynamic Brain Sources of Visual Evoked Responses."の続きかと思われます(どっちもEEGをICAしてsingle-trialレベルでの信号を見ようとするものだし)が、referしてないようです。なんで?

ガヤ日記が公開終了

してしまいました。ガヤ日記が私を含むコミュニティーに与えた影響は大きかったと思うし、私のこの日記はガヤの書き込みやガヤ日記での紹介によっていろいろと恩恵を受けていましたし、そもそも読者として楽しませてもらってました。非常に残念です。またいつかガヤの考えていることについてネット上でいろいろやり取りできる日が来たらいいなと思います。いままでどうもありがとう。

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# ガヤ

暖かいお言葉をありがとうございます。やむをえず日記公開休止に踏み切ったことで読者からメールを何通かいただきまして、正直「早くも休止解除か」と心が動かないわけではないのですが(爆)、でも、これからはこういう形で頻繁に顔を出させていただきますね。よろしくお願い致します。
ところで17日の日記の最後。今日見たら消去線が入っていますね。残念。

# pooneil

うん、ぜひまた書き込んでください。ここでネタ振るのも歓迎です。
イヤー、誰もやってくれなかったら自分でやります>>論文リスト。論文の説明自体は、こうやって毎日論文コメントを出してゆくと網羅できそうな気もしてきました。


2004年06月17日

NatureとScience

私の分野でNatureとScienceに載った論文リストというのを以前作ったことがあるのですが、これをアップデートして載せておきます。Nature/Science主義の弊害みたいなのを踏まえつつ、ご覧いただければ。
1999年から現在までです。タイトルはなくしてしまいました。今のところ著者から推測するしかありません。単純な検索で作ったので漏れがあるかもしれません。私の分野でほかにご存知ならお知らせください。日本人による日本での仕事には水色を、日本人による海外での仕事には緑色を塗ってあります。
分野としてNatureに載ることがものすごく減り、2003年以降、Natureは日本人の論文をまったく採らなくなったことがわかります。(1988年あたりからのNatureについても作ったことがあるのですが、そのときのうろ覚えでは、そもそも以前は私の分野の論文は年に数本しか掲載されていなかったし、ここ近年はがものすごく増えてきて、それをNature Neuroscienceが発刊(1998年5月)されることで吸収されて、現在だんだん停滞している、というのが主な流れであるといえます。)
この表は私の分野においてはScienceよりNatureのほうが片寄っているというかへんなセレクションであることを示す証拠のひとつです。これはNatureはもはや行動中のsingle-unitを記録してneural correlateを見つけるというような主流でありつづけた研究はとらなくなった、ということでもあります(そこでneural prosthesisがもてはやされて軍の金が投入されることになったりする)が、その代わりに光るものを持ってきているかというとそれは疑問です。また、このことはNatureの編集者が怠慢か力不足で編集会議で他の分野を担当する編集者とのあいだでの戦いに負けつづけていることを示しているとも言えるかもしれません。すくなくともこの一、二年はScienceの方がよっぽど面白い論文を出していると私は思ってるのですが、いかがでしょうか?

