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JP3725148B2 - マルトース・トレハロース変換酵素とその製造方法並びに用途 - Google Patents

マルトース・トレハロース変換酵素とその製造方法並びに用途 Download PDF

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JP3725148B2
JP3725148B2 JP2004223016A JP2004223016A JP3725148B2 JP 3725148 B2 JP3725148 B2 JP 3725148B2 JP 2004223016 A JP2004223016 A JP 2004223016A JP 2004223016 A JP2004223016 A JP 2004223016A JP 3725148 B2 JP3725148 B2 JP 3725148B2
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Description

本発明は、マルトース・トレハロース変換酵素とその製造方法並びに用途に関し、更に詳細には、マルトースをトレハロースに変換し、トレハロースをマルトースに変換する新規マルトース・トレハロース変換酵素とその製造方法、それを産生する微生物、並びに、このマルトース・トレハロース変換酵素を用いて製造されるトレハロース、又はこれを含む糖質、更には、これら糖質を含有せしめた組成物に関する。
グルコースを構成糖とする非還元性糖質として、古くからトレハロース(α,α−トレハロース)が知られており、その存在は、非特許文献1及び非特許文献2などにも記載されているように、少量ながら、微生物、きのこ、昆虫など広範囲に及んでいる。トレハロースは、非還元性糖質ゆえにアミノ酸や蛋白質等のアミノ基を有する物質とアミノカルボニル反応を起こさず、アミノ酸含有物質を損なわないことから、褐変、劣化を懸念することなく利用、加工できることが期待され、その工業的製造方法の確立が望まれている。
トレハロースの製造方法としては、例えば、特許文献1で報告されている微生物を用いる方法や、特許文献2で提案されているマルトース・ホスホリラーゼとトレハロース・ホスホリラーゼとの組合わせでマルトースを変換する方法などが知られている。しかしながら、微生物を用いる方法は、菌体を出発原料とし、これに含まれるトレハロースの含量が、通常、固形物当たり15質量%(以下、本明細書では、特にことわらない限り、質量%を%と略称する。)未満と低く、その上、これを抽出・精製する工程が煩雑で、工業的製造方法としては不適である。また、マルトース・ホスホリラーゼ及びトレハロース・ホスホリラーゼなどホスホリラーゼを用いる方法は、いずれもグルコースリン酸を経由しており、その基質濃度を高めることが困難であり、また、反応系が平衡反応で目的物の生成率が低く、更には、反応系を安定に維持して反応をスムーズに進行させることが困難であって、未だ、工業的製造方法として実現するに至っていない。
一方、澱粉を原料として製造される澱粉部分分解物、例えば、澱粉液化物、各種デキストリン、各種マルトオリゴ糖などは、通常、その分子の末端に還元基を有し、固形物当たりの還元力の大きさをデキストロース・エクイバレント(Dextrose Equivalent,DE)として表している。この値の大きいものは、一般的に、分子が小さく低粘度で、甘味が強いものの、反応性が強く、アミノ酸や蛋白質などのアミノ基を持つ物質とアミノカルボニル反応を起こし易く、褐変し、悪臭を発生して、品質を劣化し易い性質のあることが知られている。このような還元性澱粉部分分解物の種々の特性は、DEの大小に依存しており、澱粉部分分解物とDEとの関係は極めて重要である。従来、当業界では、この関係を断ち切ることは不可能とさえ信じられてきた。
これに関係して、非特許文献3の「オリゴ糖」の項において、「トレハロースについては著しく広い応用範囲が考えられるが、本糖の澱粉糖質からの直接糖転移、加水分解反応を用いた酵素的生産は、現在のところ学術的には不可能であるといわれている。」と記載されているように、澱粉を原料とし、酵素反応によってトレハロースを製造することは、従来、学術的にも不可能であると考えられてきた。
しかしながら、本発明者等は、当業界のこの常識を覆し、特許文献3及び特許文献4で開示したように、澱粉を原料として製造されるグルコース重合度が3以上の還元性澱粉部分分解物に、その末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質を生成する非還元性糖質生成酵素を作用させて該非還元性糖質を生成せしめ、次いで、これにグルコアミラーゼ、又はトレハロース遊離酵素を作用させることにより、還元性澱粉部分分解物からトレハロースを酵素的に生産することに成功している。しかしながら、この非還元性糖質生成酵素を用いるトレハロース製造方法では、グルコース重合度が3以上の比較的高分子の澱粉糖質を原料とするものであり、その粘度も比較的高く、酵素の種類も2種以上を必要とし、得られる反応物の糖組成も比較的複雑でトレハロース製造におけるコスト高が懸念される。そこで、澱粉から工業的に製造され、安定供給されているグルコース重合度2の澱粉部分分解物、マルトースをトレハロースに変換するトレハロースの新規製造方法の確立が望まれる。
特開昭50−154485号公報 特開昭58−216695号公報 特願平4−362131号明細書 特願平5−156338号明細書 『アドバンシズ・イン・カーボハイドレイト・ケミストリー(Advances in Carbohydrate Chemistry)』、第18巻、第201乃至225頁(1963年)アカデミック・プレス社(米国) 『アプライド・アンド・エンビロメンタル・マイクロバイオロジー(Applied and Environmental Microbiology)』、第56巻、第3213乃至3215頁(1990年) 『月刊フードケミカル』、8月号、第67乃至72頁、「澱粉利用開発の現状と課題」(1992年)
本発明は、澱粉から工業的に製造され、安定供給されているマルトースをトレハロースに変換するマルトース・トレハロース変換酵素と該酵素を利用したトレハロース、又は、これを含む糖質の新規製造方法並びにその用途を提供することである。
本発明者等は、上記課題を解決するためにマルトースからトレハロースを生成する全く新しい変換酵素を求めて、その酵素を産生する微生物を広く検索した。その結果、岡山県岡山市の土壌から分離したピメロバクター(Pimelobacter)属に属する新規な微生物R48、兵庫県西宮市の土壌から分離したシュードモナス(Pseudomonas)属に属する新規な微生物H262、並びに公知のサーマス(Thermus)属に属する微生物がマルトースをトレハロースに変換する新規マルトース・トレハロース変換酵素を産生することを見いだし、本酵素をマルトース含有溶液に作用させ得られるトレハロース及びこれを含む糖質の製造方法を確立し、併せて、これら糖質を含有せしめた飲食物、化粧品、医薬品などの組成物を確立して本発明を完成した。
本発明のマルトース・トレハロース変換酵素は、マルトースをトレハロースへ高変換率で転換する。従って、本発明の確立は、安価で無限の資源である澱粉に由来するマルトースから、トレハロースとこれを含む糖質を、工業的に大量かつ安価に供給する全く新しい道を拓くものである。
以下、本発明のピメロバクター属に属する微生物R48、並びにシュードモナス属に属する微生物H262の同定試験結果を示す。なお、同定試験は、『微生物の分類と同定』(長谷川武治編、学会出版センター、1985年)に準拠して行った。
<ピメロバクター・スピーシーズ R48の同定試験結果>
<A:細胞形態>
(1)肉汁寒天培養、27℃:
通常、0.5乃至0.9×1.5乃至4.0μmの桿菌。単独、希にV型の対をなし、連鎖した細胞も観察される。運動性なし。無胞子。非抗酸性。グラム陽性。
(2)酵母エキス・麦芽エキス寒天培養、27℃:
培養1日の細胞の大きさは、0.6乃至1.0×1.3乃至4.2μm、培養3日で0.6乃至1.0×1.0乃至2.5μmとなり、球菌に近い細胞もみられ、多形性が認められる。また、単独、希にV型の対をなし、連鎖した細胞も観察される。
<B:培養的性質>
(1)肉汁寒天平板培養、27℃
形状 :円形 大きさは24時間で0.5mm。3日で1.5乃至2mm。
周縁 :波状
隆起 :半レンズ状
光沢 :なし
表面 :しわ状
色調 :不透明、クリーム色。
(2)酵母エキス・麦芽エキス寒天平板培養、27℃
形状 :円形 大きさは3日で約1乃至1.5mm。
周縁 :波状
隆起 :半レンズ状
光沢 :なし
表面 :粗面
色調 :不透明、クリーム色。
(3)肉汁寒天斜面培養、27℃
生育度 :良好
形状 :糸状
(4)肉汁ゼラチン穿刺培養、27℃
:液化
<C 生理学的性質>
(1)硝酸塩の還元性 :陽性
(2)脱窒反応 :陰性
(3)メチルレッド試験 :陰性
(4)VP試験 :陰性
(5)インドールの生成 :陰性
(6)硫化水素の生成 :陽性
(7)澱粉の加水分解 :陰性
(8)クエン酸の利用 :陽性
(9)無機窒素源の利用 :アンモニウム塩及び硝酸塩ともに利用できる。
(10)色素の生成 :陰性
(11)ウレアーゼ :陰性
(12)オキシダーゼ :陰性
(13)カタラーゼ :陰性
(14)生育の範囲 :pH5乃至9、温度15乃至40℃。
(15)酸素に対する態度 :好気性
(16)炭素源の利用と酸生成の有無
利用性 酸生成能
D−グルコース 利用する 陰性
D−ガラクトース 利用しない 陰性
D−マンノース 利用する 陰性
D−フラクトース 利用する 陰性
L−アラビノース 利用する 陰性
D−キシロース 利用する 陰性
L−ラムノース 利用する 陰性
マルトース 利用する 陰性
スクロース 利用する 陰性
ラクトース 利用しない 陰性
トレハロース 利用する 陰性
ラフィノース 利用する 陰性
マンニトール 利用しない 陰性
デキストリン 利用する 陰性
ズルチトール 利用しない 陰性
(17)アミノ酸の脱炭酸試験:L−リジン、L−アルギニン、オルニチン、いずれに対しても陰性。
(18)アミノ酸の利用:L−グルタミン酸ナトリウム、L−アスパラギン酸ナトリウムいずれも利用する。
(19)DNase :陰性
(20)3−ケトラクトースの生成 :陰性
(21)DNAのG−C含量 :72%
(22)細胞壁の主要ジアミノ酸 :LL−ジアミノピメリン酸
以上の菌学的性質に基づいて、『バージーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bergey´s Manual of Systematic Bacteriology)』、第2巻(1986年)、及び、『ジャーナル・オブ・ジェネラル・アプライド・マイクロバイオロジー(Journal of General Applied Microbiology)』、第29巻、第59乃至71頁、(1983年)を参考にして、公知菌との異同を検討した。その結果、本菌は、ピメロバクター属に属する菌株で、新規マルトース・トレハロース変換酵素を産生する新規微生物であることが判明した。
これらの結果から、本発明者等は、本微生物をピメロバクター・スピーシーズ(Pimelobacter sp.)R48と命名し、平成5年6月3日付けで、茨城県つくば市東1丁目1番3号にある通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所、特許微生物寄託センターに寄託し、受託番号 FERM BP−4315として受託された。
<シュードモナス・プチダ H262の同定試験結果>
<A:細胞形態>
(1)肉汁寒天培養、27℃:
通常0.5〜0.7×1.0〜2.0μmの桿菌で胞子は形成しない。極鞭毛による運動性あり。グラム陰性。非抗酸性。
(2)酵母エキス・麦芽エキス寒天培養、27℃:
培養1日の細胞の大きさは、0.6〜0.8×2.0〜4.0μm
<B:培養的性質>
(1)肉汁寒天平板培養、27℃
形状 :円形、大きさは24時間で1〜2mm。3日で3.5〜4mm
周縁 :全縁
隆起 :半レンズ状
光沢 :湿光
表面 :平滑
色調 :不透明、白〜うすい黄色
(2)酵母エキス・麦芽エキス寒天平板培養、27℃
形状 :円形 大きさは3日で約4〜5mm
周縁 :全縁
隆起 :半レンズ状
光沢 :湿光
表面 :平滑
色調 :不透明、白〜クリーム色
(3)肉汁寒天斜面培養、27℃
生育度 :良好
形状 :糸状。隆起は薄く、表面は平滑で湿光、不透明でやや黄味がかったクリーム色
(4)肉汁ゼラチン穿刺培養、27℃
:液化しない
<C:生理学的性質>
(1)硝酸塩の還元性 :陽性(コハク酸培地)
(2)脱窒反応 :陰性
(3)メチルレッド試験 :陰性
(4)VP試験 :陰性
(5)インドールの生成 :陰性
(6)硫化水素の生成 :陰性
(7)澱粉の加水分解 :陰性
(8)ポリ−β−ヒドロキシブチレートの蓄積 :陰性
(9)プロカテク酸の分解 :オルト型
(10)クエン酸の利用 :陽性
(11)無機窒素源の利用 :アンモニウム塩及び硝酸塩ともに利用できる。
(12)色素の生成 :うすい黄色の色素生成
(13)蛍光性色素の生成 :陽性
(14)ウレアーゼ :陽性
(15)オキシダーゼ :陽性
(16)カタラーゼ :陽性
(17)生育の範囲 :pH5乃至9、温度10乃至37℃
(18)酸素に対する態度 :好気性
(19)炭素源の利用と酸生成の有無
利用性 酸生成能
D−グルコース 利用する 陰性
D−ガラクトース 利用しない 陰性
D−マンノース 利用する 陽性
D−フラクトース 利用する 陽性
