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JP5993674B2 - α,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法 - Google Patents

α,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、α,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法に関し、詳細には、高純度のα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末を、澱粉から一貫した工程で収率良く製造するα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法と、その製造方法によって得られるα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末に関する。
α,α−トレハロース(以下、本明細書では「トレハロース」と略称する。)の二含水結晶含有粉末の製造方法としては、従来から種々の方法が知られている。例えば、特許文献1には、液化澱粉にβ−アミラーゼ又はβ−アミラーゼとともに澱粉枝切酵素を作用させ、次いで、マルトース・トレハロース変換酵素を作用させてトレハロース含有糖液を得、これを適宜精製した後、トレハロースを晶析させてトレハロース二含水結晶含有粉末を製造する方法が開示されており、特許文献2には、液化澱粉に、澱粉枝切酵素とともに、α−グリコシルトレハロース生成酵素(別名「非還元性糖質生成酵素」)及びトレハロース遊離酵素を作用させ、さらにグルコアミラーゼを作用させて、トレハロース含有糖液を得、これを適宜精製した後、トレハロースを晶析させてトレハロース二含水結晶含有粉末を製造する方法が開示されている。
また、特許文献3、4には、特許文献2に開示された前記製造方法において、澱粉枝切酵素とシクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼ(以下、「CGTase」と略称する。)を併用し、それらとともにα−グリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素を作用させることによって前記トレハロース含有糖液中のトレハロース含量を高めた、トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法が開示されている。さらに、特許文献5、6や非特許文献1、2には、液化澱粉に、スルフォロブス(Sulfolobus)属に属する微生物由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素、又はα−グリコシルトレハロース生成酵素とトレハロース遊離酵素を作用させて、トレハロース含有糖液を得る方法、さらには、このトレハロース含有糖液を適宜精製した後、トレハロースを晶析させてトレハロース二含水結晶含有粉末を製造する方法が開示されている。
これら公知の製造方法のうち、特許文献3、4に開示された前記各酵素の組み合わせによる場合には、液化澱粉を原料にして、カラムクロマトグラフィーによる分画工程を経ることなく、酵素反応だけでトレハロース含量が無水物換算で80質量%を超えるトレハロース含有糖液を容易に調製することができ、しかも、斯くして調製されたトレハロース含有糖液の組成はトレハロース以外は殆どがグルコースであるので、トレハロースの晶析性が良いという利点を有している。したがって、特許文献3、4に開示された前記製造方法による場合には、前記トレハロース含有糖液からトレハロース二含水結晶を晶析させ、遠心分離によって結晶を採取する分蜜方式によって、比較的高純度のトレハロース二含水結晶含有粉末を収率良く製造することができる。
特に、特許文献3、4に開示された前記製造方法において、α−グリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素としてアルスロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物由来の酵素を用いる場合には、アルスロバクター属に属する微生物は生育が比較的早く、また、前記酵素の生産性も高いので、トレハロース二含水結晶含有粉末を工業的規模で製造する上では極めて有利である。このため、本出願人は、現在、α−グリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素としてアルスロバクター属に属する微生物由来の酵素を用い、特許文献3、4に開示された前記製造方法によって、高純度トレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハ』、株式会社林原販売、製品規格上のトレハロース純度:98.0質量%以上。以下、「食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末」という。)を製造し、主として、食品素材、化粧品素材などとして販売している。しかし、本製造方法による場合には、酵素反応によって得られるトレハロース含有糖液中のトレハロース含量は、現在のところ、種々酵素反応の条件を最適化した場合でも、無水物換算で約85質量%前後止まりであり、対澱粉収率は40質量%に達しないというのが実状である。
一方、特許文献5、6や非特許文献1、2に開示されたスルフォロブス属微生物由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素を用いる方法は、酵素が耐熱性を有することから比較的高温での反応が可能であり、酵素反応中の反応液の雑菌汚染の懸念が少ないという利点はあるものの、微生物の生育が悪く、酵素の生産性が低いなどの問題点があり、トレハロースの工業的規模での製造には適していなかった。特許文献7、8にはスルフォロブス属微生物由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素とトレハロース遊離酵素の組換え型酵素がそれぞれ開示されており、組換え型酵素を使用することにより酵素の生産性の問題は解消する。しかしながら、スルフォロブス属微生物由来の酵素を用いるトレハロースの製造方法では、特許文献6、8、非特許文献1,2などに記載されているように、澱粉枝切酵素を併用した場合でも酵素反応によって得られるトレハロース含有糖液中のトレハロース含量は無水物換算で75乃至81質量%程度と低く、さらにCGTaseを添加して最適化した場合であっても、無水物換算で約82質量%前後止まりであった。
また一方、非特許文献3、4には、スルフォロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)由来の耐熱性α−グリコシルトレハロース生成酵素、耐熱性トレハロース遊離酵素及び耐熱性イソアミラーゼの各遺伝子をそれぞれ大腸菌で発現させることにより調製した組換え酵素や、それらにさらに部位特異的変異を導入して作製した変異体酵素を組み合わせて可溶性澱粉に作用させると、トレハロース含量が無水物換算で87質量%前後のトレハロース含有糖液が得られることが開示されている。
しかしながら、非特許文献3、4において原料として用いられている可溶性澱粉は、澱粉を酸処理することにより澱粉粒内の非晶質部分を除去することにより製造される非常に特殊で高価な原料であり、たとえトレハロース含量が高まった酵素反応液が得られるとしても、可溶性澱粉をトレハロース二含水結晶含有粉末の工業的生産用の原料として使用することは、コスト的にみて到底不可能である。また、非特許文献3、4に開示されている組換え酵素や変異体酵素を、可溶性澱粉ではなく、工業的規模での製造において用いられる液化澱粉に作用させた場合には、酵素反応によって得られるトレハロース含有糖液中のトレハロース含量は、当然のことながら87質量%前後よりも低下し、85質量%前後に止まることとなり、現行の製造方法以上にトレハロース二含水結晶含有粉末の対澱粉収率を向上させることは望めない。
因みに、トレハロース含有糖液中のトレハロース含量を単に86.0質量%以上に高めるのであれば、トレハロース含有糖液にカラムクロマトグラフィーを用いるカラム分画を適用してトレハロース高含有画分を採取することが考えられる。しかし、カラム分画を行うと、工程が増える分だけ製造コストが増す上に、トレハロース高含有画分として採取される画分以外の画分に含まれるトレハロースのロスが必然的に発生するので、仮にカラム分画によって無水物換算でのトレハロース含量が86.0質量%を超えるトレハロース含有糖液が得られたとしても、そのような糖液から晶析したトレハロース二含水結晶を採取してトレハロース二含水結晶含有粉末を製造しても、対澱粉収率が大幅に低下することは避けられない。
また、単に対澱粉収率を高めるだけであれば、晶析した結晶を遠心分離で採取する分蜜方式に代えて、晶析した結晶を含むマスキットを容器に取り出してその全量を結晶・固化させてこれを粉砕するか、又は、マスキットを噴霧乾燥して粉末を得る、いわゆる全糖方式を採用することも考えられる。しかし、全糖方式による場合には、晶析したトレハロースとともに、マスキットに含まれるグルコースのような製法に特有の共雑物までもが一緒に粉末化されるので、得られるトレハロース二含水結晶含有粉末中のトレハロース含量はマスキットにおけるトレハロース含量以上に高まらず、高純度のトレハロース二含水結晶含有粉末を得ることができないという不都合がある。
澱粉は、現在では、比較的豊富に存在し、安価で容易に入手し得る原料であるが、決して無尽蔵に存在する物質ではなく、一年間に地球上で人間によって生産される澱粉の総量には限りがある。その一方で、澱粉の用途は広く、従来からの工業的用途、食料用、飼料用、或いは食品原料としての用途に加えて、近年では、クリーンなエネルギー需要の隆盛から、新たにバイオエタノール等の燃料原料としても用いられるようになっている。斯かる状況下、製品、すなわち、トレハロース二含水結晶含有粉末の対澱粉収率を向上させることは、限りある資源の有効利用という点からみて極めて重要である。
特開平7−170977号公報 特開平7−213283号公報 特開平8−73504号公報 特開2000−228980号公報 特開平8−66188号公報 特開平8−66187号公報 特開平8−84586号公報 特開平8−336388公報
カズヒサ・ムカイ(Kazuhisa Mukai)ら、スターチ(Starch)、1997年、第49巻、26乃至30頁 カズオ・コバヤシ(Kazuo Kobayashi)ら、ジャーナル・オブ・ファーメンテーション・アンド・バイオエンジニアリング(Journal of Fermentation and Bioengineering)、1997年、第83巻、第3号、296乃至298頁 ファン(Fang)ら、ジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・アンド・フード・ケミストリー(Journal of Agricultural and Food Chemistry)、2007年、第55巻、5588乃至5594頁 ファン(Fang)ら、ジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・アンド・フード・ケミストリー(Journal of Agricultural and Food Chemistry)、2008年、第56巻、5628乃至5633頁
本発明は、上記従来のトレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法における不都合を解消し、トレハロースの純度を保ちつつ、トレハロース二含水結晶含有粉末の対澱粉収率をより高めることを目的として為されたもので、高純度のトレハロース二含水結晶含有粉末を、澱粉を原料に一貫した工程で収率良く製造することを可能にするトレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法と、その製造方法によって製造される新規なトレハロース二含水結晶含有粉末を提供することを課題とする。
上記の課題を解決すべく、本発明者らは、特許文献5、6に開示された前記製造方法で用いられる複数の酵素の組み合わせについて種々検討と試行錯誤を重ねた結果、α−グリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素として、スルフォロブス属微生物由来の耐熱性酵素を用いる場合には、これらの酵素とともに用いるCGTaseとして、これまで使用していたジオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus) Tc−91株(FERM BP−11273)由来CGTaseに代えて、パエニバチルス(Paenibacillus)属微生物由来のCGTaseを用いることにより、トレハロース生成反応がより効率よく進行し、グルコアミラーゼ処理工程後のトレハロース含有糖液中のトレハロース含量を、カラムクロマトグラフィーによる分画工程を経ることなく、無水物換算で86.0質量%を超えるレベルにまで向上させることができることを見出した。そして、このようにして得られたトレハロース含有糖液を、常法に従い、脱色、脱塩、濃縮し、トレハロース二含水結晶を晶析させ、得られる結晶を遠心分離によって採取し、これを熟成、乾燥することにより、無水物換算でトレハロースを98.0質量%以上含有する高純度のトレハロース二含水結晶含有粉末を、従来よりも高い対澱粉収率で製造できることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、液化澱粉に、澱粉枝切酵素及びCGTaseとともに、α−グリコシルトレハロース生成酵素とトレハロース遊離酵素を作用させ、次いで、グルコアミラーゼを作用させてα,α−トレハロース含有糖液を得る工程、前記糖液から、α,α−トレハロース二含水結晶を晶析させる工程、及び、晶析したトレハロース二含水結晶を遠心分離により採取し、これを熟成、乾燥する工程を含むトレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法であって、トレハロース含有糖液を得る工程において、スルフォロブス属微生物由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素、及び、パエニバチルス属微生物由来CGTaseを用いることによりカラムクロマトグラフィーによる分画工程を経ることなく、前記糖液中のトレハロース含量を無水物換算で86.0%超とすることを特徴とする、無水物換算でトレハロースを98.0質量%以上含有するα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法を提供することによって、上記課題を解決するものである。
上記本発明の製造方法によって製造されるトレハロース二含水結晶含有粉末は、本発明者らが確認したところによれば、トレハロース純度はもとより、流動性良好である点で、従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末に比べて何ら遜色のない粉末であり、当該粉末は、従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末と同様に、食品素材、化粧品素材などとして広範な分野に使用することができる。
なお、α−グリコシルトレハロース生成酵素とトレハロース遊離酵素の供給源である前記スルフォロブス属微生物としては、例えば、特許文献5乃至8、非特許文献1乃至4などに開示されたスルフォロブス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)やスルフォロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)が挙げられる。
また、前記した理由により、スルフォロブス属微生物由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素とトレハロース遊離酵素の天然型酵素を大量に調製することは難しいことから、現実的にはこれら酵素として組換え型酵素を用いるのが好適である。さらに、これら酵素の遺伝子に常法により変異を導入した後適宜の宿主において発現させて調製した変異体酵素を用いることもできる。
本発明の製造方法で用いるパエニバチルス属微生物由来CGTaseとしては、当該微生物由来の天然型酵素や、当該微生物が有するCGTase遺伝子を常法によりクローニングし、適宜の宿主において発現させて調製した組換え型酵素、さらには、そのCGTase遺伝子に常法により変異を導入した後発現させて調製した変異体酵素を用いることもできる。
本発明者らは、さらに試行錯誤を重ねた結果、トレハロースを無水物換算で86.0質量%超含有する前記トレハロース含有糖液からトレハロース二含水結晶を晶析させるに際し、後述する制御冷却法又は擬似制御冷却法を適用すれば、トレハロース含有糖液の温度低下を自然に任せる自然冷却法によってトレハロース二含水結晶を晶析させる場合に比較して、得られるトレハロース二含水結晶含有粉末の対澱粉収率をさらに高めることができることを見出した。すなわち、本発明は、前記本発明の製造方法において、前記トレハロース二含水結晶を晶析させる工程が、制御冷却法又は擬似制御冷却法によって行われるトレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法を提供することによっても、上記の課題を解決するものである。
なお、制御冷却法又は擬似制御冷却法を適用すると対澱粉収率が向上する理由は定かではないが、制御冷却法又は擬似制御冷却法によれば、晶析の初期においては、冷却による急激な過飽和度の上昇と二次的な結晶核の形成を抑制して、大きさのほぼ揃った微小な結晶核を多数生成させ、微小な結晶核が多数出揃った晶析の後期において急速に冷却することにより、大きさの揃った多数の結晶核を一斉に成長させることになるので、微結晶が少ない粒径が揃った結晶を含むマスキットが得られ、遠心分離による結晶の採取が容易となり、比較的少量の水で採取した結晶を洗浄することができるので、洗浄時のトレハロースのロスが少なくなるためではないかと推測される。