Journal Year Month Day Vol. Page Authors
Science 2004 May 7 304 878-880 Clarke HF, Dalley JW, Crofts HS, Robbins TW, Roberts AC
Science 2004 Apr 9 304 307-310 Roesch MR, Olson CR
Science 2004 Feb 6 303 853-856 Wang M, Vijayraghavan S, Goldman-Rakic PS
Nature 2004 Jan 29 427 448 - 451 Poremba A, Malloy M, Saunders RC, Carson RE, Herscovitch P, Mishkin M
Science 2004 Jan 16 303 380-383 Schwartz AB, Moran DW, Reina GA
Science 2004 Jan 16 303 377-380 Fitch WT, Hauser MD
Nature 2003 Dec 11 426 668 - 671 Chatterjee S, Callaway EM
Science 2003 Oct 31 302 881-885 Chen LM, Friedman RM, Roe AW
Science 2003 Oct 3 302 120-122 Ito S, Stuphorn V, Brown JW, Schall JD
Science 2003 Aug 29 301 1246-1249 Fujii N, Graybiel AM
Nature 2003 Aug 7 424 674 - 677 Krekelberg B, Dannenberg S, Hoffmann K-P, Bremmer F, Ross J
Science 2003 Jul 11 301 233-6 Ohbayashi M, Ohki K, Miyashita Y.
Science 2003 Jul 11 301 229-32 Matsumoto K, Suzuki W, Tanaka K.
Science 2003 Jun 13 300 1758-63 Sharma J, Dragoi V, Tenenbaum JB, Miller EK, Sur M.
Science 2003 Jun 6 300 1578-81 Wirth S, Yanike M, Frank LM, Smith AC, Brown EN, Suzuki WA.
Nature 2003 Jun 26 423 937-8 ASIF A. GHAZANFAR AND NIKOS K. LOGOTHETIS
Science 2003 May 2 300 812-5 Leventhal AG, Wang Y, Pu M, Zhou Y, Ma Y.
Science 2003 Mar 21 299 1898-902 Fiorillo CD, Tobler PN, Schultz W.
Science 2003 Feb 14 299 1073-5 Barbour DL, Wang X.
Science 2003 Jan 24 299 568-72 Poremba A, Saunders RC, Crane AM, Cook M, Sokoloff L, Mishkin M.
Science 2003 Jan 3 299 81-6. Bisley JW, Goldberg ME.
Nature 2003 Jan 30 421 535-9 Xiao Y, Wang Y, Felleman DJ.
Nature 2003 Jan 23 421 370-3 Moore T, Armstrong KM.
Nature 2003 Jan 23 421 366-70 Thiele A, Stoner G.
Science 2002 Oct 18 298 572-6 Adams DL, Horton JC.
Science 2002 Oct 11 298 413-5 Vanduffel W, Fize D, Peuskens H, Denys K, Sunaert S, Todd JT, Orban GA.
Science 2002 Oct 11 298 409-12 Tsutsui K, Sakata H, Naganuma T, Taira M.
Nature 2002 Oct 10 419 616-20 Ghose GM, Maunsell JH.
Science 2002 Sep 27 297   Ricaurte GA, Yuan J, Hatzidimitriou G, Cord BJ, McCann UD.
Science 2002 Sep 20 297   Hoffman KL, McNaughton BL.
Science 2002 Sep 6 297 1708-11 Nieder A, Freedman DJ, Miller EK.
Nature 2002 Sep 12 419 157-62 Fukushima K, Yamanobe T, Shinmei Y, Fukushima J, Kurkin S, Peterson BW.
Science 2002 Aug 2 297 846-8 Kohler E, Keysers C, Umilta MA, Fogassi L, Gallese V, Rizzolatti G.
Nature 2002 Aug 8 418 633-6 Cumming BG.
Nature 2002 Jul 25 418 413-7 Lauwereyns J, Watanabe K, Coe B, Hikosaka O.
Science 2002 Jun 7 296 1829-32 Taylor DM, Tillery SI, Schwartz AB.
Nature 2002 Jun 27 417 938-41 Gribble PL, Scott SH.
Science 2002 May 31 296 1709-11 Shidara M, Richmond BJ.
Science 2002 May 24 296 1480-2 Sommer MA, Wurtz RH.
Nature 2002 Apr 11 416 632-6 Buneo CA, Jarvis MR, Batista AP, Andersen RA.
Science 2002 Mar 29 295   Froehler MT, Duffy CJ.
Science 2002 Mar 29 295   Thiele A, Henning P, Kubischik M, Hoffmann KP.
Nature 2002 Mar 14 416 141-2 Serruya MD, Hatsopoulos NG, Paninski L, Fellows MR, Donoghue JP.
Science 2002 Feb 22 295 1532-6 Nakahara K, Hayashi T, Konishi S, Miyashita Y.
Science 2002 Feb 15 295 1314-6 Klier EM, Wang H, Constantin AG, Crawford JD.
Science 2002 Feb 1 295 862-5 Seidemann E, Arieli A, Grinvald A, Slovin H.
Nature 2002 Feb 21 415 918-22 Sawamura H, Shima K, Tanji J.
Nature 2002 Jan 10 415 165-8 Toth LJ, Assad JA.
Nature 2002 Jan 17 415 318-20 Sigala N, Logothetis NK.
Science 2001 Dec 21 294   Reich DS, Mechler F, Victor JD.
Science 2001 Dec 7 294 2127-30 Kornack DR, Rakic P.
Nature 2001 Dec 20-27 414 905-8 Pack CC, Berezovskii VK, Born RT. "Dynamic properties of neurons in cortical area MT in alert and anaesthetized macaque monkeys."
Nature 2001 Sep 13 413 161-5 Scott SH, Gribble PL, Graham KM, Cabel DW.
Nature 2001 Aug 2 412 549-53 Schoups A, Vogels R, Qian N, Orban G.
Science 2001 Jul 6 293 120-4 Super H, Spekreijse H, Lamme VA.
Nature 2001 Jul 5 412   Waelti P, Dickinson A, Schultz W.
Nature 2001 Jul 12 412 150-7 Logothetis NK, Pauls J, Augath M, Trinath T, Oeltermann A.
Nature 2001 Jun 21 411 953-6 Wallis JD, Anderson KC, Miller EK.
Science 2001 Apr 13 292 297-300 Yabuta NH, Sawatari A, Callaway EM.
Science 2001 Apr 13 292 290-3 Tian B, Reser D, Durham A, Kustov A, Rauschecker JP.
Nature 2001 Apr 19 410 933-6 Martin PR, Lee BB, White AJ, Solomon SG, Ruttiger L.
Science 2001 Feb 23 291 1560-3 Fries P, Reynolds JH, Rorie AE, Desimone R.
Nature 2001 Feb 22 409 1040-2 Pack CC, Born RT. "Temporal dynamics of a neural solution to the aperture problem in visual area MT of macaque brain."
Science 2001 Jan 12 291 312-6 Freedman DJ, Riesenhuber M, Poggio T, Miller EK.
Science 2001 Jan 26 291 661-4 Naya Y, Yoshida M, Miyashita Y.
Nature 2001 Jan 11 409 191-4 Tanaka M, Lisberger SG.
Science 2000 Dec 1 290 1786-9 Hasegawa RP, Blitz AM, Geller NL, Goldberg ME. "Neurons in Monkey Prefrontal Cortex That Track Past or Predict Future Performance"
Science 2000 Dec 1 290 1782-6 Graziano MS, Cooke DF, Taylor CS.
Nature 2000 Dec 21-28 408 971-5 Zhang M, Barash S.
Nature 2000 Dec 14 408 857-60 Stuphorn V, Taylor TL, Schall JD.
Nature 2000 Nov 23 408 466-70 Hoshi E, Tanji J.
Nature 2000 Nov 16 408 361-5 Srinivasan MA, Nicolelis MA.
Nature 2000 Oct 26 407 1003-7 Gamlin PD, Yoon K.
Science 2000 Jun 16 288   Janssen P, Vogels R, Orban GA.
Nature 2000 May 18 405 347-51 Fuster JM, Bodner M, Kroger JK.
Nature 2000 May 4 405   Thier P, Dicke PW, Haas R, Barash S.
Science 2000 Mar 17 287   Castner SA, Williams GV, Goldman-Rakic PS.
Nature 2000 Mar 9 404 187-90 Steinmetz PN, Roy A, Fitzgerald PJ, Hsiao SS, Johnson KO, Niebur E.
Nature 2000 Mar 2 404 77-80 Orlov T, Yakovlev V, Hochstein S, Zohary E.
Science 2000 Feb 25 287 1506-8 Rollenhagen JE, Olson CR.
Science 2000 Feb 18 287 1273-6 Vinje WE, Gallant JL.
Science 1999 Oct 15 286 548-52 Gould E, Reeves AJ, Graziano MS, Gross CG.
Nature 1999 Oct 14 401 699-703 Tomita H, Ohbayashi M, Nakahara K, Hasegawa I, Miyashita Y.
Nature 1999 Oct 7 401 590-4 Prut Y, Fetz EE.
Science 1999 Sep 24 285   Kakei S, Hoffman DS, Strick PL.
Science 1999 Sep 17 285   Moore T.
Nature 1999 Sep 16 401 269-72 Sugita Y.
Science 1999 Aug 27 285 1405-8 Muller JR, Metha AB, Krauskopf J, Lennie P.
Nature 1999 Aug 26 400 869-73 Sugase Y, Yamane S, Ueno S, Kawano K.
Nature 1999 Jul 15 400 233-8 Platt ML, Glimcher PW. "Neural correlates of decision variables in parietal cortex"
Nature 1999 Jun 10 399 575-9 Treue S, Martinez Trujillo JC.
Nature 1999 Jun 3 399 470-3 Romo R, Brody CD, Hernandez A, Lemus L.
Science 1999 May 14 284 1158-61 Horwitz GD, Newsome WT.
Nature 1999 Apr 22 398 704-8 Tremblay L, Schultz W.
Science 1999 Mar 12 283 1752-7 Carpenter AF, Georgopoulos AP, Pellizzer G.
Nature 1999 Mar 18 398 239-42 Trotter Y, Celebrini S.
Nature 1999 Feb 4 397 428-30 Graziano MS, Reiss LA, Gross CG.
Science 1999 Jan 22 283 549-54 Usher M, Cohen JD, Servan-Schreiber D, Rajkowski J, Aston-Jones G.

