以下、本発明に係る魚釣用スピニングリールの実施形態について、添付図面を参照して説明する。
図1から図6は、本発明に係る魚釣用スピニングリールの第1の実施形態を示す図であり、図1は、魚釣用スピニングリールの内部構成を示す図(ドラグ作動状態)、図2は、スプールを前方から見た図、図3は、図1の主要部を拡大した図、図4は、図3のA−A線に沿った断面図であり、(a)は、ドラグ作動状態を示す図、(b)は、スプールフリー状態を示す図、図5は、図3のB−B線に沿った断面図、そして、図6は、スプールが前方側に移動した状態を示す図である。
魚釣用スピニングリールのリール本体1には、釣竿に装着されるリール脚1Aが一体形成されており、その前方には、回転可能に支持され、釣糸案内部2aを装着した一対のアーム部2Aを具備するロータ2と、ロータ2の回転運動と同期して前後動可能に支持され、釣糸が巻回されるスプール3が配設されている。
リール本体1内には、ハンドル軸(駆動軸)4が回転可能に支持されており、その突出端部には、ハンドル5が取り付けられている。また、ハンドル軸4には、ハンドル軸4に取り付けられ、内歯が形成されたドライブギヤ7と、このドライブギヤ7に噛合すると共にハンドル軸4と直交する方向に延出し、内部に軸方向に延出する空洞部が形成されたピニオンギヤ9とを備えた巻き取り駆動機構が係合している。
前記ピニオンギヤ9は、軸受9a,9bを介してリール本体内に回転可能に支持されており、その先端側において固定部材9cによって前記ロータ2を固定し、ロータ2を一体回転するように連結している。そして、その空洞部には、ハンドル軸4と直交する方向に延出し、先端側に前記スプール3を装着したスプール軸3aが軸方向に移動可能に挿通されている。また、前記ピニオンギヤ9には、スプール3(スプール軸3a)を前後往復動させるための公知の往復動装置10が係合している。
前記往復動装置10は、リール本体内に回転可能に支持され、スプール軸3aと平行に延出する螺軸(ウォームシャフト)12と、前記スプール軸3aの後部に回転不能で軸方向移動可能に係合される摺動子13とを備えている。前記螺軸12の前端部には、前記ピニオンギヤ9と噛合する連動歯車15が設けられており、前記ハンドル5を回転操作することで、螺軸12は、前記ドライブギヤ7、ピニオンギヤ9及び連動歯車15を介して回転駆動される。そして、前記螺軸12の周面には、軸方向に沿って螺旋状のカム溝12aが形成されており、このカム溝12aに、前記摺動子13に収容保持された係合ピン(図示せず)が係合することで、スプール軸3a(スプール3)は、ハンドル5の巻き取り操作により前後に往復動される。
また、リール本体1内には、ロータ2の逆回転を防止する逆転防止機構が設置されている。この逆転防止機構は、公知のように、前記ピニオンギヤ9の外周側に設置される転がり式の一方向クラッチ16と、転がり式一方向クラッチの外輪の外周に回り止め固定されたラチェット17とを備えており、リール本体1の後方側に設置された切換レバー18を切換操作することで、ラチェット17を回転可能/回転不能状態に切換え、これによりロータ2を正逆転可能状態/逆転防止状態に切換えるようになっている。
上記した構成により、ハンドル5を巻き取り操作すると、ロータ2は、ドライブギヤ7及びピニオンギヤ9を介して回転駆動され、かつ、スプール3は、ドライブギヤ7、ピニオンギヤ9及び往復動装置10を介して前後方向に往復駆動され、スプール3には、回転するロータ2の釣糸案内部2aを介して均等に釣糸が巻回される。
前記スプール3とスプール軸3aとの間には、スプール3が釣糸繰り出し方向に回転した際、その回転に制動力を付与する公知のドラグ機構(フロントドラグ機構)20が設置されている。このドラグ機構20は、スプール3とスプール軸3aを所定の摩擦力で連結状態にして、スプール3のスプール軸3aに対する回転に制動力を付与する構成となっている。
具体的には、ドラグ機構20は、スプール3の内部空間領域(凹部3A)に設置されており、スプール前端側に回転可能に支持された制動力調整用の調整ツマミ(粗調整ツマミ)20Aと、この調整ツマミ20Aと後述する切換機構30を構成する摩擦作動体33との間に介在される制動部材21と、を備えている。そして、前記調整ツマミ20Aを回転操作することで、それに伴って軸方向に移動する押圧体22を制動部材21に対して所定の押圧力で当接させ、これにより、制動部材21を介してスプール軸3aに対して固定状態にされた摩擦作動体33とスプール3との間に所望の制動力を作用させる。