加えて、本発明者らは、上記のようにしてトレハロース二含水結晶の晶析時に制御冷却法又は擬似制御冷却法を適用することによって製造されたトレハロース二含水結晶含有粉末は、意外にも、自然冷却法によって製造されたトレハロース二含水結晶含有粉末や従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末に比べて、固結し難い点において優れていること見出した。そして、このような優れた物性が、トレハロース二含水結晶含有粉末におけるトレハロース純度とトレハロース二含水結晶についての結晶化度の違いによってもたらされるものであることを確認し、トレハロース二含水結晶含有粉末自体についての本発明を完成した。
すなわち、本発明は、トレハロース二含水結晶を晶析させるに際して前記制御冷却法又は擬似制御冷却法を適用する本発明の製造方法によって得られるトレハロース二含水結晶含有粉末であって、無水物換算でトレハロースを99.0質量%以上99.5質量%以下含有し、粉末X線回折プロフィルに基づき算出されるトレハロース二含水結晶についての結晶化度が90.0%以上95.0%以下であるトレハロース二含水結晶含有粉末を提供することによって、上記の課題を解決するものである。
因みに、無水物換算でトレハロースを99.0質量%以上99.5質量%以下含有し、粉末X線回折プロフィルに基づき算出されるトレハロース二含水結晶についての結晶化度が90.0%以上95.0%以下であるトレハロース二含水結晶含有粉末は、本発明者らが確認したところによれば、トレハロース含量が従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末と同程度かやや高い程度でありながら、トレハロース二含水結晶についての結晶化度が食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末よりも有意に高く、従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末とは区別される新規な粉末である。
なお、制御冷却法又は擬似制御冷却法を適用することによって、固結し難いトレハロース二含水結晶含有粉末が得られる理由は定かではないが、制御冷却法又は擬似制御冷却法によれば、上述したとおり、微結晶が少ない粒径が揃った結晶を含むマスキットが得られるので、得られる粉末におけるトレハロースの純度とトレハロース二含水結晶についての結晶化度が高まることが作用しているのではないかと推測される。このことは、制御冷却法又は擬似制御冷却法を適用することによって得られる本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末におけるトレハロース二含水結晶についての結晶化度が、自然冷却で得られた粉末や、従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末におけるトレハロース二含水結晶についての結晶化度よりも有意に高いという事実によっても裏付けられる。
本発明の製造方法によれば、スルフォロブス属微生物由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素、及び、パエニバチルス属微生物由来CGTaseを用い、澱粉を原料にして一貫した工程で、高純度のトレハロース二含水結晶含有粉末を対澱粉収率良く製造することができる。したがって、原料である澱粉資源の有効利用に貢献するという優れた利点がもたらされる。特に、トレハロース含有糖液からトレハロース二含水結晶を晶析させるに際して、制御冷却法又は擬似制御冷却法を適用する場合には、製造されるトレハロース二含水結晶含有粉末の対澱粉収率をより向上させることができるという利点がある。また、制御冷却法又は擬似制御冷却法を適用する本発明の製造方法で製造されるトレハロース二含水結晶含有粉末は、従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末に比べて、トレハロース純度及びトレハロース二含水結晶についての結晶化度が高く、固結し難い点において優れた粉末である。
実質的にトレハロース二含水結晶からなるトレハロース二含水結晶含有粉末の特性X線による粉末X線回折パターンの一例である。 実質的に無定形部分からなるトレハロース粉末の特性X線による粉末X線回折パターンの一例である。 実質的にトレハロース二含水結晶からなるトレハロース二含水結晶含有粉末のシンクロトロン放射光による粉末X線回折パターンの一例である。 実質的に無定形部分からなるトレハロース粉末のシンクロトロン放射光による粉末X線回折パターンの一例である。 各種冷却パターンを示す図である。
1.用語の定義
本明細書において以下の用語は以下の意味を有している。
<対澱粉収率>
本明細書でいう「対澱粉収率」とは、原料澱粉の無水物換算での単位質量当たりの得られるトレハロース二含水結晶含有粉末の無水物換算での質量の割合を百分率(%)で表したものである。なお、本明細書では、澱粉を原料とし、これに酵素を作用させてトレハロースを生成させ、生成したトレハロースを晶析、採取、熟成、乾燥するという一連の一貫した工程で、トレハロース二含水結晶含有粉末を製造することを前提としているので、本明細書でいう「対澱粉収率」とは、澱粉に酵素を作用させて得られるトレハロース含有糖液から最初に晶析する、いわゆる一番晶から製造されるトレハロース二含水結晶含有粉末の対澱粉収率を意味しており、晶析した結晶を採取した後に残った糖液や、マスキットから分離された蜜などを糖液に戻して再度晶析させる、いわゆる二番晶以降から製造されるトレハロース二含水結晶含有粉末を含めたものではない。因みに、種晶を添加して晶析させる場合、対澱粉収率の算出において種晶の量は、本明細書を通じて、得られるトレハロース二含水結晶含有粉末の量に含まれる。
<CGTase活性>
本明細書において「CGTase活性」は以下のように定義される。すなわち、0.3%(w/v)可溶性澱粉、20mM酢酸緩衝液(pH5.5)、1mM塩化カルシウムを含む基質水溶液5mlに対し、適宜希釈した酵素液0.2mlを加え、基質溶液を40℃に保ちつつ、反応0分目及び反応10分目に基質溶液を0.5mlずつサンプリングし、直ちに0.02N硫酸溶液15mlに加えて反応を停止させた後、各硫酸溶液に0.1Nヨウ素溶液を0.2mlずつ加えて呈色させ、10分後、吸光光度計により波長660nmにおける吸光度をそれぞれ測定し、下記式[1]により澱粉分解活性として算出する。CGTase活性1単位は、斯かる測定条件で、溶液中の澱粉15mgのヨウ素呈色を完全に消失させる酵素量と定義する。
式[1]:
Figure 0005993674
<制御冷却法>
本明細書でいう「制御冷却法」とは、「制御された冷却」によって結晶を晶析させる方法をいい、晶析工程として設定した作業時間を「τ」、晶析開始時の液温を「T」、晶析終了時の目標とする液温を「T」、時間「t」における液温を「T」とすると、時間tにおける液温Tが原則として下記式[2]で表される冷却方法をいう。
式[2]:
Figure 0005993674
制御冷却法を、晶析工程として設定する作業時間を横軸、晶析時の液温を縦軸としたグラフを用いてより具体的に(模式的に)表すならば、図5の符号aに示すごとくである。図5の符号aに示すとおり、制御冷却法によれば、液温が高い晶析の初期においては液温が緩やかに低下し、液温がある程度低下した晶析の後期においては液温が急速に低下することになり、t=τ/2の時点、つまり、晶析工程の中間点における液温「T」は、少なくとも T>[(T−T)/2+T] の関係(つまり、晶析工程の中間点における温度変化が総温度変化の50%未満となる)が維持される。この液温の時間に対する変化パターンにおいて、制御冷却法は、液温がTからTまで時間τをかけて直線的に低下する直線冷却(図5における符号b)や、液温が高い晶析の初期においては液温が指数関数的に急速に低下し、液温が低下した晶析の後期になるほど液温が緩やかに低下してゆく通常の自然冷却法(図5における符号c)とは明らかに区別される。なお、液温Tを上記式[2]で表される時間tの関数として変化させるには、例えば、市販されている汎用の晶析システム用プログラム恒温循環装置などを用いれば良い。
晶析工程において斯かる制御冷却法を適用する場合には、トレハロースの種晶を添加した後、晶析の初期においては、液温の冷却が緩やかに行われるので、冷却による急激な過飽和度の上昇と二次的な結晶核の形成が抑制され、添加した種晶を結晶核とする結晶を優先的に成長させることができる。一方、添加した種晶を結晶核とする結晶が出揃った晶析の後期においては、液温を急速に冷却することにより、出揃った結晶を一斉に成長させることになるので、制御冷却法によれば、微結晶が少ない粒径が揃った結晶を含むマスキットが得られるという利点が得られる。なお、「制御冷却法」については、例えば、「久保田徳昭著、『分かり易いバッチ晶析』、分離技術会、平成22年4月30日発行、32〜47頁」に詳述されている。
<擬似制御冷却法>
本明細書でいう「擬似制御冷却法」とは、文字どおり上記した制御冷却法に擬似した冷却法であり、液温Tを時間tに対して厳密に上記式[2]にしたがって変化させるのではなく、晶析に用いるトレハロース含有溶液におけるトレハロース純度、濃度、過飽和度、種晶の量などにもよるけれども、作業時間t=τ/2の時点(晶析工程の中間点)で結晶核がおおむね出揃うことが望ましいことから、t=τ/2の時点における液温Tの変化量(T−T)が、総温度変化量(T−T)の5%以上50%未満、望ましくは、10%以上30%未満の範囲を維持するように液温Tを時間tに対して連続的又は段階的に低下させる冷却法を意味する。t=τ/2の時点における液温Tの変化量(T−T)が、総温度変化量(T−T)の5%以上50%未満であるように液温Tを時間tに対して連続的又は段階的に低下させる場合には、液温が高い晶析の初期においては液温Tが時間tに対して緩やかに低下し、液温がある程度低下した晶析の後期においては液温Tが時間tに対して急速に低下することになり、結果として、上述した制御冷却法には及ばない場合があるものの、微結晶が少ない粒径が揃った結晶を含むマスキットが得られるという、制御冷却法とほぼ同様の利点が得られる。
具体的には、例えば、作業時間τを、少なくとも2つ、好ましくは3つ以上の区間に分け、晶析工程の初期の区間においては、冷却における温度勾配を緩やかに(冷却速度を遅く)し、初期乃至は中期から後期に向かうにしたがい、温度勾配を大きく(冷却速度を速く)して、t=τ/2の時点における液温Tの変化量(T−T)が総温度変化量(T−T)の5%以上50%未満、望ましくは、10%以上30%未満となるように液温Tを時間tに対して連続的又は段階的に低下させれば良い。t=τ/2の時点における液温Tの変化量(T−T)が総温度変化量(T−T)の50%以上である場合には、晶析の初期における冷却速度が早すぎて、冷却による急激な過飽和度の上昇によって二次的な結晶核が形成される恐れがあり、5%未満である場合には、晶析の初期における冷却速度が遅すぎて、添加した種晶を結晶核とする結晶が十分に出揃わないままに、急速な冷却が始まる晶析後期を迎えることになり、いずれにしても、微結晶が少ない粒径が揃った結晶を含むマスキットを得ることが困難になる。
上述した制御冷却法を行うには、液温Tを式[2]で表される時間tの関数として変化させる必要があり、設定したプログラムで液温を制御することのできる装置や晶析缶が必須であるが、擬似制御冷却法によれば、t=τ/2の時点における液温Tの変化量(T−T)が総温度変化量(T−T)の5%以上50%未満、望ましくは、10%以上30%未満となるように液温Tを時間tに対して連続的又は段階的に低下させれば良いので、擬似制御冷却法には、液温を精密に制御する設備がない場合であっても、比較的容易に実行することができるという利点がある。
<結晶化度>
本明細書でいう「トレハロース二含水結晶についての結晶化度」とは、下記式[3]によって定義される数値を意味する。
式[3]:
Figure 0005993674
式[3]において、解析値H100、H、Hsを求める基礎となる粉末X線回折プロフィルは、通常、反射式又は透過式の光学系を備えた粉末X線回折装置により測定することができる。粉末X線回折プロフィルは被験試料又は標準試料に含まれるトレハロース二含水結晶についての回折角及び回折強度を含み、斯かる粉末X線回折プロフィルから結晶化度についての解析値を決定する方法としては、例えば、ハーマンス法、フォンク法などが挙げられる。これら解析方法のうち、ハーマンス法を用いるのが簡便さと精度の点で好適である。今日、これらの解析方法は、いずれもコンピューターソフトウェア化されていることから、斯かるコンピューターソフトウェアのいずれかが搭載された解析装置を備えた粉末X線回折装置を用いるのが好都合である。
また、解析値H100を求める「実質的にトレハロース二含水結晶からなるトレハロース二含水結晶含有粉末標準試料」としては、トレハロースについての純度が99.9質量%以上(以下、特にことわらない限り、本明細書では質量%を「%」と略記する。ただし、本明細書でいう結晶化度に付された%はこの限りではない。)である粉末又は単結晶であって、粉末X線回折パターンにおいて、トレハロース二含水結晶に特有な回折ピークを示し、実質的にトレハロース二含水結晶からなるものを用いる。斯かる粉末又は単結晶としては、本出願人が分析用の試薬として販売しているトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハロース 999』、コード番号:TH224、トレハロース純度99.9%以上、株式会社林原販売)、又はこれを再結晶化して得られるトレハロース二含水結晶含有粉末又はトレハロース二含水結晶の単結晶が挙げられる。因みに、実質的にトレハロース二含水結晶からなる上記トレハロース二含水結晶含有粉末標準試料の粉末X線回折プロフィルを、ハーマンス法によるコンピューターソフトウェアにて解析した場合の解析値H100は、通常、50.6乃至50.9%程度となる。
一方、解析値Hを求める「実質的に無定形部分からなるトレハロース含有粉末標準試料」としては、トレハロースについての純度が99.9%以上であり、実質的に無定形部分からなるものを用いる。斯かる粉末としては、例えば、上記した解析値H100を求める標準試料を適量の精製水に溶解し、濃縮した後、凍結乾燥し、さらに、カールフィッシャー法により決定される水分含量が2.0%以下となるまで真空乾燥することにより得られた粉末が挙げられる。斯かる処理を施した場合に、実質的に無定形部分からなる粉末が得られることは、経験上知られている。但し、一般に、実質的に無定形部分からなる粉末であっても、粉末X線回折装置にかけ、得られる粉末X線回折プロフィルをハーマンス法、フォンク法などで解析すると、それら各解析法を実行するコンピューターソフトウェアのアルゴリズムに起因して無定形部分に由来する散乱光の一部が演算され、解析値が必ずしも0%になるとはかぎらない。因みに、実質的に無定形部分からなる上記トレハロース含有粉末標準試料の粉末X線回折プロフィルを、ハーマンス法によるコンピューターソフトウェアにて解析した場合の解析値Hは、通常、8.5乃至8.7%程度となる。
<平均結晶子径>
一般に、結晶含有粉末における1個の粉末粒子は複数の単結晶、すなわち、複数の結晶子により構成されると考えられている。結晶含有粉末における結晶子の大きさ(結晶子径)は結晶含有粉末の特性に反映されると考えられる。本明細書でいう「トレハロース二含水結晶についての平均結晶子径」(以下、単に「平均結晶子径」という。)とは、トレハロース二含水結晶含有粉末を粉末X線回折分析に供し、得られた粉末X線回折パターンにおいて検出される回折ピークの内、5個の回折ピーク、すなわち、結晶子の不均一歪に起因する回折ピーク幅への影響が少ないとされる比較的低角の領域で、他の回折ピークとよく分離した、回折角(2θ)13.7°(ミラー指数(hkl):101)、17.5°(ミラー指数:220)、21.1°(ミラー指数:221)、23.9°(ミラー指数:231)及び25.9°(ミラー指数:150)の回折ピーク(図1の符号a乃至eを参照)を選択し、それぞれの半値幅と回折角とを用い、標準品としてケイ素(米国国立標準技術研究所(NIST)、X線回折用標準試料(『Si640d』)を用いた場合の測定値に基づき補正した後、下記式[4]に示す「シェラー(Scherrer)の式」によりそれぞれ算出された結晶子径の平均値を意味する。
式[4]:
Figure 0005993674
一般的な粉末X線回折装置には、斯かる結晶子径算出用のコンピューターソフトウェアが搭載されていることから、トレハロース二含水結晶含有粉末さえ入手できれば、当該結晶含有粉末におけるトレハロース二含水結晶の平均結晶子径は比較的容易に測定することができる。なお、被験試料は、粉末X線回折分析に先立ち、被験試料を乳鉢によりすり潰した後、53μmの篩によりふるい分け、篩を通過した粉末を用いる。
<還元力>
本明細書でいう「粉末全体の還元力」とは、D−グルコースを標準物質として用い、斯界において汎用されるソモジ−ネルソン法及びアンスロン硫酸法によりそれぞれD−グルコース換算に基づく還元糖量及び全糖量を求め、粉末に含まれる全糖量に対する還元糖量の百分率(%)を、下記式[5]を用いて計算することにより求めることができる。
式[5]:
Figure 0005993674
<粒度分布>
本明細書において、粉末の粒度分布は以下のようにして決定する。すなわち、日本工業規格(JIS Z 8801−1)に準拠する、目開きが425、300、212、150、106、75及び53μmの金属製網ふるい(株式会社飯田製作所製)を正確に秤量した後、この順序で重ね合わせてロータップふるい振盪機(株式会社田中化学機械製造所製、商品名『R−1』)へ装着し、次いで、秤取した一定量の試料を最上段のふるい(目開き425μm)上に載置し、ふるいを重ね合わせた状態で15分間振盪した後、各ふるいを再度正確に秤量し、その質量から試料を載置する前の質量を減じることによって、各ふるいによって捕集された粉末の質量を求める。その後、ふるい上に載置した試料の質量に対する、各ふるいによって捕集された各粒度を有する粉末の質量の百分率(%)を計算し、粒度分布として表す。
