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« 書評:金沢創著『他者の心は存在するか』(金子書房:1999) | 最新のページに戻る | サール:意識を科学的に研究するには(要約) »

■ なぜ私はたばこを止め、そして問題無く過ごせているのか。

タバコは21才から吸い始めて、三日で一箱ぐらいのペースで問題無くやっていたのだが、実験によるストレスが増すようになって、吸い始めてから5年ぐらいで、煙を本当に肺に全部入れられるようになってからは(つまりそれまでは単にふかしているようなものだったってこと)ニコチン中毒になりだして、ニコチンが切れるのがわかるようになってきた(最大で一日二箱ぐらいだったろうか)。実験の都合上、何時間も煙草を吸うわけにはいかない。実験の休憩時間にタバコを水にベランダへダッシュするようになって(研究所はベランダ以外禁煙)、これはまずいから止めなければ、と思うようになった。もちろん、前から彼女(現在の妻)や家族には止めるべきと言われていたのだが。
97年の暮れに風邪を引いて、ゲホゲホ言いながら寒いベランダでタバコを吸っているときにふと、何でこんな思いをしてまで吸っているんだろう、実際タバコは全くおいしく感じれないし、と思って風邪が直るまではタバコを止めておくことにした。
妻と一緒に買って置きっぱなしにしていた禁煙の本「禁煙セラピー」(アレン・カー著KKロングセラーズ) 「禁煙セラピー」(アレン・カー著KKロングセラーズ)を読んだ。別にこの本でなくてもよかったかもしれない。この本は別に科学的な知識を教えてくれたわけでもなかったし。しかしこの本が私にはとてもよかった。
この本が伝えようとしているのは、喫煙の習慣とは、ニコチン中毒と洗脳によるのであり、ニコチンの排除のための約3週間の禁煙と脱洗脳によってタバコを止めることができる、というものだ。このため、この本は煙草を吸う人間が持っている幻想を一つ一つ取り除いてゆく。つまり、「タバコは退屈やストレスをまぎらわしてはくれないし、集中力やリラックス感を高めてもくれない」「タバコは単にニコチンの禁断症状を除くだけである」など。タバコが健康に悪いことなど誰もがわかっているが、それが理由では私もタバコを止めなかった。この本は逆に、タバコの利点なんて本当は全くないことを我々に説得させることで、脱洗脳を図った。そのため、「減煙は禁煙よりも難しい」「タバコを精神力で止めようとしてはならない、それでは洗脳が解けていないため、逆戻りしてしまう」と禁煙中のアドバイスをする。そしてこの本のメッセージが納得いったとき、最後の儀式として、最後の一本のタバコに火をつけ、それを吸いながら、いかにこれがまずいものであり、体に悪いものであるかを感じながら吸い、悲壮感ではなく、このようなものをもう吸わなくてよくなる、という喜びを持って吸って、これでもう二度と煙草は吸わないことを決意すべしという。
私がこの本を読んだのは風邪の間に煙草を止めて1週間経ったぐらいだったが、ゲホゲホ言いながら寒いベランダで吸ったタバコがまずかったこと、そして、煙草の味自体は別にうまいものでも何でもないことをよくおぼえていたから、そのままもう二度と煙草は吸わなかった。ニコチン中毒でのイライラがなくなることを喜べたし、タバコの禁断症状は思ったよりもつらくなかった。ふとした時に口の中がなんか変な感じになることに気づくことがあったが、深呼吸をしたときの空気の方がよほどおいしいと思えた。この感覚は本で言うところの3週間よりはかかったが、1ヶ月でほとんど気にならなくなった。
ちょうどこの頃妻が妊娠していることがわかった。意図せず赤ん坊が生まれる前にタバコを止めるということになり、妻は感激したし、家族も喜んでくれた。最後まで禁煙の障害となったのは、ニコチン中毒ではなくて、かつて煙草を吸っていたようなシチュエーションになったときやそういうのを思い出した時のことだった。酒を飲むとき、公園のベンチに座るときとか。結局、こういうのは、失恋した女の子をつい思い出してしまうのと同じで、結構尾を引くものだと思った。こういうときが半年はかかった。禁を破って煙草を吸ってしまう夢を見たこともあった。けれども現在、子供が生まれて1歳半近くになるまで煙草は一本も吸っていないし、吸う意味がない。一本試しに吸ってみようとも思わない、なぜなら、タバコにいいことなど一つもないことが今の私にはわかっているから。
ニコチンの作用については私は薬理学から生理学に移った人間なので、論文などは読んでいる。報酬系のdopamineなどとも関わっていることがわかっている。だから、洗脳をとくのには時間がかかるし、喫煙によって起こった報酬系の可塑性はニューロンの構造レベルにまできっといっていたのだろう。失恋した女の子を忘れるのと同じ時間がかかる、というのは比喩ではなくて、本当に同じような脳の部分が関わっている証拠だ。この辺もう少し論文の紹介でもしてみたいが、今回はここまでにて終了。参考資料としては、Neuron 1996 May;16(5):905-8 "Molecular and cellular aspects of nicotine abuse"あたりからいってみたい。


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