なお、前記摩擦作動体33は、切換機構30によって、スプール軸3aに対して固定状態からフリー状態に切換えられるようになっている。
ここで、切換機構30の構成について説明する。この場合、切換機構30は、スプール3を、ドラグ作動状態と非作動状態(スプールフリー状態)に切換えるように構成されていれば良く、本実施形態では、以下に詳述するように、スプール3を、釣糸繰り出し方向と反対方向に回転することで、上記した切換えが成される構成となっている。
すなわち、本実施形態の切換機構30は、前記スプール軸3aに対して回り止め固定されると共に、軸方向の移動が規制された円板状の支持部材31と、この支持部材31の前方側に配設され、支持部材31に対して連結状態となる摩擦作動体33と、前記支持部材31と摩擦作動体33との間に位置して両者の連結状態を継脱する継脱機構40とを備えており、スプール3のドラグ作動状態時に、スプール3を釣糸の引き出し方向と反対方向に回転させることで切換機構30の連結状態が解除され、スプール3をフリー状態に切換えられるようになっている。具体的には、切換機構30を構成する摩擦作動体33は、後述するように、ドラグ作動状態時に、スプール3を釣糸の引き出し方向と反対方向に回転させることで、前記支持部材31との連結状態が解除されるように構成されており、スプール軸3aに対してフリー回転可能に支持されている。
前記摩擦作動体33は、図3に示すように、スプール軸3aに対してフリー回転可能に支持される本体部33Aと、本体部33Aから前方に向けて延出する円筒部33Bとを備えている。この場合、円筒部33Bは、スプール軸3aとの間に所定の空間が生じるような形状となっており、その空間内には、後述するサブドラグ機構25が収容されている。
前記摩擦作動体33の円筒部33Bの外周と、スプール3の凹部3Aとの間には、ドラグ機構20を構成する前記制動部材21が配設されている。制動部材21は、ドラグ機構として一般的に知られているように、スプール3の凹部3Aを規定する内周面3B、及び前記摩擦作動体33の円筒部33Bの外周面に対して回り止めされる複数枚のワッシャ、及び、各ワッシャの間に介在されるライニング材等を備えた構成となっており、前記調整ツマミ20Aを回転操作することで、軸方向に移動する押圧体22が制動部材21に対して所定の押圧力で当接し、これにより、制動部材21を介して、スプール軸3aに対して固定状態となった摩擦作動体33とスプール3との間に所望の制動力を作用させる。
また、前記摩擦作動体33の円筒部33Bの内側の空間内に収容されるサブドラグ機構25は、後述するように、スプール3がフリー状態に切換えられても、スプール3に対して補助的にドラグ力を作用させることを可能にするものである。
具体的には、サブドラグ機構25は、スプール前端側に回転可能に支持された前記調整ツマミ(粗調整ツマミ)20Aの径方向内側に回転可能に支持され、スプール軸3aに対して、回転可能でかつ軸方向に沿って摺動可能に支持された微調整ツマミ25Aと、この微調整ツマミ25Aの先端側に設けられた押圧部27によって押圧される制動部材26とを備えている。この場合、制動部材26は、ドラグ機構として一般的に知られているように、スプール軸3a、及び前記摩擦作動体33の円筒部33Bの内側に対して回り止めされる複数枚のワッシャ、及び各ワッシャの間に介在されるライニング材等を備えた構成となっており、微調整ツマミ25Aを回転操作することで、微調整ツマミ25Aと一体形成された押圧部27が制動部材26に対して所定の押圧力で当接し、これにより、制動部材26、摩擦作動体33、及び前記制動部材21を介して、スプール軸3aとスプール3との間に、補助的に所望の制動力を作用させる。
前記切換機構30を構成する支持部材31は、スプール軸3aに対して回り止め固定されており、前記摩擦作動体33との間に設置される継脱機構40により、支持部材31と摩擦作動体33の連結状態を継脱するようにしている。
前記摩擦作動体33の本体部33Aには、支持部材31側に、輪帯状に形成された継脱部34が固定部材(止めビス34a)を介して固定されている。継脱部34の外周には、所定間隔をおいて(本実施形態では、90°間隔で4箇所)凹所34bが形成されており、この凹所34b内に後述するストッパ55の係合部56が入り込むようになっている。この場合、継脱部34の外周には、図4に示すように、ストッパの係合部が凹所34b内に案内され易いように、周方向に沿って案内部34cを形成しておいても良い。