2.本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法
本発明の製造方法は、基本的に以下の(1)乃至(6)の工程を含んでいる:
(1)液化澱粉溶液に、スルフォロブス属微生物由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素とトレハロース遊離酵素を、澱粉枝切酵素とパエニバチルス属微生物由来CGTaseとともに作用させてトレハロースを生成させるトレハロース生成工程;
(2)トレハロース生成工程により得られたトレハロースを含有する反応液にグルコアミラーゼを作用させるグルコアミラーゼ処理工程;
(3)トレハロースを含有する反応液を濾過、脱色、脱塩、濃縮する精製濃縮工程;
(4)トレハロースを含有する濃縮液にトレハロース二含水結晶の種晶を含有せしめ、トレハロース二含水結晶を晶析する工程;
(5)晶析工程において得られたマスキットから遠心分離によりトレハロース二含水結晶を採取する工程;
(6)採取したトレハロース二含水結晶を熟成、乾燥し、必要に応じて粉砕する工程。
以下、上記(1)乃至(6)の工程について順次説明する。
<(1)の工程(トレハロース生成工程)>
当該工程は、原料である液化澱粉に、スルフォロブス属微生物由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素と、同じくスルフォロブス属微生物由来のトレハロース遊離酵素を、澱粉枝切り酵素とパエニバチルス属微生物由来のCGTaseとともに作用させてトレハロースを生成させる工程である。
α−グリコシルトレハロース生成酵素は、液化澱粉に作用して分子の末端にトレハロース構造を有するα−グリコシルトレハロースを生成する酵素であり、一方、トレハロース遊離酵素はα−グリコシルトレハロースに作用してトレハロースを遊離する酵素である。したがって、澱粉を糊化・液化して得られる液化澱粉に、澱粉枝切酵素を併用しつつα−グリコシルトレハロース生成酵素とトレハロース遊離酵素を作用させれば、トレハロースを効率よく製造することができる。
また、本願発明の製造方法で用いるα−グリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素の給源であるスルフォロブス属微生物としては、例えば、特許文献5、6、非特許文献1、2などに開示されたスルフォロブス・アシドカルダリウスや、スルフォロブス・ソルファタリカスが挙げられ、より具体的には、スルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC33909株やスルフォロブス・ソルファタリカス ATCC35091株が挙げられる。
また、本願発明の製造方法においては、スルフォロブス属微生物由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素としては、天然型酵素を用いることができるものの、前記した理由により天然型酵素を大量に調製することは難しいことから、これら酵素としては特許文献7及び8などに開示された組換え型酵素を用いるのが好適である。さらにはこれら酵素に部位特異的変異などを導入して改良した変異体酵素も、本願発明の目的を損なわない限り有利に用いることができる。
本発明でいう「組換え型α−グリコシルトレハロース生成酵素」又は「組換え型トレハロース遊離酵素」としては、上記スルフォロブス属微生物のα−グリコシルトレハロース生成酵素遺伝子又はトレハロース遊離酵素遺伝子をクローニングし、例えば、大腸菌、枯草菌など適宜の宿主微生物で発現させることにより得られる組換え型α−グリコシルトレハロース生成酵素又は組換え型トレハロース遊離酵素を好適に用いることができる。例えば、前述したスルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC33909株に由来するα−グリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素は、それぞれ特許文献7及び8に開示されているように、配列表における配列番号1及び2でそれぞれ示されるアミノ酸配列を有している。すなわち、配列表における配列番号1及び2でそれぞれ示されるアミノ酸配列を有する組換え型α−グリコシルトレハロース生成酵素及び組換え型トレハロース遊離酵素は、本発明の製造方法においてそれぞれの天然型酵素と同様に用いることができる。
本発明でいう「α−グリコシルトレハロース生成酵素の変異体酵素」としては、上記スルフォロブス属微生物由来α−グリコシルトレハロース生成酵素をコードする遺伝子に遺伝子工学的手法を適用して、α−グリコシルトレハロース生成酵素としての基質特異性や酵素活性を実質的に変更しない範囲でアミノ酸配列上1個又は2個以上のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入変異を導入した変異体酵素を好適に用いることができる。アミノ酸配列上の変異導入箇所は、α−グリコシルトレハロース生成酵素としての基質特異性や酵素活性が実質的に保持される限り、特に限定されないものの、スルフォロブス属微生物由来α−グリコシルトレハロース生成酵素のアミノ酸配列上に共通して保存されている領域、例えば、配列表における配列番号1で示されるアミノ酸配列を用いて例示するならば、85番目のアスパラギン酸残基から90番目のヒスチジン残基(Asp85〜His90)、224番目のグリシン残基から232番目のグリシン残基(Gly224〜Gly232)、250番目のリジン残基から258番目のロイシン残基(250Lys〜Leu258)、438番目のアラニン残基から446番目のフェニルアラニン残基(Ala438〜Phe446)の領域への変異導入は避けるのが望ましい。一方、非特許文献3には、スルフォロブス・ソルファタリカス由来α−グリコシルトレハロース生成酵素の405番目のフェニルアラニン残基を他のアミノ酸残基に置換して得た、野生型酵素の活性を29乃至57%保持する変異体酵素が開示されている。当該アミノ酸残基は、スルフォロブス・アシドカルダリウス由来α−グリコシルトレハロース生成酵素のアミノ酸配列、すなわち、配列表における配列番号1で示されるアミノ酸配列における388番目のチロシン残基に相当する。α−グリコシルトレハロース生成酵素のこれらアミノ酸残基の近傍への変異導入であれば、基質特異性や酵素活性に大きく影響を及ぼさず、逆にこれら性質が改良された酵素が得られる可能性がある。
本発明でいう「トレハロース遊離酵素の変異体酵素」としては、上記と同様に、スルフォロブス属微生物由来トレハロース遊離酵素をコードする遺伝子に遺伝子工学的手法を適用して、トレハロース遊離酵素としての基質特異性や酵素活性を実質的に変更しない範囲でアミノ酸配列上1個又は2個以上のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入変異を導入した変異体酵素を好適に用いることができる。アミノ酸配列上の変異導入箇所は、トレハロース遊離酵素としての基質特異性や酵素活性が実質的に保持される限り特に限定されない。
本発明の製造方法においては、澱粉枝切酵素として、斯界で汎用されているイソアミラーゼ又はプルラナーゼを用いることができる。市販の酵素剤を用いても、微生物から単離したものを用いてもよい。イソアミラーゼとしては、例えば、シュードモナス・アミロデラモサ(Pseudomonas amyloderamosa)由来及びマイロイデス・オドラタス(Myroides odoratus)由来のものがよく知られており、とりわけ、シュードモナス・アミロデラモサ由来のイソアミラーゼ剤(株式会社林原製)が好適である。プルラナーゼ剤としては、例えば、クレブシェラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)由来のプルラナーゼ(株式会社林原販売)、バチルス・アミロプルリティカス(Bacillus amylopullulyticus)由来のプルラナーゼ(商品名『プロモザイム』、ノボザイムズ・ジャパン株式会社販売)などが挙げられる。
上記トレハロース生成工程におけるCGTaseの役割は、主としてα−グリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素によるトレハロース生成反応の過程で必然的に生成するグルコース重合度4以下のマルトオリゴ糖を、CGTaseが触媒する不均化反応(直鎖糖分子間転移反応、Disproportionation)によって、グルコース重合度5以上のマルトオリゴ糖に変換することにより、上記トレハロース生成反応をさらに進行させて、反応液中のトレハロース含量をより高めることにある。
なお、CGTaseは、従来より種々の微生物から単離されており、その作用、理化学的性質などが明らかにされている(『工業用糖質酵素ハンドブック』、講談社サイエンティフィク社編集、講談社発行、28乃至32頁(1999年)などを参照)。また、上記CGTaseの内のいくつかについてはその遺伝子がクローニングされ、遺伝子の塩基配列からアミノ酸配列が決定されており、そのCGTaseのアミノ酸配列上にはα−アミラーゼファミリーに分類される酵素群に共通して存在するとされる4つの保存領域が存在することも知られている。さらに、ジオバチルス・ステアロサーモフィルス由来のCGTase蛋白については、X線結晶構造解析によってその立体構造が既に明らかにされており、当該CGTaseの3つの触媒残基、すなわち、配列表における配列番号4で示されるアミノ酸配列における225番目のアスパラギン酸残基(D225)、253番目のグルタミン酸残基(E253)、324番目のアスパラギン酸残基(D324)も判明している(『工業用糖質酵素ハンドブック』、講談社サイエンティフィク社編集、講談社発行、56乃至63頁(1999年)参照)。
本発明の製造方法においては、CGTaseとして、パエニバチルス属微生物由来の天然型若しくは組換え型CGTase又はそれらの変異体酵素が好適に用いられる。本発明でいう「パエニバチルス属属微生物由来の天然型CGTase」としては、例えば、パエニバチルス・イリノイセンシス、パエニバチルス・パブリ、パエニバチルス・アミロリティカスなどの公知菌株に由来するCGTaseや、自然界から単離したパエニバチルス属微生物に由来するCGTaseが使用できる。より具体的には、パエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15959株、パエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株、パエニバチルス・パブリ NBRC13638株、及び、パエニバチルス・アミロリティカス NBRC15957株にそれぞれ由来するCGTaseや、これらパエニバチルス属微生物に対し、斯界において慣用される、例えば、紫外線照射、化学物質による変異処理などにより突然変異を導入することにより取得した酵素高産生変異株由来のCGTaseがより好適に利用できる。さらに、パエニバチルス属微生物由来のCGTaseとしては、例えば、パエニバチルス・エスピー(Paenibacillus sp.)由来CGTase(商品名『アルカリCDアミラーゼ』、ナガセケムテックス株式会社製)も使用することができる。因みに、食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末の製造において従来から用いられているCGTaseは、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス由来のCGTaseである。
また、本発明において用いるCGTaseとしては、下記(a)乃至(d)に示す部分アミノ酸配列を有するCGTaseが好適に用いられる。
(a)Gly−Ser−X−Ala−Ser−Asp;
(b)Lys−Thr−Ser−Ala−Val−Asn−Asn;
(c)Lys−Met−Pro−Ser−Phe−Ser−Lys;
(d)Val−Asn−Ser−Asn−X−Tyr;
(但し、XはAla又はSerを、XはAla又はThrをそれぞれ意味する。)
上記部分アミノ酸配列は、パエニバチルス属微生物由来CGTaseに特有の特徴的なアミノ酸配列である。
また、本発明でいう「パエニバチルス属微生物由来の組換え型CGTase」としては、上記パエニバチルス属微生物のCGTase遺伝子をクローニングし、例えば、大腸菌、枯草菌など適宜の宿主微生物で発現させることにより得られる組換え型CGTaseを好適に用いることができる。なお、前述したパエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株、パエニバチルス・パブリ NBRC13638株、及び、パエニバチルス・アミロリティカス NBRC15957株にそれぞれ由来するCGTaseは、出願人が独自にこれら微生物からCGTase遺伝子をクローニングし、遺伝子の塩基配列を決定したところ、配列表における配列番号1、2及び3でそれぞれ示されるアミノ酸配列を有していることが判明した。上記パエニバチルス属微生物のCGTase遺伝子を大腸菌で発現させて得られる組換え型CGTase、すなわち、配列表における配列番号1、2又は3で示されるアミノ酸配列を有する組換え型CGTaseは、本発明の製造方法において同様に用いることができる。
本発明でいう「パエニバチルス属微生物由来のCGTaseの変異体酵素」(以下、「変異体CGTase」と略称する。)としては、上記パエニバチルス属微生物由来CGTaseをコードする遺伝子に遺伝子工学的手法を適用して、CGTaseとしての基質特異性や酵素活性を実質的に変更しない範囲でアミノ酸配列上1個又は2個以上のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入変異を導入した変異体CGTaseを好適に用いることができる。アミノ酸配列上の変異導入箇所は、CGTaseとしての基質特異性や酵素活性が実質的に保持される限り、特に限定されないものの、CGTaseのアミノ酸配列上に存在するα−アミラーゼファミリーに属する酵素群に共通して保存される4つの領域や、パエニバチルス属微生物由来のCGTaseに特有の、前述した(a)乃至(d)の部分アミノ酸配列への変異導入は避けるのが望ましい。
本発明の製造方法において好適に用いることのできる、「パエニバチルス属微生物由来の天然型若しくは組換え型CGTase又はそれらの変異体酵素」のさらに具体的な例としては、上述した配列表における配列番号3、4及び5でそれぞれ示されるアミノ酸配列を有するCGTaseや、実施例において後述したパエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株のCGTase遺伝子に部位特異的変異を導入することにより作製した、配列表における配列番号14又は15で示されるアミノ酸配列を有する変異体CGTaseが挙げられる。
トレハロースの製造に用いる原料澱粉は、トウモロコシ澱粉、米澱粉、小麦澱粉などの地上澱粉であっても、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉などの地下澱粉であってもよく、また、これら澱粉を酸又はアミラーゼで部分分解して得られる澱粉部分分解物であってもよい。原料澱粉は、通常、水に懸濁して濃度約10乃至50%の澱粉乳とし、耐熱性α−アミラーゼの存在下で加熱することにより糊化・液化される。液化澱粉の液化の程度はデキストロース・エクイバレント(DE)として、通常、10未満、詳細には、5未満に調整する。
本発明の製造方法においては、好適には、原料である液化澱粉(pH約4乃至10)を基質とし、これに上述したスルフォロブス属微生物由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素を基質固形物1グラム当たり1乃至20単位、同じく上述したスルフォロブス属微生物由来のトレハロース遊離酵素を5乃至50単位、さらに、澱粉枝切酵素を100乃至2,000単位、及び、上述したパエニバチルス属微生物由来のCGTaseを1乃至50単位添加し、使用した酵素が失活しない温度範囲、通常、30乃至70℃で10乃至100時間反応させる。反応終了時の反応液のトレハロース含量は、通常、無水物換算で、86%前後となる。
<(2)の工程(グルコアミラーゼ処理工程)>
この工程は、(1)のトレハロース生成工程で得られた反応液に、さらにグルコアミラーゼ剤を作用させ、無水物換算でのトレハロース含量を高める工程である。すなわち、トレハロース生成工程により得られる反応液には、トレハロースとともに、D−グルコース、マルトース、グルコース重合度3以上のマルトオリゴ糖、α−グルコシルトレハロース、及びα−マルトシルトレハロースなどの糖質が含まれているので、この反応液にグルコアミラーゼを作用させることにより、マルトースとグルコース重合度3以上のマルトオリゴ糖をD−グルコースにまで分解するとともに、α−グルコシルトレハロースやα−マルトシルトレハロースなどのα−グリコシルトレハロースをD−グルコースとトレハロースにまで分解することによって、反応液中のトレハロース純度、つまりは無水物換算でのトレハロース含量を高めることができる。
本発明の製造方法において、用いるグルコアミラーゼとしては、マルトースとグルコース重合度3以上のマルトオリゴ糖をD−グルコースにまで分解でき、また、α−グルコシルトレハロースやα−マルトシルトレハロースなどのα−グリコシルトレハロースをD−グルコースとトレハロースにまで分解できる限り、その起源や由来に特段の制限はない。市販のグルコアミラーゼ剤、例えば、天野エンザイム株式会社販売、商品名『グルクザイムAF6』や、ナガセケムテックス株式会社販売、商品名『グルコチーム』などを好適に用いることができる。