いろいろツッコミどころはあります。Earl Miller落ちぶれたなあとかNewsome意外に苦戦しているとか。Pack and Bornが一年に二度Natureに載る価値があったろうか、とか。最近話題にしていた人がたくさん載っていて、けっこうすでにいろいろ言及していること(ScottやらMooreやら)。Peter Thier小脳もやってたのか!とか。
ところでこの表の全部にタイトルとfull textへのリンクを付けて各論文の簡単な説明をつけたらかなり有用になることに気付いてしまった。いつかやるかも。 どなたかやってみませんか?

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# mmmm

Newsome、満を持して出てきましたね。

# pooneil

書いてたらいきなり来ましたね。>Newsome。しかもなんかはやりのゲーム理論っぽいやつ。ぜひ、読んでみたいと思います。とはいえ、この間のNature Neuroscienceのやつとか、急速に難解化しているんで読めるかどうか自信はありません。

# pooneil

この論文で使っているのはmatching theoryであってゲーム理論ではありませんでした。訂正します。数理的に難しくはなさそうだけど、conceptualにけっこう難しそうです。


2004年06月16日

禁煙セラピー つづき。

禁煙セラピー つづき。
(以下ネタバレ注意)つまりこれはどういうことかというと、「禁煙セラピー」のときは「タバコの味ってじつはまずいよね」ということをよく実感するところが胆なのわけだけれど、「ダイエットセラピー」になるとこれに代わって(たとえば)「牛乳って大人は必要としてないよね」というのを植え付けようとしているわけです。前者はタバコを吸ったことのある者なら誰でも共有している実感であるのに対して、後者は実感として受け止めるには訓練が必要だし、理屈としても不充分である、ということだと思うのです。
私が「ダイエットセラピー」を書くとしたら、「食べ過ぎたときって気持ち悪いよね」とか「なんか味わわずに口に詰め込んじゃってる食事ってつまらないよね」といったような実感に直接訴えかけるものを植え付ける方向に行くと思います。実際、これらは私がダイエットに成功したときにずっと頭の中をまわりつづけていた言葉です。*1


*1:半年で27kg落とした人間の言うことですので、どこか病的な部分がある可能性は否定しませんが。

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# 宮崎

はじめまして。

ダイエットセラピーの効果を確認するために多くのblogを覗いているものです。

「食べ過ぎたときって気持ち悪いよね」とか「なんか味わわずに口に詰め込んじゃってる食事ってつまらないよね」といったような実感に直接訴えかける

というのは達見だと思います。

僕の感想をネットラジオにしたので聴いてみてください。
http://www.voiceblog.jp/booknavi/9666.htm

# pooneil

どうもありがとうございます。しかし私の方はといえば、思いっきりリバウンド中です。では。

いきなり自分語り

私はそういう意味ではずっと前から、クオリアなんて言葉を使わなくてもクオリア派だったし、感覚と感情とを何度でも取り返しながらやり直してきた偽phenomenologistだったのです。禁煙のときもそうだったのですが、そうやって深呼吸して、もう一回同じものを違うように見直してみる、それが私にとっての原点だったのです。帰り道、ゆっくり歩いているのを実感しながら、何度でも生きていることを実感しなおしているのです。

PNAS

"Parietal cortex and representation of the mental Self."
以前貼っただけのものだが、introductionの最初のパラグラフがすごい。哲学書だ。


All subjective experience may be seen as self-conscious in the weak sense that there is something it feels like for the subject to have that experience. We may at times be self-conscious in a deep way, for example, when we are engaged in figuring out who we are and what we are going to do with our lives, a distinctly human experience giving organization, meaning, and structure to life. In its absence, our representation of ourselves and our world becomes kaleidoscopic and our life chaotic.

二つの"self-conscious"について分けて扱おうとしているわけだが、後者はこりゃ実存って感じだね。


2004年06月15日

Nature 6/10

"Temporal difference models describe higher-order learning in humans." RAYMOND J. DOLAN, KARL J. FRISTON & RICHARD S. FRACKOWIAK

禁煙セラピー

禁煙セラピー 禁煙セラピー
Gardenerさん 6/12のところで「禁煙セラピー」の話題が出ている。おお! 私もこれを読んで禁煙に成功したのです。喫煙歴5年、最盛期で一日2箱ぐらいからのことでした。こう書いてみるとたいしたこたあない。
以前そのときのことを書いたのが 00/01/11のエントリ。(追記:この本はネタバレせずに読んだ方が効果があります。上のリンクはこれからこの本を読むつもりのある方が読むとネタバレしてしまいます。注意。)今見直してみるとしょぼいな。ニコチンの薬理の続きをちゃんと書かなくては。
今でもまったく吸ってません。興味深いのは、禁煙直後しばらくあった、禁を破ってタバコを吸ってしまう、という夢さえ見なくなったということです。そう、私はついに打ち勝ったのだ! たぶん。禁煙はダイエットより楽です。食べないわけにはいかないからなあ。
勢い余って同じ作者の「読むだけで絶対やせられるダイエット・セラピー」という本も読んでみたのだが、これはダメだった。何を食べるのがいいかというアドバイスがあるんだけど、日本に生まれてよかったというか。牛乳を敵視していて、コーンフレークにオレンジジュースをかけろだと。ヴェ。

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# Gardener

はじめまして。pooneil さんも同士だったとは。一方『ダイエット・セラピー』なんですけれど、そもそもこれはアレン・カーのオリジナルのものではなく、明確な元ネタがある話と思われ(ハーヴィー・ダイヤモンドとか)、僕もあまり高く評価していません。脳科学と関係なくてすみません。

# pooneil

Gardenerさん、書き込みどうもありがとうございます。元ネタがあるのですか。やっぱり一番面白いのは『禁煙セラピー』の[「太陽政策」的メソドロジーによるセラピー]的側面でしょうね。Gardenerさんのこの切り口からのエントリーを期待しております。


2004年06月14日

匿名性うんぬん

つづき。
というわけでもうひとつの障壁、匿名性をこのページから排除しなければならないと思いました。いままで私のこのページは自分の名前を入れないようにしておきましたが、それは(1) はてなの文化を尊重しよう、(2) 荒らされたくない、その他いくつかの理由があったのです。んで、ある程度ネットのことがわかっている人なら私のniftyの本サイトを見つけて本名もわかるようにしてあるつもりだったのです。ところがこのあいだ、後輩に会ったときに聞いたら彼にはたどりつけなかったらしいんです。日記が始まった頃の記述に本サイトの文をコピペしているのでそれでググればよいのですが。彼にわからないようではかなりネットに精通している方でも無理であるということです。私がこの日記にinvolveしたいのはネットで活動しているシステムニューロサイエンティスト(すでにそういう方には見つけてもらっていると思います)だけではなくて、そんなにネット慣れしていないシステムニューロサイエンティストなのだから、これではまずいようです。「ハンドルネームしか知らない相手に「人格」を認めて、対話できますか?」の答えがNoの方でもここを読み書きしてもらいたいと私は思っていることがわかりました。
というわけで、やっぱり本名を出したほうがよさそうです。(2)の問題しだいなのですが、いまのところこれで困ったことはありません。(1)は思ったほどきつくないような気がしているので、やるなら本サイトへのリンクだけこのページのヘッダに入れて、名前はpooneilさんで通すことにしようかと思います。
ところでひとつ考慮しなければならない点があります。それは今までコメントを書いていただいていた方がそれで迷惑をすることはないか、ということです。匿名(ってほどのことでもなかったんだけど)だから書きこんだのに名前を出されては困る、ということはないかと。見た限り大丈夫だと思いますけど、まずかったらご連絡ください。一週間ぐらいしてから実行することにしますので。