また、前記本体部33Aには、その中央部に、支持部材31側に向けて突出する凸部36が形成されており、その凸部の外周には、所定間隔をおいて(本実施形態では、90°間隔で4箇所)径方向外方に突出する係合突起36aが形成されている。この係合突起36aは、以下に説明する継脱機構40の作動部材に当て付くよう構成されている。
前記継脱機構40は、図4に示すように、支持部材31の摩擦作動体側の表面に、周方向に沿って支持される作動部材42、連結部材45、及びストッパ55を備えている。
前記作動部材42は、支持部42aを中心にして回動可能に支持されており、その作動片43が、図4(a)の実線に示すように、前記係合突起36aの回転軌跡内に常時位置するように、バネ部材42bによって付勢支持されている。
前記連結部材45は、その両端側が揺動可能となるように、中央部において支持部45aを中心にして支持されており、その一端側の当接部46に前記作動片43が当接するようになっている。また、他端側には、図4(a)に示す状態から、支持部45aを中心にして反時計回り方向に回動された際、ストッパ55の凸部57に当接する作動部47が形成されている。そして、連結部材45は、支持部材31との間に設けられる振分けバネ48によって、図4(a)に示す状態(連結状態)と、図4(b)に示す状態(解除状態)との間で振分け保持されるようになっている。
また、前記連結部材45の当接部46側には、復帰機構用の係合ピン50が突設されている。この係合ピン50は、支持部材31に形成された長孔31aを介してリール本体側に向けて突出しており、連結部材45が図4(b)に示す解除状態に振分け保持された際、後述する復帰機構の復帰用突部67の回転軌跡内に位置するようになっている。
前記ストッパ55は、その両端側が揺動可能となるように、中央部において支持部55aを中心にして支持されており、その一端側に形成された係合部56が、前記継脱部34の外周に形成された凹所34bに入り込むようになっている。また、他端側には、前記連結部材45が、図4(a)に示す状態から支持部45aを中心にして反時計回り方向に回動された際、連結部材45の作動部47が当接するように凸部57が形成されている。そして、ストッパ55は、支持部材31との間に設けられる一方向バネ58によって、その係合部56が前記継脱部34の凹所34bに入り込む方向に、常時、回動付勢されている。
上述したように、切換機構30は、スプール軸3aに対して回り止め固定される円板状の支持部材31と、この支持部材31の前方側に配設され、支持部材31に対して連結状態となる摩擦作動体33とを備えており、図4(a)に示すドラグ作動状態時にスプール3を釣糸の引き出し方向と反対方向(矢印D方向)に回転させることで、図4(a)に示した摩擦制動体33と支持部材31との連結状態を、図4(b)に示すように解除するようになっている(スプールをフリー状態にする)。そして、図4(b)に示すフリー状態は、ハンドル5を巻き取り駆動した際、復帰機構60によって、自動的に図4(a)に示すドラグ作動状態に復帰させるよう構成されている。
以下、この復帰機構60の構成について説明する。
復帰機構60は、前記ロータ2が釣糸巻き取り方向に回転することで、切換機構30を介して、スプール3をドラグ作動状態に切換復帰させるものであり、切換機構に係合可能な復帰作動体を備えている。
本実施形態では、復帰作動体は、スプール3に巻回される釣糸の糸落ちを防止する糸落ち防止部材の機能を有する構成となっている。換言すれば、スプール3と共に前後動され、かつロータ2と共に回転する糸落ち防止部材の機能に着目し、復帰作動体を、ロータ2に一体形成される一対のアーム部2Aとスプール軸3aとの間に設置される糸落ち防止部材(ラインガードとも称する)61に関連して設けた構成となっている。
具体的に、糸落ち防止部材61は、前記スプール軸3aに対して回転可能に支持されると共に、スプール軸3aに設けられた止め輪3dによって、軸方向に移動しないように位置決め保持されている。そして、糸落ち防止部材61は、前記一対のアーム部2Aのそれぞれの内面側に形成された長手溝2dに係合する係合部62を具備しており、ロータ2が回転した際、ロータ2と共に一体回転し、かつ図1及び図6に示すように、スプール軸3aの往復動に伴って軸方向に一体的に往復動し、スプール3に巻回される釣糸がスプール3内に入り込むこと、及びスプール軸3aに絡み付くことを防止している。