なお、グルコアミラーゼ処理後の反応液、すなわちトレハロース含有糖液中のトレハロース含量は、通常、無水物換算で86.0%を超え、好ましくは87.0%以上となる。因みに、パエニバチルス属微生物由来のCGTaseではなく、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス由来CGTaseを用いる場合には、グルコアミラーゼ処理後のトレハロース含有糖液中のトレハロース含量は無水物換算で83.0%程度に止まり、86.0%以上となることはない。
<(3)の工程(精製濃縮工程)>
この工程は、グルコアミラーゼ処理を終えて無水物換算でのトレハロース含量が高められたトレハロース含有糖液に、常法により、濾過、遠心分離などを施して不溶物を除去し、活性炭で脱色し、カチオン交換樹脂(H型)、アニオン交換樹脂(OH型)にて脱塩するとともに、晶析に適した濃度まで濃縮する工程である。反応液中の無水物換算でのトレハロース含量は、(2)のグルコアミラーゼ処理工程によって既に86.0%以上にまで高められているので、(3)の精製濃縮工程においては、カラムクロマトグラフィーによる分画工程などのトレハロース含量をさらに高める工程は不要である。
<(4)の工程(晶析工程)>
この工程は、上記(1)乃至(3)の工程を経て得られたトレハロース含有糖液から、トレハロース二含水結晶の種晶の存在下、トレハロース二含水結晶を晶析させる工程である。すなわち、無水物換算でのトレハロース含量が所定のレベルにまで高められた糖液を、通常、トレハロースについての過飽和度を1.05乃至1.50の範囲になるように調節した後、言い換えれば、トレハロース濃度を約60乃至85%、液温を約40乃至80℃に調節した後、助晶缶に移し、次いで、トレハロース二含水結晶の種晶を助晶缶中の濃縮糖液体積に対して、通常、0.1乃至5%(w/v)、詳細には、0.5乃至2%(w/v)含有せしめ、緩やかに撹拌しつつ、3乃至48時間かけて液温を5乃至60℃まで自然冷却することによりトレハロース二含水結晶の晶析を促す。なお、助晶缶内等に既にトレハロース二含水結晶の種晶が存在する場合には、トレハロース二含水結晶の種晶は特段添加する必要はない。作業効率の点で、濃縮液からのトレハロース二含水結晶の晶析は、通常、種晶の存在下で行われる。
晶析工程においては、上記の自然冷却法に代えて、制御冷却法又は擬似制御冷却法を用いることも有利に実施できる。晶析を制御冷却法又は擬似制御冷却法によって行う場合には、上記(3)の工程を経て所定の温度に調整したトレハロース含有糖液を、助晶缶に移し、次いで、トレハロース二含水結晶の種晶を助晶缶中の濃縮糖液体積に対して、通常、0.1乃至5%(w/v)、詳細には、0.5乃至2%(w/v)含有せしめ、緩やかに撹拌しつつ、冷却を制御することによって、晶析工程の初期は液温をゆるやかに低下させ、冷却工程の後期においては液温を急速に低下させ助晶する。晶析に要する時間はトレハロース二含水結晶の種晶の添加量によっても異なるものの、例えば、擬似制御冷却法による場合には、全冷却時間を少なくとも2つ、好ましくは3つ以上の区間に分け、各区間内では時間に対して温度を概ね直線的に低下させ、作業時間t=τ/2の時点(晶析工程の中間点)における液温Tの変化量(T−T)が、総温度変化量(T−T)の5%以上50%未満、望ましくは、10%以上30%未満の範囲を維持するように液温Tを時間tに対して連続的又は段階的に低下させるのが良い。例えば、10時間かけて液温を60℃から20℃まで冷却して結晶を晶析させる場合には、冷却時間を6時間と4時間の2つの区間に分け、液温を60℃から50℃まで6時間かけて冷却し、次いで、50℃から20℃まで4時間かけて冷却するか、又は、冷却時間を7時間と3時間の2つの区間に分け、液温を60℃から45℃まで7時間かけて冷却し、次いで、45℃から20℃まで3時間かけて冷却するのが好ましく、さらに好ましくは、冷却時間を4時間、3時間、3時間の3つの区間に分け、最初の区間では4時間かけて液温を60℃から55℃まで冷却し、次の区間では3時間かけて55℃から50℃まで冷却し、さらに、最後の区間では3時間かけて液温を50℃から20℃まで冷却するのが好ましい。
このように、制御冷却法又は擬似制御冷却法による場合には、温度制御を行うことなく自然冷却する晶析法に比べ、トレハロース二含水結晶の微結晶が生じ難く、粒径の揃った結晶を含むマスキットを得ることができ、また結果として、自然冷却法による場合よりも、得られるトレハロース二含水結晶含有粉末の対澱粉収率をより高めることができる。また、後述するとおり、得られるトレハロース二含水結晶粉末は、自然冷却法で得られる粉末に比べ、トレハロース純度、及び固結性の重要な指標となるトレハロース二含水結晶についての結晶化度の点でも高いという特徴を備えている。また、制御冷却法又は擬似制御冷却法による場合には、自然冷却する晶析法によって得られる粉末に比べて、より粒度分布の揃った粉末が得られるという利点がある。
<(5)の工程(採取工程)>
この工程は、(4)の晶析工程で得られたマスキットから、常法の分蜜方式に従い、トレハロース二含水結晶を遠心分離により採取する工程である。採取されたトレハロース二含水結晶は、表面に付着している非晶質の蜜を除去するため、少量の精製水をスプレー(シャワー)して洗浄される。なお、結晶の洗浄に用いる精製水の量は、通常、遠心分離前のマスキットの重量に対して、3%以上、10%までとするのが好ましい。すなわち、洗浄に用いられる精製水の量が3%未満では、洗浄が十分に行われず、非晶質の蜜が残り、所期のトレハロース純度が得られない恐れがある。一方、洗浄に用いられる精製水の量が10%を超えると、洗浄によって溶解、除去されるトレハロース二含水結晶の量が増し、対澱粉収率が低下する恐れがある。
<(6)の工程(熟成、乾燥工程)>
この工程は、採取されたトレハロース二含水結晶を、所定の温度及び湿度雰囲気中に一定時間保持し、結晶を熟成させるとともに熱風乾燥して、トレハロース二含水結晶含有粉末を得る工程である。熟成及び乾燥工程における結晶の品温や雰囲気の相対湿度、並びに保持時間は、所期の粉末が得られる限り、特段の制限はないが、熟成、乾燥工程において、結晶はその品温が20乃至55℃、雰囲気の相対湿度は60乃至90%に保たれるのが好ましく、熟成、乾燥時間は約5乃至24時間とするのが好ましい。熟成、乾燥工程を経た粉末は、次いで、室温まで自然放冷される。また、室温程度の清浄な空気を吹き付けて室温程度の品温にまで強制冷却することも有利に実施できる。得られた結晶粉末はそのまま、若しくは、必要に応じて粉砕して製品とされる。
本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法によれば、酵素反応によって無水物換算で86.0%超という高いトレハロース含量のトレハロース含有糖液を得ることができるので、カラムクロマトグラフィーによる分画工程が不要であり、分画によるトレハロースのロスがなく、トレハロース二含水結晶含有粉末を高い対澱粉収率で得ることができる。また、晶析した結晶を含むマスキット全体を晶析、固化又は噴霧乾燥する全糖方式ではなく、晶析した結晶を遠心分離して不純物を含む蜜を除去する分蜜方式を採用しているので、得られるトレハロース二含水結晶含有粉末中のトレハロース含量を容易に98.0%以上に高め、高純度のトレハロース二含水結晶含有粉末を製造することができる。
斯くして製造されるトレハロース二含水結晶含有粉末は、晶析が自然冷却によって行われた場合には、保存時の固結性などの物性において、従来の食品級のトレハロース含有粉末とほぼ同等の粉末であり、通常、粒径53μm以上425μm未満の粒子が粉末全体の70%以上を占め、且つ、粒径53μm以上300μm未満の粒子を粉末全体の50%以上含むトレハロース二含水結晶含有粉末である。また、晶析が制御冷却法又は擬似制御冷却法によって行われた場合には、本発明の製造方法によって製造されるトレハロース二含水結晶含有粉末は、従来の食品級のトレハロース含有粉末よりも有意に固結し難い粉末であり、通常、粒径53μm以上425μm未満の粒子が粉末全体の80%以上を占め、且つ、粒径53μm以上300μm未満の粒子を粉末全体の60%以上含むトレハロース二含水結晶含有粉末である。また、本発明の製造方法によって製造されるトレハロース二含水結晶含有粉末は、通常、前記式[6]で求められる粉末全体の還元力が0.5%以下であり、食品や医薬品等に配合しても、褐変による変色の恐れがない優れた粉末である。
したがって、本発明の製造方法によって製造される粉末は、そのままで、或いは粒度を適宜調整して、粉末状の食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、又は医薬品素材などとして使用することができる。特に、晶析に際して制御冷却法を適用する本発明の製造方法によって製造されるトレハロース二含水結晶含有粉末は、上述したとおり、従来の食品級のトレハロース含有粉末よりも有意に固結し難い粉末であり、従来未知の全く新規なトレハロース二含水結晶含有粉末であると言える。当該粉末は、粉末原料を取り扱うことを前提に設計された製造プラントを用いる食品製造、化粧品製造、医薬部外品製造、さらには医薬品製造の各分野において、他の単独若しくは複数の粉末状の食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、医薬品素材などに安心して含有せしめることができるという優れた利点を備えている。
以下、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法について、実験により具体的に説明する。
<実験1:CGTaseの由来が酵素反応液におけるトレハロース含量に及ぼす影響>
液化澱粉に、スルフォロブス属微生物由来の組換え型α−グリコシルトレハロース生成酵素と、同じくスルフォロブス属微生物由来の組換え型トレハロース遊離酵素を、澱粉枝切酵素及びCGTaseとともに作用させ、次いで、グルコアミラーゼを作用させる酵素反応によってトレハロースを生成させる酵素反応系において、使用するCGTaseの由来が、酵素反応で得られる糖液中のトレハロース含量にどのような影響を及ぼすかを調べるべく、以下の実験を行った。
<実験1−1:スルフォロブス属微生物由来の組換え型α−グリコシルトレハロース生成酵素と組換え型トレハロース遊離酵素の調製>
特許文献7(特開平8−84586号公報)の実施例A−2(b)に記載された方法により、スルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC33909株由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素遺伝子を含む組換えDNA、pST36を保持する組換え大腸菌ST36を培養し、同明細書実験例1の方法により組換え型α−グリコシルトレハロース生成酵素を精製して1ml当たり約210単位含む精製酵素液約3,800mlを得た。また、特許文献8(特開平8−336388公報)の実施例A−2(b)に記載された方法により、スルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC33909株由来のトレハロース遊離酵素遺伝子を含む組換えDNA、pSU19を保持する組換え大腸菌SU19を培養し、同明細書実験例1の方法により組換え型α−グリコシルトレハロース生成酵素を精製して1ml当たり約2,900単位含む精製酵素液約2,050mlを得た。なお、α−グリコシルトレハロース生成酵素とトレハロース遊離酵素の活性は上記特許文献5(特開平8−66188号公報)及び6(特開平8−66187号公報)に開示された方法に準じて測定した。
<実験1−2:各種微生物由来CGTase>
各種微生物由来のCGTaseとして、以下のCGTaseを用いた。すなわち、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス由来のCGTaseとしては、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス Tc−91株(FERM BP−11273)由来のCGTase(株式会社林原製)を、バチルス・マセランス(Bacillus macerans)由来のCGTaseとしては、市販のCGTase(商品名『コンチザイム』、天野エンザイム株式会社販売)を、サーモアナエロバクテリウム・サーモスルフリゲネス(Thermoanaerobacterium thermosulfurigenes)由来のCGTaseとしては、市販のCGTase(商品名『トルザイム』、ノボザイムズ・ジャパン株式会社販売)を用いた。
また、パエニバチルス属微生物由来のCGTaseとして、以下のCGTaseを調製した。すなわち、パエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15959株、パエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株、パエニバチルス・パブリ NBRC13638株、及び、パエニバチルス・アミロリティカス NBRC15957株をそれぞれ、デキストリン2%、塩化アンモニウム0.5%、リン酸水素カリウム0.05%、硫酸マグネシウム0.025%及び炭酸カルシウム0.5%を含む液体培地で27℃、3日間培養し、培養液を遠心分離して得たそれぞれの遠心上清を常法に従い硫安塩析、透析することにより各微生物由来のCGTaseの粗酵素液を得た。得られたCGTase粗酵素液を、それぞれDEAE−トヨパール 650Sゲル(東ソー株式会社製)を用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー及びブチル−トヨパール 650Mゲル(東ソー株式会社製)を用いた疎水カラムクロマトグラフィーに供して精製し、部分精製CGTaseをそれぞれ調製した。なお、各菌株由来のCGTaseの活性は、前記した方法に従い測定し、式[1]を用いて算出した。
<実験1−3:トレハロース生成反応>
トウモロコシ澱粉を濃度30%となるように水に懸濁し、この懸濁液に炭酸カルシウムを0.1%加えた。当該懸濁液のpHを6.0に調整した後、澱粉固形物当たり0.2%の耐熱性α−アミラーゼ剤(商品名『ターマミル60L』、ノボザイムズ・ジャパン株式会社販売)を加え、95℃で15分間反応させて澱粉を糊化・液化した。得られた液化澱粉溶液を120℃で30分間オートクレーブした後、57℃に冷却し、pH5.5に調整した後、同温度で維持しつつ、澱粉固形物1グラム当たり、10単位の組換え型α−グリコシルトレハロース生成酵素、40単位の組換え型トレハロース遊離酵素、1,500単位のイソアミラーゼ剤(株式会社林原製)、及び、実験1−2に記載したCGTase又は実験1−2で調製したCGTaseのいずれかを15単位加え、48時間反応させた。得られた反応物を97℃で30分間加熱してそれぞれ酵素を失活させた後、pH4.5に調整し、澱粉固形物1グラム当たり10単位のグルコアミラーゼ剤(商品名『グルコチーム#20000』、ナガセケムテックス株式会社製)を加えて24時間反応させた。斯くして得た反応液を95℃で10分間加熱して酵素を失活させ、以下に記す反応液中のトレハロース含量の測定に供した。なお、CGTaseを添加しない以外は同一条件で酵素反応を行って得た反応液を対照とした。
<実験1−4:反応液中のトレハロース含量の測定>
実験1−3で得た反応液をそれぞれ表1に示す反応液1乃至8とし、トレハロース含量を以下のようにして求めた。すなわち、反応液1乃至8をそれぞれ精製水により1%溶液とし、0.45μmメンブランフィルターにより濾過した後、下記条件によるHPLC分析に供し、示差屈折計によるクロマトグラムに出現したピークの面積から反応液のトレハロース含量を計算し、無水物換算した。結果を表1に示す。なお、表1に示す反応液中のトレハロース含量は、各CGTaseについて同一の条件でトレハロース生成反応及びグルコアミラーゼ処理を5回繰り返した場合にも、若干のばらつきの範囲内で再現性よく得られる値である。
・分析条件
HPLC装置:『LC−10AD』(株式会社島津製作所製)
デガッサー:『DGU−12AM』(株式会社島津製作所製)
カラム:『MCI GEL CK04SS』(三菱化学株式会社製)
サンプル注入量:20μl
溶離液:精製水
流 速:0.4ml/分
温 度:85℃
示差屈折計:『RID−10A』(株式会社島津製作所製)
データ処理装置:『クロマトパックC−R7A』(株式会社島津製作所製)
Figure 0005993674
表1に示すとおり、組換え型α−グリコシルトレハロース生成酵素、組換え型トレハロース遊離酵素、及び、澱粉枝切酵素(イソアミラーゼ)の組合せ(反応液1、対照)ではグルコアミラーゼ処理後の反応液中のトレハロース含量は77.1%に止まるところ、従来からトレハロースの生成に用いられているジオバチルス・ステアロサーモフィルス由来CGTaseを添加すると82.5%(反応液2)まで増加し、CGTaseの併用によるトレハロースの増収効果が認められた。一方、バチルス・マセランス由来のCGTaseを用いた場合(反応液3)には81.2%、また、サーモアナエロバクテリウム・サーモスルフリゲネス由来のCGTaseを用いた場合(反応液4)には80.6%となり、従来からトレハロースの生成に用いられているジオバチルス・ステアロサーモフィラス Tc−91株由来のCGTaseを用いた場合(反応液2)よりも低い値となった。
これに対し、パエニバチルス属に属する微生物由来のCGTaseを用いた場合(反応液5乃至8)には、いずれも、グルコアミラーゼ処理後のトレハロース含量は無水物換算で86.0%を上回り、従来からトレハロースの生成に用いられているジオバチルス・ステアロサーモフィラス Tc−91株由来のCGTaseを用いた場合(反応液2)よりも約4%増加した。特に、CGTaseとして、パエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15959株由来(反応液5)、及び、パエニバチルス・イリノイセンシスNBRC15379株由来(反応液6)の各CGTaseを用いた場合には、トレハロース含量は86.0乃至87.0%まで上昇することが判明した。今回の実験においては、パエニバチルス・イリノイセンシス由来のCGTaseが最も好ましいことが判明した。
<実験2:トレハロース含量が異なる各糖液から製造したトレハロース二含水結晶含有粉末のトレハロース純度、対澱粉収率、及び物性>
