以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法は、構造の一部にフルオレン骨格を有するジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルと、重合触媒とを多段に設けられた2以上の反応器に連続的に供給して溶融重縮合を行ってポリカーボネート樹脂を製造する方法である。
なお、以下において、本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法により製造されるポリカーボネート樹脂を「本発明のポリカーボネート樹脂」と称す場合がある。
[原料]
<ジヒドロキシ化合物>
本発明のポリカーボネート樹脂の製造に用いられるジヒドロキシ化合物は、少なくとも構造の一部にフルオレン骨格を有するフルオレン系ジヒドロキシ化合物(以下、「ジヒドロキシ化合物(A)」と称する場合がある。)を含む。得られるポリカーボネート樹脂の耐熱性や機械強度、光学特性と重合反応性の観点から、ジヒドロキシ化合物(A)は、9,9−ジフェニルフルオレンの構造を有する下記式(3)で表されるものが好適に用いられる。
(上記一般式(3)中、R1〜R4はそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキル基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリール基を表し、X1,X2はそれぞれ独立に、は置換若しくは無置換の炭素数2〜炭素数10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキレン基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリーレン基を表す。m及びnはそれぞれ独立に0〜5の整数である。)
R1〜R4はそれぞれ独立に、水素原子、又は無置換若しくはエステル基、エーテル基、カルボン酸基、アミド基、ハロゲンが置換した炭素数1〜6のアルキル基であるのが好ましく、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であるのがより好ましい。X1,X2はそれぞれ独立に、無置換若しくはエステル基、エーテル基、カルボン酸基、アミド基、ハロゲンが置換した炭素数2〜炭素数10のアルキレン基、無置換若しくはエステル基、エーテル基、カルボン酸基、アミド基、ハロゲンが置換した炭素数6〜炭素数20のシクロアルキレン基、または、無置換若しくはエステル基、エーテル基、カルボン酸基、アミド基、ハロゲンが置換した炭素数6〜炭素数20のアリーレン基が好ましく、炭素数2〜6のアルキレン基であるのがより好ましい。又、m及びnはそれぞれ独立に0〜2の整数であるのが好ましく、中でも0又は1が好ましい。
ジヒドロキシ化合物(A)として、具体的には、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレンなどが挙げられる。
上記のジヒドロキシ化合物(A)の中でも、耐熱性や光学物性、機械物性などの種々の特性が優れることと、入手のしやすさの観点から、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンと9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンが特に好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂は、共重合するモノマーとの組み合わせにもよるが、上記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を15重量%以上、75重量%以下含有することが好ましく、20重量%以上、72重量%以下含有することがさらに好ましく、25重量%以上、70重量%以下含有することが特に好ましい。ポリカーボネート樹脂中のジヒドロキシ化合物(A)に由来する構造単位の含有量がこの範囲であれば、後述する波長分散性を好ましい範囲に調整することができ、また、耐熱性や機械物性などとの物性バランスも優れたものになる。
本発明の方法によって製造されるポリカーボネート樹脂は、所望の光学物性に調節するために、上記のジヒドロキシ化合物(A)以外のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことが好ましい。この場合、ジヒドロキシ化合物(A)以外のジヒドロキシ化合物としては、適度な複屈折や低光弾性係数などの光学特性や、耐熱性、機械強度などの観点から、構造の一部に下記式(5)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(以下、「ジヒドロキシ化合物(B)」と称する場合がある。)が好適に用いられる。具体的には、オキシアルキレングリコール類、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物、環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物、アセタール構造を有するジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
(但し、上記式(5)で表される部位が−CH2−OHの一部を構成する部位である場合、および前記ジヒドロキシ化合物(A)の一部を構成する部位である場合を除く。)
前記のオキシアルキレングリコール類としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
前記の主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン等が挙げられる。
前記の環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物と、アセタール構造を有するジヒドロキシ化合物等としては、下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物、下記式(6)や下記式(7)で表されるスピログリコール等が挙げられる。
上記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド(ISB)、イソマンニド、イソイデットが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのジヒドロキシ化合物(B)の中でも、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物を用いることが光学特性の観点から好ましく、入手のし易さ、ハンドリング、重合時の反応性、得られるポリカーボネート樹脂の色相や耐熱性の観点から、前記式(4)、(6)又は(7)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される、環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物とアセタール構造を有するジヒドロキシ化合物が好ましく、中でも植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られる上記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物等の無水糖アルコールが、入手及び製造のし易さ、光学特性、成形性、耐熱性およびカーボンニュートラルの面から最も好ましい。
これらのジヒドロキシ化合物(B)は、得られるポリカーボネートの要求性能に応じて、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明のポリカーボネート樹脂が上記のジヒドロキシ化合物(B)に由来する構造単位を含有する場合、耐熱性や光学特性、機械物性などの諸物性のバランスの観点から、ポリカーボネート樹脂中のジヒドロキシ化合物(B)に由来する構造単位の含有割合は10重量%以上、80重量%以下が好ましく、15重量%以上、75重量%以下がより好ましく、20重量%以上、70重量%以下が特に好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂は、上記のジヒドロキシ化合物(A)及びジヒドロキシ化合物(B)以外のジヒドロキシ化合物(以下「ジヒドロキシ化合物(C)」と称する場合がある。)に由来する構造単位を含んでいてもよく、前記ジヒドロキシ化合物(C)としては、直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物、芳香族ビスフェノール類等が挙げられる。
前記の直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール等が挙げられる。
前記の分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール等が挙げられる。
前記の脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール、1,3−アダマンタンジメタノール、リモネンなどのテルペン化合物から誘導されるジヒドロキシ化合物等の脂環式炭化水素で1級アルコールのジヒドロキシ化合物;1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−アダマンタンジオール、水添ビスフェノールA、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール等の脂環式炭化水素で2級又は3級アルコールのジヒドロキシ化合物が挙げられる。
前記の芳香族ビスフェノール類としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3−フェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(4−ヒドロキシ−3−ニトロフェニル)メタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,3−ビス(2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル)ベンゼン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル等が挙げられる。
これらのジヒドロキシ化合物(C)も、得られるポリカーボネート樹脂の要求性能に応じて、単独又は2種以上を組み合わせた上で、前記ジヒドロキシ化合物(A)と併用してもよく、前記ジヒドロキシ化合物(A)及び前記ジヒドロキシ化合物(B)と併用してもよい。ジヒドロキシ化合物(C)としては、中でも、ポリカーボネート樹脂の光学特性の観点からは、分子構造内に芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物、即ち脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物や、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物が好ましく、これらを併用してもよい。
前記のジヒドロキシ化合物(C)のうち、本発明の方法で製造されるポリカーボネート樹脂に適した脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、特に1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール等の炭素数3〜10で両末端にヒドロキシ基を有する直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物が機械物性の観点から好ましく、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、特に1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが好ましい。
これらのジヒドロキシ化合物(C)を、前記ジヒドロキシ化合物(A)、或いは、前記ジヒドロキシ化合物(A)及び前記ジヒドロキシ化合物(B)と併用することにより、得られるポリカーボネート樹脂の柔軟性の改善、耐熱性の向上、成形性の改善などの効果を得ることも可能である。ただし、前記ジヒドロキシ化合物(C)に由来する構造単位の含有割合が多過ぎると、耐熱性の低下を招くことがあるため、本発明のポリカーボネート樹脂中のジヒドロキシ化合物(C)に由来する構造単位の割合は、好ましくは40重量%以下、更に好ましくは35重量%以下、特に好ましくは30重量%以下である。一方、この割合は、好ましくは1重量%以上、更に好ましくは3重量%以上、特に好ましくは5重量%以上である。
本発明の方法で使用される全てのジヒドロキシ化合物は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤、熱安定剤等の安定剤を含んでいてもよい。中でも、ジヒドロキシ化合物(B)は酸素の存在下、熱変質しやすいことから、前記の還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤、熱安定剤等の安定剤を含んでいることが好ましく、特に酸性下でジヒドロキシ化合物(B)はより変質しやすくなることから、塩基性安定剤を含むことがより好ましい。
塩基性安定剤としては、例えば、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations2005)における1族又は2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩及び脂肪酸塩;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド及びブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物;ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピロリジン、ピペリジン、3−アミノ−1−プロパノール、エチレンジアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール及びアミノキノリン等のアミン系化合物、並びにジ−(tert−ブチル)アミン及び2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のヒンダードアミン系化合物が挙げられる。
これら塩基性安定剤のジヒドロキシ化合物中の含有量に特に制限はないが、ジヒドロキシ化合物(B)は酸性状態では不安定であるので、上記の安定剤を含むジヒドロキシ化合物(B)の水溶液のpHが7付近となるように安定剤を添加することが好ましい。
安定剤の量が少なすぎるとジヒドロキシ化合物(B)の変質を防止する効果が得られない可能性があり、多すぎるとジヒドロキシ化合物(B)の変性を招く場合があるので、ジヒドロキシ化合物(B)に対して、0.0001重量%〜1重量%であることが好ましく、より好ましくは0.001重量%〜0.1重量%である。
また、ジヒドロキシ化合物(B)は、酸素によって徐々に酸化されやすいので、保管又は製造時の取り扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが好ましい。