前記糸落ち防止部材61のドラグ機構側には、円筒状の支持部61aが突出形成されており、この支持部61aの中心部分でスプール軸3aを挿通させている。そして、この支持部61aの径方向外方には、輪帯状の復帰体65がOリング66を介して抜け止め保持されている。
前記復帰体65のドラグ機構側には、所定間隔をおいて(本実施形態では、90°間隔で4箇所)、復帰用突部(復帰作動体)67が突出形成されている。この復帰用突部67は、糸落ち防止部材61と共に一体回転し、上述した連結部材45が図4(b)に示すスプールフリー状態に振分け保持された際、連結部材45の係合ピン50に対して当て付くようになっている。
なお、復帰体65、及び各復帰用突部67には、係合ピン50が復帰用突部67の回転軌跡内に移動する際、デッドポイントが生じないように、ノンデッドポイント機構70が設けられている。このノンデッドポイント機構70は、係合ピン50が復帰用突部67の回転軌跡内に移動する際、係合ピン50が復帰用突部67に当て付いても移動できるように、復帰用突部67の径方向内側に形成される傾斜面67aと、糸落ち防止部材61に保持した復帰体65を周方向に回転可能にするバネ部材68によって構成されている。
前記バネ部材68は、復帰体65に、リール本体側に向けて突出形成された突片65aと糸落ち防止部材61との間に介在されており、復帰体65の周方向の回転を許容するように構成されている。すなわち、係合ピン50の移動経路上に復帰用突部67が位置していても、係合ピン50が復帰用突部67の径方向内側に形成される傾斜面67aに当接し、かつ復帰体65がバネ部材68の緩衝作用によって周方向に回転できることから、スプールフリー状態に移行するに際してデッドポイントが生じることはない。
上記した復帰機構60の構成により、ハンドル5を巻き取り駆動した際、図4(b)に示すスプールフリー状態から、図4(a)に示すドラグ作動状態に自動復帰される。
以上のように構成される魚釣用スピニングリールの作用について説明する。
通常、魚釣用スピニングリールは、ドラグ作動状態として使用される。このとき、スプール3、すなわち繰り出される釣糸には、ドラグ機構20によって所定のドラグ力が作用した状態となる。この状態で、調整ツマミ20Aを回転操作することで、押圧体22の制動部材21に対する押圧力が可変されるため、スプール3に所望のドラグ力を作用させることができる。
なお、ドラグ作動状態では、図4(a)に示すように、摩擦作動体33と、スプール軸3aに固定された支持部材31とは、支持部材31側のストッパ55の係合部56が、摩擦作動体33側の凹所34bに入り込んでいることで連結状態となっており、スプール3に作用する回転力は、上記した制動部材21とスプール軸3aに固定された支持部材31(摩擦制動体33)との関係で、所望の制動力が作用する状態となる。
そして、図4(a)に示す状態から、スプール3を釣糸の引き出し方向と反対方向(矢印D方向)に回転すると、上記した継脱機構40によって、スプールフリー状態(スプールにドラグ機構20の制動力が作用しない状態)に切換えられる。
すなわち、図4(a)において、スプール3を矢印D方向に回転操作すると、摩擦作動体33も同方向に回転する。このとき、その本体部33Aの凸部36に形成されている係合突起36aが作動部材42の作動片43に当接し、作動部材42をバネ部材42bの付勢力に抗して、支持部42aを中心にして時計回り方向に回動させる。そして、作動部材42の回動により、作動片43は連結部材45の一端側の当接部46に当接し、連結部材45は、支持部45aを中心にして反時計回り方向に回動される。これにより、連結部材45の他端側の作動部47がストッパ55の凸部57に当接し、ストッパ55は、一方向バネ58の付勢力に抗して支持部55aを中心にして時計回り方向に回動され、ストッパ55の係合部56は、摩擦作動体33側の凹所34bから外れる。なお、このとき連結部材45は、振分けバネ48によって、その位置が保持されているため、ストッパ55の係合部56の凹所34bに対する離脱状態は維持される。
