以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
光学用途で用いられる材料は、直径20μm以下の異物を低減させることが強く求められており、この要求を満たすためには、10μm以下の濾過精度を有するポリマーフィルタで濾過を行う必要がある。
従来より、主鎖に芳香族環を有するポリエステルやポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂では、異物を低減するために、ポリマーフィルタを用いたり、生産環境を整えるなどの種々の工夫がなされてきた。例えば、特開平5−239334号公報には、溶融状態のポリカーボネートをポリマーフィルタで濾過する方法が開示されている。また、特開2000−351114号公報には、ダイから切断機までの空域を清浄度クラス7以下とし、ストランド水冷の水を5μmの濾過精度のフィルタで濾過することにより、異物量の少ない透明熱可塑性樹脂ペレットを製造する方法が開示され、透明熱可塑性樹脂を溶融状態で濾過することが好ましいと記載されている。また、特開平9−254251号公報には、溶融押出ししたポリカーボネートを、電気伝導度が低く、異物量が少ない冷却水を用いて冷却する方法が開示されている。
しかしながら、上記熱可塑性樹脂は、主鎖に芳香族環を有するため、複屈折率が高いなどの光学特性上の欠点があり、光学材料としての用途が制限されていた。そこで、異物数が少なく、光学特性に優れ、主鎖に芳香族環を含まず、主鎖が脂肪族化合物からなる熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂組成物)が求められていた。
しかしながら、メタアクリル系樹脂などの主鎖が脂肪族化合物からなる熱可塑性樹脂は、主鎖に芳香族環を有していないため、天井温度が低く、加熱溶融温度に制限があった。耐熱性を改良した、主鎖が脂肪族化合物からなる熱可塑性樹脂であっても、一定の温度以上では主鎖の分解が生じることから、加熱条件は限定される。
主鎖が脂肪族化合物からなる熱可塑性樹脂は、上述したように加熱溶融温度に制限があるため、これまでに、主鎖が脂肪族化合物からなる熱可塑性樹脂を、10μm以下の濾過精度を有するポリマーフィルタで濾過することは行われていなかった。
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法では、特定の熱可塑性樹脂を用いて、特定の濾過条件で濾過を行うことにより、10μm以下の濾過精度を有するポリマーフィルタで主鎖が脂肪族化合物からなる熱可塑性樹脂を濾過することを可能とした。
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法では、主鎖が鎖状炭化水素である熱可塑性樹脂を、濾過精度が10μm以下であるポリマーフィルタを備えた押出し機を用い、剪断速度が100/secにおける樹脂溶融粘度が800Pa・sec以下となる条件で濾過精製する工程を包含する。
図1は、本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法で用いる装置の概略構成の一例を示す平面図である。
図1に示すように、本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法で用いる装置では、ポリマーフィルタ4を備えた押出し機2と、冷却水5と、ペレタイザ6と、タンク7と、充填容器8とを含み、この順でそれぞれの装置が接続されている。本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法では、熱可塑性樹脂などの原料1を押出し機2に投入し、原料1を溶融させ、ポリマーフィルタ4を通して異物を除去する。そして、冷却水により、溶融物を冷却し、ペレタイザ6でペレット化を行うことにより、熱可塑性樹脂組成物を製造する。その後、得られた熱可塑性樹脂組成物は、タンク7を経て充填容器8の中に充填される。以下、本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法について詳細に説明する。
尚、明細書における「異物」とは、原料からポリマー化を経て、ペレットなどの成形品を得るまでの間の全ての工程において混入する汚染物質、重合反応中に発生するゲルなどの副生物、押出し、脱揮工程で発生する炭化物などの樹脂の劣化に起因する副生物などを含み、熱可塑性樹脂になじまない性質を有する物質全般を意味する。
また、「重量」は「質量」と同義語として扱い、「重量%」は「質量%」と同義語として扱う。また、範囲を示す「A〜B」は、A以上、B以下であることを示す。
また、「主成分」とは50重量%以上含有しているという意味として扱い、「ppm」は特に断らない限り質量換算での値を意味する。
(I)熱可塑性樹脂組成物
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物とは、主鎖が脂肪族化合物からなり、加熱により軟化して塑性を示し、冷却すると固化する熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂組成物であれば特には限定されない。上記熱可塑性樹脂として、例えば、アクリル系樹脂、シクロオレフィンポリマー(オレフィン樹脂)、ポリビニルアルコールなどの主鎖が鎖状炭化水素であるポリマーからなる樹脂が挙げられる。これらの中ではアクリル系樹脂が好ましい。これらの熱可塑性樹脂は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
尚、本明細書中では、「脂肪族化合物」は、分子骨格が鎖式構造の化合物のみならず、シクロヘキサンなどのような環式炭化水素やジカルボン酸の無水物、ラクトン環、環状エーテルなども含む。つまり、「脂肪族化合物」とは、芳香族化合物以外の化合物のことを意味する。従って、主鎖にベンゼン環などの芳香族環を有するポリエステルやポリカーボネートなどは「脂肪族化合物」には含まれない。
また、上記アクリル系樹脂は、耐熱性アクリル系樹脂であることがより好ましい。尚、「耐熱性アクリル系樹脂」とは、ガラス転移温度が110℃を超えるアクリル系樹脂であり、例えば、マレイミド系重合体、ポリグルタルイミド系重合体、ポリグルタル酸系重合体、無水マレイン酸系重合体、ラクトン環含有重合体などが挙げられる。これらの中では、マレイミド系重合体とポリグルタルイミド系重合体とは熱溶融時に着色が起こりやすく、ポリグルタル酸系重合体と無水マレイン酸系重合体とは熱溶融時に脱炭酸反応に起因する発泡が起こり易いため、ラクトン環含有重合体がより好ましい。
尚、本実施の形態に係るアクリル系樹脂組成物とは、アクリル系樹脂を主成分とする樹脂組成物のことであり、耐熱性アクリル系樹脂組成物とは、耐熱性アクリル系樹脂を主成分とする樹脂組成物のことである。
上記アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルを主成分として含有する単量体組成物を重合した樹脂であれば特には限定されない。上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、一般式(2)
(式中、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を示す。)
で表される構造を有する化合物(単量体)、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;などが挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも特に、耐熱性、透明性が優れる点から、上記一般式(2)で表される構造を有する化合物、メタクリル酸メチルがより好ましい。
一般式(2)で表される化合物としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ターシャリーブチルなどが挙げられる。これらの中でも、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性向上効果が高い点で、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。一般式(2)で表される化合物は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記アクリル系樹脂は、上述した(メタ)アクリル酸エステルを重合した構造以外の構造を有していてもよい。(メタ)アクリル酸エステルを重合した構造以外の構造としては、特には限定されないが、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記一般式(3)
(式中、R6は水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R7基、または−C−O−R8基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R7およびR8は水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。)