L−アラビノース 利用する 陽性
D−キシロース 利用する 陽性
L−ラムノース 利用しない 陰性
マルトース 利用しない 陰性
スクロース 利用しない 陰性
ラクトース 利用しない 陰性
トレハロース 利用しない 陰性
ラフィノース 利用しない 陰性
マンニトール 利用しない 陰性
ソルビトール 利用しない 陰性
ズルチトール 利用しない 陰性
グリセロール 利用する 陽性
(20)アミノ酸の脱炭酸試験 :L−リジン、L−オルニチンに対して陰性。L−アルギニンに対して陽性。
(21)アミノ酸の利用 :L−グルタミン酸ナトリウム、L−アスパラギン酸ナトリウム、L−アルギニン、L−ヒスチジン、L−バリン、D−アラニンいずれも利用する。L−トリプトファンを利用しない。
(22)DNase :陰性
(23)3−ケトラクトースの生成 :陰性
(24)DNAのG−C含量 :63%
以上の菌学的性質に基づいて、『バージーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bergey´s Manual of Systematic Bacteriology)』、第1巻(1984年)を参考にして、公知菌との異同を検討した。その結果、本菌は、シュードモナス・プチダに属する菌株であることが判明した。
これらの結果から本発明者らは、本微生物をシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)H262と命名し、平成6年2月23日付けで、茨城県つくば市東1丁目1番3号にある通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所、特許微生物寄託センターに寄託し、受託番号、FERM BP−4579として受託された。
本発明では、上記菌株のみならず、ピメロパクター属及びシュードモナス属に属し、マルトース・トレハロース変換酵素産生能を有する他の菌株やこれらの変異株なども適宜使用することができる。
また、本発明に用いられる微生物としては、前記の新規微生物だけでなく、公知のサーマス(Thermus)属に属する微生物、例えば、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)ATCC25104、サーマス・アクアティカス ATCC27634、サーマス・アクアティカス ATCC33923、サーマス・フィリホルミス(Thermus filiformis)ATCC43280、サーマス・ルーバー(Thermus ruber)ATCC35948、サーマス・スピーシーズ(Thermus sp.)ATCC43814、及びサーマス・スピーシーズ ATCC43815なども有利に利用できる。
本発明の微生物の培養に用いる培地は、微生物が生育でき、本発明の酵素を産生するものであればよく、合成培地及び天然培地のいずれでもよい。炭素源としては、微生物が資化できる物であればよく、例えば、グルコース、フラクトース、糖蜜、トレハロース、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、澱粉部分分解物などの糖質、また、クエン酸、コハク酸などの有機酸又はそれらの塩なども使用することができる。培地におけるこれらの炭素源の濃度は炭素源の種類により適宜選択される。例えば、培養液のグルコースの濃度は、40w/v%以下が望ましく、微生物の生育及び増殖からは10w/v%以下が好ましい。窒素源としては、例えば、アンモニウム塩、硝酸塩などの無機窒素化合物及び、例えば、尿素、コーン・スティープ・リカー、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、肉エキスなどの有機窒素含有物が用いられる。また、無機成分としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩などが適宜用いられる。
培養は、微生物が生育し、本発明の酵素を産生する温度が適しており、通常、温度約4乃至80℃、好ましくは約20乃至75℃、pH約5乃至9、好ましくはpH約6乃至8.5から選ばれる条件で、好気的に行われる。培養時間は微生物が増殖し得る時間であればよく、好ましくは約10乃至100時間である。また、培養液の溶存酸素濃度には特に制限はないが、通常は、約0.5乃至20ppmが好ましい。そのために、通気量を調節したり、撹拌したり、酸素を使用したり、また、培養槽内の圧力を高めるなどの手段が採用される。また、培養方式は、回分培養又は連続培養のいずれでもよい。
このようにして、微生物を培養した後、得られる培養物から本発明の酵素を回収する。本酵素活性は、培養物の菌体外培養液及び菌体のいずれにも認められ、菌体外培養液及び菌体を粗酵素として回収すればよく、また、培養物全体を粗酵素として用いることもできる。菌体外培養液と菌体との分離には通常の固液分離手段が採用される。例えば、培養物そのものをそのまま遠心分離する手段、培養物に濾過助剤を加えたり、あるいは、プレコートすることにより濾過分離する手段、平膜、中空糸膜などを用いる膜濾過分離する手段などを適用し得る。菌体外培養液をそのまま粗酵素液として用いることができるが、好ましくは通常の手段で濃縮する。例えば、硫安塩析法、アセトン及びアルコール沈殿法、平膜、中空糸膜などを用いる膜濃縮法などが採用される。
菌体内酵素は、通常の手段を用いて菌体から抽出し、粗酵素液として用いることができる。例えば、超音波による破砕法、ガラスビーズ及びアルミナによる機械的破砕法、フレンチプレスによる破砕法などで菌体から酵素を抽出し、遠心分離又は膜濾過などで清澄な粗酵素液を得ることができる。
更に、菌体外培養液及びその濃縮物又は菌体抽出液は、通常の手段で固定化することもできる。例えば、イオン交換体への結合法、樹脂及び膜などとの共有結合・吸着法、高分子物質を用いた包括法などが採用される。また、培養物から分離した菌体をそのまま粗酵素として用いることができるが、固定化菌体として用いてもよい。一例として、これをアルギン酸ナトリウムと混合して、塩化カルシウム溶液中に滴下して粒状にゲル化させる。この粒状化菌体をさらにポリエチレンイミン、グルタルアルデヒドで処理した固定化酵素として用いてもよい。
粗酵素はそのまま用いてもよいが、通常の手段によって精製することもできる。一例として、菌体破砕抽出液を硫安塩析して濃縮した粗酵素標品を透析後、DEAE−トヨパール樹脂を用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、続いて、ブチルトヨパール樹脂を用いた疎水カラムクロマトグラフィー、モノQ HR5/5樹脂を用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、トヨパールHW−55樹脂を用いたゲル濾過カラムクロマトグラフィーなどを組合わせて電気泳動的に単一な酵素を得ることができる。
このようにして得られるマルトース・トレハロース変換酵素は、下記の理化学的性質を有する。
(1)作用
マルトースをトレハロースに変換し、トレハロースをマルトースに変換する。
(2)分子量
SDS−ゲル電気泳動法で、約57,000乃至120,000ダルトン。
(3)等電点
アンフォライン含有電気泳動法により、pI約3.8乃至5.1。
(4)活性阻害
1mMCu++、Hg++又は50mMトリス塩酸緩衝液で阻害を受ける。
(5)起源
微生物により産生された酵素である。
由来微生物の違いによる具体例を示せば次の通りである。
<ピメロバクター・スピーシーズ R48由来のマルトース・トレハロース変換酵素>
(1)作用
マルトースをトレハロースに変換し、トレハロースをマルトースに変換する。1モルのマルトース又はトレハロースからそれぞれ約1モルのトレハロース又はマルトースを生成する。
(2)分子量
SDS−ゲル電気泳動法で、約57,000乃至67,000ダルトン。
(3)等電点
アンフォライン含有電気泳動法で、pI約4.1乃至5.1。
(4)活性阻害
1mMCu++、Hg++又は50mMトリス塩酸緩衝液で阻害を受ける。
(5)至適温度
pH7.0、60分間反応で、20℃付近。
(6)至適pH
25℃、60分間反応で、約7.0乃至8.0。
(7)温度安定性
pH7.0、60分間保持で、30℃付近まで安定。
(8)pH安定性
20℃、60分間保持で、約6.0乃至9.0。
<シュードモナス・プチダ H262由来のマルトース・トレハロース変換酵素>
(1)作用
マルトースをトレハロースに変換し、トレハロースをマルトースに変換する。1モルのマルトース又はトレハロースからそれぞれ約1モルのトレハロース又はマルトースを生成する。
(2)分子量
SDS−ゲル電気泳動法で、約110,000乃至120,000ダルトン。
(3)等電点
アンフォライン含有電気泳動法で、pI約4.1乃至5.1。
(4)活性阻害
1mMCu++、Hg++又は50mMトリス塩酸緩衝液で阻害を受ける。
(5)至適温度
pH7.0、60分間反応で、37℃付近。
(6)至適pH
35℃、60分間反応で、約7.3乃至8.3。
(7)温度安定性
pH7.0、60分間保持で、40℃付近まで安定。
(8)pH安定性
35℃、60分間保持で、約6.0乃至9.5。
<サーマス・アクアティカス ATCC33923由来のマルトース・トレハロース変換酵素>
(1)作用
マルトースをトレハロースに変換し、トレハロースをマルトースに変換する。1モルのマルトース又はトレハロースからそれぞれ約1モルのトレハロース又はマルトースを生成する。
(2)分子量
SDS−ゲル電気泳動法で、約100,000乃至110,000ダルトン。
(3)等電点
アンフォライン含有電気泳動法で、pI約3.8乃至4.8。
(4)活性阻害
1mMCu++、Hg++又は50mMトリス塩酸緩衝液で阻害を受ける。
(5)至適温度
pH7.0、60分間反応で、65℃付近。
(6)至適pH
60℃、60分間反応で、約6.0乃至6.7。
(7)温度安定性
pH7.0、60分間保持で、80℃付近まで安定。
(8)pH安定性
60℃、60分間保持で、約5.5乃至9.5。
本発明のマルトース・トレハロース変換酵素の活性は次のようにして測定する。基質としてマルトース20w/v%(10mMリン酸塩緩衝液、pH7.0)1mlに酵素液1mlを加え、反応温度を25℃、35℃あるいは60℃とし、60分間反応させた後、100℃で10分間加熱して反応を停止させる。この反応液を正確に50mMリン酸塩緩衝液pH7.5で11倍に希釈し、その希釈液0.4mlにトレハラーゼ含有溶液(1単位/ml)を0.1ml添加したものを45℃、120分間インキュベートした後、この反応液中のグルコース量をグルコースオキシダーゼ法で定量する。対照として、予め100℃で10分間加熱することにより失活させた酵素液及びトレハラーゼを用いて同様に測定する。上記の測定方法を用いて、増加するグルコース量からマルトース・トレハロース変換酵素により生成するトレハロース量を求め、その活性1単位は、1分間に1μmoleのトレハロースを生成する酵素量と定義する。
なお、反応温度は、マルトース・トレハロース変換酵素が、ピメロバクター属に属する微生物由来の場合に25℃とし、シュードモナス属に属する微生物由来の場合に35℃とし、サーマス属に属する微生物由来の場合に60℃とした。
本発明のマルトース・トレハロース変換酵素は、マルトースをトレハロースに変換し、トレハロースをマルトースに変換できるので、基質は目的に適うものを選べばよい。トレハロースを製造しようとする目的のためには、マルトースを基質にすればよい。
マルトースとしては、本発明のマルトース・トレハロース変換酵素が作用してトレハロースを生成するものであればよく、一般的には、できるだけ高純度の、望ましくは純度70%以上のマルトース高含有物が用いられる。市販のマルトースを用いることも、また、常法に従って、澱粉を糖化して調製したマルトースを用いることも有利に実施できる。
マルトースを澱粉から調製する方法としては、例えば、特公昭56−11437号公報、特公昭56−17078号公報などに開示されている糊化又は液化澱粉にβ−アミラーゼを作用させ、生成するマルトースを高分子デキストリンから分離し、マルトース高含有物を採取する方法、又は、例えば、特公昭47−13089号公報、特公昭54−3938号公報に開示されている糊化、又は液化澱粉にβ−アミラーゼとともにイソアミラーゼ、プルラナーゼなどの澱粉枝切酵素を作用させてマルトース高含有物を採取する方法などがある。
更に、これら方法で得られるマルトース高含有物に含まれるマルトトリオースなどの夾雑糖類に、例えば、特公昭56−28153号公報、特公昭57−3356号公報、特公昭56−28154号公報などに開示されている酵素を作用させてマルトース含量を高めるか、更には、例えば、特開昭58−23799号公報などに開示されている塩型強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにより、夾雑糖類を除去するなどの方法によりマルトース含量を更に高めることも好都合である。
本発明の基質濃度は特に限定されない。例えば、基質溶液としてマルトースを0.1%で用いた場合でも、50%で用いた場合でも、本酵素の反応は進行し、トレハロースを生成する。また、基質溶液中に完全に溶けきれない基質を含有する高濃度溶液であってもよい。反応温度は酵素が失活しない温度、すなわち80℃付近までで行えばよいが、好ましくは約0乃至70℃の範囲を用いる。反応pHは、通常、約5.5乃至9.0の範囲に調整すればよいが、好ましくはpH約6.0乃至8.5の範囲に調整する。反応時間は、酵素反応の進行具合により適宜選択すればよく、通常、基質固形物グラム当たり約0.1乃至100単位の酵素使用量で0.1乃至100時間程度である。