上記の継脱機構40の作用により、支持部材31と摩擦作動体33との連結状態が解除されるため、スプール3は、スプール軸3aに対してフリー回転状態となり、スプール3に釣糸繰り出し方向の力が作用しても、スプール3は、制動部材21及び摩擦作動体33と共に回転するだけとなる。すなわち、実釣時において、釣人は、単にスプール3を把持して釣糸繰り出し方向と反対となる矢印D方向に所定角度(係合突起36aが作動部材42の作動片43に当接する角度)回転操作するだけで、スプール3をフリー状態に切換操作することができる。
そして、上記したスプールフリー状態において、ハンドル5を巻き取り操作すると、復帰機構60を介して、継脱機構40を、図4(a)に示す状態に自動復帰させることが可能となる。
上述したように、スプールフリー状態に切換える際、連結部材45は、図4(a)に示す位置から図4(b)に示す位置に回動される。このとき、連結部材45に突設された係合ピン50は、ロータ2の回転と共に一体回転する復帰体65に形成された復帰用突部67の回転軌跡内に移動する。なお、係合ピン50が復帰用突部67の回転軌跡内に移動する際、係合ピン50の移動経路上に復帰用突部67が位置していても、上述したノンデッドポイント機構70によって、その移動を妨げることはない。
そして、ハンドル5を巻き取り操作してロータ3を釣糸巻き取り方向に回転させると、糸落ち防止部材61も一体的に回転駆動される。この糸落ち防止部材61には、上記したように、復帰用突部(復帰作動体)67が突設された復帰体65が保持されており、復帰用突部67は、糸落ち防止部材67と共に、図4(b)の矢印D1方向に回転駆動される。これにより、復帰用突部67が係合ピン50をキックし、連結部材45を、支持部45aを中心にして時計回り方向に回動させ、連結部材45の他端側の作動部47は、ストッパ55の凸部57から離れる。なお、このとき連結部材45は、振分けバネ48によって、図4(a)に示す位置に保持される。
この結果、ストッパ55は、一方向バネ58の付勢力により支持部55aを中心にして反時計回り方向に回動され、ストッパ55の係合部56は、摩擦作動体33側の凹所34bに入り込み、図4(a)に示すように、摩擦作動体33と、スプール軸3aに固定された支持部材31とは、連結状態となる。すなわち、切換機構30は、上記した制動部材21とスプール軸3aに固定された支持部材31との関係で、所望の制動力がスプール3に作用するドラグ作動状態に切換復帰される。
以上のような構成によれば、スプール3を、再びドラグ作動状態に切換えるための復帰機構60の復帰用突部(復帰作動体)67は、スプール軸3aと連動して前後動するようにスプール軸3aに設置される構成であることから、前後動するスプール3のストロークを考慮して前後動方向に沿って長く形成する必要はない。すなわち、復帰機構60の復帰作動体を、スプール軸方向に沿ってコンパクト化することが可能になるため、スプール回りが大型・重量化するようなことがなくなる。特に、本実施形態では、魚釣用スピニングリールに装着される糸落ち防止部材61の作用(スプールと共に前後動し、ロータとともに回転する)に着目して復帰作動体を設けているため、別途、スプール軸3aに、専用の復帰作動体を設ける必要性もない。
また、従来技術のように、軸方向に長い復帰作動体の影響を受けることがないため、スプール軸3aに対するロータ2やスプール3の支持状態が安定し、良好な巻き取り、及びドラグ性能を得ることができる。
さらに、本実施形態の切換機構30の構成によれば、スプール軸方向に沿って進退するような操作部材を設ける必要がなくなり、ドラグ機構20は勿論、サブドラグ機構25についても設置スペースに制約が生じることはない。この結果、十分なドラグ力を発揮することができ、スプール回りを大型・重量化するようなこともない。また、公知技術のように、実釣時に誤って押圧操作したり、他物に当たって切換機構を誤作動させてしまう可能性もない。
そして、上記したようなスプールフリー状態において、サブドラグ機構25の微調整ツマミ25Aを回転操作することで、フリー状態になっているスプール3に対して、制動部材26による補助的な制動力を作用させておくことも可能となる。
また、上記したスプールフリー状態において、魚がかかった場合など、釣糸が繰り出されてスプール3が釣糸繰り出し方向(図4(a)の矢印Dと反対方向)に回転した際、上記した係合突起36aは、その回転に伴い作動部材42の作動片43に当接するものの、作動片43はバネ部材42bの付勢力に抗して点線で示す位置に逃げることができるため、その方向に支障なく回転することが可能となる。