で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
水酸基含有単量体としては、一般式(2)で表される単量体以外の水酸基含有単量体であれば特に限定されないが、例えば、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン;2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸;などが挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸などが挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも特に、本発明の効果を十分に発揮させる点で、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
一般式(3)で表される化合物としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどが挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも特に、本発明の効果を十分に発揮させる点で、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
上記アクリル系樹脂が、上記一般式(2)で表される構造を有する化合物を含有する単量体を重合した樹脂である場合、上記アクリル系樹脂はラクトン環構造を有していることがより好ましい(以下、ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂を「ラクトン環含有重合体」と記す)。以下、ラクトン環含有重合体について説明する。
上記ラクトン環構造としては、例えば、下記一般式(1)
(式中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。)
で表される構造が挙げられる。
尚、上記一般式(1)、(2)、(3)における有機残基は、炭素数が1〜20の範囲内であれば特には限定されないが、例えば、直鎖若しくは分岐状のアルキル基、直鎖若しくは分岐状のアルキレン基、アリール基、−OAc基、−CN基などが挙げられる。
上記アクリル系樹脂中の上記ラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%の範囲内、より好ましくは10〜70重量%の範囲内、さらに好ましくは10〜60重量%の範囲内、特に好ましくは10〜50重量%の範囲内である。上記ラクトン環構造の含有割合が5重量%よりも少ないと、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が不十分になることがあり、好ましくない。上記ラクトン環構造の含有割合が90重量%よりも多いと、成形加工性に乏しくなる傾向があり、好ましくない。
ラクトン環含有重合体において、一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、(メタ)アクリル酸エステルを重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは10〜95重量%の範囲内、より好ましくは10〜90重量%の範囲内、さらに好ましくは40〜90重量%の範囲内、特に好ましくは50〜90重量%の範囲内である。
また、水酸基含有単量体を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、好ましくは0〜30重量%の範囲内、より好ましくは0〜20重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜15重量%の範囲内、特に好ましくは0〜10重量%の範囲内である。
また、不飽和カルボン酸を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、好ましくは0〜30重量%の範囲内、より好ましくは0〜20重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜15重量%の範囲内、特に好ましくは0〜10重量%の範囲内である。
また、一般式(3)で表される単量体を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、好ましくは0〜30重量%の範囲内、より好ましくは0〜20重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜15重量%の範囲内、特に好ましくは0〜10重量%の範囲内である。
ラクトン環含有重合体の製造方法については、特に限定はされないが、好ましくは、重合工程によって分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得た後に、得られた重合体を加熱処理することによりラクトン環構造を重合体に導入するラクトン環化縮合工程を行うことによってラクトン環含有重合体を得ることができる。
上記一般式(2)で表される化合物を含む単量体組成物の重合反応を行うことにより、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得る。
上記重合反応(重合工程)において供する単量体組成物中における一般式(2)で表される化合物の含有割合は、好ましくは5〜90重量%の範囲内、より好ましくは10〜70重量%の範囲内、さらに好ましくは10〜60重量%の範囲内、特に好ましくは10〜50重量%の範囲内である。重合工程において供する単量体成分中の一般式(2)で表される単量体の含有割合が5重量%よりも少ないと、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が不十分になることがあり、好ましくない。重合工程において供する単量体組成物中の一般式(2)で表される単量体の含有割合が90重量%よりも多いと、重合時、ラクトン環化時にゲル化が起こることや、得られた重合体の成形加工性が乏しくなることがあり、好ましくない。
重合工程において供する単量体組成物中には、一般式(2)で表される単量体以外の単量体を含んでいてもよい。このような単量体としては、例えば、上述した(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、一般式(3)で表される単量体が好ましく挙げられる。一般式(2)で表される単量体以外の単量体は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
一般式(2)で表される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは10〜95重量%の範囲内、より好ましくは10〜90重量%の範囲内、さらに好ましくは40〜90重量%の範囲内、特に好ましくは50〜90重量%の範囲内である。
一般式(2)で表される単量体以外の水酸基含有単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは0〜30重量%の範囲内、より好ましくは0〜20重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜15重量%の範囲内、特に好ましくは0〜10重量%の範囲内である。
不飽和カルボン酸を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは0〜30重量%の範囲内、より好ましくは0〜20重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜15重量%の範囲内、特に好ましくは0〜10重量%の範囲内である。
一般式(3)で表される単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは0〜30重量%の範囲内、より好ましくは0〜20重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜15重量%の範囲内、特に好ましくは0〜10重量%の範囲内である。
単量体組成物を重合して分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得るための重合反応の形態としては、溶剤を用いた重合形態であることが好ましく、溶液重合が特に好ましい。
重合温度、重合時間は、使用する単量体(単量体組成物)の種類、使用比率等によって異なるが、好ましくは、重合温度が0〜150℃の範囲内、重合時間が0.5〜20時間の範囲内であり、より好ましくは、重合温度が80〜140℃の範囲内、重合時間が1〜10時間の範囲内である。
