連載
季語刻々
季節折々の句を紹介します。
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雪しまきとどまれば身の剥落す
2024/12/20 02:03 189文字◆今 ◇雪しまきとどまれば身の剥落す 久保田哲子 「雪しまき」が季語。雪と風が吹き荒れるさまを言い、「雪しまく」という動詞としても用いられる。「しまき」の漢字は「風巻」。句集「翠陰(すいいん)」(朔出版)から。作者は札幌市に住むが、「身の剥落す」という表現が、作者の体験した雪しまきの激しさを示して
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ポインセチア愛の一語の虚実かな
2024/12/19 02:02 182文字◆昔 ◇ポインセチア愛の一語の虚実かな 角川源義 「愛」という語にはウソと真実が入り交じっている。その語をたとえれば、この真っ赤なポインセチアだ。以上のような句意だろうか。作者は角川書店の創業者。「新版角川俳句大歳時記・冬」は、欧州ではクリスマスにキリストの血の色である赤を飾る習慣があり、それでポ
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種火いまポインセチアに発火せし
2024/12/18 02:00 181文字◆今 ◇種火いまポインセチアに発火せし 本郷和子 「種火」という語がボクは好きである。いつでも火がおこせるように残しておく小さな火が種火だが、炭やまきが燃料だった時代にはとっても大事だった。今日の句、種火が発火してポインセチアになった、と見た。句集「生ききる」(自家版)から。種火はまさに生ききって
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納豆を檀家へ配る師走かな
2024/12/17 02:00 188文字◆昔 ◇納豆を檀家(だんか)へ配る師走かな 夏目漱石 納豆には粘りのある糸引き納豆、粘りのない塩辛納豆の二つの系統があり、共に古くは寺院で作られた。糸引き納豆は天台宗系、塩辛納豆は禅宗系だという。以上は「たべもの起源事典」(ちくま学芸文庫)によったが、漱石がこの句を詠んだ明治の中ごろには、寺院が檀
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青空を帆走る雲や十二月
2024/12/16 02:01 190文字◆今 ◇青空を帆走(ほばし)る雲や十二月 矢野景一 帆によって航行するのが帆走だが、この語には大気を利用して飛行するという意味もある。今日の句の「帆走る」は後者の意味であろう。ともあれ、帆走を「帆走る」と動詞にして使ったのは作者の手柄だろう。雲が生き生きと感じられる。句集「圭復」(文学の森)から。
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ころがされ蹴られ何見る鰤の目は
2024/12/15 02:01 182文字◆昔 ◇ころがされ蹴られ何見る鰤(ぶり)の目は 加藤楸邨 この句の風景、魚市場でときどき目にする。大きいブリが無造作に床に置かれていて、「ころがされ蹴られ」ているように見える。魚は切っても煮ても目を開いている。ボクはあら炊きが大好きで、先日も近所のすし屋で食べた。ちょっと高めのあら炊きだったので、
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ぶりぶりととなえる子ども鰤を煮る
2024/12/14 02:05 197文字◆今 ◇ぶりぶりととなえる子ども鰤(ぶり)を煮る 紀本直美 子どもがぶりぶりと唱えて煮えるのを待っているのだろう。ブリ大根でも煮ている? 「朝ごはんと俳句365日」(人文書院)から。この本にはボクの俳句仲間の朝ごはんのメニューが出ているが、紀本さんのそれは「お椀(わん)に鰹節(かつおぶし)と、とろ
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玉葱の煮えざるを煮つ火鉢かな
2024/12/13 02:01 190文字◆昔 ◇玉葱(たまねぎ)の煮えざるを煮つ火鉢かな 夏目漱石 冬の野菜で漱石が詠んだのは大根とネギだけ。食生活が貧しい感じ。ところで、漱石の朝食はパンが多く、火鉢で焼いて砂糖をかけて食べたらしい。1909年の日記には「パンを食つて、ただぶらぶらす。閑適(かんてき)。(略)細君の顔少しく美しく見ゆ」と
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孫の手に余る白菜のまるまる
2024/12/12 02:01 177文字◆今 ◇孫の手に余る白菜のまるまる 太田正己 「朝ごはんと俳句365日」(人文書院)から。炊き立てのごはんにちょこんと乗せたすぐきの新漬け、サツマイモのみそ汁、白菜の漬物。以上が太田さんの朝ごはん。簡素だがうまそう。白菜の漬物は、孫が切った不ぞろいの白菜を妻が漬けたものらしい。この本にはボクの俳句
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戸を開けて驚く雪の晨かな
2024/12/11 02:01 198文字◆昔 ◇戸を開けて驚く雪の晨(あした)かな 夏目漱石 漱石の1909年の日記に「朝起きると真白に雪が積(つも)つてゐる」とある。今日の句はこの日記のままの風景。やはり漱石の11年12月の日記には「こたつであい子とふざけて遊ぶ。御八(おや)つの焼芋(やきいも)を食ふ」と書かれている。あい子は漱石の四