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図7から図9は、本発明の第2の実施形態を示す図であり、図7は、スプール部分を拡大して示す図、図8は、図7のC−C線に沿った断面図であり、(a)は、ドラグ作動状態を示す図、(b)は、スプールフリー状態を示す図、そして、図9は、図8(a)のD−D線に沿った断面図である。なお、この実施形態では、前記実施形態と同一の機能を有する部分については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明については、簡略ないしは省略する。
本実施形態では、切換機構を構成する継脱機構に、転がり式一方向クラッチを用いている。すなわち、本実施形態における切換機構30Aは、その継脱機構40Aとして、摩擦作動体33と支持部材31との間に、転がり式一方向クラッチ80を介在させて、両者の連結状態を継脱するようにしている。
具体的には、摩擦作動体33の本体部33Aには、スプール軸3aに対して回転可能に配設される軸部33dが形成されており、支持部材31には、ドラグ機構側に向けて延出する円筒部31dが形成されており、前記転がり式一方向クラッチ80は、軸部33dと円筒部31dとの間に介在されている。なお、転がり式一方向クラッチ80は、公知のように、軸部33dと一体化される内輪(本実施形態では軸部33dが内輪とされる)と、円筒部31dに嵌入される外輪80aと、前記内輪33dと外輪80aとの間で転がり部材80bを保持する保持器80cとを備えた構成となっている。
前記転がり部材80bは、保持器によって、外輪80aの内周側に形成された楔領域とフリー回転領域のいずれかに位置付けられ、転がり部材80bが楔領域に移動されると、内輪と外輪(軸部33dと円筒部31d)は一体化され、摩擦作動体33と支持部材31は連結状態となる。また、転がり部材80bがフリー回転領域に移動されると、内輪と外輪(軸部33dと円筒部31d)はフリーとなり、摩擦作動体33と支持部材31との連結状態は解除される(フリー回転状態に切換えられる)。
図8に示すように、前記転がり式一方向クラッチ80には、保持器80cを一体回転させる作動アーム81(保持器と一体形成されていても良いし、別体であっても良い)が設けられており、この作動アーム81を揺動させることで、保持器に保持される転がり部材を、楔領域又はフリー回転領域に移動できるよう構成されている。この作動アーム81には、係合孔82が形成されており、この係合孔82には、以下に説明する作動カム85に突出形成された第3作動突部85cが係合されている。
前記支持部材31には、継脱機構40Aを構成する作動カム85が支軸85Aを中心にして回動可能に支持されている。この作動カム85には、ドラグ機構側に向けて第1作動突部85aが突出形成されており、この第1作動突部85aには、摩擦作動体33の本体部33Aの径方向外方において、リール本体側に向けて突出形成された係合突部33eが当接可能となっている。この場合、本実施形態では、係合突部33eは、略180°間隔で2箇所形成されている。
また、前記作動カム85には、支軸85Aを中心として前記第1作動突部85aと対向する位置に第2作動突部85bが突出形成されている。この第2作動突部85bは、以下に説明する復帰用連結部材90の一端側に形成された係合部91に当接されている。
前記復帰用連結部材90は、復帰機構60Aを構成するものであり、支持部材31に、支持部90aを中心にして回動可能に支持されている。この場合、復帰用連結部材90は、その一端側に形成された係合部91が、常時作動カム85の第2作動部85bに当て付くように、付勢バネ94によって回動付勢されている。
また、前記復帰用連結部材90の他端側には、リール本体側に向けて、係合ピン95が突出形成されており、この係合ピン95は、支持部材31に形成された長孔31eを貫通して、支持部材31の裏面から突出している。この係合ピン95は、復帰用連結部材90が、図8(a)に示す状態から支軸90aを中心にして時計回り方向に回動されると、第1実施形態と同様、図8(b)に示すように、ロータ2の回転と共に一体回転する復帰用突部(復帰作動体)67の回転軌跡内に移動する。