Nature AOP

に河西研の松崎くんの論文が載っている。ソース。すげー。おめでとうございます。
"Structural basis of long-term potentiation in single dendritic spines."
海馬スライスのspineをtwo-photonで長時間imagingする。LTPを誘導させると、small spineが膨張しつづけるが、large mushroom spineではこの膨張は一時的で元に戻る。なんてわかりやすいんだろう。すばらしすぎる。
追記:リンクが切れていたので直しました。


2004年06月12日

コンピュータ世代とネット世代、匿名性うんぬん

"Doblog - デジモノに埋もれる日々 -" 私たちがネットを通して見ているもの・築いていくもの。コンピュータ世代/ネット世代の違い。ソースは"梅田望夫・英語で読むITトレンド" インターネット世代論・再び


  • コンピュータ世代の人は、コミュニティに於けるコミュニケーションを、「価値ある情報に近づくための手段だ」と考えることが多いようです。情報交換を重ねて、価値ある情報という「結果」が得られれば目的が達成できる、その過程に於ける対話は手段でしかなく、結果が生み出せない対話は価値が薄い、と。
  • ネット世代の人は、コミュニティに於けるコミュニケーションそれ自体を、生活に於ける「娯楽」の要素として捉えていることが多いようです。そこに於いては、より良い情報が引き出せるかどうかは「二の次」であり、その過程に於ける対話の連続そのものに楽しみを見出しているのだ、と。("Doblog - デジモノに埋もれる日々 -" 私たちがネットを通して見ているもの・築いていくもの

私ははてなでは「価値ある情報に近づくための手段だ」を求めていますし、2ちゃんねるを見るときは「コミュニケーションそれ自体を、生活に於ける「娯楽」の要素として捉えている」と言えます。つまり一人の中でも二つの要素がありうるというあたりまえな指摘です。
私自身はおそらく今も基本的には「コンピュータ世代」であります。2ちゃんねるを読み書きしだしたころは議論ができる可能性を信じていたのですが、今はあきらめています。それはようするにネット世代の場所でコンピュータ世代が議論をしようとしたという間違いだったのです。そういうわけで私は生物板や心理学板のようなところに行くのは止めて、趣味関連の板に行ってアホなレスの応酬を楽しんだりするようになったのです。そういう意味での2ちゃんねるは大好きですし、ネットで戯れる喜びというものもわかってはいるつもりです。
一方でまともに議論できる場を作りたいと思ってこのはてなでの日記を作ったのですが、今のところ、ここで書き込みをしてくれて私が十分うまくコミュニケーションできたと思う方はリアルの世界で私がどなたか存じ上げている方々がほとんどです。私自身はリアルでご存知ない方にも書き込んでいただきたいと思っているのですが。いまのところわたしがまだネット世代の感覚というものに慣れていないことを反映してしまっているのかもしれません。
それから踏絵。
A.あなたは、ハンドルネームしか知らない相手に「人格」を認めて、対話できますか?
B.あなたは、ハンドルネームも無い匿名の相手に「人格」を認めて、対話できますか?
C.あなたは、ネットでのみの関わり合いを、自分の「生活」の一部として認めていますか? ("Doblog - デジモノに埋もれる日々 -" 私たちがネットを通して見ているもの・築いていくもの
はてなでの私は気持ちとしてはYes, No, Yesですが現状はYes, No, Noになっています。2ちゃんねるでの私はYes, Yes, Yesですが。はてなではなるたけ2ちゃんねるノリは排除していくつもりです。以前はキター、とか書いてたりしたけど、書き込んでもらいにくくなるなと思って抑えるようにしました。私が批判的なことを書いたとしても、批判された方が日記を見て2ちゃんねるノリ(wとか)で書いてあるのを見たらきっと議論しても意味ないんだろうなと思われてもしかたないです。そうだわかった。私がここでやりたいことはコンピュータ世代もしくはあまりネットに繋がないようなニューロサイエンティスト(私も含めて彼らはたいがい実験で忙しくて、ネットにつなげっぱなしの生活をしていない)をinvolveしていくということなんだ。というわけでもうひとつの障壁、匿名性をこのページから排除しよう。つづく。

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# mmmm

“コンピュータ世代もしくはあまりネットに繋がないようなニューロサイエンティスト(私も含めて彼らはたいがい実験で忙しくて、ネットにつなげっぱなしの生活をしていない)をinvolveしていくということ”をしたいのは何故なのか知りたいです。すでにどこかで意見表明されているのでしょうか。ネットに繋がない人にはリアルな世界でしか情報を伝えられないので、ネット外でこのサイトを宣伝する必要があると思いますが。

# pooneil

mmmmさん、お久しぶりです。コメントありがとうございます。まず、私は「ネットに繋がない人」をinvolveしたいのではなくて(それはさすがに無理)、「あまりネットに繋がない」人をinvolveしたいのです。そしてそれはなぜかといえば、そういう人のほうがネットにどっぷりはまっている人よりはおそらくはずっと人数として多いのであって、そういう人をinvolveしていかないとこの日記の議論、というか話題が展開していかないからです。このことについてはべつにどっかリアルの世界で意見表明しているわけではありませんが、幅広く話題を提供してゆくことでもっと多くの人が興味を持って読み書きしてくれることを期待して、コンテンツを充実させているところです。それしかないと思ってます。


2004年06月11日

時系列データの解析でのMixed modelの使用

ガヤ、日記でのコメントありがとう。ほんとうにMANOVAでいいのかはよくわからないことだけ付け加えておきます。私が知っているかぎり、被験者をrandom effectにとって時系列の向きをfixed effectにとるmixed modelでやるべきと書いてある本もあります。


…多変量正規分布モデルでは、同一薬剤iを与えられた被験者の観測値は一定の正規分布N(μi,Ω)に従うものと見なされ、薬効は平均ベクトルμiを変化させるものと仮定されている。ところがこの種のデータでは、薬剤が平均ベクトルと同時に分散行列も変化させることが現実によく観察される。そのような状況では、次節の混合モデルの方が合理的である。「実験データの解析 分散分析を越えて」 広津千尋 共立出版 10章 p.311)