<炭酸ジエステル>
本発明のポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物(A)を必須成分とするジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得ることができる。用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記式(8)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
上記式(8)において、A1及びA2は、それぞれ置換もしくは無置換の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基又は置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基であり、A1とA2とは同一であっても異なっていてもよい。A1及びA2の好ましいものは置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基であり、より好ましいのは無置換の芳香族炭化水素基である。
前記式(8)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート(DPC)及びジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート並びにジ−tert−ブチルカーボネート等が挙げられる。中でも好ましくはジフェニルカーボネート又は置換ジフェニルカーボネートであり、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。
なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、不純物が重合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂の色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
<エステル交換反応触媒>
本発明のポリカーボネート樹脂は、上述したジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルをエステル交換反応させて製造される。より詳細には、エステル交換させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。
前記エステル交換反応の際には、エステル交換反応触媒(本発明においては、このエステル交換反応触媒を「重合触媒」と言うが、以下、単に「触媒」と言うこともある。)の存在下で重縮合を行うが、本発明のポリカーボネート樹脂の製造時に使用し得るエステル交換反応触媒は、反応速度又は重縮合して得られるポリカーボネート樹脂の品質に非常に大きな影響を与え得る。
用いられる触媒としては、製造されたポリカーボネート樹脂の透明性、色相、耐熱性、耐候性、及び機械的強度を満足させ得るものであれば限定されない。例えば、長周期型周期表における第1族又は第2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、並びに塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物及びアミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。好ましくは1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が使用される。
前記の1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩及び2セシウム塩等が挙げられる。中でも重合活性と得られるポリカーボネート樹脂の色相の観点から、リチウム化合物が好ましい。
前記の2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物又はバリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂の色相の観点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましく、最も好ましくはカルシウム化合物である。
なお、前記の1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
前記の塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン及び四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
前記の塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド及びブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
前記のアミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン及びグアニジン等が挙げられる。
上記重合触媒の使用量は、重合に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1μmol〜300μmolが好ましく、より好ましくは0.5μmol〜100μmolであり、特に1μmol〜50μmolが好ましい。
中でも、重合触媒として、長周期型周期表における第2族からなる群及びリチウムより選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、特にマグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物を用いる場合は、該金属を含む化合物の金属原子量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、0.1μmol以上が好ましく、より好ましくは0.3μmol以上、特に好ましくは0.5μmol以上とする。また上限としては、20μmol以下が好ましく、より好ましくは10μmol以下であり、さらに好ましくは5μmol以下で、特に好ましくは3μmol以下である。
触媒量が少なすぎると、重合速度が遅くなるため、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を得ようとするにはその分だけ重合温度を高くせざるを得なくなる。そのために、得られたポリカーボネート樹脂の色相が悪化する可能性が高くなり、また、未反応の原料が重合途中で揮発してジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が崩れ、所望の分子量に到達しない可能性がある。一方、重合触媒の使用量が多すぎると、好ましくない副反応を併発し、得られるポリカーボネート樹脂の色相の悪化又は成形加工時の樹脂の着色を招く可能性がある。
ただし、1族金属の中でもナトリウム、カリウム又はセシウムは、ポリカーボネート樹脂中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性がある。鉄もまた同様に、ポリカーボネート樹脂中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性がある。そして、これらの金属は使用する触媒からのみではなく、原料又は反応装置から混入する場合がある。出所にかかわらず、ポリカーボネート樹脂中のこれらの金属の化合物の合計量は、ナトリウム、カリウム、セシウム及び鉄の合計の含有量として、1重量ppm以下であることが好ましく、さらには0.5重量ppm以下であることが好ましい。
[ポリカーボネート樹脂の製造条件]
本発明のポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物(A)を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、重合触媒の存在下、エステル交換反応により重縮合させることによって得られる。
原料であるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合することが好ましい。混合の温度は通常80℃以上、好ましくは90℃以上であり、その上限は通常250℃以下、好ましくは200℃以下、更に好ましくは170℃以下である。中でも100℃以上150℃以下が好適である。混合の温度が低すぎると溶解速度が遅かったり、溶解度が不足する可能性があり、しばしば固化等の不具合を招き、混合の温度が高すぎるとジヒドロキシ化合物の熱劣化を招く場合があり、結果的に得られるポリカーボネート樹脂の色相が悪化し、また、耐候性に悪影響を及ぼす可能性がある。
本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルと混合する操作は、酸素濃度10vol%以下、更には0.0001vol%〜10vol%、中でも0.0001vol%〜5vol%、特には0.0001vol%〜1vol%の雰囲気下で行うことが、色相悪化や反応性低下の抑制の観点から好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂を得るためには、反応に用いるジヒドロキシ化合物(A)を含む全ジヒドロキシ化合物に対して、炭酸ジエステルを0.90〜1.20のモル比率で用いることが好ましく、さらに好ましくは、0.95〜1.10のモル比率である。このモル比率が小さくなると、製造されたポリカーボネート樹脂のヒドロキシ基末端量が増加して、ポリマーの熱安定性が悪化し、成形時に着色を招いたり、エステル交換反応の速度が低下したり、所望する高分子量体が得られない可能性がある。
また、このモル比率が大きくなると、エステル交換反応の速度が低下したり、所望とする分子量のポリカーボネート樹脂の製造が困難となる場合がある。エステル交換反応速度の低下は、重合反応時の熱履歴を増大させ、結果的に得られたポリカーボネート樹脂の色相や耐候性を悪化させる可能性がある。さらには、ジヒドロキシ化合物(A)を含む全ジヒドロキシ化合物に対して、炭酸ジエステルのモル比率が増大すると、得られるポリカーボネート樹脂中の残存炭酸ジエステル量が増加し、成形時の汚れや臭気の問題を招く場合があり、好ましくない。
本発明において、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させる方法は、上述の触媒存在下、複数の反応器を用いて多段階で実施される。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせの方法があるが、本発明においては、より少ない熱履歴でポリカーボネート樹脂が得られ、生産性にも優れている連続式を用いる。
重合初期においては、相対的に低温、低真空でプレポリマーを得、重合後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましいが、各反応段階でのジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが重合速度の制御や得られるポリカーボネート樹脂の品質の観点から重要である。例えば、重合反応が所定の値に到達する前に温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが留出し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率を狂わせ、重合速度の低下を招いたり、所定の分子量や末端基を持つポリマーが得られなかったりして結果的に本発明の目的を達成することができない可能性がある。
また、ヒドロキシ基末端とカーボネート基末端のバランスによって、重合速度が制御されるため、特に連続式で重合を行う場合は、未反応モノマーの留出によって末端基のバランスが変動すると、重合速度を一定に制御することが難しくなり、得られる樹脂の分子量の変動が大きくなるおそれがある。樹脂の分子量は溶融粘度と相関するため、得られた樹脂を溶融加工する際に、溶融粘度が変動し、成形品の品質を一定に保つことが難しくなることがある。
留出する未反応モノマーの量を抑制するために、重合反応器に還流冷却器を用いることが有効であり、特に未反応モノマーが多い重合初期の反応器でその効果は大きい。還流冷却器に導入される冷媒の温度は使用するモノマーに応じて適宜選択することができるが、通常、還流冷却器に導入される冷媒の温度は該還流冷却器の入口において45〜180℃であり、好ましくは80〜150℃、特に好ましくは100〜130℃である。冷媒の温度が高すぎると還流量が減り、その効果が低下し、逆に低すぎると、本来留去すべきモノヒドロキシ化合物の留去効率が低下し、反応率の低下や得られる樹脂の着色を招くことがある。冷媒としては、温水、蒸気、熱媒オイル等が用いられ、蒸気、熱媒オイルが好ましい。
重合速度を適切に維持し、モノマーの留出を抑制しながら、最終的なポリカーボネート樹脂の色相を損なわないようにするためには、前述の触媒の種類と量の選定が重要である。本発明のポリカーボネート樹脂は、触媒を用いて、複数の反応器を用いて多段階で重合させて製造されるが、重合を複数の反応器で実施する理由は、重合反応初期においては、反応液中に含まれるモノマーが多いために、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制することが重要であり、重合反応後期においては、平衡を重合側にシフトさせるために、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることが重要になるためである。このように、異なった重合反応条件を設定するには、直列に配置された複数の重合反応器を用いることが、生産効率の観点から好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂の製造に使用される反応器は、上述の通り、少なくとも2つ以上であればよいが、生産効率などの観点からは、3つ以上、好ましくは3〜5つ、特に好ましくは4つである。本発明において、反応器が2つ以上であれば、その反応器中で、更に条件の異なる反応段階を複数持たせる、連続的に温度・圧力を変えていくなどしてもよい。
本発明において、重合触媒は原料調製槽や原料貯槽に添加することもできるし、重合反応器に直接添加することもできるが、供給の安定性、重合の制御の観点からは、重合反応器に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、好ましくは水溶液で供給する。
重合反応の温度は、低すぎると生産性の低下や製品への熱履歴の増大を招き、高すぎるとモノマーの揮散を招くだけでなく、ポリカーボネート樹脂の分解や着色を助長する可能性がある。具体的には、第1段目の反応は、重合反応器の内温の最高温度として、150〜250℃、好ましくは160〜240℃、更に好ましくは170〜230℃で、1〜110kPa(絶対圧力)、好ましくは5〜70kPa、さらに好ましくは7〜30kPaの圧力下、0.1〜10時間、好ましくは0.5〜3時間、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施される。