さらに、前記作動カム85には、前記転がり式一方向クラッチ80に設けられた作動アーム81の係合孔82内に位置するように、第3作動突部85cが形成されている。この第3作動突部85cは、作動カム85が摩擦作動体33の係合突部33eの当接によって反時計回り方向に回動されると、作動アーム81を図8(b)に示す位置に回動させ、転がり式一方向クラッチ80の転がり部材80bをフリー回転領域に移動させる。
なお、前記作動カム85には、支持部材31との間に振分けバネ97が設置されており、作動カム85を、図8(a)に示す位置、図8(b)に示す位置に振分け保持する。
以上のように構成される魚釣用スピニングリールの作用について説明する。
図8(a)に示すドラグ作動状態では、転がり式一方向クラッチ80の楔作用によって摩擦作動体33と、スプール軸3aに固定された支持部材31とは、連結された状態となっており、スプール3に作用する釣糸繰り出し方向の回転力は、上記した制動部材21とスプール軸3aに固定された支持部材31との関係で、所望の制動力が作用する状態となる。
そして、図8(a)に示す状態から、スプール3を釣糸の引き出し方向と反対方向(矢印D方向)に回転操作すると、上記した継脱機構40Aによって、スプールフリー状態(スプールにドラグ機構20の制動力が作用しない状態)に切換えられる。
すなわち、図8(a)において、スプール3を矢印D方向に回転操作すると、摩擦作動体33も同方向に回転する。このとき、摩擦作動体33の係合突部33eが作動カム85の第1作動突部85aに当接し、作動カム85を、支軸85aを中心にして反時計回り方向に回動させる。そして、作動カム85が振分けバネ97のデッドポイントを超えると、図8(b)に示す位置に保持され、転がり式一方向クラッチ80は、第3作動突部85c及び作動アーム81によって、転がり部材80bがフリー回転領域に移動し、これにより、摩擦作動体33と、スプール軸3aに固定された支持部材31との連結状態は解除されて、スプール3はフリー状態に切換えられる。
スプールフリー状態では、前記復帰用連結部材90に突出形成された係合ピン95は、復帰用連結部材90の回動により、ロータ2の回転と共に一体回転する復帰用突部67の回転軌跡内に移動する。
この場合、復帰用突部67は、上記第1実施形態の復帰体65を設けることなく、直接、糸落ち防止部材61に一体形成している。もちろん、このような復帰用突部67についても、上記した実施形態のようなノンデッドポイント機構を構成するようにしても良い。例えば、復帰用突部67を、径方向内側に移動可能に支持したり、或いは、上記した第1の実施形態と同様、糸落ち防止部材61に対して周方向に変位可能に保持された復帰体に突出形成するようにしても良い。
そして、ハンドル5を巻き取り操作してロータ3を釣糸巻き取り方向に回転させると、糸落ち防止部材61の回転駆動と共に、復帰用突部67も図8(b)の矢印D1方向に回転駆動される。これにより、復帰用突部67が係合ピン95をキックし、復帰用連結部材90を、支持部90aを中心にして反時計回り方向に回動させ、復帰用連結部材90の係合部91は、第2作動突部85bを介して作動カム85を、支持部85aを中心にして時計回り方向に回動させる。
作動カム85が振分けバネ97のデッドポイントを超えると、図8(a)に示す位置に保持され、転がり式一方向クラッチ80は、第3作動突部85c及び作動アーム81によって、転がり部材80bが楔領域に移動し、これにより、摩擦作動体33と、スプール軸3aに固定された支持部材31とは連結状態(ドラグ作動状態)となる。
上記したように、切換機構を構成する継脱機構に、転がり式一方向クラッチ80を用いることにより、切換機構全体の構造が簡略化されると共に、スプール内部に設置される継脱機構の組み込み性の向上が図れるようになる。また、復帰作動体の構成も簡略化することが可能となる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。
本発明は、切換機構によって、スプールをドラグ非作動状態からドラグ作動状態に復帰させる復帰作動体に特徴があり、それ以外の構成については、種々変形することが可能である。このため、切換機構の構成、及び、その操作部材の構成については、上述した実施形態の構造に限定されることはなく、種々変形することが可能である。また、復帰作動体については、スプール軸に設けられて、スプール軸と共に前後動すると共に、ロータの回転と共に回転するような構成であれば良く、上記したように、糸落ち防止部材としての機能を兼ね備えていなくても良い。