大迫力のエンジンオーバーホールは
mm単位の繊細な作業だった
自動車には、数年に1度ある車検やディーラーでの点検、そして運転する前に自分でする運行前点検なんてものが義務付けられている。法の拘束力があるのは、車検ぐらいであとは個人任せ。
空を飛ぶ飛行機にも車検のような整備義務があり、問題の早期発見や安全運航を担っている。一番ベーシックなのは、運航前に行なう点検だ。ただ自動車と違って法で義務付けられており、安心・安全の基本となる。
次はほぼ1ヵ月ごとに行なう点検や、1年おきの点検、もっとも大掛かりなのは4~5年おきに行なう重整備だ。重整備では、客室内のものをすべて取り外して、構造体の検査をするだけでなく、外装のペンキもすべて剥がして塗りなおすほど。およそ1ヵ月間空を飛ばさず、毎日詳細な部分まで検査されるのだ。
さらにエンジンは、部品1個1個まで分解して、洗浄・検査・修理・再組み立て・試運転を行なう。整備を終えた機体は、新品同等にベストコンディションで再び大空に舞う。車の車検とは比較にならないほど、安全に配慮していることがわかるだろう。
さて本当は重整備のすべてを取材したいところだが、記事のページ数が電話帳レベルになってしまうので、今回はエンジンに特化してお伝えしよう。
整備の凄さを知るには
ジェットエンジンのしくみから
ジェットエンジンは、車のエンジンと違ってシリンダー内に燃料を混ぜた空気を取り入れ、圧縮し、爆発させ、排気するというサイクルがない。ロケットエンジンのように、断続的に燃料を燃やすことで、その膨張した排気ガスを噴射し動力(推力)にしている。
その燃料の主成分は、灯油を精製したもの。極論するとジェットエンジンは超強力な石油ファンヒーターのようなものなのだ。寒い朝、石油ファンヒーターをONにすると、チチチチッ! と点火プラグのスパーク音がしたあとに、ボッ!っという音とともに排ガス(二酸化炭素と水蒸気)の力を感じたことがあるだろう(たまに水蒸気の白いガスが見えることも)。それこそジェットエンジンの推進力だ。
ファンヒーターとの大きな違いは、前方から取り入れた空気をどんどん多段のファンで圧縮して、エンジン中央にある燃焼室という箇所に送り、そこで灯油を混ぜて発火させる。これでファンヒーターとは桁違いの爆発(気体の膨張)が起こり、後部の排気口から噴出されるというわけだ。
燃焼室の温度は、ボーイング777-300に搭載されている「GE90-115B」というエンジンの場合で、最高出力を出す離陸時に1100度まで上がるという(アメリカ連邦航空局、以下「FAA」の資料より)。この温度は金銀銅が溶ける温度で、アルミにいたっては660度で溶けてしまう。
自動車のエンジンでも使われている鉄は熱に強そうに思えるが、それでも1500度で溶け出す。なのでジェットエンジン用としては、ギリギリ過ぎて使えないのだ。そのためジェットエンジンには、高価で特殊な金属や合金が使われている。
ジェットエンジンのカットモデルを見ると、燃焼室後部の排気口にも小さな羽根車が付いている。これは高温・高圧ガスの一部を使って羽根車を回転させ、その回転力で前方の大きな羽根車を回転させて空気を圧縮するのだ。
自動車でも排ガスの力を使って圧縮空気を送るターボチャージャーがあるが、旅客機のジェットエンジンはほぼ100%がターボファンエンジンとなっている。
また最近のターボファンエンジンは、高性能ターボを搭載しているので、前方のファンを猛スピードで回せる。2m近い大型ファンを1分間に2600回転できるのだ。そのためファンが発生する推進力もハンパなく、昔はオマケ程度だった推力も、今やプロペラエンジンを1機抱えているほどの推力が出る。
ちなみにエンジン内部の空気圧縮用の羽根車は、外から見えるファンの数倍高速で、毎分1万1300回転する。そのため遠心力も相当な大きさになるのは言うまでもない。
さらに驚くべきはその精度。高速回転するファンブレードとフレームとの差は、たったの5mmしかない。ファンは2m以上あるにも関わらずだ。軸が2.5mmずれただけで接触するだけでなく、ファンブレードが熱や遠心力で膨張する可能性だってあるのだ。
※お詫びと訂正;記事初出時、旅客機のほとんどはターボジェットエンジンと記載しておりましたが、正しくはターボファンエンジンになります。記事を訂正してお詫びいたします。