<実験2−1:被験試料の調製>
<被験試料1乃至8>
実験1で得たトレハロース含量が異なる反応液1乃至8のそれぞれを、活性炭を用いる脱色処理及びイオン交換樹脂を用いる脱塩処理により精製し、固形物濃度約60%まで濃縮して、反応液1乃至8のそれぞれに対応して、トレハロース含有糖液1乃至8(トレハロースを無水物換算で77.1乃至86.8%含有)を得た。
上記トレハロース含有糖液1乃至8を、それぞれ減圧下で固形物濃度約85%にまで濃縮し、助晶缶にとり、各糖液の容量に対して約1%(w/v)のトレハロース二含水結晶を種晶として加えて攪拌しつつ60℃から20℃まで約10時間かけて自然冷却することにより助晶し、トレハロース二含水結晶を晶析させたマスキットを調製した。前記マスキットから、常法により、バスケット型遠心分離機によりトレハロース二含水結晶を採取し、採取したトレハロース二含水結晶をマスキット重量に対し8%の脱イオン水を用いて洗浄し、40℃で8時間、熟成、乾燥させた後、25℃の清浄な空気を30分間吹き付けて強制冷却し、粉砕することにより、トレハロース二含水結晶含有粉末とした。トレハロース含有糖液1乃至8のそれぞれから得られたトレハロース二含水結晶含有粉末をそれぞれ被験試料1乃至8とした。
<被験試料9>
被験試料9として、食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハ』、ロット番号:9I131、株式会社林原販売)を用いた。
<実験2−2:被験試料1乃至9のトレハロース純度、対澱粉収率、及び固結性>
<トレハロース純度>
被験試料1乃至9のトレハロース純度は、実験1−3と同じHPLC法にて求めた。結果は表2に示した。
<対澱粉収率>
上記で調製した被験試料1乃至8の対澱粉収率は、各被験試料の調製に用いた酵素反応液の質量と原料澱粉の仕込み時の濃度(30%)とから原料澱粉の無水物換算での質量を算出し、この値で得られた被験試料1乃至8の無水物換算での質量を除した後、100を乗じることでパーセント表示した。結果は表2に併せて示した。
<固結性試験>
被験試料1乃至9の各々について、それぞれの粉末の固結性を調べる目的で、以下の実験を行った。すなわち、被験試料1乃至9を1グラムずつ秤取し、それぞれ別個に内底部が半球状の14ml容蓋つきポリプロピレン製円筒チューブ(ベクトン・ディッキンソン社販売、商品名『ファルコンチューブ2059』、直径1.7cm、高さ10cm)の内部に充填し、チューブを試験管立てに直立させた状態で50℃のインキュベーター(アドバンテック東洋株式会社販売、商品名『CI−410』)の内部に収容し、24時間にわたって静置した後、チューブをインキュベーター外に取り出し、チューブから蓋を外し、チューブを緩慢に転倒させることにより、被験試料を黒色プラスチック製平板上に取り出し、取り出された被験試料の状態を肉眼観察した。
固結の有無は、被験試料が平板上でもなおチューブ内底部の半球状を明らかに保っている場合を「固結あり」(+)、被験試料がチューブ内底部の形状をわずかではあるが識別できる場合を「やや固結あり」(±)、被験試料が崩壊し、チューブ内底部の形状を保っていない場合を「固結なし」(−)と判定した。結果は、表2における「固結性」の欄に示した。
Figure 0005993674
表2に示すとおり、被験試料1乃至8のトレハロース二含水結晶含有粉末における無水物換算でのトレハロース含量、すなわちトレハロース純度は、いずれも98.0%を超え、従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末である被験試料9と同様に、高純度のトレハロース二含水結晶含有粉末であった。しかし、対澱粉収率についてみると、パエニバチルス属の微生物由来のCGTase以外のCGTaseを用いた被験試料2乃至4においては、対澱粉収率は、高々31%にとどまったのに対し、パエニバチルス属の微生物由来のCGTaseを用いた被験試料5乃至8においては、対澱粉収率は39乃至41%に達し、用いるCGTaseの由来による差異が認められた。また、表1と表2における結果を比較すると、グルコアミラーゼ処理後の酵素反応液中のトレハロース含量が高い酵素反応液から調製されたトレハロース二含水結晶含有粉末ほど、対澱粉収率が高いという傾向が見られ、酵素反応液中のトレハロース含量と対澱粉収率との間には相関関係が認められた。
これらの結果から、CGTaseとして、パエニバチルス属の微生物由来のCGTaseを用いる場合(被験試料5乃至8)には、グルコアミラーゼ処理後の酵素反応液中のトレハロース含量が86.0%を超え、その結果、トレハロース二含水結晶含有粉末についての対澱粉収率も約40%まで高まるとの知見が得られた。なお、パエニバチルス属の微生物由来のCGTaseを用いた場合の対澱粉収率(被験試料5乃至8の対澱粉収率)の向上は、従来から用いられているジオバチルス・ステアロサーモフィラス Tc−91株由来のCGTaseを用いた場合(被験試料2)に比べて8乃至10%も向上し、顕著な効果が認められた。
一方、粉末としての取り扱い上の重要な物性である固結性に関しては、CGTaseを用いないトレハロース含有糖液1から製造された被験試料1、及び、CGTaseとして、サーモアナエロバクテリウム・サーモスルフリゲネス由来のCGTaseを用いて製造された被験試料4は、上記固結性試験において「固結あり(+)」と判定されたのに対し、その他のCGTaseを用いて製造された被験試料2、3、5乃至8は、従来から市販されている食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末(被験試料9)と同様に、上記固結性試験において「やや固結あり」(±)と判定されるに止まった。この結果は、パエニバチルス属の微生物由来のCGTaseを用いる本発明の製造方法によって製造されるトレハロース二含水結晶含有粉末(被験試料5乃至8)は、従来から市販されている食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末(被験試料9)と比べて固結性において遜色のない粉末であり、粉末状の食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、又は医薬品素材として、従来から市販されている食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末と同様に使用することができる粉末であることを示している。
<実験3:晶析時の擬似制御冷却がトレハロース二含水結晶含有粉末のトレハロース純度、対澱粉収率、及び固結性に及ぼす影響>
本実験では、実験2−1で調製されたトレハロース含有糖液1乃至8からトレハロース二含水結晶を晶析させるに際し、擬似制御冷却法を適用してトレハロース二含水結晶含有粉末を調製した場合の、粉末のトレハロース純度、対澱粉収率、及び固結性に及ぼす影響を検討した。
<実験3−1:被験試料の調製>
実験2−1で調製した無水物換算でのトレハロース含量が異なるトレハロース含有糖液1乃至8のそれぞれを、減圧下で固形物濃度約85%にまで濃縮し、助晶缶にとり、糖液の容量に対して約1%(w/v)のトレハロース二含水結晶を種晶として加えて攪拌しつつ、60℃から20℃まで約10時間かけて擬似制御冷却することにより助晶した以外は、実験2におけると同様にして、トレハロース二含水結晶を晶析させたマスキットを調製した。なお、擬似制御冷却は、全10時間の冷却時間を4時間、3時間、3時間の3つの区間に分け、最初の区間では4時間かけて液温を60℃から55℃まで、次の区間では3時間かけて55℃から50℃まで、さらに、最後の区間では3時間かけて液温を50℃から20℃まで、いずれも液温が時間に対して略直線状に低下するように冷却することによって行った。得られたマスキットから、常法により、バスケット型遠心分離機によりトレハロース二含水結晶を採取し、採取したトレハロース二含水結晶をマスキット重量に対し8%の脱イオン水を用いて洗浄し、40℃で8時間、熟成、乾燥させた後、25℃の清浄な空気を30分間吹き付けて強制冷却し、粉砕することにより、トレハロース二含水結晶含有粉末とした。トレハロース含有糖液1乃至8のそれぞれから擬似制御冷却によって得られたトレハロース二含水結晶含有粉末をそれぞれ被験試料1c乃至8cとした。
<実験3−2:被験試料1c乃至8cのトレハロース純度、対澱粉収率、及び固結性>
<トレハロース純度>
被験試料1c乃至8cのトレハロース純度は、実験1−3と同じHPLC法にて求めた。結果は表3に示した。
<対澱粉収率>
被験試料1c乃至8cの対澱粉収率は、実験2−2と同じ方法により算出した。結果は表3に併せて示した。
<固結性試験>
被験試料1c乃至8cの固結性は、実験2−2と同じ固結性試験により評価した。結果は表3に併せて示した。
Figure 0005993674
表3に示すとおり、晶析工程において擬似制御冷却法を適用して調製した被験試料1c乃至8cのトレハロース純度は、98.7乃至99.5%の範囲であった。この結果を実験2の自然冷却法にて晶析して得た被験試料1乃至8のトレハロース純度(表2の「トレハロース純度」の欄)と対比すると、被験試料1c乃至8cでは、いずれもトレハロース純度が0.3乃至0.9%高まっていた。この結果は、晶析工程において擬似制御冷却を適用することにより、粉末のトレハロース純度を高めることができることを示している。
また、被験試料1c乃至8cの対澱粉収率は31乃至44%であり、この結果を実験2の自然冷却法にて晶析して得た被験試料1乃至8の対澱粉収率(表2の「対澱粉収率」の欄)と対比すると、被験試料1c乃至8cでは、いずれも対澱粉収率が3乃至4%程度向上していた。この結果は、晶析に際して擬似制御冷却法を適用すると、自然冷却法により晶析した場合に比べて対澱粉収率が高まることを意味している。晶析に用いたトレハロース含有糖液におけるトレハロース含量に変化がないにもかかわらず、擬似制御冷却法を適用することによって得られるトレハロース二含水結晶含有粉末の対澱粉収率が高まる理由は定かではないが、前述のとおり、擬似制御冷却法によれば微結晶が少なく粒度のそろった結晶が得られるため、遠心分離によってマスキットから結晶を採取する時、及び、採取した結晶を水で洗浄する時におけるトレハロースのロスが少なくなるためではないかと推測される。
さらに、被験試料1c乃至8cについて、実験2−2におけると同様の固結性試験を行いその粉末の固結性を調べたところ、表3に示すとおり、被験試料1c乃至4cはいずれも「やや固結あり」(±)と判定され、被験試料5c乃至8cは、いずれも平板上に取り出すと崩壊し、チューブ内底部の形状を保っておらず、「固結なし」(−)と判定された。これらの結果は、晶析に際して擬似制御冷却法を適用すると、意外にも、得られる粉末の固結性が、自然冷却法にて晶析させた場合に比べて改善される傾向にあることを示している。中でも、従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末(被験試料9)が固結性試験において「やや固結あり」(±)(表2参照)と判定されたのに対し、トレハロース含量が86%超と比較的高いトレハロース含有糖液5乃至8から擬似制御冷却法を適用して晶析することにより得られたトレハロース二含水結晶含有粉末(被験試料5c乃至8c)が、「固結なし」(−)と判定されたという事実は、トレハロース含量が86%超と比較的高いトレハロース含有糖液から擬似制御冷却法を適用して晶析することにより、従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末よりも有意に固結し難い、粉末としての特性に優れたトレハロース二含水結晶含有粉末を製造できることを物語っている。
上記の結果から、晶析工程において擬似制御冷却法を適用することにより、自然冷却法によって晶析された場合に比べて、トレハロース純度が高いトレハロース二含水結晶含有粉末を、より高い対澱粉収率で製造できることが判明した。また、トレハロース含量が86.0%超と比較的高い糖液から擬似制御冷却法により晶析して製造したトレハロース二含水結晶含有粉末は、自然冷却法で製造される従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末が「やや固結あり」(±)と判定される条件下でも固結せず、粉末としての流動性を維持している点で、より優れた粉末であることが判明した。
<実験4:粉末の固結性の違いに及ぼす結晶化度及び平均結晶子径の影響>
実験3において、トレハロース含量が86%超と比較的高い糖液から擬似制御冷却法を適用して調製したトレハロース二含水結晶含有粉末被験試料5c乃至8cは、それ以外の被験試料と比べトレハロース純度において大差ないにもかかわらず、固結し難いという優れた粉末特性を有していた。その理由を解明する目的で、本実験では実験2で得た被験試料1乃至8、及び、実験3で得た被験試料1c乃至8cについて、粉末のトレハロース二含水結晶についての結晶化度と平均結晶子径を測定した。また、対照として、被験試料9についても同様に調べた。
<実験4−1:結晶化度の測定に用いる標準試料の調製>
<標準試料A>
被験試料Aとして、実質的にトレハロース二含水結晶からなる標準試料を、試薬級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハロース 999』、コード番号:TH224、純度99.9%以上)を再結晶させることによって調製した。すなわち、上記試薬級のトレハロース二含水結晶含有粉末1,840gを1,000gの精製水に加熱・溶解し、溶解した溶液を20℃の恒温チャンバーに入れて一晩放置して再結晶させた。再結晶により晶出したトレハロース二含水結晶を常法によりバスケット型遠心分離機を用いて回収して、40℃で8時間乾燥してトレハロース二含水結晶約950gを得た。これを被験試料Aとした。被験試料Aのトレハロース純度を実験1記載のHPLC法で測定したところ、100%であった。
<標準試料B>
被験試料Bとして、実質的に無定形部分からなる標準試料を、以下の手順で調製した。すなわち、被験試料Aを適量の精製水に溶解し、3日間かけて凍結乾燥した後、40℃以下で1晩真空乾燥して、実質的に無定形部分からなる粉末を得た。これを被験試料Bとした。被験試料Bのトレハロース純度を実験1記載のHPLC法で測定したところ、100%であった。なお、被験試料Bの水分含量をカールフィッシャー法により測定したところ、2.0%であった。
<実験4−2:被験試料A及びB、被験試料1乃至9、及び、被験試料1c乃至8cの結晶化度>
<結晶化度>
被験試料A及びB、被験試料1乃至9、被験試料1c乃至8cにおけるトレハロース二含水結晶についての結晶化度を以下のようにして求めた。すなわち、市販の反射光方式による粉末X線回折装置(スペクトリス株式会社製、商品名『X’Pert PRO MPD』)を用い、Cu対陰極から放射される特性X線であるCuKα線(X線管電流40mA、X線管電圧45kV、波長1.5405オングストローム)による粉末X線回折プロフィルに基づき、同粉末X線回折装置に搭載された専用の解析コンピューターソフトウェアを用い、被験試料A及びB、被験試料1乃至9、及び被験試料1c乃至8cの各々につきハーマンス法による結晶化度の解析値を求めた。ハーマンス法による結晶化度の解析に先立ち、各粉末X線回折パターンにおけるピーク同士の重なり、回折強度、散乱強度などを勘案しながら、最適と判断されるベースラインが得られるように、ソフトウェアに設定された粒状度及びベンディングファクターをそれぞれ適切なレベルに合わせた。なお、ハーマンス法については、ピー・エイチ・ハーマンス(P.H.Harmans)とエー・ワイジンガー(A. Weidinger)、「ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス」(Journal of Applied Physics)、第19巻、491〜506頁(1948年)、及び、ピー・エイチ・ハーマンス(P.H.Harmans)とエー・ワイジンガー(A. Weidinger)、「ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス」(Journal of Polymer Science)、第4巻、135〜144頁(1949年)に詳述されている。
被験試料Aについての結晶化度の解析値を解析値H100、被験試料Bについての結晶化度の解析値を解析値Hとし、各被験試料についての結晶化度の解析値をHsとして前記した式[3]に代入することにより結晶化度を求めた。因みに被験試料Aについてのハーマンス法による結晶化度の解析値(H100)及び被験試料Bについての同解析値(H)は、それぞれ、50.69%及び8.59%であった。結果は表4に示した。なお、被験試料A及びBについては、粉末X線回折パターンをそれぞれ図1及び図2に示した。
図1に見られるとおり、被験試料Aの粉末X線回折パターンにおいては、トレハロース二含水結晶に特有な回折ピークが回折角(2θ)5乃至50°の範囲に明瞭かつシャープに出現し、無定形部分に特有なハローは一切認められなかった。一方、図2に見られるとおり、被験試料Bの粉末X線回折パターンにおいては、図1の粉末X線回折パターンとは異なり、無定形部分に特有なハローがベースラインの膨らみとして著明に出現したものの、トレハロースの二含水結晶や無水結晶に特有な回折ピークが一切認められなかった。
<実験4−3:被験試料A及びBのシンクロトロン放射による粉末X線回折>
本実験では、被験試料A及びBがそれぞれ、解析値H100及びHを決定するための試料として適切なものであることをさらに裏付ける目的で、これら標準試料をシンクロトロン放射光(以下、「放射光」と言う。)をX線源に用い、微弱な回折や散乱のシグナルを検出することができる透過光方式の粉末X線回折に供した。なお、測定条件は次のとおりであった。
<測定条件>
粉末X線回折装置:高速粉末X線回折装置(神津精機社販売、
型番『PDS−16』)、デバイシェラモード、
カメラ長:497.2mm
X線源 :偏向電磁石からの放射光(兵庫県ビームライン(BL08B2))
測定波長:1.2394Å(10.00keV)
測定強度:10フォトン/秒
測定角 :3乃至38°
