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JP3557287B2 - 耐熱性非還元性糖質生成酵素とその製造方法並びに用途 - Google Patents

耐熱性非還元性糖質生成酵素とその製造方法並びに用途 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、耐熱性非還元性糖質生成酵素とその製造方法並びに用途に関し、更に詳細には、グルコース重合度3以上の1種又は2種以上還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する新規耐熱性非還元性糖質生成酵素、その製造方法、この新規耐熱性非還元性糖質生成酵素を用いて製造される末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質、これを含む低還元性糖質、及び、これらから製造されるトレハロース、並びにこれら非還元性糖質を含有せしめた組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
グルコースを構成糖とする非還元性糖質として、古くからトレハロース(α,α−トレハロース)が知られており、その存在は、『アドバンシズ・イン・カーボハイドレイト・ケミストリー(Advances in Carbohydrate Chemistry)』、第18巻、第201乃至225頁(1963年)アカデミック・プレス社(米国)及び『アプライド・アンド・エンビロメンタル・マイクロバイオロジー(Applied and Environmental Microbiology)』、第56巻、第3213乃至3215頁(1990年)などにも記載されているように、少量ながら、微生物、きのこ、昆虫など広範囲に及んでいる。トレハロースは、非還元性糖質ゆえにアミノ酸や蛋白質等のアミノ基を有する物質とアミノカルボニル反応を起こさず、アミノ酸含有物質を損なわないことから、褐変、劣化を懸念することなく利用、加工できることが期待され、その工業的製造方法の確立が望まれている。
【0003】
トレハロースの製造方法としては、例えば、特開昭50−154485公報で報告されている微生物を用いる方法や、特開昭58−216695公報で提案されているマルトース・ホスホリラーゼとトレハロース・ホスホリラーゼとの組合せでマルトースを変換する方法などが知られている。しかしながら、微生物を用いる方法は、菌体を出発原料とし、これに含まれるトレハロースの含量が、通常、固形物当り15w/w%(以下、本明細書では、特にことわらない限り、w/w%を%と略称する。)未満と低く、その上、これを抽出・精製する工程が煩雑で、工業的製造方法としては不適である。また、マルトース・ホスホリラーゼ及びトレハロース・ホスホリラーゼを用いる方法は、いずれもグルコースリン酸を経由しており、その基質濃度を高めることが困難であり、また、両酵素の反応系が平衡反応で目的物の生成率が低く、更には、両酵素の反応系を安定に維持して反応をスムーズに進行させることが困難であって、未だ、工業的製造方法として実現するに至っていない。
【0004】
これに関係して、『月刊フードケミカル』、8月号、第67乃至72頁(1992年)、「澱粉利用開発の現状と課題」の「オリゴ糖」の項において、「トレハロースについては著しい応用範囲が考えられるが、本糖の澱粉糖質からの直接糖転移、加水分解反応を用いた酵素的生産は、現在のところ学術的には不可能であるといわれている。」と記載されているように、澱粉を原料とし、酵素反応によってトレハロースを製造することは、従来、学術的にも不可能であると考えられてきた。
【0005】
一方、澱粉を原料として製造される澱粉部分分解物、例えば、澱粉液化物、各種デキストリン、各種マルトオリゴ糖などは、通常、その分子の末端に還元基を有し還元性を示すことが知られている。このような澱粉部分分解物を本明細書では、還元性澱粉部分分解物と称する。一般的に、還元性澱粉部分分解物は、固形物当りの還元力の大きさをデキストロース・エクイバレント(DextroseEquivalent,DE)として表している。この値の大きいものは、通常、分子が小さく低粘度で甘味が強いものの、反応性が強く、アミノ酸や蛋白質などのアミノ基を持つ物質とアミノカルボニル反応を起こし易く、褐変し、悪臭を発生して、品質を劣化し易い性質のあることが知られている。
【0006】
このような還元性澱粉部分分解物の種々の特性は、DEの大小に依存しており、還元性澱粉部分分解物とDEとの関係は極めて重要である。従来、当業界では、この関係を断ち切ることは不可能とさえ信じられてきた。
【0007】
還元性澱粉部分分解物とDEとの関係を断ち切る唯一の方法は、還元性澱粉部分分解物を高圧水素添加法などによって、その還元基を糖アルコールに変換して非還元性糖質にする方法である。しかし、この方法は、高圧オートクレーブを必要とし、多量の水素やエネルギーを消費するのみならず、防災上からも高度な安全施設や管理を必要としている。その上、得られる還元性澱粉部分分解物の糖アルコールは、原料の還元性澱粉部分分解物がグルコースのみからなるのに対し、グルコースとソルビトールとから構成される点で異なり、それを摂取することによって、一過性であるが、難消化、緩化の症状を起こす懸念もある。従って、還元性澱粉部分分解物の構成糖であるグルコースを変えることなく、その還元力を低減若しくは消滅させる方法の確立が望まれていた。
【0008】
斯かる状況に鑑み、本発明者が、澱粉糖からトレハロース構造を有する糖質を生成する酵素につき鋭意検索したところ、先に、特願平5−349216号明細書(特開平7−143876号公報)で開示した土壌からの分離菌リゾビウム(Rhizobium)属に属する微生物M−11、及び土壌からの分離菌アルスロバクター(Arthrobactor)属に属する微生物Q36などの微生物が、グルコース重合度3以上の還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成するという、従来未知の全く新規な非還元性糖質生成酵素を産生することが判明した。また、この酵素を用いて得られる末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質にグルコアミラーゼ又はα−グルコシダーゼを作用させることにより、容易にトレハロースを製造しうることも見い出した。
【0009】
しかしながら、上記のリゾビウム属又はアルスロバクター属の酵素は耐熱性に乏しく、これらの酵素を用いて末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質やトレハロースを製造しようとすると、約55℃以下の温度で酵素反応する必要がある。これに関係して、『酵素応用の知識』、初版、第80乃至第129頁(1986年)、「糖質関連酵素とその応用」の「糖質関連酵素」の項において、「工業的な糖化条件では、55℃以下では雑菌汚染の危険性が伴い、糖化反応中にpHが低下する。」と記載されているように、澱粉を原料とし、長時間にわたる酵素反応の場合、55℃以下の温度の反応条件では、雑菌汚染により反応液がpH低下し、反応途中で酵素失活することが懸念され、リゾチーム等の添加による雑菌汚染防止や反応液のpH調整を必要とする場合もある。また、澱粉部分分解物の加水分解率が低い場合、老化による不溶化物の生成も懸念される。一方、耐熱性酵素は高い反応温度でも酵素反応が進行するため、耐熱性酵素を用いた反応では、微生物汚染の懸念が少なく、また、澱粉部分分解物の老化も起こりにくいと考えられる。そこで、55℃を越える温度での酵素反応が可能な耐熱性非還元性糖質生成酵素を用いる、末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質やトレハロースの新規製造方法の確立が望まれる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、耐熱性非還元性糖質生成酵素を用いた還元性澱粉部分分解物からの非還元性糖質の新規製造方法とその非還元性糖質並びにその用途を提供しようとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する耐熱性非還元性糖質生成酵素の実現に期待を込めて、この酵素を産生する微生物を広く検索してきた。その結果、スルフォロブス(Sulfolobus)属に属する微生物スルフォロブス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)ATCC33909及びATCC49426、さらに、スルフォロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)ATCC35091及びATCC35092が、還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成し、85℃付近まで安定である新規耐熱性非還元性糖質生成酵素を産生することを見いだし、この耐熱性非還元性糖質生成酵素を還元性澱粉部分分解物に作用させることにより、目指していた55℃を越える作用条件で、末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質が容易に製造しうることを見い出し、また、還元性澱粉部分分解物に、この耐熱性非還元性糖質生成酵素を作用させ、次いでグルコアミラーゼ又はα−グルコシダーゼを作用させることにより、容易にトレハロースを製造しうることを見い出し、本発明を完成した。併せて、この非還元性糖質、これを含む低還元性糖質及び/又はトレハロースを含有せしめた飲食物、化粧品、医薬品などの組成物を確立し本発明を完成した。なお、本明細書では、特にことわらない限り、還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成し、55℃を越える温度で酵素反応可能な新規耐熱性非還元性糖質生成酵素を、耐熱性非還元性糖質生成酵素と称する。