このようにして得られる反応液は、基質マルトースからのトレハロースへの変換率が高く、最大で約70乃至85%にも達することが判明した。
反応液は、常法により、瀘過、遠心分離などして不溶物を除去した後、活性炭で脱色、H型、OH型イオン交換樹脂で脱塩し、濃縮し、シラップ状製品とすることも、乾燥して粉末状製品にすることも、更には結晶製品にすることも随意である。
必要ならば、更に、高度な精製をすることも随意である。例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィーによる分画、活性炭カラムクロマトグラフィーによる分画、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分画、アルカリ処理による還元性糖質の分解除去などの方法で精製することにより、高純度のトレハロース製品を得ることも容易である。また、カラムクロマトグラフィーなどにより分離し得られるマルトースを、再び、本発明のマルトース・トレハロース変換酵素の基質に用いてトレハロースへの変換反応を行うことも有利に実施できる。
このようにして得られた本発明のトレハロース含有糖質を、必要により、グルコアミラーゼ、α−グルコシダーゼなどで加水分解したり、澱粉部分分解物などを加え、シクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼやグルコシルトランスフェラーゼなどで糖転移したりして、甘味性、還元力、粘性などを調整することも、また、アルカリ処理して還元性糖質を分解除去したり、酵母により還元性糖質を発酵除去すること、更には、水素添加して還元性糖質を糖アルコールにして還元力を消滅せしめることなどの更なる加工処理を施すことも随意である。これを、前述の精製方法、例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィーなどにより、グルコースを除去し、トレハロース高含有画分を採取し、これを精製、濃縮して、シラップ状製品を得ることも、更に濃縮して過飽和にし、晶出させてトレハロース含水結晶又は無水結晶トレハロースを得ることも有利に実施できる。
イオン交換カラムクロマトグラフィーとしては、特開昭58−23799号公報、特開昭58−72598号公報などに開示されている塩型強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにより、夾雑糖類を除去してトレハロース高含有画分を採取する方法が有利に実施できる。この際、固定床方式、移動床方式、擬似移動床方式のいずれの方式を採用することも随意である。
トレハロース含水結晶を製造するには、例えば、純度60%以上、濃度65乃至90%のトレハロース含有液を助晶機にとり、必要に応じて、約0.1乃至20%の種晶共存下で、温度95℃以下、望ましくは、10乃至90℃の範囲で、撹拌しつつ徐冷し、トレハロース含水結晶を含有するマスキットを製造する。また、減圧濃縮しながら晶析させる連続晶析法を採用することも有利に実施できる。マスキットからトレハロース含水結晶又はこれを含有する含蜜結晶を製造する方法は、例えば、分蜜方法、ブロック粉砕方法、流動造粒方法、噴霧乾燥方法など公知の方法を採用すればよい。
分蜜方法の場合には、通常、マスキットをバスケット型遠心分離機にかけ、トレハロース含水結晶と蜜(母液)とを分離し、必要により、該結晶に少量の冷水をスプレーして洗浄することも容易な方法であり、より高純度のトレハロース含水結晶を製造するのに好適である。
噴霧乾燥方法の場合には、通常、濃度約60乃至85%、晶出率20乃至60%程度のマスキットを高圧ポンプでノズルから噴霧し、結晶粉末が溶解しない温度、例えば、約60乃至100℃の熱風で乾燥し、次いで30乃至60℃程度の温風で約1乃至20時間熟成すれば非吸湿性又は難吸湿性の含蜜結晶が容易に製造できる。
また、ブロック粉砕方法の場合には、通常、水分約10乃至25%、晶出率10乃至60%程度のマスキットを数時間乃至3日間程度静置して全体をブロック状に晶出固化させ、これを粉砕又は切削などの方法によって粉末化し乾燥すれば、非吸湿性又は難吸湿性の含蜜結晶が容易に製造できる。
また、無水結晶トレハロースを製造するには、トレハロース含水結晶を乾燥して変換生成させることもできるが、一般的には、水分10%未満の高濃度トレハロース高含有溶液を助晶機にとり、種晶共存下で50乃至160℃、望ましくは80乃至140℃の範囲で撹拌しつつ無水結晶トレハロースを含有するマスキットを製造し、これを比較的高温乾燥条件下で、例えば、ブロック粉砕方法、流動造粒方法、噴霧乾燥方法、押し出し造粒方法などの方法で晶出、粉末化して製造される。
このようにして製造される本発明のトレハロースは、還元力がなく、安定であり、他の素材、特にアミノ酸、オリゴペプチド、蛋白質などのアミノ酸又はアミノ基を含有する物質と混合、加工しても、褐変することも、異臭を発生することも、混合した他の素材を損なうことも少ない。また、それ自身が良質で上品な甘味を有している。更に、トレハロースは、体内のトレハラーゼにより容易にグルコースに分解されることから、経口摂取した場合、容易に消化吸収され、カロリー源として利用される。また、虫歯誘発菌などによって、醗酵されにくく、虫歯を起こしにくい甘味料としても利用できる。
また、安定な甘味料であることより、結晶製品の場合には、プルラン、ヒドロキシエチルスターチ、ポリビニルピロリドンなどの結合剤と併用して錠剤の糖衣剤として利用することも有利に実施できる。また、浸透圧調節性、賦形性、照り付与性、保湿性、粘性、他糖の晶出防止性、難醗酵性、澱粉の老化防止性などの性質も具備している。
従って、本発明のトレハロース及びこれを含む糖質は、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして飲食物、嗜好物、飼料、化粧品、医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。
本発明のトレハロース及びこれを含む糖質は、そのまま甘味付けのための調味料として使用することができる。必要ならば、例えば、粉飴、ブドウ糖、マルトース、蔗糖、異性化糖、蜂蜜、メイプルシュガー、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、ジヒドロカルコン、ステビオシド、α−グリコシルステビオシド、レバウディオシド、グリチルリチン、L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル、サッカリン、グリシン、アラニンなどのような他の甘味料の1種又は2種以上の適量と混合して使用してもよく、また必要ならば、デキストリン、澱粉、乳糖などのような増量剤と混合して使用することもできる。
また、本発明のトレハロース及びこれを含む糖質の粉末乃至結晶状製品は、そのままで、又は必要に応じて、増量剤、賦形剤、結合剤などと混合して、顆粒、球状、短棒状、板状、立方体、錠剤など各種形状に成型して使用することも随意である。
また、本発明のトレハロース及びこれを含む糖質の甘味は、酸味、塩から味、渋味、旨味、苦味などの他の呈味を有する各種物質とよく調和し、耐酸性、耐熱性も大きいので、一般の飲食物の甘味付け、呈味改良に、また品質改良などに有利に利用できる。
例えば、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、たくあん漬の素、白菜漬の素、焼肉のタレ、カレールウ、シチューの素、スープの素、ダシの素、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルシュガー、コーヒーシュガーなど各種調味料として有利に使用できる。
また、例えば、せんべい、あられ、おこし、餅類、まんじゅう、ういろう、あん類、羊羮、水羊羮、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉などの各種和菓子、パン、ビスケット、クラッカー、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンデーなどの洋菓子、アイスクリーム、シャーベットなどの氷菓、果実のシロップ漬、氷蜜などのシロップ類、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト、スプレッドなどのペースト類、ジャム、マーマレード、シロップ漬、糖果などの果実、野菜の加工食品類、福神漬、べったら漬、千枚漬、らっきょう漬などの漬物類、ハム、ソーセージなどの畜肉製品類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、天ぷらなどの魚肉製品、ウニ、イカの塩辛、酢こんぶ、さきするめ、ふぐみりん干しなどの各種珍味類、のり、山菜、するめ、小魚、貝などで製造されるつくだ煮類、煮豆、ポテトサラダ、こんぶ巻などの惣菜食品、乳飲料、ヨーグルト、チーズなどの乳製品、魚肉、畜肉、果実、野菜のビン詰、缶詰類、清酒、合成酒、リキュール、洋酒などの酒類、紅茶、コーヒー、ココア、ジュース、炭酸飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料などの清涼飲料水、プリンミックス、ホットケーキミックス、即席しるこ、即席スープなどの即席食品、更には、離乳食、治療食、ドリンク剤などの各種飲食物への甘味付けに呈味改良に、また、品質改良などに有利に利用できる。
また、家畜、家禽、その他蜜蜂、蚕、魚などの飼育動物のために飼料、餌料などの嗜好性を向上させる目的で使用することもできる。その他、タバコ、練歯磨、口紅、リップクリーム、内服液、錠剤、トローチ、肝油ドロップ、口中清涼剤、口中香剤、うがい剤など各種固形物、ペースト状、液状などで嗜好物、化粧品、医薬品などの各種組成物への甘味剤として、又は呈味改良剤、矯味剤として、更には、品質改良剤として有利に利用できる。
品質改良剤、安定剤としては、有効成分、活性などを失い易い各種生理活性物質又はこれを含む健康食品、医薬品などに有利に適応できる。例えば、インターフェロン−α、インターフェロン−β、インターフェロン−γ、ツモア・ネクロシス・ファクター−α、ツモア・ネクロシス・ファクター−β、マクロファージ遊走阻止因子、コロニー刺激因子、トランスファーファクター、インターロイキン2などのリンホカイン含有液、インシュリン、成長ホルモン、プロラクチン、エリトロポエチン、卵細胞刺激ホルモン、胎盤ホルモンなどのホルモン含有液、BCGワクチン、日本脳炎ワクチン、はしかワクチン、ポリオ生ワクチン、痘苗、破傷風トキソイド、ハブ抗毒素、ヒト免疫グロブリンなどの生物製剤含有液、ペニシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、ストレプトマイシン、硫酸カナマイシンなどの抗生物質含有液、チアミン、リボフラビン、L−アスコルビン酸、肝油、カロチノイド、エルゴステロール、トコフェロールなどのビタミン含有液、リパーゼ、エラスターゼ、ウロキナーゼ、プロテアーゼ、β−アミラーゼ、イソアミラーゼ、グルカナーゼ、ラクターゼなどの酵素含有液、薬用人参エキス、スッポンエキス、クロレラエキス、アロエエキス、プロポリスエキスなどのエキス類、ウイルス、乳酸菌、酵母などの生菌、ロイヤルゼリーなどの各種生理活性物質も、その有効成分、活性を失うことなく、安定で高品質の健康食品や医薬品などを容易に製造できる。
以上述べたような各種組成物にトレハロース及びこれを含む糖質を含有せしめる方法は、その製品が完成するまでの工程で含有せしめればよく、例えば、混和、溶解、融解、浸漬、浸透、散布、塗布、被覆、噴霧、注入、晶出、固化など公知の方法が適宜選ばれる。その量は、通常、0.1%以上、望ましくは、1%以上含有せしめるのが好適である。次に実験により本発明をさらに具体的に説明する。
<実験1:酵素の生産>
グルコース2.0w/v%、ポリペプトン0.5w/v%、酵母エキス0.1w/v%、リン酸二カリウム0.1w/v%、リン酸一ナトリウム0.06w/v%、硫酸マグネシウム・7水塩0.05w/v%、炭酸カルシウム0.5w/v%、及び水からなる液体培地を、500ml容三角フラスコに100mlずつ入れ、オートクレーブで115℃、30分間滅菌し、冷却して、ピメロバクター・スピーシーズ R48(FERM BP−4315)を接種し、27℃、200rpmで24時間回転振盪培養したものを種培養とした。
容量30lのファーメンターに種培養の場合と同組成の培地を約20l入れて、加熱滅菌、冷却して温度27℃とした後、種培養液1v/v%を接種し、温度27℃、pH6.0乃至8.0に保ちつつ、約40時間通気撹拌培養した。
培養液のマルトース・トレハロース変換酵素活性は、0.55単位/mlであった。培養液の一部を採り、遠心分離して菌体と培養液上清とに分離し、更に菌体を50mMリン酸塩緩衝液(pH7.0)に懸濁し、元の培養液と同じ液量とした後、菌体懸濁液と培養液上清のマルトース・トレハロース変換酵素活性を測定したところ、菌体懸濁液には、0.5単位/mlの活性が、培養液上清には、0.05単位/mlの活性が認められた。なお、本酵素の活性は、反応温度を25℃にして測定した。
<実験2:酵素の精製>
実験1で得た培養液を遠心分離して湿質量約0.5kgの菌体を回収し、これを10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この菌体懸濁液約5lをヴィブローゲン セルミル(エドモンドビューラー社製)にかけ、菌体を破砕し、この破砕処理液を遠心分離(15,000G、30分間)することにより、約4.5lの上清を得た。その上清液に飽和度0.3になるように硫安を加え溶解させ、4℃、4時間放置した後、遠心分離することにより上清を回収した。