第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、引き続き発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力(絶対圧力)を1kPa以下にして、内温の最高温度200〜260℃、好ましくは210〜250℃で、通常0.1〜10時間、好ましくは0.3〜6時間、特に好ましくは0.5〜3時間行う。
重合温度を高く、重合時間を長くし過ぎると色調が悪化する傾向にある。特にポリカーボネート樹脂の着色や熱劣化を抑制し、色相の良好なポリカーボネート樹脂を得るには、全反応段階における内温の最高温度は特に220〜245℃であることが好ましい。また、重合反応後半の重合速度の低下を抑止し、熱履歴による劣化を最小限に抑えるためには、重合の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
連続重合において、最終的に得られるポリカーボネート樹脂の分子量を一定水準に制御するには、必要に応じて重合速度を調節する必要がある。その場合は、最終反応器の真空圧力を調整することが操作性の良い方法である。また、前述のヒドロキシ基末端とカーボネート基末端の比率によって重合速度が変化するため、あえて片方の末端基を減らして、重合速度を抑制し、その分、最終反応器の圧力を高真空に保つことで、モノヒドロキシ化合物をはじめとした樹脂中の残存低分子成分を低減することができる。しかし、片方の末端が少なくなりすぎると、末端基バランスが少し変動しただけで、極端に反応性が低下し、所望の分子量まで上がらないおそれがあるため、最終反応器で得られるポリカーボネート樹脂はヒドロキシ基末端の量を10mol/ton以上含有することが好ましい。一方、ヒドロキシ基末端量が多すぎると、重合速度が速くなり、分子量が高くなりすぎてしまうため、ヒドロキシ基末端量は60mol/ton以下であることが好ましい。
このようにして、末端基の量と最終反応器の圧力を好ましい範囲に調整することで、最終反応器の出口において、樹脂中のモノヒドロキシ化合物の残存量を2500重量ppm以下とすることが好ましい。このモノヒドロキシ化合物の残存量は、さらには2000重量ppm以下であることが好ましく、特に1500重量ppm以下であることが好ましい。また、モノヒドロキシ化合物の残存量は少ない方が好ましいが、100重量ppm未満まで減らそうとすると、ヒドロキシ基末端量を極端に少なくし、反応器の圧力を高真空に保つような運転条件を取る必要があるが、前述のとおり、得られるポリカーボネート樹脂の分子量を一定水準に保つことが難しくなるので、通常100重量ppm以上、好ましくは150重量ppm以上である。
副生したモノヒドロキシ化合物は、資源有効活用の観点から、必要に応じて精製を行った後、他の化合物の原料として再利用することが好ましい。例えば、モノヒドロキシ化合物がフェノールである場合、ジフェニルカーボネートやビスフェノールA等の原料として用いることができる。
上述の重縮合反応を行った後、最終重合反応器から排出されたポリカーボネート樹脂を、ダイスヘッドからストランドの形態で吐出し、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化するが、本発明の方法では、ポリカーボネート樹脂中に含まれる低分子成分の除去や、熱安定剤等の混練を実施するため、重縮合で得られたポリカーボネート樹脂を押出機に導入した後にペレット化を行う。
溶融重縮合で得られたポリカーボネート樹脂を押出機で溶融押出しした後にペレット化する方法としては、下記(1),(2)の方法があるが、本発明では、熱履歴を最小限に抑え、色相の悪化や分子量の低下等の熱劣化を抑制するために、下記(2)の方法を採用する。
(1)最終重合反応器からポリカーボネート樹脂を抜き出し、一旦ストランドの形態で冷却固化させて、回転式カッター等でペレット化し、該ペレットを再度押出機に導入して溶融押出しした後、ストランドの形態で冷却固化させて、ペレット化する方法。
(2)最終重合反応器からポリカーボネート樹脂を抜き出し、溶融状態のポリカーボネート樹脂を固化させることなく溶融状態のまま連続的に押出機に供給し、押出機から排出された樹脂をストランドの形態で冷却固化させて、ペレット化する方法。
<ベント式二軸押出機>
本発明においては、後述の脱揮性能の向上や添加剤の均一な混練のために、押出機としてベント式二軸押出機を用いるのが好ましい。ベント式二軸押出機の軸の回転方向は異方向であっても同方向であってもよいが、混練性能の観点からは同方向が好ましい。押出機の後段にポリマーフィルターを設置し、樹脂を濾過する場合は、ベント式二軸押出機の使用により後段のフィルターへのポリカーボネート樹脂の供給を安定させることもできる。
上記の通り、重縮合で生成したポリカーボネート樹脂中には、色相や熱安定性、さらにはブリードアウト等により製品に悪影響を与える可能性のある原料モノマー、エステル交換反応で副生するモノヒドロキシ化合物、オリゴマー等の低分子量化合物が残存していることが多いが、前記押出機としてベント口を有するものを用い、好ましくはベント口から真空ポンプ等を用いて減圧にすることにより、これらを脱揮除去することが可能である。また、前記押出機内に水等の揮発性液体を導入して、脱揮を促進することもできる。ベント口は1つであっても複数であってもよいが、好ましくは2つ以上である。一方、ベント口の数を増やしすぎると押出機の長さが長くなり、樹脂の滞留時間が必要以上に長くなってしまうため、ベント口の数は4つ以下が好ましく、さらに3つ以下が好ましい。
ベント式二軸押出機では、後述の本発明のリン系化合物(リン系化合物の詳細については後述する。)、ヒンダードフェノール化合物や通常知られている熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤等を添加、混練することもできる。
本発明の方法では、重合触媒を失活させる作用を持つ後述の特定のリン系化合物を押出機でポリカーボネート樹脂に添加、混練する。特にベント式二軸押出機の第1ベント口(樹脂の供給口に最も近接するベント口)よりも、該押出機における上流側で前記リン系化合物を添加し、触媒を失活させた後に、真空脱揮することが好ましい。このような方法を取ることによって、樹脂中の低分子成分を効率的に脱揮除去することが可能となる。また、押出機のベント口内においては、重合反応が進行する状態になっており、樹脂の末端基バランスの変動などによって、押出機内で分子量が変化してしまうが、触媒失活剤であるリン系化合物を添加した後に真空脱揮することで、分子量変化を起こさずに脱揮処理することが可能となり、均一な分子量のポリカーボネート樹脂を安定的に製造することが可能となる。
本発明のリン系化合物は高濃度になるとかえって樹脂を劣化させてしまうため、押出機に供給する場合、溶媒で希釈し、溶液の状態で添加することが好ましい。用いるリン系化合物を溶解することができる溶媒であれば、いずれも用いることができるが、ハロゲン含有溶媒はポリカーボネート樹脂を劣化させたり、金属を腐食させたりするおそれがある。溶媒としては、エタノールなどのアルコール類、ヘキサンなどの炭化水素系溶媒、トルエンなどの芳香族系溶媒などを用いるのが好ましいが、引火などのおそれのない水を用いることが特に好ましい。
また、本発明のリン系化合物は押出機に添加する前に、ペレットや顆粒状の樹脂と混合し、樹脂にリン系化合物を付着させ、この樹脂混合物を押出機に添加することが好ましい。このような方法で押出機に供給することで、本発明のリン系化合物を定量性良く添加することができ、また、押出機内での溶融樹脂への分散性が向上し、得られるポリカーボネート樹脂の品質を向上させることができる。
本発明のリン系化合物と樹脂との混合は公知の混合攪拌機を用いることができる。製造プロセスが小規模の場合は、ポリエチレン製の袋などに材料を入れて、手で振り混ぜることも可能である。連続重合法で、かつ製造プロセスの規模が大きい場合は、リボンブレンダーを用いて、一定速度で本発明のリン系化合物と樹脂ペレットを供給して混合し、次いで一定速度で混合物を排出し、そのまま押出機に供給する方法が好ましい。
本発明のリン系化合物と混合する樹脂は、押出機中の樹脂と同一であることが好ましい。従って、製造しているポリカーボネート樹脂の一部を回収して、本発明のリン系化合物と混合して、押出機に供給する方法が好ましい。本発明のリン系化合物を含む樹脂混合物は押出機中のポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.1重量部以上、20重量部以下添加することが好ましい。この添加量はさらに0.5重量部以上、10重量部以下が好ましく、特に1重量部以上、5重量部以下が好ましい。樹脂混合物の添加量が多すぎると、押出機動力への負荷が高くなり、また空気(酸素)を押出機内に持ち込んでしまうため、樹脂が着色したり、熱分解するおそれがある。一方、樹脂混合物の添加量が少なすぎると、押出機中でのリン系化合物の分散性が悪化する。
本発明のポリカーボネート樹脂は高温下で着色しやすいものであるが、本発明のリン系化合物を適切な押出条件において添加することで、得られるポリカーボネート樹脂の品質を大きく向上させることができる。
即ち、本発明のリン系化合物を含有した状態で、ポリカーボネート樹脂を真空下で脱揮処理することで、残存低分子成分を効率良く除去することができ、さらには得られるポリカーボネート樹脂の色調も良くすることができる。従って、この脱揮効率を十分なものとするために、前述のベント式二軸押出機の真空ベントの圧力は1kPa以下であることが好ましく、さらに0.5kPa以下が好ましく、特に0.3kPa以下であることが好ましい。このような高い真空度を得るためには、高真空用の真空ポンプを使用したり、複数の真空ポンプを並列、または直列で使用する方法が考えられる。ベントの圧力の下限には特に制限はないが、実用上、0.01kPa程度である。
脱揮効率の観点からは、押出機中のポリカーボネート樹脂の温度は高い方が好ましいが、温度が高くなるほど着色や熱分解が起こりやすくなるため、適切な温度で処理する必要がある。押出機中の溶融混練温度は、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度や分子量、溶融粘度に依存するが、押出機出口におけるポリカーボネート樹脂の温度は200℃以上、280℃以下であることが好ましい。さらに好ましくは210℃以上、275℃以下、更に好ましくは220℃以上、270℃以下である。押出機出口における溶融混練温度が200℃より低いと、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が高く、押出機の負荷が大きくなり、生産性が低下する。一方、280℃より高いと、ポリカーボネート樹脂の熱劣化が激しくなり、分子量の低下による機械的強度の低下や着色、ガスの発生を招く。
溶融混練温度を低くする方法としては、押出機に供給する樹脂温度を下げる、押出機の回転数を低くする、押出機スクリューのニーディングエレメントを少なくする、押出機のL/Dを小さくする、押出機のシリンダー温度を低くする、押出機に供給する樹脂の処理量を少なくする等の方法があるが、押出機動力への負荷や、押出機ベント口での樹脂のベントアップなどの制約もあるため、全体的なバランスを考慮して適宜設定を調節する必要がある。
前記最終の重合反応器から押出機に溶融状態のままで供給されるポリカーボネート樹脂の温度は通常200℃以上であり、210℃以上であることが好ましく、特には220℃以上が好適である。またその上限は260℃以下であることが好ましく、更に255℃以下、特に250℃以下であることが好ましい。前記押出機に供給するポリカーボネート樹脂の温度が低すぎると、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が高くなり過ぎて供給が不安定になったり、押出機の駆動モーターの負荷が過大となる可能性がある。一方、該温度が高すぎるとポリカーボネート樹脂の劣化が起こりやすくなり、色相の悪化や、分子量の低下、それに伴う機械的強度の低下を招く傾向がある。
前記押出機へ供給するポリカーボネート樹脂の温度は、最終重合反応器の内温を制御する他、押出機へポリカーボネート樹脂を供給する配管の温度を制御したり、熱交換器を設ける等の方法で制御することができる。
押出機の回転数はスクリューの周速で表すと、0.1m/sec以上、0.45m/sec以下となるように設定することが好ましく、さらに0.2m/sec以上、0.4m/sec以下に設定することが好ましい。押出機の周速あるいは回転数が大きくなりすぎると、剪断による発熱に起因する着色や分子量の低下等の熱劣化を招きやすい。一方、押出機の周速あるいは回転数が小さくなりすぎると、真空脱揮時のベントアップを招いたり、脱揮性能や添加剤の分散性能が低下する傾向がある。
通常、押出機のスクリューは、様々な機能を持たせるために、複数のエレメント(スクリューエレメント)から構成されており、一般的には、主に樹脂の搬送を目的とした螺旋ねじ(フライト)のみからなるフルフライト、樹脂の混練を目的としたニーディングディスク、樹脂のシールを目的としたシールリング等から構成され、目的に応じて樹脂の搬送方向と逆方向にねじを配した逆フライトも用いられる。また、ねじの切り方によって二条型、三条型があるが、前記押出機のスクリュー径に対して処理量が大きく取れ、スクリュー回転により発生する剪断発熱を抑制できる二条型の深溝タイプが好ましい。
これらスクリューエレメントの構成は限定されるものではないが、該エレメントの少なくとも1つがニーディングディスクであることが好ましく、中でも該ニーディングディスクの合計の長さが、スクリュー全体の長さの20%以下であることが好ましく、より好ましくは15%以下、最も好ましくは10%以下である。該ニーディングディスクの合計の長さが長すぎると、樹脂の剪断による局所的な発熱が増大し、ポリカーボネート樹脂の色相の悪化や分子量の低下という問題が生じやすくなる。一方、該ニーディングディスクの合計の長さが短すぎると、上述した脱揮や添加剤の混練時の性能が低下する可能性があるため、該ニーディングディスクの合計の長さがスクリュー全体の長さの3%以上であることが好ましく、5%以上がより好ましい。特に粘度の高いポリカーボネート樹脂では、スクリュー回転による剪断発熱が大きくなり、供給される樹脂の温度に対し、排出される樹脂の温度が上がる傾向にあるため、添加剤の分散、脱揮性能、生産性等を維持しながら該剪断発熱によるポリカーボネート樹脂の劣化を抑制するには、スクリューの回転数やエレメント構成の選択が重要である。
前記ニーディングディスクとしては、樹脂の搬送方向に対して順送り型、直交型、逆送り型があるが、使用される樹脂の粘度や要求される性能に応じて適宜選択することができる。
前記スクリューエレメントの材質としては、表面のニッケル等の含有量を高くして鉄含有量を低く抑えたり、TiNやCrNで表面硬度を高める処理を施したものを用いることが好ましい。