露光時間:600秒間
画像撮影:イメージングプレート(富士フイルム社製、商品名『イメージ
ングプレート BAS−2040』
画像読取装置:イメージアナライザー(富士フイルム社製、『バイオイメー
ジアナライザーBAS−2500』)
測定は、大型放射光施設「SPring−8」(兵庫県佐用郡佐用町光都1−1−1)内に設けられた「兵庫県ビームライン(BL08B2)」を利用して実施した。
粉末X線回折の測定に先立ち、被験試料A及びBを乳鉢によりすり潰した後、53μmの篩によりふるい分け、篩を通過した粉末をX線結晶回折用のキャピラリー(株式会社トーホー販売、商品名『マークチューブ』、No.14(直径0.6mm、リンデマンガラス製))内に充填長が略30mmとなるように均一に充填した。次いで、キャピラリーを試料の充填終端で切断し、開口部を接着剤により封じた後、試料マウントへキャピラリーを粘土により固定し、キャピラリーの長手方向が粉末X線回折装置の光軸に対して垂直になるように、試料マウントを粉末X線回折装置に取り付けた。トレハロース二含水結晶の配向による粉末X線回折プロフィルへの影響を除くため、測定中、試料マウントを2回/秒の周期で等速回転させた。
被験試料A及びBについて得られた粉末X線回折プロフィルを解析し、粉末X線回折パターンを作成する過程においては、測定精度を上げるため、常法にしたがい、各粉末X線回折プロフィルから粉末X線回折装置に由来するバックグラウンドシグナルを除去した。斯くして得られた被験試料A及びBについての粉末X線回折パターンをそれぞれ図3及び図4に示す。
図3に見られるとおり、放射光を用いた粉末X線回折による被験試料Aについての粉末X線回折パターンはトレハロース二含水結晶に特有な回折ピークが回折角(2θ)3乃至38°の範囲に明瞭かつシャープに出現した。図3と図1とを比較すると、放射光の波長(1.2394Å)、と特性X線の波長(1.5405Å)とが異なるため、図3においては、図1におけるほぼ5分の4の回折角(2θ)で各回折ピークが出現するという違いはあるものの、図1及び図3における回折パターンは極めてよく一致していた。また、図3における各回折ピークの強度は、図1における回折ピークの強度より50倍近く強いにもかかわらず、各回折ピークの半値幅は図1におけるよりも明らかに狭く、分離度も高かった。また、図3の粉末X線回析パターンにおいては、後述する図4におけるがごとき、無定形部分に特有なハローは一切認められなかった。このことは、被験試料A中のトレハロース二含水結晶の結晶性が極めて高く、被験試料Aが実質的にトレハロース二含水結晶からなることを示している。
一方、図4に示すとおり、放射光を用いた粉末X線回折による被験試料Bについての粉末X線回折パターンにおいては、無定形部分に特有なハローがベースラインの膨らみとして著明に出現し、トレハロース二含水結晶に特有な回折ピークは一切認められなかった。このことは、被験試料Bが実質的に無定形部分からなることを示している。
シンクロトロン放射光をX線源として用いて得られた上記の結果は、被験試料A及びBが、式[3]における解析値H100及び解析値Hを決定するための試料として適切なものであることを裏付けている。
<実験4−4:被験試料A、被験試料1乃至9及び被験試料1c乃至8cの平均結晶子径>
粉末X線回折パターンにおける各回折ピークの半値幅及び回折角(2θ)から、結晶子径を算出することができる。本発明者らは、複数の回折ピークから算出される結晶子径の平均値(平均結晶子径)が、結晶含有粉末の物性を規定するパラメータとなり得ると考え、トレハロース二含水結晶含有粉末の被験試料について平均結晶子径を求めた。
無定形粉末であり、粉末X線回折パターンにおいて回折ピークを示さない被験試料Bを除く、被験試料A、被験試料1乃至9、及び、被験試料1c乃至8cについて、結晶化度を求めた際の各粉末X線回折パターンを用いてさらにそれぞれの平均結晶子径を求めた。平均結晶子径は、トレハロース二含水結晶含有粉末のそれぞれの粉末X線回折パターンにおける5個の回折ピーク、すなわち、結晶子の不均一歪に起因する回折ピーク幅への影響が少ないとされる比較的低角の領域で、他の回折ピークとよく分離した回折角(2θ)13.7°(ミラー指数(hkl):101)、17.5°(ミラー指数:220)、21.1°(ミラー指数:221)、23.9°(ミラー指数:231)及び25.9°(ミラー指数:150)の回折ピーク(図1に示した符号a乃至e)を選択し、それぞれについてその半値幅と回折角(2θ)を用い、粉末X線回折装置に付属する解析用コンピューターソフトウェア(『エクスパート ハイスコア プラス(X´pert Highscore Plus)』を用い、標準品としてケイ素(米国国立標準技術研究所(NIST)、X線回折用標準試料(『Si640d』)を用いた場合の測定値に基づき補正した後、前記式[4]に基づき結晶子径を算出し、5点の平均値として求めた。結果は表4に併せて示した。
なお、表4には、被験試料1乃至9及び被験試料1c乃至8cについて、トレハロース純度と粉末の固結性試験の結果を表2及び3からそれぞれ転記し、併せて示した。また、結晶化度測定のための標準試料とした被験試料A及びBについても、それぞれを実験2−2、実験3−2と同じ固結性試験に供し、その固結性を評価した。結果は併せて表4に示した。
Figure 0005993674
結晶化度測定において、解析値H100を決定するための標準試料とした被験試料A(トレハロース純度100.0%、結晶化度100.0%)の平均結晶子径は3,910Åであった。また、表4に示されるとおり、固結性試験において被験試料Aは「固結なし」(−)と判定された。これに対し、解析値Hを決定するための標準試料とした被験試料B(トレハロース純度100.0%、結晶化度0.0%)は、固結性試験において、チューブから平板上に取り出してもチューブ内底部の半球状を明確に保っており、「固結あり」(+)と判定された。なお、平板上に取り出された被験試料Bが保っているチューブ内底部の半球状の形態は、平板に軽く振動を与えた程度では崩壊しないほどであった。一方、従来から市販されている食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末である被験試料9のトレハロース純度は99.0%、結晶化度は85.4%であった。
表4の「結晶化度」の欄に示すとおり、晶析工程において自然冷却法にて晶析して得た被験試料1乃至8の結晶化度は75.3乃至87.8%の範囲となり、また、晶析工程において擬似制御冷却法を適用して調製した被験試料1c乃至8cの結晶化度は、86.2乃至94.8%の範囲となった。晶析方法の違いの観点から上記被験試料1乃至8及び被験試料1c乃至8cの結晶化度を対比すると、擬似制御冷却法にて得た被験試料1c乃至8cでは、試料間でばらつきはあるものの、自然冷却法にて得た被験試料1乃至8よりも結晶化度が3.2乃至10.9%高まっていることが判明した。
また、表4に示す結果は、結晶化度が粉末の固結性と相関性があることを物語っている。すなわち、表4に示すとおり、結晶化度が90%以上である被験試料A、被験試料5c乃至8cが、いずれも「固結なし」(−)であったのに対し、結晶化度が85%以上90%未満である被験試料5乃至9、及び被験試料1c乃至4cは、いずれも「やや固結あり」(±)であり、結晶化度が85%未満である被験試料B、被験試料1乃至4は、いずれも「固結あり」(+)であった。このことは、結晶化度が、固結し難いトレハロース二含水結晶含有粉末を規定する有力な指標となり得ることを物語っている。
さらに、この結果は、トレハロース二含水結晶含有粉末の製造において、反応液中のトレハロース含量を86.0%超にまで高め、その後の晶析工程において擬似制御冷却法を適用すれば、得られる粉末におけるトレハロース二含水結晶についての結晶化度が90%以上となり、結果として、固結の点で、従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末よりも有意に固結し難いトレハロース二含水結晶含有粉末を得ることができることを物語っている。
一方、表4の「平均結晶子径」の欄に示すとおり、晶析工程において自然冷却法にて晶析して得た被験試料1乃至8の平均結晶子径は2,050乃至2,740Åの範囲となり、また、晶析工程において擬似制御冷却法を適用して調製した被験試料1c乃至8cの平均結晶子径は、2,680乃至3,410Åの範囲となった。平均結晶子径について被験試料1c乃至8cと被験試料1乃至8とを対比すると、擬似制御冷却法にて得た被験試料1c乃至8cでは、試料間でばらつきはあるものの自然冷却法にて得た被験試料1乃至8よりも平均結晶子径が220乃至740Å増大していることが判明した。この結果から、トレハロース二含水結晶の晶析工程における擬似制御冷却法の適用は、平均結晶子径の大きいトレハロース二含水結晶含有粉末を得る上でも優れた方法であると言える。
また、被験試料1乃至8及び被験試料1c乃至8cにおいては、粉末におけるトレハロース純度及びトレハロース二含水結晶についての結晶化度が高いほど平均結晶子径の値が大きい傾向が認められた。この傾向は、トレハロース純度が100.0%で結晶化度が100.0%である被験試料1の平均結晶子径が3,910Åであり、食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末である被験試料9の平均結晶子径が2,590Åであったことを併せると、トレハロース二含水結晶含有粉末における平均結晶子径は、トレハロース純度及び結晶化度と一定の相関性があることを物語っている。
さらに、表4に示す結果は、平均結晶子径も粉末の固結性と相関性があることを物語っている。すなわち、表4に示すとおり、平均結晶子径が3,120Å以上である被験試料A、被験試料5c乃至8cが、いずれも「固結なし」(−)であったのに対し、平均結晶子径が2,620Å以上2,900Å未満の範囲にある被験試料5乃至9、及び被験試料1c乃至4cは、いずれも「やや固結あり」(±)であり、平均結晶子径が2,600Å未満である被験試料B、被験試料1乃至4は、いずれも「固結あり」(+)であった。このことは、結晶化度とともに平均結晶子径も、固結し難いトレハロース二含水結晶含有粉末を規定する有力な指標となり得ることを物語っている。
<実験5:被験試料の粉末特性(保存性、水への溶解性)>
被験試料1乃至9及び被験試料1c乃至8cの粉末としての性質をさらに明らかにすることを目的とし、保存性試験及び水への溶解性試験を行った。
<実験5−1:保存性試験>
実験2−2、実験3−2等において行われた固結性試験が、トレハロース二含水結晶含有粉末の実際の保存時における固結性を評価する試験として妥当なものであることを確認すべく、実験4−1の方法で得た被験試料A及びB、実験2で得た被験試料1乃至9、及び、実験3で得た被験試料1c乃至8cについて、市場に流通する製品としてのトレハロース二含水結晶含有粉末が実際に保存される状態、環境、期間などを想定した保存性試験を行った。
すなわち、被験試料A及びB、被験試料1乃至9、及び、被験試料1c乃至8cを各々150gずつ取り、別々にポリエチレン袋(商品名『ユニパック F−4』、株式会社生産日本社製、17cm×12cm)に採取し、空気を抜いた状態で封入したポリエチレン袋を各被験試料について3袋ずつ作製した。次いで、各ポリエチレン袋の片面積1m当たりの荷重が648kgになるように13.2kgの錘を、それぞれのポリエチレン袋の上に上面全体に荷重が掛かるように載せ、その状態で、高温多湿を避けた環境下にて60日間保存した。なお、食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末製品は、通常、20kg詰めの袋入の荷姿で、10段程度積み重ねた状態で倉庫等において保存されるところ、ポリエチレン袋の片面積1m当たり648kgという荷重は、この10段積みした状態における最下段の製品にかかる荷重に相当する。60日間保存後、各被験試料をポリエチレン袋から取り出し、目開き425μmの篩にかけ、篩を通過した粉末と通過しなかった粉末の質量をそれぞれ測定し、粉末全体に占める粒径425μm以上の粒子の質量割合(%)を求め、各被験試料について試験した3袋の平均値をとることにより、60日間保存後の粉末における固結の有無を判定した。粉末の固結は、粒径425μm以上の粒子が粉末全体の30%未満の場合を「固結なし」(−)、同粒子が粉末全体の30%以上の場合を「固結あり」(+)と判定した。なお、粉末における425μm以上の粒子の割合が30%を超えると、一般に、粉末の溶解や他の粉末状組成物との混合、混捏などに支障が生じるため、判定の基準を30%とした。結果を表5に示した。
<実験5−2:水への溶解性試験>
各被験試料を各0.25g秤量し、それぞれ内底部が半球状の14ml容蓋付きポリプロピレン製円筒チューブ(ベクトン・ディッキンソン社販売、商品名「ファルコンチューブ2059」に入れた。各被験試料を入れたチューブに、脱イオン水を5ml加え、50℃の恒温水槽で、30分間加温した後、2回転倒させ、さらに50℃で15分保持し、その時の溶解性を調べた。目視により、粉末が完全に溶解したと見なされる場合を溶解性「良」、不溶物の残存が確認される場合を溶解性「不良」と判定した。結果を併せて表5に示した。
Figure 0005993674
表5の「保存性」の欄に示されるとおり、各被験試料を荷重を掛けながら高温多湿を避けた環境下で60日間保存した保存性試験において、トレハロースについての結晶化度が90.0%未満、平均結晶子径が2,850Å以下である被験試料1乃至9及び被験試料1c乃至4cが「固結あり」(+)と判断されたのに対し、結晶化度が90.4%以上95.0%以下、平均結晶子径が3,120Å以上である被験試料A、被験試料5c乃至8cは「固結なし」(−)と判断された。この結果は、実験2−2、実験3−2等において行った固結性試験において「固結あり」(+)若しくは「やや固結あり」(±)と判定された被験試料は本保存試験においては「固結あり」(+)と判定されるのに対し、実験2−2、実験3−2等において行った固結性試験において「固結なし」(−)と判定された被験試料は、本保存試験においても同様に「固結なし」(−)と判定されることを示している。この事実は、実験2−2、実験3−2等において行った固結性試験が、トレハロース二含水結晶含有粉末の実際の保存環境下での固結性を評価する試験として妥当なものであることを示している。
また、表5の「水への溶解性」の欄に示すとおり、水への溶解性試験において、結晶化度100%、平均結晶子径3,910Åの被験試料Aが溶解性「不良」と判定されたのに対し、結晶化度が94.8%以下、平均結晶子径が3,410Å以下である被験試料1乃至9及び被験試料1c乃至8cは、いずれも溶解性「良」と判定された。この結果は、トレハロース二含水結晶含有粉末において、結晶化度及び平均結晶子径が被験試料Aのレベル、換言すれば、試薬級のトレハロース二含水結晶含有粉末のレベルにまで高まると、水への溶解性が悪くなるという、固結性とは違った問題が生じることを示している。
<実験6:トレハロースの製造により好適なCGTaseに共通する部分アミノ酸配列>
トレハロースの製造により好適なCGTaseを特徴づける目的で、酵素反応液中のトレハロース含量を高める効果に優れる前記パエニバチルス属微生物由来CGTase、すなわち、パエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株、パエニバチルス・パブリ NBRC13638株、及び、パエニバチルス・アミロリティカス NBRC15957株にそれぞれ由来するCGTaseのアミノ酸配列(配列表における配列番号1、2及び3)と、酵素反応液中のトレハロース含量を高める効果がパエニバチルス属微生物由来CGTaseに比べると弱い前記ジオバチルス・ステアロサーモフィラス Tc−91株、とバチルス・マゼランス、サーモアナエロバクター・サーモスルフリゲネスにそれぞれ由来するCGTaseのアミノ酸配列(配列表における配列番号4、5及び6)を比較した。なお、アミノ酸配列の比較に用いた配列表における配列番号1乃至3で示されるアミノ酸配列はいずれも、パエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株、パエニバチルス・パブリ NBRC13638株、及び、パエニバチルス・アミロリティカス NBRC15957株のそれぞれのCGTase遺伝子を出願人が独自にクローニングし決定した塩基配列にコードされるアミノ酸配列を用いた。また、配列表における配列番号4及び5で示されるアミノ酸配列は、出願人が独自に決定し本願と同じ出願人による特開昭61−135581号公報に開示されたジオバチルス・ステアロサーモフィラス(旧分類ではバチルス・ステアロサーモフィラス) Tc−91株由来、及び、バチルス・マゼランス由来CGTaseのアミノ酸配列である。因みに、配列表における配列番号5で示されるアミノ酸配列は、実験1で用いたバチルス・マゼランス由来CGTase(商品名『コンチザイム』、天野エンザイム株式会社販売)のものではないものの、同じバチルス・マゼランス由来CGTaseのアミノ酸であることから代用した。また、サーモアナエロバクター・サーモスルフリゲネス由来CGTaseのアミノ酸配列としては、遺伝子データベース『GenBank』にアクセッションNo.35484として登録されているものを用いた。
上記したアミノ酸配列の比較において、酵素反応液中のトレハロース含量を高める効果に優れるCGTase、すなわち、前記パエニバチルス属微生物由来CGTaseに共通して存在し、且つ、酵素反応液中のトレハロース含量を高める効果がそれほどでもないCGTase、すなわち、ジオバチルス・ステアロサーモフィルス、バチルス・マゼランス、及び、サーモアナエロバクター・サーモスルフリゲネスにそれぞれ由来するCGTaseに存在しない部分アミノ酸配列として、下記(a)乃至(d)の部分アミノ酸配列が認められた。
(a)Gly−Ser−X−Ala−Ser−Asp;
(b)Lys−Thr−Ser−Ala−Val−Asn−Asn;
(c)Lys−Met−Pro−Ser−Phe−Ser−Lys;
(d)Val−Asn−Ser−Asn−X−Tyr;
(但し、XはAla又はSerを、XはAla又はThrをそれぞれ意味する。)