【0012】
本発明では、上記菌のみならず、スルフォロブス属に属し、還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する耐熱性非還元性糖質生成酵素を産生する他の菌株、更には、それらの菌株の変異株なども適宜用いられる。
【0013】
本発明の微生物の培養に用いる培地は、微生物が生育でき、本発明の耐熱性非還元性糖質生成酵素を産生しうる栄養培地であればよく、合成培地及び天然培地のいずれでもよい。炭素源としては、微生物が資化しうる物であればよく、例えば、グルコース、フラクトース、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、糖蜜、澱粉部分分解物などの糖質、又は、クエン酸、コハク酸などの有機酸又はそれらの塩なども使用することができる。培地におけるこれらの炭素源の濃度は炭素源の種類により適宜選択される。例えば、澱粉部分分解物の場合には、通常、20%以下が望ましく、菌の生育及び増殖からは5%以下が好ましい。窒素源としては、例えば、アンモニウム塩、硝酸塩などの無機窒素化合物及び、例えば、尿素、コーン・スティープ・リカー、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、肉エキスなどの有機窒素含有物が用いられる。また、無機成分としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩などが適宜用いられる。
【0014】
培養は、通常、温度40乃至95℃、好ましくは50乃至90℃、pH2乃至7、好ましくは2乃至6から選ばれる条件で行われる。培養時間は本微生物が増殖しうる時間であればよく、好ましくは10乃至100時間である。また、培養液の溶存酸素濃度には特に制限はないが、通常、0.5乃至20ppmが好ましい。そのため、通気量を調節したり、撹拌したり、通気に酸素を追加したり、また、ファーメンター内の圧力を高めるなどの手段が採用される。また、培養方式は、回分培養又は連続培養のいずれでもよい。
【0015】
このようにして、微生物を培養した後、本発明の酵素を回収する。本酵素活性は、培養物の菌体に主に認められ、公知の方法によって精製し、用いることが望ましい。例えば、菌体抽出物を硫安塩析して濃縮した粗酵素標品を透析後、東ソー株式会社製ゲル『DEAE−トヨパール』などを用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、同社製ゲル『ブチルトヨパール』などを用いた疎水カラムクロマトグラフィーを用いて精製することにより、ほとんど夾雑酵素を除去した部分精製酵素標品を得ることができる。更に続いて、セプラコル社製ゲル『ウルトロゲル AcA 44』などを用いたゲル瀘過クロマトグラフィー、ファルマシア・エルケービー社製ゲル『Mono Q』などを用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィーを用いて精製することにより、電気泳動的に単一な酵素も得ることができる。
【0016】
このようにして得られる本発明の耐熱性非還元性糖質生成酵素は、下記の理化学的性質を有する。
(1) 作用
グルコース重合度3以上から選ばれる1種又は2種以上の還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する。
(2) 分子量
SDS−ゲル電気泳動法により、約69,000乃至79,000ダルトン。
(3) 等電点
アンフォライン含有電気泳動法により、pI約5.4乃至6.4。
(4) 至適温度
pH5.5、60分間反応で、75℃付近。
(5) 至適pH
60℃、60分間反応で、pH5.0乃至5.5付近。
(6) 温度安定性
pH7.0、60分間保持で、85℃付近まで安定。
(7) pH安定性
25℃、16時間保持で、pH約4.0乃至9.5。
【0017】
本発明の耐熱性非還元性糖質生成酵素の活性は次のようにして測定する。基質としてマルトペンタオース1.25w/v%(20mM酢酸緩衝液、pH5.5)4mlに酵素液を1.0ml加え60℃で60分間反応させた後、100℃で30分間加熱して反応を停止させ、その反応液を正確に脱イオン水で10倍に希釈し、その希釈液の還元力をソモギー・ネルソン法にて測定する。対照として、あらかじめ100℃で30分間加熱することにより失活させた酵素液を用いて同様に測定する。銅液を加え反応を停止させ、還元力をソモギー・ネルソン法にて測定する。上記の測定方法を用いて、1分間に1μmoleのマルトペンタオースに相当する還元力を減少させる酵素量を1単位と定義した。
【0018】
本酵素の基質としては、澱粉、アミロペクチン、アミロースなどの澱粉をアミラーゼ又は酸などによって部分的に加水分解して得られる還元性澱粉部分分解物が用いられる。アミラーゼで分解した還元性澱粉部分分解物としては、例えば、『ハンドブック・オブ・アミレーシズ・アンド・リレイテッド・エンザイムズ(Handbook of Amylases and Related Enzymes)』、(1988年)パーガモン・プレス社(東京)に記載されている、α−アミラーゼ、マルトトリオース生成アミラーゼ、マルトテトラオース生成アミラーゼ、マルトペンタオース生成アミラーゼ、マルトヘキサオース生成アミラーセなどのアミラーゼで分解した還元性澱粉部分分解物を用いる。更には、還元性澱粉部分分解物を調製する際、プルラナーゼ及びイソアミラーゼなどの枝切酵素を作用させることも随意である。また、マルトオリゴ糖、例えば、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオースなどの1種又は2種以上を用いることも有利に実施できる。
【0019】
基質濃度は特に限定されない。例えば、0.1%の基質溶液として用いた場合でも、本酵素の反応は進行するが、工業的には、2%以上、望ましくは5乃至50%の高濃度反応が好適であり、末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を有利に生成できる。反応温度は酵素が安定な温度、すなわち85℃付近までで行えばよいが、好ましくは55乃至70℃付近の温度を用いる。反応pHは、通常、3乃至9の範囲に調整すればよいが、好ましくはpH約4乃至7の範囲に調整する。反応時間は、酵素反応の進行具合により適宜選択すればよく、通常、基質固形物グラム当たり約0.1乃至100単位の酵素使用量で0.1乃至100時間程度である。
【0020】
上記の反応によって得られた非還元性糖質を含む反応液は、基質に用いた還元性澱粉部分分解物と比較して、顕著に還元力が低下している。例えば、基質にマルトペンタオースを用いた場合、本酵素反応により反応液が示す還元力は、基質マルトペンタオース溶液の示す始発還元力の約75%が消失し、約25%まで低下する。
【0021】
反応液は、常法により、瀘過、遠心分離などして不溶物を除去した後、活性炭で脱色、H型、OH型イオン交換樹脂で脱塩し、濃縮し、シラップ状製品とする。更に、乾燥して粉末状製品にすることも随意である。必要ならば、更に、精製、例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィー、活性炭カラムクロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィーによる分画、アルコール及びアセトンなど有機溶媒による分別、適度な分離性能を有する膜による分離、更には、酵母での発酵処理、アルカリ処理などによる残存している還元性糖質の分解除去などの方法を1種又は2種以上組合わせて精製することにより、最高純度の非還元性糖質製品を得ることも容易である。