前記押出機の形態は、シリンダー(別名バレルと呼ぶこともある)の温度調整を行うため複数のヒーターを連ねて、シリンダー内部に二軸のスクリューを備えた押出機であることが好ましい。押出機に供給されたポリカーボネート樹脂は、前記スクリューを包む連続したシリンダーを、複数のヒーターで外部から加熱、又は冷却しながら押し出される。このうち、少なくとも一つのヒーター設定温度が240℃以下であることが好ましく、更に好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下である。このようにヒーターを設定することで、それ以上の温度に樹脂が加熱されている場合はそこで冷却されることになり、ポリカーボネート樹脂が熱によって劣化することを抑制することができる。ヒーターの一部が上記の温度の上限を超えていても本発明は実施可能であるが、過熱をより徹底して防ぐためには、全てのヒーターが上記の240℃以下であることがより好ましい。一方で、ヒーター設定温度は少なくとも100℃以上であることが必要である。押出機バレルに低温すぎる部分があると、そこでポリカーボネート樹脂がバレルと接触する部分で急冷されて粘度が増大し、剪断発熱が大きくなってかえってポリカーボネート樹脂の劣化を促進したり、スクリューを回転させているモーターの負荷が上がったりする場合がある。ヒーターの設定温度は、好ましくは120℃以上、さらに好ましくは140℃以上、特に好ましくは160℃以上である。
また、前記のシリンダーは通常、複数のブロックからなっており、ベント口や添加剤の供給口を有しており、温度調整以外の役割を持ったブロックがある。押出機が長くなりすぎると、ポリカーボネート樹脂の熱劣化を招くため、シリンダーのブロックの数は必要最小限に留めるのが好ましい。スクリューの長さ:Lとスクリュー径:Dの比で表されるL/Dは60以下が好ましく、さらに50以下が好ましい。一方、ベント口や添加剤の供給口など必要な役割を持たせるには、L/Dは20以上が好ましく、さらに25以上が好ましい。
本発明では、上記のような条件でベント式二軸押出機にて脱揮処理を行うことにより、ポリカーボネート樹脂の着色や熱分解を抑制しながら、残存低分子成分を効率良く除去することが可能である。しかし、最終的に得られるポリカーボネート樹脂中の残存フェノールを極力少なくするには、押出条件だけでなく、押出機に供給される樹脂中の残存低分子成分の量もできるだけ少なくしておく必要がある。前述のとおり、ポリカーボネート樹脂の末端基バランスや最終重合槽の圧力条件などを最適化することで、重合段階において、残存低分子成分を極力少なくしておくことも重要である。
<フィルター>
本発明では、溶融重縮合して得られたポリカーボネート樹脂中のヤケやゲル等の異物を除去するため、前記の押出機から排出されたポリカーボネート樹脂を固化させることなく、溶融状態のままフィルターに供給して、濾過を行うことが好ましい。中でも、残存モノマーや副生フェノール等を減圧脱揮により除去し、熱安定剤や離型剤等の添加剤を混合するために、ポリカーボネート樹脂を前記のベント式二軸押出機で溶融押出した後、フィルターで濾過することが好ましい。
このフィルターの形態としては、キャンドル型、プリーツ型、リーフディスク型等公知のものが使用できるが、中でもフィルターの格納容器に対する濾過面積が大きく取ることができ、さらに滞留時間分布の狭いキャンドル型が好ましく、また、濾過面積が大きく取れるように複数組み合わせて用いるのが好ましい。
本発明において好適に用いられるフィルターは、保持部材(リテイナーとも言う)に、濾過部材(以下、メディアと言うことがある)を組合せて構成されており、それらフィルターが(場合によっては複数枚・複数個)格納容器に格納されたユニット(フィルターユニットと言うこともある)の形式で用いられる。
本発明においては、前記フィルターの差圧(圧力損失)が小さくなるように、複数の目開きのメディアを重ね合わせ、樹脂の侵入方向から順に目開きが細かくなっているタイプのものが好ましく、フィルター表面にゲルを破砕する目的で金属製のパウダーを焼結したタイプのものを使用することもできる。
本発明において、フィルターから排出されるポリカーボネート樹脂の温度(フィルターで濾過した直後のポリカーボネート樹脂の温度)は280℃以下であることが好ましく、さらに275℃以下、特に270℃以下であることが好ましい。この樹脂温度が高くなりすぎると、ポリカーボネート樹脂の熱劣化が起こりやすくなり、樹脂の着色や分子量低下、それに伴う機械的強度の低下を招く傾向がある。一方、フィルターから排出されるポリカーボネート樹脂の温度が低くなりすぎると、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が高くなって、押出機のスクリュー回転が不安定になったり、モーターの過負荷を招いたり、フィルターを破損したりするため、この樹脂温度は、好ましくは220℃以上、より好ましくは230℃以上、特に好ましくは240℃以上である。
フィルターから排出されるポリカーボネート樹脂の温度を低くするには、前述のとおり、押出機での溶融混練温度を低くする他、フィルター格納容器の保温温度を低くする、フィルター前後の配管の保温温度を低くするなどの方法がある。
このように、フィルター濾過を行う場合、本発明においては、本発明のリン系化合物を用い、さらに重合条件、及び押出機やフィルター濾過の条件を適正化することにより、フィルターを通過する際のポリカーボネート樹脂中のモノヒドロキシ化合物の増加量を150重量ppm以下、特に100重量ppm以下、とりわけ50重量ppm以下に抑制することが好ましい。
前記のフィルターのメディアの材質としては、得られるポリカーボネート樹脂の濾過に必要な強度と耐熱性を有している限り制限はないが、中でも鉄の含有量が少ないSUS316、SUS316L等のステンレス系が好ましく、織りの種類としては、平織、綾織、平畳織、綾畳織等、異物の捕集部分が規則正しい織り状になっているものの他、不織布タイプも用いることができる。本発明においては、ゲルの捕集能力の高い不織布タイプ、中でも不織布を構成する鋼線どうしを焼結させて固定したタイプが好ましい。
本発明において前記のフィルターの目開きは、99%の濾過精度として、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは20μm以下である。異物を特に低減させたい場合にはフィルターの目開きは10μm以下が好ましいが、目開きが小さくなるとフィルターでの圧力損失が増大して、フィルターの破損を招いたり、剪断発熱によりポリカーボネート樹脂が劣化したりする可能性があるため、99%の濾過精度として、1μm以上であることが好ましい。なお、ここで言う前記フィルターの目開きはISO16889に準拠して決定されるものである。
なお、前記したフィルターのうち、ステンレス等の鉄製分を含むフィルターは、200℃を超える高温での濾過の際に樹脂を劣化させる傾向があるため、使用前に不動態化処理しておくことが好ましい。不動態化処理はフィルターを硝酸等の酸に浸漬させたり、フィルターに酸を通液させたりして表面に不動態を形成させる方法、水蒸気又は酸素存在下で焙焼(加熱)処理する方法、これらを併用する方法等が挙げられるが、中でも硝酸処理と焙焼の両方を実施することが好ましい。
この焙焼の温度は350℃〜500℃がよく、好ましくは350℃〜450℃であり、焙焼時間は3時間〜200時間がよく、好ましくは5時間〜100時間である。焙焼の温度が低すぎたり、時間が短すぎたりすると不動態の形成が不充分になり、濾過時にポリカーボネート樹脂を劣化させる傾向がある。一方、焙焼の温度が高すぎたり、時間が長すぎたりすると、フィルターメディアの損傷が激しくなり、必要な濾過精度が出なくなる可能性がある。
また、前記の硝酸で処理する際の硝酸の濃度は、5重量%〜50重量%がよく、好ましくは10重量%〜30重量%、処理時の温度は、5℃〜100℃がよく、好ましくは50℃〜90℃、処理時間は、5分〜120分がよく、好ましくは10分〜60分である。硝酸の濃度が低すぎたり、処理温度が低すぎたり、処理時間が短すぎたりすると不動態の形成が不充分になり、硝酸の濃度が高すぎたり、処理温度が高すぎたり、処理時間が長すぎたりするとフィルターメディアの損傷が激しくなり、必要な濾過精度が出なくなる可能性がある。
尚、本発明の方法で使用される前記フィルターの格納容器の材質は、樹脂の濾過に耐えられる強度と耐熱性を有している限り制限はないが、好ましくは鉄の含有量が少ないSUS316、SUS316L等のステンレス系である。
また、前記のフィルターの格納容器は、ポリカーボネート樹脂の供給口と排出口が実質的に水平に配置されていても、実質的に垂直に配置されていても、斜めに配置されていてもよいが、フィルター格納容器内でのガス及びポリカーボネート樹脂の滞留を抑制し、ポリカーボネート樹脂の劣化を防ぐためには、ポリカーボネート樹脂の供給口がフィルター格納容器の下部に、排出口が上部に配置されていることが好ましい。
更には、本発明の方法においては、前記フィルターへのポリカーボネート樹脂の供給量を安定化させるために、前記押出機と前記フィルターの間にギアポンプを配置することが好ましい。ギアポンプの種類についての制限はないが、中でもシール部にグランドパッキンを用いない自己循環型が、異物低減の観点から好ましい。
<ペレット化>
押出機、好ましくはベント式二軸押出機で溶融押出しされ、好ましくは更に前記フィルターで濾過されたポリカーボネート樹脂は、ダイスヘッドからストランドの形態で吐出し、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化されるが、本発明において、ポリカーボネート樹脂が直接外気と触れるストランド化、ペレット化の際には、外気からの異物混入を防止するために、好ましくはJISB 9920(2002年)に定義されるクラス7、更に好ましくはクラス6より清浄度の高いクリーンルーム中で実施することが望ましい。
また、ペレット化の際には、空冷、水冷等の冷却方法を使用することが好ましく、空冷の際に使用する空気は、へパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐことが望ましい。また、水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらに水用フィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが望ましい。用いる水用フィルターの目開きは、99%除去の濾過精度として10〜0.45μmであることが好ましい。
[ポリカーボネート樹脂の添加剤]
<本発明のリン系化合物>
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法では、下記式(1)または(2)で表される部分構造を含有するリン系化合物(本発明において、このリン系化合物を「本発明のリン系化合物」と称す場合がある。)を、前述の押出機にてポリカーボネート樹脂に添加する。本発明のリン系化合物を添加することにより、重合触媒を失活させ、さらに高温下でのポリカーボネート樹脂の着色を抑制することができる。
前記式(1)または(2)で表される部分構造を含有するリン系化合物としては、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、ホスホン酸エステル、酸性リン酸エステル等が挙げられる。上記の中でも触媒失活と着色抑制の効果がさらに優れているのは、亜リン酸、ホスホン酸、ホスホン酸エステルであり、特に亜リン酸が好ましい。
ホスホン酸としては、ホスホン酸(亜リン酸)、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、ビニルホスホン酸、デシルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、アミノメチルホスホン酸、メチレンジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、4−メトキシフェニルホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、プロピルホスホン酸無水物などが挙げられる。
ホスホン酸エステルとしては、ホスホン酸ジメチル、ホスホン酸ジエチル、ホスホン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ホスホン酸ジラウリル、ホスホン酸ジオレイル、ホスホン酸ジフェニル、ホスホン酸ジベンジル、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジフェニル、エチルホスホン酸ジエチル、ベンジルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジプロピル、(メトキシメチル)ホスホン酸ジエチル、ビニルホスホン酸ジエチル、ヒドロキシメチルホスホン酸ジエチル、(2−ヒドロキシエチル)ホスホン酸ジメチル、p−メチルベンジルホスホン酸ジエチル、ジエチルホスホノ酢酸、ジエチルホスホノ酢酸エチル、ジエチルホスホノ酢酸tert−ブチル、(4−クロロベンジル)ホスホン酸ジエチル、シアノホスホン酸ジエチル、シアノメチルホスホン酸ジエチル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル、ジエチルホスホノアセトアルデヒドジエチルアセタール、(メチルチオメチル)ホスホン酸ジエチルなどが挙げられる。
酸性リン酸エステルとしては、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジビニル、リン酸ジプロピル、リン酸ジブチル、リン酸ビス(ブトキシエチル)、リン酸ビス(2−エチルヘキシル)、リン酸ジイソトリデシル、リン酸ジオレイル、リン酸ジステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸ジベンジルなどのリン酸ジエステル、又はジエステルとモノエステルの混合物、クロロリン酸ジエチル、リン酸ステアリル亜鉛塩などが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
ポリカーボネート樹脂への本発明のリン系化合物の添加量が少なすぎると、触媒失活や着色抑制の効果が不十分であり、多すぎるとかえってポリカーボネート樹脂が着色してしまったり、特に高温・高湿度での耐久試験において、ポリカーボネート樹脂が着色しやすい。従って、本発明において、本発明のリン系化合物の添加量は、重合反応に用いた触媒量に対応した量となるように、重合反応に用いた触媒の金属原子1molに対して、添加する本発明のリン系化合物のリン原子の量として0.5倍mol以上、5倍mol以下とし、好ましくは0.7倍mol以上、4倍mol以下、特に好ましくは0.8倍mol以上、3倍mol以下とする。
<ヒンダードフェノール化合物>
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法においては、前記本発明のリン系化合物に加えて、ヒンダードフェノール化合物を併用添加することで、得られるポリカーボネート樹脂のさらなる色調の向上が期待できる。
ヒンダードフェノール系化合物としては、具体的には、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール、2−tert−ブチル−4−メトキシフェノール、2−tert−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、n−オクタデシル−3−(3',5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(6−シクロヘキシル−4−メチルフェノール)、2,2’−エチリデン−ビス−(2,4−ジ−tert−ブチルフェノール)、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]−メタン、n−オクタデシル−3−(3',5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