私自身はいまだにこのへん理解できてません。いや、fMRI関連で調べたりしたことはあるのですが。
追記:12:40 このことに関してSPSS ときど記(30)に有用な情報があります。
反復測定(測度)(repeated measures)の分散分析はこの20年に何度も技術革新が起こった分野だ。
(1)ランダム効果(乱塊法)の一つの計画である,randomized block design,split-block design として捉えて分析する。これが古典的な反復測度の分散分析の仕方。
(2)自由度を調整して分析。
(3)MANOVAで分析。
(4)SASのproc mixed で分析する。
(5)自分でモデルを組みSEM(または共分散構造分析)で分析する。
つまり、私が書いていた自由度の調整->MANOVA->Mixed model、というのはまんま上の(2)->(3)->(4)だったのです。というかこのページ見るのは初めてじゃないんで、たぶん受け売りだったのでしょう。

Surf's Up

私はThe Beach Boysは"Pet Sounds"と"Smiley Smile"と"Loves You"しか聴いたことがなくて、Pet Sound原理主義者でしたが、ベスト版を発見しました。表がサーフィンしてる絵で、裏が水着の女性、というステロタイプというかダサいジャケットのやつ。んでもって、Surf's Upを聴きました。Smileで完成できなくて結局あとのアルバムで収録された伝説だけ知っていて、期待して聴いたのだけれど、なるほど、これはいい。単に二つのピアノ弾き語りをくっつけただけのようなぶっこわれた構成、そして地味だがだんだんクルすばらしいメロディ。というわけで最近は車でこれを歌ってます。カーラミネイテドルーインズドオーミーノー(高くて声出ない)。


2004年06月10日

Chronostasis

つづき。
それでは2の両者に関する論文をまとめましょう。
時間:

空間:
ま、両者は最終的には統合されるべきものであり、この分類に馴染まないものも入ってはいますが、とりあえず。
追記21:51 Succadic suppressionでできた認知の時間的ギャップが前後の時間によってfilling-inされる、という説明は下にも書いたような盲点の空間的ギャップを周りの表象によってfilling-inされてしまう、といった議論から来ています。後者自体はDennettが否定的に扱って、fillin-inしているのではなくてそのギャップを無視しているだけなのだと言います。それをLuiz Pessoa and Alva NoeのBBS論文でさらに否定的に扱います。そのようなfilling-inのneural correlate ("neural filling-in")の実例として小松先生のところから出たV1の盲点を表象する領域でのニューロンの応答に関する報告(JNS)は非常に重要です。


2004年06月09日

Chronostasis

我々は平均して一秒に三回目をきょろきょろさせる動き(サッケード)を行っております。しかしそのサッケードのときに我々の網膜にはかなりすごい速さでの動きが写っているはずなのですが、我々はサッケード時の網膜像の動きで気持ちが悪くなったりはしません。これはいくつかのメカニズムによって脳が達成していることがわかっています。

  1. サッケードが起こっているときの網膜像を脳に送らないようにゲートする、"saccadic suppression"。
  2. サッケード前の知覚像とサッケード後の知覚像とをシームレスにつなぐためにsaccadic suppressionによる空白を時間的、および空間的に"filling-in"(充填)してしまう。(盲点の空白は空間的に充填されてしまっていることを思い起こすとよいでしょう。)
この二つがあります。1のsaccadic suppressionについては今回はとりあげません。
2のうちの時間的なfillin-inがchronostasisというillusionを起こしていると考えられています。これについてはHaggard and Rothwellが研究しつづけています。
一方、2のうちの空間的なfillin-inはMorroneがさかんに研究しつづけています。
2の時間的なillusion(Chronostasis)の説明については森山和道氏の北澤先生へのインタビューページを参照してください。私なりに書いてみますと、時計の秒針が動いているのをどっか別のところをいったん見てから、ぱっと目を動かしてまた時計の秒針を見てみてください。すると、見た瞬間の秒針が一瞬止まったように見えないですか? これはつまり人間の脳の働きでして、秒針に目を動かしたときに入ってきた画像が目を動かすのにかかる時間(50msとか)だけさかのぼって続いていたように脳が解釈しなおしてやる、ということによって起こるillusionなのです。
一方、2の空間的なillusionでは、saccadeしている途中で光点をフラッシュさせると、その光点の位置がsaccadeの行き先に近づくようにずれて知覚する、というものです。つまり、saccadeの途中で一時的に、我々の空間像はそのsaccadeの行き先に向かって縮んだように変化するのです。
また、これらについてのニューロンメカニズムとして、Duhamel and GoldbergのScience '92のLIPでのpresaccadic remapping、および以前も言及したTirin MooreのScience '99でのV4でのアナログがありますが、これからもっといろいろ出てくることでしょう。
それでは2の両者に関する論文をまとめましょう。
続く。

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# 藤田昌彦

"saccadic suppression"の説明ですが,もしこれがVolkmann (1978) に基づくものなら,論文に記載された通りに,彼女の用いた刺激は極めてコントラストの低いものです.この抑制は存在しても極めて弱く,これで日常生活の"saccadic suppression"は説明できません.Saccade最中も視覚像は脳に伝わっており,むしろマスキングに基づくsaccadic omissionという説が確かだと考えます.
F. W. Campbell, and R. H. Wurtz: “Saccadic omission: why we do not see a grey-out during a saccadic eye movement.”, Vision Res, 18, 10, pp. 1297-1303 (1978)

# pooneil

生理研の吉田です。コメントどうもありがとうございます。最新のエントリ(20080721)に転載させていただきました。そちらでコメントも作成しております。


2004年06月08日

Nature 2/19

"Whisker movements evoked by stimulation of single pyramidal cells in rat motor cortex." BRECHT and SAKMANN @Max Planck Institute for Medical Research。
これがラボのjournal clubで採り上げられました。私が疑問に思って指摘したところについてはここで書いてもいいでしょう。
まず、single neuronへの刺激でそのニューロンにたった二個のspikeを引き起こしただけでヒゲが動いた(fig.4gより、二個のspikeでもゼロ個のスパイクのときよりは有意にヒゲが動いているニューロン刺激の例がある)、ということは非常に印象的であり、まずはこの結果を疑ってみる必要があるでしょう。
まずは刺激電極が刺しているニューロン以外を刺激している可能性はないでしょうか。この点について今回の実験だけからではまだ私は説得されませんが、とりあえずこういう実験をすればよい、というのはあります。つまり、ピペットにQX314を入れてwhole-cellにしているニューロンのspikeが発生しないようにするのです。これによって、刺激されているニューロンでのspike発生以外のアーティファクトの寄与を検証することが出来ます。しかし、著者はやっていないようです。そのうちそういう結果が出てくれば私もこの結果かなり信じられます。
たった二個のspikeからヒゲが動いてしまってよいものか。ニューロンには自発的な活動があるわけでして、そのような二個のスパークのバーストは自然に起こっています。だとしたら、そのニューロンの二個のspikeからなるバーストでもってヒゲの動きをspike-triggered averagingをしてやればそのニューロンのバーストに対応してヒゲが動くのが見られるかもしれません。これを示すことが出来たら、かなり彼らの結果は信頼性があると言えます。もっとも、自発的活動には時空間的構造があるわけで、あるニューロンでバーストが起こっているときにほかのニューロンも同期してバーストしていたりするような、whole-cellで刺激するときとは違った条件になっているかもしれません。この可能性があるので、まったくの保証があるわけでもありません。
以上の点について続報が出てきたあたりでこの論文の結果を信用することにしたいと思っております。
ついでに二つ:
ヒゲがリズミックに動いているかどうか。ヒゲが一回動いたら、ヒゲには弾力があるのだから、たんにヒゲの振れがそれで続いて減衰しているだけかもしれません。もちろんこれについてはヒゲを支配しているmotoneuronからの記録をして決着をつければいいだけです。
自発的なヒゲの動きがないようなデータばかり出していて、後になって(Fig.5c-e)から自発的なヒゲの動きのある場合(しかもこっちの方が多そう)を出してくるのは感じが悪い。
いろいろ文句をつけたけど、面白いのは間違いない。刺激されたニューロンとその周りで結合しているニューロンとがどのように活動してどのようにmotoneuronを活動させるか、イメージが膨らみます。