以上の結果から、本発明の製造方法によるトレハロースの製造において、より好適なCGTase、すなわち、酵素反応液中のトレハロース含量を86.0%超とすることのできるCGTaseは、上記(a)乃至(d)の部分アミノ酸配列を有すると特徴づけることができる。
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳しく説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例によってなんら限定されるものではない。
<トレハロース二含水結晶含有粉末の製造>
トウモロコシ澱粉を30%になるように水中に懸濁し、この懸濁液に終濃度0.1%となるように炭酸カルシウムを添加し、pH6.0に調整した。これに耐熱性α−アミラーゼ(商品名『ターマミル60L』、ノボザイムズ・ジャパン株式会社販売)を澱粉質量当たり0.2%加えて98乃至100℃、15分間反応させ、澱粉を糊化・液化した。得られた液化澱粉溶液を125℃で15分間オートクレーブした後、57℃に冷却し、これに実験1−1の方法で調製した組換え型α−グリコシルトレハロース生成酵素と組換え型トレハロース遊離酵素の部分精製標品を、澱粉1グラム当たりそれぞれ5単位及び20単位になるよう加え、さらに、澱粉1グラム当たり1,500単位のイソアミラーゼ(株式会社林原製)及び15単位の実験1−2の方法で調製したパエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15959株由来のCGTaseを加え、さらに、約50時間反応させた。次いで、この反応液を97℃で60分間加熱して酵素を失活させた後、pH4.5に調整し、これにグルコアミラーゼ剤(商品名『グルコチーム#20000』、ナガセケムテックス株式会社販売)を澱粉1グラム当り10単位加えて24時間反応させたところ、トレハロース純度、すなわち無水物換算でのトレハロース含量が86.4%の反応液が得られた。斯くして得た反応液を加熱し酵素を失活させ、常法により活性炭で脱色濾過し、濾液をカチオン交換樹脂(H型)及びアニオン交換樹脂(OH型)にて脱塩し、減圧濃縮し、固形物濃度約85%の濃縮液とした。これを助晶缶にとり、試薬級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハロース 999』、コード番号:TH224、トレハロース純度99.9%以上、株式会社林原販売)を種晶として2%加えて55℃とし、穏やかに撹拌しつつ24時間かけて15℃まで自然冷却し、トレハロース二含水結晶を晶析させた。バスケット型遠心分離機で結晶を回収し、結晶をマスキット重量に対し約5%の精製水でスプレーし洗浄した後、50℃で2時間、熟成、乾燥し、20℃の空気を10分間吹き付けて冷却し、粉砕して、無水物換算でトレハロースを99.1%、D−グルコースを0.6%、4−O−α−グルコシルトレハロースを0.09%、及び、6−O−α−グルコシルトレハロースを0.12%含有するトレハロース二含水結晶含有粉末を対澱粉収率約40%で得た。
本例の製造方法によれば、トレハロース二含水結晶含有粉末を、約40%という高い対澱粉収率で製造することができる。また、本製造方法によって製造されたトレハロース二含水結晶含有粉末のトレハロース二含水結晶についての結晶化度は87.5%、平均結晶子径は2,610Å、粉末全体の還元力は0.7%であった。因みに、上記結晶化度の測定はハーマンス法にて行い、実験4−2で求めた解析値H100及びHを用いて行った。本品の粒度分布を測定したところ、粒径53μm以上425μm未満の粒子が75.3%、粒径53μm以上300μm未満の粒子が66.1%、及び、粒径425μm以上の粒子が10.2%含まれていた。本品は、従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末と同様に、食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、及び医薬品素材などとして用いることができる。
<トレハロース二含水結晶含有粉末の製造>
澱粉1グラム当たりそれぞれ10単位及び40単位の組換え型α−グリコシルトレハロース生成酵素と組換え型トレハロース遊離酵素を用いて反応時間を40時間とし、CGTaseとして実験1−2の方法で得たパエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株由来CGTaseを用いた以外は、実施例1と同様の方法によりトレハロース生成反応及びグルコアミラーゼ処理を行うことにより、トレハロース純度、すなわち無水物換算でのトレハロース含量が86.2%の反応液を得た。得られた反応液を加熱し酵素を失活させ、常法により活性炭で脱色濾過し、濾液をカチオン交換樹脂(H型)及びアニオン交換樹脂(OH型)にて脱塩し、減圧濃縮し、固形物濃度約85%の濃縮液とした。これを助晶缶にとり、試薬級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハロース 999』、コード番号:TH224、トレハロース純度99.9%以上、株式会社林原販売)を種晶として1%加えて60℃とし、次いで、このトレハロース含有溶液を、穏やかに撹拌しつつ60℃から50℃まで12時間、50℃から40℃まで6時間、さらに40℃から15℃まで6時間かけて冷却する擬似制御冷却法にて計24時間で15℃まで冷却することにより、トレハロースの二含水結晶を晶析させた。バスケット型遠心分離機で結晶を回収し、結晶をマスキット重量に対し約5%の精製水でスプレーし洗浄した後、50℃で2時間、熟成、乾燥し、20℃の空気を20分間吹き付けて冷却し、粉砕して、無水物換算でトレハロースを99.4%、D−グルコースを0.08%、4−O−α−グルコシルトレハロースを0.05%、及び、6−O−α−グルコシルトレハロースを0.07%含有するトレハロース二含水結晶含有粉末を対澱粉収率約43%で得た。
本トレハロース二含水結晶含有粉末のトレハロース二含水結晶についての結晶化度は94.1%、平均結晶子径は3,340Å、粉末全体の還元力は0.18%であった。因みに、上記結晶化度の測定はハーマンス法にて行い、実験4−2で求めた解析値H100及びHを用いて行った。本品の粒度分布を測定したところ、粒径53μm以上425μm未満の粒子が85.1%、粒径53μm以上300μm未満の粒子が74.7%、及び、粒径425μm以上の粒子が5.8%含まれていた。本品を用い、実験2−2、実験3−2等と同じ方法により固結性試験を行ったところ、「固結なし」(−)と判定された。また、実験5と同じ方法により水への溶解性を試験したところ、溶解性「良」と判定された。
本例の製造方法によれば、トレハロース二含水結晶含有粉末を、約43%という高い対澱粉収率で製造することができる。また、本製造方法によって製造されたトレハロース二含水結晶含有粉末は、食品素材などとして市販されている従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハ』、株式会社林原販売)と比べて、トレハロース純度においてそれほどの違いがないにもかかわらず、従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末に比べて有意に固結し難い粉末であり、保存や取扱いが容易である。本品は、トレハロースの二含水結晶含有粉末である点では従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末と同様であり、保存や取り扱いが容易である分、食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、及び医薬品素材などとしてより好適に用いることができる。
<トレハロース二含水結晶含有粉末の製造>
CGTaseとして、実験1−2の方法で調製したパエニバチルス・パブリ NBRC13638株由来のCGTaseを用いた以外は実施例1におけると同様にしてトレハロース生成反応を行ったところ、グルコアミラーゼ処理後の反応液における無水物換算でのトレハロース含量は86.1%であった。斯くして得た反応液を加熱し酵素を失活させ、常法により活性炭で脱色濾過し、濾液をカチオン交換樹脂(H型)及びアニオン交換樹脂(OH型)にて脱塩し、減圧濃縮し、固形物濃度約85%の濃縮液とした。これを助晶缶にとり、試薬級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハロース 999』、コード番号:TH224、トレハロース純度99.9%以上、株式会社林原販売)を種晶として1%加えて60℃とし、穏やかに撹拌しつつ60℃から45℃まで15時間、45℃から20℃まで9時間かけて冷却する2段階の擬似制御冷却法にて24時間かけて冷却し、トレハロース二含水結晶を晶析させた。バスケット型遠心分離機で結晶を回収し、結晶をマスキット重量に対し約5%の精製水でスプレーし洗浄した後、50℃で2時間、熟成、乾燥し、20℃の空気を10分間吹き付けて冷却し、粉砕して、無水物換算でトレハロースを99.3%、D−グルコースを0.3%、4−O−α−グルコシルトレハロースを0.07%、及び、6−O−α−グルコシルトレハロースを0.12%含有するトレハロース二含水結晶含有粉末を対澱粉収率約43%で得た。
本トレハロース二含水結晶含有粉末のトレハロース二含水結晶についての結晶化度は93.4%、平均結晶子径は3,210Å、粉末全体の還元力は0.4%であった。因みに、上記結晶化度の測定はハーマンス法にて行い、実験4−2で求めた解析値H100及びHを用いて行った。本品の粒度分布を測定したところ、粒径53μm以上425μm未満の粒子が77.9%、粒径53μm以上300μm未満の粒子が68.4%、及び、粒径425μm以上の粒子が8.8%含まれていた。本品を用い、実験2−2、実験3−2等と同じ方法により固結性試験を行ったところ、「固結なし」(−)と判定された。また、実験5と同じ方法により水への溶解性を試験したところ、溶解性「良」と判定された。
本例の製造方法によれば、トレハロース二含水結晶含有粉末を、約43%という高い対澱粉収率で製造することができる。また、本製造方法によって製造されたトレハロース二含水結晶含有粉末は、食品素材などとして市販されている従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハ』、株式会社林原販売)と比べて、トレハロース純度においてそれほどの違いがないにもかかわらず、従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末に比べて有意に固結し難い粉末であり、保存や取扱いが容易である。本品は、トレハロースの二含水結晶含有粉末である点では従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末と同様であり、保存や取り扱いが容易である分、食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、及び医薬品素材などとしてより好適に用いることができる。
<トレハロース二含水結晶含有粉末の製造>
原料澱粉としてタピオカ澱粉を用い、CGTaseとして実験1−2の方法で得たパエニバチルス・アミロリティカス NBRC15957株由来CGTaseを用いた以外は、実施例1と同様の方法によりトレハロース生成反応及びグルコアミラーゼ処理を行うことにより、トレハロース純度、すなわち無水物換算でのトレハロース含量が86.2%の反応液を得た。得られた反応液を加熱し酵素を失活させ、常法により活性炭で脱色濾過し、濾液をカチオン交換樹脂(H型)及びアニオン交換樹脂(OH型)にて脱塩し、減圧濃縮し、固形物濃度約86%の濃縮液とした。これを助晶缶にとり、試薬級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハロース 999』、コード番号:TH224、トレハロース純度99.9%以上、株式会社林原販売)を種晶として1%加えて60℃とし、次いで、このトレハロース含有溶液を、穏やかに撹拌しつつ60℃から50℃まで8時間、50℃から35℃まで8時間、35℃から15℃まで8時間かけて冷却する3段階の擬似制御冷却法にて計24時間で15℃まで冷却することにより、トレハロースの二含水結晶を晶析させた。バスケット型遠心分離機で結晶を回収し、結晶をマスキット重量に対し約5%の精製水でスプレーし洗浄した後、50℃で2時間、熟成、乾燥し、20℃の空気を20分間吹き付けて冷却し、粉砕して、無水物換算でトレハロースを99.2%、D−グルコースを0.07%、4−O−α−グルコシルトレハロースを0.04%、及び、6−O−α−グルコシルトレハロースを0.06%含有するトレハロース二含水結晶含有粉末を対澱粉収率約42%で得た。
本トレハロース二含水結晶含有粉末のトレハロース二含水結晶についての結晶化度は93.1%、平均結晶子径は3,160Å、粉末全体の還元力は0.15%であった。因みに、上記結晶化度の測定はハーマンス法にて行い、実験4−2で求めた解析値H100及びHを用いて行った。本品の粒度分布を測定したところ、粒径53μm以上425μm未満の粒子が78.8%、粒径53μm以上300μm未満の粒子が71.0%、及び、粒径425μm以上の粒子が8.4%含まれていた。本品を用い、実験2−2、実験3−2等と同じ方法により固結性試験を行ったところ、「固結なし」(−)と判定された。また、実験5と同じ方法により水への溶解性を試験したところ、溶解性「良」と判定された。
本例の製造方法によれば、トレハロース二含水結晶含有粉末を、約42%という高い対澱粉収率で製造することができる。また、本製造方法によって製造されたトレハロース二含水結晶含有粉末は、食品素材などとして市販されている従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハ』、株式会社林原販売)と比べて、トレハロース純度においてそれほどの違いがないにもかかわらず、従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末に比べて有意に固結し難い粉末であり、保存や取扱いが容易である。本品は、トレハロースの二含水結晶含有粉末である点では従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末と同様であり、保存や取り扱いが容易である分、食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、及び医薬品素材などとしてより好適に用いることができる。
<組換え型CGTase及び変異体CGTaseの調製とそれらを用いたトレハロース二含水結晶含有粉末の製造>
実施例2において用いたパエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株由来のCGTaseに替えて、同株由来のCGTase遺伝子を大腸菌を宿主として発現させて得た組換え型(野生型)CGTaseと、当該CGTase遺伝子に常法により部位特異的変異を導入し、コードされるアミノ酸配列におけるアミノ酸残基の1残基が他のアミノ酸残基に置換した変異体CGTase2種を調製し、トレハロース二含水結晶含有粉末の製造に用いた。
<組換え型CGTaseの調製>
本発明者らがパエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株からクローニングし保有している同株由来のCGTase遺伝子(配列表における配列番号7で示される塩基配列)を用い、そのコードするアミノ酸配列を変えることなく変異させて制限酵素部位などを導入又は欠失させた後、それを発現用プラスミドベクター「pRSET−A」(インビトロジェン社製)に組換え、天然型(野生型)CGTaseをコードする遺伝子を含む発現用組換えDNAを作成した。得られた組換えDNA「pRSET−iPI」を用いて常法により大腸菌BL21(DE3)(ストラタジーン社製)を形質転換し、同組換えDNAを保持する形質転換体「BL21−RSET−iPI」を取得した。次いで、当該形質転換体をアンピシリンNa塩100μl/mlを含むT培地(培地1L当り、バクト−トリプトン12g、バクト−イーストエキストラクト24g、グリセロール5ml、17mM リン酸一カリウム、72mM リン酸二カリウムを含有)を用いて37℃で24時間好気的に培養した。培養液を遠心分離して得た菌体を超音波破砕器(商品名『Ultra Sonic Homogenizer UH−600』、エムエステー株式会社製)を用いて破砕処理し、遠心分離により得た破砕液上清についてCGTase活性(澱粉分解活性)を測定し、培養液1ml当たりに換算したところ、約12.8単位/mlの酵素活性が得られた。破砕液上清を常法に従い硫安塩析、透析することにより組換え型CGTaseの粗酵素液を得た後、DEAE−トヨパール 650Sゲル(東ソー株式会社製)を用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー及びブチル−トヨパール 650Mゲル(東ソー株式会社製)を用いた疎水カラムクロマトグラフィーに供して精製し、組換え型CGTaseの部分精製標品とした。
<変異体CGTaseの調製>
上記パエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株由来の天然型(野生型)CGTase遺伝子に、常法により部位特異的変異を導入し、得られた変異CGTase遺伝子を大腸菌で発現させることにより、1アミノ酸置換変異体CGTaseを2種調製した。なお、当該CGTaseにアミノ酸置換を導入するに際しては、パエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株由来CGTaseのアミノ酸配列である配列表における配列番号1で示されるアミノ酸配列の、133番目のアスパラギン酸残基から138番目のヒスチジン残基(Asp133〜His138)、223番目のグリシン残基から231番目のヒスチジン残基(Gly223〜His231)、255番目のグルタミン酸残基から258番目のロイシン残基(Glu255〜Leu258)、321番目のフェニルアラニン残基から326番目のアスパラギン酸残基(Phe321〜Asp326)、すなわち、α−アミラーゼファミリーに分類される酵素群に共通して保存されている4つの保存領域と、259番目のグリシン残基から264番目のアスパラギン酸残基(Gly269〜Asp264)、331番目のリジン残基から337番目のアスパラギン残基(Lys331〜Asn337)、375番目のリジン残基から381番目のリジン残基(Lys375〜Lys381)、567番目のバリン残基から572番目のチロシン残基(Val567〜Tyr572)、すなわち、パエニバチルス属微生物由来CGTaseに特有の前述した(a)乃至(d)の部分アミノ酸配列へのアミノ酸置換変異は避け、これら以外の箇所から変異箇所を選択することとした。