【0022】
とりわけ、工業的大量生産方法としては、イオン交換カラムクロマトグラフィーの採用が好適であり、例えば、特開昭58−23799号公報、特開昭58−72598号公報などに開示されている強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにより夾雑糖類を除去し、目的物の含量を向上させた非還元性糖質を有利に製造することができる。この際、固定床方式、移動床方式、疑似移動床方式のいずれの方式を採用することも随意である。
【0023】
このようにして得られた本発明の末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質又はこれを含む低還元性糖質を、必要により、アミラーゼ、例えば、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼなどや、又はα−グルコシダーゼで分解し、甘味性、還元力などを調整したり、粘性を低下させたりすることも、また、水素添加して残存する還元性糖質を糖アルコールにして還元力を消滅せしめることなどの更なる加工処理を施すことも随意である。
【0024】
とりわけ、本発明の非還元性糖質又はこれを含む低還元性糖質に対して、グルコアミラーゼ又はα−グルコシダーゼを作用させることにより容易にトレハロースを製造することができる。即ち、これらの非還元性又は低還元性糖質にグルコアミラーゼ又はα−グルコシダーゼを作用させてトレハロースとグルコースとの混合溶液とし、これを、前述の精製方法、例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィーなどにより、グルコースを除去し、トレハロース高含有画分を採取する。これを精製、濃縮して、シラップ状製品を得ることも、更に濃縮して過飽和にし、晶出させてトレハロース含水結晶又は無水結晶トレハロースを得ることも有利に実施できる。
【0025】
トレハロース含水結晶を製造するには、例えば、純度60%以上、濃度65乃至90%のトレハロース含有液を助晶缶にとり、必要に応じて、0.1乃至20%の種晶共存下で、温度95℃以下、望ましくは、10乃至90℃の範囲で、撹拌しつつ徐冷し、トレハロース含水結晶を含有するマスキットを製造する。また、減圧濃縮しながら、晶析させる連続晶析法を採用することも有利に実施できる。マスキットからトレハロース含水結晶又はこれを含有する含蜜結晶を製造する方法は、例えば、分蜜方法、ブロック粉砕方法、流動造粒方法、噴霧乾燥方法など公知の方法を採用すればよい。
【0026】
分蜜方法の場合には、通常、マスキットをバスケット型遠心分離機にかけ、トレハロース含水結晶と蜜(母液)とを分離し、必要により、該結晶に少量の冷水をスプレーして洗浄することも容易な方法であり、より高純度のトレハロース含水結晶を製造するのに好適である。噴霧乾燥方法の場合には、通常、濃度60乃至85%、晶出率20乃至60%程度のマスキットを高圧ポンプでノズルから噴霧し、結晶粉末が溶解しない温度、例えば、60乃至100℃の熱風で乾燥し、次いで30乃至60℃の温風で約1乃至20時間熟成すれば非吸湿性又は難吸湿性の含蜜結晶が容易に製造できる。また、ブロック粉砕方法の場合には、通常、水分10乃至20%、晶出率10乃至60%程度のマスキットを数時間乃至3日間静置して全体をブロック状に晶出固化させ、これを粉砕又は切削などの方法によって粉末化し乾燥すれば、非吸湿性又は難吸湿性の含蜜結晶が容易に製造できる。
【0027】
また、無水結晶トレハロースを製造するには、トレハロース含水結晶を乾燥して変換させることもできるが、一般的には、水分10%未満の高濃度トレハロース高含有溶液を助晶缶にとり、種晶共存下で50乃至160℃、望ましくは80乃至140℃の範囲で撹拌しつつ無水結晶トレハロースを含有するマスキットを製造し、これを比較的高温乾燥条件下で、例えば、ブロック粉砕方法、流動造粒方法、噴霧乾燥方法などの方法で晶出、粉末化して製造される。
【0028】
このようにして製造される本発明の非還元性糖質、これを含む低還元性糖質及びトレハロースは、原料の還元性澱粉部分分解物と比較して、還元性が低く安定であり、他の素材、特にアミノ酸、オリゴペプチド、蛋白質などのアミノ酸又はアミノ基を含有する物質と混合、加工しても、褐変することも、異臭を発生することもなく、混合した他の素材を損なうことも少ない。また、還元性澱粉部分分解物の場合とは違って、還元力が、低いにもかかわらず低粘度であり、平均グルコース重合度が低いものの場合には、良質で上品な甘味を有している。
【0029】
更に、アミラーゼ、例えば、すい臓由来α−アミラーゼにより分解し、低分子非還元性オリゴ糖や低分子マルトオリゴ糖を生成し、また、これらオリゴ糖も、α−グルコシダーゼや小腸酵素でも容易に分解し、グルコース及びトレハロースを生成し、更に生成したトレハロースは、トレハラーゼにより容易にグルコースにまで分解することから、経口摂取により、消化吸収され、カロリー源として利用される。また、虫歯誘発菌などによって、発酵されにくく、虫歯を起こしにくい甘味剤としても利用できる。また、浸透圧調節性、賦形性、照り付与性、保湿性、粘性、他糖の晶出防止性、難発酵性、澱粉の老化防止性などの性質を具備している。
【0030】
また、本発明のトレハロースは、経管栄養剤、輸液剤などとして非経口的に使用され、毒性、副作用の懸念もなく、よく代謝、利用され、生体へのエネルギー補給に有利に利用することができる。また、安定な甘味料であることにより、トレハロース含水結晶製品の場合には、プルラン、ヒドロキシエチルスターチ、ポリビニルピロリドンなどの結合剤と併用して錠剤の糖衣剤として利用することも有利に実施できる。
【0031】
また、無水結晶トレハロースの場合には、食品、医薬品、化粧品、その原材料、又は、加工中間物などの含水物の脱水剤としても有利に利用でき、安定で高品質の粉末、顆粒、錠剤など固状物を容易に製造することができる。
【0032】
従って、本発明の非還元性糖質、又はこれを含む低還元性糖質及びこれらから製造されるトレハロースは、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤、脱水剤などとして、飲食物、嗜好物、飼料、餌料、化粧品、医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。
【0033】
本発明の非還元性糖質、これを含む低還元性糖質及びこれらから製造されるトレハロースは、そのまま甘味付けのための調味料として使用することができる。必要ならば、例えば、粉飴、ブドウ糖、マルトース、蔗糖、異性化糖、蜂蜜、メイプルシュガー、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ラクトスロース、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、ジヒドロカルコン、ステビオシド、α−グリコシルステビオシド、レバウディオシド、グリチルリチン、L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル、サッカリン、グリシン、アラニンなどのような他の甘味料の1種又は2種以上の適量と混合して使用してもよく、また必要ならば、デキストリン、澱粉、乳糖などのような増量剤と混合して使用することもできる。
【0034】
また、本発明の非還元性糖質、これを含む低還元性糖質及びこれらから製造されるトレハロースの粉末乃至結晶状製品は、そのままで、又は必要に応じて、増量剤、賦形剤、結合剤などと混合して、顆粒、球状、短棒状、板状、立方体、錠剤など各種形状に成型して使用することも随意である。
【0035】
また、本発明の非還元性糖質、これを含む低還元性糖質及びこれらから製造されるトレハロースの甘味は、酸味、塩から味、渋味、旨味、苦味などの他の呈味を有する各種物質とよく調和し、耐酸性、耐熱性も大きいので、一般の飲食物の甘味付け、呈味改良に、また品質改良などに有利に利用できる。
【0036】
例えば、アミノ酸、ペプチド類、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、焼肉のタレ、カレールウ、シチューの素、スープの素、ダシの素、核酸系調味料、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルシュガー、コーヒーシュガーなど各種調理料として有利に使用できる。