ヒンダードフェノール化合物の添加量は、ポリカーボネート樹脂を100重量部とした場合、0.01重量部以上、0.5重量部以下が好ましく、0.05重量部〜0.3重量部がより好ましく、0.08重量部〜0.2重量部がさらに好ましい。なお、ヒンダードフェノール化合物や以下の酸化防止剤についても、本発明のリン系化合物と同様に、押出機において、ポリカーボネート樹脂に添加、混練されることが好ましい。
<酸化防止剤>
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法では、酸化防止の目的で、通常知られている酸化防止剤をポリカーボネート樹脂に添加することもできる。
酸化防止剤としては、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどが挙げられる。
これらの酸化防止剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
これらの酸化防止剤の添加量は、ポリカーボネート樹脂を100重量部とした場合、0.001重量部〜0.2重量部が好ましく、0.005重量部〜0.1重量部がより好ましく、0.01重量部〜0.08重量部がさらに好ましい。
上記の酸化防止剤の中でも、ポリカーボネート樹脂の着色抑制効果の点では、ホスファイト系酸化防止剤を用いるのが好ましい。しかし、本発明のリン系化合物も含めたリン系化合物は高温・高湿度下での耐久性試験において、ポリカーボネート樹脂の着色要因となり得るため、これらのリン化合物が添加された本発明のポリカーボネート樹脂が含有するリン原子の総量が40重量ppm以下、特に30重量ppm以下であるように本発明のリン系化合物等のリン化合物の添加量を制御することが好ましい。
<その他の成分>
本発明のポリカーボネート樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で、通常用いられる紫外線吸収剤、離型剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、核剤、難燃剤、無機充填剤、衝撃改良剤、発泡剤、染顔料等が含まれても差し支えない。
本発明のポリカーボネート樹脂は、樹脂の機械物性や耐溶剤性などの特性を改質する目的で、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン、ABS、AS、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネート等の合成樹脂やゴム等の1種又は2種以上と混練してポリマーアロイとしても用いることもできる。
上記の添加剤や改質剤は、本発明のポリカーボネート樹脂に上記成分を同時に、または任意の順序でタンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等の混合機により混合して製造することができるが、中でも押出機、特には二軸押出機により混練することが、分散性向上の観点から好ましい。
[製造装置の一例]
次に、図1を参照して、本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法の実施形態の一例を具体的に説明する。以下に説明する連続製造装置や原料、触媒等は、本発明の実施態様の一例であり、本発明は以下に説明する例に限定されるものではない。
図1は、本発明の方法で用いるポリカーボネート樹脂の連続製造装置の一例を示す系統図である。図1に示す製造装置において、ポリカーボネート樹脂は、原料の前記ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを調製する原料調製工程と、これらの原料を溶融状態で複数の反応器を用いて重縮合反応させる重縮合工程を経て製造される。重縮合工程で生成した留出液は凝縮器12a、12b、12c、12dにて液化して留出液回収タンク14aに回収される。
重縮合工程後、溶融ポリカーボネート樹脂中の未反応原料や反応副生物を脱揮除去する工程や、熱安定剤、離型剤、色剤等を添加する工程、ポリカーボネートを所定の粒径のペレットに形成する工程を経て、ポリカーボネート樹脂のペレットが成形される。
尚、以下は原料のジヒドロキシ化合物として、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BHEPF)とイソソルビド(ISB)と分子量1000のポリエチレングリコール(PEG)を、原料の炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネート(DPC)をそれぞれ用い、また、触媒として酢酸マグネシウムを用いた場合を例示して説明する。
まず、原料調製工程において、窒素ガス雰囲気下、所定の温度で調製されたDPCの溶融液が原料供給口1aから原料混合槽2aに連続的に供給される。また、窒素ガス雰囲気下で計量されたBHEPFの紛体、ISBの溶融液、PEGの溶融液が、それぞれ原料供給口1b、1c、1dから、原料混合槽2aに連続的に供給される。そして、原料混合槽2a内でこれらは混合され、原料混合溶融液が得られる。
次に、得られた原料混合溶融液は、原料供給ポンプ4a、原料フィルター5aを経由して第1竪型攪拌反応器6aに連続的に供給される。また、重合触媒として、酢酸カルシウム水溶液が、原料混合溶融液の移送配管途中の触媒供給口1eから連続的に供給される。
図1の製造装置の重縮合工程においては、第1竪型攪拌反応器6a、第2竪型攪拌反応器6b、第3竪型攪拌反応器6c、第4横型攪拌反応器6dが直列に設けられている。各反応器では液面レベルを一定に保ち、重縮合反応が行われ、第1竪型攪拌反応器6aの槽底より排出された重縮合反応液は第2竪型攪拌反応器6bへ、続いて、第3竪型攪拌反応器6cへ、第4横型攪拌反応器6dへと順次連続供給され、重縮合反応が進行する。各反応器における反応条件は、重縮合反応の進行とともに高温、高真空、低攪拌速度となるようにそれぞれ設定することが好ましい。図1の装置を用いた場合、第4横型攪拌反応器6dが本発明における最終反応器に相当する。
第1竪型攪拌反応器6a、第2竪型攪拌反応器6b及び第3竪型攪拌反応器6cには、マックスブレンド翼7a、7b、7cがそれぞれ設けられる。また、第4横型攪拌反応器6dには、2軸メガネ型攪拌翼7dが設けられる。第3竪型攪拌反応槽6cの後には移送する反応液が高粘度になるため、ギアポンプ4bが設けられる。
この第4横型攪拌反応器6dは、1本又は2本以上の水平な回転軸を有し、この水平回転軸から垂直方向に延びる円板型、車輪型、櫂型、棒型、窓枠型などの攪拌翼が1種又は2種以上組み合わされて、回転軸あたり少なくとも水平方向に2段以上設置されている。水平回転軸が2本以上ある場合、それぞれの水平回転軸に設けられた攪拌翼は、互いに衝突しないように、水平位置をずらして配してある。このような攪拌翼により反応液をかき上げ、又は押し広げて反応液の表面更新を行なう。その形状は、それら水平回転軸の長さをlとし、攪拌翼の回転直径をdとしたときにl/dが1〜15である。なお、本明細書中、上記「反応液の表面更新」という語は、液表面の反応液が液表面下部の反応液と入れ替わることを意味する。
第1竪型攪拌反応器6aと第2竪型攪拌反応器6bは、供給熱量が特に大きくなることがあるため、熱媒温度が過剰に高温にならないように、それぞれ内部熱交換器8a、8bが設けられる。
なお、これらの4器の反応器には、それぞれ、重縮合反応により生成する副生物等を排出するための留出管11a、11b、11c、11dが取り付けられている。第1竪型攪拌反応器6aと第2竪型攪拌反応器6bについては留出液の一部を反応系に戻すために、還流冷却器9a、9bと還流管10a、10bがそれぞれ設けられている。還流比は反応器の圧力と、還流冷却器の熱媒温度とをそれぞれ適宜調整することにより制御可能である。
前記の留出管11a、11b、11c、11dは、それぞれ凝縮器12a、12b、12c、12dに接続し、また、各反応器は、減圧装置13a、13b、13c、13dにより、所定の減圧状態に保たれる。
尚、本実施の形態においては、各反応器にそれぞれ取り付けられた凝縮器12a、12b、12c、12dから、フェノール(モノヒドロキシ化合物)等の副生物が連続的に液化回収される。また、第3竪型攪拌反応器6cと第4横型攪拌反応器6dにそれぞれ取り付けられた凝縮器12c、12dの下流側にはコールドトラップ(図示せず)が設けられ、副生物が連続的に固化回収される。
所定の分子量まで上昇させた反応液は第4横型攪拌反応器6dから溶融ポリカーボネート樹脂として抜き出され、ギアポンプ4cによりベント式二軸押出機15aに移送される。二軸押出機15aには真空ベントが具備されており、ポリカーボネート樹脂中の残存低分子成分が除去される。本発明においては、この押出機で本発明のリン系化合物や、必要に応じて酸化防止剤や光安定剤、着色剤、離型剤などが添加される。
ベント式二軸押出機15aからギアポンプ4dによりポリマーフィルター15bに樹脂が供給され、異物が濾過される。フィルター15bを通った樹脂はダイスヘッドからストランド状に抜き出され、ストランド冷却槽16aで水により樹脂を冷却した後、ストランドカッター16bでペレットにされる。ペレットは空送ブロワー16cにより、気力輸送されて、製品ホッパー16dに送られ、計量器16eで所定量の製品が紙袋、フレコンなどの製品袋16fに梱包される。
本実施の形態では、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応に基づく重縮合は、以下の手順に従い開始される。先ず、図1に示す連続製造装置において、直列に接続された4器の反応器(第1竪型攪拌反応器6a、第2竪型攪拌反応器6b、第3竪型攪拌反応器6c、第4横型攪拌反応器6d)を、予め、所定の内温と圧力とにそれぞれ設定する。ここで、各反応器の内温、熱媒温度、圧力等の設定条件は、特に限定されないが、以下のように設定することが好ましい。
(第1竪型攪拌反応器6a)
内温:130℃〜230℃
圧力:40kPa〜10kPa
加熱媒体の温度:140℃〜240℃
還流比:0.01〜10
(第2竪型攪拌反応器6b)
内温:150℃〜230℃
圧力:40kPa〜8kPa
加熱媒体の温度:160℃〜240℃
還流比:0.01〜5
(第3竪型攪拌反応器6c)
内温:170℃〜230℃
圧力:10kPa〜1kPa
加熱媒体の温度:180℃〜240℃
(第4横型攪拌反応器6d)
内温:200℃〜260℃
圧力:1kPa〜10Pa
加熱媒体の温度:210℃〜270℃
これとは別に、原料混合槽2aにて窒素ガス雰囲気下、前記ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、所定のモル比で混合し、原料混合溶融液を得る。
続いて、前述した4器の反応器6a〜6dの内温と圧力が、それぞれの設定値の±5%の範囲内に達した後に、原料混合槽2aで調製した原料混合溶融液を、第1竪型攪拌反応器6a内に連続供給する。また、原料混合溶融液の供給開始と同時に、第1竪型攪拌反応器6a内に触媒供給口1eから触媒を連続供給し、エステル交換反応を開始する。
エステル交換反応が行われる第1竪型攪拌反応器6aでは、重合反応液の液面レベルは、所定の平均滞留時間になるように一定に保たれる。第1竪型攪拌反応器6a内の液面レベルを一定に保つ方法としては、通常、液面計等で液レベルを検知しながら槽底部のポリマー排出ラインに設けたバルブ(図示せず)の開度を制御する方法が挙げられる。
続いて、重合反応液は、第1竪型攪拌反応器6aの槽底から排出され、第2竪型攪拌反応器6bへ、続いて第2竪型攪拌反応器6bの槽底から排出され、第3竪型攪拌反応器6cへ逐次連続供給される。この前段反応工程において、副生するフェノールの理論量に対して50%から95%が留出され、オリゴマーが生成する。
次に、上記前段反応工程で得られたオリゴマーをギアポンプ4bにより移送し、第4横型攪拌反応器6dに供給して、後段反応を行なうのに適した温度・圧力条件下で、副生するフェノール及び一部未反応モノマーを、留出管11dを介して系外に除去してポリカーボネート樹脂を生成させる。
[ポリカーボネート樹脂の物性]
以下に、本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法により製造された本発明のポリカーボネート樹脂の好適な物性について説明する。
<還元粘度>
本発明のポリカーボネート樹脂の分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度は、通常0.30dL/g以上であり、0.32dL/g以上が好ましく、還元粘度の上限は、1.00dL/g以下、0.80dL/g以下がより好ましく、0.60dL/g以下が更に好ましい。ポリカーボネート樹脂の還元粘度が低すぎると成形品の機械的強度が小さい可能性があり、大きすぎると、成形する際の流動性が低下し、生産性や成形性を低下させる傾向がある。なお、ポリカーボネート樹脂の還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート樹脂濃度を0.6g/dLに精密に調整し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度管を用いて測定される。還元粘度の測定方法の詳細は実施例の項で記載する。
<溶融粘度>
本発明のポリカーボネート樹脂の溶融粘度は1000Pa・s以上、4000Pa・s以下が好ましく、さらには1200Pa・s以上、3500Pa・s以下が好ましく、特に1400Pa・s以上、3200Pa・s以下が好ましい。ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が上記範囲より低いと、ポリカーボネート樹脂が脆くなり、十分な機械物性を有する材料とならない。一方、溶融粘度が上記範囲よりも高いと、成形加工時に流動性が不足し、成形品の外観が損なわれたり、寸法精度が悪化したりする。また、剪断発熱により樹脂温度が上昇して、樹脂が着色したり発泡したりする懸念がある。なお、本明細書において溶融粘度とは、キャピラリーレオメーター[東洋精機(株)製]を用いて、測定温度240℃、剪断速度91.2sec−1における溶融粘度を示す。その測定方法の詳細は実施例の項で記載する。
<ガラス転移温度>
本発明のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は100℃以上、160℃以下であることが好ましく、さらには110℃以上、155℃以下が好ましく、特に120℃以上、150℃以下が好ましい。ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が低すぎると、高温下や高湿度下において成形品が変形するなどして、使用に耐えうる耐熱性を満足できない。一方、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が過度に高いと、成形加工の際に温度を高くせざるを得ず、ポリカーボネート樹脂の分子量低下や着色などの熱劣化を招いたり、ガスの発生により成形品の外観を損ねるおそれがある。なお、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される。測定条件の詳細は実施例の項で記載する。
