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あのすべり台も体験した!緊急着陸訓練をJALのCAに学ぶ!

2012年11月23日 14時00分更新

文● 藤山哲人

訓練風景の極初歩の初歩。緊急脱出の訓練だ

 接客業の最高峰と言えばスチュワーデスことキャビンアテンダント(以下、CA)だ。普段は最高の笑顔で搭乗を迎えてくれ、最高の笑顔で機内サービスを提供し、最高の笑顔で見送ってくれる。国内線であれば、1~2時間の機内サービスだが、国際線になれば10時間以上も接客せねばならず、どんな接客業よりもハードな仕事に関わらず、どんな仕事よりも最高のサービスを目指してるのがCAと言えるだろう。

スチュワーデスは機内の華にあらず
乗客を守る保安員なのだ

 しかしそんな最高の笑顔が消える瞬間がある。それは万が一のアクシデントが起こってしまった場合。このときのCAは、笑顔で迎える接客業の顔から、凛とした態度で臨む乗客の命を守る保安要員の顔へ急変する。それに必要なのは

  • 素早い状況把握と行動力
  • 的確で迅速な判断力
  • 搭乗客を誘導する強いリーダーシップ
  • 航空機に関するさまざまな知識

 などなどだ。

CAの顔が接客業から保安員としての真剣なまさざしになる瞬間。それ万が一のアクシデント発生時だ。乗務では制服だが、訓練時はハードなので作業着着用となる

 この記事では、普段飛行機に乗っているときにはまったく見せないCAの凛々しく、そしてたくましく頼れる姿を、特別な許可を得て取材した。いわゆるテレビドラマなどでおなじみの「訓練センター」で行なわれる「緊急保安訓練」である。

極々わずかな事故発生率に対する必要以上にも思える訓練

 アメリカ国家運輸安全委員会(NTSB)の調べでは、航空機の死亡事故は0.0009%の確率であり、8200年間飛行機に乗り続けてやっとというほど、極々わずかな可能性だ。幸い死亡事故に至らなかった場合やインシデントというアクシデントに至らないものも含めれば、遭遇する確率は増えるだろう。しかし飛行機は乗り物の中で最高クラスの安全性と言ってもいい。

 しかしその可能性はゼロではないために、CAは年に1度緊急保安訓練を受けている。しかも試験にパスしなければ翌日からの搭乗はできないという厳しさだ。さらに日本航空グループは、近距離用の小型プロペラ機から、国内線で多く活躍するボーイング767を始め、国際線用の長距離大型機ボーイング777-300ER、そして最新鋭の中型機ドリームライナーことボーイング787まで運行している。そのためCAは機種ごとの資格が必要となる。つまり長年のキャリアがあるCAでも、787の緊急保安訓練にパスしていなければ乗務することはできないのだ。

 CAの訓練は大きく4つある。ひとつは「一般知識」と呼ばれる航空機の知識や医学の知識、アナウンスや接遇の訓練だ。さらに機内サービスに関する訓練や、機内における英語を学ぶ授業がある。なかでも一番時間をかけ、一番厳しく、一番合格するのが難しいとされているのが4つめの「緊急保安訓練」という。

 搭乗している我々からすると、サービスばかりに目が向いてしまうが、航空会社は安全性の上に、はじめてサービスが成り立つと考えていることがよく分かる。当の旅客である我々は、安全なのは当然であり、安全は目で見ることができないので、表層のサービスを重視してしまうのは自然な姿だろう。しかし、当然である安全を当然として保証するのは、ハードウェアという機材だけでなく、それを支える多くの人によって守られている。なかでもCAは搭乗客一人ひとりにつくSPのような存在なのだ。

学校の体育館が10個は入りそうな大きな訓練センターには、訓練・試験用の実機さながらの模擬機体がいくつも並ぶ

 以降で紹介するCAの緊急保安訓練は、旅客の我々から見れば必要以上に見えるかも知れない。しかし当然である安全を維持するために、これだけの訓練をしているという安心感と信頼感を感じてもらえるだろう。

訓練センターのさまざまなモックアップは本物そっくり

 訓練センターに入り、まず目についたのは、実寸大で作られた各種機体のモックアップ(模型)だ。機体の一部を切り出したものになっているが、モックアップという言葉がはばかられるほど精巧な作りで、乗ってしまうと飛行機そのもの。唯一の違いはエンジンがついていないので飛ばないというぐらいだ。

マクダネル・ダグラスMD-90のモックアップ。通路1本、2+3というシートコンフィグレーション(通称ナローボディー)

最近では主流の通路2本タイプのワイドボディー機のモックアップ。シートコンフィグレーションは、ボーイング787と同じ2+4+2配列

 我々から見ると、どれも同じような乗降用ドアに見えるが、実は微妙な違いがあるらしく、機種ごとのモックアップも作られている。CAはその細かなドアのオペレーションを体に叩き込まれるというワケだ。飛行機をよく利用する方は、こう思うかも知れない。「CAがドアの開閉をやっているところなんて見たことネェよ」と。確かにドアの開閉作業は、グランドスタッフ(地上職員)の仕事で、CAはドアのすき間に手を添えて、エアーの漏れなど確認しているぐらいだ。

ボーイング777のドア開閉訓練用のモックアップ

777のシンボルとも言える、上部スライド式ドア

同機には、横に反転して開閉するドアもあり、訓練機には2種のドアが用意されていた

 しかしCAがドアを開閉する唯一の機会がある。それがアクシデント発生し機外に脱出しなければならないときだ。CAとしても旅客の我々からしても見たくはないし、見たことがある人はわずかだろう。しかも緊急時には、このドアはコクピットからの操作で自動で開くようになっている。つまりCAが訓練しているのは、万が一に発生したアクシデントで、さらに万が一ドアが自動で開かなかった場合の、億が一という極々レアケースに備えた訓練なのだ。実はさらにその万が一の脱出用スライド(ドアから地上に降りる滑り台)が展開しなかった場合や、何らかの事情でスライドを登ってもう一度機内に戻らなければならない事態(ロープを伝ってスライドを登る)の訓練しているのだ。

ここに教官がつき、さまざまなシチュエーションの緊急保安訓練を行なう

 モックアップの内部には、さまざまなエマージェンシーを再現できるコンソールパネルがある。コンピューター制御されており、このモックアップではアッパーデッキ(2階席)のある747と、777、767のシミュレーションが可能。機種を選ぶとモックアップの高さが油圧ジャッキで変わり、実際の高さでの訓練ができる。

コンピューター化されており、機種を選んだり訓練に臨場感を出すための効果音を出したり、機内の通話システムなどをシミュレーションできる

 ベルトサインや機内の照明がコントロールできるだけでなく、火災のシミュレーションも可能でスモークを発生した訓練もできるということだ。

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