【0037】
また、例えば、せんべい、あられ、おこし、餅類、まんじゅう、ういろう、あん類、羊羮、水羊羮、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉などの各種和菓子、パン、ビスケット、クラッカー、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンデーなどの洋菓子、アイスクリーム、シャーベット、などの氷菓、果実のシロップ漬、氷蜜などのシロップ類、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト、スプレッドなどのペースト類、ジャム、マーマレード、シロップ漬、糖果などの果実、野菜の加工食品類、福神漬、べったら漬、千枚漬、らっきょう漬などの漬物類、たくあん漬の素、白菜漬の素などの漬物の素類、ハム、ソーセージなどの畜肉製品類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、天ぷらなどの魚肉製品、ウニ、イカの塩辛、酢こんぶ、さきするめ、ふぐみりん干しなどの各種珍味類、のり、山菜、するめ、小魚、貝などで製造されるつくだ煮類、煮豆、ポテトサラダ、こんぶ巻などの惣菜食品、ヨーグルト、チーズなどの乳製品、魚肉、畜肉、果実、野菜のビン詰、缶詰類、清酒、合成酒、リキュール、洋酒などの酒類、コーヒー、紅茶、ココア、ジュース、炭酸飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料などの清涼飲料水、プリンミックス、ホットケーキミックス、即席しるこ、即席スープなどの即席食品、更には、離乳食、治療食、ドリンク剤、ペプチド食品、冷凍食品などの各種飲食物への甘味付けに、呈味改良に、また、品質改良などに有利に利用できる。
【0038】
また、家畜、家禽、その他蜜蜂、蚕、魚などの飼育動物のために飼料、餌料などの嗜好性を向上させる目的で使用することもできる。その他、タバコ、練歯磨、口紅、リップクリーム、内服液、錠剤、トローチ、肝油ドロップ、口中清涼剤、口中香剤、うがい剤など各種固形物、ペースト状、液状などで嗜好物、化粧品、医薬品などの各種組成物への甘味剤として、又は呈味改良剤、矯味剤として、さらには品質改良剤、安定剤などとして有利に利用できる。品質改良剤、安定剤としては、有効成分、活性などを失い易い各種生理活性物質又はこれを含む健康食品、医薬品などに有利に適用できる。例えば、インターフェロン−α、インターフェロン−β、インターフェロン−γ、ツモア・ネクロシス・ファクター−α、ツモア・ネクロシス・ファクター−β、マクロファージ遊走阻止因子、コロニー刺激因子、トランスファーファクター、インターロイキンIIなどのリンホカイン、インシュリン、成長ホルモン、プロラクチン、エリトロポエチン、卵細胞刺激ホルモンなどのホルモン、BCGワクチン、日本脳炎ワクチン、はしかワクチン、ポリオ生ワクチン、痘苗、破傷風トキソイド、ハブ抗毒素、ヒト免疫グロブリンなどの生物製剤、ペニシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、ストレプトマイシン、硫酸カナマイシンなどの抗生物質、チアミン、リボフラビン、L−アスコルビン酸、肝油、カロチノイド、エルゴステロール、トコフェロールなどのビタミン、リパーゼ、エラスターゼ、ウロキナーゼ、プロテアーゼ、β−アミラーゼ、イソアミラーゼ、グルカナーゼ、ラクターゼなどの酵素、薬用人参エキス、スッポンエキス、クロレラエキス、アロエエキス、プロポリスエキスなどのエキス類、ウイルス、乳酸菌、酵母などの生菌、ロイヤルゼリーなどの各種生理活性物質も、その有効成分、活性を失うことなく、安定で高品質の液状、ペースト状又は固状の健康食品や医薬品などに容易に製造できることとなる。
【0039】
以上述べたような各種組成物に末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質、これを含む低還元性糖質、及びこれから製造されるトレハロースを含有せしめる方法は、その製品が完成するまでの工程に含有せしめればよく、例えば、混和、溶解、融解、浸漬、浸透、散布、塗布、被覆、噴霧、注入、晶出、固化など公知の方法が適宜選ばれる。その量は、通常、0.1%以上、望ましくは、1%以上含有せしめるのが好適である。
【0040】
次に実験により本発明をさらに具体的に説明する。
【0041】
【実験1 スルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC33909由来耐熱性非還元性糖質生成酵素の調製】
ペプトン0.1w/v%、酵母エキス0.1w/v%、硫酸アンモニウム0.2w/v%、リン酸一カリウム0.05w/v%、硫酸マグネシウム七水塩0.02w/v、塩化カリウム0.02w/v%及び水からなる液体培地を500ml容三角フラスコに約100mlずつ入れ、オートクレーブで120℃で20分間滅菌し、冷却した後、硫酸にてpH3.0に調整した。この液体培地にスルフォロブス・アシドカルダリウスATCC33909を接種し、75℃、130rpmで24時間培養したものを第1次種培養液とした。
【0042】
容量10lのファーメンターに第1次種培養の場合と同組成の培地約5lを入れて殺菌、冷却してpH3.0、温度75℃とした後、第1次種培養液1v/v%を接種し、温度75℃、通気量500ml/分で約48時間通気培養したものを第2次種培養液とした。
【0043】
容量300lのファーメンターに第1次種培養の場合と同組成の培地約250lを入れて殺菌、冷却してpH3.0、温度75℃とした後、第2次種培養液1v/v%を接種し、温度75℃、通気量100l/分で約42時間通気培養した。得られた培養液約170lをSF膜及び遠心分離することにより、菌体を湿重量として258g回収した。この菌体に10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を300ml加え、懸濁した後、株式会社日本精機製作所製超音波破砕機モデル『US300』で菌体を破砕した。破砕液を遠心分離(10,000rpm、30分間)することにより、約300mlの遠心上清液を得た。その液に飽和度0.7になるように硫酸アンモニウムを加え溶解させ、4℃、24時間放置した後、遠心分離して塩析物を回収した。得られた塩析物を10mMトリス・塩酸酸緩衝液(pH8.5)に溶解させた後、同じ緩衝液に対して24時間透析し、遠心分離し不溶物を除いた。その透析液(約600ml)を2回に分けて、DEAE−トヨパールを用いたイオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル量約350ml)を行った。吸着した本酵素を0Mから0.3M塩化ナトリウム濃度のリニアグラジエントでカラムより溶出させ、0.1M塩化ナトリウム濃度付近で溶出した酵素活性画分を回収した。得られた酵素活性画分を1M硫酸アンモニウムを含む10mMトリス・塩酸酸緩衝液(pH8.5)に対して透析し、その透析液を遠心分離し不溶物を除き、得られる上清を、東ソー株式会社製ゲル『ブチルトヨパール 650』を用いた疎水カラムクロマトグラフィー(ゲル量350ml)に供した。吸着した本酵素を1Mから0M硫酸アンモニウム濃度のリニアグラジエントでカラムより溶出させ、0.8M硫酸アンモニウム濃度付近で溶出した酵素活性画分を約440単位回収した。得られた部分精製標品は、約20単位/mg蛋白質の比活性を示した。
【0044】
部分精製標品を0.2M塩化ナトリウムを含む10mMトリス・塩酸酸緩衝液(pH8.5)に対して透析し、その透析液を遠心分離し不溶物を除き、得られる上清をウルトロゲル AcA 44を用いたゲル濾過クロマトグラフィー(ゲル量350ml)に供し、酵素活性画分を回収した後、10mMトリス・塩酸酸緩衝液(pH8.5)に対して透析し、その透析液を遠心分離し不溶物を除き、得られる上清をMono Qを用いたイオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル量10ml)に供し、吸着した本酵素を0Mから0.2M塩化ナトリウム濃度のリニアグラジエントでカラムより溶出させ、0.1M塩化ナトリウム濃度付近で溶出した耐熱性非還元性糖質生成酵素活性画分を約40単位回収した。
【0045】
得られた精製耐熱性非還元性糖質生成酵素標品は、約81単位/mg蛋白質の比活性を示し、SDS−ポリアクリルアミドゲル(ゲル濃度10%)を用いる電気泳動法で純度を検定したところ、蛋白バンドは単一であることが示され、電気泳動的に単一な純度の高い標品であった。
【0046】
【実験2 耐熱性非還元性糖質生成酵素の理化学的性質】
【実験2−1 作用】