<モノヒドロキシ化合物の残存量>
前記の重縮合反応において、炭酸ジエステルから脱離成分としてモノヒドロキシ化合物が生成する。例えば、炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネートを用いる場合は、生成するモノヒドロキシ化合物はフェノールである。炭酸ジエステルと同様にモノヒドロキシ化合物もポリカーボネート樹脂中に多く残存すると、成形加工時に問題を生じることがある。本発明のポリカーボネート樹脂中のモノヒドロキシ化合物の残存量は700重量ppm以下であることが好ましく、さらに500重量ppm以下であることが好ましく、特には300重量ppm以下であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂の製造時に、前述の触媒失活剤となる本発明のリン系化合物を適量用い、さらに十分に脱揮処理を行うことで、ポリカーボネート樹脂中のモノヒドロキシ化合物の残存量を低減し、かつ加熱下での発生を抑制することができる。ポリカーボネート樹脂中のモノヒドロキシ化合物量の測定方法の詳細は実施例の項で記載する。
<その他の低分子成分の残存量>
本発明のポリカーボネート樹脂においては、上記のモノヒドロキシ化合物に加えて、炭酸ジエステルや下記式(9)で表される化合物も樹脂中に残存し、成形加工時の不具合を招く可能性がある。
(上記式(9)において、A1及びA2は、前記式(8)におけると同義である。)
炭酸ジエステルや上記式(9)で表される化合物は、ポリカーボネート樹脂中のヒドロキシ基末端が少なくなるほど、または分子量が低くなるほど増加する傾向がある。前述したとおり、重合速度を調整しやすくするためにヒドロキシ基末端をある程度の量を残存させることが好ましいが、上記の低分子化合物の残存量を抑制するためにも好ましい。ポリカーボネート樹脂中の炭酸ジエステルの残存量は5重量ppm以上、200重量ppm以下となることが好ましい。また、上記式(9)で表される化合物の残存量は5重量ppm以上、400重量ppm以下となることが好ましい。特に上記式(9)で表される化合物は昇華性があり、融点も高いために、成形機表面に析出して、成形品の外観不良を招くおそれがある。
<異物量>
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法によれば、着色が少なく、異物の少ないポリカーボネート樹脂が得られるため、本発明のポリカーボネート樹脂から押出成形によって得られた厚さ35μm±5μmのフィルムに含まれる25μm以上の異物が、好ましくは300個/m2以下、より好ましくは、200個/m2以下、最も好ましくは100個/m2以下とすることができる。このように異物の少ない特性は、ポリカーボネート樹脂を光学用途に用いる際に特に好適である。なお、ここで、25μm以上の異物とは、上記フィルムをインラインで観察した際の画像において、異物を2本平行線で挟んだとき、この平行線の距離が最も大きくなる、異物の最大長(最大径)に相当する。
上記のとおり本発明のポリカーボネート樹脂は耐熱性および成形性にも優れ、さらに着色が少なく高い透明性を兼ね備えている。また、本発明のポリカーボネート樹脂は高温下や湿熱下での耐久性にも優れている。さらに、残存低分子成分が少なく、分子量の均一性が良好なため、溶融押出製膜などの成形加工の条件を安定化させ、均一な品質の成形品が取得できる。このため、本発明のポリカーボネート樹脂は、光学フィルムや光ディスク、光学プリズム、ピックアップレンズ等に用いることができるが、特に位相差フィルム等の透明フィルムの製膜原料として好適に用いられる。
以下において、本発明のポリカーボネート樹脂を製膜してなる本発明の透明フィルムのうち、後述の式(5)を満足するものを「本発明の位相差フィルム」と称す場合がある。
[透明フィルム]
本発明の透明フィルムは、本発明のポリカーボネート樹脂を製膜してなる透明フィルムであって、波長450nmで測定した位相差(R450)と波長550nmで測定した位相差(R550)の比が下記式(5)を満足することを特徴とする。
0.75≦R450/R550≦1.01 (5)
なお、以下において、本発明のポリカーボネート樹脂を製膜してなる本発明の透明フィルムを「本発明の位相差フィルム」と称す場合がある。
上記式(5)を満たす本発明の透明フィルムを製造する方法としては特に制限はないが、以下の方法で、本発明のポリカーボネート樹脂から未延伸フィルムを製造し、これを更に延伸配向させる方法が好ましい。
<未延伸フィルムの製造>
本発明のポリカーボネート樹脂を用いて未延伸フィルムを製膜する方法としては、本発明のポリカーボネート樹脂を溶媒に溶解させてキャストした後、溶媒を除去する流延法、溶媒を用いず溶融製膜する方法、具体的にはTダイを用いた溶融押出法、カレンダー成形法、熱プレス法、共押出法、共溶融法、多層押出、インフレーション成形法等があり、特に限定されないが、流延法は残存溶媒による問題が生じるおそれがあるため、好ましくは溶融製膜法、中でも後の延伸処理のし易さから、Tダイを用いた溶融押出法が好ましい。
溶融製膜法で未延伸フィルムを成形する場合、成形温度は好ましくは270℃以下であって、より好ましくは265℃以下、特には260℃以下とすることが好ましい。成形温度が高過ぎると、得られるフィルム中の異物や気泡の発生による欠陥が増加したり、フィルムが着色したりする可能性がある。ただし、成形温度が低過ぎると樹脂の溶融粘度が高くなりすぎ、原反フィルムの成形が困難となり、厚みの均一な未延伸フィルムを製造することが困難になる可能性があるので、成形温度の下限は通常200℃以上、好ましくは210℃以上、より好ましくは220℃以上である。ここで、未延伸フィルムの成形温度とは、溶融製膜法における成形時の温度であって、通常、溶融樹脂を押し出すダイス出口の温度を測定した値である。
フィルム中に異物が存在すると、偏光板として用いられた場合に光抜けなどの欠点として認識される。樹脂中の異物を除去するために、上記の押出機の後に前述のフィルターを取り付け、樹脂を濾過した後に、ダイスから押し出してフィルムを成形する方法が好ましい。
その際、押出機やフィルター、ダイスを配管でつなぎ、溶融樹脂を移送する必要があるが、配管内での熱劣化を極力抑制するため、滞留時間が最短になるように各設備を配置することが重要である。また、押出後のフィルムの搬送や巻き取りの工程はクリーンルーム内で行い、フィルムに異物が付着しないように最善の注意が求められる。
未延伸フィルムの厚みは、最終的に得られる延伸フィルムの膜厚の設定や、延伸倍率などの延伸条件に合わせて決められるが、厚すぎると厚み斑が生じやすく、薄すぎると延伸時の破断を招く可能性があるため、通常30μm以上、好ましくは40μm以上、さらに好ましくは50μm以上であり、また、通常200μm以下、好ましくは160μm以下、さらに好ましくは120μmである。また、未延伸フィルムに厚み斑があると、位相差フィルムの位相差斑を招くため、位相差フィルムとして使用する部分の厚みは設定厚み±3μm以下であることが好ましく、設定厚み±2μm以下であることが更に好ましく、設定厚み±1μm以下であることが特に好ましい。
未延伸フィルムの長手方向の長さは500m以上であることが好ましく、さらに1000m以上が好ましく、特に1500m以上が好ましい。生産性や品質の観点から、本発明のポリカーボネート樹脂から位相差フィルムを製造する際は、連続で延伸を行うことが好ましいが、通常、延伸開始時に所定の位相差に合わせ込むために条件調整が必要であり、フィルムの長さが短すぎると条件調整後に取得できる製品の量が減ってしまう。
上記のように得られた未延伸フィルムは、内部ヘイズが3%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましく、1%以下であることが特に好ましい。未延伸フィルムの内部ヘイズが上記上限値よりも大きいと光の散乱が起こり、例えば偏光子と積層した際、偏光解消を生じる原因となる場合がある。内部ヘイズの下限値は特に定めないが、通常0.1%以上である。
なお、内部ヘイズの測定時の測定サンプルは、事前にヘイズ測定を行っておいた粘着剤付き透明フィルムを、試料フィルムの両面に貼り合せ、外部ヘイズの影響を除去した状態のものを作成して用い、測定値は、粘着剤付き透明フィルムのヘイズ値の差分を用いる。
また、未延伸フィルムのb*値は3以下であることが好ましい。フィルムのb*値が大き過ぎると着色等の問題が生じる。b*値はより好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。
さらに、未延伸フィルムは、厚みによらず、当該フィルムそのものの全光線透過率が80%以上であることが好ましく、さらに85%以上であることが好ましく、特に90%以上であることが好ましい。全光線透過率が上記下限以上であれば、この未延伸フィルムから着色の少ないフィルムが得られ、偏光板と貼り合わせた際、偏光度や透過率の高い円偏光板となり、画像表示装置に用いた際に、高い表示品位を実現することが可能となる。なお、未延伸フィルムの全光線透過率の上限は特に制限はないが通常99%以下である。
さらに、未延伸フィルムは、光弾性係数が40×10−12Pa−1以下であることが好ましく、35×10−12Pa−1以下であることがさらに好ましく、30×10−12Pa−1以下であることが特に好ましい。光弾性係数が過度に大きいと、この未延伸フィルムから得られる位相差フィルムを偏光板と張り合わせると、画面の周囲が白くぼやけるような画像品質の低下が起きる可能性がある。特に大型の表示装置に用いられる場合にはこの問題が顕著に現れる。
なお、未延伸フィルムの光弾性係数は、具体的には、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
<延伸フィルム(位相差フィルム)の製造>
上記の通り得られた未延伸フィルムを延伸配向させることにより、本発明の位相差フィルムを得ることができる。ここで、延伸方法としては、縦一軸延伸、テンター等を用いる横一軸延伸、あるいはそれらを組み合わせた同時二軸延伸、逐次二軸延伸など公知の方法を用いることができる。
延伸はバッチ式で行ってもよいが、連続式で行うことが生産性において好ましい。さらにバッチ式に比べて、連続式の方がフィルム面内の位相差のばらつきの少ない位相差フィルムが得られる点においても好ましい。
延伸温度は原料として用いる樹脂のガラス転移温度(Tg)に対して、通常(Tg−20℃)〜(Tg+30℃)の範囲であり、好ましくは(Tg−10℃)〜(Tg+20℃)、さらに好ましくは(Tg−5℃)〜(Tg+15℃)の範囲内である。延伸倍率は目的とする位相差値により決められるが、縦、横それぞれ、通常1.2倍〜4倍、より好ましくは1.5倍〜3.5倍、さらに好ましくは2倍〜3倍である。延伸倍率が小さすぎると、所望とする配向度と配向角が得られる有効範囲が狭くなる。一方、延伸倍率が大きすぎると、延伸中にフィルムが破断したり、しわが発生するおそれがある。
延伸速度も目的に応じて適宜選択されるが、下記式で表される歪み速度で通常50〜2000%/min、好ましくは100〜1500%/min、より好ましくは200〜1000%/min、特に好ましくは250〜500%/minである。延伸速度が過度に大きいと延伸時の破断を招いたり、高温条件下での長期使用による光学的特性の変動が大きくなったりする可能性がある。また、延伸速度が過度に小さいと生産性が低下するだけでなく、所望の位相差を得るのに延伸倍率を過度に大きくしなければならない場合がある。
歪み速度(%/min)=
{延伸速度(mm/min)/原反フィルムの長さ(mm)}×100
上記延伸後は、加熱炉で熱固定処理を行ってもよいし、テンターの幅を制御したり、ロール周速を調整したりして、緩和工程を行ってもよい。熱固定処理の温度としては、未延伸フィルムに用いられる樹脂のガラス転移温度(Tg)に対し、60℃〜Tg、好ましくは70℃〜(Tg−5℃)の範囲で行う。熱固定処理温度が高すぎると、延伸により得られた分子の配向が乱れ、所望の位相差から大きく低下してしまう可能性がある。また、緩和工程を設ける場合は、延伸によって広がったフィルムの幅に対して、95%〜100%に収縮させることで、延伸フィルムに生じた応力を取り除くことができる。この際にフィルムにかける処理温度は、熱固定処理温度と同様である。上記のような熱固定処理や緩和工程を行うことで、高温条件下での長期使用による光学的特性の変動を抑制することができる。
本発明の位相差フィルムは、このような延伸工程における処理条件を適宜選択・調整することによって作製することができる。
上記のとおり得られる延伸フィルム(本発明の透明フィルムないしは本発明の位相差フィルム)は、遅相軸が延伸方向に一致しており(正の屈折率異方性を有する)、波長550nmにおける面内の複屈折(Δn)が0.0015以上であることが好ましく、0.0020以上がより好ましく、0.0025以上が特に好ましい。位相差は厚みと複屈折に比例するため、複屈折が過度に小さいと、設計どおりの位相差を発現させるためにはフィルムを厚くしなければならず、薄型の機器には適合できない可能性がある。高い複屈折を発現させるためには、延伸温度を低くする、延伸倍率を高くするなどして、ポリマー分子の配向度を上げなければならないが、そのような延伸条件ではフィルムが破断しやすくなるため、用いる樹脂が靱性に優れているほど有利である。
なお、複屈折(Δn)は後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
本発明の透明フィルムである位相差フィルムは、波長450nmで測定した位相差(R450)と波長550nmで測定した位相差(R550)の比が下記式(5)を満足する。
0.75≦R450/R550≦1.01 (5)
R450/R550は0.78以上、0.95以下がより好ましく、0.80以上、0.92以下がさらに好ましく、0.81以上、0.90以下が特に好ましい。前記比率がこの範囲であれば、可視領域の各波長において理想的な位相差特性を得ることができる。例えば1/4波長板としてこのような波長依存性を有する位相差フィルムを作製し、偏光板と貼り合わせることにより、円偏光板等を作製することができ、色相の波長依存性が少ない偏光板および表示装置の実現が可能である。一方、前記比率がこの範囲外の場合には、色相の波長依存性が大きくなり、可視領域のすべての波長において光学補償がなされなくなり、偏光板や表示装置に光が通り抜けることによる着色やコントラストの低下等の問題が生じる。
なお、位相差は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
本発明のポリカーボネート樹脂からなる位相差フィルムは、公知のヨウ素系あるいは染料系の偏光板と積層貼合することにより、各種ディスプレイ(液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED電界放出表示装置、SED表面電界表示装置)の視野角補償用、外光の反射防止用、色補償用、直線偏光の円偏光への変換用などに用いることができる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
なお、以下の評価は、ポリカーボネート樹脂中のモノヒドロキシ化合物の含有量以外は、最終的に得られたフィルター濾過後のポリカーボネート樹脂に対して行った。
モノヒドロキシ化合物の含有量については、各工程で採取したポリカーボネート樹脂について測定した。