溶剤を用いた重合形態の場合、重合溶剤は特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;などが挙げられ、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、使用する溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるラクトン環含有重合体の残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃の範囲内のものが好ましい。
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては特に限定されないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;などが挙げられ、これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、用いる単量体の組み合わせや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
重合を行う際には、反応液のゲル化を抑止するために、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が50重量%以下となるように制御することが好ましい。具体的には、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が50重量%を超える場合には、重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加して50重量%以下となるように制御することが好ましい。重合反応混合物中の生成した重合体の濃度は、より好ましくは45重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下である。なお、重合反応混合物中の重合体の濃度があまりに低すぎると生産性が低下するため、重合反応混合物中の重合体の濃度は、10重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましい。
重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加する形態としては、特に限定されず、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応混合物中の生成した重合体の濃度を制御することによって、反応液のゲル化をより十分に抑止することができ、特に、ラクトン環含有割合を増やして耐熱性を向上させるために分子鎖中の水酸基およびエステル基の割合を高めた場合であってもゲル化を十分に抑制できる。添加する重合溶剤としては、重合反応の初期仕込み時に用いた溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に用いた溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの溶剤であってもよいし、2種以上の混合溶剤であってもよい。
以上の重合工程で得られた重合体は、分子鎖中にエステル基(上記重合体が、上記一般式(2)で表される構造を有する化合物を含有する単量体を重合した場合では、水酸基とエステル基)とを有する重合体であり、重合体の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000の範囲内、より好ましくは5,000〜1,000,000の範囲内、さらに好ましくは10,000〜500,000の範囲内、特に好ましくは50,000〜500,000の範囲内である。
上記一般式(2)で表される構造を有する化合物を含有する単量体を重合して得られた重合体では、続くラクトン環化縮合工程において、加熱処理によりラクトン環構造を重合体に導入することができ、ラクトン環含有重合体とすることができる。
上記重合工程を終了した時点で得られる重合反応混合物中には、通常、得られた重合体以外に溶剤が含まれている。上記重合体をラクトン環含有重合体とする場合では、溶剤を完全に除去して重合体を固体状態で取り出す必要はなく、溶剤を含んだ状態で、その後に続くラクトン環化縮合工程を行うことが好ましい。また、必要な場合は、固体状態で取り出した後に、続くラクトン環化縮合工程に好適な溶剤を再添加してもよい。
上記重合体へラクトン環構造を導入するための反応は、加熱により、重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とが環化縮合してラクトン環構造を生じる反応であり、その環化縮合によってアルコールが副生する。ラクトン環構造が重合体の分子鎖中(重合体の主骨格中)に形成されることにより、重合体に高い耐熱性が付与される。ラクトン環構造を導く環化縮合反応の反応率が不十分であると、耐熱性が十分に向上しなかったり、成形時の加熱処理によって成形途中に縮合反応が起こり、生じたアルコールが成形品中に泡やシルバーストリークとなって存在する恐れがあるため好ましくない。
ラクトン環化縮合工程において得られるラクトン環含有重合体は、好ましくは、上記一般式(1)で表されるラクトン環構造を有する。
上記重合体を加熱処理する方法については特に限定されず、公知の方法が利用できる。例えば、重合工程によって得られた、溶剤を含む重合反応混合物を、そのまま加熱処理してもよい。また、溶剤の存在下で、必要に応じて閉環触媒を用いて加熱処理してもよい。また、揮発成分を除去するための真空装置あるいは脱揮装置を持つ加熱炉や反応装置、脱揮装置のある押出機等を用いて加熱処理を行うこともできる。
環化縮合反応を行う際に、上記重合体に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。また、環化縮合反応を行う際には、必要に応じて、環化縮合反応の触媒として一般に用いられるp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒またはエステル交換触媒を用いてもよいし、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸等の有機カルボン酸類を触媒として用いてもよい。特開昭61−254608号公報や特開昭61−261303号公報に示されている様に、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などを用いてもよい。
環化縮合反応を行う際には、有機リン化合物を触媒として用いることが好ましい。触媒として有機リン化合物を用いることにより、環化縮合反応率を向上させることができるとともに、得られるラクトン環含有重合体の着色を大幅に低減することができる。さらに、有機リン化合物を触媒として用いることにより、後述の脱揮工程を併用する場合において起こり得る分子量低下を抑制することができ、優れた機械的強度を付与することができる。
環化縮合反応の際に触媒として用いることができる有機リン化合物としては、例えば、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸等のアルキル(アリール)亜ホスホン酸(但し、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)およびこれらのジエステルあるいはモノエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸等のジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸等のアルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのジエステルあるいはモノエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸等のアルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸ジエステルあるいはモノエステルあるいはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニル等のリン酸ジエステルあるいはモノエステルあるいはトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のモノ、ジ若しくはトリアルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィン等のアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィン等の酸化モノ、ジ若しくはトリアルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウム等のハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;などが挙げられる。これらの中でも、触媒活性が高くて低着色性のため、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸ジエステルあるいはモノエステル、リン酸ジエステルあるいはモノエステル、アルキル(アリール)ホスホン酸が好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸ジエステルあるいはモノエステル、リン酸ジエステルあるいはモノエステルがより好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、リン酸ジエステルあるいはモノエステルが特に好ましい。これら有機リン化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