更に、その液に飽和度0.8になるように硫安を加え溶解させ、4℃、一夜放置した後、遠心分離することにより硫安塩析物を回収した。
得られた硫安塩析物を10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解させた後、同じ緩衝液に対して24時間透析し、遠心分離して不溶物を除いた。その透析液(400ml)を2回に分けて、DEAE−トヨパールゲル(東ソー株式会社製)を用いたイオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル量300ml)を行った。
本発明のマルトース・トレハロース変換酵素はDEAE−トヨパールゲルに吸着し、食塩を含む同緩衝液でカラムから溶出した。溶出した酵素活性画分を回収した後、1M硫安を含む同緩衝液に対して透析し、その透析液を遠心分離して不溶物を除き、次に、ブチルトヨパール 650ゲル(東ソー株式会社製)を用いた疎水カラムクロマトグラフィー(ゲル量300ml)を行った。吸着したマルトース・トレハロース変換酵素を硫安1Mから0Mのリニアグラジエントによりカラムより溶出させ、酵素活性画分を回収した。
続いて、モノQ HR5/5 カラム(スウエーデン国、ファルマシア・エルケイビー社製)を用いたイオン交換クロマトグラフィー(ゲル量10ml)を行い、溶出した酵素活性画分を回収した。精製の各ステップにおける酵素活性量、比活性、収率を表1に示す。
Figure 0003725148
精製した酵素標品を7.5%濃度ポリアクリルアミドを含むゲル電気泳動により酵素標品の純度を検定したところ、蛋白バンドは単一で純度の高い標品であった。
<実験3:酵素の性質>
実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素標品をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(ゲル濃度10%)に供し、同時に泳動した分子量マーカー(日本バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)と比較して本酵素の分子量を測定したところ、分子量約57,000乃至67,000ダルトンであった。
精製マルトース・トレハロース変換酵素標品を2%アンフォライン(スウェーデン国、ファルマシア・エルケイビー社製)含有等電点ポリアクリルアミドゲル電気泳動法に供し、泳動後、蛋白バンド及びゲルのpHを測定して本酵素の等電点を求めたところ、等電点はpI約4.1乃至5.1であった。
本酵素活性に及ぼす温度、pHの影響を活性測定方法に準じて調べた。結果を図1(温度の影響)、図2(pHの影響)に示した。酵素の至適温度は、pH7.0、60分間反応で20℃付近、至適pHは、25℃、60分間反応で約7.0乃至8.0であった。本酵素の温度安定性は、酵素溶液(50mMリン酸緩衝液、pH7.0)を各温度に60分間保持し、水冷した後、残存する酵素活性を測定することにより求めた。また、pH安定性は、本酵素を各pHの50mM緩衝液中で20℃、60分間保持した後、pHを7.0に調整し、残存する酵素活性を測定することにより求めた。それぞれの結果を図3(温度安定性)、図4(pH安定性)に示した。本酵素の温度安定性は30℃付近までであり、pH安定性は約6.0乃至9.0であった。なお、本酵素活性は、1mMCu++、Hg++又は50mMトリス塩酸緩衝液で阻害された。
<実験4:各種糖質への作用>
各種糖質を用いて、基質になりうるかどうかの試験をした。グルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、可溶性澱粉、アミロース(平均重合度18)、トレハロース、ネオトレハロース、ゲンチオビオース、コージビオース、イソマルトース、セロビオース、マルチトール、シュクロース、マルツロース、ツラノース、パラチノース、トレハルロース、あるいはラクトースの溶液、更に、α−グルコース・1−リン酸と等量のグルコース、又は、β−グルコース・1−リン酸と等量のグルコースとを含む溶液を調製した。
これらの溶液に、実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素を基質固形物グラム当たりそれぞれ2単位ずつ加え、基質濃度を5w/v%になるよう調整し、これを20℃、pH7.0で24時間作用させた。酵素反応前後の反応液をキーゼルゲル60(メルク社製、アルミプレート、20×20cm)を用いた薄層クロマトグラフィー(以下、TLCと略称する。)にかけ、それぞれの糖質に対する酵素作用の有無を確認した。TLCは展開溶媒に1−ブタノール:ピリジン:水=6:4:1(容積比)を用い、室温で1回展開した。発色は20%硫酸−メタノール溶液を噴霧し、110℃で10分間加熱しておこなった。結果を表2に示す。
Figure 0003725148
表2の結果から明かなように、本発明の酵素は、試験した多種の糖質のうち、マルトースとトレハロースにのみ作用し、その他の糖質、とりわけ、α−グルコース・1リン酸とグルコースとを含む系や、β−グルコース・1−リン酸とグルコースとを含む系に作用しないことから、従来知られているマルトース・ホスホリラーゼやトレハロース・ホスホリラーゼなどのホスホリラーゼとは違い、新規な酵素であることが判明した。
<実験5:マルトース又はトレハロースからの生成物>
最終濃度5%のマルトース水溶液に実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素を基質固形物グラム当たり2単位加え、20℃、pH7.0で24時間作用させた。酵素反応液の糖組成は、ガスクロマトグラフィー(以下、GLCと略称する。)で分析した。酵素反応液の一部を乾固し、ピリジンに溶解した後トリメチルシリル化したものを分析試料とした。ガスクロマトグラフ装置はGC−16A(株式会社島津製作所製)、カラムは2%シリコンOV−17/クロモゾルブW(ジー・エル・サイエンス株式会社製)を充填したステンレスカラム(3mmφ×2m)、キャリアーガスは窒素ガスを流量40ml/分で、カラムオーブン温度は160℃から320℃まで7.5℃/分の昇温速度で分析した。検出は水素炎イオン検出器を用いた。その結果を表3に示す。
Figure 0003725148
表3の結果から明かなように、反応生成物Xが多量に生成し、その保持時間が市販トレハロースのそれと一致していることが判明した。反応生成物Xを同定するために次の確認試験を行った。すなわち、前述のマルトースを基質とした酵素反応液を糖濃度2%になるよう20mM酢酸緩衝液,pH4.5で希釈し、この0.5mlにグルコアミラーゼ(生化学工業株式会社製)0.1単位を加え40℃で20時間反応させた。
また、同様に酵素反応液を糖濃度2%になるよう20mMリン酸緩衝液,pH7.0で希釈し、この0.5mlにトレハラーゼ0.5単位を加え40℃で20時間反応させた。マルトースを基質とした酵素反応液、そのグルコアミラーゼ処理液及びトレハラーゼ処理液をGLCで分析、比較したところ、グルコアミラーゼ処理によりマルトースは完全にグルコースに分解され、反応生成物Xは分解されずに残存していた。
一方、トレハラーゼ処理によりマルトースは残存していたが、反応生成物Xは完全にグルコースに分解された。グルコアミラーゼ及びトレハラーゼの反応特性を考慮すると、本発明の新規酵素によって生成するマルトースからのオリゴ糖はトレハロースであると判断される。
更に、トレハロースを基質として、マルトースの場合と同様の条件で精製酵素を作用させ、その反応液も同様にGLC分析したところ、本発明の酵素によってトレハロースからはマルトースが生成することが判明した。以上のGLC分析結果をまとめて表4に示す。
Figure 0003725148
表4の結果から明かなように、本発明の酵素は、マルトースをトレハロースに変換し、トレハロースをマルトースに変換する。その平衡点は、トレハロース側に片寄っており、マルトースからのトレハロースへの変換率が高く、約70%以上になることが判明した。
<実験6:トレハロース生成に及ぼすマルトース濃度の影響>
マルトース濃度を2.5%、5%、10%、20%あるいは40%で、温度20℃、pH7.0にて、実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素をマルトースグラム当たり2単位加えて反応させ、経時的に反応液を採取し、100℃で10分間加熱して酵素を失活させた。
この反応液の全糖量をアンスロン硫酸法で、還元糖量をソモギー・ネルソン法でグルコース換算で定量し、全糖量に対する還元糖量の割合を還元力として算出した。
また、この反応液を糖濃度約1%になるよう希釈し、少量限外濾過器モルカットII LGC(日本ミリポアリミテッド製)にて除蛋白を行い、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略称する。)にて糖組成を分析した。HPLCの装置はCCPDシステム(東ソー株式会社製)、分析カラムはYMC−pack PA−03(4.6mmφ×250mm、株式会社ワイエムシィー製)、溶離液はアセトニトリル:水=78:22(容積比)を流速1.2ml/minで、検出は示差屈折計で行った。それらの結果を表5に示す。
Figure 0003725148
表5の結果から明かなように、基質のマルトース濃度に関係なく、マルトースからのトレハロースへの変換反応はよく進行し、トレハロースへ約80%変換した。
<実験7:トレハロース生成に及ぼす温度の影響>
マルトース濃度20%で、pH7.0にして、実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素をマルトースグラム当たり2単位加えて、温度5℃、10℃、15℃、20℃あるいは25℃で反応させ、経時的に反応液を採取し、100℃で10分間加熱して酵素を失活させた。この酵素反応液を実験6と同様にして、HPLCにて糖組成を分析した。各温度、各時間でのトレハロース含量を表6に示す。
Figure 0003725148
表6の結果から明かなように、反応温度が高いほどトレハロース生成速度は高くなる傾向にあったが、温度5℃でもマルトースからのトレハロースへの変換反応はよく進行し、トレハロースへ約82%変換した。
<実験8:マルトースからのトレハロースの調製>
マルトース(株式会社林原生物化学研究所製)10質量部を水40質量部に溶解し、温度15℃、pH7.0にて、実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素をマルトースグラム当たり2単位加えて48時間反応させ、次いで100℃で10分間加熱して酵素を失活させた。本溶液には、トレハロースを固形物当たり約74%含有していた。本溶液を活性炭で脱色し、イオン交換樹脂(H型及びOH型)にて脱塩して精製し、濃度約78%に濃縮して、トレハロース含水結晶を種晶として固形物当たり0.1%添加し、室温に一夜放置したところ、結晶が析出した。得られたマスキットを分蜜し、結晶に少量の水をスプレーして結晶を洗浄し、純度99.8%の極めて高純度のトレハロース含水結晶約3.0質量部を得た。
<実験9:酵素の生産>
グルコース2.0w/v%、硫酸アンモニウム1.0w/v%、リン酸二カリウム0.1w/v%、リン酸一ナトリウム0.06w/v%、硫酸マグネシウム0.05w/v%、炭酸カルシウム0.3w/v%、及び水からなる液体培地を、500ml容三角フラスコに100mlずつ入れ、オートクレーブで115℃で、30分間滅菌し、冷却して、シュードモナス・プチダ H262(FERM BP−4579)を接種し、27℃、200rpmで24時間回転振とう培養したものを種培養とした。
容量30lのファーメンターに種培養の場合と同組成の培地を約20l入れて、加熱滅菌、冷却して温度27℃とした後、種培養液1v/v%を接種し、温度27℃、pH6.5乃至8.0に保ちつつ、約20時間通気撹拌培養した。
培養液のマルトース・トレハロース変換酵素活性は、0.12単位/mlであった。培養液の一部を採り、遠心分離して菌体と培養液上清とに分離し、更に菌体を50mMリン酸塩緩衝液(pH7.0)に懸濁し、元の培養液と同じ液量とした後、菌体懸濁液と培養液上清のマルトース・トレハロース変換酵素活性を測定したところ、菌体懸濁液には、0.11単位/mlの活性が、培養液上清には、0.01単位/mlの活性が認められた。なお、本酵素の活性は、反応温度を35℃にして測定した。
<実験10:酵素の精製>
実験9で得た培養液を遠心分離して湿質量約0.45kgの菌体を回収し、これを10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この菌体懸濁液約2lを超高圧菌体破砕装置ミニラボ(大日本製薬株式会社販売)で処理し、菌体を破砕し、この破砕処理液を遠心分離(15,000G、30分間)することにより、約1.7lの上清を得た。その上清液に飽和度0.7になるように硫安を加え溶解させ、4℃、一夜放置した後、遠心分離することにより硫安塩析物を回収した。
得られた硫安塩析物を10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解させた後、同じ緩衝液に対して24時間透析し、遠心分離して不溶物を除いた。その透析液(400ml)を2回に分けて、DEAE−トヨパールゲル(東ソー株式会社製)を用いたイオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル量300ml)を行った。