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自画像のその背景の窓も雪
2024/12/10 02:02 180文字◆今 ◇自画像のその背景の窓も雪 今井聖(せい) 句集「九月の明るい坂」(朔出版)から。窓の外は雪。壁にかかった自画像の窓にも雪が降っている。その降っている雪が動いている。ちょうど今、窓の外に降っている雪のように、という句。絵の窓と実際の窓、その二つの窓の雪が通じ合っている気配だ。今井さんは横浜市
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にんげんはもういやふくろうと居る
2024/12/8 02:01 186文字◆昔 ◇にんげんはもういやふくろうと居る 石牟礼道子 フクロウは首が上下左右に180度まわり、真後ろを見ることができるらしい。耳もよくて、土中を移動するモグラ、ミミズなどの音を察知して捕獲するという。また、羽音をたてないで飛んで餌の小動物をつかまえる。人間とは異なる能力を発揮して生きている。「石牟
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梟のあたためている風の音
2024/12/7 02:01 182文字◆今 ◇梟(ふくろう)のあたためている風の音 花谷清 ローマ神話の女神・ミネルバはフクロウを従えていて、そのフクロウは知恵の象徴だという。花谷さんは大学生時代からの仲間だが、この句のフクロウがあたためている風の音とは知恵そのものかも。ちなみに、今月半ば、ボクの「高浜虚子 余は平凡が好きだ」(ミネル
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いと古りし毛布なれども手離さず
2024/12/6 02:01 187文字◆昔 ◇いと古(ふ)りし毛布なれども手離さず 松本たかし 端がほつれた愛用の毛布がボクにもある。寝ころがってテレビを見たり、昼寝をしたりするときに欠かせない。実は、この冬、その古毛布をめぐって妻と闘争中。妻は捨てようとするが、ボクはかたくなに固守している。毛布の端にひもを結び、机の脚にくくり付け、
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毛布掛けてまどろむ昼のテレビジョン
2024/12/5 02:00 198文字◆今 ◇毛布掛けてまどろむ昼のテレビジョン 萩原渓人(けいと) 句集「岩魚(いわな)」(ウエップ)から。作者は1943年生まれ、さいたま市に住む。ボクと同世代だが、この句の風景はボクの日常。それにしても冬の毛布はありがたい。うつらうつらするときに最適のアイテムである。ちなみに、テレビを見たり読書を
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爛々と虎の眼に降る落葉
2024/12/4 02:01 198文字◆昔 ◇爛々(らんらん)と虎の眼(まなこ)に降る落葉(おちば) 富沢赤黄男(かきお) 虎の眼が火を発して落ち葉に火がつきそう。中島敦の名作「山月記」の虎と同様にこの句の虎も孤独そのものという感じ。赤黄男は1902年に現在の愛媛県八幡浜市に生まれた。高校時代、ボクは彼の生家のすぐそばに下宿していた。
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とは言へど淋しくなれば落葉蹴り
2024/12/3 02:01 199文字◆今 ◇とは言へど淋(さび)しくなれば落葉(おちば)蹴り 福神規子(のりこ) 句集「火のにほひ」(ふらんす堂)から。作者は1951年生まれ、東京都世田谷区に住む。この句集は第4句集だが、「とは言へど蟬(せみ)の穴とはただの穴」という句もあって、「とは言へど」がもしかしたら口癖かも。ボクもまねをして
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納戸までとどく朝の日十二月
2024/12/2 02:02 175文字◆昔 ◇納戸までとどく朝の日十二月 黛執 南向きの窓を左にして机に向かっている。今の時期、日ざしが机上のパソコンにまで及ぶ。だから天気のいい日は日覆いのカーテンを引いている。日ざしをカーテンで調整しながら過ごす、それが例年のボクの12月である。そういえばかつて「十二月どうするどうする甘納豆」と詠ん
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十二月コントラバスは待っている
2024/12/1 02:01 182文字◆今 ◇十二月コントラバスは待っている 山田まさ子 はやくも、というか、ついにというか、今日からもう12月。この句、12月という月のどこかでコントラバスがまっている、というのだろうか。そういえばボクには「雪が来るコントラバスに君はなれ」がある。ボク自身がコントラバスになりたいと思って作った句だ。今
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鰭酒のかうばしき香にむせび泣く
2024/11/30 02:03 192文字◆昔 ◇鰭酒(ひれざけ)のかうばしき香にむせび泣く 高浜年尾(としお) ひれ酒はたしかに香ばしい。この句、ついついひれ酒を飲み過ぎたようすか。いわゆる泣き上戸で、「ねえ、かなしいよね。あいつがもういないなんて……」と泣いている。もっとも、近年、泣き上戸や酒癖の悪い人がいなくなった。かつては酒を飲む
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