基質として、グルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、及びマルトヘプタオースの10%水溶液を調製し、それぞれに実験1の方法で得られた精製耐熱性非還元性糖質生成酵素を基質固形分グラム当たり2単位の割合で加え、60℃、pH5.5で48時間作用させた後、脱塩し、和光純薬工業株式会社製カラム『ワコービーズWB−T−330』を用いた高速液体クロマトグラフィーで反応生成物を分析した。高速液体クロマトグラフィーは、室温下で行い、溶離液として水を流速0.5ml/分で流し、東ソー株式会社製示差屈折計『RI−8012』で分析した。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
Figure 0003557287
【0048】
表1の結果から明らかなように、本精製酵素は、グルコース重合度3以上の澱粉部分分解物であるマルトトリオース乃至マルトヘプタオースから、末端にトレハロース構造に有する非還元性糖質であるα−グルコシルトレハロース乃至α−マルトペンタオシルトレハロースを生成することが判明した。反応物中には残存するそれぞれの基質とグルコース重合度が変わることなく生成した非還元性糖質以外に、比較的少量の基質の加水分解物であるグルコースや低分子マルトオリゴ糖及びそれから生成される非還元性糖質が存在し、非還元性糖質生成作用以外にも、弱いながら加水分解作用を有することが判明した。また、本精製酵素によるそれぞれの基質からの非還元性糖質及び加水分解物により生成した還元性糖質の生成率は、マルトトリオースから30.2%及び27.6%で、マルトテトラオースから65.4%及び18.4%で、マルトペンタオース乃至マルトヘプタオースから約74乃至75%及び約2乃至3%であり、グルコース重合度が5以上のマルトオリゴ糖からは非還元性糖質を高い生成率で生成し、加水分解物の生成は僅かであることが判明した。なお、グルコース、マルトースからは、新たな糖質を生成しないことが判明した。
【0049】
【実験2−2 分子量】
ユー・ケー・レムリが『ネーチャー(Nature)』、第227巻、第680乃至685頁(1970年)に報告している方法に準じてSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動したところ、本酵素は、分子量約69,000乃至79,000ダルトンに相当する位置に単一バンドを示した。なお、このときの分子量マーカーには、ミオシン(200,000ダルトン)、β−ガラクトシダーゼ(116,250ダルトン)、フォスフォリラーゼB(97,400ダルトン)、血清アルブミン(66,200ダルトン)及びオボアルブミン(45,000ダルトン)を使用した。
【0050】
【実験2−3 等電点】
精製耐熱性非還元性糖質生成酵素をポリアクリルアミドゲル(2%アンフォライン含有、ファルマシア・エルケービー社製)を用いる等電点電気泳動法に供し、泳動後、ゲルのpHを測定して本酵素の等電点を求めたところ、等電点は約5.4乃至6.4であった。
【0051】
【実験2−4 至適温度】
常法により、20mM酢酸緩衝液(pH5.5)中で60分間インキュベートする条件で試験したところ、図1に示すように、本酵素は、75℃付近に至適温度を示した。
【0052】
【実験2−5 至適pH】
常法により、pHの相違するマッキルヴェイン氏緩衝液中、60℃で60分間インキュベートする条件で試験したところ、図2に示すように、本酵素は、pH5.0乃至5.5付近に至適pHを示した。
【0053】
【実験2−6 温度安定性】
常法により、10mM燐酸緩衝液(pH7.0)中で60分間インキュベートする条件で試験したところ、図3に示すように、本酵素は、85℃付近まで安定であった。
【0054】
【実験2−7 pH安定性】
常法により、pHの相違するマッキルヴェイン氏緩衝液、又は炭酸ナトリウム−炭酸水素ナトリウム緩衝液中、25℃で16時間インキュベートする条件で試験したところ、図4に示すように、本酵素は、pH4.5乃至9.5付近まで安定であった。
【0055】
【実験2−8 N末端アミノ酸配列】
実験1の方法で得られた精製耐熱性非還元性糖質生成酵素標品の一部をそれぞれ蒸留水に対して透析した後、蛋白量として約80μgをN末端アミノ酸配列分析用の試料とした。N末端アミノ酸配列は、アプライド・バイオシステムズ・ジャパン販売気相プロテイン・シーケンサ『473A型』を用い、N末端から10残基まで分析した。得られたN末端配列を次に示す。
【0056】
Figure 0003557287
【0057】
【実験3 他のスルフォロブス属微生物由来の耐熱性非還元性糖質生成酵素の調製】
スルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC33909に代えて、スルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC49426、スルフォロブス・ソルファタリカス ATCC35091及びスルフォロブス・ソルファタリカス ATCC35092を用いた以外は、実験1と同様にファーメンターで42時間培養した。それぞれの培養液約170lから菌体を回収し、超音波処理し、その上清を硫安塩析、透析し、更にイオン交換カラムクロマトグラフィーと疎水カラムクロマトグラフィーにかけ、部分精製酵素標品を得、その性質を調べた。結果を表2にまとめた。
【0058】
【表2】
Figure 0003557287
【0059】
また、これらの部分精製酵素を用いて、実験2−1の方法に従って、非還元性糖質の生成を調べたところ、いずれの酵素もスルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC33909由来の耐熱性非還元性糖質生成酵素の場合と同様に、グルコース重合度3以上から選ばれる還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度3以上から選ばれる非還元性糖質を生成することが判明した。
【0060】
以下、本発明の非還元性糖質、それを含む低還元性糖質及びトレハロースの製造方法を実施例Aで、非還元性糖質、それを含む低還元性糖質及び/又はトレハロースを含有せしめた組成物を実施例Bで示す。
【0061】
【実施例A−1】
スルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC33909を実験1の方法に準じて、ファーメンターで約42時間培養した。培養後、SF膜を用いて菌体を濃縮し、更に遠心分離して菌体を回収した。実験3の方法に準じ、菌体を超音波処理し、その上清を硫安塩析、透析し、更にイオン交換カラムクロマトグラフィーと疎水カラムクロマトグラフィーを行い、比活性が約20単位/mgの部分精製酵素液(18.0単位/ml)を得た。濃度6%の馬鈴薯澱粉乳を加熱糊化させた後、pH4.5、温度50℃に調整し、これにイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製)を澱粉グラム当り2500単位の割合になるよう加え、20時間反応させた。その反応液をpH6.5に調整し、オートクレーブ(120℃)を10分間行い、次いで60℃に冷却し、これにノボ社製α−アミラーゼ『ターマミール60L』を澱粉グラム当り30単位の割合になるよう加え、20時間反応させた。その反応液をオートクレーブ(120℃)を20分間行った後、65℃に冷却し、pHを5.5に調整し、これに上記調製の耐熱性非還元性糖質生成酵素を澱粉グラム当たり1単位の割合になるよう加え、96時間反応させた。その反応液を97℃で30分間保った後、冷却し、瀘過して得られる瀘液を、常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して濃度約70%のシラップを固形分当たり約90%で得た。本品は、DE24.6であって、非還元性糖質を固形分当り、α−グルコシルトレハロース 12.0%、α−マルトシルトレハロース 5.5%、α−マルトトリオシルトレハロース 29.9%、α−マルトテトラオシルトレハロース 1.5%、及びα−マルトペンタオシルトレハロース 2.2%を含有しており、温和で上品な甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0062】
【実施例A−2】