環化縮合反応の際に用いる触媒の使用量は、特に限定されないが、上記重合体に対して、好ましくは0.001〜5重量%の範囲内、より好ましくは0.01〜2.5重量%の範囲内、さらに好ましくは0.01〜1重量%の範囲内、特に好ましくは0.05〜0.5重量%の範囲内である。触媒の使用量が0.001重量%未満であると、環化縮合反応の反応率の向上が十分に図れないおそれがあり、一方、5重量%を超えると、着色の原因となったり、重合体の架橋により溶融賦形しにくくなることがあるため、好ましくない。
触媒の添加時期は特に限定されず、反応初期に添加しても、反応途中に添加しても、それらの両方で添加してもよい。
環化縮合反応を溶剤の存在下で行い、且つ、環化縮合反応の際に、脱揮工程を併用することが好ましい。この場合、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態、および、脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、縮合環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
脱揮工程とは、溶剤、残存単量体等の揮発分と、ラクトン環構造を導く環化縮合反応により副生したアルコールを、必要により減圧加熱条件下で、除去処理する工程をいう。この除去処理が不十分であると、生成した樹脂中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質等によって着色したり、泡やシルバーストリークなどの成形不良が起こる問題等が生じる。
環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、使用する装置については特に限定されないが、本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置やベント付き押出機、また、前記脱揮装置と前記押出機を直列に配置したものを用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置またはベント付き押出機を用いることがより好ましい。
前記熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の反応処理温度は、150〜350℃の範囲内が好ましく、200〜300℃の範囲内がより好ましい。反応処理温度が150℃より低いと、環化縮合反応が不十分となって残存揮発分が多くなるおそれがあり、350℃より高いと、着色や分解が起こるおそれがある。
前記熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の、反応処理時の圧力は、931〜1.33hPa(700〜1mmHg)の範囲内が好ましく、798〜66.5hPa(600〜50mmHg)の範囲内がより好ましい。上記圧力が931hPaより高いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
前記ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
前記ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、150〜350℃の範囲内が好ましく、200〜300℃の範囲内がより好ましい。上記温度が150℃より低いと、環化縮合反応が不十分となって残存揮発分が多くなるおそれがあり、350℃より高いと、着色や分解が起こるおそれがある。
前記ベント付き押出機を用いる場合の、反応処理時の圧力は、931〜1.33hPa(700〜1mmHg)の範囲内が好ましく、798〜13.3hPa(600〜10mmHg)の範囲内がより好ましい。上記圧力が931hPaより高いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
なお、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、後述するように、厳しい熱処理条件では得られるラクトン環含有重合体の物性が悪化するおそれがあるので、好ましくは、上述した脱アルコール反応の触媒を使用し、できるだけ温和な条件で、ベント付き押出機等を用いて行うことが好ましい。
また、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、好ましくは、重合工程で得られた重合体を溶剤とともに環化縮合反応装置系に導入するが、この場合、必要に応じて、もう一度ベント付き押出機等の上記反応装置系に通してもよい。
脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに、過程の一部においてのみ併用する形態を行ってもよい。例えば、重合体を製造した装置を、さらに加熱し、必要に応じて脱揮工程を一部併用して、環化縮合反応を予めある程度進行させておき、その後に引き続いて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行い、反応を完結させる形態である。
先に述べた環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態では、例えば、重合体を、2軸押出機を用いて、250℃近い、あるいはそれ以上の高温で熱処理する時に、熱履歴の違いにより環化縮合反応が起こる前に一部分解等が生じ、得られるラクトン環含有重合体の物性が悪くなるおそれがある。そこで、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う前に、予め環化縮合反応をある程度進行させておくと、後半の反応条件を緩和でき、得られるラクトン環含有重合体の物性の悪化を抑制できるので好ましい。特に好ましい形態としては、脱揮工程を環化縮合反応の開始から時間をおいて開始する形態、すなわち、重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基をあらかじめ環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態が挙げられる。具体的には、例えば、予め釜型の反応器を用いて溶剤の存在下で環化縮合反応をある程度の反応率まで進行させておき、その後、脱揮装置のついた反応器、例えば、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置や、ベント付き押出機等で、環化縮合反応を完結させる形態が好ましく挙げられる。特にこの形態の場合、環化縮合反応用の触媒が存在していることがより好ましい。
上述のように、重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う方法は、ラクトン環含有重合体を得る上で好ましい形態である。この形態により、環化縮合反応率もより高まり、ガラス転移温度がより高く、耐熱性に優れたラクトン環含有重合体が得られる。この場合、環化縮合反応率の目安としては、実施例に示すダイナッミクTG測定における、150〜300℃間での重量減少率が2%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に採用できる反応器は特に限定されないが、好ましくは、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置等が挙げられ、さらに、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に好適なベント付き押出機も使用できる。より好ましくは、オートクレーブ、釜型反応器である。しかしながら、ベント付き押出機等の反応器を使用するときでも、ベント条件を温和にしたり、ベントをさせなかったり、温度条件やバレル条件、スクリュウ形状、スクリュウ運転条件等を調整することで、オートクレーブや釜型反応器での反応状態と同じ様な状態で環化縮合反応を行うことが可能である。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、好ましくは、重合工程で得られた重合体と溶剤とを含む混合物を、(i)触媒を添加して、加熱反応させる方法、(ii)無触媒で加熱反応させる方法、および、前記(i)または(ii)を加圧下で行う方法が挙げられる。
