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俺たちでも使える思想と技術を美人教官に学べっ!

メディア初公開! JAL客室乗務員が受講する心の教育

2014年02月02日 12時00分更新

文● 藤山 哲人

 サービス業にとって、品質の均一化と顧客満足度の向上は永遠のテーマだ。大多数の顧客から合格点をもらうことができるが、100%の顧客から100点満点をもらうことは絶対にできない。なぜなら顧客1人ひとりは人間であり、それぞれに望むサービスが異なり、それに応対する側も人間であり、サービスに対する考えがことなるからだ。

 そこでチェーン店では接客マニュアルを作り、サービス品質の均一化を図る。しかしページに限りがあるマニュアルは、一般的な事例への応対のみで、言うなれば最低限の品質を保持するためのもの。飲食店や販売店など、接客サービスは付加価値という場合は、マニュアルで大多数の顧客を満足させられるだろう。

飲食店や販売店と違い、接客自体がメインの仕事となる客室乗務員は特殊な仕事

 しかし顧客をおもてなしすること自体がサービスという業種では、マニュアルどおりには進まない。その最たる例が客室乗務員(CA)だ。CAは旅客1人ひとりの秘書のような存在でもある。

 通常の秘書は、相手の個性や性格を知り尽くし、長年の付き合いによるあうんの呼吸でサポートする。しかしCAの場合は初めて会う旅客なのでサポートはますます難しくなる。さらにCAは、万が一の場合の保安要員というSPのような一面も持っている。

 このように他に類を見ないサービスを提供する客室乗務員は、どのようにして訓練してサービスの均一化を図り、1人ひとりの顧客に喜んでもらえるフライトを提供するかを、日本航空(以下、JAL)で学んできた。

訓練生の一挙手一投足には教官の厳しい視線が刺さり、訓練生に考えさせる指導の言葉が飛ぶ

 多くの企業の接客マニュアルは企業秘密で公開されることはない。無論JALもしかりで、訓練内容がメディアに公開されることはなかった。見た覚えがあるという読者は、おそらくドラマのワンシーンだろう。ここでは、本邦初公開となる訓練内容の一部と講義をお伝えしよう。

知って乗ればよく分かる
JAL客室乗務員のおもてなしマインド

 JAL全社員には1つの揺るぎない哲学がある。それは「世界で一番お客様に選ばれ、愛される航空会社を目指す」というものだ。各部門では、それを実現するための手段や方法にブレイクダウンし、標語や目標を掲げるなどしている。

 数ある部門の中でも、とりわけ旅客と接する時間が長い客室乗務員は、先の哲学に基づいて、CA1人ひとりの人間性の向上を目指しているようだ。そしてJALが目指す理想のCAに必要な3つの要素を掲げている。

3つの重要なファクターをJAL Dream Triangleという。一番下の「フィロソフィ」は哲学の意味

 まず最下層にあるのは「心」。これは入社試験の段階から見極められるもので「何事にも常に明るく前向きで、感謝や思いやりの気持ちを持ち、自然な笑顔のある、人としての基本を備える。CAとして土台となる要素」ということだ。

 IT関係で例えるならハードウェアにあたる部分で、これがなければ始まらない部分。つまりCAは入社してから磨いたつけ焼き刃の心ではなく、その人の人柄や生まれ持ったCAとしての素質が問われるという。JAL入社後には、その心にさらに磨きをかける。

 心の上に位置する層は「基本品質(知識と技量)」。これはJALに入社してから徹底的に叩き込まれる、安全とサービスについての知識や技量だ。

 以前「あのすべり台も体験した!緊急着陸訓練をJALのCAに学ぶ!」でレポートしたように、厳しい訓練で体は条件反射で動き、知識は教官の質問に対し考える間もなく対応策を呼称できるように鍛え上げられる。IT系だとOS標準装備の基本的な機能の集合体(API)といえるだろう。

CA1人ひとりの個性がより高いサービスを生み出すJAL流のおもてなし。それはここのCA1人ひとりが魅力ある人間で、協力し合うことにより相乗効果で魅力が昇華するということ

 最上位のレイヤーは「感知力・人間力」。トラブルが起こる予兆を感じたり、旅客が望んでいることを感じ取る力や、高い安全性を保持するためのすべや柔軟性も求められる。そしてなにより人間としての魅力、つまり個性も大切にするのがJAL流のおもてなし術なのだ。

 サービスの均一化と個性は相反するもので、均一化のために個性を殺すのが通常のオペレーションだ。しかしJALは、逆に個性を伸ばすという。

 個性とはワインや語学に精通しているといった「いかにも」なものから、肝が据わっている、顔を覚えるのが得意というものまで、なんでもいいらしい。客室品質企画部 客室教育・訓練室 サービス訓練グループ長の上田 秩子さんは、こう話してくれた。

 「JALに在籍する6000人の客室乗務員が“私にしかできない”ことをすれば、それは全体として“JALにしかできないサービス”になるのです」

 「基本品質(知識と技量)」でたいていの旅客には合格点をもらえるが、より高得点をもらえるサービスに昇華するのがCAの個性というわけだ。マニュアルどおりのオペレーションではなく、個性溢れるCAのおもてなしが、マニュアルより数ランク上のサービスになる。このレイヤーはIT系で言えば、個性溢れるアプリケーションレイヤーと言い換えられるだろう。

 スマートフォンで例えるなら、標準装備されている機能でとりあえずスマホとして使える。しかし自分の用途に応じて、個性溢れるさまざまなアプリをインストールすることで、より便利に、より楽しく使えるのと同じことだ。

 たくさんの個性を組合わせることで、より高いステージに昇華するというJALの考え方は、サービス業界では非常にユニークなのではないだろうか?

 LCC(格安航空会社)や外資系のエアラインと、JALを乗り比べてみたことがある読者ならお分かりかと思う。JALに乗ったときの心地よさ、LCCに乗ったときの違和感は、目に見えないおもてなしの考え方に根本がありそうだ。

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