実施例A−1の方法で得られた糖液を原糖液とし、非還元性糖質の含量を高めるため、東京有機化学工業株式会社製ナトリウム型強酸性カチオン交換樹脂『XT−1016』(架橋度4%)を用いたカラム分画を行った。樹脂を内径5.4cmのジャケット付ステンレス製カラム4本に充填し、直列につなぎ樹脂層全長20mとした。カラム内温度を55℃に維持しつつ、糖液を樹脂に対して5v/v%加え、これに55℃の温水をSV0.13で流して分画し、グルコース及びマルトース高含有画分を除去し、非還元性糖質高含有画分を採取した。更に、精製、濃縮し、真空乾燥し、粉砕して、非還元性糖質高含有粉末を固形分当たり約64%で得た。本品はDE4.8であって、非還元性糖質を、固形物当り、α−グルコシルトレハロース 18.2%、α−マルトシルトレハロース 7.9%、α−マルトトリオシルトレハロース 46.6%、α−マルトテトラオシルトレハロース 2.3%、及びα−マルトペンタオシルトレハロース 3.4%を含有しており、実施例A−1と同様に、温和で上品な甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0063】
【実施例A−3】
33%とうもろこし澱粉乳に最終濃度0.1%となるように炭酸カルシウムを加えた後、pH6.5に調整し、これにターマミール60Lを澱粉グラム当たり0.2%になるよう加え、95℃で15分間反応させた。その反応液をオートクレーブ(120℃)を10分間行った後、55℃に冷却し、これに特開昭63−240783号公報で開示されている株式会社林原生物化学研究所製マルトテオラオース生成アミラーゼを澱粉グラム当たり5単位の割合になるように加え、6時間反応させ、これに上田化学株式会社製α−アミラーゼ『α−アミラーゼ2A』を澱粉グラム当り30単位加え、更に65℃で4時間反応させた。その反応液をオートクレーブ(120℃)を10分間行い、次いで65℃に冷却し、pHを5.5に調整した後、これに実施例A−1の方法で調製した耐熱性非還元性糖質生成酵素を澱粉グラム当り2単位の割合になるよう加え、48時間反応させた。その反応液を97℃で30分間保った後、冷却し、瀘過して得られる瀘液を、常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して濃度約70%のシラップを固形物当り収率約90%で得た。本品は、DE17.1であって、非還元性糖質を、固形物当りα−グルコシルトレハロース 8.9%、α−マルトシルトレハロース 29.3%、α−マルトトリオシルトレハロース 0.8%、α−マルトテトラオシルトレハロース 0.7%、及びα−マルトペンタオシルトレハロース 0.7%を含有しており、温和で上品な甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0064】
【実施例A−4】
実施例のA−3の方法で得られた糖液を原糖液とし、本液のα−マルトシルトレハロースの含量を高めるため、分画用樹脂として、ダウケミカル社販売マグネシウム型強酸性カチオン交換樹脂『ダウエックス50W×4』を用いた以外は、実施例A−2の方法に従ってカラムクロマトグラフィーを行い、α−マルトシルトレハロース高含有画分を採取した。更に、精製、濃縮し、噴霧乾燥して、非還元性糖質高含有粉末を固形物当たり収率約41%で得た。本品は、非還元性糖質を固形物当り、α−グルコシルトレハロース 10.9%、α−マルトシルトレハロース 61.3%、α−マルトトリオシルトレハロース 1.0%含有しており、そのDEは、2.5を示し、極めて還元性が少なく、実施例A−3と同様に、温和で上品な甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0065】
【実施例A−5】
松谷化学工業株式会社製澱粉部分分解物『パインデックス#4』40重量部を水60重量部に加熱溶解し、この溶液を65℃、pH5.5に調整した後、実施例A−1に方法で調製した耐熱性非還元性糖質生成酵素を澱粉部分分解物グラム当り1単位の割合になるように加えて、96時間反応させ、次いで97℃に30分間加熱して、酵素を失活させた。本反応液を濃度約20%まで希釈し、ナガセ生化学工業株式会社製グルコアミラーゼ『グルコチーム』を澱粉部分分解物グラム当り10単位加えて10時間反応させ、次いで加熱して酵素を失活させた。本溶液を、常法に従って、活性炭で脱色し、イオン交換樹脂により脱塩し、濃度約60%に濃縮した。本糖液中には固形物当り30.1%のトレハロースを含有していた。分画用樹脂として、オルガノ株式会社販売ナトリウム型強酸性カチオン交換樹脂『CG6000』を用いた以外は、実施例A−2の方法に従ってカラムクロマトグラフィーを行い、トレハロース高含有画分を採取した。本高含有液は、固形物当り約97%のトレハロースを含有していた。本溶液を濃度約75%に濃縮した後、助晶缶にとり、種晶としてトレハロース含水結晶約2%を加えて徐冷し、晶出率約45%のマスキットを得た。本マスキットを乾燥塔上のノズルより150kg/cmの高圧にて噴霧した。これと同時に85℃の熱風を乾燥塔 の上部より45℃の温風を送りつつ、該粉末を乾燥塔外に徐々に移動させて、取り出した。この結晶粉末を熟成塔に充填して温風を送りつつ、10時間熟成させ、結晶化と乾燥を完了し、トレハロース含水結晶粉末を得た。本品は、実質的に吸湿性を示さず、取扱いが容易であり、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0066】
【実施例A−6】
スルフォロバス・ソルファタリカス ATCC35091を実験3の方法に準じて、ファーメンターで約42時間培養した。培養後、SF膜を用いて菌体を濃縮し、更に遠心分離して菌体を回収し、超音波処理し、その上清を硫安塩析、透析し、更にイオン交換カラムクロマトグラフィーと疎水カラムクロマトグラフィーを行い、比活性が約18単位/mgの部分精製酵素液(19.0単位/ml)を得た。30%とうもろこし澱粉乳を用いて、実施例A−3の方法に準じて、ターマミール60L、次いでマルトテトラオース生成アミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製)及びα−アミラーゼ2Aを作用させ、オートクレーブ(120℃)処理し、次いで、65℃に冷却し、これに上記の方法で調製した耐熱性非還元性糖質生成酵素を澱粉グラム当たり2単位になるように加え、64時間反応させた。次いで、97℃に30分間加熱して酵素を失活させた。本反応液を、実施例A−5の方法に準じて、グルコチームを作用させ、脱色、脱塩して、濃度約60%に濃縮した。本糖液中には、固形物当たり約23%のトレハロースを含有していた。本糖液を実施例A−5の方法に準じて塩型強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーを行い、トレハロース高含有画分を採取した。本高含有液は、固形物当たり約95%のトレハロースを含有していた。本溶液を蒸発釜にとり、減圧下で煮詰め、水分4.0%のシラップとし、助晶機に移し、これに種晶として無水結晶トレハロースをシラップ固形分当たり1%加え、95℃で5分間撹拌助晶し、次いで、アルミ製バットに取り出し、100℃で6時間晶出熟成させてブロックを調製した。次いで、本ブロックを切削機にて粉砕し、流動乾燥して、水分0.3%の無水結晶トレハロース粉末を得た。本品は、食品、医薬品、化粧品、その原材料、又は加工中間物などの含水物の脱水剤としてのみならず、上品な甘味を有する白色粉末甘味料としても有利に利用できる。
【0067】
【実施例B−1 甘味料】
実施例A−4の方法で得た非還元性糖質高含有粉末1重量部に、東洋精糖株式会社販売α−グリコシルステビオシド『αGスイート』0.01重量部及び味の素株式会社製L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル『アスパルテーム』0.01重量部を均一に混合し、顆粒成型機にかけて、顆粒状甘味料を得た。本品は、甘味の質が優れ、蔗糖の約2倍の甘味度を有し、甘味度当たりカロリーは、蔗糖の約1/2に低下している。本甘味料は、それに配合した高甘味度甘味物の分解もなく、安定性に優れており、低カロリー甘味料として、カロリー摂取を制限している肥満者、糖尿病者などのための低カロリー飲食物などに対する甘味付けに好適である。また、本甘味料は、虫歯誘発菌による酸の生成が少なく、不溶性グルカンの生成も少ないことより、虫歯を抑制する飲食物などに対する甘味付けにも好適である。
【0068】
【実施例B−2 ハードキャンディー】
濃度55%蔗糖溶液100重量部に実施例A−3の方法で得た非還元性糖質含有シラップ30重量部を加熱混合し、次いで減圧下で水分2%未満になるまで加熱濃縮し、これにクエン酸1重量部及び適量のレモン香料と着色料とを混和し、常法に従って成型し、製品を得た。本品は、歯切れ、呈味良好で、蔗糖の晶出も起こらない高品質のハードキャンデーである。
【0069】
【実施例B−3 チューインガム】
