読んだときはまだ10代ですから、優雅と諦念が建築という世界でどう役立つかなんて、分かりっこありません。ただ、10代で「諦念ってカッコいいんだ」と感銘を受けたことは、その後の人生に明らかに役立ちました。その一つに、日本ならではの木造建築を、西洋の石の文化に気後れすることなく、世界にぶつけられたことがあると思います。 実際、この本で描かれる「ヨオロッパの世紀末」みたいなものを、日本は歴史の中で何度も繰り返しているわけです。平安末期や千利休が生きた時代なんて、まさにそうです。利休による「わび」「さび」は、物質的、成り金的なものに対する否定で、日本にはもともとそういうアンチ近代の精神がある。 建築でいうと、重厚でデコラティブな石造りではなく、ましてやガラスやコンクリートの超高層タワーでもなく、木造のボロ家を美しいと愛(め)でる感性。それこそが、世界の建築界で埋もれずに闘っていくための、強力な武器に