(1)還元粘度の測定
ポリカーボネート樹脂のサンプルを塩化メチレンに溶解させ、0.6g/dLの濃度のポリカーボネート樹脂溶液を調製した。森友理化工業社製ウベローデ型粘度管を用いて、温度20.0℃±0.1℃で測定を行い、溶媒の通過時間t0と溶液の通過時間tから次式(i)より相対粘度ηrelを求め、相対粘度ηrelから次式(ii)より比粘度ηspを求めた。
ηrel=t/t0 ・・・(i)
ηsp=(η−η0)/η0=ηrel−1 ・・・(ii)
比粘度ηspを濃度c(g/dL)で割って、還元粘度ηsp/cを求めた。この値が高いほど分子量が大きい。
(2)ポリカーボネート樹脂中のモノヒドロキシ化合物、炭酸ジエステル、及び式(9)で表される化合物の含有量の測定
ポリカーボネート樹脂試料約1gを精秤し、塩化メチレン5mLに溶解して溶液とした後、総量が25mLになるようにアセトンを添加して再沈殿処理を行った。次いで、該処理液について液体クロマトグラフィーにより測定した。
用いた装置や条件は、次のとおりである。
・装置:(株)島津製作所製
システムコントローラ:CBM−20A
ポンプ:LC−10AD
カラムオーブン:CTO−10ASvp
検出器:SPD−M20A
分析カラム:Cadenza CD−18 4.6mmφ×250mm
オーブン温度:60℃
・検出波長:220nm
・溶離液:A液:0.1%リン酸水溶液、B液:アセトニトリル
A/B=50/50(vol%)からA/B=0/100(vol%)まで10分間でグラジエント、A/B=0/100(vol%)で5分間保持
・流量:1mL/min
・試料注入量:10μL
また、モノヒドロキシ化合物(後述する実施例においてはフェノール)、炭酸ジエステル(後述する実施例においてはジフェニルカーボネート)、及び式(9)で表される化合物(以下、「化合物(9)」と略記する。)それぞれについて、濃度を変更した溶液を調製し、上記の液体クロマトグラフィーと同じ条件で測定を行い、検量を作成してポリカーボネート樹脂中の含有量を算出した。尚、化合物(9)は、押出機の真空ベント配管中に析出した成分を採取し、該成分をアセトン溶液から再結晶することで精製して取り出した。
脱揮率は、押出機入口(最終反応器出口)のモノヒドロキシ化合物含有量(入口量)と、押出機出口(フィルター入口)のモノヒドロキシ化合物含有量(出口量)から、下記式より算出した値である。
また、増加量は、フィルター出口のモノヒドロキシ化合物含有量から、押出機出口(フィルター入口)のモノヒドロキシ化合物含有量を差し引いたものである。
脱揮率=(入口量−出口量)/入口量 ×100
(3)ヒドロキシ基末端量の測定
ポリカーボネート樹脂試料約25mgを秤取し、重クロロホルム約0.7mLに溶解し、これを内径5mmのNMR用チューブに入れ、1H−NMRスペクトルを測定した。
用いた装置及び条件は、次のとおりである。
・装置:日本電子社製JNM−AL400(共鳴周波数400MHz)
・測定温度:30℃
・緩和時間:6秒
・積算回数:128回
BHEPFとISBとPEGの共重合ポリカーボネートの1H−NMRの解析方法は以下のとおりとし、以下のピークの積分値を算出し、ヒドロキシ基末端量を算出した。
<積分値の測定範囲>
(a)8.0−7.5ppm:BHEPFカーボネートの繰り返し構造単位由来(プロトン数:2、分子量:464.51)
(b)5.6−4.7ppm:ISBカーボネートの繰り返し構造単位由来(プロトン数:3、分子量:172.14)
(c)3.6ppm:PEGカーボネートの繰り返し構造単位由来(プロトン数:85.3、分子量:1025.99)
(d)2.6ppm:ISBのヒドロキシ基末端由来(プロトン数:1)
(e)2.0ppm:ISBのヒドロキシ基末端由来(プロトン数:1)
(f)1.8ppm:BHEPFのヒドロキシ基末端由来(プロトン数:1)
<各構造のモル数に相当する値>
・全BHEPF構造単位:(a)積分値/2=(a´)
・全ISB構造単位:(b)積分値/3=(b´)
・全PEG構造単位:(c)積分値/85.3=(c´)
・ヒドロキシ基末端:(d)積分値+(e)積分値+(f)積分値=(d´)
<ヒドロキシ基末端の量(単位:mol/ton)>
(d´)/(e´)×1000000
ただし、(e´)=(a´)×464.51+(b´)×172.14+(c´)×1025.99とする。
(4)ポリカーボネート樹脂ペレットの色調の測定
ポリカーボネート樹脂ペレットの色相は、ASTM D1925に準拠して、コニカミノルタ(株)製分光測色計CM−5を用い、反射光で測定を行った。測定条件は測定径30mm、SCEを選択した。シャーレ測定用校正ガラスCM−A212を測定部にはめ込み、その上からゼロ校正ボックスCM−A124をかぶせてゼロ校正を行い、続いて内蔵の白色校正板を用いて白色校正を行った。白色校正板CM−A210を用いて測定を行い、L*が99.40±0.05、a*が0.03±0.01、b*が−0.43±0.01、YIが−0.58±0.01となることを確認した。ペレットのYIの測定は、内径30mm、高さ50mmの円柱ガラス容器にペレットを40mm程度の深さまで詰めて測定した。ガラス容器からペレットを取り出してから再度測定を行う操作を2回繰り返し、計3回の測定値の平均値を用いた。重合後に得られたポリカーボネート樹脂の色調を初期YIとする。
(5)乾熱試験
エスペック(株)製恒温恒湿槽PR−1Kの設定を120℃(湿度の制御なし)とし、ポリカーボネート樹脂のペレットを槽内に静置し、500時間処理した。500時間後にペレットを取り出し、上記と同様にペレットの色調を測定した。この値を乾熱処理後のYIとする。乾熱処理後のYIと初期YIとの差(「ΔYI1」という。)が小さいほど、高温下での安定性が優れることを示す。
(6)湿熱試験
エスペック(株)製恒温恒湿槽PR−1Kの設定を85℃、85%RHとし、ポリカーボネート樹脂のペレットを槽内に静置し、500時間処理した。500時間後にペレットを取り出し、上記と同様にペレットの色調を測定した。この値を湿熱処理後のYIとする。湿熱処理後のYIと初期YIとの差(「ΔYI2」という。)が小さいほど、湿熱下での安定性が優れることを示す。
(7)溶融粘度の測定
ポリカーボネート樹脂のペレットを90℃で5時間以上、真空乾燥した。乾燥した試料を用いて、東洋精機(株)製キャピラリーレオメーターで測定を行った。測定温度は240℃とし、剪断速度9.12〜1824sec−1間で溶融粘度を測定し、91.2sec−1における溶融粘度の値を用いた。ダイス径1mmφ×10mmLのオリフィスを使用した。
(8)ガラス転移温度の測定
エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製示差走査熱量計DSC6220を用いて測定した。ポリカーボネート樹脂試料約10mgを同社製アルミパンに入れて密封し、50mL/分の窒素気流下、昇温速度20℃/分で室温から250℃まで昇温した。3分間温度を保持した後、30℃まで20℃/分の速度で冷却した。30℃で3分保持し、再び200℃まで20℃/分の速度で昇温した。2回目の昇温で得られたDSCデータより、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度を求め、それをガラス転移温度とした。
(9)金属濃度の測定
(株)パーキンエルマー製マイクロウェーブ分解容器にポリカーボネート樹脂試料約0.5gを精秤し、97%硫酸2mLを加え、密閉状態にして230℃で10分間マイクロウェーブ加熱した。室温まで冷却後、68%硝酸1.5mLを加えて、密閉状態にして150℃で10分間マイクロウェーブ加熱した後、再度室温まで冷却を行い、68%硝酸2.5mLを加え、再び密閉状態にして230℃で10分間マイクロウェーブ加熱し、内容物を完全に分解させた。室温まで冷却後、上記で得られた液を純水で希釈し、サーモクエスト(株)製ICP−MSで定量した。
(10)異物数の測定
1軸押出機(口径20mm、シングルフライト、L/D=25)とキャストフィルムダイ(150mm幅)、冷却ロールを用いて、厚さ35μm±5μmのフィルムを成形した。Optical Control System社製、Film Quality Testing System(型式FSA100)を使用し、押出製膜をしたフィルムをインラインで3m2観察して、1m2当たりの25μm以上の異物数を測定した。
(11)未延伸フィルムの製膜
90℃で5時間以上真空乾燥をしたポリカーボネート樹脂を、いすず化工機(株)製単軸押出機、スクリュー径25mm、シリンダー設定温度:220℃、Tダイ(幅200mm、設定温度:220℃)、チルロール(設定温度:120〜130℃)及び巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み100μm±5μmの未延伸フィルムを作製した。
(12)光弾性係数の測定
上記(11)で作成した未延伸フィルムから幅5mm、長さ20mmのサンプルを切り出し、He−Neレーザー、偏光子、補償板、検光子、及び光検出器からなる複屈折測定装置とレオロジー社製振動型粘弾性測定装置DVE−3を組み合わせた装置を用いて測定した。(詳細は、日本レオロジー学会誌Vol.19、p93−97(1991)を参照。)切り出したサンプルを粘弾性測定装置に固定し、25℃の室温で貯蔵弾性率E'を周波数96Hzにて測定した。同時に、出射されたレーザー光を偏光子、試料、補償板、検光子の順に通し、光検出器(フォトダイオード)で拾い、ロックインアンプを通して角周波数ω又は2ωの波形について、その振幅とひずみに対する位相差を求め、ひずみ光学係数0'を求めた。このとき、偏光子と検光子の方向は直交し、またそれぞれ、試料の伸長方向に対してπ/4の角度をなすように調整した。光弾性係数は、貯蔵弾性率E'とひずみ光学係数0'を用いて次式より求めた。
光弾性係数=0'/E'
(13)位相差、及び波長分散性の測定
上記(11)で作成した未延伸フィルムから幅6cm、長さ12cmの試料を切り出した。この試料をアイランド工業(株)製二軸延伸装置BIX−277−ALを用いて、延伸速度300%/min、延伸倍率2倍で、自由端一軸延伸を行った。延伸温度はポリカーボネート樹脂のガラス転移温度Tg+10℃に設定し、破断せずに延伸フィルムが得られた場合は延伸温度を1℃ずつ下げ、破断が生じる温度まで延伸を繰り返した。
破断が生じた一つ前の温度で取得した延伸フィルムから幅4cm、長さ4cmの試料を切り出し、王子計測機器(株)製位相差測定装置KOBRA−WPRにより測定波長450nmの位相差(R450)及び550nmの位相差(R550)を測定した。両測定値の比(R450/R550)を位相差の波長分散性の指標とした。また、次式より550nmにおける複屈折を求めた。
複屈折=R550[nm]/(延伸フィルムの厚み[mm]×1000000)
[使用原料]
以下の実施例及び比較例で用いた化合物の略号、及び製造元は次の通りである。
<ジヒドロキシ化合物>
・BHEPF:9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン[大阪ガスケミカル(株)製]
・ISB:イソソルビド[ロケットフルーレ社製]
・PEG:分子量1000のポリエチレングリコール[三洋化成(株)製]
・CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール[SKChemical社製]
・TCDDM:トリシクロデカンジメタノール[オクセア社製]
<炭酸ジエステル>
・DPC:ジフェニルカーボネート[三菱化学(株)製]
<熱安定剤>
・Irganox1010:ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート][BASF社製]
<リン化合物(触媒失活剤)>
・亜リン酸[太平化学産業(株)製](分子量82.0)
・リン酸[東京化成工業(株)製](分子量98.0)
・ホスホン酸ビス(2−エチルヘキシル)[城北化学工業(株)製](分子量306.4)(以下「DEHPA」と略記する。)
・AX−71:リン酸ジステアリル(モノエステルとジエステルの混合物)[(株)ADEKA製](分子量476.7)
・PEP−8:ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト[(株)ADEKA製](分子量366.5)
・亜リン酸トリフェニル[東京化成工業(株)製](分子量310.3)
・リン酸トリス(2−エチルヘキシル)[東京化成工業(株)製](分子量434.6)(以下「TEHP」と略記する。)
・PTSB:p−トルエンスルホン酸ブチル[東京化成工業(株)製](分子量228.3)
[ポリカーボネート樹脂の製造例1]
図1に示すように、竪型攪拌反応器3器と横型攪拌反応器1器、並びに二軸押出機からなる連続重合設備を用いて、ポリカーボネート樹脂の重合を行った。BHEPFとISBとPEGとDPCをそれぞれタンクで溶融させ、BHEPFを40.4kg/hr、ISBを13.6kg/hr、PEGを0.6kg/hr、DPCを40.2kg/hr(モル比でBHEPF/ISB/PEG/DPC=0.497/0.500/0.003/1.010)の流量で第1竪型攪拌反応器に連続的に供給した。同時に、触媒として酢酸マグネシウム4水和物の水溶液を全ジヒドロキシ化合物1molに対して8μmolとなるように第1竪型攪拌反応器に供給した。第1竪型攪拌反応器での平均滞留時間が90分となるように、反応器底部の移送配管に設けられたバルブの開度を制御しつつ、液面レベルを一定に保った。反応器底部より排出された反応液は、引き続き第2竪型攪拌反応器、第3竪型攪拌反応器、第4横型攪拌反応器[(株)日立プラントテクノロジー製2軸メガネ翼]に逐次連続供給された。第1竪型攪拌反応器と第2竪型攪拌反応器は還流冷却器を具備しており、還流比を調節することで、未反応のジヒドロキシ化合物とDPCの留出を抑制した。
各反応器の反応温度、内圧、滞留時間はそれぞれ、第1竪型攪拌反応器:195℃、27kPa、90分、第2竪型攪拌反応器:200℃、20kPa、45分、第3竪型攪拌反応器:220℃、10kPa、45分、第4横型攪拌反応器:240℃、0.5kPa、90分とした。得られるポリカーボネート樹脂の還元粘度が0.33dL/gから0.35dL/gとなるように、第4横型攪拌反応器の内圧を微調整しながら運転を行った。
第4横型攪拌反応器より60kg/hrの量でポリカーボネート樹脂を抜き出し、続いて樹脂を溶融状態のままベント式二軸押出機[(株)日本製鋼所製TEX30α、L/D:42.0]に供給した。押出機を通過したポリカーボネート樹脂は、引き続き溶融状態のまま、目開き10μmのキャンドル型フィルター(SUS316製)を通して異物を濾過した。その後、ダイスからストランド状に排出させ、水冷、固化させた後、回転式カッターでペレット化し、BHEPF/ISB/PEGの共重合ポリカーボネート樹脂Aを得た。ポリカーボネート樹脂AのBHEPFに由来する構造単位の含有量は67.8重量%である。
前記押出機は3つの真空ベント口を有しており、ここで樹脂中の残存低分子成分を脱揮除去した。各ベント口の真空圧力は0.1kPaであった。第2ベントの手前で樹脂に対して2000重量ppmの水を添加し、注水脱揮を行った。第3ベントの手前でIrganox1010をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.1重量部添加した。押出機のシリンダー温度は220℃、スクリュー回転数は215rpm(周速0.34m/sec)に設定した。