本発明のマルトース・トレハロース変換酵素はDEAE−トヨパールゲルに吸着し、食塩を含む同緩衝液でカラムから溶出した。溶出した酵素活性画分を回収した後、同緩衝液に対して透析し、再度、DEAE−トヨパールイオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル量80ml)を行った。吸着したマルトース・トレハロース変換酵素を食塩0.1Mから0.3Mのリニアグラジエントによりカラムより溶出させ、酵素活性画分を回収した。
続いて、トヨパール HW−55S(東ソー株式会社製造)を用いたゲル濾過クロマトグラフィー(ゲル量400ml)を行い、溶出した酵素活性画分を回収した。精製の各ステップにおける酵素活性量、比活性、収率を表7に示す。
Figure 0003725148
精製した酵素標品を7.5w/v%濃度ポリアクリルアミドを含むゲル電気泳動により酵素標品の純度を検定したところ、蛋白バンドは単一で純度の高い標品であった。
<実験11:酵素の性質>
実験10の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素標品をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(ゲル濃度7.5w/v%)に供し、同時に泳動した分子量マーカー(日本バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)と比較して本酵素の分子量を測定したところ、分子量約110,000乃至120,000ダルトンであった。
精製マルトース・トレハロース変換酵素標品を2w/v%アンフォライン(スウェーデン国、ファルマシア・エルケイビー社製)含有等電点ポリアクリルアミドゲル電気泳動法に供し、泳動後、蛋白バンド及びゲルのpHを測定して本酵素の等電点を求めたところ、等電点はpI約4.1乃至5.1であった。
本酵素活性に及ぼす温度、pHの影響を活性測定方法に準じて調べた。結果を図5(温度の影響)、図6(pHの影響)に示した。酵素の至適温度は、pH7.0、60分間反応で37℃付近、至適pHは、35℃、60分間反応で約7.3乃至8.3であった。本酵素の温度安定性は、酵素溶液(50mMリン酸緩衝液、pH7.0)を各温度に60分間保持し、水冷した後、残存する酵素活性を測定することにより求めた。また、pH安定性は、本酵素を各pHの50mM緩衝液中で35℃、60分間保持した後、pHを7.0に調整し、残存する酵素活性を測定することにより求めた。それぞれの結果を図7(温度安定性)、図8(pH安定性)に示した。本酵素の温度安定性は40℃付近までであり、pH安定性は約6.0乃至9.5であった。なお、本酵素活性は、1mMCu++、Hg++又は50mMトリス塩酸緩衝液で阻害された。
<実験12:各種糖質への作用>
反応温度を35℃とした以外は、実験4の方法に準じて、実験10で得たシュードモナス・プチダ H262の精製酵素を各種糖質に作用させて、基質になりうるかどうかの試験をした。その結果、シュードモナス・プチダ H262の酵素は、ピメロバクター・スピーシーズ R48の酵素と同様、マルトースとトレハロースにのみ作用しマルトースをトレハロースに変換し、トレハロースをマルトースに変換した。その平衡点は、トレハロース側に片寄っており、マルトースからのトレハロースへの変換率が高く、約70%になることが判明した。
<実験13:トレハロース生成に及ぼすマルトース濃度の影響>
マルトース濃度を5%、10%、20%あるいは30%で、温度35℃、pH7.0にて、実験10の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素をマルトースグラム当たり2単位加えて反応させ、経時的に反応液を採取し、100℃で10分間加熱して酵素を失活させた。
この反応液を用いて、実験6と同様に還元力及び糖組成を測定した。それらの結果を表8に示す。
Figure 0003725148
表8の結果から明らかなように、基質のマルトース濃度に関係なく、トレハロースを約70%生成した。
<実験14:マルトースからのトレハロースの調製>
マルトース(株式会社林原生物化学研究所販売)10質量部を水40質量部に溶解し、温度35℃、pH7.0にして、本発明の精製マルトース・トレハロース変換酵素をマルトースグラム当たり2単位加えて48時間反応させ、次いで100℃で10分間加熱して酵素を失活させた。本溶液には、トレハロースを固形物当たり約69%含有していた。本溶液を活性炭で脱色し、イオン交換樹脂(H型及びOH型)にて脱塩して精製し、濃度約78%に濃縮して、トレハロース含水結晶を種晶として固形物当たり0.1%添加し、室温に一夜放置したところ、結晶が析出した。得られたマスキットを分蜜し、結晶に少量の水をスプレーして結晶を洗浄し、純度99.7%の極めて高純度のトレハロース結晶約2.3質量部を得た。
<実験15:酵素の生産>
ポリペプトン0.5w/v%、酵母エキス0.1w/v%、硝酸ナトリウム0.07w/v%、リン酸二ナトリウム0.01w/v%、硫酸マグネシウム0.02w/v%、塩化カルシウム0.01w/v%及び水からなる液体培地を、pH7.5に調整した後、500ml容三角フラスコに100mlずつ入れ、オートクレーブで120℃で、20分間滅菌し、冷却して、サーマス・アクアティカス ATCC33923を接種し、60℃、200rpmで24時間回転振とう培養したものを種培養とした。
容量30lのファーメンター2基に種培養の場合と同組成の培地をそれぞれ約20l入れて、加熱滅菌、冷却して温度60℃とした後、種培養液1v/v%を接種し、温度60℃、pH6.5乃至8.0に保ちつつ、約20時間通気撹拌培養した。
培養液のマルトース・トレハロース変換酵素活性は0.35単位/mlであった。培養液の一部を採り、遠心分離して菌体と培養上清液とに分離し、更に菌体を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、元の培養液と同じ液量とした後、菌体懸濁液と培養上清液のマルトース・トレハロース変換酵素活性を測定したところ、菌体懸濁液には0.33単位/mlの酵素活性が、また、培養液上清には0.02単位/mlの酵素活性が認められた。なお、本酵素の活性は、反応温度を60℃にして測定した。
<実験16:酵素の精製>
実験15で得られた培養液を遠心分離して湿質量約0.28kgの菌体を回収し、これを10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この菌体懸濁液約1.9lを、超音波破砕機 モデルUS300(株式会社日本精機製作所製)で処理し、菌体を破砕した。この破砕処理液を遠心分離(15,000G、30分間)することにより、約1.8lの上清を得た。その上清に飽和度0.7になるように硫安を加え溶解させ、4℃、一夜放置した後、遠心分離機にかけ、硫安塩析物を回収した。
得られた硫安塩析物を10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解させた後、同じ緩衝液に対して24時間透析し、遠心分離して不溶物を除いた。その透析液(1560ml)を、DEAE−トヨパール650ゲル(東ソー株式会社製)を用いたイオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル量530ml)を3回に分けて行った。
本発明のマルトース・トレハロース変換酵素はDEAE−トヨパールゲルに吸着し、食塩を含む同緩衝液でカラムから溶出した。溶出した酵素活性画分を回収した後、1M硫安を含む同緩衝液に対して透析し、次に、ブチルトヨパール 650ゲル(東ソー株式会社製)を用いた疎水カラムクロマトグラフィー(ゲル量380ml)を行った。吸着したマルトース・トレハロース変換酵素を硫安1Mから0Mのリニアグラジエントによりカラムより溶出させ、酵素活性画分を回収した。
次に、トヨパール HW−55S(東ソー株式会社製)を用いたゲル濾過クロマトグラフィー(ゲル量380ml)を行い、溶出した酵素活性画分を回収した。
続いて、モノQ HR5/5 カラム(スウェーデン国、ファルマシア・エルケイビー社製)を用いたイオン交換クロマトグラフィー(ゲル量1.0ml)を行い、食塩0.1Mから0.35Mのリニアグラジエントにより溶出した酵素活性画分を回収した。精製の各ステップにおける酵素活性量、比活性、収率を表9に示す。
Figure 0003725148
精製した酵素標品を5w/v%濃度ポリアクリルアミドを含むゲル電気泳動により酵素標品の純度を検定したところ、蛋白バンドは単一で純度の高い標品であった。
<実験17:酵素の性質>
実験16の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素標品をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(ゲル濃度7.5w/v%)に供し、同時に泳動した分子量マーカー(日本バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)と比較して本酵素の分子量を測定したところ、分子量約100,000乃至110,000ダルトンであった。
精製マルトース・トレハロース変換酵素標品を2%w/vアンフォライン(スウェーデン国、ファルマシア・エルケイビー社製)含有等電点ポリアクリルアミドゲル電気泳動法に供し、泳動後、蛋白バンド及びゲルのpHを測定して本酵素の等電点を求めたところ、等電点はpI約3.8乃至4.8であった。
本酵素活性に及ぼす温度、pHの影響を活性測定方法に準じて調べた。結果を図9(温度の影響)、図10(pHの影響)に示した。酵素の至適温度は、pH7.0、60分間反応で65℃付近、至適pHは、60℃、60分間反応で6.0乃至6.7であった。本酵素の温度安定性は、酵素溶液(50mMリン酸緩衝液を含む、pH7.0)を各温度に60分間保持し、水冷した後、残存する酵素活性を測定することにより求めた。また、pH安定性は、本酵素を各pHの50mM緩衝液中で60℃、60分間保持した後、pHを7.0に調整し、残存する酵素活性を測定することにより求めた。それぞれの結果を図11(温度安定性)、図12(pH安定性)に示した。本酵素の温度安定性は約80℃付近までであり、pH安定性は5.5乃至9.5であった。なお、本酵素活性は、1mMCu++、Hg++又は50mMトリス塩酸緩衝液で阻害された。
<実験18:各種糖質への作用>
反応温度を50℃とした以外は、実験4の方法に準じて、実験16で得たサーマス・アクアティカス ATCC33923の精製酵素を各種糖質に作用させて、基質になりうるかどうかの試験をした。その結果、サーマス・アクアティカス ATCC33923の酵素はピメロバクター・スピーシーズ R48の酵素、あるいは、シュードモナス・プチダ H262の酵素と同様、マルトースとトレハロースにのみ作用しマルトースをトレハロースに変換し、トレハロースをマルトースに変換した。その平衡点は、トレハロース側に片寄っており、マルトースからトレハロースへの変換率が高く、70%以上になることが判明した。
<実験19 トレハロース生成に及ぼすマルトース濃度の影響>
マルトース濃度を2.5%、5%、10%、20%あるいは40%で、温度60℃、pH6.5にて、実験16の方法で得たサーマス・アクアティカス ATCC33923の精製マルトース・トレハロース変換酵素をマルトースグラム当たり2.5単位加えて反応させ、72時間目に反応液を採取し、100℃で30分間加熱して酵素を失活させた。この反応液を用いて、実験6と同様に還元力及び糖組成を測定した。その結果を表10に示した。
Figure 0003725148
表10の結果から明らかなように、基質のマルトース濃度に関係なく、トレハロースを約70%生成した。
<実験20:トレハロース生成に及ぼす温度の影響>
マルトース濃度20%で、pH6.5にして、実験16の方法で得たサーマス・アクアティカス ATCC33923の精製マルトース・トレハロース変換酵素をマルトースグラム当たり2.5単位加えて、温度40℃、50℃、60℃、あるいは70℃で反応させ、経時的に反応液を採取し、100℃で30分間加熱して酵素を失活させた。この反応液を実験6と同様にして、HPLCにて糖組成を分析した。各温度、各時間でのトレハロース含量を表11に示す。
Figure 0003725148
表11の結果から明らかなように、マルトースからのトレハロースへの変換率は反応温度が低いほど高く、40℃においてトレハロースへ約80%変換した。
<実験21:他の微生物からのマルトース・トレハロース変換酵素の生産とその性質>
公知微生物のうち、本発明のマルトース・トレハロース変換酵素産生能の確認された特定の微生物を、実験15の場合に準じて三角フラスコにて48時間培養した。培養液の酵素活性を調べた後、実験16の方法に準じて、培養液を破砕装置にかけ、その上清を透析して、部分精製酵素を得、実験17の方法に従って、その性質を調べた。結果を表12に示した。
Figure 0003725148
表12に示すこれらサーマス属に属する公知微生物由来の部分精製酵素を用いて、実験18の方法に従って、各種糖質への作用を調べたところ、サーマス・アクアティカス ATCC33923由来の酵素の場合と同様に、マルトースとトレハロースにのみ作用し、マルトースからトレハロースを生成することが判明した。
また、サーマス・ルーバー ATCC35948のマルトース・トレハロース変換酵素は、サーマス・アクアティカス ATCC33923の酵素に比し、その至適温度、安定温度は低かったが、他のサーマス属の酵素は、サーマス・アクアティカス ATCC33923の酵素とほぼ同じ性質を示し、耐熱性の高いことが判明した。