なお、ラクトン環化縮合工程において環化縮合反応に導入する「重合体と溶剤とを含む混合物」とは、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま使用してもよいし、一旦溶剤を除去したのちに環化縮合反応に適した溶剤を再添加してもよいことを意味する。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に再添加できる溶剤としては、特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;クロロホルム、DMSO、テトラヒドロフランなどでもよいが、好ましくは、重合工程で用いることができる溶剤と同じ種類の溶剤である。
上記方法(i)で添加する触媒としては、一般に用いられるp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒またはエステル交換触媒、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などが挙げられるが、本発明においては、前述の有機リン化合物を用いることが好ましい。
触媒の添加時期は特に限定されず、反応初期に添加しても、反応途中に添加しても、それらの両方で添加してもよい。添加する触媒の量は特に限定されないが、重合体の重量に対し、好ましくは0.001〜5重量%の範囲内、より好ましくは0.01〜2.5重量%の範囲内、さらに好ましくは0.01〜0.1重量%の範囲内、特に好ましくは0.05〜0.5重量%の範囲内である。方法(i)の加熱温度と加熱時間とは特に限定されないが、加熱温度としては、好ましくは室温以上、より好ましくは50℃以上であり、加熱時間としては、好ましくは1〜20時間の範囲内、より好ましくは2〜10時間の範囲内である。加熱温度が低いと、あるいは、加熱時間が短いと、環化縮合反応率が低下するので好ましくない。また、加熱時間が長すぎると、樹脂の着色や分解が起こる場合があるので好ましくない。
上記方法(ii)としては、例えば、耐圧性の釜などを用いて、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま加熱する方法等が挙げられる。加熱温度としては、好ましくは100℃以上、さらに好ましくは150℃以上である。加熱時間としては、好ましくは1〜20時間の範囲内、より好ましくは2〜10時間の範囲内である。加熱温度が低いと、あるいは、加熱時間が短いと、環化縮合反応率が低下するので好ましくない。また、加熱時間が長すぎると、樹脂の着色や分解が起こる場合があるので好ましくない。
上記方法(i)、(ii)ともに、条件によっては加圧下となっても何ら問題はない。また、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、溶剤の一部が反応中に自然に揮発しても何ら問題ではない。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の終了時、すなわち、脱揮工程開始直前における、ダイナミックTG測定における150〜300℃の間での重量減少率は、2%以下が好ましく、より好ましくは1.5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。重量減少率が2%より高いと、続けて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても、環化縮合反応率が十分高いレベルまで上がらず、得られるラクトン環含有重合体の物性が低下するおそれがある。なお、上記の環化縮合反応を行う際に、重合体に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。
重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態の場合、予め行う環化縮合反応で得られた重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基の少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)と溶剤とを単離することなく、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行ってもよい。また、必要に応じて、前記重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基の少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)を単離してから溶剤を再添加する等のその他の処理を経てから脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても構わない。
脱揮工程は、環化縮合反応と同時に終了することのみには限定されず、環化縮合反応の終了から時間をおいて終了しても構わない。
また、触媒を添加して環化縮合反応を十分行った後にも、重合体中に微量の未反応の反応性基が残存しているため、成形時に、発泡や、ポリマー分子間での架橋による増粘等の問題が起こることがある。このため、触媒を添加し環化縮合反応を十分行った後に、環化縮合触媒の失活剤(以下、「発泡抑制剤」と記する場合がある)を添加することが好ましい。
環化縮合反応には、酸性触媒若しくは塩基性触媒が用いられることが多く、その場合、中和反応により失活剤は触媒を失活させる。このため、触媒が酸性物質である場合には失活剤は塩基性物質を用いればよく、逆に触媒が塩基性物質である場合には失活剤は酸性物質を用いればよい。
上記失活剤としては、熱加工時に樹脂組成物の物性を阻害する物質等を発生しない限り特に限定されないが、失活剤に塩基性物質を用いる場合、例えば、金属カルボン酸塩、金属錯体、金属酸化物等が挙げられる。これらの中で金属カルボン酸塩、及び金属酸化物が好ましく、金属カルボン酸塩が特に好ましい。
上記塩基性物質における金属としては、樹脂組成物の物性を阻害せず、廃棄時に環境汚染を招くことがない限り特に限定はされないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属;亜鉛;ジルコニウム等が挙げられる。
上記金属カルボン酸塩を構成するカルボン酸としては特には限定されないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸等が挙げられる。
上記金属錯体における有機成分としては、特には限定されないが、アセチルアセトン等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等が挙げられ、酸化亜鉛が好ましい。
また、失活剤に酸性物質を用いる場合には、例えば、有機リン酸化合物やカルボン酸等が挙げられる。本実施の形態で用いることができる失活剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。尚、失活剤は粉末状等の固形物や、懸濁液、水溶液等の溶媒に分散した状態等の何れの形態で用いてもよい。
上記失活剤の添加量は、環化縮合反応に使用した触媒の量に応じて適宜調製すればよく、特に限定されないが、好ましくは、熱可塑性樹脂(重合体)に対して10〜10,000ppm(重量換算)の範囲内、より好ましくは50〜5,000ppm(重量換算)の範囲内、更に好ましくは100〜3,000ppm(重量換算)の範囲内である。
失活剤の添加量が10ppm未満であると、失活剤の作用が不十分となり、成形時に発泡やポリマー分子間の架橋による増粘が起こることがある。逆に、失活剤の添加量が10,000ppmを超えると、必要以上に失活剤を使用することになり、分子量低下が起こる等、樹脂組成物の物性を阻害することがある。
失活剤を添加するタイミングは、熱可塑性樹脂(重合体)の製造において、触媒を添加し環化縮合反応を十分行った後であり、且つ、得られた樹脂組成物が熱加工される前である限り、特には限定されない。例えば、熱可塑性樹脂を製造中に所定の段階で失活剤を添加するか、あるいは熱可塑性樹脂を製造した後、熱可塑性樹脂、失活剤、及びその他の成分等を同時に加熱溶融させて混練する方法;熱可塑性樹脂、及びその他の成分等を加熱溶融させた後に失活剤を添加して混練する方法;熱可塑性樹脂を加熱溶融させた後に失活剤、及びその他の成分等を添加して混練する方法等が挙げられる。
また、失活剤を添加する場合、得られた熱可塑性樹脂が熱加工時に発泡をほとんど起こさないという観点から、熱可塑性樹脂と失活剤とを混練した後に脱揮工程を行うことが好ましい。脱揮工程としては、上述した、ラクトン環含有重合体の製造に際して行う脱揮工程と同様の工程を行うことができる。