ガムベース3重量部を柔らかくなる程度に加熱溶融し、これに蔗糖4重量部及び実施例A−5の方法で得たトレハロース含水結晶粉末3重量部とを加え、更に適量の香料と着色料とを混合し、常法に従って、ロールにより練り合わせ、成形、包装して製品を得た。本品は、テクスチャー、風味とも良好なチューインガムである。
【0070】
【実施例B−4 加糖練乳】
原乳100重量部に実施例A−1の方法で得た非還元性糖質含有シラップ3重量部及び蔗糖1重量部を溶解し、プレートヒーターで加熱殺菌し、次いで濃度70%に濃縮し、無菌状態で缶詰して製品を得た。本品は、温和な甘味で、風味もよく、乳幼児食品、フルーツ、コーヒー、ココア、紅茶などの調味用に有利に利用できる。
【0071】
【実施例B−5 乳酸菌飲料】
脱脂粉乳175重量部、実施例A−2の方法で得た非還元性糖質高含有粉末80重量部及び特開平4−281795号公報で開示されているラクトスクロース高含有粉末50重量部を水1,200重量部に溶解し、65℃で30分間殺菌し、40℃に冷却後、これに、常法に従って、乳酸菌のスターターを30重量部植菌し、37℃で8時間培養して乳酸菌飲料を得た。本品は、風味良好な乳酸菌飲料である。また、本品は、オリゴ糖を含有し、乳酸菌を安定に保持するだけでなく、ビフィズス菌増殖促進作用をも有する。
【0072】
【実施例B−6 粉末ジュース】
噴霧乾燥により製造したオレンジ果汁粉末33重量部に対して、実施例A−2の方法で得た非還元性糖質高含有粉末50重量部、蔗糖10重量部、無水クエン酸0.65重量部、リンゴ酸0.1重量部、L−アスコルビン酸0.1重量部、クエン酸ソーダ0.1重量部、プルラン0.5重量部、粉末香料適量をよく混合撹拌し、粉砕し微粉末にしてこれを流動層造粒機に仕込み、排風温度40℃、風量150mとし、これに、実施例A−1の方法で得た非還元性糖質含有シラッ プをバインダーとしてスプレーし、30分間造粒し、計量、包装して製品を得た。本品は、果汁含有率約30%の粉末ジュースである。また、本品は異味、異臭がなく、長期に安定であった。
【0073】
【実施例B−7 カスタードクリーム】
コーンスターチ100重量部、実施例A−3の方法で得た非還元性糖質含有シラップ100重量部、マルトース80重量部、蔗糖20重量部及び食塩1重量部を充分に混合し、鶏卵280重量部を加えて撹拌し、これに沸騰した牛乳1,000重量部を徐々に加え、更に、これを火にかけて撹拌を続け、コーンスターチが完全に糊化して全体が半透明になった時に火を止め、これを冷却して適量のバニラ香料を加え、計量、充填、包装して製品を得た。本品は、なめらかな光沢を有し、温和な甘味で美味である。
【0074】
【実施例B−8 あん】
原料あずき10重量部に、常法に従って、水を加えて煮沸し、渋切り、あく抜きして、水溶性夾雑物を除去して、あずきつぶあん約21重量部を得た。この生あんに、蔗糖14重量部、実施例A−4の方法で得た非還元性糖質高含有シラップ5重量部及び水4重量部を加えて煮沸し、これに少量のサラダオイルを加えてつぶあんをこわさないように練り上げ、製品のあんを約35重量部得た。本品は、色焼けもなく、舌ざわりもよく、風味良好で、あんパン、まんじゅう、だんご、もなか、氷菓などのあん材料として好適である。
【0075】
【実施例B−9 パン】
小麦粉100重量部、イースト2重量部、砂糖5重量部、実施例A−2の方法で得た非還元性糖質高含有粉末1重量部及び無機フード0.1重量部を、常法に従って、水でこね、中種を26℃で2時間発酵させ、その後30分間熟成し、焼き上げた。本品は、色相、すだちとも良好で適度な弾力、温和な甘味を有する高品質のパンである。
【0076】
【実施例B−10 ハム】
豚もも肉1,000重量部に食塩15重量部及び硝酸カリウム3重量部を均一にすり込んで、冷室に1昼夜堆積する。これを水500重量部、食塩100重量部、硝酸カリウム3重量部、実施例A−4の方法で得た非還元性糖質高含有粉末40重量部及び香辛料からなる塩漬液に冷室で7日間漬け込み、次いで、常法に従って、冷水で洗浄し、ひもで巻き締め、燻煙し、クッキングし、冷却包装して製品を得た。本品は、色合いもよく、風味良好な高品質のハムである。
【0077】
【実施例B−11 粉末ペプチド】
不二製油株式会社製40%食品用大豆ペプチド溶液『ハイニュートS』1重量部に、実施例A−5の方法で得たトレハロース含水結晶粉末2重量部を混合し、プラスチック製バットに入れ、50℃で減圧乾燥し、粉砕して粉末ペプチドを得た。本品は、風味良好で、プレミックス、冷菓などの製菓用材料としてのみならず、経口流動食、経管流動食などの離乳食、治療用栄養剤などとしても有利に利用できる。
【0078】
【実施例B−12 粉末卵黄】
生卵から調製した卵黄をプレート式加熱殺菌機で60乃至64℃で殺菌し、得られる液状卵黄1重量部に対して、実施例A−6の方法で得た無水結晶トレハロース粉末4重量部の割合で混合した後バットに移し、一夜放置して、トレハロース含水結晶に変換させてブロックを調製した。本ブロックを切削機にかけて粉末化し、粉末卵黄を得た。本品は、プレミックス、冷菓、乳化剤などの製菓用材料としてのみならず、経口流動食、経管流動食などの離乳食、治療用栄養剤などとしても有利に利用できる。また、美肌剤、育毛剤などとしても有利に利用できる。
【0079】
【実施例B−13 化粧用クリーム】
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール2重量部、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン5重量部、実施例A−2の方法で得た非還元性糖質高含有粉末2重量部、α−グリコシル ルチン1重量部、流動パラフィン1重量部、トリオクタン酸グリセリン10重量部及び防腐剤の適量を常法に従って加熱溶解し、これにL−乳酸2重量部、1,3−ブチレングリコール5重量部及び精製水66重量部を加え、ホモゲナイザーにかけ乳化し、更に香料の適量を加えて撹拌混合しクリームを製造した。本品は、抗酸化性を有し、安定性が高く、高品質の日焼け止め、美肌剤、色白剤などとして有利に利用できる。
【0080】
【実施例B−14 固体製剤】
ヒト天然型インターフェロン−α標品(株式会社林原生物化学研究所製)を、常法に従って、固定化抗ヒトインターフェロン−α抗体カラムにかけ、該標品に含まれるヒト天然型インターフェロン−αを吸着させ、安定剤である牛血清アルブミンを素通りさせて除去し、次いで、pHを変化させて、ヒト天然型インターフェロン−αを実施例A−5の方法で得たトレハロース含水結晶粉末を5%含有する生理食塩水を用いて溶出した。本液を精密濾過し、約20倍量の株式会社林原商事販売無水結晶マルトース粉末『ファイントース』に加えて脱水、粉末化し、これを打錠機にて打錠し、1錠(約200mg)当たりヒト天然型インターフェロン−αを約150単位含有する錠剤を得た。本品は、舌下錠などとして、一日当たり、大人1乃至10錠程度が経口的に投与され、ウイルス性疾患、アレルギー性疾患、リューマチ、糖尿病、悪性腫瘍などの治療に有利に利用できる。とりわけ、近年、患者数の急増しているエイズ、肝炎などの治療剤として有利に利用できる。本品は、トレハロースと共にマルトースが安定剤として作用し、室温でも放置してもその活性を長期間よく維持する。
【0081】
【実施例B−15 糖衣錠】
重量150mgの素錠を芯剤とし、これに実施例A−5の方法で得たトレハロース含水結晶粉末40重量部、プルラン(平均分子量20万)2重量部、水30重量部、タルク25重量部及び酸化チタン3重量部からなる下掛け液を用いて錠剤重量が約230mgになるまで糖衣し、次いで、同じトレハロース含水結晶粉末65重量部、プルラン1重量部及び水34重量部からなる上掛け液を用いて、糖衣し、更に、ロウ液で艶出しして光沢の在る外観の優れた糖衣錠を得た。本品は、耐衝撃性にも優れており、高品質を長期間維持する。
【0082】
【実施例B−16 流動食用固体製剤】
実施例A−5の方法で製造したトレハロース含水結晶粉末500重量部、粉末卵黄270重量部、脱脂粉乳209重量部、塩化ナトリウム4.4重量部、塩化カリウム1.8重量部、硫酸マグネシウム4重量部、チアミン0.01重量部、アスコルビン酸ナトリウム0.1重量部、ビタミンEアセテート0.6重量部及びニコチン酸アミド0.04重量部からなる配合物を調製し、この配合物25グラムずつ防湿性ラミネート小袋に充填し、ヒートシールして製品を得た。本品は、1袋分を約150乃至300mlの水に溶解して流動食とし、経口的、又は鼻腔、胃、腸などへ経管的使用方法により利用され、生体へのエネルギー補給用に有利に利用できる。
【0083】
【実施例B−17 外傷治療用膏薬】