<実験22:マルトース・トレハロース変換酵素の部分アミノ酸配列>
実験2の方法で得られたピメロバクター・スピーシーズ R48由来の精製酵素標品、実験10の方法で得られたシュードモナス・プチダ H262由来の精製酵素標品及び実験16の方法で得られたサーマス・アクアティカス ATCC33923由来の精製酵素標品の一部を、それぞれ蒸留水に対して透析した後、蛋白量として約80μgをN末端アミノ酸配列分析用の試料とした。N末端アミノ酸配列は、プロテインシーケンサーモデル473A(アプライドバイオシステムズ社製造、米国)を用いて分析した。それぞれ得られたN末端配列を表13に示す。
Figure 0003725148
すなわち、ピメロバクター・スピーシーズ R48由来の酵素は配列表における配列番号1、シュードモナス・プチダ H262由来の酵素は配列表における配列番号2、及びサーマス・アクアティカス ATCC33923由来の酵素は配列表における配列番号3でそれぞれ示されるN末端アミノ酸配列を有していた。表13の結果から明かなように、ピメロバクター・スピーシーズ R48由来の酵素と、シュードモナス・プチダ H262由来の酵素及びサーマス・アクアティカス ATCC33923由来の酵素とは、相同性の極めて高い部分アミノ酸配列を有していることが判明した。すなわち、ピメロバクター属微生物由来酵素のN末端側から第10番目のトリプトファンから第16番目のフェニルアラニンまでの部分アミノ酸配列とシュードモナス属微生物由来酵素のN末端側から第3番目のトリプトファンから第9番目のフェニルアラニンまでの部分アミノ酸配列とは、相同性が高く、トリプトファン−X−アルギニン−X−アラニン−X−フェニルアラニン(但し、Xはフェニルアラニン又はプロリンを意味し、Xはトレオニン又はプロリンを意味し、Xはバリン又はアラニンを意味する。)で表すことができる。また、ピメロバクター属微生物由来酵素のN末端側から14番目のアラニンから17番目のチロシンまでの部分アミノ酸配列とサーマス属微生物由来酵素のN末端側から9番目のアラニンから12番目のチロシンまでの部分アミノ酸配列とは、相同性が高く、アラニン−バリン−X−チロシン(但し、Xはフェニルアラニン又はイソロイシンを意味する。)で表すことができる。
<実験23:調製したトレハロースの理化学的性質>
実験8の方法で調製したトレハロースの高純度標品を用いて理化学的性質を調べた。融点は97.0℃、比旋光度は[α]20D+199゜(c=5)、融解熱は57.8KJ/mole、溶解度は25℃の水に対し、無水物として77.0gであった。これらの物性値は、同時に測定した市販トレハロース含水結晶(和光純薬工業株式会社製)の値とよく一致した。
<実験24:生体内での利用試験>
厚治等が、『臨床栄養』、第41巻、第2号、第200乃至208頁(1972年)で報告している方法に準じて、実験8において調製した高純度トレハロース標品(純度99.8%)30gを20w/v%水溶液とし、これをボランティア3名(健康な26才、27才、30才の男性)にそれぞれ経口投与し、経時的に採血して、血糖値及びインスリン値を測定した。対照としては、グルコースを用いた。その結果、トレハロースは、グルコースの場合と同様の挙動を示し、血糖値、インスリン値ともに、投与後、約0.5乃至1時間で最大値を示した。トレハロースは、容易に消化吸収、代謝利用されて、エネルギー源になることが判明した。従って、本発明の方法で得られるトレハロース及びこれを含む糖質は、エネルギー補給用糖源として好適である。
<実験25:急性毒性試験>
マウスを使用して、実験8において調製した高純度トレハロース標品(純度99.8%)を経口投与して急性毒性試験を行った。その結果、トレハロースは低毒性の物質で、投与可能な最大投与量においても死亡例は認められなかった。従って、正確な値とはいえないが、そのLD50値は、50g/kg以上であった。
以下、本発明のマルトース・トレハロース変換酵素とそれを利用したトレハロースとこれを含む糖質の製造方法を実施例1乃至14で、トレハロースとこれを含む糖質を含有せしめた組成物を実施例15乃至37で示す。
ピメロバクター・スピーシーズ R48(FERM BP−4315)を、培地成分中のグルコース濃度を4.0w/v%とした以外は実験1と同じ培地組成で、実験1の方法に準じてファーメンターで約60時間、通気撹拌培養した。この培養液のマルトース・トレハロース変換酵素の活性は、培養液ml当たり0.75単位であった。また、その一部を遠心分離により、菌体と培養上清とに分離し、活性を測定したところ、菌体にその約65%が、培養上清に約35%の活性が検出された。この菌体を含む培養液約35lを、超高圧菌体破砕装置ミニラボ(大日本製薬株式会社製)で処理し、菌体を破砕した。この菌体破砕懸濁液を遠心分離機にかけ、その上清を回収し、更にその液をUF膜濃縮し、マルトース・トレハロース変換酵素をml当たり約15単位有する濃縮酵素液約1.2lを回収した。10%馬鈴薯澱粉乳(pH5.5)にα−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製、商品名スピターゼHS)を澱粉グラム当たり2単位加えて撹拌下、加熱糊化・液化させ、ただちにオートクレーブ(120℃)を20分間行った後、温度50℃、pH5.0に調整した。これにβ−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製)を澱粉グラム当たり20単位及びイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製)を澱粉グラム当たり500単位の割合になるように加え、24時間反応させ、マルトース含量約92%の糖液を得た。その反応液を100℃で20分間加熱した後、温度10℃、pH7.0に調整し、これに前記方法で調製したマルトース・トレハロース変換酵素を固形物グラム当たり1単位の割合になるよう加え、96時間反応させた。その反応液を95℃で10分間保った後、冷却し、常法に従って活性炭で脱色・濾過し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して濃度約70%のシラップを固形物収率約95%で得た。本品は、固形物当たりトレハロースを約69%含有していて還元力がDE18.2と低く、温和な甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、安定剤、賦形剤などとして各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
実施例1の方法で得たマルトース・トレハロース変換酵素反応停止液に、固形物当たり10単位のグルコアミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製、商品名グルコチーム)をpH5.0、50℃で24時間作用させ、次いで、加熱失活、脱色、脱塩精製して得られる糖液を原糖液とし、トレハロースの含量を高めるため、アルカリ金属型強酸性カチオン交換樹脂(XT−1016、Na型、架 橋度4%、東京有機化学工業株式会社製)を用いたイオン交換カラムクロマトグラフィーを行った。樹脂を内径5.4cmのジャケット付きステンレス製カラム4本に充填し、直列につなぎ、樹脂層全長20mとした。カラム内温度60℃に維持しつつ、糖液を樹脂に対して、5v/v%加え、これに60℃の温水をSV0.15で流して分画し、グルコースを除去し、トレハロース高含有画分を採取した。更に、精製、濃縮し、真空乾燥し、粉砕して、トレハロース高含有粉末を固形物当たり、約55%の収率で得た。本品は、トレハロースを約97%含有しており、極めて低い還元性、まろやかで上品な甘味を有し、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
実施例2の方法で得たトレハロース高含有画分を、常法に従って、活性炭で脱色し、イオン交換樹脂により脱塩して精製した溶液を濃度約70%に濃縮した後、助晶機にとり、種晶としてトレハロース含水結晶約2%を加えて徐冷し、晶出率約45%のマスキットを得た。本マスキットを乾燥塔上のノズルより150kg/cm2の高圧にて噴霧した。これと同時に85℃の熱風を乾燥塔の上部 より送風して底部に設けた移送金網コンベア上に捕集し、コンベアの下より45℃の温風を送りつつ、金網コンベア上に捕集した結晶粉末を乾燥塔外に徐々に移動させ取り出した。この取り出した結晶粉末を、熟成塔に充填して温風を送りつつ10時間熟成させ、結晶化と乾燥を完了し、トレハロース含水結晶粉末を原料のトレハロース高含有糖液に対して固形物当たり約90%の収率で得た。本品は、実質的に吸湿性を示さず、取扱いが容易であり、甘味料、呈味改良剤、安定剤などとして各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
実施例2の方法で得たトレハロース高含有画分を、実施例3と同様に精製し、次いで、蒸発釜にとり、減圧下で煮詰め、水分約3.0%のシラップとした。次いで、助晶機に移し、これに種晶として無水結晶トレハロースをシラップ固形物当たり1%加え、120℃で撹拌助晶し、次いで、アルミ製バットに取り出し、100℃で6時間晶出熟成させてブロックを調製した。次いで、本ブロックを切削機にて粉砕し、流動乾燥して、水分約0.3%の無水結晶トレハロース粉末を、原料のトレハロース高含有糖液に対して、固形物当たり約85%の収率で得た。本品は、食品、化粧品、医薬品、その原材料、又は加工中間物などの含水物の脱水剤としてのみならず、上品な甘味を有する白色粉末甘味料としても、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
ピメロバクター・スピーシーズ R48(FERM BP−4315)を実験1と同様の方法で培養し、さらに遠心分離して得た湿菌体100g(約800単位)を10mMリン酸緩衝液に溶解した2.5%アルギン酸ナトリウム(300乃至400cp、和光純薬工業株式会社製)100mlに混練した。この菌体を含むスラリーを、マグネティックスターラーで撹拌している0.1MCaCl溶液中に、水面より約20cmの高さから連続的に滴下し、直径2mm前後の球状のゲル化物を形成させた。このゲル化物をCaCl溶液中に室温で約2時間保った後、ブッフナーロート上で濾過して、アルギン酸固定化菌体を回収した。この固定化菌体を直径30mm、長さ200mmのジャケット付きガラスカラムに充填し、温度を20℃に保温した。この固定化菌体カラムにpH6.8のマルトース40%溶液をSV0.2にて下向流で通液し、トレハロース含量約70%の糖液を得た。本糖液を実施例1の方法に準じて、精製、濃縮して、濃度約70%のシラップを固形物収率約95%で得た。本品は、低還元性、温和な甘味、適度の保湿性を有し、実施例1の場合と同様に各種組成物に有利に利用できる。
33%とうもろこし澱粉乳に濃度0.1%となるように炭酸カルシウムを加えた後、pH6.5に調整し、これにα−アミラーゼ(ノボ社製、商品名ターマミール60L)を澱粉グラム当たり0.2%になるよう加え、95℃で15分間反応させた。その反応液をオートクレーブ(120℃)を30分間行った後、55℃に冷却し、これにイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製)を澱粉グラム当たり500単位及びβ−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製)を澱粉グラム当たり30単位の割合になるように加え、48時間反応させマルトース含量約84%の糖液を得た。その反応液を、100℃で10分間加熱し、次いで15℃に冷却し、実施例1の方法で調製したマルトース・トレハロース変換酵素を固形物グラム当たり1.5単位の割合になるよう加え、72時間反応させた。その反応液を100℃で15分間加熱して酵素を失活させた後、常法に従って活性炭で脱色・濾過し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して濃度約70%のシラップを固形物収率約95%で得た。本品は、固形物当たりトレハロースを約64%を含有しており、低還元性、温和な甘味、適度の粘度、保湿性を有し、実施例1の場合と同様に、各種組成物に有利に利用できる。
実施例5の方法で得たシラップを濃度約82%に濃縮して助晶機にとり、種晶約1%を混合した後、バットにとり、20℃で4日間静置して晶出固化させ、次いで切削機にて粉砕し、乾燥して含蜜型トレハロース含水結晶粉末を固形物収率約95%で得た。本品は、実質的に吸湿性を示さず、取扱いが容易であり、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤などとして、実施例1の場合と同様に、各種組成物に有利に利用できる。
実施例6の方法で得たシラップを濃度約80%に濃縮して助晶機にとり、種晶としてトレハロース含水結晶粉末約1%を加え、撹拌しつつ徐冷、晶出させた。次いで、バスケット型遠心分離機で分蜜し、結晶を少量の水でスプレーし、洗浄して高純度のトレハロース含水結晶を固形物収率約20%で得た。本品は、実験23と同様の理化学的性質を示し、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。更には、工業試薬、化学原料などに利用することも有利に実施できる。