得られたラクトン環含有重合体は、重量平均分子量が、好ましくは1,000〜2,000,000の範囲内、より好ましくは5,000〜1,000,000の範囲内、さらに好ましくは10,000〜500,000の範囲内、特に好ましくは50,000〜500,000の範囲内である。
ラクトン環含有重合体は、ダイナミックTG測定における150〜300℃の間での重量減少率が1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。
ラクトン環含有重合体は、環化縮合反応率が高いので、成形後の成形品中に泡やシルバーストリークが入るという欠点が回避できる。さらに、高い環化縮合反応率によってラクトン環構造が重合体に十分に導入されるため、得られたラクトン環含有重合体が十分に高い耐熱性を有している。
ラクトン環含有重合体は、15重量%のクロロホルム溶液中での着色度(YI)が6以下となるものが好ましく、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下、最も好ましくは1以下である。着色度(YI)が6を越えると、着色により透明性が損なわれ、本来目的とする用途に使用できない場合がある。
ラクトン環含有重合体は、熱重量分析(TG)における5%重量減少温度が、330℃以上であることが好ましく、より好ましくは350℃以上、さらに好ましくは360℃以上である。熱重量分析(TG)における5%重量減少温度は、熱安定性の指標であり、これが330℃未満であると、十分な熱安定性を発揮できないおそれがある。
ラクトン環含有重合体は、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは115℃以上、より好ましくは125℃以上、さらに好ましくは130℃以上、さらに好ましくは135℃以上、最も好ましくは140℃以上である。
ラクトン環含有重合体は、それに含まれる残存揮発分の総量が、好ましくは1500ppm以下、より好ましくは1000ppm以下である。残存揮発分の総量が1500ppmよりも多いと、成形時の変質等によって着色したり、発泡したり、シルバーストリークなどの成形不良の原因となる。
ラクトン環含有重合体は、射出成形により得られる成形品の、ASTM−D−1003に準じた方法で測定された全光線透過率が、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。全光線透過率は、透明性の目安であり、これが85%未満であると、透明性が低下し、本来目的とする用途に使用できないおそれがある。
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、種々の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;フェニルサリチレート、(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤などの帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;などが挙げられる。
熱可塑性樹脂組成物中における上記添加剤の含有割合は、好ましくは0〜5重量%の範囲内、より好ましくは0〜2重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜0.5重量%の範囲内である。上記添加剤は、後述する押出し機に熱可塑性樹脂を投入する前に、添加していてもよいし、該押出し機に熱可塑性樹脂を投入する際に同時に添加してもよいし、該押出し機に熱可塑性樹脂を投入した後に添加してもよい。
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、好ましくはガラス転移温度が110〜170℃の範囲内であることが好ましく、120〜160℃の範囲内であることがより好ましく、130〜150℃の範囲内であることが更に好ましい。
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、含まれる残存揮発分の総量が、好ましくは2000ppm以下、より好ましくは1500ppm以下、更に好ましくは1000ppm以下である、残存揮発分の総量が2000ppmよりも多いと、成形時の変質等によって着色したり、発泡したり、シルバーストリーク等の成形不良の原因になることがある。
ここで残存揮発分とは、熱可塑性脂組成物中に含まれる低分子量の有機成分のことであり、具体的には熱可塑性樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂の製造工程並びに熱可塑性樹脂組成物の製造工程中に使用した有機溶媒、生成した副生成物、熱可塑性樹脂の解重合等により生成したモノマー、熱可塑性樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂に含まれている残存モノマーのことをいう。
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、後述するポリマーフィルタによる濾過を行うことにより、1グラムあたりに含まれる粒子径20μm以上の異物が100個以下とすることができる。
(II)押出し機
上記押出し機2は、濾過精度が10μm以下であるポリマーフィルタ4を備えている。上記押出し機2としては、従来公知の押出し機を用いることができ、例えば、単軸押出し機や二軸押出し機を用いることができる。上記押出し機2は、図1に示すようにベント3を備えていることがより好ましい。
上記押出し機2内の熱可塑性樹脂は、押出し機内での加熱せん断に加えて、高濾過精度を有するフィルター部での加熱せん断も加わるため、熱可塑性樹脂組成物中に残存する揮発性物質や、分解により生じる揮発性物質の影響で工程中での成形材料の発泡や着色等の不具合が生じ易く、また、成形品中に残存揮発物が多く含まれ易くなる。このため、上記押出し機2にベント3を設けることにより、より安定した生産が可能となり、かつ得られる成形材料中における含有揮発物量が抑制される。熱可塑性樹脂としてアクリル系樹脂を用いる場合には、アクリル系樹脂は解重合を起こし易いため、上記押出し機2にベント3を設けることがより好ましい。また、ベントは複数設けてもよい(図示せず)。
上記ベント3内の圧力は、150torr以下であることが好ましく、50torr以下であることがより好ましい。また、二軸押出し機を用いる場合には、ポリマーフィルタ4と押出し機2との間にギアポンプ(図示せず)を設置することがより好ましい。
上記押出し機2のシリンダー温度は、処理量や回転数などによって適宜設定され、例えば、220〜300℃の範囲内の温度に設定することができる。上記押出し機2内における熱可塑性樹脂組成物の温度は、好ましくは260℃以上であり、270℃以上であることがより好ましい。また、310℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、290℃以下であることが特に好ましい。
メタクリル樹脂などのような、主鎖が脂肪族化合物からなる熱可塑性樹脂を押出し成型する場合、一般的には、310〜440°F(154〜227℃)の範囲内の温度で行われ、耐熱グレードであっても325〜450°F(163〜232℃)の範囲内の温度で行われ、乾燥が十分である場合には、溶融温度が高すぎると発泡などの不具合が生じる(「プラスチックの押出し成形とその応用」(澤田慶司著、(株)誠文堂新光社、昭和46年7月1日発行)、224〜226頁参照)。
また、「透明プラスチック成型材料グレード便覧」(合成樹脂工業新聞社、1988年版)の234〜237頁には、各社のアクリル樹脂グレードの記載があるが、射出成型での標準成型温度は180〜270℃の範囲内であり、最も高い温度で270℃である。1サイクルの時間が短く、熱履歴を受ける時間が短い射出成型であっても、通常270℃までしか温度を上げない。つまり、本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法では、従来の条件と比較して非常に高い温度で押出し成型を行う。これにより、後述するポリマーフィルタで濾過を行うことが可能となり、異物を低減することができる。言い換えれば、従来では、押出し成型および濾過時の温度を低く設定していたため、濾過をする樹脂の粘度が高くなり、濾過精度が10μm以下であるポリマーフィルタでは濾過を行うことができなかった。
上記押出し機2内における熱可塑性樹脂組成物の粘度は、剪断速度が100/secにおける樹脂溶融粘度が800Pa・sec以下であることが好ましく、700Pa・sec以下であることがより好ましく、600Pa・sec以下であることが特に好ましい。
(III)ポリマーフィルタ