押出機の樹脂供給口の手前のポリカーボネート樹脂、押出機出口のポリカーボネート樹脂、及びペレット化したポリカーボネート樹脂(フィルター出口と同等)を採取し、前述の各種評価を行った。
得られたポリカーボネート樹脂Aの溶融粘度は2930Pa・sであり、ガラス転移温度は144℃であった。樹脂中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計の含有量は0.1重量ppm以下であった。
[ポリカーボネート樹脂の製造例2]
製造例1と同じ重合設備を用いて、ポリカーボネート樹脂の重合を行った。BHEPFとISBとCHDMとDPCをそれぞれタンクで溶融させ、BHEPFを26.8kg/hr、ISBを18.8kg/hr、CHDMを7.6kg/hr、DPCを52.3kg/hr(モル比でBHEPF/ISB/CHDM/DPC=0.252/0.532/0.216/1.008)の流量で第1竪型攪拌反応器に連続的に供給した。同時に、触媒として酢酸カルシウム1水和物の水溶液を全ジヒドロキシ化合物1molに対して4μmolとなるように第1竪型攪拌反応器に供給した。各反応器の反応条件は製造例1と同様にして行い、得られるポリカーボネート樹脂の還元粘度が0.40dL/gから0.42dL/gとなるように、第4横型攪拌反応器の内圧を微調整しながら運転を行い、BHEPF/ISB/CHDMの共重合ポリカーボネート樹脂Bを得た。ポリカーボネート樹脂BのBHEPFに由来する構造単位の含有量は44.8重量%である。
得られたポリカーボネート樹脂Bの溶融粘度は2750Pa・sであり、ガラス転移温度は136℃であった。樹脂中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計の含有量は0.1重量ppm以下であった。
[ポリカーボネート樹脂の製造例3]
製造例1と同じ重合設備を用いて、ポリカーボネート樹脂の重合を行った。BHEPFとISBとTCDDMとDPCをそれぞれタンクで溶融させ、BHEPFを16.2kg/hr、ISBを25.8kg/hr、TCDDMを10.5kg/hr、DPCを57.6kg/hr(モル比でBHEPF/TCDDM/CHDM/DPC=0.138/0.662/0.200/1.007)の流量で第1竪型攪拌反応器に連続的に供給した。同時に、触媒として酢酸カルシウム1水和物の水溶液を全ジヒドロキシ化合物1molに対して4μmolとなるように第1竪型攪拌反応器に供給した。各反応器の反応条件は製造例1と同様にして行い、得られるポリカーボネート樹脂の還元粘度が0.38dL/gから0.40dL/gとなるように、第4横型攪拌反応器の内圧を微調整しながら運転を行い、BHEPF/ISB/TCDDMの共重合ポリカーボネート樹脂Cを得た。ポリカーボネート樹脂CのBHEPFに由来する構造単位の含有量は27.1重量%である。
得られたポリカーボネート樹脂Cの溶融粘度は2700Pa・sであり、ガラス転移温度は140℃であった。樹脂中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計の含有量は0.1重量ppm以下であった。
[実施例1]
製造例1において、亜リン酸を重合触媒である酢酸マグネシウム1molに対して1.0倍molとなるようにポリカーボネート樹脂に添加した。亜リン酸は次のようにして添加した。得られたポリカーボネート樹脂Aのペレットに、亜リン酸のエタノール溶液をまぶして混合したマスターペレット(亜リン酸含有量205重量ppm)を調製し、押出機の第1ベント口の手前(押出機の樹脂供給口側)から、押出機中のポリカーボネート樹脂100重量部に対して、マスターペレットを1重量部となるように供給した。また、前述の目標還元粘度となるように最終重合反応器である第4横型攪拌反応器の圧力を調整した結果、1.8〜2.0kPaとなった。
押出機でのモノヒドロキシ化合物の脱揮率は75%と高く、ポリマーフィルター内での生成量も80ppmと少なく、最終的に得られたポリカーボネート樹脂中のモノヒドロキシ化合物の残存量は610ppmと十分に少ないものが得られた。初期のYI、乾熱処理後のYI、湿熱処理後のYIいずれも良好であり、高温下や湿熱下での安定性に優れたポリカーボネート樹脂が得られた。これらの評価結果を表3に示した。
また、製造の安定性を検証するため、24時間の重合運転中に2時間おきにポリカーボネート樹脂を採取し、計12点の還元粘度を測定したところ、表5に示す通り、還元粘度の測定値は非常に狭い範囲に収まり、均一な品質のポリカーボネート樹脂が得られたことを確認した。
得られたポリカーボネート樹脂を用いて、上記の方法でフィルムを製膜し、光学物性を測定した。波長分散性R450/R550は0.81であり、1/4波長板として好適な物性値を示した。光弾性係数は28×10−12Pa−1と比較的低く、複屈折Δnは0.0025であり、良好な配向性を示した。これらの評価結果を表5に示した。
[実施例2]
亜リン酸の添加量を重合触媒に対して3.0倍molとなるように変更した以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表3に示す。
実施例1と同様に品質の良好なポリカーボネート樹脂が得られた。亜リン酸の添加量を増やすことでモノヒドロキシ化合物の残存量を低減することはできたが、湿熱下での着色がやや大きくなった。
[実施例3]
実施例1で調製した亜リン酸のマスターペレットを第3ベントの手前で添加した以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表3に示す。
比較的品質の良好なポリカーボネート樹脂は得られたが、押出機でのモノヒドロキシ化合物の脱揮率が低下し、ポリマーフィルター内での生成量も増加したため、最終的に得られたポリカーボネート樹脂中のモノヒドロキシ化合物の残存量は実施例1よりも増加した。
この結果から、本発明のリン系化合物をポリカーボネート樹脂に分散させた後に押出機で脱揮処理することで、効率的に残存低分子成分を除去できることが分かる。
[実施例4]
押出機のベント圧力を1.0kPaとした以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表3に示す。
比較的品質の良好なポリカーボネート樹脂は得られたが、実施例1と比較して、押出機でのモノヒドロキシ化合物の脱揮率が低下し、また、ポリカーボネート樹脂の色調も悪化する結果となった。
[実施例5]
押出機スクリューの回転数を300rpm(周速0.47m/sec)とした以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表3に示す。
本例では、押出機出口の樹脂温度は298℃に上昇した。実施例1と比較して、押出機でのモノヒドロキシ化合物の脱揮率は上昇したが、ポリマーフィルター内での生成量が増加し、最終的に得られたポリカーボネート樹脂中のモノヒドロキシ化合物の残存量は実施例1と同程度であった。一方で、ポリカーボネート樹脂の色調は実施例1よりも悪化した。
実施例4と実施例5の結果より、本発明のリン系化合物を用い、押出機の条件を適切に設定することで、低分子成分の残存量が少なく、色調にも優れたポリカーボネート樹脂を得られることが分かる。
[実施例6]
亜リン酸に替えて、DEHPA(ホスホン酸ビス(2−エチルヘキシル))を重合触媒に対して3.0倍molとなるように添加した以外は実施例1と同様に行った。DEHPAはエタノール溶液としてからポリカーボネート樹脂Aのペレットにまぶして混合し、このマスターペレットを押出機に供給した。評価結果を表3に示す。
比較的品質の良好なポリカーボネート樹脂が得られたが、実施例1と比較して、モノヒドロキシ化合物の残存量はやや多くなった。一方、初期のYIと乾熱処理後のYIは実施例1よりも良好であったが、湿熱処理後のYIは実施例1よりも悪く、湿熱下での安定性はやや劣る結果となった。
[実施例7]
亜リン酸に替えて、AX−71を重合触媒に対して1.0倍molとなるように添加した以外は実施例1と同様に行った。AX−71はエタノール溶液としてからポリカーボネート樹脂Aのペレットにまぶして混合し、このマスターペレットを押出機に供給した。評価結果を表3に示す。
比較的品質の良好なポリカーボネート樹脂が得られたが、実施例1と比較して、モノヒドロキシ化合物の残存量がやや多く、色調も劣る結果となった。
[実施例8]
亜リン酸に替えて、リン酸を重合触媒に対して0.8倍molとなるように添加した以外は実施例1と同様に行った。リン酸はエタノール溶液としてからポリカーボネート樹脂Aのペレットにまぶして混合し、このマスターペレットを押出機に供給した。評価結果を表3に示す。
比較的品質の良好なポリカーボネート樹脂が得られたが、実施例1と比較して、モノヒドロキシ化合物の残存量は少なくなったものの、色調は劣っていた。また、湿熱処理後のYIが大きくなり、湿熱下での安定性が悪い結果となった。
[実施例9]
製造例2において、亜リン酸を重合触媒である酢酸カルシウム1molに対して1.0倍molとなるようにポリカーボネート樹脂に添加した。他の条件は実施例1と同様に行った。評価結果を表3に示す。
ポリカーボネート樹脂Bにおいても同様に、モノヒドロキシ化合物の残存量が少なく、初期のYI、滞留のYI、湿熱処理後のYIいずれも良好なものが得られた。
また、実施例1と同様に、製造の安定性を検証したが、表5に示す通り、計12点の還元粘度の測定値は非常に狭い範囲に収まり、均一な品質のポリカーボネート樹脂が得られることを確認した。
また、得られたポリカーボネート樹脂を用いて、上記の方法でフィルムを製膜し、光学物性を測定したところ、波長分散性R450/R550は0.98であり、フラットな波長分散性を示した。光弾性係数は25×10−12Pa−1と比較的低く、複屈折Δnは0.0083であり、高い配向性を示した。これらの評価結果を表5に示した。
[実施例10]
製造例3において、亜リン酸を重合触媒である酢酸カルシウム1molに対して1.0倍molとなるようにポリカーボネート樹脂に添加した。他の条件は実施例1と同様に行った。評価結果を表3に示す。
ポリカーボネート樹脂Cにおいても同様に、モノヒドロキシ化合物の残存量が少なく、初期のYI、滞留のYI、湿熱処理後のYIいずれも良好なものが得られた。
また、実施例1と同様に、製造の安定性を検証したが、表5に示す通り、計12点の還元粘度の測定値は非常に狭い範囲に収まり、均一な品質のポリカーボネート樹脂が得られることを確認した。
また、得られたポリカーボネート樹脂を用いて、上記の方法でフィルムを製膜し、光学物性を測定したところ、波長分散性R450/R550は1.00であり、フラットな波長分散性を示した。光弾性係数は22×10−12Pa−1と比較的低く、複屈折Δnは0.0070であり、高い配向性を示した。これらの評価結果を表5に示した。
[比較例1]
亜リン酸を添加しなかった以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表4に示す。
実施例1と比較して、押出機でのモノヒドロキシ化合物の脱揮率が低下し、ポリマーフィルター内での生成量も増加したために、最終的に得られたポリカーボネート樹脂中のモノヒドロキシ化合物の残存量が多くなった。また、初期のYIと乾熱処理後のYIについても悪化した。
実施例1と同様に製造の安定性を検証したところ、表5に示す通り、計12点の還元粘度の測定値はややばらつきが大きく、分子量(溶融粘度)の変動が大きくなった。押出機内が減圧となって、重合反応が進行する状態になっているため、触媒失活剤を添加しないと、末端基バランスの微妙な変動によっても分子量の変化が起こってしまうことが原因と考えられる。
[比較例2]
比較例1で得られたポリカーボネート樹脂のペレットに、亜リン酸を重合触媒に対して1.0倍molとなるように添加した。亜リン酸はエタノール溶液としてからペレットにまぶして混合した。この亜リン酸を混合したペレットを実施例1と同様の構成の押出機に15kg/hrの速度で供給した。押出機スクリューの回転数は160rpm(周速0.25m/sec)、真空ベントの圧力は0.1kPaとした。評価結果を表4に示す。
再度、押出脱揮処理することでポリカーボネート樹脂中のモノヒドロキシ化合物は低減することができたが、色調は悪化し、また、樹脂中の異物量が非常に多くなった。
[比較例3]
実施例1において、DPCの仕込み量を増やすことで、ヒドロキシ基末端の量を増やした。反応終盤の重合速度が抑制されたため、前述の目標還元粘度となるように最終重合槽の圧力を調整した結果、0.1kPa以下となった。また、亜リン酸を添加しなかった以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表4に示す。
最終重合槽の真空圧力を低く保つことで、モノヒドロキシ化合物の残存量は実施例1と同程度まで低減できたが、色調は実施例1よりも劣る結果となった。また、ヒドロキシ基末端を減らすことで、炭酸ジエステルと化合物(9)の残存量が増加し、さらに、ポリカーボネート樹脂の製造中に目標の還元粘度範囲から低めに外れることがあったが、最終反応の真空圧力をこれ以上調整することができず、還元粘度を目標範囲内に制御することができなかった。
[比較例4]
亜リン酸を重合触媒に対して6.0倍molとなるように添加した以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表4に示す。
実施例1と比較して、モノヒドロキシ化合物の残存量は減らすことができたが、湿熱処理後のYIが大きく上昇した。
この結果から、本発明のリン系化合物の添加量は多すぎると湿熱下での安定性が悪化することが分かる。
[比較例5〜8]
亜リン酸に替えて、本発明のリン系化合物とは異なる、TEHP(リン酸トリス(2−エチルヘキシル))、亜リン酸トリフェニル、PEP−8、PTSBをそれぞれ用いた以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表4に示す。
いずれもモノヒドロキシ化合物の残存量低減や、色調向上などの効果は見られなかった。
[比較例9]
亜リン酸を添加しなかった以外は実施例9と同様に行った。評価結果を表4に示す。
実施例9と比較して、押出機でのモノヒドロキシ化合物の脱揮率が低下し、ポリマーフィルター内での生成量も増加したために、最終的に得られたポリカーボネート樹脂中のモノヒドロキシ化合物の残存量が多くなった。また、初期のYIと乾熱処理後のYIについても悪化した。
実施例1と同様に製造の安定性を検証したところ、表5に示す通り、計12点の還元粘度の測定値はややばらつきが大きく、分子量(溶融粘度)の変動が大きくなった。
[比較例10]
亜リン酸を添加しなかった以外は実施例10と同様に行った。評価結果を表4に示す。
実施例10と比較して、押出機でのモノヒドロキシ化合物の脱揮率が低下し、ポリマーフィルター内での生成量も増加したために、最終的に得られたポリカーボネート樹脂中のモノヒドロキシ化合物の残存量が多くなった。また、初期のYIと乾熱処理後のYIについても悪化した。
実施例1と同様に製造の安定性を検証したところ、表5に示す通り、計12点の還元粘度の測定値はややばらつきが大きく、分子量(溶融粘度)の変動が大きくなった。
以上の実施例1〜10及び比較例1〜10の製造条件等を表1,2に、また、ポリカーボネート樹脂の評価結果を表3〜5にまとめて示す。