シュードモナス・プチダ H262(FERM BP−4579)を、実験9の方法に準じてファーメンターで約20時間、通気撹拌培養した。この培養液約18lを遠心分離にかけ、湿質量約0.4kgの菌体を得た。これを4lの10mMリン酸緩衝液に懸濁し、超音波破砕機モデルUS300(株式会社日本精機製作所製)で処理し、菌体を破砕した。この菌体破砕懸濁液を遠心分離機にかけ、その上清を回収し、更にその液をUF膜濃縮し、マルトース・トレハロース変換酵素をml当たり3.8単位有する濃縮酵素液約400mlを回収した。10%馬鈴薯澱粉乳(pH5.5)にα−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製、商品名スピターゼHS)を澱粉グラム当たり2単位加えて撹拌下、加熱糊化・液化させ、ただちにオートクレーブ(120℃)を20分間行った後、温度50℃、pH5.5に調整した。これにプルラナーゼ(株式会社林原生物化学研究所製)を澱粉グラム当たり500単位及びβ−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製)を澱粉グラム当たり20単位の割合になるように加え、24時間反応させ、マルトース含量約92%の糖液を得た。その反応液を100℃で20分間加熱した後、温度40℃、pH7.0に調整し、これに前記方法で調製したマルトース・トレハロース変換酵素を固形物グラム当たり1.5単位の割合になるよう加え、72時間反応させた。その反応液を95℃で10分間保った後、冷却し、常法に従って活性炭で脱色・濾過し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して濃度約70%のシラップを固形物収率約97%で得た。本品は、固形物当たりトレハロースを約65%含有していて還元力がDE16.2と低く、温和な甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、安定剤、賦形剤などとして各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
実施例9の方法で得たマルトース・トレハロース変換酵素による反応終了液を95℃で10分間保って酵素を失活させた後、pH5.0、55℃に調整して、グルコアミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製、商品名グルコチーム)を固形物グラム当たり10単位加えて24時間反応させた。反応液を常法に従って、加熱して酵素を失活させ、脱色、脱塩して精製し、濃度55%に濃縮して糖液を得た。本糖液を原糖液とし、アルカリ土類金属型強酸性カチオン交換樹脂(ダウエックス99、Ca++型、架橋度6%、ダウケミカル社製)を用いて、実施例2と同様にカラムクロマトグラフィーにかけ、トレハロース高含有画分を採取した。更に、これを精製し、濃縮しながら連続晶析させ、得られるマスキットをバスケット型遠心分離機で分蜜し、結晶を少量の水でスプレーし洗浄して高純度のトレハロース含水結晶を固形物収率約25%で得た。本品は、実験23と同様の理化学的性質を示し、実施例8と同様に、各種飲食物、化粧品、医薬品などの各種組成物、更には、工業試薬、化学原料などに有利に利用できる。
シュードモナス・プチダ H262(FERM BP−4579)を実験9と同様の方法で培養し、さらに遠心分離して得た湿菌体100g(約400単位)を10mMリン酸緩衝液に溶解した2.5%アルギン酸ナトリウム(300〜400cp、和光純薬工業株式会社販売)100mlに混練した。この菌体を含むスラリーを、マグネティックスターラーで撹拌している0.1MCaCl溶液 中に、水面より約20cmの高さから連続的に滴下し、直径2mm前後の球状のゲル化物を形成させた。このゲル化物をCaCl溶液中に室温で約2時間保った後、ブッフナーロート上で濾過して、アルギン酸固定化菌体を回収した。この固定化菌体を直径30mm、長さ200mmのジャケット付きガラスカラムに充填し、温度を35℃に保温した。この固定化菌体カラムにpH6.8のマルトース40%溶液をSV0.1にて下向流で通液し、トレハロース含量67%の糖液を得た。本糖液を実施例9の方法に準じて、精製、濃縮し、これを助晶し、噴霧乾燥して含蜜型トレハロース含水結晶粉末を固形物収率約90%で得た。本品は、低還元性、温和な甘味、適度の保湿性を有し、実施例9の場合と同様に各種組成物に有利に利用できる。
サーマス・アクアティカス ATCC33923を、実験15の方法に準じてファーメンターで約20時間、通気撹拌培養した。この培養液のマルトース・トレハロース変換酵素の活性は、培養液ml当たり0.32単位であった。この培養液約18lから回収した湿質量0.18kgの菌体を10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この菌体懸濁液約1.5lを、超音波破砕装置で処理し、菌体を破砕した。この菌体破砕懸濁液を遠心分離機にかけ、その上清を回収し、更にその液をUF膜濃縮し、マルトース・トレハロース変換酵素をml当たり約10単位有する濃縮酵素液約500mlを回収した。15%とうもろこし澱粉乳(pH5.5)にα−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製、商品名スピターゼHS)を澱粉グラム当たり2単位加えて撹拌下、加熱糊化・液化させ、ただちにオートクレーブ(120℃)を20分間行った後、温度55℃、pH5.0に調整した。これにイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製)を澱粉グラム当たり300単位及びβ−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製)を澱粉グラム当たり20単位の割合になるように加え、24時間反応させ、マルトース含量約92%の糖液を得た。その反応液を100℃で20分間加熱した後、温度50℃、pH7.0に調整し、これに前記方法で調製したマルトース・トレハロース変換酵素を固形物グラム当たり1.5単位の割合になるよう加え、72時間反応させた。その反応液を95℃で10分間保った後、冷却し、常法に従って活性炭で脱色・濾過し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して濃度約70%のシラップを固形物収率約95%で得た。本品は、固形物当たりトレハロースを約64%含有していて還元力がDE18.0と低く、温和な甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、安定剤、賦形剤などとして各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
実施例12の方法で得たシラップを濃度約80%に濃縮して助晶機にとり、実施例8と同様に晶出、分蜜して高純度のトレハロース含水結晶を固形物収率約20%で得た。本品は、実験23と同様の理化学的性質を示し、実施例8と同様に、各種飲食物、化粧品、医薬品などの各種組成物、更には、工業試薬、工業原料、化学原料などに有利に利用できる。
サーマス・アクアティカス ATCC33923を実験15と同様の方法で培養し、さらに遠心分離して得た湿菌体50g(約1,500単位)を10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解した2.5%アルギン酸ナトリウム(300乃至400cp,和光純薬工業株式会社製)100mlに混練した。この菌体を含むスラリーを、マグネティックスターラーで撹拌している0.1MCaCl溶液中に、水面より約20cmの高さから連続的に滴下し、直径2mm前後の球状のゲル化物を形成させた。このゲル化物をCaCl溶液中に室温で約2時間保った後、ブッフナーロート上で濾過して、アルギン酸固定化菌体を回収した。この固定化菌体を直径30mm、長さ200mmのジャケット付きガラスカラムに充填し、温度を60℃に保温した。この固定化菌体カラムにpH6.5のマルトース40%溶液をSV0.2にて下向流で通液し、トレハロース含量約66%の糖液を得た。本糖液を常法に従って、精製、濃縮し、噴霧乾燥してトレハロース含有粉末を固形物収率約90%で得た。本品は、低還元性で、温和な甘味を有し、実施例12の場合と同様に各種組成物に有利に利用できる。
<甘味料>
実施例8の方法で得たトレハロース含水結晶粉末1質量部に、α−グリコシルステビオシド(東洋精糖株式会社製、商品名αGスイート)0.01質量部及びL−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル(商品名アスパルテーム)0.01質量部を均一に混合し、顆粒成型機にかけて、顆粒状甘味料を得た。本品は、甘味の質が優れ、蔗糖の約2.5倍の甘味度を有し、甘味度当たりカロリーは、蔗糖の約1/2.5に低下している。本甘味料は、それに配合した高甘味度甘味物の分解もなく、安定性に優れており、低カロリー甘味料として、カロリー摂取を制限している肥満者、糖尿病者などのための低カロリー飲食物などに対する甘味付けに好適である。また、本甘味料は、虫歯誘発菌による酸の生成が少なく、不溶性グルカンの生成も少ないことより、虫歯を抑制する飲食物などに対する甘味付けにも好適である。
<ハードキャンディー>
濃度55%蔗糖溶液100質量部に実施例1の方法で得たトレハロース含有シラップ30質量部を加熱混合し、次いで減圧下で水分2%未満になるまで加熱濃縮し、これにクエン酸1質量部及び適量のレモン香料と着色料とを混和し、常法に従って成型し、製品を得た。本品は、歯切れ、呈味良好で、蔗糖の晶出も起こらない高品質のハードキャンディーである。
<チューインガム>
ガムベース3質量部を柔らかくなる程度に加熱溶融し、これに結晶マルチトール粉末3質量部及び実施例3の方法で得たトレハロース含水結晶粉末4質量部とを加え、更に適量の香料と着色料とを混合し、常法に従って、ロールにより練り合わせ、成形、包装して製品を得た。本品は、テクスチャー、風味とも良好なチューインガムである。また、本品は、低う蝕性乃至難う蝕性チューインガムとして好適である。
<粉末ジュース>
噴霧乾燥により製造したオレンジ果汁粉末33質量部に対して、実施例7の方法で得た含蜜型トレハロース含水結晶粉末50質量部、蔗糖10質量部、無水クエン酸0.65質量部、リンゴ酸0.1質量部、L−アスコルビン酸0.1質量部、クエン酸ソーダ0.1質量部、プルラン0.5質量部、粉末香料適量をよく混合撹拌し、粉砕し微粉末にしてこれを流動層造粒機に仕込み、排風温度40℃、風量150m3とし、これに、実施例6の方法で得たトレハロース含有シラップをバインダーとしてスプレーし、30分間造粒し、計量、包装して製品を得た。本品は、果汁含有率約30%の粉末ジュースで、異味、異臭がなく、高品質を長期に保った。
<乳酸菌飲料>
脱脂粉乳175質量部、実施例9の方法で得たトレハロース含有シラップ130質量部及び特開平4−281795号公報で開示されているラクトスクロース高含有粉末50質量部を水1,150質量部に溶解し、65℃で30分間殺菌し、40℃に冷却後、これに、常法に従って、乳酸菌のスターターを30質量部植菌し、37℃で8時間培養して乳酸菌飲料を得た。本品は、風味良好な乳酸菌飲料である。また、本品は、オリゴ糖を含有し、乳酸菌を安定に保持するだけでなく、ビフィズス菌増殖促進作用をも有する。
<カスタードクリーム>
コーンスターチ100質量部、実施例6の方法で得たトレハロース含有シラップ100質量部、マルトース80質量部、蔗糖20質量部及び食塩1質量部を充分に混合し、鶏卵280質量部を加えて撹拌し、これに沸騰した牛乳1,000質量部を徐々に加え、更に、これを火にかけて撹拌を続け、コーンスターチが完全に糊化して全体が半透明になった時に火を止め、これを冷却して適量のバニラ香料を加え、計量、充填、包装して製品を得た。本品は、なめらかな光沢を有し、温和な甘味で美味である。
<ういろうの素>
米粉90質量部に、コーンスターチ20質量部、蔗糖40質量部、実施例11の方法で得た含蜜型トレハロース含水結晶粉末80質量部及びプルラン4質量部を均一に混合してういろうの素を製造した。ういろうの素と適量の抹茶と水とを混練し、これを容器に入れて60分間蒸し上げて抹茶ういろうを製造した。本品は、照り、口当たりも良好で、風味も良い。また、澱粉の老化も抑制され、日持ちも良い。
<粉末ペプチド>
40%食品用大豆ペプチド溶液(不二精油株式会社製造、商品名ハイニュートS)1質量部に、実施例10の方法で得たトレハロース含水結晶2質量部を混合し、プラスチック製バットに入れ、50℃で減圧乾燥し、粉砕して粉末ペプチドを得た。本品は、風味良好で、プレミックス、冷菓などの製菓用材料としてのみならず、経口流動食、経管流動食などの離乳食、治療用栄養剤などとしても有利に利用できる。
<粉末味噌>
赤味噌1質量部に実施例4の方法で得た無水結晶トレハロース粉末3質量部を混合し、多数の半球状凹部を設けた金属板に流し込み、これを室温下で一夜静置して固化し、離型して1個当たり約4gの固形味噌を得、これを粉砕機にかけて粉末味噌を得た。本品は、即席ラーメン、即席吸物などの調味料として有利に利用できる。また、固形味噌は、固形調味料としてだけでなく味噌菓子などにも利用できる。
<粉末卵黄>
生卵から調製した黄卵をプレート式加熱殺菌機で60乃至64℃で殺菌し、得られる液状卵黄1質量部に対して、実施例4の方法で得た無水結晶トレハロース粉末4質量部の割合で混合した後バットに移し、一夜放置して、トレハロース含水結晶に変換させてブロックを調製した。本ブロックを切削機にかけて粉末化し、粉末卵黄を得た。本品は、プレミックス、冷菓、乳化剤などの製菓用材料としてのみならず、経口流動食、経管流動食などの離乳食、治療用栄養剤などとしても有利に利用できる。また、美肌剤、育毛剤などとしても有利に利用できる。
<あん>