上記ポリマーフィルタ4としては、濾過精度が1μm以上、10μm以下の範囲内であることが好ましく、1μm以上、5μm以下の範囲内であることがより好ましく、1μm以上、3μm以下の範囲内であることが更に好ましい。濾過精度が1μm未満であると、濾過滞留時間が長くなり、生産効率が低下するため好ましくない。また、濾過滞留時間が長くなると、熱可塑性樹脂などが熱劣化し易くなるため、異物の増加を招く恐れがある。また、濾過精度が10μmを超えると、異物が混入し易くなるため好ましくない。
上記ポリマーフィルタ4は、上記範囲内の濾過精度を有するポリマーフィルタであれば特には限定されず、従来公知のポリマーフィルタを使用することができる。上記ポリマーフィルタ4としては、例えば、リーフディスクタイプのポリマーフィルタ、パックディスクフィルタ、円筒型フィルタ、キャンドル状フィルタなどが挙げられる。これらの中では、濾過面積が広く、高粘度の樹脂を濾過した場合でも圧力損失が少ないため、リーフディスクタイプのポリマーフィルタがより好ましい。
上記ポリマーフィルタ4がリーフディスクタイプのポリマーフィルタである場合、フィルタとしては、金属繊維不織布を焼結した材料からなるもの、金属粉末を焼結した材料からなるもの、金網を数枚積層したものなどが挙げられる。これらの中では、金属繊維不織布を焼結した材料からなるものがより好ましい。
上記ポリマーフィルタ4における時間当たりの樹脂処理量に対する濾過面積は、処理量に応じて適宜選択されるため、特には限定されず、例えば、0.001〜0.15m2/(kg/h)とすることができる。
上記ポリマーフィルタ4での濾過において、ポリマーフィルタ4内部の温度(熱可塑性樹脂組成物の温度)は、260℃以上であることが好ましく、270℃以上であることがより好ましい。また、310℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、290℃以下であることが更に好ましい。
上記ポリマーフィルタ4での濾過時における、熱可塑性樹脂組成物の粘度(剪断速度100/sで測定した場合)は、上述した押出し機2内における熱可塑性樹脂組成物の粘度と同じ範囲内であることが好ましい。
上記ポリマーフィルタ4による濾過時における熱可塑性樹脂組成物の滞留時間は、20分以下が好ましく、10分以下がより好ましく、5分以下が更に好ましい。また、上記ポリマーフィルタ4での濾過時におけるフィルタの入口圧は、例えば3〜15MPaの範囲内、フィルタの出口圧は、例えば0.3〜10MPaの範囲内とすることができる。また、フィルタにおける圧力損失は、1〜15MPaの範囲内であることが好ましい。圧力損失が1MPa未満では、溶融した熱可塑性樹脂組成物がポリマーフィルタ4を通過する流路に偏りが生じ易く、濾過後の熱可塑性樹脂組成物の品質の低下が起こる傾向がある。逆に、圧力損失が15MPaを超えると、フィルタの破損が起こり易くなる。
尚、ポリマーフィルタ4で濾過を行う前に、熱可塑性樹脂などの原料1は、予め別のフィルターで処理を行うことがより好ましい。これにより、ポリマーフィルタで4の濾過で除去すべき異物の量が減るため、より短時間でポリマーフィルタ4による濾過を行うことができる。また、ポリマーフィルタ4による濾過時間が短縮できるだけではなく、異物をより効率よく取り除くことができるため、得られた熱可塑性樹脂組成物の異物の量はより低減される。
(IV)冷却水
上記冷却水5は、上記ポリマーフィルタ4を通過後の熱可塑性樹脂組成物を冷却するために設けられている。冷却水5の水温は30〜80℃の範囲内であることが好ましく、40〜70℃の範囲内であることがより好ましく、50〜60℃の範囲内であることが特に好ましい。水温が30℃未満では、ペレット化した際に気泡を含有しやすく、また、後述するペレタイザ6によるカッティングの際に微粉が生じ易い。逆に、水温が80℃を超えると、成型したペレットが十分に冷却されないため、ブロッキングなどの不具合が生じ易くなる。
(V)ペレタイザ
上記ペレタイザ6としては、従来公知のペレタイザを用いることができ、例えば、ストランドをカットする一般的なストランドペレタイザ、ダイスの出口で半溶融状態でカットするホットカットタイプのペレタイザなどを用いることができる。
ペレット化した熱可塑性樹脂組成物は、その後、タンク7を経て充填容器8の中に充填される。
尚、ペレタイズ後に、ペレットは除鉄機による金属異物の除去、篩による微粉、ミスペレット品などの除去を行うことが望ましい。
ペレット粒子径は特には限定されないが、長さおよび断面直径共に4mm以下が好ましい。
また、充填タンク(タンク7)、配管、搬送容器などを含む、熱可塑性樹脂組成物が接触する全てのものに、高いレベルの清浄度が要求され、作業環境中の空気、圧送などの輸送などに用いられる空気はヘパフィルタなどで清浄化されたエアー(空気)が用いられる。
充填容器8としては、特には限定されず、アルミ袋、コンテナー、タンクローリーなどが挙げられる。
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物、特に、耐熱性アクリル系樹脂組成物は、透明性や耐熱性に優れるのみならず、低着色性、機械的強度、成型加工性などの所望の特性を備えるため、例えば、光学レンズ、光学プリズム、光学フィルム、光学ファイバー、光学ディスクなどの光学用途に有用である。これらの中でも特に、光学レンズ、光学プリズム、光学フィルムが好ましい。
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、用途に応じて様々な形状に成形することができる。形成可能な形状としては、例えば、フィルム、シート、プレート、ディスク、ブロック、ボール、レンズ、ロッド、ストランド、コード、ファイバーなどが挙げられる。成形方法としては、従来公知の形成方法の中から形状に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
以下に、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<ガラス転移温度>
熱可塑性樹脂および熱可塑性樹脂組成物(アクリル系樹脂組成物)の熱分析は、試料約10mg、昇温速度10℃/min、窒素フロー50cc/minの条件で、DSC((株)リガク社製、装置名:DSC−8230)を用いて行った。なお、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418に従い、中点法により求めた。
<溶融粘度の測定>
熱可塑性樹脂および熱可塑性樹脂組成物(アクリル系樹脂組成物)の溶融粘度は、ボーリンインストルメンツ社製キャピラリーレオメーターRH10を用い、直径1mm、長さ16mmのダイスにて測定した。
<異物数の測定>
得られたペレット5gを100mLのクロロホルムに溶解し、パーティクルカウンタ(パマス社製、型式:SVSS−C、センサー仕様:HCB−LD−50/50)を用いて測定した。なお、長径が20μm以上のものを異物としてカウントした。
<ダイナミックTG>
熱可塑性樹脂および熱可塑性樹脂組成物(アクリル系樹脂組成物)(もしくは重合体溶液あるいはペレット)を一旦テトラヒドロフランに溶解もしくは希釈し、過剰のヘキサンもしくはメタノールへ投入して再沈殿を行い、取り出した沈殿物を真空乾燥(1mmHg(1.33hPa)、80℃、3時間以上)することによって揮発成分などを除去し、得られた白色固形状の樹脂を以下の方法(ダイナミックTG法)で分析した。
測定装置:Thermo Plus2 TG−8120 Dynamic TG((株)リガク社製)
測定条件:試料量 5〜10mg
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素フロー 200ml/min
方法:階段状等温制御法(60℃〜500℃の間で重量減少速度値0.005%/sec以下で制御)
<ラクトン環構造単位の含有割合>
ラクトン環構造単位の含有割合は、以下のようにして求めた。
最初に、重合で得られた重合体組成から全ての水酸基がメタノールとして脱アルコールした際に起こる重量減少を基準とし、ダイナミックTG測定において重量減少が始まる前の150℃から、重合体の分解が始まる前の300℃までの間の脱アルコール反応による重量減少から脱アルコール反応率を求めた。
ここで、ラクトン環構造を有する重合体のダイナミックTG測定において150℃から300℃までの間の重量減少率の測定を行い、得られた実測重量減少率を(X)とする。一方、当該重量体の組成から、全ての水酸基が脱アルコールすると仮定した場合の理論重量減少量(即ち、重合体の組成において、起こりうる脱アルコール反応が100%起きたと仮定して算出した重量減少量)を(Y)とする。
尚、理論重量減少量(Y)は、より具体的には、重合体中の脱アルコール反応に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体のモル比、即ち当該重合体組成における上記原料単量体の含有率から算出することができる。
そして、下記式
脱アルコール反応率=(1−(実測重量減少率(X)/理論重量減少量(Y)))
から脱アルコール反応率を求めることができる。