2004年06月07日

週末は人少ない説

pooneil2004-06-07
を検証してみました。各曜日での来訪者の平均とSEです。土曜日下がっているのはたしかなようです。思ったほどではなかったけれど。

Post-hocな解析

ガヤ、コメントサンクス。6/3の後半については直接ガヤに宛てたものではなかったのだけれど(今のところこの日記でですます調で書くと、誰かへのコメントへの返答のように見えてしまうようです)、コメントサンクス、アゲイン。
でもって、


gaya>> いわゆる世間一般でいう“多重比較問題”の意味(定義?)と照らし合わせて正しいんだろうか

これについてはもうちょっとポイントがわかるようなわからないようななので、わかったら教えてください。
以下のことをガヤが想定しているとは思いませんが、ついでに書いてみます。
いきなりデカめな話ですが。科学論文は、基本的には後付けでしか実験結果と解析を提出できません*1。だから恣意性や仮定が混ざる解析をできるだけ排除するように向かわなければなりません。この点でそもそも実験計画というものはデータが取れてからpost-hocにやるものではないので、その点で実験計画を使うのはおかしいというところはあります。ある種の大規模な調査(Fisherの農場での試験のような)のときにのみ受け入れられる性質を持っているとはいえます。ただ、さすがにそれは厳しすぎるので、実験結果が得られた後に恣意的な解析が出来るものは避ける、というのが現実的な手ではないかと思います。
たとえば、現状でも使用が受け入れられないものに、orthogonal contractがあります。例を挙げますと、control-condotion1-condition2という三つの因子があったときに、1-way ANOVAをやった後にpost-hocの多重比較をやらずに、[control] vs. [condition1 and contdition2]というふうな二つの項にsum of squareを分解して二つの項を比較する、というものです(三つの因子での多重比較が有意にならなくても、こっちは有意になる可能性があります)。このばあい、実験計画の段階で三つの項を上の二つの項に分けることが決まっていればよいわけですが、もしかしたら結果次第で[control and condition1] vs. [ contdition2]や[control and condition2] vs. [contdition1]に都合よく変えてしまうこともできるのです。我々は後付けでしか統計解析したものを論文として呈示できないですから、そのようなorthogonal contrastを実験結果が出てきてから論文に書いてもダメだと思うのです。
これが、後付けで都合のよいところだけ持ってくることが可能な解析の例です。ほかにもいくらでも挙げられますが、たとえば、動物ごとの結果がちゃんとconsistentであるかどうか示していない論文をJournal of Neurophysiologyから削ったら、どのくらい雑誌が薄くなることでしょう。
これらのことはつまり、論文を書く人は、自分に都合のよいことだけ書いて、都合の悪いことは書かない、ということになりがちであるという根本的な問題なのかもしれません。こういうところにだまされないように論文が読めるようにならなければならないし、その意味で本当に重要でかつ信ずるに足る結果を出している論文は私の分野では非常に少ないと思います(だから、fMRIのデータを集積してデータベースを作る、というような計画(先月のNature Neuroscience参照)については私はけっこう悲観的です。)。
それからもうひとつの大きな問題は、実験結果というものはnegativeな結果については論文にならないため、positiveな結果へのbiasが生まれるということです*2。つまり、一般的にはわれわれはα=0.05で統計をやっておりますが、ある同じことを検証するグループが20あったとします。じつはこのテーマは有意ではなかったのです。19個のグループではnegativeな結果が出ます。彼らは論文を書きません。残りのひとつのグループではpositiveな結果が出ます。α=0.05なのだから1/20でpseudopositiveが出るのもあたりまえです。そして彼らは論文を書きます。そうしてこの論文は他の論文に紛れ込んでしまいます。この問題はどっかで扱われているはずで、なんか名前がついているはずです。メタアナリシスや実験データの集積の問題とも関わっていることでしょう。
また、binごとの解析の多重比較問題というのは要するにこれです。そして、なんで対ごとの比較をせずに多重比較しなければならないかといえば、このようなα値の問題があるからです。というわけで、このようなα値の問題こそが多重比較問題だというのが私の理解です。多群の中から対の比較を持ってくるのもα値の問題であって、そのような多重比較の前にANOVAをやっておかなければならないことを考えると、time binごとの検定でも形式的には同様なはずで、、全体として有意であるという保証を持ってきてから行う必要があるようにも思えます。そもそもなんでbinごとの有意度検定がいけないか、それは100binでα=0.05で検定すれば5binが有意になるのはあたりまえだからでありますが、これはつまり実験結果としてあるbinで有意だったことを示すとき、それは単にほかの有意でなかったbinを無視している、ということであり、post-hocに有意なところだけ見つけてきてそこに注目して都合悪いところを無視する、という上記の問題でもあるということです。そこでどうすればよいか、それが私がこのあいだ提案したように、時系列データ全体を説明できるようなモデルを作ってやる、という方向へ行くべきなのではないか、というわけです。だんだん[そうであったほうがよいこと]と[これを間違えてはならないこと]との境界があいまいになってきている感じはするのだけれど。
長くなりました。元に戻ります。こうやって書いてみると、問題は[実験計画をあらかじめデザインする]ということと[GLMなどを使って実験結果をモデル化してやる]ということとの関係にあるようです。統計には実験計画的な側面とモデル化の側面とが混ざっています。例を挙げましょう。実験デザインの段階で因子と被験者を割り当てるrandomizationをするところは実験計画的な手法です。ここでは因子と被験者とのあいだにinteractionがないという仮定のもとでは効率的に因子の効果を見ることができるようにデザインされています。しかし実際にそのデータが出たときには、それをGLMなどでモデル化するのにその因子と被験者とのあいだのinteractionの項を入れてやって、それが有意でないことを確認する必要があるでしょう。しかししばしば前者の実験計画の段階の仮定を後者のモデル化のところにも適用してしまう、というわけです。
うーむ、こういうことはどこかで議論されているとは思うんだけど、そしてここで書いたことが正しいのかもよくわからないのだけれど、出してしまおう。