原料あずき10質量部に、常法に従って、水を加えて煮沸し、渋切り、あく抜きして、水溶性夾雑物を除去して、あずきつぶ生あん約21質量部を得た。この生あんに、蔗糖14質量部、実施例12の方法で得たトレハロース含有シラップ5質量部及び水5質量部を加えて煮沸し、これに少量のサラダオイルを加えてつぶあんをこわさないように練り上げ、製品のあんを約35質量部得た。本品は、色焼けもなく、舌ざわりもよく、風味良好で、あんパン、まんじゅう、だんご、もなか、氷菓などのあん材料として、好適である。
<パン>
小麦粉100質量部、イースト2質量部、砂糖5質量部、実施例14の方法で得たトレハロース含有粉末1質量部及び無機フード0.1質量部を、常法に従って、水でこね、中種を26℃で2時間発酵させ、その後30分間熟成し、焼き上げた。本品は、色相、すだちともに良好で適度な弾力、温和な甘味を有する高品質のパンである。
<ハム>
豚もも肉1,000質量部に食塩15質量部及び硝酸カリウム3質量部を均一にすり込んで、冷室に1昼夜堆積する。これを、水500質量部、食塩100質量部、硝酸カリウム3質量部、実施例3の方法で得たトレハロース含水結晶粉末40質量部及び香辛料適量からなる塩漬液に冷室で7日間漬込み、次いで、常法に従い、冷水で洗浄し、ひもで巻き締め、燻煙し、クッキングし、冷却、包装して製品を得た。本品は、色合いもよく、風味良好な高品質のハムである。
<加糖練乳>
原乳100質量部に実施例5の方法で得たトレハロース含有シラップ3質量部及び蔗糖1質量部を溶解し、プレートヒーターで加熱殺菌し、次いで濃度70%に濃縮し、無菌状態で缶詰して製品を得た。本品は、温和な甘味で、風味もよく、乳幼児食品、フルーツ、コーヒー、ココア、紅茶などの調味用に有利に利用できる。
<化粧用クリーム>
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール2質量部、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン5質量部、実施例7の方法で得た含蜜型トレハロース含水結晶粉末2質量部、α−グリコシルルチン1質量部、流動パラフィン1質量部、トリオクタン酸グリセリン10質量部及び防腐剤の適量を常法に従って加熱溶解し、これにL−乳酸2質量部、1,3−ブチレングリコール5質量部及び精製水66質量部を加え、ホモゲナイザーにかけ乳化し、更に香料の適量を加えて撹拌混合しクリームを製造した。本品は、安定性に優れ、高品質の日焼け止め、美肌剤、色白剤などとして有利に利用できる。
<粉末薬用人参エキス>
薬用人参エキス0.5質量部に実施例4の方法で得た無水結晶トレハロース粉末1.5質量部を混捏した後、バットに移し、2日間放置してトレハロース含水結晶に変換させブロックを調製した。本ブロックを切削機にかけて粉末化し、分級して粉末薬用人参エキスを得た。本品を適量のビタミンB及びビタミンB粉末とともに顆粒成型機にかけ、ビタミン含有顆粒状薬用人参エキスとした。本品は、疲労回復剤、強壮、強精剤などとして有利に利用できる。また、育毛剤などとしても利用できる。
<固体製剤>
天然型ヒトインターフェロン−α標品(株式会社林原生物化学研究所製、コスモ・バイオ株式会社販売)を、常法に従って、固定化抗ヒトインターフェロン−α抗体カラムにかけ、該標品に含まれる天然型ヒトインターフェロン−αを吸着させ、安定剤である牛血清アルブミンを素通りさせて除去し、次いで、pHを変化させて、天然型ヒトインターフェロン−αを実施例2の方法で得たトレハロース高含有粉末を5%含有する生理食塩水を用いて溶出した。本液を精密濾過し、約20倍量の無水結晶マルトース粉末(株式会社林原商事製、商品名ファイントース)に加えて脱水、粉末化し、これを打錠機にて打錠し、1錠(約200mg)当たり天然型ヒトインターフェロン−αを約150単位含有する錠剤を得た。本品は、舌下錠などとして、一日当たり、大人1乃至10錠程度が経口的に投与され、ウイルス性疾患、アレルギー性疾患、リューマチ、糖尿病、悪性腫瘍などの治療に有利に利用できる。とりわけ、近年、患者数の急増しているエイズ、肝炎などの治療剤として有利に利用できる。本品は、トレハロースと共にマルトースが安定剤として作用し、室温で放置してもその活性を長期間よく維持する。
<糖衣錠>
質量150mgの素錠を芯剤とし、これに実施例3の方法で得たトレハロース含水結晶粉末40質量部、プルラン(平均分子量20万)2質量部、水30質量部、タルク25質量部及び酸化チタン3質量部からなる下掛け液を用いて錠剤質量が約230mgになるまで糖衣し、次いで、同じトレハロース含水結晶粉末65質量部、プルラン1質量部及び水34質量部からなる上掛け液を用いて、糖衣し、更に、ロウ液で艶出しして光沢のある外観の優れた糖衣錠を得た。本品は、耐衝撃性にも優れており、高品質を長期間維持する。
<練歯磨>
配合
第2リン酸カルシウム 45.0%
プルラン 2.95%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5%
グリセリン 20.0%
ポリオキシエチレンソルビタンラウレート 0.5%
防腐剤 0.05%
実施例14の方法で得たトレハロース含有粉末 12.0%
マルチトール 5.0%
水 13.0%
上記の材料を常法に従って混合し、練歯磨を得た。本品は、適度の甘味を有しており、特に子供用練歯磨として好適である。
<流動食用固体製剤>
実施例8の方法で製造したトレハロース含水結晶500質量部、粉末卵黄270質量部、脱脂粉乳209質量部、塩化ナトリウム4.4質量部、塩化カリウム1.8質量部、硫酸マグネシウム4質量部、チアミン0.01質量部、アスコルビン酸ナトリウム0.1質量部、ビタミンEアセテート0.6質量部及びニコチン酸アミド0.04質量部からなる配合物を調製し、この配合物25グラムずつ防湿性ラミネート小袋に充填し、ヒートシールして製品を得た。本品は、1袋分を約150乃至300mlの水に溶解して流動食とし、経口的、又は鼻腔、胃、腸などへ経管的使用方法により利用され、生体へのエネルギー補給用に有利に利用できる。
<輸液剤>
実施例10の方法で製造した高純度トレハロース含水結晶を水に濃度約10w/v%に溶解し、次いで、常法に従って、精密濾過してパイロジェンフリーとし、プラスチック製ボトルに無菌的に充填し施栓して製品を得た。本品は、経日変化もなく安定な輸液剤で、静脈内、腹腔内などに投与するのに好適である。本品は濃度10w/v%で血液と等張で、グルコースの場合の2倍濃度でエネルギー補給できる。
<輸液剤>
実施例13の方法で製造した高純度トレハロース含水結晶と下記の組成のアミノ酸配合物とがそれぞれ5w/v%、30w/v%になるように水に混合溶解し、次いで実施例10と同様に精製してパイロジェンフリーとし、更に、プラスチック製バックに充填し施栓して製品を得た。
アミノ酸配合物の組成(mg/100ml)
L−イソロイシン 180
L−ロイシン 410
L−リジン塩酸塩 620
L−メチオニン 240
L−フェニルアラニン 290
L−スレオニン 180
L−トリプトファン 60
L−バリン 200
L−アルギニン塩酸塩 270
L−ヒスチジン塩酸塩 130
グリシン 340
本品は、糖質とアミノ酸との複合輸液剤にもかかわらず、トレハロースが還元性を示さないため、経日変化もなく安定な輸液剤で、静脈内、腹腔内などへ投与するのに好適である。本品は、生体へのエネルギー補給のみならず、アミノ酸補給のためにも有利に利用できる。
<外傷治療用膏薬>
実施例2の方法で製造したトレハロース高含有粉末200質量部及びマルトース300質量部に、ヨウ素3質量部を溶解したメタノール50質量部を加え混合し、更に10w/v%プルラン水溶液200質量部を加えて混合し、適度の延び、付着性を示す外傷治療用膏薬を得た。本品は、ヨウ素による殺菌作用のみならず、トレハロースによる細胞へのエネルギー補給剤としても作用することから、治癒期間が短縮され、創面もきれいに治る。
上記から明らかなように、本発明の新規マルトース・トレハロース変換酵素は、マルトースからトレハロースへ高変換率で転換する。この酵素反応で得られるトレハロースとこれを含む糖質は、安定であり、良質でさわやかな甘味を有しており、また、経口摂取により消化吸収され、カロリー源となる糖質である。これら糖質は、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、飲食物、化粧品、医薬品、など各種組成物に有利に利用できる。
従って、本発明の確立は、安価で無限の資源である澱粉に由来するマルトースから、トレハロースとこれを含む糖質を、工業的に大量かつ安価に供給できる全く新しい道を拓くことになり、それが与える影響の大きさは、澱粉科学、酵素化学、生化学などの学問分野は言うに及ばず、産業界、とりわけ、食品、化粧品、医薬品分野は勿論のこと、農水畜産業、化学工業にも及び、これら産業界に与える工業的意義は、計り知れないものがある。
ピメロバクター・スピーシーズ R48のマルトース・トレハロース変換酵素の酵素活性に及ぼす温度の影響を示す図である。 ピメロバクター・スピーシーズ R48のマルトース・トレハロース変換酵素の酵素活性に及ぼすpHの影響を示す図である。 ピメロバクター・スピーシーズ R48のマルトース・トレハロース変換酵素の安定性に及ぼす温度の影響を示す図である。 ピメロバクター・スピーシーズ R48のマルトース・トレハロース変換酵素の安定性に及ぼすpHの影響を示す図である。 シュードモナス・プチダ H262のマルトース・トレハロース変換酵素の酵素活性に及ぼす温度の影響を示す図である。 シュードモナス・プチダ H262のマルトース・トレハロース変換酵素の酵素活性に及ぼすpHの影響を示す図である。 シュードモナス・プチダ H262のマルトース・トレハロース変換酵素の安定性に及ぼす温度の影響を示す図である。 シュードモナス・プチダ H262のマルトース・トレハロース変換酵素の安定性に及ぼすpHの影響を示す図である。 サーマス・アクアティカス ATCC33923のマルトース・トレハロース変換酵素の酵素活性に及ぼす温度の影響を示す図である。 サーマス・アクアティカス ATCC33923のマルトース・トレハロース変換酵素の酵素活性に及ぼすpHの影響を示す図である。 サーマス・アクアティカス ATCC33923のマルトース・トレハロース変換酵素の安定性に及ぼす温度の影響を示す図である。 サーマス・アクアティカス ATCC33923のマルトース・トレハロース変換酵素の安定性に及ぼすpHの影響を示す図である。

Claims (7)

  1. 基質としてマルトースを含有する水溶液を用い、当該マルトース含有水溶液に、マルトースを基質としてこれをトレハロースに変換し、且つ、グルコース・1−リン酸とグルコースは基質としない酵素を作用させることにより行われる酵素反応により、グルコースリン酸を経由することなくマルトースをトレハロースに変換する工程と、得られるトレハロース含有糖質を採取する工程とを含んでなるトレハロース含有糖質の製造方法。
  2. 基質としてマルトースを含有する水溶液が、澱粉にβ−アミラーゼ又はβ−アミラーゼとともに澱粉枝切酵素を作用させて得られるものである請求項1記載のトレハロース含有糖質の製造方法。
  3. マルトースを基質としてこれをトレハロースに変換し、且つ、グルコース・1−リン酸とグルコースは基質としない酵素反応が、下記(1)乃至(3)のいずれかのマルトース・トレハロース変換酵素を用いて行われる請求項1又は2記載のトレハロース含有糖質の製造方法;
    (1)マルトースをトレハロースに変換しトレハロースをマルトースに変換する作用を有し、部分アミノ酸配列として、トリプトファン−フェニルアラニン−アルギニン−トレオニン−アラニン−バリン−フェニルアラニンを有し、且つ、SDS−ゲル電気泳動で、57,000乃至67,000ダルトンの分子量を有する、ピメロバクター属に属する微生物より得ることのできるマルトース・トレハロース変換酵素、
    (2)マルトースをトレハロースに変換しトレハロースをマルトースに変換する作用を有し、部分アミノ酸配列として、トリプトファン−プロリン−アルギニン−プロリン−アラニン−アラニン−フェニルアラニンを有し、且つ、SDS−ゲル電気泳動で、110,000乃至120,000ダルトンの分子量を有する、シュードモナス属に属する微生物より得ることのできるマルトース・トレハロース変換酵素、
    (3)マルトースをトレハロースに変換しトレハロースをマルトースに変換する作用を有し、部分アミノ酸配列として、アラニン−バリン−イソロイシン−チロシンを有し、且つ、SDS−ゲル電気泳動で、100,000乃至110,000ダルトンの分子量を有する、サーマス属に属する微生物より得ることのできるマルトース・トレハロース変換酵素。
  4. マルトースのトレハロースへの変換率が、60%を超えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のトレハロース含有糖質の製造方法。
  5. 得られるトレハロース含有糖質に、さらにグルコアミラーゼ及び/又はα−グルコシダーゼを作用させる工程を含む請求項1乃至4のいずれかに記載のトレハロース含有糖質の製造方法。
  6. 得られるトレハロース含有糖質を、塩型強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにかけ、トレハロースの含量を向上させる工程を含む請求項1乃至5のいずれかに記載のトレハロース含有糖質の製造方法。
  7. さらに、トレハロースを結晶化する工程を含む請求項1乃至6のいずれかに記載のトレハロース含有糖質の製造方法。

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