第171回 語尾砂漠 さて、今や明治の言文一致期から数えて一世紀以上が経過している。言文一致の功罪はすでに語り尽くされているのではあるが、今あえてその罪を問うとすればやはりその語尾の貧困さをおいて他にはないだろう。文語においては「けり」「なり」「き」「ござる」「おじゃる」を筆頭にさまざまな助動詞があり、更には係結びの法則により語尾が終止形に限定されなかったため、文の終わり方は実に変化に富んでいた。しかし、現在我々が使っているこの言葉はどうだ。大雑把に言って「ですます調」と「だである調」のたった二種類しかないではないか。 外国語と比較すると日本語の語尾の貧困さは更にくっきりと浮き彫りになる。たとえば英語のような語順を持つ言語であれば、文の最後にはありとあらゆる単語が来ることができる。本来文頭にくる主格の代名詞ですら、"I'm taller than he." のような文では文末にくることがで