*1:論文を読んでると、introductionでこれこれこういう事を検証するために我々はこれこれの実験を行った、なんて書いてあるわけですが、著者はそれをすべての実験が終わってそれをまとめた後に論文を書き、上記の文を書くわけで、読者からはそのような研究動機が本当なのかを確かめることは出来ません。たまたま面白い結果が出たからって、たまたま面白い結果が出ました、なんて誰も書かないわけで、前からそのことを深く考えたかのような顔をして論文を書くわけです。これは良し悪しではなくて、もう、構造的に後付けが運命付けられているのです。
*2:Natureかなんかの記事でnegativeなresultをshareする、というような動きについて読んだことがあるけれど、それはこの問題と関係しています。


2004年06月05日

アナウンス and 来訪者プロット

pooneil2004-06-05
このページの来訪者数は週末になるとぐっと下がります。というわけで、この日記は土日はお休みにすることにしました。こうすることでもうちょっとマシなエントリーの密度が増えるようになることも狙ってます。
といいつつも来訪者プロット。横軸が日を、縦軸が来訪者数を示します。クロスが各時点での値(80以上の値は80でtruncateしてます)。Fittingした値とプラスマイナスseを曲線で表示。RのGAM(general additive model)にてfittingしました。以前のfitting (4/18)と比べると、点の数が多くなったせいか、ずっと滑らかになっています。周期が2ヶ月ぐらいの山と谷とを繰り返しながらだんだん数が増えていってるのがわかります。


2004年06月04日

英語の脳科学関係のblog

を以前探したことがあるのだけれど、あまりありませんでした。とりあえず

をアンテナに入れています。どっちとも普通にニュースを載っけている感じで、あまり個人の意見が出てるという印象はないのであまり読まなくなってしまったのですが。
私がやっているような論文チェック日記サイトを探しているのだが、そういうのは英語のblogにはないのでしょうか、ということでご存知の方、報告期待します。
もちろんこの問題は、日本語のわからない英米人には読まれないことを見越して書いているという私自身の日記の事情とカップルしていることはわかっているのですが。そしてこのことが、日本人の論文についてはコメントしにくくて、英米人の論文にはコメントしやすいということの理由であって、ある種、高みの見物を決め込んでしまっている、というこの日記の問題にも繋がります。論文の著者が読んでいることを知っているならばもっと力を入れて書く必要があるし(たとえば、ガヤのScience論文に対して私が行ったように)、論文の著者に読んでもらえるように書きたいのならば、英語でblogを作ってそこでやればよいのです。お、じつはこれはニッチなのだろうか。
脱線してきた!というかこっちが本題なのだけれど。


2004年06月03日

Surprise index

Poisson分布からのdeviationをbinごとに検定して出したP-valueを-log(P)に変換してsurprise indexという言い方で扱うというのはスパイクと行動の相関を見るのに使われるのを見ます。たとえばThompson and Schallの1990年代後半あたりの論文とか。Aertsenのunitary event analysisというのも同様なPoisson分布からのdeviationを見る分析を使っていたのではなかったっけか。
あ、ひさびさにガヤ日記 6/1へのコメントということで。
前にも書いたことだけれど、この種のbinごとの解析というやつに必ず付随するmultiple comparisonの問題というやつはどうしたらよいもんだろう。視覚刺激への反応潜時の決定にしても、σ=10msのkernelをかけてからspontaの2SDを越えたところ、というのがconventionalなやり方ではあるのだけれど、本当は問題があることは明白です。何よりこれらは時系列データであって、そういうものを解析するための統計を使う必要があります。たとえば、隣り合うbinとのあいだにはスパイク自体のあいだに相関があるのであって、行動との相関を見る前にこれらの影響を除去しなければなりません。
いちばん簡単な方法としては、repeated masure ANOVAになるでしょう。各binのスパイク数を従属変数として、bin [t1,t2,...ti,...tn]をひとつの因子、行動の方の条件、たとえば視覚刺激の種類をもうひとつの因子として、2-way ANOVAにすることでしょう。Mixed modelで、binと行動とのあいだにinteractionが出たら、そのsum of squareを分解してsimple main effectを検討することでとりあえずどのbinが有意であるかは言えることになります。Repeated masureにしておけば修正自由度εを使って検定してくれるでしょう。
もうひとつの解決法としては、MANOVAのような形になるのではないでしょうか。Binごとに解析せずに、従属変数を多変量にして、Y=[y1,y2,...,yi,...,yn]という各binのスパイク数を従属変数にして、これと行動の方の条件、たとえばrewardありなしやら行動の反応潜時などのregressor(X)を使ってモデル化(Y=Xβ)してやるわけです。こうすることによって、まずは全体としてのモデルがよくfitting出来ていることを示した後で、そのsum of squareを分解してゆく。球面性の仮定が成り立つかどうかで自由度の補正をすることで実質的な自由度もわかるようになります。
後者のようなことを実際にしているneuroscientistは見たことがないけれど、これがオーセンティックなだと思うのです。ところで前者と後者は等価なのだろうか。わからなくなってきました。
うーむ、ですます調だけでこういうこと書くのもむずかしいなあ(<-まだ試行錯誤中)。


2004年06月02日

Goodale and Milnerのつづき

5/30のCorreggioさんのコメントへの返答からの続き。
解剖学的にはRocklandが示したようなinferotemporalとparietalの結合もありますね(Cerebral Cortex '03 "Inferior parietal lobule projections to anterior inferotemporal cortex (area TE) in macaque monkey.")。とくにparahippocampalというのはventral pathwayにあるようでいてかなりdorsal系っぽいイメージを私は持っています(dorsalとventralの収束点としての海馬、というのも重要な観点ですし)。また、機能的に言っても、parietal系はけっこういろんなshape selectivityを持っていること(Nature '98のLIP ("Shape selectivity in primate lateral intraparietal cortex.")JNP '00のAIP ("Selectivity for the shape, size, and orientation of objects for grasping in neurons of monkey parietal area AIP.") )を考えると、dorsal pathwayにかなり形態識別に関わることが出来ることも考えられますし、そのようなshape selectivityへのventral pathwayの寄与も興味深いです。また、そもそも注意をつかさどる回路自体がparietalとventral系とのinteractionであるというのが重大なことかと考えます。
私自身は、「意識のneural correlateをどこかの領野に同定する」という欲望を押さえつつ、「sensorimotor coordinationと分かちがたく絡み合っていて、個体の行動までを含めた総体としてしてしか捉えようのないものとして意識を捉えたい」と考えております。患者DFさんのような意識なしでのaction、というもののステータスをもう少し考えてみる必要がありそうです。たとえば、DFさんは途中からそういう乖離状態になったのであって、もともとは意識と行動とがマッチしている時期があったわけです。もしそのようなマッチングがなければそのような乖離状態はありえない(スリットというものをを知覚によって理解できない状態でどうやってカードを入れることが出来るであろうか)、というあたりをとっかかりに。