実施例A−5の方法で製造したトレハロース含水結晶粉末200重量部及びマルトース300重量部に、ヨウ素3重量部を溶解したメタノール50重量部を加え混合し、更に10w/v%プルラン水溶液200重量部を加えて混合し、適度の延び、付着性を示す外傷治療用膏薬を得た。本品は、ヨウ素による殺菌作用のみならず、トレハロースによる細胞へのエネルギー補給剤としても作用することから、治癒期間が短縮され、創面もきれいに治る。
【0084】
【発明の効果】
上記から明らかなように、本発明の新規耐熱性非還元性糖質生成酵素は、55℃を越える温度で酵素反応が容易に行えるため、微生物汚染を懸念することなく、澱粉部分分解物を同じグルコース重合度の非還元性糖質に高収率で変換する。その非還元性糖質の分離、精製も容易であり、このようにして得られる非還元性糖質、これを含む低還元性糖質及びこれから製造されるトレハロースは安定性に優れ、良質で上品な甘味を有している。非還元性糖質、これを含む低還元性糖質及びトレハロースは甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0085】
従って、本発明の確立は、安価で無限の資源である澱粉に由来する澱粉部分分解物から、従来、望むべくして容易に得られなかった末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質、これを含む低還元性糖質、及びこれから容易に製造されるトレハロースを、工業的に大量かつ安価に供給できる全く新しい道を拓くこととなり、それが与える影響の大きさは、食品、化粧品、医薬品分野は勿論のこと、農水畜産業、化学工業にも及び、これら産業界に与える工業的意義は計り知れないものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の耐熱性非還元性糖質生成酵素の酵素活性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図2】本発明の耐熱性非還元性糖質生成酵素の酵素活性に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図3】本発明の耐熱性非還元性糖質生成酵素の安定性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図4】本発明の耐熱性非還元性糖質生成酵素の安定性に及ぼすpHの影響を示す図である。

Claims (20)

  1. グルコース重合度3以上の還元性澱粉部分分解物から、末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成し、スルフォロブス属に属する微生物から得ることのできる、下記の理化学的性質を有する耐熱性非還元性糖質生成酵素;
    (1) 作用
    グルコース重合度3以上の1種又は2種以上の還元性澱粉部分分解物から、末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する。
    (2) 分子量
    SDS−ゲル電気泳動法により、約69,000乃至79,000ダルトン。
    (3) 等電点
    アンフォライン含有電気泳動法により、pI約5.4乃至6.4。
    (4) 至適温度
    pH5.5、60分間反応で、75℃付近。
    (5) 至適pH
    60℃、60分間反応で、pH5.0乃至5.5付近。
    (6) 温度安定性
    pH7.0、60分間保持で、85℃付近まで安定。
    (7) pH安定性
    25℃、16時間保持で、pH約4.0乃至9.5。
  2. 請求項記載の耐熱性非還元性糖質生成酵素産生能を有するスルフォロブス属に属する微生物を栄養培地中で培養し、得られる培養物から該耐熱性非還元性糖質生成酵素を採取することを特徴とする、請求項記載の耐熱性非還元性糖質生成酵素の製造方法。
  3. スルフォロブス属に属する微生物が、スルフォロブス・アシドカルダリウス(ATCC33909)、スルフォロブス・アシドカルダリウス (ATCC49426)、スルフォロブス・ソルファタリカス(ATCC35091)、又はスルフォロブス・ソルファタリカス(ATCC35092)である、請求項2記載の耐熱性非還元性糖質酵素の製造方法。
  4. 請求項記載の耐熱性非還元性糖質生成酵素をグルコース重合度3以上の還元性澱粉部分分解物に作用させることを特徴とする、末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質、又はこれを含む低還元性糖質の製造方法。
  5. 還元性澱粉部分分解物が、グルコース重合度3以上から選ばれる1種又は2種以上の還元性澱粉部分分解物、澱粉液化物、デキストリン又はマルトオリゴ糖である請求項4記載の末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質、又はこれを含む低還元性糖質の製造方法。
  6. 還元性澱粉部分分解物が、澱粉を酵素又は酸によって部分的に加水分解して得られる還元性澱粉部分分解物である、請求項4又は5記載の末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質、又はこれを含む低還元性糖質の製造方法。
  7. 酵素が、アミラーゼ又は枝切酵素である請求項6記載の末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質、又はこれを含む低還元性糖質の製造方法。
  8. 還元性澱粉部分分解物が、還元性澱粉部分分解物含有溶液である請求項4、5、6又は7記載の末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質、又はこれを含む低還元性糖質の製造方法。
  9. 請求項4乃至8のいずれかに記載の末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質、又はこれを含む低還元性糖質を含有する溶液を、強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにかけることを特徴とする、含量を向上させた、末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質、又はこれを含む低還元性糖質の製造方法。
  10. 請求項4乃至9のいずれかに記載の製造方法により、末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質、又はこれを含む低還元性糖質を製造し、これを含有せしめることを特徴とする飲食物の製造方法。
  11. 請求項4乃至9のいずれかに記載の製造方法により、末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質、又はこれを含む低還元性糖質を製造し、これを含有せしめることを特徴とする化粧品の製造方法。
  12. 請求項4乃至9のいずれかに記載の製造方法により、末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質、又はこれを含む低還元性糖質を製造し、これを含有せしめることを特徴とする医薬品の製造方法。
  13. 請求項に記載の耐熱性非還元性糖質生成酵素をグルコース重合度3以上の還元性澱粉部分分解物に作用させ、次いでグルコアミラーゼ又はα−グルコシダーゼを作用させてトレハロースを生成させ、これを採取することを特徴とするトレハロースの製造方法。
  14. 強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーを用いることを特徴とする請求項13記載のトレハロースの製造方法。
  15. トレハロースが、含水結晶又は無水結晶である請求項13又は14記載のトレハロースの製造方法。
  16. 還元性澱粉部分分解物が、グルコース重合度3以上から選ばれる1種又は2種以上の還元性澱粉部分分解物、澱粉液化物、デキストリン又はマルトオリゴ糖である請求項13記載のトレハロースの製造方法。
  17. 還元性澱粉部分分解物が、還元性澱粉部分分解物含有溶液である請求項13又は16記載のトレハロースの製造方法。
  18. 請求項13乃至17のいずれかに記載のトレハロースの製造方法によりトレハロースを製造し、これを含有せしめることを特徴とする飲食物の製造方法。
  19. 請求項13乃至17のいずれかに記載のトレハロースの製造方法によりトレハロースを製造し、これを含有せしめることを特徴とする化粧品の製造方法。
  20. 請求項13乃至17のいずれかに記載のトレハロースの製造方法によりトレハロースを製造し、これを含有せしめることを特徴とする医薬品の製造方法。
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