一例として、後述する実施例1で得られる熱可塑性樹脂組成物(A−2)におけるラクトン環構造の占める割合を計算する。熱可塑性樹脂組成物(A−2)の理論重量減少量(Y)は、メタノールの分子量は32であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの分子量は116であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの重合体中の含有率(重量比)は組成上20重量%であるから、(32/116)×20≒5.52重量%となる。
一方、ダイナミックTG測定による熱可塑性樹脂組成物(A−2)の実測重量減少率(X)は0.16重量%であった。これらの値を上記脱アルコール反応率の式に当てはめると、
(1−(0.16/5.52))≒0.971
であり、脱アルコール反応率は97.1%となる。
そして、上記脱アルコール反応率の分だけラクトン環化反応が行われたと仮定して、下記式
ラクトン環の含有割合(重量%)=B×A×MR/Mm
(式中、Bは、ラクトン環化に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体の当該共重合に用いられた単量体組成における重量含有割合であり、MRは生成するラクトン環構造単位の式量であり、Mmはラクトン環化に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体の分子量であり、Aは脱アルコール反応率である)
により、ラクトン環含有割合を算出することができる。
例えば、実施例1の場合、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの熱可塑性樹脂組成物(A−2)における含有率が20.0重量%、算出した脱アルコール反応率が97.1%、分子量が116の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルがメタクリル酸メチルと縮合した場合に生成するラクトン環構造単位の式量が170であることから、熱可塑性樹脂組成物(A−2)におけるラクトン環の含有割合は28.5(=20.0×0.971×170/116)重量%となる。
<重合体中の揮発分測定>
樹脂中に含まれる残存揮発分量は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、装置名:GC−14A)を用いて測定を行った。
〔実施例1〕
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた容量30Lの釜型反応器に、8,000gのメタクリル酸メチル(MMA)、2,000gの2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、10,000gのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温し、還流したところで、重合開始剤として10.0gのt−アミルパーオキシイソノナノエート(ルパゾール570、アトフィナ吉富(株)製)を添加すると同時に、20.0gのt−アミルパーオキシイソノナノエートと100gのトルエンとからなる溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下、約105〜110℃で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
得られた重合体溶液に、10gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(Phoslex A−18、堺化学工業(株)製)を加え、還流下、約90〜110℃で5時間、環化縮合反応を行い、重合体溶液(A−1)を製造した。
次に、濾過精度が5μmのリーフディスク型ポリマーフィルタ(5inch、5枚、長瀬産業製)を備え、リアベント数1個、フォアベント数4個を備えたベントタイプスクリュー二軸押出し機に、樹脂量換算で2.0kg/hの処理速度で上記重合体(熱可塑性樹脂)溶液(A−1)を導入し、脱揮処理行うと同時にポリマーフィルタ処理を行った。尚、上記処理の際に、第三フォアベントと第四フォアベントとの中間で、発泡抑制剤(失活剤)としてオクチル酸亜鉛(ニッカオクチックス亜鉛18%、日本化学産業(株)製)のトルエン溶液を、得られる熱可塑性樹脂組成物に対してオクチル酸亜鉛が重量比で700ppmとなるように注入した。
この時のポリマーフィルタ内の温度は280℃であり、せん断速度100/secにおける樹脂溶融粘度が400Pa・secであった。
二軸押出し機の先端部に備えたダイスを通過後、孔径1μmのフィルタ(オルガノ社製、製品名:ミクロポアフィルタ1EU)で濾過され、60±5℃の範囲内の温度に保持した冷却水を満たした水槽により、ストランドを冷却し、切断機(ペレタイザ)に導入することで熱可塑性樹脂組成物(A−2)のペレットを得た。尚、ペレットの生産中、ダイスから切断機までの環境清浄度は、5000以下(米国連邦規格 FED−STD−209E)となるようにクリーンスペースを設けた。
得られた熱可塑性樹脂組成物(A−2)のガラス転移温度は130℃であり、異物の数は25個/gであった。
また、熱可塑性樹脂組成物(A−2)中に含まれるメタクリル酸メチル(残存揮発分)量は、950ppm(重量換算)であり、ダイナミックTG測定での質量減少は0.16質量%であった。
〔実施例2〕
リアベント数1個、フォアベント数4個を備えたベントタイプスクリュー二軸押出し機に、実施例1で得られた重合体溶液(A−1)を、樹脂換算で2.0kg/hの処理速度で導入し、脱揮処理を行い、押出されたストランドをペレタイズすることによりペレット(B−2)を得た。
得られたペレット(B−2)のガラス転移温度は131℃であり、ダイナミックTG測定での重量減少は0.18質量%であった。
発泡抑制剤(失活剤)として酢酸亜鉛400ppmと共に、得られたペレット(B−2)とアクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂(スタイラックAS783、旭化成ケミカルズ(株)製)とを重量比で90:10の割合で、濾過精度が5μmのリーフディスク型ポリマーフィルタ(5inch、5枚、長瀬産業製)を備えたベントタイプスクリュー単軸押出し機に導入して、混錬脱揮すると同時にポリマーフィルタ処理を行った。
この時のポリマーフィルタ内の温度は270℃であり、せん断速度100/secにおける樹脂溶融粘度が460Pa・secであった。
二軸押出し機の先端部に備えたダイスを通過後、孔径1μmのフィルタ(オルガノ社製、製品名:ミクロポアフィルタ1EU)で濾過され、60±5℃の範囲内の温度に保持した冷却水を満たした水槽により、ストランドを冷却し、切断機(ペレタイザ)に導入することで熱可塑性樹脂組成物(B−3)のペレットを得た。尚、ペレットの生産中、ダイスから切断機までの環境清浄度は、5000以下となるようにクリーンスペースを設けた。
得られた熱可塑性樹脂組成物(B−3)のガラス転移温度は126℃であり、異物の数は16個/gであった。また、熱可塑性樹脂組成物(B−3)中に含まれるメタクリル酸メチル(残存揮発分)量は、1100ppm(重量換算)であった。
〔実施例3〕
ベントタイプスクリュー単軸押出し機の替わりに、ベントを備えない単軸押出し機を用いたこと以外は実施例2と同様に操作を行い、熱可塑性樹脂組成物(D−3)のペレットを得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物(D−3)のガラス転移温度は125℃であり、異物の数は26個/gであった。
また、熱可塑性樹脂組成物(D−3)中に含まれるメタクリル酸メチル(残存揮発分)量は、2150ppm(重量換算)であった。
〔比較例1〕
リーフディスク型ポリマーフィルタとして、濾過精度が20μmのリーフディスク型ポリマーフィルタを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、熱可塑性樹脂組成物(C−2)を製造した。
得られた熱可塑性樹脂組成物(C−2)のガラス転移温度は130℃であり、異物の数は2000個/gであった。また、熱可塑性樹脂組成物(C−2)中に含まれるメタクリル酸メチル(残存揮発分)量は、350ppm(重量換算)であった。
〔比較例2〕
実施例1の重合体溶液(A−1)を、濾過精度が5μmのリーフディスク型ポリマーフィルタ(5inch、5枚、長瀬産業製)を備え、リアベント数1個、フォアベント数4個を備えたベントタイプスクリュー二軸押出し機を用い、樹脂量換算で2.0kg/hの処理速度で上記重合体溶液(A−1)を導入した。この時のポリマーフィルタ内の温度は240℃であり、せん断速度100/secにおける樹脂溶融粘度が1000Pa・secであった。その結果、上記重合体溶液(A−1)を導入した直後に、フィルタ部で昇圧が起こり、樹脂ペレットを得ることができなかった。