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# Correggio

出張やらなんやらで返事が遅くなってしまいました。parietalには,texture gradientの情報ももっていますし,さらにはSTSaからbiological motionの情報ももらってるかもしれません。pooneilさんの意識のとらえ方には共感を覚えます。blindsightの物体に手を伸ばしてつかめるというのも,やはり特殊な条件ではないかと思います。

# pooneil

お返事ありがとうございます。そうですね。STSaからのbiological motionというあたり面白そうですね。この間のMiall論文でもSTSからPFへ行く流れを逆モデルの一部として捉えていましたね。ParietalがSTS、F5、S1/S2、MT/MSTからの情報の集積地であるということがparietalの機能を規定している、という視点も必要ですね。(その点でperirhinalはinferotemporalおよびhippocampusさえ考えておけばよいようなところがありますが、本当はもっといろんな領野とのネットワークとして捉えられるべきなのでしょう。)


2004年06月01日

Nature 5/27

"Object-based attention determines dominance in binocular rivalry."
両眼視野闘争(binocular rivalry)とは、[右眼と左眼のそれぞれに別々の絵を見せたときに、その見えは両者が混ざったようなものではなくて、右眼に呈示しているものと左眼に呈示しているものとが時間的に交互に現れる]、という現象だ。この見えの変化が起こっているときに、網膜上で処理されているものはまったく変わっていない。しかし大脳皮質のどっかで、この見えの変化に対応しているところがあるはずである。それが腹側視覚路(とくに側頭視覚連合野)であることがLogothetisによって明らかになった。つまり、顔を見たときに選択的に活動するニューロンを記録しながら、顔の写真と太陽の絵とかで両眼視野闘争の状態を作って報告させる。すると、顔が見えている報告しているときにのみその顔ニューロンは活動するのだった(PNAS '97 "The role of temporal cortical areas in perceptual organization."*1。またこの実験パラダイムはhuman fMRIへと移植され、Nancy Kanwisherがfusiform face areaでの顔への応答が両眼視野闘争での見えに時間的にロックしていることを示した("Binocular Rivalry and Visual Awareness in Human Extrastriate Cortex.")。以上、両眼視野闘争とそのneural correlateについて。
んでもって、それとはべつに両眼視野闘争のpsychophysicsはいろいろあって、なにによってその見えの切り替わり、つまり左右の入力の選択が起こっているか、ということがいろいろ議論されてきていた。たとえば、両眼視野闘争の状態で片方の視覚刺激をフラッシュさせると、そっちの方に見えが切り替わることがわかっている。この場合だったらおそらくabrupt onsetによるbottom-upのattentionが効いているのだろうと予想される。
というわけで今回の論文は両眼視野闘争とattentionについてのpsychophysicsだ。図1にあるように、ある方向に回転するランダムドットと逆に回転するランダムドットとが重ねあわされた刺激を使っている。これは最初の段階では両眼に呈示され、両眼視野闘争にはなっていない。この二つのランダムドットは重なり合っているから、このどちらかのランダムドットのグループへ注意を向けるのはspatial attentionではなくてobject-based attentionだ。このランダムドットのグループの片方は一瞬別の動きをしてまた戻る。このことで片方のランダムドットのグループにattentionが向けられる。それから片方のグループが右眼に、残りの方が左眼に呈示されて両眼視野闘争を引き起こす。するとその見えはattentionを向けられた方がそうでないほうよりもより多かった。つまり、両眼視野闘争はobject-based attentionによって影響を受ける。
つまり、ランダムドットがそろって同じ方向に回転するということがそのランダムドットのグループを一つのobjectとして捉える作用を持っており、そのことは両眼視野闘争の切り替えが起こっているプロセスと密接な関係を持っているということだ。じつはこのようなobjectの形成と両眼視野闘争との関係というのはすでに報告されており、著者らもreferしている。たとえば、両眼視野闘争で左右の眼に相補的な刺激パターンを呈示する。たとえば右眼にはパターンAB、左眼にはパターンB'A'を呈示して、右眼のパターンと左眼のパターンを組み合わせるとパターンAA'とBB'とが交互に見える、ってまどろっこしい。PNASのfull textが読める人はここのBを見てもらえばわかるでしょう。つまり、object / featureとしてのひとかたまりとして処理されたものが両眼視野闘争で見えたり見えなかったりする、ということだ。
著者はこの論文によって両眼視野闘争にattentionが影響を及ぼすかどうかという論争に終止符を打ったものと謳っている。これがこの論文がNatureに値する部分だ。よって、いままでの論争で本当に決着はついていなかったのか、今回の論文はattentionによる効果以外のもので説明できないか、というあたりについてcriticalに読むことが、この論文をjournal clubで取り上げる人にとっては重要であると見た、なんて勝手に宿題与えてみたりする(<-誰によ)。


*1:実際にはLogothetisの最初の報告はSTSでのmotion stimulusを使った両眼視野闘争(Science '89)、つづいてV1,V2,V4でのgratingを使った両眼視野闘争(Nature '96)があってから側頭連合野ニューロンでの形態を使った両眼視野闘争(PNAS '97)の順で発表されている。


お勧めエントリ

  • 細胞外電極はなにを見ているか(1) 20080727 (2) リニューアル版 20081107
  • 総説 長期記憶の脳内メカニズム 20100909
  • 駒場講義2013 「意識の科学的研究 - 盲視を起点に」20130626
  • 駒場講義2012レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 20121010 (2) 意識 20121011
  • 視覚、注意、言語で3*2の背側、腹側経路説 20140119
  • 脳科学辞典の項目書いた 「盲視」 20130407
  • 脳科学辞典の項目書いた 「気づき」 20130228
  • 脳科学辞典の項目書いた 「サリエンシー」 20121224
  • 脳科学辞典の項目書いた 「マイクロサッケード」 20121227
  • 盲視でおこる「なにかあるかんじ」 20110126
  • DKL色空間についてまとめ 20090113
  • 科学基礎論学会 秋の研究例会 ワークショップ「意識の神経科学と神経現象学」レジメ 20131102
  • ギャラガー&ザハヴィ『現象学的な心』合評会レジメ 20130628
  • Marrのrepresentationとprocessをベイトソン流に解釈する (1) 20100317 (2) 20100317
  • 半側空間無視と同名半盲とは区別できるか?(1) 20080220 (2) 半側空間無視の原因部位は? 20080221
  • MarrのVisionの最初と最後だけを読む 20071213

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