配列表における配列番号1における178番目のグリシン残基をアルギニン残基に置換した変異体CGTase(G178R)と、454番目のチロシン残基をヒスチジン残基に置換した変異体CGTase(Y454H)の2種類を調製することにした。パエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株由来の天然型(野生型)CGTase遺伝子を保持する組換えDNA「pRSET−iPI」を鋳型に用い、配列表における配列番号8及び9でそれぞれ示される塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドをそれぞれセンスプライマー及びアンチセンスプライマーとして、市販の『QuickChange Site−Directed Mutagenesis Kit』(ストラタジーン社製)を用いて常法のPCR法、DpnI法にてCGTase遺伝子に部位特異的変異を導入することにより変異CGTase(G178R)をコードする組換えDNA「pRSET−iPI(G178R)」を得た。また、配列表における配列番号10及び11でそれぞれ示される塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドをそれぞれセンスプライマー及びアンチセンスプライマーとした以外は上記と同様にして変異CGTase(Y454H)をコードする組換えDNA「pRSET−iPI(Y454H)」を得た。
変異体CGTase遺伝子を保持する組換えDNA「pRSET−iPI(G178R)」及び「pRSET−iPI(Y454H)」をそれぞれ用いて常法により大腸菌BL21(DE3)(ストラタジーン社製)を形質転換し、それぞれの組換えDNAを保持する形質転換体「BL21−RSET−iPI(G178R)」及び「BL21−RSET−iPI(Y454H)」を取得した。これら形質転換体を上記「BL21−RSET−iPI」の場合と同様に培養し、菌体破砕した後、部分精製してそれぞれの変異体CGTaseの部分精製標品を得た。因みにそれぞれの菌体破砕液上清についてCGTase活性(澱粉分解活性)を測定し、培養液1ml当たりの酵素活性に換算したところ、「BL21−RSET−iPI(G178R)」では約10.3単位/ml、「BL21−RSET−iPI(Y454H)」では約13.7単位/mlであった。
<トレハロース二含水結晶含有粉末の製造>
上記で得た組換え型(野生型)CGTase、変異体CGTaseとしてのG178R(配列表における配列番号14で示されるアミノ酸配列を有するCGTase)、又は、Y454H(配列表における配列番号15で示されるアミノ酸配列を有するCGTase)を用いた以外は実施例2と同様の方法によりトレハロース二含水結晶含有粉末を製造した。それぞれのCGTaseを用いて得られた反応液中のトレハロース含量、得られたトレハロース二含水結晶含有粉末における糖組成、対澱粉収率、トレハロース二含水結晶についての結晶化度、平均結晶子径、粉末全体の還元力、粒度分布を測定するとともに、粉末を実験2−2、実験3−2等と同じ方法による固結性試験及び実験5と同じ方法による水への溶解性試験に供した。結果を表6にまとめた。
Figure 0005993674
表6に示すとおり、組換え型CGTaseや1アミノ酸置換変異体CGTaseを用いた場合であっても、酵素反応液中のトレハロース含量は天然型CGTaseの場合と同等の86.0%以上であり、同じ製造方法によれば、ほぼ同等のトレハロース二含水結晶含有粉末を、約42%〜43%という高い対澱粉収率で製造することができる。また、本製造方法によって製造されたトレハロース二含水結晶含有粉末は、実施例1乃至4において天然型CGTaseを用いて製造したトレハロース二含水結晶含有粉末と同様に、食品素材などとして市販されている従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハ』、株式会社林原販売)と比べて、トレハロース純度においてそれほどの違いがないにもかかわらず、従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末に比べて有意に固結し難い粉末であり、保存や取扱いが容易である。
<トレハロース二含水結晶含有粉末の製造>
トレハロース二含水結晶の晶析工程において、汎用の晶析システム用プログラム恒温循環装置を用い、温度制御した熱媒体を助晶缶のジャッケットに流して、温度を60℃から20℃へ、前記式[2]に近似させた20段階の冷却プロファイルにて24時間かけて冷却する制御冷却法を適用することにより、トレハロース二含水結晶を晶析させた以外は、実施例2と同様の方法によりトレハロース二含水結晶含有粉末を製造し、無水物換算でトレハロースを99.5%、D−グルコースを0.05%、4−O−α−グルコシルトレハロースを0.03%、及び、6−O−α−グルコシルトレハロースを0.05%含有するトレハロース二含水結晶含有粉末を対澱粉収率約44%で得た。
本トレハロース二含水結晶含有粉末のトレハロース二含水結晶についての結晶化度は95.6%、平均結晶子径は3,480Å、粉末全体の還元力は0.14%であった。因みに、上記結晶化度の測定はハーマンス法にて行い、実験4−2で求めた解析値H100及びHを用いて行った。本品の粒度分布を測定したところ、粒径53μm以上425μm未満の粒子が82.1%、粒径53μm以上300μm未満の粒子が77.4%、及び、粒径425μm以上の粒子が8.1%含まれていた。本品を用い、実験2−2、実験3−2等と同じ方法により固結性試験を行ったところ、「固結なし」(−)と判定された。また、実験5と同じ方法により水への溶解性を試験したところ、溶解性「良」と判定された。
本例の製造方法によれば、トレハロース二含水結晶含有粉末を、約44%という高い対澱粉収率で製造することができる。また、本製造方法によって製造されたトレハロース二含水結晶含有粉末は、食品素材などとして市販されている従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハ』、株式会社林原販売)と比べて、トレハロース純度においてそれほどの違いがないにもかかわらず、従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末に比べて有意に固結し難い粉末であり、保存や取扱いが容易である。本品は、トレハロースの二含水結晶含有粉末である点では従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末と同様であり、保存や取り扱いが容易である分、食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、及び医薬品素材などとしてより好適に用いることができる。
比較例
<トレハロース二含水結晶含有粉末の製造>
CGTaseとして、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス Tc−91株由来のCGTase酵素剤(株式会社林原製)を用いた以外は実施例1におけると同様にしてトレハロース生成反応及びグルコアミラーゼ処理を行ったところ、グルコアミラーゼ処理後の反応液における無水物換算でのトレハロース含量は82.2%であった。この反応液を、常法により活性炭で脱色濾過し、濾液をカチオン交換樹脂(H型)及びアニオン交換樹脂(OH型)にて脱塩し、減圧濃縮し、固形物濃度約84%の濃縮液とした。これを助晶缶にとり、試薬級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハロース 999』、コード番号:TH224、トレハロース純度99.9%以上、株式会社林原販売)を種晶として1%加えて55℃とした。次いで、このトレハロース含有溶液を、穏やかに撹拌しつつ55℃から15℃まで20時間かけて自然冷却することにより、トレハロースの二含水結晶を晶析させた。バスケット型遠心分離機で結晶を回収し、結晶をマスキット重量に対し約5%の精製水でスプレーし洗浄した後、50℃で2時間、熟成、乾燥し、20℃の空気を20分間吹き付けて冷却し、粉砕して、無水物換算でトレハロースを98.3%、D−グルコースを0.9%、4−O−α−グルコシルトレハロースを0.08%、及び、6−O−α−グルコシルトレハロースを0.12%含有するトレハロース二含水結晶含有粉末を得たものの、その対澱粉収率は約31%であった。
本トレハロース二含水結晶含有粉末のトレハロース二含水結晶についての結晶化度は84.8%、平均結晶子径は2,460Å、粉末全体の還元力は1.1%であった。因みに、上記結晶化度の測定はハーマンス法にて行い、実験4−2で求めた解析値H100及びHを用いて行った。本品の粒度分布を測定したところ、粒径53μm以上425μm未満の粒子が76.7%、粒径53μm以上300μm未満の粒子が68.8%、及び、粒径425μm以上の粒子が11.5%含まれていた。本品を用い、実験2−2、実験3−2等と同じ方法で固結性試験を行ったところ、「やや固結あり」(±)と判定された。また、実験5と同じ方法により水への溶解性を試験したところ、溶解性「良」と判断された。
<α−グリコシルトレハロース生成酵素変異体の調製>
本発明者らがスルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC33909株からクローニングし保有している天然型(野生型)α−グリコシルトレハロース生成酵素遺伝子に、常法により部位特異的変異を導入し、得られた変異α−グリコシルトレハロース生成酵素遺伝子を大腸菌で発現させることにより、1アミノ酸置換α−グリコシルトレハロース生成酵素変異体を4種調製した。
市販の『QuickChange Site−Directed Mutagenesis Kit』(ストラタジーン社製)を用いて常法のPCR法、DpnI法にてα−グリコシルトレハロース生成酵素遺伝子に部位特異的変異を導入することにより、配列表における配列番号1における192番目のアルギニン残基をアラニン残基に(R192A)、275番目のアスパラギン酸残基をアラニン残基に(D275A)、400番目のチロシン残基をセリン残基に(Y400S)、又は、402番目のアルギニン残基をセリン残基に(R402S)それぞれ置換したα−グリコシルトレハロース生成酵素変異体をコードする4種類の変異体遺伝子を調製した。
この変異体遺伝子をそれぞれ保持する組換えDNA「pRSET−iST(R192A)」、「pRSET−iST(D275A)」、「pRSET−iST(Y400S)」及び「pRSET−iST(R402S)」を用いて常法により大腸菌BL21(DE3)(ストラタジーン社製)を形質転換し、それぞれの組換えDNAを保持する形質転換体「BL21−RSET−iST(R192A)」、「BL21−RSET−iST(D275A)」、「BL21−RSET−iST(Y400S)」及び「BL21−RSET−iST(R402S)」を取得した。これら形質転換体をそれぞれアンピシリンNa塩100μl/mlを含むT培地(培地1L当り、バクト−トリプトン12g、バクト−イーストエキストラクト24g、グリセロール5ml、17mM リン酸一カリウム、72mM リン酸二カリウムを含有)を用いて37℃で24時間好気的に培養した。培養液を遠心分離して得た菌体を超音波破砕器(商品名『Ultra Sonic Homogenizer UH−600』、エムエステー株式会社製)を用いて破砕処理し、遠心分離により得た破砕液上清についてα−グリコシルトレハロース生成酵素活性を測定した。次いで、破砕液上清を常法に従い硫安塩析、透析することによりα−グリコシルトレハロース生成酵素変異体の粗酵素液を得た後、DEAE−トヨパール 650Sゲル(東ソー株式会社製)を用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー及びブチル−トヨパール 650Mゲル(東ソー株式会社製)を用いた疎水カラムクロマトグラフィーに供して精製し、α−グリコシルトレハロース生成酵素変異体の精製標品とした。
得られた4種類のα−グリコシルトレハロース生成酵素変異体について酵素活性及び基質特異性を調べたところ、酵素活性は天然型(野生型)酵素の40乃至80%に若干低下していたものの、基質特異性に大きな変化は認められなかった。これらα−グリコシルトレハロース生成酵素変異体は、本発明のトレハロースの製造方法において、天然型(野生型)酵素と同様に用いることができる。
以上のとおり、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法によれば、澱粉を原料として、従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末と同様に高純度で、かつ、固結し難いトレハロース二含水結晶含有粉末を、高い対澱粉収率で製造することができる。特に、トレハロース二含水結晶の晶析工程において制御冷却法又は擬似制御冷却法を適用する場合には、より高純度のトレハロース二含水結晶含有粉末を、より高い対澱粉収率で製造することができる。このように本発明の製造方法は、豊富に存在するとはいえ限られた資源である澱粉を原料として、より効率的にトレハロース二含水結晶含有粉末を工業的規模で製造することを可能にするものであり、その産業上の有用性には格別のものがある。また、制御冷却法又は擬似制御冷却法を適用する本発明の製造方法によって製造されるトレハロース二含水結晶含有粉末は、従来の食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末に比べ有意に固結し難い粉末であり、より取り扱いが容易な粉末状の食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、又は医薬品素材として、各種用途に使用することができるという優れた産業上の利用可能性を有している。斯くも顕著な作用効果を奏する本発明の産業上の有用性は極めて大きい。
図1において、
a:結晶子径の算出に用いる回折角(2θ)13.7°(ミラー指数(hkl):101)の回折ピーク
b:結晶子径の算出に用いる回折角(2θ)17.5°(ミラー指数:220)の回折ピーク
c:結晶子径の算出に用いる回折角(2θ)21.1°(ミラー指数:221)の回折ピーク
d:結晶子径の算出に用いる回折角(2θ)23.9°(ミラー指数:231)の回折ピーク
e:結晶子径の算出に用いる回折角(2θ)25.9°(ミラー指数:150)の回折ピーク
図5において、
a:制御冷却曲線
b:直線冷却
c:自然冷却曲線

Claims (4)

  1. 液化澱粉に、澱粉枝切酵素及びシクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼとともに、α−グリコシルトレハロース生成酵素とトレハロース遊離酵素を作用させ、次いで、グルコアミラーゼを作用させてα,α−トレハロース含有糖液を得る工程、前記糖液から、α,α−トレハロース二含水結晶を晶析させる工程、及び、晶析したα,α−トレハロース二含水結晶を遠心分離により採取し、これを熟成、乾燥する工程を含むα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法であって、α,α−トレハロース含有糖液を得る工程において、スルフォロブス属微生物由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素、及び、パエニバチルス属微生物由来シクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼを用いることによりカラムクロマトグラフィーによる分画工程を経ることなく、前記糖液中のα,α−トレハロース含量を無水物換算で86.0%超とし、且つ、前記α,α−トレハロース二含水結晶を晶析させる工程が制御冷却法又は擬似制御冷却法によって行われることを特徴とする、無水物換算でα,α−トレハロースを98.0質量%以上含有し、粉末X線回析プロフィルに基づき算出されるα,α−トレハロース二含水結晶についての結晶化度が90.0%以上であるα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法。
  2. 前記スルフォロブス属微生物が、スルフォロブス・アシドカルダリウス又はスルフォロブス・ソルファタリカスである請求項1記載のα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法。
  3. 前記スルフォロブス属微生物由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素が、組換え型酵素又は変異体酵素である請求項1又は2記載のα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法。
  4. 前記パエニバチルス属微生物由来シクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼが、組換え型酵素又は変異体酵素である請求項1乃至3のいずれかに記載のα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法。
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